
●出会いの場が、悲劇の場に
礼奈はその日、恋人の明人に呼び出され、ある公園に来ていた。青い木々と花壇に敷き詰められた花々が、降りしきる雨に濡れて艶を帯びている。激しい雨のせいか、人通りも疎らだ。二つ傘を並べ、ゆっくりと歩く。
「……久しぶりね。初めて会ったのもこの公園だった」
二人が出会った日も、雨の日だった。礼奈は考える。彼女には一つの予感があった。何カ月も前から感じていたことだ。認めることが怖くて、胸の奥にしまい込んできた。
会話が弾むこともなく、じっとりと重い空気の中、明人が口を開く。
「ごめん、他に好きな人ができたんだ」
告げられた言葉に、閉じ込めていた現実が溢れ出す。
「……もしかしたら、と思っていたの。やっぱりそうだったのね」
「……ごめん」
謝罪の言葉を繰り返す明人を、礼奈は食い入るように見つめた。現実を突き付けられると同時、滲みだすのは悲しみと後悔、そして怒り。
問い正すのが怖かった。思い直してくれるかもしれないと、根拠のない期待さえ抱いてしまった。なんて、私は愚かなのだろう。
複雑に絡み合う負の感情は、否応なく明人へと向いた。
「それならなんで、もっと早くに言ってくれなかったの? 私が貴方と過ごした時間は何だったのよ!!!!」
振り上げた手に何かが絡み付くような違和感を覚える。しかし、その正体を確認するより早く、怒りの平手打ちが飛んでいた。
刹那、聞こえたのは手が頬を打つ音ではない。骨を砕かんばかりの破壊音だった。不気味な光が瞬くと同時、倒れ伏す明人に礼奈は目を丸くした。
「え……っ? 明人……?」
明人の顔を覗き見た礼奈の手から、傘が滑り落ちた。恐怖と絶望に満ちた色が、白い顔を染め上げる。
「い、いやあああああ!!!!!」
礼奈の足元には、息耐えた恋人が無残に転がっていた。
●失恋と失命
「思わず手が出てしまう気持ちもわかります。……けれど、今回は我慢してもらわなければなりません」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は静かに首を横に振り、説明を続ける。
「かすみがうら市から飛び散ったオーズの種の影響で、事件が発生しているようです」
ケルベロスの活躍により、オーズの種は充分なグラビティ・チェインを得る事無く飛び去った。しかし、得られなかったグラビティ・チェインを補充するため、潜伏した状態で活動を始めたというのだ。
「人が人に暴力を振るう際、加害者側に寄生して被害者側を殺させます。そして、被害者からグラビティ・チェインを奪う……このような事態になる前に、事件を未然に防いでもらいたいのです」
介入は殴る側、礼奈が攻性植物に寄生された時点で可能となる。相手に気付かれないように近づき、礼奈に攻性植物が寄生した直後に、攻撃を行わせないよう声をかけるなど行うと良いだろう。状況が切迫していることもあり、なるべく短い言葉で伝えるのがベストだ。
「彼女は彼のことだけでなく、自分のことも責めている。そのあたりから考えてみると良いかもしれません」
また、現れた攻性植物は、グラビティ・チェインを獲得しない限りは、オーズの種の元に戻る事はできない。被害者が殺されるのを防げば、本性を現して戦闘を挑んでくるだろう。
「もし、礼奈さんを止められなかったときは、礼奈さんを撃破する必要があります。そうしなければ明人さんは死に、グラビティ・チェインを得た攻性植物にも逃げられてしまいますから」
手加減攻撃であれば、殺さずに撃破することができるかもしれない。
「敵の数は1体です。寄生された礼奈さんは、攻性植物に取り込まれる形で一体化しており、普通に攻性植物を倒すと一緒に死んでしまいます。ですが、攻性植物にヒールをかけながら戦うことで、戦闘終了後に礼奈さんを救出できる可能性があります」
ヒール不能ダメージは少しずつ蓄積するので、粘り強く攻性植物を攻撃して倒すことができれば、礼奈を救える可能性がある。また、礼奈が死亡した場合、攻性植物は誰にも寄生することなく、ケルベロスに襲いかかってくるだろう。
一通り説明を終えて、セリカはケルベロスたちをまっすぐに見つめた。
「これ以上オーズの種にグラビティ・チェインを吸収させるわけにはいきません。……それに、こんなかたちで二人の関係が終わってしまうのも、残酷過ぎます」
できるならば、二人とも救って欲しい。そう告げて、セリカはケルベロスたちへと頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
![]() キャスパー・ピースフル(壊れたままの人間模倣・e00098) |
![]() ニケ・セン(六花ノ空・e02547) |
![]() 秋月・陽(陽だまり・e04105) |
![]() プロデュー・マス(サーシス・e13730) |
![]() ローレン・ローヴェンドランテ(セカイは変わらない・e14818) |
![]() ユリア・タテナシ(フレグランスリンク・e19437) |
![]() リルシャーナ・フローライト(無垢なる欲望・e27980) |
![]() カコウ・インフェルノ(宵空万華鏡・e28371) |
●雨中の介入
雨が降りしきる公園は、暗く沈んでいる。距離を置いた前方に、明人と礼奈の姿を捉えた。目立たぬよう隠れながら、ケルベロスたちは彼らの後方を歩く。
(「……この後数分と待たず、彼女は恋人に別れを告げられるのですね」)
ユリア・タテナシ(フレグランスリンク・e19437)は、二人の背を見つめながら呟く。 雨に濡れる眼鏡を拭いつつ、ローレン・ローヴェンドランテ(セカイは変わらない・e14818)は首を傾げた。
(「恋人以外の人を好きになる、か。ボクには理解できないよ」)
(「付き合ってれば色々あるんだろうよ。まあ、今回は少々間に入らせてもらおう」)
刀の柄へ手を添えつつ、秋月・陽(陽だまり・e04105)は言葉を紡ぐ。その言葉に、キャスパー・ピースフル(壊れたままの人間模倣・e00098)は力強く頷いた。
(「このままだと解決するどころか殺人になっちゃうからな。絶対に止めないと!」)
(「無論だ。彼女が悲劇に見舞われる前に、私達で必ず救ってみせよう」)
プロデュー・マス(サーシス・e13730)は宣言し、誓うように拳を握り締める。
(「そうですね。別れの喧嘩は、攻性植物を消したあとにしてもらいましょう」)
重い足取りで歩く二人を見守りつつ、カコウ・インフェルノ(宵空万華鏡・e28371)は静かに告げた。ふいに足を止めた明人と礼奈に、リルシャーナ・フローライト(無垢なる欲望・e27980)も足を止め、周囲に目配せする。
(「立ち止まったわ。……さて、悲しい恋の告白が始まるみたいよ」)
(「すぐに介入できるよう位置に付こう。大丈夫、きっと上手くいくよ」)
木陰に身を潜め、ニケ・セン(六花ノ空・e02547)は介入のタイミングを見計らった。
短い会話の末、礼奈の手が上がる。寄生の直後、すかさずローレンが大声で叫んだ。
「礼奈!! 今までのすべてが無駄になるよ?」
「……!」
しっかりと届いた声に、礼奈は思わず手を止める。即座にケルベロスたちが間に割り込み、明人を礼奈から遠ざけた。
「はい、ストップ! その熱い想いはとっても魅力的だけど……気をつけないと、取り返しがつかないわよ?」
リルシャーナの目線の先では、礼奈の腕に寄生した攻性植物が蠢いている。
「君たちは……?! それに、あれは……?!」
混乱する明人に、ニケは落ち着いた口調で語りかけた。
「言いたい事があるだろうけど、後だよ。まず先にやらなきゃならないことがあるんだ」
「貴方達、何なの!?」
礼奈はまだ己の腕の状態に気付いていないらしい。ユリアは礼奈を真っ直ぐに見つめ、言葉を投げかける。
「別れを告げられる辛い気持ちはわかりますわ。でも、今はどうか思いとどまって」
「そのまま彼を殴り飛ばすと、追々悲惨なことになるからね。止めに来たんだ」
陽は柔らかに告げて、そっと礼奈の腕を指し示した。
「なっ……何これ!?」
動揺する礼奈の心を落ち着かせるように、キャスパーが強気に微笑んだ。
「大丈夫落ち着いてくれ! ちょーっと悪いデウスエクスのせいで、今は力の制御が効かないだけだ!」
「デウスエクス? 私の腕が……!?」
「貴殿は今、攻性植物に寄生されているのだ。だが、安心して欲しい。私達が何とかする」
プロデューの拳に、黄金の輝きが灯る。力強い光に、礼奈はくしゃりと顔を崩した。
「貴方達、ケルベロスね……お願い、助けて……!」
助けを求める声にカコウは迷いなく頷いた。弓を構え、しっかりと前を向く。
「もちろんです、そのために来たのですから。痛いですけど、耐えてくださいね」
攻性植物の蔓が伸ばされ、ケルベロスたちへと襲い掛かった。
●救うために
蔓はニケへと向かうも、ミミックがぴょんと跳ね上がり蔓を弾き返した。
「か、身体が勝手に……!」
焦る礼奈に、ニケは柔らかに微笑みかける。
「問題ないよ。この程度、君の状況と比べたらどうってことないからね」
のんびりと告げながらも、精神を研ぎ澄ませた。懐かしい旋律と共に、生まれた鎖の影が朱に染まる。
「汝、朱き者。その力を示せ」
その影は、仲間に力を与えていく。
「サンキュー、ニケの旦那! これでバッチリ戦えるぜ!」
気合十分のキャスパーに呼応するように、ホコロビが金の鍵を振り回した。蓋を開き生み出したハンマーで、攻性植物を殴り付ける。
「礼奈のお嬢! かなり痛いけど、我慢してくれよな……!」
キャスパーは腕を振り上げ、祭壇武器を叩き込んだ。衝撃に揺れる礼奈と攻性植物の側面へと、陽が回り込む。
「すごく怖いと思う。でも、何とかなるよ。……傷付いても、必ず癒えるから」
礼奈へと語りかける陽へ、攻性植物が蔓を伸ばした。その軌道を、陽はしっかりと見極める。
「さて……こんな感じでどうよ!」
まずは斜めに一閃。風のように攻性植物を斬り裂いた。直後、即座に刃を翻し、高速の剣捌きで斬り上げる。洗練された刃が、攻性植物のボディを深く傷付けた。
「まだ終わらなくてよ? 礼奈さんの身体から退いてもらいますわ」
攻勢植物が陽に気を取られている隙に、ユリアが死角へと飛び込んだ。螺旋の力を宿した掌を攻性植物へと触れさせる。直後、激しいエネルギーの奔流が内部から攻性植物を破壊した。
「ギギ……ミシ、ミシ……」
攻性植物が奇怪な音を上げた。ユリアはその状態を冷静に観察する。
「そろそろ回復の頃合いでしょうか?」
ユリアの言葉に、ローレンは静かに頷いた。
「大丈夫、もう準備できてるよ」
ローレンは杖を掲げる。杖から発生する雷鳴と共に、膨大な魔力が攻性植物へと直撃した。魔力の衝撃が攻性植物を切り開き、強引に傷を癒していく。
「きゃ……」
怯えたように声を上げる礼奈へと、ローレンは直向きに語りかける。
「礼奈、必ずボクたちが助けるから、決して諦めないで。これが終わったら明人と話をしよう?」
ローレンの言葉に、礼奈はこくこくと頷いた。
攻性植物が地面へと根を張り、ケルベロスたちを呑み込まんとする。攻撃の合間を縫い、プロデューは攻性植物の懐へと入り込んだ。
「貴殿も、貴殿自身に宿るその植物が、弱まる気配を感じているはずだ……気をしっかり持て! 」
内に秘めた地獄の炎を滾らせ、己の攻性植物を活性化させる。黄金色に輝く拳に、轟々と燃え盛る炎が渦巻いた。
「助けて見せるさ、彼も!貴殿も! イグニッション・エヴォルト!」
激しい衝撃の嵐が、攻性植物を襲う。
「他人の身体で随分と好き勝手やってくれるじゃない。でも、思い通りには行かないわよ」
リルシャーナは艶やかな翼を広げ、魔力の霧を放出する。桃色の霧が仲間たちを癒す中、モリオンが翼を羽ばたかせた。
「ブニャア」
尻尾を大きく振り、リングを勢いよく飛ばす。
「てーちゃん、予定どおりお願いしますね」
カコウの言葉に、てーちゃんは「任せて」と言わんばかりに跳び上がった。直後、強烈な光線を打ち放つ。
「ヒールの件は抜きにしても、なかなかしぶといわね」
呟くリルシャーナに、カコウはこくりと頷いた。
「植物は強いといいますが、あのような強さは御免ですね」
カコウは矢を放つ。祝福の光を携えた矢は、前衛を張る仲間へと降り注いだ。力の祝福を受け、キャスパーの武具の輝きが増す。
「あと少しってところか。気を引き締めて行こうぜ!」
回復魔法を施されるも、度重なる攻撃に攻性植物は徐々に衰弱していた。キャスパーは濡れた地面を疾走する。足元に星空が煌めいた。攻性植物へ急接近し、強烈な飛び蹴りを繰り出す。確かな衝撃が、攻性植物を激しく揺らした。攻性植物が反撃とばかりに蔓を暴れさせる。蔓をホコロビが受け止めることで生まれた隙に、ローレンはにこりと笑った。
「悪足掻きしてるとこ悪いけど、使わせてもらうよ。……躍れ、舞え、狂喜せよ」
放たれた魔力の波紋が攻性植物へと接触する。直後、攻性植物から滲み出した体液が宙を舞い、ローレンへと吸い寄せられた。剣を模ったそれを振るい、攻性植物を斬り捌く。
追い打ちを掛けるように、ニケが竜の幻影を飛翔させた。燃える攻性植物へ噛み付こうと、ミミックが蓋を開く。攻撃を回避されるも、負けじと武器を生み出した。火縄銃を創りだし、攻性植物へと撃ち込む。
「なんだか楽しそうだねえ。攻撃が当たったのが嬉しかったの?」
ニケの問いに、ミミックはぴょこぴょこと跳ねた。
攻性植物は依然として諦める気はないらしい。衰弱しつつも繰り出される攻撃の数々に、ケルベロスたちの体力も消耗しつつある。
ユリアは歌を奏でるように言の葉を囁いた。空間をふわりと満たす美しい音色が、仲間たちを癒す。癒し手を潰さんとするように、攻性植物の蔓がユリアへと放たれた。すかさず陽が間に入り、刀で蔓を受け止める。強い衝撃が身体を伝わるも、決して退くことはない。刀から降魔を解き放ち、受け止めた蔓を喰らわせる。
「ユリア! どこも怪我してないかい?」
蔓を完全に退け、陽は背後のユリアへと振り向いた。視線がぶつかり、ユリアは驚きに一瞬目を見開くも、唇を引き結んで視線を逸らす。
「! ……わたくしのことより、敵の動きに集中してくださいませ」
二人の横で、モリオンがふてぶてしく鳴き声を上げた。攻性植物へと飛びかかり、爪で表面を引き裂く。
「さあ、ラストスパートよ。慎重に、時には大胆に飛ばしていきましょう」
リルシャーナは放出したグラビティから、治療無人機を形成する。無人機は仲間たちの頭上へと移動し、仲間たちを守るように旋回した。攻性植物の攻撃は、守りの力を前に弱まっていく。カコウは己の腕に宿る植物から、無数の蔓を解き放った。
「徹底的に殴ります。そろそろ、諦めてもらいましょうか」
攻性植物へと絡み付かせることで、がっちりと拘束する。てーちゃんが一目散に駆けていき、鉄パイプのような棒でぽこぽこと殴打した。
無言で耐え続ける礼奈の様子を気に掛けつつ、プロデューは再び拳に炎を宿す。
「貴殿に寄生した因子は貰っていく。さあ、我が進化の糧となれ……!」
撃ち込まれた衝撃は、温かな炎だった。激しさこそないが、緩やかに殺す程度に強力な力と熱を有している。その炎は、攻性植物の活動を停止させるには十分だった。
●清めの雨
「身体から攻性植物を引き抜くよ。ちょっと痛いかもしれないけど、我慢して」
ニケは力を失った攻性植物を鷲掴み、礼奈の身体から引き剥がした。引き抜かれた攻性植物は崩れ落ち、消滅する。倒れかけた礼奈を、ニケは優しく抱き止めた。
「礼奈、気分はどうだい。痛いところはないかな?」
ニケの隣で、ミミックも心配そうに箱を傾ける。礼奈は低く唸った。
「うう……頭が、くらくらします……」
軽い貧血を起こしているようだ。ローレンはすぐに礼奈へと治療を施す。顔色の良くなった礼奈は、自分の足で立ち上がった。
「本当にありがとうございました。まさか、こんなことになるなんて……。これから明人と、話そうと思います」
ローレンは首を横に振る。
「礼なんていらない。これも仕事のうちだよ。あ、暴力はあんまり使っちゃだめだよ?」
その言葉に、礼奈はビクリと反応した。
「それは……もしかしたら、我慢できないかも」
眉を寄せる礼奈に、リルシャーナは語りかける。
「それも愛のカタチよね。彼もきちんと話してケジメを付けようとしてる。二人とも、とってもステキだわ」
「素敵、なのかな……」
「もっと自信を持っていいわ。さ、元気を出してよ?」
ふわりと微笑みかけるリルシャーナの横で、モリオンが力強く鳴き、尻尾をぶんぶんと振った。礼奈の表情に、僅かだが前向きな色が宿る。キャスパーは人懐こい笑みを浮かべ、口を開いた。
「なるべく後腐れ無いように、お互いに気持ちを伝えあって円満解決しなくちゃ……きっと出来るよ」
礼奈を送り出すように、プロデューも励ましの言葉を伝える。
「さあ、真っ向から語り合ってくるといい。貴殿らを阻む存在はもういないのだから」
ケルベロスたちに鼓舞され、礼奈はしっかりと頷いた。
「わかりました! なるべく冷静に、頑張ってきます」
明人の元へと歩いていく礼奈の背を眺めながら、カコウはぽつりと呟いた。
「……修羅場になるのでしょうか。なんとか丸くおさまるといいですね」
「まあ、どうなるにせよ、あとは二人次第だね。ボクらの出る幕じゃない」
さっぱりとした声音で話すローレンに、キャスパーは同意する。
「そうだな。結局二人の問題だし、僕達が口を出すのは野暮ってやつだ」
足元のホコロビも、肯定するようにジャンプした。明人と礼奈を遠巻きに見つめながら、プロデューはどこか穏やかに紡ぐ。
「どのような結果が訪れるにしても、彼らは各々の道を進んでいくことだろう」
その言葉にカコウは静かに首を縦に振る。
「そうあって欲しいです。……それにしても、恋とはこうも難しいものなのですね」
任務を無事終えご満悦な顔を表示するてーちゃんを、ぎゅっと抱き締めた。
雨は変わらず降り続いている。雨宿りのために向かった木の下で、ユリアは陽へとタオルを差し出した。
「使っていいの? ありがとう」
陽は受け取ったタオルで雨に濡れた髪を拭った。
「随分と濡れてしまいましたし、風邪を引いてはいけませんので」
嬉しそうに綻ぶ表情を、ユリアは見れずにいる。自分がもし礼奈と同じ立場になったら、と想像してしまった。
「……雨降って地固まるとも言うし、今日をきっかけに彼らが未来へ歩めるといいねえ」
この雨が、すべてを洗い流してくれることを祈るばかりだ。陽のゆるりと流れるような声音に、ユリアは小さく息を付く。
「……そうですわね。生きてさえいれば、何あっても明日は訪れるものですし」
陽からの視線に、心を悟られまいとユリアは瞳を伏せた。
様々な想いを巡らせつつも、ケルベロスたちは無事にオーズの種を撃破し、明人と礼奈を救うことに成功したのであった。
作者:鏡水面 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2016年6月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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