山陰地方の山奥。
人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。
●
「至急、ヘリポートに急行されたし」
ヘリオライダーの山田・ゴロウ(ドワーフのヘリオライダー・en0072)からの緊急要請。
ヘリポートに集ったケルベロスたちはゴロウのヘリオンに搭乗し、夜の闇の中を何処かへと向かっていた。
「急な呼び出しで済まない。貴殿らは黄金装甲に覆われたローカストの事をご存知であろうか?」
今回の呼び出しに関係があるのであろう。何人かのケルベロスが頷く。
「その黄金装甲の正体はローカストに使役されたアルミニウム生命体で『オウガメタル』という種族名だったのだ。このオウガメタルは武器の使用者からグラビティチェインを供給される事で共生関係を図る種族なのだが、ローカストたちはグラビティチェインを供給せずにオウガメタルを使い潰すような扱いをしてきたらしい」
これらの情報はオウガメタルたちと絆を結んだケルベロスたちから得られた情報だとゴロウはいう。
「特に黄金装甲化はオウガメタル自身のグラビティチェインを酷使し、種族自体を絶滅させかねない残虐な行為だったらしい。そして、ついにローカストたちの元から逃げ出すオウガメタルが現れた」
一拍間を置き、ゴロウが全員の顔を眺める。
「今、我々が向かっているのは山陰地方の山奥だ。彼らと絆を結んだケルベロスたちが彼らの窮地を感じ取った。現在、ゲートから地球に逃げてきたオウガメタルたちはゲートを守護していたローカストに追われている。このままでは彼らは1体残らず殲滅されてしまうだろう。そうなる前にオウガメタルの救出と追手のローカストの撃破をお願いしたい」
更に詳しい状況の説明をゴロウが続ける。
「現場に到着するのは夜半過ぎになる、逃げるオウガメタルは救難信号のように銀色の光を発光させるのでそれを目印にヘリオンから降下してほしい」
夜の山林地帯という事もありオウガメタルのすぐ側に降下できる保証は無いが、100m以内の所には降下できるはずなので合流は難しく無い。
「追手のローカストは蟻型の個体で、兵隊蟻ローカスト1体が2体の働き蟻ローカストを引き連れて行動している」
蟻型ローカストに特に特殊な能力は無い。しかし、兵隊蟻ローカストはゲートを守護する精鋭だけに戦闘能力はかなり高い。働き蟻ローカストにしても1体でケルベロス数人と互角に渡り合える戦闘能力を有している。
純粋な戦力では敵の方が高い。勝利を収めるには最善を尽くす必要がある。
また、兵隊蟻は命令に従い死ぬまで戦いを続けるが、残りの働き蟻は不利となれば逃げ出す可能性があるようだとゴロウはいう。
「オウガメタルが、貴殿らケルベロスを信じて行動を起こした事は想像に難くない。そして、貴殿らケルベロスがその期待に必ず応える者たちである事を我々は知っている……よろしくおねげぇしますだよ」
参加者 | |
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鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023) |
ユージン・イークル(煌めく流星・e00277) |
八千沢・こはる(ローリングわんこ・e01105) |
一条・雄太(一条ノックダウン・e02180) |
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020) |
黄檗・瓔珞(斬鬼の幻影・e13568) |
巽・清士朗(町長・e22683) |
アルベリク・リュミエール(泡沫の調べ・e24073) |
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深夜。中国山地のとある山中。未開の森の中を忍び服を着た犬系少女、八千沢・こはる(ローリングわんこ・e01105)が駆け足で進んでいた。
「先陣はこはるにお任せください!」
木々や藪の茂った森を進むのは野生の獣でも大変な行為だが、隠された森の小路により彼女の前方の植物は道を空けるかのように両脇に逸れていく。結果、このポメラニアン少女は全力ダッシュで目的地へと真っ直ぐ突き進んでいた。
「先の地面にくぼみがあります」
すぐ後ろをいくシルディ・ガード(平和への祈り・e05020)からの注意が飛ぶ。彼は暗視の効くドワーフだ。薄暗い夜の森の中でも昼間のように周りを見渡せる。
「オウガメタル……やっぱ昆虫みたいな形をしてんのかね?」
「かもね。カブトムシとか男のロマンだよね☆」
一条・雄太(一条ノックダウン・e02180)とユージン・イークル(煌めく流星・e00277)が器用に走りながら会話をする。
「俺はクワガタ推しだけどな。こういった山奥とか大型のがいそうだし、今度プライベートで連れて来て貰えねぇかなぁ……」
雄太の趣味は昆虫採集。ついつい未開の森に眠るお宝たちに思いを馳せてしまう。
その2人の後を黄檗・瓔珞(斬鬼の幻影・e13568)が独特の歩法で続く。それは忍びの用いるもので悪路を素早く進むのに向いていた。
(「今回も厳しい任務になりそうだねぇ」)
瓔珞が小さく独りごち、チラリと鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)とアルベリク・リュミエール(泡沫の調べ・e24073)の姿を見る。
2人の少年の年の頃は14、15歳で瓔珞とは年がふた回り以上離れていた。先頭を行くこはるにしてもそうだが、年端のいかぬ少年少女がデウスエクスとの命のやり取りに駆り出されのは仕方の無い事とはいえ何ともいえない気持ちになる。
何があろうと彼らは生きて返さなければ、瓔珞は思う。それに……。
「そろそろか」
巽・清士朗(町長・e22683)の少しばかり緊張をにじませた声。
その横顔にかつて瓔珞と共に戦った青年を思い出す。その青年が竜の棲む島へと突入し帰らぬ人となった事を知った時、少なからぬショックを受けたものだった。
「これも縁という奴かな」
口元にいつもの笑みを浮かべる瓔珞の瞳に微かな決意の色が浮かんだ。
●
「あそこです、発見しました!!」
前方の木々の隙間から漏れた光に、こはるが急ブレーキ。そして、光の方へと向きを変え進んでいくと、かき分けられた木々の先に発光するオウガメタルが姿を現した。
「こいつが……」
雄太が絶句する。
その姿を例えるならば……プルンとした人間大の金属塊とでも表現すべきか。
「これはどう見てもスライムだね☆ ヤ、ヤードさん、何語で話しかけたらいいかなぁ?」
どうコミニュケーションを取ったものかと怖気付いたユージンがウイングキャットのヤードに引きつり顔をみせる。そんな主人へ呆れ顔のヤード。
と、躊躇する一行の中からアルベリクが無警戒にオウガメタルへと近づいていき、その目の前でしゃがみ込み目線を合わせる。
少年の大きな瞳に微かに震えるオウガメタルが映りこむ。
「オウガメタルさん、はじめまして。きみたちを助けにきたんだ」
少年のあどけない笑顔。その様子にヒノトが優しい眼差しを向ける。
ヒノトはアルベリクの事を良く知っている。普段の会話でも冗談を本当だと信じてしまったり、ちょっとした事に感動できたりといった、素直さ、純粋さが彼にはあった。
今回もオウガメタルを奇異の目で見る事なく、ごく自然に友だちとして接しているのが分かる。そんな彼をヒノトは可愛い弟分のように思っているし、その純粋さを敬愛してやまない。
「……こいつら、テレパシーみたいなものが使えるのか」
同じく近づいた雄太の頭にオウガメタルの意志らしきものが流れ込んでくる。言語化されたものではないので会話は難しいが、何となく彼らの考えや気持ちが分かる。
今、流れ込んできた意志は安堵と好意、そして信頼。
「あの~、チョットだけ……チョットだけでいいので、触らせてもらえませんですか?」
興味深々のこはるがオウガメタルにおそるおそる手を伸ばす。了承の意志を感じ取り、その表面に手を置く。少し冷んやりした不思議な感触に夢中になってなでなでしてしまう。
「ところで、これからどうしましょう?」
撫でる手は止めず、こはるが仲間の方を向きなおる。全速力で来たのが幸いしてか周囲に敵の気配は無い、今の所は。
「ボクは戦わなくて済むなら……このまま彼を保護して逃げた方がいいと思う」
と、シルディ。勇敢な戦士であるシルディだが、自分の力は仲間を守る為に振るうという信念がある。たとえ敵対する相手であっても、無益な戦いは好まない。
「そうしたいのはヤマヤマだけどねぇ……地の利は敵さんにある。逃げおおせるかっていうとさ、少々難しいよね」
周囲を警戒しつつ、瓔珞がシルディに向きなおる。
「戦いは避けられぬとなれば……徒に天機を逃すは下策。天の時、地の利に如かずといえども人の和は我らにある。なに、大敵とて打ち破れるさ」
清士朗が仲間たち、そしてオウガメタルを見て笑みを浮かべる。
「それじゃあ、オウガメタルさんには安全な所に隠れて貰って――」
「それだけどさ……戦いに手を貸して貰えねぇか、オウガメタル」
雄太の突拍子も無い提案にこはるが目をパチクリさせる。
「なあ、一発やり返してやろうぜ? グラビティチェインが必要なら俺のを使えばいい」
ニヤリと笑みを浮かべた雄太がオウガメタルに向け拳を突き出す。
「我らと共にあれ、オウガメタルよ」
清士朗の力強い言葉。
2人の意志に応えるようにオウガメタルの一部が分離し、装甲と化して雄太と清士朗の手足に装着されていった。
「うわぁ、2人とも最高にカッコイイよ☆」
ユージンのキラキラした声。
「よし、いっちょぶちかましてやろうぜ!」
オウガメタルの戦う意志を感じ取り、雄太が気合の声をあげた。
●
3体の蟻型ローカストが薄暗い森を行く。
と、その時であった。周囲の木々が揺れ、声が聞こえた。
「ズタズタにしてやります!」
木の上から飛び降りる影。
驚き足を止めた蟻たち目掛け、こはるが無数の刃を召喚し一斉に地面に振り下ろす。
次々に地面に突き刺さる刃と蟻たちの呻き声。
さらに――。
「世界常識の鎖に弾かれろ――『銀の雨(シルバーレイン)』」
雄太の雄叫びと同時に銀の雨が蟻たちを撃ち抜く。
騎士のような外見の兵隊蟻が奇襲に混乱する配下の蟻に指示をしようと動く。しかし、その側面に音も無く現れた瓔珞が雷を纏った槍を無造作に突き出す。
2匹の昇龍の彫られた穂先が敵の装甲を掠め、稲妻の残滓が闇に一筋の軌跡を残す。そしてその軌跡が消えた時には瓔珞の姿は敵から遠ざかっていた。
その瓔珞へと距離を詰める兵隊蟻、そこにシルディが割り込み、敵の強烈な一撃を金属盾で受け止める。
「この程度じゃボクは砕けない――『闘狂乱扇召(ゴトザ・レゾ)』」
敵の一撃は重い。しかしシルディの決意は赤いオーラと化し兵隊蟻を飲み込む。蟻が怒りに任せ、守りを固めるシルディへと何度も攻撃を繰り出していく。
その隙に清士朗が蟻達の間を疾風のように駆け抜け次々と斬撃を叩き込む。と、同時にその身に纏ったオウガメタルが絶望の黒光を乱射。嵐のような無数の白刃の煌めきが闇の中に乱反射する。
「!? ケルベロスがオウガメタルを……こやつら敵へと尻尾を振り鞍替えたか」
清士朗の一撃で彼が装着したオウガメタルに気づいた兵隊蟻。憎々しげにオウガメタルを見る。
「めしつかう、ものの心を、その主の、めをかけぬこそ、わかれはじめよ」
兵隊蟻の射竦めるような視線を受け、静かに清士朗が唄う。
「お前達も同じだ。もはやお前達はローカストに使われる存在に非ず!」
そして、蟻達の装着しているであろうオウガメタルへと檄を飛ばす。
しかし。
「フン、自らの得物で怪我をする戦士がいると思うか? 一人前の戦士ならばこやつらを自在に使えて当然なのだ。お前たちの小賢しい声など届かん」
兵隊蟻の嘲りの声。
「ハン、その当然の連中に反乱されて躍起になってるのはとこのどなただって話だぜ」
雄太が言い返す。
「なあ、何でお前たちはオウガメタルにこんな酷い仕打ちをするんだ…」
ヒノトが相棒のファミリアロッドのアカをギュッと握りしめ、兵隊蟻に問う。
「知れた事、我らが生き抜く為だ。こやつらは生存に欠かせぬ道具であるが、害を為すならば排除も致しかた無し」
「そんなッ、こいつらはただの道具じゃない、意志を持った生き物なんだぜ!?」
先ほど感じたオウガメタルの意志。その姿が手の中の大切な相棒と重なり、ヒノトは目の前の敵へ憤りを感じずにはいられなかった。
「ま、その言い分も分からないでもないけどさ……道具にだって生き方を選ぶ権利はあるんだよね」
瓔珞が愛用の槍『震天昇龍』の切っ先を蟻に向け、笑みを浮かべた。
●
「きみの相手は僕がするよ」
アルベリクが『Mangeur de memoire』を自分の受け持つ働き蟻へと振り下ろす。
その一撃を肩口に受けつつも、蟻が前衛陣へ反撃を繰り出す。
「大丈夫かい? 回復は任せておくれよ☆」
即座にユージンとヤードのヒールが前衛陣に飛ぶ。広範囲へのヒールは彼らの役目だ。
「エイヤッ!」
「その牙を奪う」
敵の撹乱を担うこはると清士朗。こはるの空から舞い降りた槍の乱舞と清士朗の低く地を這う足刀が敵の動きと判断を鈍らせていく。
「まだ、まだこんなものじゃ倒れないよ」
兵隊蟻の攻撃を受け持つシルディが自らを奮い立たせ激しい攻撃の雨嵐を受け止める。そして、傷つくシルディへと後方からヒノトが回復を行い戦線を維持する。
攻撃がシルディへと集中している隙に、アタッカー役の雄太と瓔珞が兵隊蟻を側面から集中的に攻めたてる。
彼らの役割分担は確かなものがありチームとして十二分に機能していた。
●
戦闘開始からおよそ7分が経過。
「シルディ!」
蟻の一撃に崩れ落ちそうになるシルディへとヒノトが急ぎヒールを飛ばす。ギリギリで踏み留まるがヒノトの目から見てもその小さな身体は限界を迎えようとしていた。
敵の攻撃への対策も回復も十分なものがあった。
それでも【怒り】により兵隊蟻の攻撃を1人で引き受け続けたシルディへと蓄積された傷は、最早大半がヒールでの回復が不可能なものに達していた。
とはいえ兵隊蟻の動きも徐々に鈍っている。
「むむ」
それまで攻撃を続けてきたこはるの手が止まる。ここは回復に回るべきか……。
「攻撃の手を緩めず、ボクは平気ですから!」
平気な筈が無い。それでもシルディはこはるに笑顔を見せる。
ここで攻撃の手を緩めてはいけない。その覚悟を感じ取りこはるが突進を開始した敵へと槍を叩き込む。
「ヌオォォ!」
しかし敵の勢いは止まらない、そして強烈な一撃がシルディを撃ち抜く。
(「ボクは……君たちを、救い……」)
蟻の眼前で力なく地面に倒れ伏すシルディ。
最後に敵へと見せた眼差しは、哀れみと優しさに満ちていた。
●
「万象、悉く衰えん――『衰僉(スイセン) 』」
空中で向きを変えた瓔珞の槍の穂先が兵隊蟻の装甲の隙間を貫く。
手応えはあった。距離を取り敵の反応を見る。
身体中に無数の傷を作りながらも尚こちらへ向き直る兵隊蟻。その耐久力に脅威を感じつつも、いや、だからこそ瓔珞はこの戦いに大きな違和感を感じていた。
敵は強い。しかし戦い方が稚拙過ぎる。その高い耐久力がこの戦いで全く生かされていないのだ。まるで、慣れない戦いを強いられているような……。
「いくよ『母さん』――『Tourbillon de neige(トゥルビヨン・ドゥ・ネージュ)』」
アルベリクの持つ大剣が兵隊蟻を直撃する。その刃から畝るように巻き起こった純白の衝撃が蟻の命の色に染まっていく。
急激に失われていく蟻のグラビティチェイン。その心臓へ重力の鎖を叩き込もうとした……その瞬間だった。
「たとえ死す身でも、ここで倒れる訳にはいかんのだ、母アリアと同胞の為にッ!」
まるでロウソクの最後の煌めきのように蟻のグラビティチェインが膨れ上がる。
「魂が肉体を凌駕した!?」
驚きに目を見開いたアルベリクの背後から働き蟻の一撃が。アルベリクも限界を迎えその場に倒れる。
間髪入れず兵隊蟻の一撃がこはるへと迫る。
咄嗟に庇いに入ったヤードがその一撃で力を失い地面に倒れる。
「……」
消滅していくヤードを無言で見つめるユージン。その表情は普段の軽い彼とは別人のよう見えた。
「こいつ……」
ヒノトの背中に冷たい汗が流れる。これまで同じような強敵との戦いはあったが、目の前の敵の執念にも似た異質な気配は初めて経験する恐怖だった。
「……強いね」
瓔珞の苦笑い。違和感の正体が分かった。
敵は始めから必死だったのだ。
この戦いに敗けるという事が種族の存亡の危機に繫がると敵は理解していた。たとえ、慣れない戦いであり、勝ち目の薄い戦いでも、勝たねばならなかった。
「『エテルナライズ』!」
「『水葬楽団 ピッコロターラ』」
敵の覚悟を感じとったのだろう。今まで回復に専念していたヒノトとユージンが攻撃へと転じる。
「……同胞の為に命を捨てるか。 俺たちと同じだな」
清士朗の顔に敵への敬意が浮かぶ。覚悟を決め、死線のその先へと踏み込む。
敵の一撃が我が身を襲うよりも疾く、渾身の掌底を叩き込む。
「俺たちにも譲れねぇモノがあるんでな……砕けろッ!」
雄太の意志に応えたオウガメタルが鋼の鬼と化し、右拳へと宿る。
その一撃が、蟻に避けられぬ死と敗北を叩き込んだ。
●
去っていく働き蟻の背中に雄太が牽制の攻撃を加え、その逃亡を見送る。
手心を加えた訳では無い。これ以上戦うのはこちらも限界だった。
「何とか勝ててひと安心です」
隠れていたオウガメタルが姿を見せると、こはるが嬉しそうにその背中に抱きつく。
「アルベリク、歩けるか?」
「うん、僕は大丈夫」
アルベリクが目を覚ますと心配そうな顔のヒノトが。いつもの笑顔をヒノトに向ける。
「酷い傷だね……彼らは無事だよ、これも貴方のお陰さ」
真面目な顔のユージンがシルディに声をかける。うっすらと目を開けたシルディのそばにやってきたオウガメタルが感謝の気持ちを伝える。
「あの辺かな? ローカストのゲートがあるのは……」
蟻たちの逃げていった方を眺める瓔珞の言葉に神妙な顔つきを見せる清士朗。
「次は決戦ですかね? 燃えてきました!」
こはるの元気な声。
「ボクは諦めたく無いんだ、彼らとの共生の道を……」
シルディの秘めた願い。それは戦いに勝利するよりもずっと困難な道なのだろう。
見上げる夜空に星々が優しく瞬いた。
作者:さわま |
重傷:シルディ・ガード(平和への祈り・e05020) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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