温泉、渓流、そして飛行オーク

作者:一条もえる

「さらに、だ。さらに性能を向上させなくては!」
 薄暗い部屋の中で、白衣の上に紫のマントという奇妙な出で立ちの男が、誰に聞かせるというでもなく声を張り上げていた。
「飛行オークが、天才たる我が輩にふさわしい画期的な発明なのは間違いない! しかしながら、まだまだ性能的には向上せねばならんのだ!
 ……うぅむ、やはり新たな因子を導入しなくては、これ以上は無理か」
 叫ぶような笑うような声を上げていた男が、急に冷静になって顎をなでる。
「オークども! より多くの子孫を生み出すのだ! 行け!」
「ぶひひー! お許しが出たぶひー!」
「我慢しすぎて、触手から汁が漏れるところだったぶひー!」
 喜び勇んでオークどもが飛び出した、その目的地は。
 温泉、である。
 ここは某県某市の山中にある、静かな温泉地。
「いやー、温泉といえば秋か冬って思ってたけど、初夏の温泉もいいもんだねー」
「でしょー? 汗かいてスッキリして、心身ともにリフレッシュですよ!」
「そんなこと言って。あんたの目的は風呂上がりのビールでしょうが!」
「ばーれーたーかー!」
 と、後輩らしいショートボブの女性が舌を出すと、
「あはははは!」
 と、ほかの女性たちもにぎやかに笑った。日頃は仕事に疲れた、OLのグループだろうか。
「景色も最高ー!」
 後輩が、竹垣から身を乗り出して眼下を見下ろした。
「丸見えだぞー!」
「大丈夫ですよー、誰もいませんって!」
 山に囲まれ、渓流にせり出すように建てられた温泉宿だ。竹垣の下は崖になっていて、見下ろせばそこには美しい川の流れが。
「絶景かな絶景かなー♪」
 などと、後輩が慎ましい胸元を露わにしたまま背伸びしていると。
「ぶひー!」
 崖下から現れたのは、2体のオーク! それで終わりではない。上空からも次々と、オークが飛び降りてきたではないか。
「ぶひひひひ! 湯に浸かって上気した肌が、たまらんぶひー!」
 後輩はあっという間に触手にからめ取られて宙づりにされる。
 あそこもここも、隠しようがないではないか!
「いやぁ~ッ!」

「竜十字島のドラゴン勢力による新たな活動は、マッドドラグナー・ラグ博士が生み出した飛行オークによるものです。
 飛行、と言っても滑空するだけで、飛び上がることは出来ないのですが」
 と、セリカ・リュミエールが事件の予知を告げる。
「また、飛行オークか……」
 それと対峙した経験を持つヴィンセント・ヴォルフ(境界線・e11266)が、口をへの字に曲げた。
「事件が発生するのは、谷間にある小さな温泉宿です。
 なかなか評判の宿のようですね……目玉はなんと言っても、渓流を臨んで作られた露天風呂です。見下ろせば渓流、視線をあげれば山の緑が楽しめるという、眺望のよい温泉なんだとか」
 『今のところの予約客』は女性グループばかり。それを知っている女性たちは、大いに羽を伸ばしていることだろうが。
 ただ、4人部屋が一つ空いている。この温泉では日帰り入浴をやっていないため、客を装って近づこうとしたらこの方法が最善だ。
 女湯の隣には、混浴の露天風呂もある。男性が現場に最も近づけるのは、ここだ。
 しかし男性がそこにいると女湯に知れたら、女性客たちは人目を気にして、羽目を外さないかもしれない。そうなるとオークの目につかなくなるかもしれず、男性はおとなしく、女湯の様子に聞き耳を立てるに限る。
「出現するオークは5体のようです。崖下から2体ほど現れたようですが、もしかしたら着地点の目測を誤ったのかもしれません。触手を使って登ってきたのでしょう。
 なんにせよ、撃破するしかありません」

「あんなものは、魔術の理を破って生み出された代物だ。滅ぼすしかない。
 ……女湯も、心配だしな」
 と、ヴィンセントは腕組みをした。


参加者
エイダ・トンプソン(夢見る胡蝶・e00330)
レイ・フロム(白の魔法使い・e00680)
エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)
アニエス・ジケル(銀青仙花・e01341)
アルメイア・ナイトウィンド(星空の奏者・e01610)
ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)
アーティラリィ・エレクセリア(闇を照らす日輪・e05574)
宵華・季由(華猫協奏曲・e20803)

■リプレイ

●賑やかに姦しく
 梅雨の晴れ間。
 快晴とはいかないまでも、昨日まで重くのしかかっていた雲には晴れ間が見え、山峡には日が差し込んでいた。
「はぁ~♪ やっぱりお風呂は、命の洗濯ですねぇ~」
 首まで深く風呂に浸かったエイダ・トンプソン(夢見る胡蝶・e00330)は完全に蕩けきった顔で、大きく息を吐いた。
 泉質はアルカリ性の単純温泉、そっと腕をなでてみれば、すべすべとした手触りが心地よい。
「ほんとうだ、すべすべですね!」
 アニエス・ジケル(銀青仙花・e01341)が横によってきて、腕だの背中だのをなでる。
「あは、あはは! くすぐったいですよ。
 そういうアニエスさんだって……まぁ、もともとぷにぷにの玉子肌ですけど……もっとすべすべつるつるになりますよー!」
 と、お返しになでなでなで。アニエスは歓声を上げ、身をよじった。
「きゃー!」
「おぉ、絶景じゃ絶景じゃ! 見よ、山の緑が鮮やかなこと!」
 アーティラリィ・エレクセリア(闇を照らす日輪・e05574)は竹垣から身を乗り出し、山を指さす。
 見下ろせば渓流。昨日まで降っていた雨のせいで、水量は多い。その水音がここまで響いている。川岸に異なる色彩が見えるのは、色とりどりに咲く紫陽花だ。
「はしゃぐのはいいですけど、転ばないようにしてくださいよ?」
 と、バスタオルを巻いたエレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)が微笑んだ。
「実は私、温泉って初めてなんですけど……こんなところなら開放的な気分になるのも、わかりますねー」
 と、洗い場の椅子に腰掛けて手桶に湯を張る。宵華・季由(華猫協奏曲・e20803)のウイングキャット『ミコト』はされるがままに、手桶の湯に浸かって目を細めていた。その肉球を撫でさすりつつ「可愛いですよねぇ」とエレも目を細めると、ミコトは「にゃあ」と応じてみせた。
「エレさん。湯船に浸かるときには、タオルは外すんですよ」
「ほう……余の裸体を白日の下にさらせ、と。
 そして、お主との差を思い知れというのかッ!」
 アーティラリィがエイダの胸元をジ~ッと見つめつつ、半ば冗談、半ば本気で叫んでみせた。
「ちょ、ちょっと。あんまりジッと見ないでくださいよ」
「タオルも駄目っていうのは、少し恥ずかしい気もしますね」
 などというエレを横目に見つつ、
「お主だって、その齢の割には……余など、しょせん若作りのロリバ……うむ。いずれは萎れていくだけよ」
 と、悲しげに微笑む。
「アーティラリィさんも、すべすべですよ?」
 小首を傾げるアニエスに、
「ふふ、アニエスよ、せめてお主だけはそのままのお主で、純粋でつるんぺたんなままであってくれ!」
 などと言いつつ。
「まだ6歳なんですよ? 前半はともかく後半は呪い……って、胸をもまないでくださぁいッ!」

●はたして、囮となるか
 きゃあきゃあという女性陣、特にエイダの声がここまで響いてくる。
「なんだか楽しそうだなぁ~。いいなぁ~。俺も一緒に入りたいな~」
 と、女湯に聞き耳を立てつつルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)はうなだれていた。黒豹の獣人だが、その様はまるでお預けを食った犬だ。
「……なかなかストレートな欲求を口にするな、ルアは」
 季由は女湯の様を思い描いたりしつつ……いやいや、慌ててかき消す。あの面々は見知った仲だ。魅力的でないとは言わないが、それ以上に仲間としての頼もしさ、そして……恐ろしさもよく知っている。
 そんな妄想をしていたことが知れたら、どんな目に遭うか。
「彼女らに助けが、必要かな?」
 と、レイ・フロム(白の魔法使い・e00680)は笑った。長い髪を結い、女湯の隣にある混浴に浸かりながら聞き耳を立てているのだ。
「せっかくだ。日頃の疲れをとりつつ、待ちかまえよう」
 と、温かな湯に身をゆだねる。季由など線が細いから、こうしていると遠目には女の子に見えてしまうなぁ、などと思いつつ。
 ざわざわと落ち着きがなかった旅館の方で、にわかに大声がした。
「ええええええッ! お風呂、入れないのぉッ?」
「悪いな、ちょいと今、取り込み中だ」
 アルメイア・ナイトウィンド(星空の奏者・e01610)は現れた数人の女性客、頓狂な声を上げたショートボブの女性に近づくと、少しも悪いとは思っていない口振りで前に立ちはだかった。
「えー? 温泉宿に来て温泉に入れないとか、ありえなくないですか?」
「いいから、ここは引き下がってくれ」
 ウインクを飛ばすと、その雰囲気に呑まれたのか女性たちは「しょうがないかなぁ」などと言いつつきびすを返した。いくぶん、不承不承ではあるが。
「やれやれ……」
 女性客を守るため、女湯を貸し切りにできれば話は早かった。エイダがその魅力を最大に押しだし、交渉したのであるが。
 なにせ温泉が魅力の……というより、他には何もない温泉宿。小さいとはいえ、客室はほぼ予約でいっぱいだったのだ。多くの客を捨てるような選択を、宿ができるはずもない。
 目的は、女性客を危険から遠ざけることだ。それを実行するためには、宿に事情を知られても致し方なかった。
 ルアたちはやむを得ずそれを覚悟し、キープアウトテープを出入り口に張って余人を立ち入らせないようにした。
 ただし、問題もある。宿がざわめいているのはそのせいだ。事情はまもなく、従業員ばかりか先ほどの女性客たちにも知れるだろう。もしかしたら、危険を感じて宿をあとにしてしまうかもしれない。
 彼女らよりも、女湯ではしゃぐ……ふりをしている仲間たちの方を、オークがめざとく見つけてくれることを祈るしかないのである。
「……さっさと来やがれ、オークども」
 アルメイアは苦虫を噛み潰した顔で、呟く。いそいそと、服を脱ぎながら。

●欲望のままに
 幸運は味方した。あるいは、彼女らは非常に魅力的だった。
「ぶひひひひ~!」
 竹垣が揺れ、崖下から登ってきたとおぼしきオークが飛び出してきた!
「上気した肌がたまらんぶひ! 見ろ、いい女ぶひ! お前どっちを選ぶ?」
「両方ぶひッ!」
 現れた2匹は飛沫をあげて湯の中に飛び込み、エイダと、足を湯に浸けて縁に腰掛けていたエレとに向かって触手を伸ばしてきた。
「ぶひひひひ~、思わず汁が漏れるぶひ!」
「こっちに、来ないでくださいッ!」
 バスタオルをはねのけたエレ。
 叫ぶと同時に御業を繰り出し、下卑た笑みを浮かべて覆い被さろうとしていたオークが鷲掴みにされた。
 彼女らなら心配ご無用。
「残念。我らは水着着用じゃ!」
 アーティラリィもバッとタオルをはねのけた……のはいいが。ど~してそれを選んだのか? 彼女が身につけているのは、古めかしい紺のスクール水着。ご丁寧に、『あてぃ』なんぞと名札までついている。
「ふふふ、凹凸の少ない身体にはよく似合うじゃろうが! ぐぬぬ!」
「ぶひ。確かに薄っぺらい胸板ぶひ」
「ぶひぃ……巻き付けたい気持ちが毛ほども起こらんぶひ」
「やかましいわ! 自覚はしておるが、言われるのはムカつく! 焼き豚にしてくれるぞッ!」
 全身で陽光を受け止め、それを一筋の熱線に束ねてなぎ払う。頭のヒマワリから放たれたそれに、オークどもは悶絶して焦げ臭い臭いをたてた。
「おのれ、ケルベロスぶひ!」
 上空から3体の新手が降ってくる。
「女湯を覗くなんて、しちゃいけないこともわからない奴は俺たちが成敗だ!」
 こちらも、混浴との境になった竹垣を突き崩しルアが飛び込んできた。
 女性陣には目もくれず、獣化した拳を振り上げ、新手の土手っ腹にぶち込んだ!
「見たか! 俺は黒豹、ブラックパンシャ……!」
「パンシャ……ぶひ?」
「うるさい、パンサーだッ! 着地し損ねて崖下に落ちてたような奴に言われたくないッ!」
 バツが悪かった腹いせに、ルアは怒鳴る。
「いまコロスから、逃げんなよ!」
「ぶ、ぶひ~ッ!」
 哀れと言えば哀れだが。『怒りの咆哮』、それを宿した拳を叩きつけられ、オークは灯籠を薙ぎ倒しつつ吹き飛ばされた。 
 その隙に、エイダとアニエスら女性陣は衣服を身につける。
 新手の1体はそこを……エイダを狙って触手を伸ばしてきたが、
「あぶない!」
 アニエスが間に割って入り、触手を受け止めた。触手の1本を握りしめ、力比べの様相を見せる。そこに、残りの触手まで迫ってくるが。
「それ以上、アニエスには触れさせない」
 絵面がまずいからな、と呟いたレイが召喚した『氷結の槍騎兵』が突撃し、蠢く触手を刺し貫く。
「ぶひぃッ!」
 オークは悲鳴を上げ、汚らしい体液をまき散らした。
「ぶひぃ~ッ! 濡れた身体にまとわりつく布きれが、また触手を固くさせるぶひ~ッ!」
 衣服を纏ったとはいっても、あくまで戦闘に耐えうる装備を身につけただけのこと。タオルで身体を拭いている暇などないし、スカートは諦めた。シャツのボタンだってひとつふたつ留めただけ。
 濡れたシャツをよく見てみれば、小さな突起が……。
「ちょっと……恥ずかしいですってば!」
 湯気に混じって、色とりどりの爆発が起こる。エイダの『ブレイブマイン』に仲間たちは勇気づけた。一度だけではなく、何度も。
「見てない! 見に来たわけじゃない! 俺たちには女性をしっかり守る使命があるからなんだ!」
 季由は視界に、特にエイダをあまり入れぬようにしつつ、ヒールドローンを展開する。
「なにやってるんだか……」
 呆れたように呟きつつ、アルメイアも駆けつけた。
「チッ、現れたのは量産型ばかりか」
 宿敵であるラグ博士は、高みの見物なのであろう。苦々しく呟いたがすぐにオークどもに向き直り、
「まぁいい。量産型どもから、まとめて地獄に送ってやる!」
 ギターを振り上げる様にも、達人の趣がある。アルメイアは一気に距離を詰め、脳天にバイオレンスギターを叩きつけた。
 すでにエレの拳、アーティラリィの熱線を浴びて満身創痍となっていたオークは、大の字になって倒れた。
「おのれ、ケルベロスども! 俺たちのたぎる触手、思い知るがいいぶひッ!」
「ぶひ~ッ!」
 残った4体のオークは手傷を負った者もいまだ活力あふれる者も、そろって怒声をあげて襲いかかってきた。
 叩きつけられる触手から仲間を庇ったアニエスと季由とが、吹き飛ばされる。
「まけませんよ!」
 それでも気丈にアニエスは立ち上がり、オーラを溜めて傷を癒していく。
「いい感じに湿って火照ってむちむちのメスと、組んず解れつ触手を巻き付けたいぶひ~ッ!」
 オークどもは欲望にまみれた雄叫びをあげつつ、さらに襲い来る。

●ぽろり
「ぶひぃッ!」
 立て続けに放たれる、何ともいえない悪臭のする粘液。それがオークどもの触手から放たれ、女性陣に降り注いだ。
 激しい痛みとともに皮膚が焼かれる……だけでなく、
「げ、なんだこれ、ちょっと待っ……! ストップ、スト~ップッ!」
 武装に影響はないが、服は、あるいは水着は溶けてしまったではないか!
 アルメイアは溶けて切れてしまった肩紐を慌てて結び直すが、残った布地の面積は微々たるもの。
「きゃあッ!」
 アーティラリィも、存外に愛らしい悲鳴を上げてへたりこんだ。
「ふむ……やはり大きいな」
「見入ってる場合じゃないでしょうッ!」
「や、すまない。そんなあられもない姿を見せられたら、サキュバス的なマインドが反応するのは致し方ない」
「サキュバス言い訳にしてませんか、それ?」
 エイダもまた、シャツを溶かされている。熱い視線をそちらに向けていたレイだが、気を取り直してその身に宿した御業で炎を撃ち出した。
「邪魔するな、ぶひ!」
 反撃に放たれた溶解液が、庇った季由に浴びせられる。幸い、傷は浅いが……。
「きゃー!」
「きゃ~ッ!」
「きゃああああッ♪」
「だれだ歓声上げた奴は!」
「恥ずかしがってる場合じゃないよキュンキュン!」
 ルアは溶け落ちた水着を押さえる季由に向かって叫び、自身は構えたバスターライフルから放った光線で、自身が幾度も攻撃をたたき込んだ1体に止めを差した。
 そう、躊躇している場合ではないのだ。見えてたって、ぶらぶらしてたって……たいしたことあるものかぁッ!
 季由は水着を押さえていた手を拳に変えて、オークに叩きつけた。
 雄叫びの効果もかき消えたオークに、エイダの放った『トラウマボール』が襲いかかる。
「まな板は、まな板は勘弁するぶひ! 骨が当たって痛いからッ!」
「何を思い出してるんですか……まぁ、リラックスタイムを邪魔した罰だと思ってください」
 オークは頭を抱えたまま、フラフラと下がろうとする。
「逃がさないよ」
 レイの掌から放たれた超重力に捕らえられ、ブジュッと音を立てて押しつぶされた。
 残るは2体。だが、仲間が倒れたところで感傷的になるオークどもではない。なおも触手を振り上げて襲いかかってくるが、
「いたいところ、アニエスがかいふくします、ね!」
 光の粒が仲間たちに降り注ぎ、傷を癒していく。
「回復なら、余も黙っているわけにはいくまいよ」
 オーロラのような光が辺りを包んだのは、アーティラリィの『オラトリオヴェール』だ。溶解液によってケルベロスたちを蝕む毒が、かき消されていく。
 その間、アニエスのテレビウム『ポチ』は、主を守るべく身構えていた。 
 その支援を受け、ケルベロスたちは次々と打ちかかる。
 エレが、飛び込む!
「それは、夢か現か幻か……見えぬ真実に翻弄されて、惑い、儚く散れッ!」
「な、何が起こっているぶひ?」
 深い霧が、オークを包む。視界が遮断された霧の世界で、幻影がオークを襲う。そして打ち倒した。逃げ場など、ありはしないのだから。
「ぶ、ぶひ……。きょ、今日のところは出直すことにするぶひ。
 なんだかここは、思ったほど触手がたぎるメスがいなかったぶひ? きっと向こうの方に、もっと触手汁がにじみ出そうなメスがいるぶひ!」
 オークはおびえ、ジリジリと後ずさりを始めたが。
「待ちやがれ」
「ぶひ!」
 背後から、アルメイアが方をガシッと掴んだ。
「寝言言ってんじゃねーぞ、微塵に砕けろ、ド腐れめッ!」
 ギターを激しくかき鳴らすと、大きくそれを振りかぶって。
「ビキニをマイクロにしてくれた礼だ! 死ねぇぇぇぇいッ!」

「いいなー、やっぱり俺もあっち行きたいなぁ」
 ルアがバシャバシャと、水を蹴る。ヒールで修復された垣根は『眠れる森の美女』さながらの、茨のような彫刻が施された堅牢な代物となり、まるでそれが、ふたつの風呂を隔てる心理的な壁のようでもあった。
 あちらでは女性客も加わり、先ほどに増して賑やかである。歓声が、絶え間なく聞こえる。
「少し恥ずかしいが、こっちに来ないかどうか、誘ってみようか?」
 と、レイは笑ったが。
「もういいよ、見るのも見られるのも……」
 季由は呟き、頭まで湯に沈めた。

作者:一条もえる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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