宿縁邂逅~愉悦のグリズル

作者:ゆうきつかさ

●某県某所
「はじめまして、それがし、螺旋忍軍、アダムス男爵と申すものです」
 死神・愉悦のグリズルの前に現れたアダムス男爵は、不敵な笑みを浮かべると深々と頭を下げた。
 アダムス男爵は螺旋忍軍に属している謎多きデウスエクスで、御門・愛華(落とし子・e03827)の宿敵。
「……で、その螺旋忍軍がアタシに何の用だい? くだらない事だったら……、殺すよ!」
 愉悦のグリズルがイラついた様子で大鎌を構える。
 狩の途中でアダムス男爵が現れて邪魔をされてしまったため、とにかく切り刻みたい様子である。
 そのため、話の内容によっては、アダムス男爵の頭と胴が、離れ離れになるような事態も十分に考えられる事だった。
「まあ、とにかく話を聞いてください。我々デウスエクスは、それぞれ、味方同士というわけではありません。しかし、共通の敵は存在いたします。そう、その邪魔者とはケルベロスです! 地球侵攻の邪魔者であるケルベロスを殺害或いは捕縛する事ができれば、地球での戦いを有利に運ぶ事が出来るでしょう」
 アダムス男爵が胡散臭い笑みを浮かべる。
 それが愉悦のグリズルの機嫌をさらに損ねたのか、アダムス男爵の首元に大鎌が当てられた。
「だから、何っ? そんな事は分かり切っている事なんだけど! まさか、そんなくだらない事を言うため、アタシの前に現れたのかい?」
 愉悦のグリズルがイラついた様子で叫ぶ。
 アダムス男爵の話にまったく興味がないのか、首を刎ねる気満々のようである。
「まあまあ、落ち着いてください。私の首を刎ねるのは、せめて話を聞いてからにしてくれますか?」
 それでも、アダムス男爵がまったく動揺する事無く、愉悦のグリズルに語り掛けていく。
「前置きはいいから、早く本題をいいなよっ! これ以上、話を長引かせるつもりなら、首を刎ねてインテリアにするけど……? その覚悟は……出来ているのかい?」
 愉悦のグリズルが含みのある笑みを浮かべる。
 既に頭の中では、アダムス男爵の首を刎ねるところまで考えているらしく、その事に興味が移りつつあるようだ。
「とあるヴァルキュリアについての情報……と言えば分かりますね? その相手に関する情報を提供しますので、確実に始末してください」
 アダムス男爵が愉悦のグリズルに視線を送る。
「そんな事……、言われなくたって、殺ってやるよ! 何だか妙に引っかかるところもあるけど、互いの利益が一致したって事で、理解しといてやるか。そんな事よりも、獲物を狩る方が大事だしね」
 そう言って愉悦のグリズルが不気味な笑みを浮かべて、舌舐めずりをするのであった。

●路地裏
「アハハハハッ! 見つけたっ! 見つけたよォ! 久しぶりだね、アンネちゃん! アンタの命を狩るため、遥々やってきたよォ!」
 愉悦のグリズルが高笑いを響かせ、路地裏を歩いていたアンネ・クラージュ(輝盾のアスラージュ・e24521)の前に降り立った。
「……たく。今日は厄日だ」
 アンネがけだるそうにしながら、深い溜息をもらす。
 朝から嫌な予感はしていたが、まさか一人でデウスエクスに遭遇するとは、夢にも思わなかったようである。
 しかも、遭遇した場所が路地裏で、目の前は行き止まり。
 結果的に逃げ道を塞がれているような形になっているため、戦う以外の選択肢が残されていなかった。
「ウフフッ! イイ顔をしているじゃないか! でも、安心しなっ! きちんと人払いはしておいたから! 何の心配もなく殺り合う事が出来るって事さ。それに、アタシらの戦いに、ギャラリーなんていらないだろ? アタシなりに気を利かせてやったんだから感謝しなっ!」
 愉悦のグリズルが上機嫌な様子でニヤリと笑う。
 よほどアンネに会えたのが嬉しかったのか、無駄にテンションも高めである。
「……で?」
 それとは対照的に、アンネが冷めた様子で口を開く。
「傷が疼くんだよ。アンタを殺れ、殺ってくれってね! だからアンタの首を刎ねて、インテリアにしてやるよ! 天井から吊るした方がいいかい? それとも、棚に置いた方がいいかい? そのくらいは選ばせておやるよ。アタシは優しいからね。それじゃ、さっそく殺り合おうじゃないかっ! アハ、アハハハハッ!」
 次の瞬間、愉悦のグリズルが狂ったように笑い声を響かせ、アンネめがけて大鎌を振り回し、強力な一撃を与えるのであった。

●ヘリオライダーからの説明
「アンネ・クラージュ(輝盾のアスラージュ・e24521)さんが、宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けることが予知されました。急いで連絡を取ろうとしたのですが、連絡をつけることは出来ませんでした。一刻の猶予もありません。アンネさんが無事なうちに、なんとか救援に向かってください」
 ヘリオライダーの女性が、ケルベロス達を前にして、今回の依頼を説明し始めた。
「アンネさんがいるのは、とある町の路地裏です。宿敵であるデウスエクスは大鎌を振り回し、カマイタチ状の衝撃波を飛ばしてきます。この攻撃は掠っただけでも、服が切れてしまうほどの破壊力があるので注意しておきましょう」
 そう言って、ヘリオライダーの女性が、険しい表情を浮かべる。
「アンネさんを無事に救出し、ケルベロスを襲撃しても無駄だという事を敵にわからせてあげてください」
 そして、ヘリオライダーの女性が、アンネの救出と宿敵の退治を、ケルベロス達に依頼するのであった。


参加者
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)
レンチ・マーラ(慾・e03391)
鈴木・犬太郎(超人・e05685)
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)
アンネ・クラージュ(輝盾のアスラージュ・e24521)
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)
流・優月(止まない雨・e27709)

■リプレイ

●路地裏
「アハハハハッ! イイ顔ッ! それよ、それ! アタシが求めていたのは、その顔ッ! でもねぇ……、すぐには殺さないよォ! 優しいだろ? 優し過ぎて、涙が出るだろォ? もしかすると、震えが止まらないほど、感動しているのかい? ほらほら、遠慮せずに泣きなよっ! 地面に頭を擦り付けて、命乞いをしたら、どうなんだい? そうしたら、見逃してやっても……いい訳ないだろうがッ! アンタが泣き叫び、命乞いをしながら、 惨めったらしく逃げ回る姿を見ながら、ジワリジワリと痛めつけてやるんだからッ! もう想像しただけでも、ゾクゾクするねぇ! あの時とは立場が逆ッ! アンタもこんな気持ちで、アタシを追い詰めていたのかい? だったら、余計に苦しんでもらわなきゃ、アタシの気持ちがスッキリしないんだよォ!」
 死神・愉悦のグリズルが殺気立った様子で、狂ったように大鎌を振り回す。
 彼女にとって、アンネ・クラージュ(輝盾のアスラージュ・e24521)は宿命のライバルであり、倒すべき相手。
 それ故に、手加減するつもりはないようだが、すぐに殺すつもりもないようだ。
 おそらく、過去の恨みを晴らすため……。
 今まで苦しんできた分の痛みも、アンネに喰らわせるつもりでいるのだろう。
「お前に奪われた右腕が今でも疼いて止まない。あの日の事は今でも夢に見る。……決着をつけよう。お前との因縁も、拭えぬ悪夢とも、ここでお別れだ」
 アンネ・クラージュ(輝盾のアスラージュ・e24521)が両腕を組み、ブラックスライムを腕の形に変形させ、愉悦のグリズルに反撃を仕掛けていく。
「アハッ、アハハハハッ! この期に及んで無駄な事を……。いまさら足掻いたところで死期が伸びるだけなのに……。そこまでして生きたいのかい? それとも、アタシにいたぶって欲しいのかい? まあ、どっちにいたって、死ぬ事に変わりはないんだけどねぇ! アハハハハハハハハハハハハッ!」
 愉悦のグリズルが不気味な笑い声を響かせ、大鎌を力任せに振り回す。
 そのたび、腕の形をしたブラックスライムが肉片と化したが、すぐに再生して再び愉悦のグリズルに殴りかかってきた。
「へぇ……、思ったよりも、やるじゃないか。まあ、アタシから言わせてもらえば、無駄な足掻き……いや、無駄過ぎる足掻きだけどね! それでも、そうやって頑張っているアンタも嫌いじゃないよっ! ……待ってな。もう少ししたら、首を刎ねてインテリアにしてあげるからァ!」
 愉悦のグリズルが歪んだ感情をあらわにしながら、再び大鎌をブンブンと勢い振り回し、アンネをジリジリと追い詰めていく。
 それでも、アンネは怯む事なくブラックスライムを使って、愉悦のグリズルと戦いを繰り広げるのであった。

 一方、その頃……。
「死神は死を冒涜する存在じゃからのぅ。どうにもいけすかぬ連中であったが、このような邪悪を働くとは断じて許せぬな!」
 アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)は仲間達と共に、ヘリオライダーの女性が言っていた住宅街に到着し、何処かにいるはずのアンネを捜していた。
 一応、ある程度の場所はわかっているのだが、そこから場所を移動してしまったのか、二人の姿は見当たらない。
 だが、この辺りにいる事は、間違いないだろう。
「きっと、その人にしかわからない色々な想いが、あるはず。僕には、それをぶつける手伝いくらいしか、できないけれど……。ううん、応援も、できるね」
 流・優月(止まない雨・e27709)が仲間達に声を掛けながら、警戒した様子で辺りを見回した。
 辺りにはまったく人の気配がなく、ゴーストタウンと化しているような印象を受けた。
 おそらく、愉悦のグリズルが何らかの方法で、人払いをしているのだろう。
 色々と気になるところもあるのだが、今は考えているだけの時間はない。
 こうしている間も、アンネが愉悦のグリズルに襲われ、少しずつ命を削られているのだから……。
「ええ、かわいいコのピンチだものね。それに、かわいい女の子が傷つけられてしまうなんて地球規模の損失よ。ケルベロスの宿命とはいえ、殺伐としたのはいただけないわ。不肖レンチ、力いっぱい助力させてね」
 レンチ・マーラ(慾・e03391)が、ニコッと笑って答えを返す。
 ざっと調べただけでも裏路地の数が多いため、手当たり次第に調べていったのでは、手遅れになってしまう可能性が高かった。
「まずはアンネを回復しないとな。今回の敵は手強そうだから、気張っていかねぇと……」
 鈴木・犬太郎(超人・e05685)が何かに気づいた様子で、上空に視線を送る。
 その視線の先にあったのは、アンネが放ったと思しきフレイムグリードの炎弾。
「あ、あれは……!」
 ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)もフレイムグリードの炎弾に気づき、アンネの居場所を特定した。
 すぐさま、ファルゼンが仲間達を引き連れ、アンネがいる場所に向かう。
 そこには、愉悦のグリズルと、傷ついた状態のアンネがいた。
「あの方が……アンネさんの因縁の宿敵さん。……ともかく今は、アンネさんを助けなきゃです……!」
 アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)が、ハッとした表情を浮かべる。
「アハハッ! いまさら来たって手遅れさ!」
 愉悦のグリズルが邪悪な笑みを浮かべ、大鎌を振り下ろそうとした。
 次の瞬間、ファルゼンが上空から落下し、稲妻突きのスピードで割り込んだ。
「……って、せっかくアタシらだけで楽しんでいたって言うのに、邪魔をするのかい? これはアタシとコイツの問題……。部外者は消えなッ!」
 愉悦のグリズルがイラついた様子で、叫び声を響かせる。
「貴方とアンネさんにどんな因縁があるのか知らないけど……、アンネさんはやらせない……!」
 それと同時に、シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)が光の翼で飛来し、マインドシールドを使うのだった。

●愉悦のグリズル
「ぐぅ、正義の味方が一人のところを狙うとは何たる邪悪! しかし、そういう相手でこそ我が正義が輝くというもの! 邪悪なる存在よ! 我が正義の鎌にて黄泉路に送ってやるから、念仏でも唱えるのじゃな!」
 アデーレが光の翼をバックに、ビシィッとポーズを決める。
「……って、何を言ってんだい! 死にたくなかったら、あっちに行けって言っているんだよ! あー、ヤダヤダ。これだから空気が読めないヤツは嫌いだよっ! とりあえず、コイツを殺ったら相手をしてやるから、それまで待ってな!」
 愉悦のグリズルが鬱陶しそうにしながら、吐き捨てるようにして呟いた。
「……グリズルさん。アンネさんと、どんないきさつがあったのか、わかりませんけど……アンネさんをむざむざ殺させはしません……!」
 そう言ってアリスが愉悦のグリズルに攻撃を仕掛けていく。
「だったら、余計にお呼びじゃないよッ! こっちはせっかく見つけた獲物を狩っている最中なんだっ! 邪魔をしないでもらえるかい!」
 愉悦のグリズルがまったく興味がない様子で、アリスの攻撃をギリギリのところで避ける。
「……まったく、こんなに可愛い女の子を傷つけるなんて宿敵とはいえ罪深いわねえ。さぁ、ケルベロスのゆうじょうぱわーで反撃よ♪」
 レンチが仲間達に声を掛けながら、アンネにマインドシールドを飛ばす。
「何が友情パワーだ、反吐が出るッ! だったら、アタシも本気を出すとしようかねぇ。それに、目の前で仲間達が殺されたら、コイツがどんな表情を浮かべるのか、ちょっと興味が湧いてきたしねぇ」
 愉悦のグリズルが思わせぶりな態度で、大鎌をペロリと舐めた。
「何だか殺気立っているようだが、俺は手を出すつもりはない。だから俺にできるのはお膳立てだけだ。……宿敵なんだろ? だったらテメェの手でケジメをつけろよ、『輝盾のアスラージュ』!」
 犬太郎が愉悦のグリズルを牽制しながら、アンネにサッと視線を送る。
「アハハッ! 分かっているじゃないかッ! でもねぇもう遅いよッ! 手遅れさァ! みんなブチ殺してやるから、覚悟しなッ!」
 愉悦のグリズルが殺気立った様子で、大鎌をキラリと輝かせた。
「私の役目はみんなを守る事……! 誰一人、貴方にはやらせないよ!」
 すぐさま、シルヴィアが仲間達を守るため、紅瞳覚醒を発動させる。
「あらあら、勇ましい事。でもねぇ、無駄、無駄、無駄よッ! だって、アタシは強いモノ」
 愉悦のグリズルがニヤリと笑って、ジリジリと距離を縮めていく。
「みんな、下がって。まだ、やれるから……」
 アンネが再びブラックスライムを腕の形に変化させ、愉悦のグリズルに攻撃を仕掛けていく。
 それを援護するようにして、ファルゼンが愉悦のグリズルを牽制した。
「アハハッ! いいね、いいねぇ、その目だよッ! それでこそ、アタシの宿敵ッ! 殺すのに相応しい相手ッ! でもねぇ、ギャラリーが邪魔だよッ! 目障りだ! まずはアンタらの首から刎ねてやろうかねぇ!」
 愉悦のグリズルが品定めをするようにして、シルヴィア達に鋭い視線を送る。
「だったら、僕らも、手は抜かない」
 そう言って優月が自らの身を守るため、愉悦のグリズルにスターゲイザーを放つのだった。

●戦い
「……たくっ! 大人しく死んでくれりゃ、こっちの手間も省けるっていうのに……。そこまでして、コイツが大切なのかねぇ」
 愉悦のグリズルが信じられない様子で愚痴をこぼす。
 彼女にとってアンネは、そこまでの価値がないと思っているため、どうしてそこまで仲間達に大切にされているのか、まったく理解する事が出来ないようである。
「グリズルさん……、なぜそこまでアンネさんを執拗に狙おうとするのですか……?」
 アリスが気咬弾で牽制しながら、愉悦のグリズルに問いかけた。
「……ふんっ! そんな事を知ったところで、どうするんだい? 復讐は良くない、必ず分かり合う事が出来るって、涙を流しながら説得でもするつもりじゃないだろうねぇ。だったら、余計にイラつくんだけど……!」
 愉悦のグリズルがムッとした表情を浮かべ、アリスに大鎌を振り下ろす。
「なかなかの腕前のようじゃが、わらわからすればまだまだじゃな。わらわが鎌の真に格好良くて素敵な使い方を冥土の土産に教えてやるから、とくと味わうのじゃ!」
 それを迎え撃つようにして、アデレードがブレイズクラッシュを使う。
「どいつもこいつも邪魔ッ! 邪魔ッ! 邪魔ッ! どうして、みんなで邪魔をするんだい!」
 愉悦のグリズルが殺気立った様子で、大鎌をブンブンと振り回す。
「ついでに俺達も殺すつもりでいるんだから当たり前だろうがッ!」
 犬太郎が間合いを取りつつ、デストロイドブレイドを放つ。
「アハハッ! これでもアタシなりの優しさだよォ! お友達の首を並べた方が、アンネも喜ぶと思うしねぇ!」
 愉悦のグリズルが狂気に満ちた表情を浮かべ、アンネをジロリと睨みつけた。
「アンネさんは、やらせない……!」
 すぐさま、シルヴィアが雷刃突を仕掛け、愉悦のグリズルを追い詰めていく。
「……うぐっ! もう少しで殺れるところだったのに……」
 愉悦のグリズルが後悔した様子で唇を噛む。
 こんな事になるのであれば、一思いに殺っておけば良かった、と思ったが、それでは気持ちも晴れないだろう。
 それが分かっているせいか、だいぶイライラとしており、冷静さを失っているようだった。
「それは……うぬぼれね」
 ファルゼンがボクスドラゴンのフレイヤと連携を取りつつ、愉悦のグリズルにデストロイブレイドを放つ。
「アハハハハッ! 誰もアタシは止められない! コイツを殺るまで、アタシは死ぬ訳には行かないのッ! 絶対に……、どんな事をしても……!」
 愉悦のグリズルが両目を血走らせ、叫び声を響かせる。
「……そこまでよ」
 それは一瞬の出来事だった。
 アンネが一瞬の隙をつくようにして、腕に変化させたブラックスライムで大鎌を弾き飛ばし、もう片方の腕で愉悦のグリズルの首を掴んだ。
「うくっ……!」
 迂闊に動けば、その先に待っているのは、確実な死。
 それが本能的にわかってしまったため、愉悦のグリズルは嫌な汗が止まらなかった。
「は、早く殺りなよっ! 勿体ぶらずにさァ! それとも、何かい? 恐怖に歪む顔を見ながら、アタシが命乞いをするのを待っているんじゃないだろうねぇ! だったら、アタシは死ぬ事を選ぶよ!」
 愉悦のグリズルが声を震わせながら、精一杯強がった。
「どうするかは、任せるよ」
 優月が何やら察した様子で視線を逸らす。
 愉悦のグリズルは既に戦意を喪失させているものの、油断は禁物。
 場合によっては、反撃のチャンスを窺っている可能性もあるため、目が離せない。
 他の仲間達もトドメはアンネにトドメを任せるつもりでいるらしく、誰も優月の考えに反対をしなかった。
「嬉々として刃を振るっていた、あの頃の私は死んだ。今の私の戦いは、仲間を守る事だ。だからトドメはささない」
 アンネが愉悦のグリズルを解放し、腕の形をしたブラックスライムを元に戻す。
「……はぁ!? 何を言っているんだい、アンタはッ! それでアタシに恩でも売ったつもりかい? ば、馬鹿にしやがって! 絶対に……絶対に……許さないッ! アタシを助けた事を後悔させてやるッ!」
 そう言って愉悦のグリズルが拾い上げ、その場から走り去っていく。
「みんな、お疲れ様。これで……いいのよね?」
 レンチが仲間達に確認するようにして、ゆっくりと視線を送る。
 この選択が正しかったのか、間違っていたのか、現時点では分からない。
 しかし、愉悦のグリズルの心に、何らかの変化を与えた事は間違いだろう。
 それがアンネにとって、プラスになるか、それともマイナスになるのか、その答えが出るのは、ずっと先になりそうだが……。
「……私にも、いつかは……因縁の方が、現れるのかな……?」
 そんな中、アリスが物思いに耽る。
 ふと、遠くに、日傘を差した女性の姿を見た様な気がした。
 そして、ケルベロス達はシルヴィアの歌を聞きながら、その場を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月16日
難度:普通
参加:8人
結果:失敗…
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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