オウガメタル救出～フルメタル・ライジング

■リプレイ

●銀のＳＯＳ
　山陰地方のある山奥を、星明りが見下ろしていた。
　そこかしこで鳴く虫の声。風に乗る葉擦れの音を切り裂いて、セラス・ブラックバーン（竜殺剣・e01755）とミーシャ・スクェーニ（藍槍騎士・e24383）は仲間の元へと急降下した。
「あ、二人とも！　こっちであってます!?」
「問題ない。直進してくれ」
　先頭を走るメリーナ・バクラヴァ（ヒーローズアンドヒロインズ・e01634）に、ミーシャは短く答える。空から見た彼らの目には、銀の光がはっきり見えた。すなわち、オウガメタルの救難信号が。
　光を頼りに降下した八人と一台は、踊るように道を開く木々の間をひた走る。
「ま、信号なんか見なくたって、俺にはわかるぜ。このオウガメタルの欠片が訴えるのさ。仲間を救ってくれってな」
「いずれにしても急いだ方がいいですね……リアちゃん？」
「任せろ先輩。準備は出来てる」
　欠片を握るセラスにうなづき、太田・千枝（七重八重花は咲けども山吹の・e01868）はカーネリア・リンクス（黒猫の刀使い・e04082）に目を向ける。色黒の手を閃かせ、のけ反る木から素早く何かを引き抜いていく。　そして、次の瞬間、ヘッドライトや照明代わりにした光の翼とは別の、銀の光が森の奥でまたたいた。
「おい、あれって！」
「銀の光……間違いありませんね」
　いち早く光に気づいた笑福道・回天（混沌と笑顔を振舞いまくる道化・e06062）が声を上げ、神咲・刹那（終わりの白狼・e03622）が目を細める。　走るたびに光はどんどん近くなり、森も急かすように先へ先へと道を生み出す。ゴスロリ衣装をたなびかせるシュテルン・プラティーン（天衣無縫フルメタルクルセイダ・e09171）は、ライドキャリバーのヨタローのハンドルをひねった。
「急いでください！　頼みますよ、ヨタロー！」
　翡翠色のバイクは、ドルンと勇ましくエンジン音を響かせる。夜風を切り裂き、八人と一台は加速する。森の闇を光が照らし、そして……。

●
　同時刻。八人と同じく、夜の森を走る影が、四つあった。
「追え。殲滅せよ」
　黒騎士の姿をしたローカストは、三体の配下に指令を下す。彼らこそ、狂愛母帝アリアの兵隊蟻と働き蟻。オウガメタル追撃のために放たれた、非情なる兵団である。
　命を受けた働き蟻が瞬時に動く。闇の中、ちかちかとまたたく光に向かって、一直線に疾走した。
「愚かなりオウガメタル。よもや敵に居場所を伝えるとはな……」
　銀閃めがけて走る配下を見送り、兵隊はせせら笑う。暗い森で、彼らの光はよく目立つ。
「逃亡など下らぬことをしてくれる。構わん、踏みつぶせ！」
　血も涙もない命令を、配下は忠実に実行に移す。こずえから跳躍した三体が、哀れな逃亡者に一撃を見舞おうとした、その直後。
「オウガメタル！　迎えに来ました！　さぁ、こちらへ！」
　声が響くと同時に、オウガメタルの目の前で、木が踊るように身をくねらせた。現れたのは樹木のトンネル、奥から迫る人工の光。
「急ぎ殲滅せよ！」
　異変を感じ取った兵隊が反射的に指示を飛ばした。泡を食った配下は慌てて木の幹を蹴りオウガメタルに急接近。開けた道を飛翔しながら、ミーシャは手を伸ばす。騎士団紋章の手袋が、淡いブルーに輝いた。
「やらせはせん！」
「下がれ！」
　放出された氷結螺旋が、森の中を駆け抜けた。季節外れの氷が樹木を固め、周囲の木の葉に霜を下ろす。バク転で回避し、闇へ消えようとする蟻たちに、カーネリアは小枝を握る手を振り上げた。
「逃がすかよッ！　篁流射撃術……『霧雨』ぇッ！」
「悪いな、ちょっと手荒に投げるぜッ！」
　セラスがオウガメタルを放り投げ、頭を下げる。尖った枝は、金髪をかすめて兵隊蟻を狙い撃つ。
　手足の装甲をほんのわずかに削られながら、四体の蟻は即座に後退、距離をとる。追撃を切り抜けたオウガメタルを、刹那とシュテルンがキャッチ。二人を守るように、仲間たちが前に出た。
「だぁークソッ！　浅かったッ！」
「大丈夫よリアちゃん。間に合ったんだから」
　カーネリアをなだめつつ、千枝は肩越しに後ろを見やる。降ろしてもらい、そそくさと退避する彼らをよそに、回天は抜いた二刀を油断なく構えた。
「おらおらおらぁッ！　出てこい弱いものいじめが好きなアリ野郎共！　次は俺達がお相手してやるよぉ！」
「……犬共が。余計な真似を」
　ざわめく森から、忌々しげな声。照射されるライトの範囲に影はない。
「退け。そやつらは我らの物だ」
「はんっ！　お断りだね！」
　セラスが挑戦的に剣を振り、紅白のマントをひるがえす。
「こいつらが助けてくれって言ってんだ！　助けを求められたならっ！　正義の味方は黙っていられないんだぜ！」
「同感だ。友を道具扱いする者に、彼らは渡せまい」
　ナイフ、剣、銃に槍。おのおのの武器を持ち、オウガメタルをかばう位置で立つ八人。臨戦態勢をとる彼らに対し、兵隊蟻は呆れと哀れみがこもった溜め息をついた。
「ならば、死すべし！」
　宣告とともに風が吹く。草木に身を潜めたであろうオウガメタルに向かって、刹那は振り向かずに言った。
「よくぞ勇気を持って此方に来てくれました。もう大丈夫です」
「行くぜ！　お仕事開始だァッ！」
　星が見守る山奥に、強い光がきらめいた。

●漆黒の兵
「実力のほどはわかりませんが……隠れてるなら、大した実力じゃないと判断しますっ！」
　メリーナが地面に手をつくと同時に、周囲の木々がゆらめいた。八人を中心に、放射状にばたばた倒れていく樹木たち。ドミノ倒しになる樹木の群れから、兵隊蟻が飛び出した。
「こそこそと、セコいんだよ蟻ィ！」
　特殊形状の刀を振るい、回天は宙を切り捨てる。演舞の最後、縦一文字に一閃すると、五芒星の斬撃が空間を裂いて飛翔した。
　即座に全身をアルミで覆い、防御姿勢。体に星型の傷が刻まれ、吹き飛ばされる蟻の左右に、千枝とカーネリアが回り込む。
「行くよ、リアちゃん！」
「ばっち来い！」
　兵隊蟻の着地に合わせ、千枝は銃を連続発砲。マズルフラッシュが夜闇に輝く。着地時の姿勢で銃撃を受ける兵隊蟻の周りを高速旋回。銃弾が雨あられと兵隊蟻に襲いかかる。
「ヌゥゥウ……」
　いくつもの銃弾をはじきながら、兵隊蟻は防御に集中。隙あらば跳躍の意思を見せる足先を、さらなる銃弾がかすめていく。跳弾や流れ弾をキャッチしたカーネリアが、手足めがけてさらに投げる。アルミが削れ、粉末が散った。
「そこで大人しくしてやがれ！　今だッ！」
「了解、ですッ！」
　手足に気を取られた一瞬の隙に、刹那は降魔の拳を胸に打ち込む。確かな手応えとともに沈む刹那の腕を、兵隊蟻はがしりとつかんだ。
「その程度か？　……軽いぞ」
「なっ……！」
　蟻の指が、肌を破って突き立った。体内に異物が入るおぞましい感覚が走ると同時に、その腕は銀灰色に染まり始める。アルミ化してるのだ！
「砕け！」
「下がれ、メリーナ嬢ッ！」
　メリーナの背後から迫る配下と、立ちはだかるミーシャ。展開した光の盾に働き蟻の拳が刺さり、波動となった重力が二人を撃ち抜く。
「手ぇ、離せぇぇぇっ！」
　地獄の炎をまとった剣で、セラスは刹那を飛び越え兵隊蟻に斬りかかる。兵隊蟻は刹那の腕を解放。音速のパンチで剣を弾き、二人の腹を一発ずつ殴りつけた。
「ぐぇっ！」
「刹那さん！　セラスさん！」
「なろッ……！」
　千枝は銃にオーラ弾を装填し、カーネリアは抜刀して兵隊蟻に走る。その瞬間、二人の後ろで横倒しの木が粉砕された。
「お前らッ！　後ろだァァァッ！」
　木を突き破って現れた二体の働き蟻に、回天は光るハリセンと化した二刀を投げつける。スパンスパンと小気味良い音に、千枝とカーネリアは振り向きざまに一撃放って飛び退いた。
「愚かな」
　横倒しになった木の幹を、兵隊蟻は踏みしめる。力む体からアルミ粉がわずかに落ちた。
「我が名はペトラレイ。偉大なる母帝アリア様の忠実なる兵にして誉れある騎士団が一人。……反逆の徒を、打ち砕く者なり！」
「くっ……ヨタローッ！」
　シュテルンは、オーラの弾丸を兵隊に投げつける。同時に鉛玉をばらまくヨタロー。浅いが、軽くはない傷を負ったはずの兵隊蟻は、コンパスのように足を地にすりながら一回転。発火したアルミの具足が、流れるように回し蹴りを繰り出した。
　横なぎ一閃、シュテルンがヨタローの上から弾かれる。白銀の腕が黒く焦げ付く。
　一方でミーシャは光の盾を展開し、働き蟻のキックを防御。立ち直ったメリーナの腕をつかんだ。
「すまないなメリーナ嬢。少々手荒くなる！」
「えっ……」
　渾身の力で働き蟻を押し返すミーシャ。その勢いを利用して、翼を広げ加速する。
「森羅万象を穿て我雷の神槍……」
　騎士の指輪がまばゆく輝く。光は巨大な槍に変じて、仲間をくるんで飛翔した。
「ブリューナクッ！」
　闇を照らし、神槍は放たれた。槍の中のメリーナはどうにかして体勢を整え、自らの足に重力を乗せる。流星のごとききらめき。
「むゥンッ！」
　足を踏ん張り、腕を組む。漆黒のクロスガードに靴裏が直撃し、兵を後ろへ押しのける。削り取られる木と、煙を上げる蟻の足。
　忌々しげにうなりながら、兵隊蟻は声を吐きだす。
「……大した物欲だ。オウガメタルがそんなに欲しいか！」
「地球の利益だから、助けるだけです。それに……」
　光の奥で見え隠れする、自虐的な冷笑。
「助けてなんて言われたら、見捨てられないじゃないですか」
「笑止、千万ッ！」
　防御姿勢を無理矢理ほどき、兵は蹴りを吹き飛ばす。はね飛ばされたメリーナは赤鞘からナイフを抜くと、横倒しの木に突き立てる。
「千枝さん！　飛ばしますっ！」
　働き蟻相手に立ち回っていた千枝が一瞬振り向き、御業を降ろして業火を放つ。働き蟻に高熱が降り注ぐと同時に、足元で倒れていた木が投石器めいて千枝を宙に放り出した。
　星空を錐もみしながら、千枝は銃の引き金を引く。弾丸の行方には目もくれず、回天の無殺刃を働き蟻と斬り結ぶカーネリアに投げつけた。
「リアちゃんっ！」
「……！　おうっ！」
　カーネリアは、獣化した拳で働き蟻を引きはがす。蟻の頭部を蹴って刀を空中キャッチ、長方しばき丸とともに思い切り振りかぶった。
「もっかい喰らえ！　篁流射撃術、『霧雨』ぇッ！」
　射出。二刀がダーツのように兵隊蟻に飛んでいく。兵は上体を傾け刀を回避。視界を銀閃が通り過ぎ、長い白髪が夜風に踊る。赤い瞳を輝かせ、刹那はアルミ化したはずの拳を握った。
「馬鹿な……貴様なぜ！」
「ありがとうございます、千枝」
　腕に灯るオーラが、残った銀色を浄化する。猫の形をした光の陽炎は、拳を神速の速さで打ち出した。兵隊蟻の面頬がいともたやすく叩き潰れ、インパクトが頭を抜ける。
「う、ごぉぉぉぉぉ……」
　意識を半ば飛ばされつつも、兵隊蟻は血走った目を見開いて手を伸ばす。今度はのどに、確実に息の根を止めるために。だが、愛刀を取り戻した回天が二条の斬撃を振り下ろした。
「ぬわァンじゃいぃぃ！」
「ぐおおおおおッ！」
　空間ごと切断された兵隊蟻の腕が飛ぶ。切断面から体液を噴き出す騎士の姿に、配下はあからさまな動揺を見せた。
「なめるなこのッ！　三下がァァァァァッ！」
　激情もあらわに、兵隊蟻は残った腕を振りかぶる。全速力の一撃は刹那の頬をかすめ、回天の顔面に直撃。追撃を放とうとする兵隊蟻の懐に、セラスは二人を押しのけ踏み込んだ。火花を散らす、チェーンソー。
「締めにしてやる！　覚悟しやがれ！」
「抜かせ！」
　這うような姿勢のセラスに、炎のつま先を蹴り上げる。伝ったのは、胸板を砕く感触ではなく、粘る液体のものだった。
「行くぜ、蟻野郎」
　どろっとした水銀状の液体が小さな体を包み込む。見覚えがある金属光沢に、兵隊蟻は今度こそ目を見開いた。
「この炎はオウガメタルの怒りだ！　灰も残さず燃え尽きな！」
「貴様、貴様ァ！　なぜオウガメタルを従えて……ッ！」
　言葉が尽きる前に、チェーンソーが振り上げられた。鋭い歯が蟻に噛みつき、勢いのまま空へ飛ばす。まとわりつく水銀は、勇者の鎧へ姿を変えた。
「何をしているッ！　囲め！」
「行かせはせん」
　我に返る働き蟻たちの前に、ミーシャのヒールドローンが立ちふさがった。障子戸を蹴破るように次々破壊していくも、銃撃にさらされ前に出られない。カーネリア、ミーシャを相手取っていた二体が氷の螺旋を受けて凍結。孤立無援と化す兵隊蟻の頭上で、赤黒の太陽が輝く。
「こいつで終わりだッ！　地獄に落ちろ、焔舞い！」
　炎をまとった斬撃の乱舞が、星を食らって夜空を染める。プロミネンスめいて閃く剣閃に、兵隊蟻は焼き斬られていく。そして。
「決めるぜ！　ロックンロぉぉぉぉルッ！」
「ぐぁぁぁぁぁッ！」
　最後の一発で兵隊蟻を突き落とす。落下点に影が広がり、万華鏡のように展開。影の端で、メリーナは指を鳴らした。
「緞帳が降りて、『魔法』が解けて……」
　崩れ、収縮する影絵芝居。溶けだした影から伸びる触手は、兵隊蟻をからめとる。落ちる蟻の真上に、シュテルンが飛び出した。
「これで、終局です！　オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ、オラァァァッ！」
　剛腕による連打が、蟻の全身をくまなく叩く。最後の一撃とともにその体が影に沈み、砕けるように爆散した。

●小さな仲間
「にしても無茶をしたな、二人とも」
「……お世話になります」
「べ、別にいーじゃねえか。ヒーローは無茶をぶっ飛ばしてくもんだぜ？」
「その格好で言っても説得力がないぞ、セラス嬢」
　元に戻った木に寄りかかる刹那とセラスに、ミーシャは展開したヒールドローンで治療する。危険はないが、腹部への打撃はそれなりに堪えたようだ。
　他方、回天は鼻に丸めたティッシュを突っ込む。
「まー全員生きてたし、大丈夫だろ。つか俺の鼻大丈夫か。折れてねえよな……」
「回天さんこそ大丈夫ですよ。手足ならまだしも、鼻の一個ぐらい平気です！」
「いやちょっとは心配しろよ！」
　メリーナの笑顔とジョークに、鼻血とティッシュを吹きながら回天は振り向く。新しいティッシュを差し出しつつ、千枝はそっと苦笑する。
「冗談言えるなら大丈夫ですね」
「それもそうだな。やれやれ……ローカスト相手は骨が折れるぜ。ま、苦労した甲斐は、あったかな？」
　薄い下草にごろんと寝転ぶカーネリア。その視線の先では、変身を解いたシュテルンとプニプニたわむれるスライム状の生命体、オウガメタルの姿があった。
　ひとまず脅威は去った。働き蟻の逃げた方向も確認した。今は、傷を癒やすべきだろう。
「つーわけでさ……へへ、宜しく頼むぜ、新しい仲間達」
　シュテルンの手の上で、スライムはぷるるんと体を揺らした。

作者：鹿崎シーカー	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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