オウガメタル救出～守れ、繋いだ絆

■リプレイ

●山地を征く
　ヘリオンから降下する直前、葛城・唯奈（銃弾と共に舞う・e02093）は装備を見直した。
「これはマジで気ィ張っていかないとね」
　ライトと武装に手を這わせ、入念に確認する。窓から見える明滅する光を視界に映すと、躊躇なくヘリオンから降下した。
　続いて他の仲間が次々と降下する中、カティス・フォレスター（おひさま元気印・e22658）とボクスドラゴンのクゥを抱えたリュートニア・ファーレン（紅氷の一閃・e02550）が、あらためて光の位置を確認する。顔を見合わせてうなずき、ヘリオンから飛び出して降下する。地上から見えるであろう場所まで高度を下げ、二人は飛行を開始した。目指すは、自らの位置を知らせるオウガメタルだ。
　カティスの下げるランプを目印として、ケルベロスたちは全速力で地上を走る。先導するのは伏見・万（万獣の檻・e02075）だ。防具の効果で木々がひとりでに曲がって小道を作り出すため、真っ直ぐに飛行組を追って行ける。
　やがて地上組に見えたのは、光る茂みだ。より近寄ると、不定型な金属の塊が発光しているのが見て取れる。そう、オウガメタルだ。幸いなことに、ローカストたちはこのオウガメタルをまだ発見できていないらしい。
　地上組が合流できたらしいのを確認して、飛行組２人も着地した。
　ゆるやかに動くオウガメタルに、カティスが言葉をかける。
「お待たせしました！　ここは私たちにお任せを！」
「名前は……あるかね？　この場から離れる時は、君の名を呼ぼう」
　近づき、問うのは陸奥・昌親（護国の撃鉄・e13604）。しかし言葉はなく、感じ取れるのは感謝の念のみのようだ。
「今なら奇襲を仕掛けられるかもしれん……後で迎えに来てやる、それまで巻き込まれないよう隠れてろ！」
　小声でオウガメタルへと告げる結城・八尋（その拳は護るために・e03795）は、周囲に目を配り始めた。
「後で必ず助けに行くからねー」
　唯奈はオウガメタルに軽く手を振り、リボルバー銃を構える。木陰に隠れて様子をうかがうと、３体のローカストが周囲を見回しながら歩いているのが見えた。どうやらケルベロスたちには気付いていないようだ。
　棒付きの飴をくわえた唯奈は、木々を利用して銃を撃つ。跳弾は見事、兵隊蟻を背後から貫いた。
「連なれ、音の剣」
　さらに藤木・友（滓幻の総譜・e07404）が自身の声にグラビティを乗せる。静かな音は剣と化した斬撃となり、兵隊蟻の側面から体力を奪ってゆく。続く昌親がリボルバー銃で素早く撃ち込めば、カティスがエアシューズで働き蟻をなぎ倒す。彼女のビハインドであるタマオキナは、兵隊蟻の自由を奪おうと落ちた木々を飛ばして攪乱させた。起き上がった働き蟻が、慌てた様子で兵隊蟻に近寄っていく。
「て、敵襲です！」
「そんなことはわかっている！　落ち着いて体勢を立て直せ、慌てては思うつぼだ！」
　攻撃のあった方向を見定めようとするローカストたちは、もたつきながら体勢を立て直そうとする。しかしまだ臨戦態勢にはなっていないようで、リュートニアがそっと祝福を受けた弾丸を放った。
「……今のうち、ですね。僕の力、受け取って」
　主に続いてクゥが風の属性をリュートニアにインストールしている間に、万が星の加護を宿らせる。八尋が耐性を高めるための紙兵を散布したところで、武田・由美（空牙・e02934）が手を打ち鳴らして、ローカストたちを挑発する。
「アリさん此方、手のなる方へ。っと」
　ローカストたちは由美の声がする方を見る。だが、それ以上は動かず体勢を立て直しはじめた。
「あー、流石にアリの脳みそでも馬鹿にされてるって分かったか」
「挑発したいのならば、それ相応の攻撃をするのだな」
「ありゃ、多少頭の働く蟻もいるようで」
　残念、と呟き、由美は正面からローカストたちと対峙する。
「救いを求めるのなら差し出すのが、かつて差し出された者の務めです。……頑張りましょう」
　ナイフを両手に携え、より大きなダメージを与えられる位置に友が進み出た。

●アリア騎士デズモンド
　体勢を立て直したローカストたちのうち、兵隊蟻がランスを掲げた。
「オウガメタルを守ろうというのか、ならば先に貴様らを殲滅してやるとしよう。アリア騎士デズモンド、いざ、参る！」
　デズモンドと名乗った兵隊蟻は跳躍し、八尋の眼前に着地する。素早く棘を突き刺してアルミ化液を注入すれば、八尋の体に鈍い痛みが走る。
「ぐっ……お前らなんぞにオウガメタルをむざむざ殺させてたまるかってんだ」
「ふん。ならばせいぜい、私たちを倒してみせることだな」
　痛みをこらえ、八尋はデズモンドから距離を取る。それを見た働き蟻の１体が、自らの体をアルミニウム生命体で包んだ。もう1体は羽根をこすり合わせ、前衛に向けて破壊音波を放つ。あまりの不協和音に、唯奈は片耳をふさぎつつリボルバー銃を構えた。
「なんて音だ……！　でも、やられっぱなしってわけにはいかないからな……変幻自在の”魔法の弾丸”……避けるのはちーっと骨だぜ？」
　放たれた弾丸は、見えざる何者かが操作しているかのような不思議な軌道を描く。まるで軌道の読めない弾丸はデズモンドの動体視力を振り切り、脇腹を穿った。
　友がナイフの刀身に映した忌まわしい像を具現化すれば、昌親が同じ効果を狙って氷のような闘気を放つ。デズモンドの周囲の水分が瞬時に凍結し、吹き荒れる細雪で視界だけでなく天地の認識さえ奪ってゆく。
「天地悉く、世界を白で塗潰す。純白の闇に惑うがいい……！」
「何だ、これは……！」
　デズモンドを覆うのは、空も大地も塗り潰す全き月白色の闇。想起させられた虚無や死で、他の者には見えぬものから攻撃を受けているデズモンド。そこへ、八尋が氷結の螺旋を放つ。
「凍り付きな！」
　デズモンドの体に氷が纏わり付いたところで、カティスが翼から光を放射した。
「戦果次第でオウガメタルさんの今後にも影響しますからね……なんとしてでも撃破させていただきます！」
　だが、光はデズモンドの前に割り込んだ働き蟻を照らす。その隙にと、タマオキナはデズモンドの自由を奪うべく金縛りを起こした。
「回復は僕に任せて、みなさんはデズモンドを優先的に攻撃してください！」
　受けたダメージと状態異常を癒やそうと、リュートニアがオーロラのような光を発生させて前衛を包んだ。デズモンドの攻撃を受けてひときわ大きなダメージを受けていた八尋には、クゥが属性をインストールして手厚い癒やしを与える。
　万による星の加護は、今度は後衛へ。
「これからが本番だからな」
　スキットルに口をつけ、酒を流し込む。喉を流れる熱い液体で、体が火照るのがわかる。
　誰もがデズモンドを狙う中、由美は働き蟻へと殴りかかった。
「一撃粉砕！！　鉄拳制裁！！」
　ガントレットに内蔵されたジェットエンジンによる急加速は、働き蟻の横っ面を殴り、吹き飛ばしてゆく。
「さぁて、あんたたちは此処で通行止めだよ！！　通りたかったらあたしたちに勝ってみなさい！」
　両手を打ち鳴らして、ローカストたちの前に立ちはだかる。だが、その心境は決して穏やかではない。
（「……自信ある訳じゃないんだけどねぇ。いや、相手に気弱な所見せる訳にはいかないっしょ？　流石に」）
　由美が手持ちのグラビティは全て近距離。仲間が兵隊蟻に集中するならば、自身は前に展開する働き蟻を撃破するまでだ。
　由美はいっそう強く拳を握りしめ、静かに集中力を高めていった。

●抗戦
　デズモンドと働き蟻に攻撃が分散すれば、必然的に長期戦となる。リュートニアとクゥが回復に専念する中、ケルベロスたちは遠距離グラビティでデズモンドに狙ってゆく。それでも働き蟻の１体が時折デズモンドを庇うため、思うようには体力を削れない。
　ふいに由美が働き蟻の体勢を崩し、拳を振り上げた。
「空とは、因果を読み、受け入れ、飲み込み、一撃を放つ。それだけのこと」
　撃ち込んだ一撃はごくシンプルな打撃。それ故、当てられた方はたまったものではない。
「これがあたしの全力！」
　由美が拳を引くと同時に、働き蟻が砕けた。盾を担っていた働き蟻だ。
「……働き蟻ごときを倒したところで、調子に乗られては困る」
　呻くように呟いたデズモンドの羽根が揺れる。凄まじい不協和音は後衛に届く。両耳をふさいでもなお届く音、カティスの前に飛び出したのはタマオキナだ。
「タマオキナさんっ！」
　伸ばした手、その指先は届かず。タマオキナは、静かに消え去った。戦闘が終わって時間が経過すれば、サーヴァントは復帰する。カティスは黙って首を振り、自らの役割を果たそうとローカストたちを見据える。
　続けて残る働き蟻が由美に肉薄し、鋭い棘を突き刺した。防具を貫通して流し込まれる液体は、ひどい激痛を引き起こす。
「ごめん……あと、よろしく……」
　想定以上の痛みに耐えきれず、由美は意識を失い倒れ伏した。唯奈は眉間にしわを寄せ、倒れる仲間を見遣る。
「面白くなってきたじゃねえか……」
　唯奈は飴をかみ砕き、棒を吐き捨てる。唯奈とて、そう体力は残っていないのだ。裂帛の叫びを上げ、自らを癒やしてゆく。
「くそッ！　大体、てめェらのやり口は気に食わねェんだよ、虫野郎共！」
　怒りをあらわに、万がデズモンドにグラインドファイアを決める。
　デズモンドに炎が灯るのを見て、リュートニアが拳を握りしめた。もう、犠牲を出したくない。比較的大きな傷を負っている友を気力溜めで癒やす。クゥもその思いを感じたのか、昌親に風の属性をインストールして体力を回復してゆく。
「悲観するのは早いかもしれません。武田さんが働き蟻を１体撃破してくれたことで、私たちに及ぶダメージは少なからず減少します。そして、残る１体の働き蟻はデズモンドを庇うことはできません。——少しは見えてきたかもしれませんよ、私たちの勝機が」
　踏み出した友が、地獄の炎弾をデズモンドに撃ち出して体力を奪い、自身を癒やす。
「こうなりゃあ何がなんでも倒してやる、一発喰らいやがれ！」
　八尋が放った手裏剣が、デズモンド目がけて放たれる。毒を含む手裏剣は、デズモンドの腕に突き刺さった。
「ぐっ……！」
　腕を押さえるデズモンドの胴体を、カティスがクイックドロウで撃ち抜いた。
　ケルベロスたちにも、疲労は蓄積している。でも、と昌親はナイフを構え直した。
「命懸けで助けを求められたら……命懸けで応えたいよ、俺はね」
　脳裏をよぎるのは、ケルベロスたちを待ち侘びているであろうオウガメタル。満身創痍の体を気にも留めず、昌親はナイフの刀身にデズモンドの悪夢を映し出した。

●確かな決意
　主を守り通したタマオキナのためにも、そして勝機をくれた由美のためにも。そして、ケルベロスたちを信じて逃げ出してきたオウガメタルのことを考えるならば、いっそう負けるわけにはいかない。
　万は働き蟻に向き直り、蹴り技で急所を貫いた。
「とっとと倒れろよ、この下っ端が！」
　万の用意したグラビティの中で、デズモンドに届くのは1種類のみ。見切られるのを避けるために近距離グラビティを使用せざるを得ないとはいえ、歯がゆい。それはカティスも同じだった。
「実戦で使うのは初めてですが……当ててみせます……！」
　身構え、働き蟻を見据える。
「覚悟してください……少しばかり痛いですよ？」
　撃ち込むのは、弾丸型のサボテンの攻性植物。命中直後こそ働き蟻はどうということはなかったが、すぐさま痛みにもだえ始めた。命中した攻性植物は働き蟻の生命エネルギーを奪って急成長し、無数の棘で内部から刺し貫いてゆく。
　デズモンドは万の背後に着地し、肩を食い破った。
「どうした、ケルベロ、ス……その程度、か？」
「そう言うお前こそ、その程度かよ？」
　デズモンドの声には、色濃く疲れが出ている。万とて無事ではないが、痛みをこらえてデズモンドを睨む。
　続いて働き蟻が跳躍し、カティスを狙って蹴り技を繰り出した。だが、代わりに正面から受け止めるのは昌親だ。そのまま押し返されるような形で、働き蟻はデズモンドの付近へと着地する。
「もう少し……きっともう少しですから、どうか……！」
　祈るような言葉とともに、リュートニアはオーロラのような光を展開した。癒やしを得た唯奈が、地面の岩肌を狙って弾丸を撃ち出す。跳ね返った弾丸はデズモンドの頭部を掠めてゆく。
「くっそ、ちょこまかと！　大人しく撃ち抜かれろってんだ！」
「いえ、おかげでこちらの攻撃が当てやすくなりました」
　友が再び旋響連剣でデズモンドの腕や足を傷つける。そうして出来た隙は、後方の八尋に視線で知らせる。今しかない。友は声高に告げた。
「結城さん、今です！　決めてください！」
「ああ！　これで……最後だ！」
　八尋の放つ、氷の一撃。氷に包まれたデズモンドが、一瞬のうちに砕け散った。
　これで残るは働き蟻１体のみ。昌親が、残る働き蟻に銃口を向ける。
「兵でもない君達を討つのは気が引けるが……まだやるかね！」
　言葉もなく一目散に逃げ出す働き蟻の背を見て、昌親は銃を構える腕を下ろした。
「守れました、ね」
　友が眼鏡を押し上げ、息を吐く。苦戦したとはいえ、勝利には違いない。
　倒れている由美を昌親が肩に担ぎ、そっと微笑む。
「きっと、オウガメタルも喜んでくれることだろう」
「ローカストも逃げ出したようですし……オウガメタルを迎えに行くとしましょうか」
　クゥを抱え、リュートニアが安堵の表情を浮かべる。
「私たちの勝利も伝えないとな！」
　唯奈はうなずき、銃をくるりと回してホルスターに収めた。

　夜の山中を、ケルベロスたちは歩む。
　道中、万はスキットルを取り出した。少しばかり苦い勝利の美酒は、体に染み渡ってゆく。そうだ、と万は八尋を見た。
「一段落したら飲みに行かねェか？」
「おっ、いけるクチか？　そういや、こないだ飲んだ日本酒は……」
　取材で訪れた店で飲んだ酒の話を始める八尋。話が盛り上がる中、ふいに立ち止まった唯奈に合わせて全員が立ち止まった。
「このへん……だったよね？」
「いました、あそこです。どうやら無事のようですね」
　指差すのは友。這い出てきたオウガメタルは、どことなく心配そうに気を失っている由美に近づく。次いでケルベロスたちを見回すように不定形の体を動かした。どうやら感謝の意を示しているらしい。
　既に周囲に脅威はなく、あとは帰還するだけ。
　リュートニアがクゥを一撫でして空を見上げれば、星が瞬いていた。まるで、ケルベロスたちの健闘を讃えるように。

作者：雨音瑛	重傷：武田・由美（空牙・e02934）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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