山陰地方の山奥。
人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。
●軽銀の亡命者
「皆さん、黄金装甲のローカスト事件はご存知でしょうか」
望月・小夜(サキュバスのヘリオライダー・en0133)が口を開く。
「アルミニウム生命体を『黄金装甲化』した強大なローカストたちの侵攻を撃退したあの事件です。あの事件を解決したケルベロスの方々がアルミニウム生命体と接触し、様々な情報が判明いたしました」
かの種族の名は『オウガメタル』。デウスエクスの一種ながら、己の使い手を選び、武器として他者と共生するという珍しい生態を持つ。
遥かな昔よりローカストと共生をしてきたが、グラビティ・チェインの枯渇に伴い、その関係性は一方的な搾取へと変化。特に、黄金装甲化は、オウガメタルの種族を絶滅に導きかねない残虐な行為であるという。
「そして今、オウガメタルと絆を育んだ方々が、彼らの窮地を感じ取りました。どうやら彼らは呼び掛けに応え、レギオンレイドよりゲートを通じて脱出。助けを求めて地球へ来たようなのです」
一瞬、場がざわつく。異種族の亡命。そして、ローカストのゲート……。
「当然、ゲートは最重要拠点。ローカストの軍勢が配備されています。このままでは、彼らは遠からずローカストによって殲滅されてしまうでしょう。今回の任務は追跡してくるローカストの撃退、及び、亡命種族の救出です」
オウガメタルたちの出現場所は、山陰地方の山奥。
「この任務に成功すれば、オウガメタルは地球の同胞として我らが文明の列に加わってくれるかもしれません。また、ローカストのゲートの位置情報を彼らが握っている可能性もあります」
無論、ゲート位置に関わる闘いとなれば、その攻撃は苛烈となるだろう。一層、厳しい任務となるようだ。
●蟻の追跡者
小夜は山間の地形図を開く。
「私のヘリオンが現地に到着するのは夜半過ぎ。オウガメタルは逃走中、銀色の発光信号のように輝くので、それを目標に降下してください」
降下には誤差があるため、すぐ傍に降下できるわけではないものの、百メートル圏内には着地できる。合流は、難しくはないはずだ。
「敵戦力ですが。皆さんの担当区域では、兵隊蟻と働き蟻の形を取った蟻人間ローカストが三体。山間を捜索し、オウガメタルの殲滅を行っています」
兵隊蟻は一匹。戦闘力はかなり高く、元よりゲートの死守を役目とするからか、如何に不利な状況に陥ろうとも撤退することはない。
働き蟻は二匹。ケルベロス数人分の戦闘能力を持つが、戦闘特化ではない。兵隊蟻が撃破され状況が不利だと悟れば、撤退する可能性もあるという。
「厳しい相手です。全身全霊で臨んでください」
小夜はふっと息を吐いてケルベロスらを見詰める。
「これは、亡命です。命懸けで逃亡し、我々を頼って庇護を求める者を見殺しにしたとなれば、地球文明の恥。困窮する同胞を、共に救いましょう」
出撃準備を、お願い申し上げます。
小夜はそう言って、頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462) |
雲上・静(ことづての・e00525) |
クロエ・ランスター(シャドウエルフの巫術士・e01997) |
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348) |
ヴィオラ・セシュレーン(百花繚乱・e11442) |
七代・千明(怨色ディスペクトル・e12903) |
アルヘナ・ディグニティ(星翳・e20775) |
流水・破神(治療方法は物理・e23364) |
●騎士蟻
山陰。道もない山深き大地。その日、人が踏み込むことのない山中には、鮮やかな銀光が瞬いていた。星々が天より降りてきたかのような光は、しかし一つ、また一つとその輝きを落としていく。
追跡者は、逃亡者たちを駆逐しつつある。
やがて、地に光る全ての光は絶えるだろう。運命を、変える者がいない限り。
「前方、発光信号が増加しました。奴め、分裂したのでしょうか」
働き蟻の一人が言う。その声音には、不安がある。
「……いや。光色が僅かに違う。何者かが、奴の逃走を援護している」
兵隊蟻の言葉に衝撃を受けた働き蟻たちが、思わず息を止める。
「で、では騎士団を結集して、防衛を……! 騎士団の真価は連携防衛。百余騎全てが揃えば……!」
騎士蟻はそっとその言葉を遮った。
「騎士団は最低限の守兵を残して、全て出撃した。母星には援軍を要請してあるが、到着には時が要る。ここで抑える。……そこに、いるな。出て来い」
「さすがにばれてはりましたねえ。それにしてもその声。女の騎士さんやったんどすなあ」
現れたヴィオラ・セシュレーン(百花繚乱・e11442)が、そっと攪乱用のランプを置いた。
「ケ、ケルベロス……!」
反対の茂みから現れたのはリリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)。同じく、明かりを大地に置いて。
「ここから先は通行止めよ。ところで、口ぶりからすると、オウガメタルたちって合体分裂したりするのね。知らなかった」
後ろから続くのは、クロエ・ランスター(シャドウエルフの巫術士・e01997)と、七代・千明(怨色ディスペクトル・e12903)。
「オウガメタル……私達……信じてくれた。今度……私達……助ける、番」
「頼られたからには応えぬわけにもいくまいよ。僕達はケルベロスなのだから」
次々に現れる番犬たちに気圧される働き蟻に対し、騎士蟻は堂々と構えたまま。
「なるほど。オウガメタルどもを奪いに来たか」
「我々はすでに、オウガメタルを同胞と認めた。お前も騎士ならば同胞の為に闘うのが使命と、わかっているはず」
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)がするりと刃を抜いて身構えると、周囲の植物が頭を垂れていく。雲上・静(ことづての・e00525)の隠された森の小路だ。
「これで、闘いやすくなりました、ね……今はただ、なすべきこと、を」
静の後ろには、アルヘナ・ディグニティ(星翳・e20775)のウィングキャットが従っている。
ただし、アルヘナ本人の姿はない。
「騎士様、合流を! お一人では……!」
悲鳴に近い働き蟻の提案を制し、騎士は槍を掲げる。
「騎士、か。そうだな……私もまた、ゲートを護る使命に懸けて、裏切者と邪魔立てする者を始末するのみ。我が名はアリア騎士ラファエラ、いざ……参る!」
●鬼の軽銀
森の向こうでは、すでに閃光が瞬いている。
「攪乱は、上手く行ったみたいだな。だが、急がねえと向こうが全滅しちまう。アルヘナ、急ぐぜ」
流水・破神(治療方法は物理・e23364)が振り返る。
アルヘナの前には、煌めく巨大な銀塊。
夜目も利くドワーフならば、この状況の隠密活動には最適。二人は、先んじてオウガメタルの保護に走ったのだ。
「救出に来ましたわ。我々ケルベロスが手を貸します。とは言え、敵は強大。あなたに戦う意志があるのなら力を借りたく思います。如何?」
言葉はない。代わりに瞬く、ちかり、ちかり、という発光。そして、微かに感じる困惑の感情。
力を合わせたがっている。だが、何かが邪魔をしていて、それが不可能なようだ。
首をひねって、ふと気付く。
「……なるほど。武具として共闘したいけれど、装備同士が干渉して装備できない、ということですかしら? そこまでは思い至りませんでしたわ」
アルヘナは、そっと外套を掛けて、優しくその体を撫でた。
「仕方ねえ。待っていてもらうか。さあ、行くぜ! ヤバそうだ」
ちかり、ちかり。
後ろ髪を引くような発光信号を振り切り、二人は戦場に向かう。
急がねばならない。
響くのは、翅の残滓を震わせる、破壊の音色。凄まじい不協和音が、仲間の危機を告げている……。
●激闘
闘いはすでに、熾烈を極めている。
騎士蟻の合図に合わせて番犬に降り注ぐのは、三重の共振。
「兵隊蟻はクラッシャー! 働き蟻二体はジャマーよ! キュアを!」
リリーが飛び出して、兵隊蟻を蹴りつけながら。
「催眠、は、させません、よ」
静の呼び起こした黄金の果実が、助手の翼に合わせて前衛を癒す。
「敵の攻撃は私が受け持つ! 射線をまとめるんだ!」
全身を切り刻む破壊音波の嵐を、マルティナが受け止めて。制圧射撃が騎士蟻の足を止め、飛び込むのはヴィオラと千明。
「ウチの仲間に……なに、酷いことしはりますの?」
「弱肉強食は自然の摂理と言ってしまえばそれまでだが……それで納得ができるものか」
一閃が兵隊蟻の脇を掠め、炎の蹴りがその身を打ち据える。重ねて、後列から飛び込んだ光線が、冷気を伴って兵隊蟻を押し返した。
「みんな……傷つける、なら……許さない」
助手と静のおかげで催眠を跳ね除け、四人分の攻撃が騎士蟻に集中する。だが、騎士は怯むことはない。裂帛の叫びと共に騎士槍が火炎を断ち割り、助手の体を貫いた。
「……!」
アルミの牙を騎士槍の形に変えたらしいグラビティは、追撃の効果を以って助手をかき消す。働き蟻が指揮官の勢いに勇気づけられ、前衛に蹴り込んでくる。
「くっ……六人で凌げる相手ではないか」
千明の言葉の通り。騎士蟻の実力は圧倒的。闘い始めてものの数分で、流れは蟻たちに傾きつつある。
その時、茂みの草が断ち割れ、二つの影が飛び込んでくる。
「よう、虫。お前らの力を奪いに来たぜ? ……来い、俺様を楽しませろ!」
破神のチェーンソーが兵隊蟻の足を裂き、前衛にはアルヘナの星の加護が飛ぶ。
「オウガメタル。あなた達の同胞はこちらが保護いたしましたわ。心があるのなら、同胞殺しの運命に抗いなさいな」
「ちっ、新手か。ふん、黄金装甲化をするならまだしも、この程度の量のオウガメタルならば、制御は完璧だ! 優位は崩れぬ! 我に続け!」
さすがにオウガメタルの使い手としては、敵に一日の長がある。構わず鳴り響いた破壊の激音は大地を揺らし、前衛の身を裂いていく。
この強固な騎士を攻略しない限り、番犬に勝利はない。
戦力を二手に分けたことによって、保護は成った。逆に、ペースは敵に握られた。
逆転を成す為の、一手が必要だ。
●共闘
番犬の狙いは指揮官の首を落としての、早期決着。その攻めは、一点に集中する。
「三重奏の、不協和音……耳に痛いです、ね」
だが静の果実が輝くのは、これが何度目だろう。
催眠効果が行き渡れば、布陣は一気に決壊してしまう。二人のメディックは、精一杯その攪乱を抑え続ける。
蟻たちの狙いもまた、呪詛が重なる前に前衛を切り崩しての、早期決着。その攻めは、執拗に前衛を狙う。
(「前衛……みんな、回復に……手一杯。私が……頑張らないと」)
自己回復を繰り返しつつの反撃の中、ダメージを継続して積み重ねられる者は、スナイパーであるクロエ一人になりつつある。
互いに決定打を欠きつつ、闘いは、熾烈な消耗戦へともつれこんでいく。
(「このまま行けば……先に折れるのはこちらになりそうどすなあ……」)
(「一瞬で良い……反撃に移るための、隙が必要だ。しかしそれが、掴めない」)
ヴィオラと千明の剣閃と激突し、二人が弾かれる。遂に機を掴んだのは、騎士蟻の方だった。
「よく粘ったが、これで終わりだ! 覚悟!」
雄叫びを上げて突っ込んでくる騎士。狙いは、千明。マルティナがよろめきながらもその前に立ちはだかる。
「この攻撃は私が抑える! 撤退の準備を!」
もはや、このまま闘いを続けたところで、マルティナが倒れた後、次の三重奏で前衛が崩壊するだけのこと。
撤退。その二文字と絶望が、全員の心を掠める。
その時だった。
二人と騎士の間に、銀光が閃いたのは。
「オウガメタル。何を……!」
アルヘナが、思わず声を漏らす。金属生命体は、共闘の呼び掛けに応えたのだ。だが、素の状態では……。
金属生命体はその身を大きく広げて騎士の槍に飛び込んだ。
「裏切者が! 死ね!」
騎士が叫ぶ。オウガメタルはランスに貫かれると、銀光を弾けさせながら飛び散った。
ぽとりと落ちる、一つの宝石。
走るのは、一瞬の沈黙。
だが騎士槍がすぐさま突撃の射線へと向き直った時、そこには誰の姿もなかった。
「生きる者としての矜持、望み……確かにウチらに伝わりましたえ、オウガメタルはん」
「……なに!」
振り返った騎士の脇には、ヴィオラと、リリー。
「よくも……仲間を! その傷、抉り開いて捌いてあげる!」
それは、待ち望んだ一瞬の隙。
両者のシャドウリッパーが交錯し、騎士蟻の体が火炎に包まれる。
「どうして……ひどい事、するの? もう……許さない」
火だるまになってランスを振り回す騎士蟻を、クロエの蹴りが弾く。その先で待ち構えるのは、夜明けの雪原の幻影。静の、夢路雪原。
「畳みかけ、ます……今しかありません、から」
この瞬間が、闘いの分水嶺。メディックとて、回復に回る余裕はない。
火炎と氷結。幻影に足止め。無数の呪いを穿たれながら、雄叫びを上げて騎士蟻は起き上がる。
「母と我が一族の名誉に懸けて……! 困窮する同胞たちの為に! 負けられぬ!」
「応! 負けられねえ理由なら、こっちにもごまんとあってな! クソッタレ!」
飛び掛かった破神のチェーンソーと、マルティナの刀がその身に突き立ちながらも、騎士蟻は破壊音波を鳴り響かせた。しがみ付いた二人を、弾き飛ばすほどの爆音。
(「騎士、か…………確かに。名に恥じぬ、さすがの覚悟だ。だが……もらったぞ」)
身を裂く轟音の中で、マルティナが思う。
弾かれたマルティナと破神の間を、擦り抜けるように跳躍するのは、白い影。
「……!」
「誇り高き騎士よ、せめて……」
破壊音波を潜り抜け、千明の刃が音もなく閃く。
「安らかに」
言葉が終わると同時。騎士蟻の首筋から、血煙が飛び散った。
「か、母様……」
騎士は、尾を引くような呟きと共に、土手を転げ落ちていった。
●
「騎士様!」
悲鳴を上げて、働き蟻たちが振り返る。眼前に立つは、六人の番犬。
「これ以上は、無益かと……闘いを、続けます、か?」
「降伏してゲートの場所を教えなさい。命まではとらないわ」
満身創痍の前衛に代わって、静とリリーが進み出る。
働き蟻は一瞬、視線を交わすと、弾かれたように逃げ出していく。
無論、こちらも二人の戦闘不能者を抱え、前衛は小突けば倒れるほどのダメージを受けている。逃げていく蟻を、追撃するほどの余裕はない。
同胞のため。その言葉のもと、譲れぬ意地をぶつけ合った。苦い勝利に、全員が無言で互いのヒールをし始める。
と、草むらから現れたのは、外套を纏ったオウガメタル。
「あなた……! 先ほど、倒れたのではなくて? 何やら、縮んでおりますけれど……」
驚くアルヘナに、うさぎのぬいぐるみで金属生命体をあやしながら、クロエが語り掛ける。
「オウガメタル……分かれたり、くっついたり……できる。そう……言ってた」
そう。呼び掛けに応えた金属生命体は、己の半身を分けて闘いに放ったのだった。
「そうでしたの。協力に、感謝をいたします」
どうにか起き上がった破神が、ため息を落として血を拭う。
「……最近は予定から外れた闘いばっかりだぜ。さて、そいつを連れて引き揚げか?」
「ううん。任務は、まだ終わってないよ」
そう言うのは、リリー。
「まだ、ゲートを見つけてない。正確な位置を知らないと、残りのオウガメタルたちを助けられない」
それは、正しい。大規模な作戦を仕掛けるためには、ゲートの正確な情報を得る必要がある。見知らぬ土地に逃げてきたオウガメタルたちに、正確な位置を尋ねても意味はないだろう。誰かが、そこを突き止めなくてはならないのだ。
「しかし、この戦力で偵察を強行するなど、自殺行為でなくて?」
ヒール不能の傷は癒えていない。この状態で万全な敵戦力とぶつかれば、全滅は必至。それは確か。
「いや……これは機会かもしれないな。闘う前の奴らの会話からすれば、騎士団の総数は百余騎。脱走の規模を鑑みれば、殲滅のためにほとんどが出撃して出払っているはずだ」
千明が言う。
働き蟻は工兵であり、内側からの大脱走中に、外敵に対する守兵として配置されている可能性は低い。
「でも援軍がすぐに来るんじゃねえのか?」
保護班二人は、戦闘前の蟻たちの会話を聞いていない。そこで、ヴィオラが説明する。
「確かに、要請はしたとか言ってましたなあ。でも、到着には時が要るとか。布陣を組むにはもっとかかりますやろねえ」
逡巡。全員の間に、冒すべき危険と得られる価値の両方が揺れ動く。
やがて、マルティナが言った。
「本来、近づくこともままならない敵本陣が、今は間違いなく手薄。我々はそのすぐ側まで浸透している。身を隠して進み、敵を発見した場合はすぐに撤退することを条件に、私は行くべきと思う」
「そう、ですね……その条件なら、私も賛成、です。反対の、方は……?」
流れるのは、沈黙。視線は、オウガメタルへ移る。
ちかり、ちかり。
是。
異論は、ない。
●蟲星の門
幾ばくの時が経ったか……。
森を進んだ八人の番犬は『それ』を見上げている。
身を震わせる違和感。確かに何かを潜った、その感触。視界を覆った滲みをはらい、顔をあげた。
瞬間、今までただの山にしか見えなかった場所が、一変した。
木々や岩の代わりにびっしりと山肌を覆い尽くす、無数の建造物。ところどころその先端に、脈絡なく棘のようなものが生え、拡張が未だに続いていることを彷彿とさせる。
巨大な蟻塚の群れを想わせる山肌を、ぐるぐると取り囲むようにレールが配され、その麓から山頂までを繋いでいる。
それは、山一つ呑み込むほどの、巨大な城砦都市。
だが、番犬たちが見上げる物は、その要塞の威容ではない。
その山肌に開いた、霞む霧を巻き込んでいく、虹色の渦。
轟々と。ゆるゆる廻り、薄く妖しく、輝きながら、口を開ける、門。
「……」
かつてそれを目にした者は、竜の住まう島にたどり着いた四人の番犬のみ。
ゲート。
それは前人未到の門。
八人は、誰からともなく踵を返していく。虐げられている仲間たちに語り掛けるように輝く、オウガメタルを連れて。
その日、人類は新たな隣人を迎え、蟲星の門を暴いた。
やがて再び、ケルベロスはこの地に足を踏み入れることになるだろう。
互いの生存を掛けた二文明の闘争に、決着をつけるために……。
作者:白石小梅 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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