オウガメタル救出~兵隊達の追跡

作者:質種剰


 山陰地方の山奥。
 人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
 異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
 この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
 そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
 大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
 この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
 だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
 その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。

●追われるオウガメタル
「黄金装甲のローカスト事件を解決なさったケルベロスの方々は、黄金装甲化されていたアルミニウム生命体と絆を結ぶことができたであります」
 小檻・かけら(サキュバスのヘリオライダー・en0031)が説明を始める。
 絆を結んだ結果、アルミニウム生命体について、種々の情報が得られたという。
 アルミニウム生命体が、本当は『オウガメタル』という名前の種族で、自分達を武器として使ってくれる者を求めている事。
 現在、オウガメタルを支配しているローカストは、グラビティ・チェインの枯渇を理由に、オウガメタルを使い潰すような使い方をしている事。
 特に、黄金装甲化は、オウガメタルを絶滅させる可能性すらある残虐な行為である事。
「そして、オウガメタルは彼らに助けを求めてきました」
 オウガメタルと絆を結んだケルベロス達が、オウガメタルの窮地を感じ取ったのである。
「オウガメタル達は、ケルベロスに助けを求めるべく、ローカストの本星から、ゲートを通じて脱出、地球に逃れてきたらしいのでありますよ」
 しかし、最重要拠点であるゲートには当然ローカストの軍勢がおり、そのローカスト達によって、オウガメタル達は遠からず一体残らず殲滅されてしまうだろう。
「オウガメタル達が、ローカストに追われている場所は、山陰地方の山奥になります。皆さんにはヘリオンで現地へ向かい、オウガメタルの救助とローカストの撃破をお願いしますー」
 この作戦に成功すれば、オウガメタルを仲間に迎えるだけでなく、ローカストの最重要拠点であるゲートの位置も特定する事ができるかもしれない。
 だが、ゲートの位置が関わってくるという事は、ローカスト達の攻撃が熾烈になるのも意味する。
「厳しい戦いになると思いますが、何卒、宜しくお願いするでありますよ!」
 かけらは頭を下げた。
「ローカスト達は、兵隊蟻ローカスト1体が働き蟻ローカスト3体を率いている群れで、山地の広範囲を探索し、逃走するオウガメタルの殲滅に乗り出しているようであります」
 ヘリオンが現地へ到着するのは夜半過ぎで、逃走するオウガメタルは銀色の光を発光信号のように光らせるため、それを目標に降下すればオウガメタルの近くへ降下できるだろう。
 目標を幾ら定めても降下には誤差が生じ、すぐ側に降下できるわけでは無い。
 それでも百メートル以内の場所には降下できるだろうから、合流は難しくない筈だ。
「追っ手である兵隊蟻ローカストの戦闘力はかなり高く、ゲートを守るという役割からか、どんな不利な状態になっても決して逃げ出す事は無いと思われます」
 一方、働き蟻ローカストは、戦闘が本職ではなくとも、実にケルベロス数人分の戦闘力を有している。
 ただ、働き蟻については、兵隊蟻ローカストが撃破され状況が不利だと思えば、逃げ出す可能性があるようだ。
「働き蟻ローカストは、ローカストファングなる時折威力の増す近距離単体攻撃と、破壊音波という複数人に催眠を齎す遠距離攻撃を使って来るであります」
 兵隊蟻ローカストは、それに加えてブレイク効果を持つローカストキックも仕掛けてくるらしい。
「ケルベロスの皆さん方を頼って逃げてきたオウガメタル……むざむざ全滅させるのは忍びないであります。絆を結んだケルベロス達のためにも、どうか、助けて差し上げてください。宜しくお願いします」
 改めて深々とお辞儀するかけらだった。


参加者
美城・冥(約束・e01216)
ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)
浦葉・響花(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e03196)
大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)
アンドロメダ・オリュンポス(秘密結社オリュンポスの大幹部・e05110)
月夜・夕(昼行灯の人狼探偵・e07867)
天音・迅(無銘の拳士・e11143)
森宮・侑李(星彩の菫青石・e18724)

■リプレイ


 上空。
「さてお客様を迎えに行こうか?」
 ヘリオンから今しも飛び降りんとするタイミングで、月夜・夕(昼行灯の人狼探偵・e07867)が煙草を咥え、おどけるように仲間へ声をかける。
 よれよれのスーツと無精髭、構いつけない頭髪から飛び出た耳が印象的なウェアライダーで、ハードボイルドな外見に似つかわしく、探偵稼業で食っているらしい。
 常々やる気なさそうに見える夕だが、今の振る舞いからは年長者らしく仲間達の緊張を解そうという気遣いも看てとれた。
「そだな、センパイ方よろしく頼むぜ!」
 明るい声で応じ、お先に、と飛び降りていくのは、天音・迅(無銘の拳士・e11143)。
 オラトリオ特有の天使の翼が、夜空に白く広がり、赤い髪に咲いた藤の花も空気を孕んで上へ上へと靡き、そのまま迅の細い長身は森へ吸い込まれていく。
「綺麗な光を消すわけにはいきませんね」
 こちらは龍の翼を広げたラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)も、いつもと変わらぬマイペースな風情で降下していく。
 笑顔のように見える表情が印象的なドラゴニアンで、誰かの為でなく自分の為に戦うという、確固たる信念を持つ彼女。
 光を通す水色の角と、アマガエルの体色の如き鮮やかな髪を有し、羽衣のような薄布を衣装の上から纏った、青の似合う女性だ。
「……助けたいっすね、今度こそ……」
 眼下に鬱蒼と広がる暗い夜の森を眺めて、森宮・侑李(星彩の菫青石・e18724)が苦く呟いた。
 穏やかな風貌をした黒髪のシャドウエルフで、強い人になりたいという上昇志向を秘めた青年。
 だが、日頃は理知的な光を湛えている赤い瞳が、今は後悔に揺れている。
 侑李は、以前『金甲のフーガ』と刃を交えた際、己の未熟だったが故にオウガメタルの回収が出来なかった――という自責に近い念を抱いていた。
 また、辛くも勝利を掴んだものの班全体がピンチに陥って苦戦した悔しさを拭い去れず、その雪辱戦としてオウガメタル保護に挑む心持ちなのだ。
「信じましょう。自分達の実力を……皆できっちり作戦を詰めたのですから、きっと大丈夫だと思いますよ」
 そんな彼を、美城・冥(約束・e01216)は彼らしい丁寧な物言いで励ました。
 肩より少し長めに切り揃えた青髪へ紅い花を飾り、白い衣服に身を包んだ様は、その端整な顔立ちと相俟って美少女のよう。
 妹の命と引き換えにケルベロスへ覚醒した冥だったから、決して妹の死を忘れず心に刻みつけんと、彼女そのものの出で立ちをしているのだ。
 なればこそ、今はデウスエクスの討伐に執着していても元々心優しい性格な冥の言葉が、侑李を力づけた。
 一方。
「これはオウガメタルの亡命なのかしら? ……最悪、蹴散らせなくても彼らを遠くまで逃がす時間は稼ぎたいわね」
 浦葉・響花(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e03196)も、思慮深い瞳を凝らして森を覗き込み、瞬く銀の光を確かめるや思いを巡らしていた。
 喧嘩や戦いを好まぬという響花は、その慎重な性格からか、闇に紛れやすい服と滑りにくい靴を着用、さらに暗視スコープやケミカルライトを数本携えている。
 日頃から耳や尻尾を隠して地球人の振りをしている、歳より大人びて落ち着いた物腰の黒豹のウェアライダーである。
 もっとも、ひとたび怒ると鬼のように凶暴になるらしいが。
 他方。
「自分たちを武器として使って欲しがっているオウガメタル……。さあ大首領様、彼らを秘密結社の武器として『保護』いたしましょう!」
 アンドロメダ・オリュンポス(秘密結社オリュンポスの大幹部・e05110)が、ひとりぺらぺらと捲し立てては、オウガメタルの保護に熱意を燃やしている。
 保護という一見普通の単語でも、オリュンポスの大幹部たる彼女が言うと何か不穏な野心の籠った響きに聞こえるのは気のせいか。
「さあ、大首領様の真の強さをローカストに知らしめてやりましょう!」
 尚も言いたい事を言ったアンドロメダは、相手の返事も待たずにぴょいと飛び降りてしまった。
「フハハハ……我が名は、世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスが大首領!」
 残された大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)は、平静を装う裏で戸惑っていた。
「ほう……我が計画通りに事が運んでいるようだな。ならば、ここは私直々に赴かねばなるまい!」
 と、いつも通りの前口上で胸を張ってみても、既にアンドロメダは飛び降りた後である。虚しい風が吹いた。
 いつものノリでオウガメタルの救出へ名乗りを上げたものの、本当は内心冷や汗ダラダラで後悔しきりなのだ。
 果たして自分の力でオウガメタルの命の灯を護れるのか――実は小心者である領の懊悩を知る者は、誰もいない。


 森の中へ落下した直後は、幾ら降下中にも銀の光を確認していたとはいえ、咄嗟にはオウガメタルの逃げる方向を判断できなかった。
 なればこそ、ラーナと迅が森の上まで羽ばたいて、俯瞰視点から銀の光を探す事で、上手く追跡できればと捜索を開始した。
「あちらですね」
 ラーナが森の上でオウガメタルの光へ向かい、迅は彼女を追うように樹々の枝葉を縫う高さで飛行していく。
 そんな彼を、草木が我から避けてくれるよう操りながら、領が仲間を先導して進む形である。
 三者の追尾速度は殆ど差がなく、翼飛行組2人を危険に晒す事を防げ、尚且つ全員が固まって移動すると決めた中では、捜索の効率を上げる工夫もなされていた。
 そのお陰か予想より早く、地上を歩く6人の視界へも、遠雷のように辺りの木々を照らす光の存在が飛び込んできた。
 液状の身体は数分間隔で点滅を繰り返している。
「良かった……! 助けに来たっすよ!」
 逃げ水のように樹々の繁りを暗い体へ映し込むオウガメタルへ、侑李が万感の思いで声をかけた。
 オウガメタルの動きが停まる。
 ラーナや迅も降りてきて、素早くオウガメタルを取り囲む8人。
「オウガメタルさん達は、オリュンポス大幹部のアンドロメダがお助けします! さあ、私の後ろで隠れていて下さい!」
 ちゃっかりオリュンポスを宣伝しつつ、銀色の液体生物を守るべく仁王立ちするアンドロメダの後ろでは。
「お腹空いてない、パン持って来たからあげるわよ。美味しいよ」
 響花がパンをちぎってオウガメタルへ差し出していた。
 オウガメタルは、8人を己が救いを求めし相手であるケルベロスだと認識したようだが、言葉を話せなければパンを食べる様子も見せない。
 ただ、救援信号の時よりは幾分鈍い明るさで、ぼうっと銀色に光っているだけだ。
「あれ? もしかして、パンよりご飯が良かったの?」
 妙におっとりした風情で首を傾げる響花。
 のんびりできるのもローカストより先にオウガメタル達と合流できたお陰だ。
 彼らを下手に遠方へ逃がすのは危険と判断したケルベロス達は、自分達が身を挺してオウガメタルを守り、ローカストの奇襲を迎え撃つつもりである。
 ガサッ。
 兵隊蟻ローカスト――アリア騎士が、3体の働き蟻ローカストを従えてオウガメタルへ襲いかかってきたのは、合流して程なくの事であった。
「やらせないっ!」
 アリア騎士の繰り出した黒いランスが起こす破壊音波から、オウガメタルを庇ったのは冥だ。
 耳障りな音の暴力に意識を薄められそうな思いがするも、初撃で倒れる訳にはいかないと、冥は歯を食いしばって堪える。
「いよいよお出ましだな」
 冥と同じくディフェンダーである夕も、働き蟻の1体が鋭い牙を突き立てるのを、その腕で受け止めた。
 腕から鮮血が噴き出すも、夕は涼しい顔である。
 更に、領のミミックも働き蟻が迫るオウガメタルの間へ割って入り、代わりにダメージを受けた。
「戦闘が終わるまで、隠れていて下さい」
 ラーナの切迫した声音の意味を解してか、発光をやめたオウガメタル達はするすると近くの茂みへ吸い込まれるようにして身を潜めた。
「今度はこっちから行くっすよ!」
 侑李が鋭く言い放つも、フーガ戦の自責の念が彼を慎重にさせていた。
 外れる可能性が少しでもあるハウリングフィストを控えて、気咬弾をアリア騎士へぶちかましたのだ。
 彼の身体を覆うバトルオーラが、弾丸状になってアリア騎士の顔に喰らいつく。
 狙い澄ましたその一撃の威力は大きい。黒い仮面のような顔面がひび割れ、体液が滴る。
「フハハハ……蟻のローカスト諸君よ。このオリュンポスが大首領たる我に刃向かうならば、目に物見せてくれよう!」
 組織の長として、オウガメタルや――何故か同行していた――アンドロメダへの見栄を全力で張るのは領。
 いつにも増して威厳や風格に気を配り、内心疲れつつもオウガメタルを守るべく地面に守護星座を描いた。
 後衛陣、ひいては長期戦に欠かせないメディック2人を防護する為に。
 領のミミックはアリア騎士へ果敢に突撃、その具足のような節張った足に齧りついている。
「心配しないで……わたしたちが、守るから……」
 響花はそうオウガメタルへ言い置いて、惨殺ナイフをすらっと抜き払う。
 その刀身に、アリア騎士が忘れたいと思うトラウマを映し出し、具現化してけしかけた。
 声もなく苦しみ悶えるアリア騎士だが、果たして奴のトラウマに狂愛母帝アリアが関わっているかは、定かではない。
「あなた達にとってどのような存在かは関係ありません、共に歩もうとする者へ危害を加える者は、敵でしかありませんから」
 ラーナはアリア騎士達へ凛とした物言いで告げてから、ルドラの子供達を振るう。
 前衛陣の周りへ雷の壁が現れ、彼らの異常耐性を高めると共に、破壊音波で削られた体力も回復させた。
 しかし、働き蟻の内2体が容赦なく破壊音波を連発したが故に、戦いが続くにつれ、催眠の解除は前衛陣が自ら進んで行う事態となってきた。
 冥は、裂帛の叫びを上げ、意識を蝕む催眠の干渉を根性で消し去った。
(「我が身犠牲になっても、この依頼は成功させなきゃいけない」)
 そんな悲壮な決意を抱く彼の瞳には、意志の強さが現れている。
「大丈夫かい?」
 次いで、メディックの迅は気力溜めで侑李の催眠を解除した。
 それというのも、一度に複数人の異常を治癒する手立てが何故かなかったせいだ。
「とにかく敵の親玉を集中攻撃して倒しましょう!」
 アンドロメダは元気よく声をかけつつ、アームドフォートの主砲を一斉発射。
「我らオリュンポスの技術力、受けて下さい!」
 前衛として盛んに飛び込んでくるアリア騎士と働き蟻1体へ、少なくない衝撃を与えた。
「お前らの相手はこっちだ、蟻野郎」
 何とかしてオウガメタルを守りたいという気持ちからか、件の茂みを背にして挑発するのは夕。
 少し距離の離れた働き蟻の気脈を断つべく、指一本の突きに力を込める。
 働き蟻の中でも催眠の効きがしつこかった1体へ、石にでもなったかのような鈍重な感覚を齎した。
 その傍ら、夕のウイングキャットである銀は清浄な翼を広げて前衛陣の邪気を祓う。
 同時に何人かの催眠も解いたが、二重三重にでもかかっているのか、一度で全てを浄化するのは難しいようだ。


「魔法使いらしく、面制圧させて貰うっすよ!」
 無数の魔弾を生成し、一斉に打ち出したのは侑李。
 個々の性能は低いものの弾の多さと速さから回避の困難な厚い弾幕に曝されて、例の石化の1体の全身が餌食になる。
「さぁ、優秀なる戦闘員の諸君よ! 今こそ我がオリュンポスの威光を示せ!!」
 領の掛け声と共に何処からともなく現れたのは、オリュンポス戦闘員と大首・領と称した全身黒タイツ着用の人型エネルギー体の群れ。
 戦闘員と影武者エネルギー体の混成部隊は、領の意のままにアリア騎士と前衛の働き蟻へ襲いかかり、体力を削った。
 しかし、敵もさる者。
 夕達が催眠の重ねがけを危惧してアリア騎士よりも優先的に倒そうとしている働き蟻――恐らくジャマーだろう――は、石の如き重みに抗ってまで破壊音波を繰り返していた。
 それに加えて、アリア騎士が威力の高い蹴りを前衛にぶち込み、他の働き蟻達はアルミの牙で肉まで喰い破らんと噛みついてくる。
 最初に倒れたのは領だった。
「……アンドロメダよ……私の代わりに、オウガメタルの引き入れを……」
「大首領様ぁーーー!!」
 最後まで秘密結社の長として威厳を失う事なく意識を手放した領を前に、泣き咽ぶアンドロメダ。
「火器管制システム、セーフティ解除。全砲門発射します!」
 すぐに怒りに燃える眼で兵隊蟻へ狙いを定め、フルアーマータイプの鎧装騎兵装甲から、オーバーヒート覚悟で全武装一斉射撃をお見舞いした。
 砲弾の嵐はアリア騎士の黒い身体へ着実にダメージを与えたものの、まだ足りない。
 未だ動きの衰えぬアリア騎士は、蹴りと不協和音を使い分けて、ケルベロス達を苦しめる。
「く……今度こそ、今度こそオウガメタルを、守らなきゃ――」
 次に地面へ膝を着いたのは、誰よりもオウガメタルの身を案じていた侑李だった。
「皆さん……すみません……後を、頼むっす……」
「森宮!」
 夕の表情に初めて焦りの色が滲む。
「お前の鎧と俺の拳、さぁ勝負といこう」
 だが、赤く獣化した拳で浴びせるかけ連打の勢いに、翳りは無い。
 その重い拳打はまるで月食のように、働き蟻の命の光を浸食していった。
「ここで持ち堪えないと……」
 ラーナは、ディフェンダーの夕や冥を中心にエレキブーストで怪我を癒していた。
 催眠が異常耐性によって自然治癒できなかった時はライトニングウォールも織り交ぜたが、何分蟻達の攻めは一撃の威力が高い。
 オウガメタルの代わりに攻撃を受ける夕と冥、次いで回復手の迅や自分――と優先順位を決めて回復していた結果、どうしても前中衛の侑李や領にまで手が回らなかったのだ。
「ヤベェな……」
 気力溜めを駆使する迅が呟く。
 銀も頑張ってくれてはいたが、せめて1分経つ間に複数人へ対するヒールをもっと多く使って、体力回復と催眠解除の効率を上げられていたら、戦況もここまで悪くはならなかっただろう。
「やれやれ……ここまでか」
 とうとう、夕までが戦闘不能に陥ってしまった。
「躊躇わず……討つ」
 響花は、理力の力で手足の体温を超低温にして、働き蟻へ打撃を繰り出す。
 彼女に触れられた箇所からみるみる熱を奪われ、重度の凍傷を負ったジャマー働き蟻は、そのまま事切れた。
「ケルベロスの仲間は傷つかせない、絶対に……皆さん、ここは任せて、早くオウガメタルと逃げて下さい!」
 遂に覚悟を決めた冥はアリア騎士へ肉薄、その視線を自分の動きで誘導しつつ神威・双雷と神威・霊雷の二刀で斬撃を放つ。
「我が息は神の御息也、神の御息は我が息也。御息をもって吹けば穢れは在らじ、残らじ、阿那清々し――」
 動ける仲間達は、冥の詠唱を背にオウガメタルを促して退却するより、道はなかった。

作者:質種剰 重傷:大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082) 月夜・夕(昼行灯の人狼探偵・e07867) 森宮・侑李(星彩の菫青石・e18724) 
死亡:なし
暴走:美城・冥(約束・e01216) 
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:失敗…
得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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