宿縁邂逅~閃く二刀の刃

作者:缶屋


 黒いスーツにシルクハット――紳士然とした恰好をした男性が、来訪者に落ち着いた面持ちで口を開く。
「よく来たな、やそ。螺旋忍軍男爵アダムスが新たなる使命を伝える」
 モノクル越しの瞳が、螺旋忍軍のやそを見据え、やそは静かに頷いてみせる。
「今回の使命は、地獄の番犬を称するケルベロスを、殺害或いは捕縛することだ」
 そう淡々と告げ、アダムスはターゲットとなるケルベロスの写真をやそに投げる。
「既に上位組織との調整は済んでいる。思う存分、暴れてくるがいい」
 アダムスが、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、やそは写真を残し静かに姿を消すのだった。


 物陰に隠れ、息を潜める斎・時尾(レプリカマリオネット・e03931)。
「変わった様子はないですか……ないでしょう」
 視線の先にある小学校には、何の違和感も感じられない。
 去ろうとした時、辺りに人気がないことに気付き、時尾は視線を巡らせる。
「おかしいです」
 そう口にしたとき、誰かの視線――自分のことを見つめる害意を孕んだ視線に気づいた時尾は、咄嗟に路地裏に入り視線の主を探す。
 突如目の前に現れる人影。時尾は飛び退き、視界に捉えたその姿に目を疑う。
「……姉さんですか?」
 時尾の口から言葉が衝いて出る。目の前に突如現れた人影は、時尾の記憶の中にある姉の姿に瓜二つだったのだ。
 しかし、人影――螺旋忍軍のやそは言葉を返さない。
「どうしてここにいるんですか!?」
 語気を強める時尾に返ってきたのたは、二刀の刃。刃は時尾の体を斬り裂く。
 ふらつきながらも、身構える時尾。
「貴方と私は無関係。私は螺旋忍軍のやそ。私の使命は貴方を殺すことよ」
 やそは、そう笑みを浮かべると二刀のもとに時尾を斬り捨てるのだった。
 

 額に汗を浮かべ、慌てた様子で部屋に入って来るアイス・クーデタ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0135)。
「皆、状況はかなり緊迫しているぜ」
 そう言ったアイスは、逸る気持ち落ち着けるように深呼吸をし、再度口を開く。
「斎・時尾が宿敵であるデウスエクス――螺旋忍軍のやそに襲撃を受けるという予知が出たんだぜ」
 時尾は、螺旋忍軍男爵アダムスを追っており、それを邪魔に思ったアダムスがやそを刺客として放ったのだ。
「予知が出てから、何回も何回も連絡したんだけど、時尾に連絡がつかないんだぜ」
 すでに襲撃に合っているのかも……と口にし、アイスは不吉な考えを振り払うように慌てて首を横に振る。
「どちらにしろ事態は一刻の猶予もないぜ! 時尾が無事なうちに、なんとか救援に向かって欲しいぜ」


「救援に向かってもらう前に、分かっていることを説明するぜ」
 そう言うと、アイスは急ごしらえで作った資料を、ケルベロスたちに配り状況説明を始める。
「螺旋忍軍のやそに、時尾が襲われるのは路地裏みたいだぜ」
 相手が人払いしてくれていることもあり、辺りに人はおらず、避難誘導などは不要である。
「次に、やそについてわかっていることを説明するぜ」
 やその武器は、腰に帯びた『狼護(カミモリ)』と『田藤(タフジ)』という銘の日本刀。攻撃手段も日本刀による攻撃で『居合い斬り』、『二刀斬空閃』、『流水斬』を使用してくる。
「恐らく、やそに襲撃を受けた時尾は、かなりのダメージを負っているか、もしくは戦闘が行えない状態になっているぜ」
 それゆえに、素早い行動が必要になるだろう。
 
「皆の力で時尾を救い、ケルベロスを襲撃したら痛い目に合うってこと、知らしめて欲しいぜ!」


参加者
朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107)
大神・凛(ドラゴニアンの刀剣士・e01645)
外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
八雲・要(英雄志望のドラゴニアン・e14465)
鋼・柳司(雷華戴天・e19340)
フィニス・トリスティティア(悲しみの終わり・e26374)
 

■リプレイ


 力なく壁に寄りかかる斎・時尾。斬り裂かれた傷口から血液が溢れ出し、地面を赤黒く染めている。
 ピクリとも動かない時尾に、
「一刀は一人だけだよ」
 そう不敵な笑みを浮かべ、やそが『田藤』を振りかざす。凶刃が振り下ろされる、その瞬間――。
 大神・凛(ドラゴニアンの刀剣士・e01645)が、時尾とやその間に割って入り、振り下ろされる『田藤』を受け止める。
 やそは顔色一つ変えず『狼護』を抜き放ち、時尾に振るう。
「何処を見ているんですか? 貴方の相手は私達です」
 戦いを始めます。そうクールに告げた朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107)は、竜の吐息を、と呟き掌からドラゴンの幻影を放つ。ドラゴンの幻影はやそを焼きつくすべく、やそに迫る。
 やそはそれを後方に飛び退き躱し、すぐさま態勢を立て直すと追撃にかかる。
「チップははずんでやるから少し遊んでいけ。雷華戴天流、絶招が一つ……雷影指弾!!」
 鋼・柳司(雷華戴天・e19340)はコインを弾き、掌に作り出した磁力の砲台から弾きだす。弾きだされたコインは、やその横腹に突き刺さり、特殊な磁場を作り出す。
 できた隙を見逃さず、凛が時尾を背負い、尻尾で体を固定すると表通りを目指し駆ける。
 それを目にしたやそも同じく駆け、後を追う。
「さぁ、踊りなさい。弾丸と死のワルツを……」
 アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)が撃ち出した銃弾が、走るやその脇をすり抜けていく。
 何もしなくても、外れる弾丸。気にすることなく後を追うやそだったが、不意に飛び退く。跳弾した弾がやその右足をかすめたのだ。
 気づかれたわね。と、新たな銃弾を撃ち出すアウレリア。銃弾と銃弾が弾き合い、逃げる凛を追わせない。
 動きが制限されるやそに、外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362)がバスターライフルの銃口を向ける。
 だが、動きを制限されているとはいえ、その動きは早く、狙いが定まらない。
「Administer a dose of levodopa」
 フィニス・トリスティティア(悲しみの終わり・e26374)が咒八の口に薬を投げ入れる。フィニスの投薬により、知覚能力、時間認知能力が向上した咒八の目には、銃弾を躱すやその姿が止まっているように見え、照準を合わせると、
 「ったく、しょうもねえこと考えやがって……デウスエクスの思い通りになんてさせるかよ」
 引き金を引く。
 迫るバスタービームにやそは『狼護』と『田藤』を鞘に収めると、神速の居合でバスタービームを斬り裂く。バスタービームを斬り裂いたやそは、その射線を利用しケルベロスたちの囲いを抜けると凛に肉迫し、『田藤』を振るう。
「仲間をみすみすやらせる訳には行かないね! 絶対守り切るよ!」
 八雲・要(英雄志望のドラゴニアン・e14465)は、『田藤』を受け止め、立ち塞がるとエアーシューズに地獄の炎を纏わせ、強烈な蹴りを放つ。
 蹴りを受けたやそは、体を捻り着地すると路地裏から出ていく、凛の背中を見、今一度二口の刀を鞘に収め、居合の態勢をとるのだった。


「これで決めるよ! 一斉攻撃だ!」
 やその目の前に立ち、要が声を上げる。その要にやそが鞘から『狼護』を抜き、横一線に斬りつける。だが、要は倒れない。その姿が仲間たちを鼓舞し力を与える。
 要の体に突如、電気が走る。電気ショックを放ったのはフィニス。倒れないのはただの強がり。それを察したフィニスが生命を賦活する電気ショックを飛ばしたのだ。電気ショックを受けた要の傷が癒え、戦闘能力が向上する。
 抜刀したやその右側面から咒八が肉薄する。
 ローラダッシュの摩擦を利用し、足に炎を纏わせ勢いをつけた咒八が、苛烈な蹴りを放つ。蹴りを受け止めたやそは『狼護』を振るい、咒八は刃をローラーで受け、その勢いを利用し、後方に飛び退く。
 間髪入れず、左側面からアウレリアが日本刀を振るう。それをやそは『田藤』で受けると、二人は何合か打ち合う。
 打ち合いの最中、柳司が流星の煌めきと重力を足に宿し蹴りを放つ。
 柳司の動きに合わせるように、『狼護』を振るうやそ。完璧なまでカウンターに、柳司は躱すことが出来ない。
「トゥードゥルス!」
 フィニスの声に反応し、サーヴァントのトゥードゥルスが割って入り、『狼護』の一撃を代わりに受ける。
 柳司の蹴りを受け、よろめくやそ。その隙をつき、アウレリアが緩やかな孤を描く斬撃で、やその左足の腱を斬り裂く。
 膝を折るやそ。
 次いで、飛び込んできたほのかが、やその体を惨殺ナイフで斬りつけ、返り血を浴びたほのかの傷が癒える。
 さらに斬りつけようとするほのかに、やそは『田藤』を振るい牽制する。
 戻ってきた凛の目に、膝をつくやその姿が目に入る。
「私の名は、大神凛! いざ尋常に勝負としよう」
 凛は二刀の斬霊刀――『白楼丸』と『黒楼丸』を振るい霊体のみを斬り裂く、衝撃波をやそに向かい放つ。
 やそは、凛の斬撃を避けるのではなく、斬撃に合わせ『狼護』と『田藤』を振るい、斬撃を空間ごと斬り裂き打ち払う。
 やそは、今一度二口の刀を鞘に収め、ケルベロスたちを見据えるとゆっくりと柄に手をかける。
 その姿を見たケルベロスたちは怖気を覚える。静かな構えから放たれる強烈な殺気、一瞬でも気を抜けば、首が落ちると錯覚させるほどの殺気に、ケルベロスたちはゴクリと息を呑み、身構えるのだった。


 ケルベロスたちとやその戦いは佳境を迎えていた。攻めに衰えが見えないやそに、ケルベロスたちは苦戦を強いられていた。
 やそは流水の如く軽やかな、流れるような動きで咒八に迫る。
「ここを通りたかったら、俺を倒してみなよ」
 割って入った要がそう言うと、やそは『狼護』を抜き振るう。要が『狼護』を受け止めると、
「要、助かったぜ」
 すかさず咒八が、脇をすり抜けやそを殴りつける。殴りつけると同時に、拳から網状の霊力が放出されやその体を縛り付ける。
「地獄の猟犬に手を出す者は、その不用意な手を嚙み千切られると身をもって示してあげましょう」
 体を拘束されるやそ目掛け、アウレリアがオーラの弾丸を放つ。迫るオーラの弾丸をやそは、体を拘束されたまま跳躍し躱してみせる。しかし、オーラの弾丸はやそを追う。
 やそは身を翻し、拘束している霊力を斬り裂くと同時に迫るオーラの弾丸を両断する。
「隙ありだ」
 やそがオーラの弾丸を斬り裂いた瞬間、柳司が弾いた電気を纏ったコインがやそを打ち貫く。
 やその注意が柳司に向いた瞬間、要が地獄の炎を足に宿し蹴りを放つ。蹴りを受け、吹き飛ばされる刹那、やそは『田藤』を抜き放ち、要を斬りつける。
 切り口から大量の血が流れる。まさに致命の一撃、それでも膝を屈しない要。すぐさまフィニスが駆け寄り、強引に手術を始める。
 フィニスは傷を縫い合わせると、ショック打撃で傷を塞ぎ、さらに他の傷も縫い合わせていく。
 敵が回復するのをただ見ているやそではない。二口の刀を鞘に収め、フィニスに向かい駆ける。
 ほのかが割って入ると、やそは『狼護』を抜刀し、ほのかを斬り捨てる。だが、ほのかは道を譲らず、
「その力を奪います」
 と、『死神』でやそを斬り裂き、受けた傷を癒す。
 斬りつけられたやそは、勢いよくこける。攻撃の手を緩めないやそであるが、その体には確かにダメージが蓄積されている。
 そして、それは今、目に見える形で現れたのだ。
 やそは『狼護』を地面に突き刺し、杖替わりに立ち上がる。その姿を見たケルベロスたちは、ここがこの戦いの勝負時であると悟る。
 治療中のフィニスを押しのけ、要がやその前に立つ。
「これで最後だ! 皆、力を出し切ろう、一斉攻撃だ!」
 要の声が仲間たちを鼓舞し、仲間たちに力を与える。
 迫る柳司の拳を、やそは身を翻し躱そうとするが、思うように体が動かず、柳司の拳がやその顔面を捉える。さらに、拳から網状の霊力が放出され、やその自由を奪う。
 拘束を振り解き、ほのかに向かい駆けるやそは、肉薄すると『田藤』を振るう。
「――良い太刀筋です、が、それゆえに読み易い」
 高速の動きでやその斬撃を躱し、死角から一撃を繰り出すほのか。その一撃は、やその急所を的確に捉える。
「死からは誰も逃れられない」
 ほのかに急所を貫かれてもなお、やそは倒れない。
「何か言い残すことはあって?」
 アウレリアはやそにそう問いながら、肘から先を内蔵モーターでドリルのように回転させ、威力を増した一撃を放つ。
 アウレリアの問いに答えずに、倒れる間際、『田藤』と『狼護』を振るい、空間ごとフィニスを斬り裂こうとするやそ。
「アルベルト、お願いね」
 振り向きざまにアウレリアがそう言うと、サーヴァントのアルベルトがフィニスを突き飛ばし代わりに斬撃を受ける。
 ならば、と地面を蹴りアウレリアに向かうやそ。
「代々伝わる奥義を受けてみよ! 岩龍閃!」
 凛が白と黒の刃――『白楼丸』と『黒楼丸』でやそを斬りつける。やそは『田藤』で二刀を受け止めるが、その勢いを受け止めることができず体を斬り裂かれ、一瞬その動きを止める。
 それを見逃さず駆ける咒八。
「これを呑むのよ」
 咒八にフィニスが薬を渡す。受け取った咒八は、それを口に含む。すると、感覚が研ぎ澄まされる。
 向かってくる咒八に『田藤』を納刀し、迎え撃とうとするやそ。だが、その動きはフィニスの投薬により、知覚能力と空間認知能力が上がっている咒八にとって、スローモーションのように見える。
 抜刀された『田藤』を躱し、
「安らぎへの憧憬に沈め」
 咒八はすれ違いざまにやその体に薬を注入する。無防備となった背中に斬撃を浴びせようとするやそだったが、柄を握る手に力が入らず『田藤』と『狼護』を地面に落とす。
 そして、死に最も近い花によってつくられた薬は、やそを戦いではなく安らかな安息へ誘い、やそはその誘いに従うように、静かに倒れるのだった。


 やそを倒したケルベロスたちは、一様に崩れ落ちるように地面に座り込む。
 無傷な者は誰もいない、皆、少なかれ傷を負っている。それほどまで、やそは強かったのだ。
 少し休むとケルベロスたちは、辺りの修繕にとりかかる。壮絶な戦いだったこともあり、辺りに戦闘前の面影は少ない。
「ここは、俺達に任せて時尾のところに行ってほしいんだ」
 咒八にそう言うわれ、フィニスは、
「わかったよ」
 と頷く。
「じゃあ、私が案内する。ライトはここの修繕を頼んだ」
 凛にそう言われ、サーヴァントのライトは瓦礫の撤去をはじめる。
 ふと、凛はやそに目をやり、あいつもいつか現れるのだろうか、と考える。
「早く行きますよ」
 フィニスに呼ばれ、凛は目を切り路地裏を後にするのだった。
「結構派手に壊れてるな……腕が鳴るな、廻!」
 そう言い、片づけを始める要。その隣でサーヴァントの廻は、壊れた壁や捲れ上がった地面をヒールで修繕していくのだった。
 アウレリアは、サーヴァントのアルベルトと寄り添いながら辺りを修繕する。
「どんな形であれ、再び邂逅できるのは幸せな事なのかしら」
 アウレリアは、隣で壁の修繕をするアルベルトに目をやり、でもそれは本人達にしかわからない事ね。と、思うのだった。
「魔導書を持ち歩かなくていいのは便利だな」
 そう言い、アイズフォンを操作する柳司。アイズフォンの画面に禁書の一ページが表示され、柳司はそれを読み上げ辺りを元通り戻していく。
 時尾の許に向かった二人が戻って来る頃には、路地裏は元の通りに修繕されていた。そして、時尾の無事を聞いた、五人はホッと胸を撫でおろす。
 しばらく、休憩をとった後、ケルベロスたちは各々帰路につく。
 去っていく仲間たちの背中を見送るほのかは、
「全員無事で何よりです」
 と、小さく呟き、顔に笑みを浮かべ、ゆっくりと帰路につくのだった。

作者:缶屋 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月16日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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