「はじめまして、それがしアダムス男爵と申すものです。所属は……」
「派が違うとはいえ御互い螺旋者、必要ないでしょ」
知る人ぞ知る夜の酒場で、男が男に話しかけていた。
一人はシルクハットにモノクロームを駆けた、古めかしい姿。
いま一人も瀟洒なスーツを着崩し、剣を傍らに、ワインを傾けて居ると在っては中世の映画のようではないか。
もっとも剣を抜いてない事には意味はなく、その意味ではガンマン映画の方が近いだろう。
「我々は忍軍に所属するとはいえ、決して味方同士というわけではありません。しかし、共通の敵は存在いたします」
「荒事は苦手なんだけどなァ。一派が違えど、何か取ってこいっていうなら報酬次第で受ける事もあるけどね」
シルクハットの男は、剣士の言葉を予想していたのか、我がことを得たように頷いた。
結局、回答を調べてから応えを聞いただけに過ぎないのだろう。あるいは上部組織との取引が済んで居るだけかもしれないが……。
「殺すだけが目的でも無い。地球侵攻の邪魔者であるケルベロスを殺害或いは捕縛する事ができれば、地球での戦いを有利に運ぶ事が出来るでしょう」
アダムスは報酬という言葉に反応して何本かの指を立てた、もちろん支払いは金ではない。
それほどのグラビティを約束すると言う事は、暗殺などと言う安直な目的ではないだろう。また、上部組織に話がいっているなら断るはずもない。
「確かにケルベロスの力は脅威です。しかし、相手の素情を調べ上げ、敵が1体である時に襲撃すれば、勝利は容易となるのではありませんか?」
「……」
アダムスは一枚の写真を見せる。
ターゲットの姿は知っている男で、素情を調べ上げたという言葉に偽りなかった。
なにせ縁のある相手であり、実力的にも性格的にも剣士が最も的確だからである。
「もちろん、手筈を整える事もできますが、あなたには必要無いでしょう? 是非、フランツ様の御助力をお願いいたします。もし、お気に召さないなら他の……」
「切り捨てた結果、どちらに転んでも構わないな?」
フランツと呼ばれた男は、先ほどまでの、チャラチャラした気配を切り捨てるかのように口調と視線を変えた。
アダムスはその回答を知っていたかのように、慇懃に頭を下げるのであった。
●
「お、お客様……御やめください」
「いいじゃねえか。なんだったらアドレスだけでも教えてくれよ」
静かなカフェテラスで、ウェイトレスを乱暴者達が、強引に口説いて裏通りへ連れ去ろうとしている。
周囲の客達は、暴力に恐れをなしたのか、関わりを避け始めた。
ウェイトレスさんの運命やいかに?
そんなピンチに、おずおずと声をかける勇気ある若者が居た。
「ちょっと待って。その子、嫌がってるじゃないか。無理やりはよくないよ」
アマルガム・ムーンハート(ダスクブレード・e00993)が乱暴者達に追いすがる。まだ若い少年を見て、彼らは跳ねのけようとするが不思議な事に果たせなかった。
「邪魔だクソガキ! ……って、もしかしてケルベロスか? に、逃げろー」
「待て! その娘を離してから……」
アマルガムの力に、男達はギョっとして逃げ始めた。
ウェイトレスを盾にしながら逃げる乱暴者たちを追って、裏通りへ入り込んでいく。
思えば相手が娘を離した段階で、一度追うのをやめれば良かったのかもしれない。
だがしかし、間にあいそうだったので謝らせようと追ったところで、誰かが待ち受けていたのである。
『この先は通行止めだ。……通りたければ命を置いて行け』
「師匠!? お久しぶりです。事情は後で説明しますので……」
アマルガムは久しぶりにフランツにあったことで、少し浮かれていたのかもしれない。
攻撃されたと気が付いた時は、既に肩が切り裂かれていた。
「し、……しょう?」
『命を置いてけって、言わなかったっけか?』
しかし、油断するほど迂闊な性格もしていなかった。
だから咄嗟に致命傷を避けることができたし、完全に避け切れなかったのは、単に実力差であろう。
『本当にお前の言う師匠なら、言うべき言葉はただ一つだ。汝のゆく道を……悟れ』
最後にフランツはそう告げて、鯉口を切った。
●
「アマルガム・ムーンハートさんがデウスエクスの襲撃を受けることが予知されました。そこで急いで連絡を取ろうとしたものの、連絡をつけることはできませんでした」
セリカ・リュミエールが急いで説明を開始した。
相当に急いでいるらしく、地図を見せるのではなく、周囲の地形を簡単に説明して済ませる。
「一刻の猶予もありません。アマルガムさんが無事なうちに、なんとか救援に向かってください」
宿敵というべき相手を見つけて深入りしてしまったのかもしれないし、あるいは、用意周到に計画していたのかもしれない。
いずれにせ、アマルガムが危険なことに変わりは無いだろう。
「相手は『黒騎士』フランツという男で、螺旋忍軍の力を応用した剣士です。ことさらに特殊能力はありませんが、初見で相手の特性を見抜く観察力と、相手に合わせて的確な技を使う高い応用力があります。配下なし一人とはいえ油断できない相手でしょう」
セリカが言うには、避ける相手には死角や意表を突く技を使用し、防ぎ止める相手にはガードを崩して来るらしい。
また、刀を一本だけ手にしてはいるが、もう一本隠し持っているのか、それとも既に震動や剣圧を上乗せするのか、二刀の技も使えると言う。
「アマルガムさんを無事に救出し、ケルベロスを襲撃しても無駄だという事を敵にわからせてあげてください」
おそらく、これはケルベロスを襲撃して、戦力を減らしたり世間に無力であると知らしめる作戦なのだろう。
仲間を救うと言う意味でも、敵の作戦を挫くと言う意味でも、是非とも助ける必要があるだろう。
セリカはそう告げて、みなが相談する間、地図や可能な限りの情報をメモに書き始めた。
参加者 | |
---|---|
レクシア・クーン(ふわり舞う姫紫君子蘭・e00448) |
アマルガム・ムーンハート(ダスクブレード・e00993) |
クノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052) |
メリノ・シープ(スキタイの羊・e02836) |
天塚・華陽(妲天悪己・e02960) |
山田・ビート(コスプレ刀剣士・e05625) |
グレイシア・ヴァーミリオン(夜闇の音色・e24932) |
ミハイール・ツヴェターエフ(星渡りのプチーツァ・e25749) |
●
「師匠……何で戦わなきゃいけないんだ? 戦うのはどうしようもない時だけだって……」
走り抜けるのも狭過ぎる隘路から、視線が通り狙い易い道へ。
アマルガム・ムーンハート(ダスクブレード・e00993)は誘導されていると気がついてなお、その道を選んだ。
振り切れないが追い詰められる危険性も無い。
それに今頃は……。
「それに……、誰も殺したくないって言ってたじゃないか」
言葉を投げる。
時間を希望に替える為、なにより自分が納得する為に言葉を投げた。
ガスでも用意すれば良かったが、ないならないで、別の方法でなんとかするまでだ。
『最初の問いは、里が潤うだけの報酬。シンプルだろ?』
『次の問いだが、殺すのは誰でも出来る。同じ危険ならより面白い方がいいさ』
師匠と呼ばれた男は二人。
影に過ぎないはずだが、震動を制御した男にとって複数の声を響かせるのは簡単な事だ。
「(師匠? あ……そっか。何か理由が)」
問答の意味は判らないが、戦う事に意味があるに違いない。
なら……俺はっ!
「……分かりましたっ、では全力にて……一手ご指南願います!」
言いながらアマルガムは、攻撃の為から『治療の為』に弓を構え直した。
暗殺者にとって視界が効くと言う事は、自分『たち』にも効くと言う事。先ほどナニカが聞こえた気がしたからだ。
『戦うフリして治療に……かよ。上等だ、クソガキ……』
その時初めて二つの影が、本当に笑っているような気がした。
ケルベロス達は必死に裏通りを走って、いた。
「(……あの時とは違う、助ける力を手に入れたはずです。今度は護ってみせます)」
焦燥を抑えながら、レクシア・クーン(ふわり舞う姫紫君子蘭・e00448)は翼をはためかせる。
千切れた過去を代弁する翼の代わりに、地獄は蒼き燐光にて貫く意思を表していた。
天掛けるレクシアの軌跡が、暮れなずむ裏通りを紅ではなく蒼に彩る。
こちら側のチームも、その光を目印に追随してきているはずだ。
「もう二度と、目の前で誰かが倒れる姿を見たくありません……。もう、そろそろのはずなのに……」
たんっと、ビルを蹴って軌道を変えるシューズの音が、ゴクリと呑みこむ息の音を打ち消した。
そこへ別口から宙を切り裂く音が消えて来る……。
「あちらの側で死の気配が消えました。まだ無事だと良いのですが」
「情報のカフェより随分と離れておる。死の間際にしては……随分と余裕があろう」
ミハイール・ツヴェターエフ(星渡りのプチーツァ・e25749)は、死という考えを振り切った。
彼が道を逡巡したことで、後方の天塚・華陽(妲天悪己・e02960)が追いついてくる。
「となれば間にあうと見るべきじゃろう。しかし街中で襲撃とは、手段を選ばなくなったということか、それとも……。ともあれ、同胞が襲われておるなら救援に向かわねばな」
「レクシアさん達の姿も見えます。このまま絞りながら、一刻も早く戦場で合流しましょう!」
華陽の声を受けて、ミハイールは別口のチームが居ない方向に移動した。
少し探せば見つかる位置のはず。
問題は仲間が無事かどうかだ。
●
「よーし、それッポイ跡も増えて来たな。アマルガムを早いとこ見つけ出してフランツって言う奴を撃破したいねぇ」
「ですね……川にでも落ちてない限りは、もう間もなくの筈です」
グレイシア・ヴァーミリオン(夜闇の音色・e24932)は複雑な足跡を、幾つか見付けて居た。
彼や、空飛ぶ仲間からの情報を踏まえ、クノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052)……クノンはおおよその距離を割り出していた。
「宿敵と出会うってどう言う心境になるんだろうねぇ……、今回は軋轢とかないみたいだから、厳密には違うのかもだけど」
「殺害と友愛……異なる様でいて案外、似ているのかもしれませんよ? 越えたい相手という意味では同じですから。ただ、そうですね、倒すにしろ逃がすにしろ私なら他に譲りたくはないかも」
先を走るグレイシアの疑問に、クノンは少しだけ首を傾げながら走る。
同じ快楽の異なる言い回し、なのでは語る彼女にグレイシアは肩をすくめた。
「ならさ。タイマンってわけにはいかないけど、最後のトドメくらいはせめてって思うよねぇ」
そう語るグレイシアに、仲間達は頷きあるいは首を振った。
本人であれば、宿敵と言うよりは師だと言う。
利用しようとしたのか、ただの気まぐれか、それとも作戦の一環か。判らないが答えはアマルガムが出すべき応えだからだ。
「いずれにせよ、もう直ぐですね。何にやら壮絶な音が……間にあえば良いのですが」
「大丈夫、なんとかなるさ。いや、きっと間に合う、間に合わせてみせる!」
クノンの抱いた不安を打ち消すように、山田・ビート(コスプレ刀剣士・e05625)が咆えた。
遠目に誰かの影が見え、ようやく掴んだ機会。
死を見届けるよりも活かす為に!
ケルベロス達は、この時、死すべき運命を凌駕した!
「牽制するから伏せて!」
メリノ・シープ(スキタイの羊・e02836)が言葉を紡ぐと、アマルガムは弓を自分に構え直す。
そしてどの方向にでも飛べるように、軽く腰を浮かせていた。
「先行します……アマルガムさんはやらせません! 多勢に無勢で申し訳ありませんが、お手合せ願いましょう」
『戦うフリして治療。それにもう来たかよ、上等だよクソガキども』
ビートの目に敵が笑ったのが見えた。
二人分にブレている人影は、一つが彼の蹴り足を跳ねあげ、もう一人の手が動く。
手応え自体は感じながらも咄嗟に身構えたビートだが、狙いは彼ではなかった。
「俺独りじゃまだ師匠に勝てません……でも、この手に入れた絆の力が、今の俺の強さです!」
「私達はいつも一人じゃない。その意味を、彼ら螺旋忍軍に理解させて差し上げましょう。無血宰相の叡智にて……異形の力を此処に」
アマルガムは仲間達の中心にむかって飛ずさり、クノンが即座に意識と呼吸を回復させる。
気脈を正し反撃態勢を整えようとしたが……。
『その判断は半分だけ正しい。だが残り半分が、致命的に間違いだ』
「ぐっ……まさか、読まれていた?」
着地点そのものが撃震した。
内臓をシェイクされ、嘔吐は胃液よりも先に血を吐き出す。
ガードよりも回復よりも移動を優先したことで、隙が生まれてしまった。
いや、本来ならば、それは正しい判断であったろう。周囲が仲間『だけ』ならその方が安全なのだ。
「陣列に飛び込むとは、死ぬ気か? それともそれほどに殺したいのじゃろうか?」
なんと、敵はケルベロスのど真ん中に侵攻してきた。
まるでダンジョンで敵を包囲した時みたいじゃのうと、華陽は冷静に相対距離を確認する。
円の中央に、敵が入り込んで居る奇妙光景。
この状態ならば確かに誰でも狙えるし庇い難いが……、逆に言えば、逃げることが難しい。
華陽の飛び蹴りは確実に決まったように、削り続ければ勝てる。
『遠距離戦でペチペチやっても、いつかやられちまうだけだろ? ならそっちを数人昇天させて、一人くらいオモチカエリするって寸法さ』
敵……フランツは大胆不敵で、かつ容赦がなかった。
どちらかが全滅するまで戦うこと自体を放棄して、一人浚えるまで崩したら、さっさと逃げると言い放った。
「降下してください……。空は逆に危険です」
「そうですね。此処まで来れば必要ないですから」
ミハイールが着地して中衛に移動すると、レクシアもそれにならってホバリングに切り換え前衛に移動した。
なんというか、スカートの中を覗かれている気もしたのと、空中では前衛に居る時と違って受け身が取れないのもある。
「(各個撃破こわい……わ、私とか狙われたらすぐやられちゃう)」
メリノは腰砕けになりそうな自分を、言葉には出さず叱咤しながら、前衛達に黄金の加護を授けた。
早く倒してしまえば関係ないよね……と、直ぐそこに居る敵から目を背けようとする。
『可愛い子は歓迎だぜ? 同じ昇天させるなら、野郎よりずっとイイ』
「ご、ごめんなさいごめんなさい! な、仲間だから助けないとダ、ダメなんです! でも御嫁さんにいけなくなるのも勘弁してくださいぃぃ」
メリノは、涙目に、なった!
オモチカエリされて、想像できないほどエロエロにされた自分を思い描いた模様。
「これでも私も剣士の端くれです、私の剣がどこまで通じるか試させていただきましょう」
「オレ……ボクも居ますよ。女の子のピンチを放っておいたら、ねえちゃんにボコボコにされますからね」
ビートは声を張り上げ剣を構え、グレイシアの砲弾がフランツに叩き込まれていく。
男性陣は女の子を守るために立ちあがった!?
●
『ロックンロール!』
「(冗談めかしているけど、この漢、強すぎます。いっそ、暴走してでも……)」
津波の様な波濤が、一同の結界を叩き割る。
レクシアは自分への加護が継続しているの自覚しながらも、何人のソレが消えて居ることに戦慄した。
既にアマルガムも回復したし、幾重もの結界を張ったはずなのに……。
結界は幾枚かが消え失せ、そして重傷者こそ居れど、無傷の者は後衛を除き一人も居なかった。
「駄目ですね、そうすると目標が変わるだけ。『追い縋る者には燃え立ち諌め、振り離す者には燃え上り戒めよ。 彼の者を喰らい縛れ―――迦楼羅の炎』このまま打ち砕きます」
一同の陣形は、円からU字に、そしてV字にとようやく耐性を立て直していた。
レクシアはここで暴走しては自分を無視してしまうと理解して、足元を固めることにした。
彼女の髪に咲くトリテレイアの花言葉は、守護。
力を得た結果が護るべき者の放棄ではならぬと戒めて、翼よりグラビティを食らう炎を無数に撃ち出して行った。
「……さて、相当な使い手のようですが……もう一本の剣の方は如何なお手前でしょうか……♪」
『おや、そっちの方がお好みかい? 夜にはまだ早いと思うけどね』
クノンとフランツは軽やかなステップ挟んで睨みあう。
共にワキワキと指を動かし、方や甘い香り、方や超震動を伴って交錯する。
「意外とお堅い方なのですね…私が、解きほぐして差し上げますね?」
チークダンスのように絡み合う二人は、一瞬の激しさの後、名残惜しく別れる朝のように離れていった。
二人を分かつのは、当然ながらケルベロスの打ち込みである。
「ししょぉおおおおおお!!!」
いまは届かぬ夢幻泡影の彼方へ!
アマルガムが横薙ぎに打ち込んだ居合いは、鞘走ることで炎をまといてフランツを切り裂く。
不可思議な事に、二つ影に当たった瞬間に、ソレは陽炎のように融けて消えた。
「二刀流の正体はインパルス・ブレードか……。どこにでも発生するとは油断なりませんね」
「……タイミングを合わせましょう。炎を無効化しても本身の刃があったように、数人掛りなら誰かの攻撃が通るはず」
ミハイールが呼んだ竜の幻影も、炎をかき消されていた。
だがビートが切り裂いた空間の影響は防げず、レクシアが放ったグラビティを拡大する。
「ではそうしましょうか!」
「今度こそ足を止めて見せます!」
ミハイールとビートは顔を見合わせて、ツープラトンのドロップキック。
見れば他の仲間の中にも、呼吸を合わせた者が居た。
『聞け、この身に宿りし原初なる嫌悪よ。自我があるゆえ逃れられぬ、烈火の如き厭世家よ。総て引き裂き拒絶しろ、悪辣の炎斬!』
華陽は心の棚から幾つかの感情を取り出す。
稲穂を燃やし触媒に替えると、炎を何本かの尾に、その一つ一つに感情を込めたのだ。
七番目の尾が象徴する嫌悪の力が、周囲を焦がした。
●
「よ、ようやく効いてきた? ア、アマルガムさんの知り合いなら話し合いで解決できないかな?」
『忍群は成果が全てだ。有効と思えば延々と繰り返す訳だが……、他の仲間を見捨てる気か?』
ずっと治療を続けて居たメリノは、今しかないと思いを口にした。
出来るなら退いて欲しいと言う仲間の願いを代弁したのだが……。彼女のやさしさに対して還って来たのは、辛辣な事実。
「ほ、ほら友達同士争い合うのは悲しいもの……ダメ?」
震える手で杖を握り、涙の代わりに仲間を霧で覆って傷を癒した。
「彼の言葉は我々が逃げるのを留める為の切り札。それゆえに真実でしょう」
「辛いかもしれませんが、ここでアダムス男爵の奸計を成功させるわけにはいきませんね」
レクシアが闇の様な心を切り割いて飛び蹴りを掛けると、ミハイール達もまた仲間を決断させることにした。
ここに居ない誰かを守るために、決断へと至り理由を自分達が背負う為に。
『凍える白き虚ろの刃よ、楔となりて歩みを止めよ!』
「どうしようもない以上、カッコ良くバシッと決めるといいと思うよぉ? というか、どうしようもないからソレを望んでるんじゃない?」
ビートは黙って先触れとなり、精神力の刃を突き立てた。
続いてグレイシアも翼を広げ、自分の体で道を開く。
まずは自分たちが仕掛け、残る体力を削り取る。
「さあ僕の狼、君も行っておいで」
それは明日と言う太陽を求めて咆える、一匹の狼。
希望へと捧げる唄は男達の生き様。ミハイールの輝く狼は、黒騎士へと食らいついた。
「どうして……」
『里へのグラビティ、他に理由なんぞねえよ』
今にも啼き出しそうな少年は、ようやく男が、とっくに生き詰まっていた事を悟った。
残せる物が他にないから、最後に自分との戦い、どうしようもなさの克服を残そうとしたに違いない。
「私達は、お先に参りますね」
「やれやれ、運動は苦手なんじゃがのう」
彼らに続いてクノンはスカートをつまんで優雅に一礼すると、スライムを放って黒騎士がまとう結界を排除しにかかった。
華陽も軽口叩きながら、鉄拳握って結界を叩き割りに掛る。
相手は格上、総掛りで潰さねば防御一つとて砕けまい。
これが最後の一撃。
『暗殺だろうが人間爆弾だろうが、無理だと忍群に悟らせてみせろ!』
右手柄元から、ジャグリングで剣は左手柄尻へ。
ここに陰陽は逆転し、死角から刃が迫る!
「違う! 俺のゆく『道』は師匠を越える事、そしてその先にデウスエクスとすら共存共栄の『道』を探る事。これは譲れないんだっ!」
アマルガムの言葉はフランツを切り裂く。
戦うしかないと諦めた男に、螺旋忍軍とケルベロスの宿命を越えて見せると、抱きしめるように言葉と刃を突き立てた。
『師じゃなくて、お前を利用しようとした奴、そう……思っとけ』
互いの刃は、当然のようにお互いを傷つけた。
だが、ケルベロスには癒してくれる仲間が居る。
「師匠……おいてっちゃ、やだよ……」
少年はただ啼いた。そこに黒騎士と呼ばれた螺旋忍群の姿は、もう居ない。
否定されてなお、師と呼びながら。
ケルベロス達は、一人また一人と立ち去って行ったという。
作者:baron |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2016年6月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 8/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|