宿縁邂逅~剣の大帝ピョートル

作者:桜井薫

「お望みの情報をお持ちしました」
 シルクハットに片眼鏡の紳士が、手にした資料を差し出す。
「……御苦労だった。このピョートルの『捜し物』の在り処、確かに貰い受けた」
 資料を受け取ったのは、禍々しい闘気をまとった隻眼のドラゴニアンだ。ピョートルと名乗ったその者は、紳士から受け取ったそれを開いて傲慢な視線であらため、再び閉じる。
「お役に立てたなら何よりです」
「……それで、アダムス男爵。この情報に、いかなる見返りを求める」
 アダムス男爵と呼ばれた紳士は、その問いに、穏やかな笑みを浮かべて首を横に振った。
「いいえ、見返りなど必要ございません。あなた様が標的を確実に始末していただくこと、それこそが我が利益となるのです」
「……よかろう。楽しみにしているがよい」
 紳士はうやうやしく一礼し、踵を返してその場を後にするピョートルを見送った。
 
「さあ、今日も、修練だ!」
 夕暮れの雑踏に、静かな中にも気合いの込められた声がまぎれていく。
 いつか英雄となる日を目指し、毎日の修練を重ねる……それが、シーガル・ネプトゥヌス(ドラゴニアン戦士見習い・e00852)の日課だった。
「…………」
 修練の場所を求めて進むシーガルは、ふと、違和感を覚える。
 周りの迷惑にならないよう、少し街の中心から外れた場所に向かっているのは、確かだ。だが、普段は多少なりとも行き交う人々とすれ違うはずが、今日はやけに静かだった。
(「少し、様子がおかしい……?」)
 やがて辺りは、人っ子ひとり、猫の子一匹居ない、完全な静寂に包まれる。
 と、不意に、辺りの空気が動いた。空間のゆらぎは急速に広がってゆき、シーガルの目前に、不穏な渦を作り上げる。
「……赤き鱗のドラゴニアンよ。覚悟!」
「……!」
 そして、その渦から飛び出した何者かが、シーガルに襲いかかる。
「何者だ……!!」
 どうにか一撃をかわしたシーガルは体勢を立て直し、襲撃者の正体を見極めようとして……次の瞬間、驚愕の表情を浮かべた。
「その姿……まさか、父上!?」
 シーガルの目の前に立ちはだかっているのは、彼と同じく赤い鱗を持つ、ドラゴニアンのような姿。その身体からは古強者のように強烈な闘気を放ち、重量感溢れる鈍色の長剣を構えている。
「貴様のことなど、知らぬ……我は、ドラゴニアンを狩る者。その生命、この剣にかけて貰い受ける!」
「……っ!!」
 シーガルの問いには応えず、相手は手にした刃を振り下ろす。
 無慈悲な一撃は、激しい衝撃となってシーガルの身体に叩きつけられた。
 
「ネプトゥヌスが、宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けるんが予知されたんじゃ」
 円乗寺・勲(ウェアライダーのヘリオライダー・en0115)はケルベロスたちに一礼し、緊急の予知について手短に説明を始める。
「急いで知らせようとしちょうも、本人に連絡をつけることはできんかった。のんびりしちょる暇はなか。ネプトゥヌスが無事でおるうちに、何とか助けに向かってほしいんじゃ、押忍っ!」
 勲は短く気合いを入れ、続いて宿敵の能力について説明する。
「奴の名前は、ピョートル・ネプトゥヌス。死神にサルベージされた、ドラゴニアンのごたる力を持つ奴じゃ」
 勲によると、ピョートルの主な攻撃手段は3つ。
 1つめは、暗い色の炎を吐くブレス攻撃。見た目通り炎の効果を持ち、高い威力で複数のケルベロスたちを巻き込む。
 2つめは、手にした長剣で鋭く斬りつける攻撃。ダメージを与えるだけではなく、刃を通じて相手の体力をも吸い取る力を持つ。
 最後は、長剣を激しく叩きつけ、相手の闘志を削ぐ攻撃。威圧的な気に呑まれると、思うように攻撃を当てることができなくなってしまう。
「ドラゴンのごたるブレスも厄介じゃが、持っとる剣は伊達じゃなか。十分に対策して戦いに臨むじゃ」
 シーガルを無事に助けだすためにも、しっかり気を引き締めて戦うように勲は念を押す。
「単独行動しとるケルベロスを不意打ちしても、すぐに仲間のケルベロスが駆けつける。わしらの団結力の前じゃあ、ケルベロスを襲う計画なんて無駄じゃと思い知らせてやるんじゃ。ネプトゥヌスの救出、くれぐれも頼んだじゃ……押忍っ!」
 緊迫した中にも力強さを忘れない気合いで、勲はケルベロスたちを送り出すのだった。


参加者
壬育・伸太郎(鋭刺颯槍・e00314)
小日向・ハクィルゥ(はらぺこオートマトン・e00338)
アルヴァ・シャムス(逃げ水・e00803)
シーガル・ネプトゥヌス(ドラゴニアン戦士見習い・e00852)
ウォーレン・エルチェティン(砂塵の銃士・e03147)
クライス・ミフネ(黒龍の花嫁・e07034)
ルイアーク・ロンドベル(黒衣の狂科学者・e09101)
祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)

■リプレイ

●一の太刀
 夕闇に包まれつつ在る町外れに、慌ただしい足音が響く。
 孤立無援でデウスエクスの不意打ちを受けた仲間を救うべく、急遽駆けつけた7人のケルベロスたちだ。
「……我は、ドラゴニアンを狩る者。その生命、この剣にかけて貰い受ける!」
「……っ!!」
 暗褐色の鱗に覆われたドラゴニアンの姿をしたデウスエクスの剣士が、右半身に浮かぶ禍々しい文様から闘気を立ち上らせ、重々しい斬撃をシーガル・ネプトゥヌス(ドラゴニアン戦士見習い・e00852)に振り下ろした、次の瞬間。
「助太刀参上、ってな」
 アルヴァ・シャムス(逃げ水・e00803)は、敵とシーガルの間合いに割って入るように身体をねじ込み、抉るような当身をデウスエクスに叩きつける。
「……! 貴様らは……そうか。番犬どもというやつは、存外鼻が利くものだな。こやつを切り捨てるのを邪魔するなら、容赦はせぬ。まとめてこの剣の錆にしてくれよう」
 遠当ての衝撃を和らげるように一歩下がった相手は、次々と武器を構えるケルベロスたちを睥睨し、鈍色の大剣をどっしりと構え直す。
「……写し身」
「どちら様かは、私は存じ上げませんが……其方がその気なら全力で邪魔をさせていただく次第ですよ?」
 祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)とルイアーク・ロンドベル(黒衣の狂科学者・e09101)は深い傷を負ったシーガルに、手早くヒールを重ねる。
 黒髪の奥からゆらめくイミナの赤い瞳は見るからに祟られそうな雰囲気満点、ルイアークの少し歪んだ笑みはいかにもマッドサイエンティストめいた気配を醸し出しと、二人の見た目は、正直癒しとはほど遠い。だが抵抗力を高める力を持ったちらつく分身と、傷を一気に回復するウィッチドクターの強引な手術は、着実にシーガルの体力を持ち直させた。
「1対1でなら確実に殺せる相手に闇討ち仕掛けてよ……ソイツが英雄だァ? 全く、馬鹿も休み休み言えってンだ!」
 敵の注意を引こうと挑発的な口上を述べながら、ウォーレン・エルチェティン(砂塵の銃士・e03147)は素早く銃を構え、目にも留まらぬ速さの弾丸を射ち込む。一直線に飛んでいった弾丸は、相手の大きな剣をも削るようにかすめ、相手の身体に突き刺さる。
「何の因果でこうなったのかも、二人の間に何があるのかも何一つ知りません、興味もありません。ですが、闇討ちができるなんて思わないことですね」
 続いて壬育・伸太郎(鋭刺颯槍・e00314)が、烈火の如く燃え盛る足刀を赤褐色の鱗に叩き込む。卑怯な不意打ちに憤る真っ直ぐな怒りが乗ったかのように、その一撃は鋭い当たりとなってドラゴニアンの胴体を抉った。
「……なるほど、よく連携するものだ。だが貴様らの武器がその団結力なら、我が武器は純然たる『力』そのもの……か弱きドラゴニアンよ、その身に焼き付けるが良い。このピョートルの一太刀を!」
「させぬ!」
 再びシーガルを狙って振り下ろされた魂を食らう剣は、割り込んだクライス・ミフネ(黒龍の花嫁・e07034)にしっかりと受け止められた。斬撃への耐性も意識して選んだ防具と守りを固める戦術は、盤石の守りとなって強大な一撃の威力を削ぎ落とす。
「さて、この、竜の躯より鍛えた刀……その身に喰らうと良いのじゃ。森羅流クライス……推して参るっ」
 かつて城ヶ島でねじ伏せた巨竜の力が込められた『龍殺大刀・星列刀皇』を振りかぶり、クライスは返す刀で、惜しまず己の切り札を繰り出した。その轟音は天に吼える龍のように遠く、高く……相手の精神をも揺るがさんとする一撃に、ドラゴニアンの隻眼が吸い寄せられる。
 続いて小日向・ハクィルゥ(はらぺこオートマトン・e00338)のアームドフォートが、主砲の一斉射撃を浴びせかける。相手の動きを鈍らせるように放たれた砲弾を手にした大剣で何とかしのごうと、ドラゴニアンは一歩間合いを下がらせた。
「何故、シーガル様を狙うのですか……親子なのではないのですか?」
「……」
 相手の応えはない。そしてシーガルもまた、ハクィルゥの問いには答えず、ただ黙って刀を振りかぶる。攻撃力に重きをおいて放たれた一撃は、敵の構える剣に阻まれ、ただ剣戟の音を響かせるに留まった。
「奇襲での各個撃なんて、俺様達には意味ねぇ。ケルベロスのしつこさってやつ、教えてやろうじゃねぇか」
 かわされた攻撃から間隙をおかず、アルヴァの流星の煌めきを宿した鋭い蹴りが放たれる。高い練度に支えられた一撃を受け、ドラゴニアンはわずかに体勢を崩した。
「黄泉路を迷ったその姿勢、潔くないですね……花はすぱりと散るものです。次に咲くのは蕾の役割です」
 伸太郎は二本のゾディアックソードを十字に構え、暗褐色の鱗を挟み切るように斬りつける。両手の剣が火花を散らせ、二つの星座の重力を同時に宿された十字の斬撃が叩き込まれるそのさまは、星が暗い炎を貫いてゆくかのようだ。
「テメェが何者かは知った事じゃねェし、どうしてソイツに手ェ出したか知る気もねェ。だが、子供たちの明日を摘む為の剣を放っておける性分じゃなくてなァ……!」
「……焼き払う、散れ」
 伸太郎の太刀筋に、ウォーレンは御業の炎を重ねて叩きつける。そしてイミナの炎を纏った蹴りも、人魂のようにドラゴニアンの身体にまとわりつく。暗褐色の鱗は重なる炎を受けて昏く輝き、ドラゴニアンはその瞳に憤りと闘気をゆらめかせた。
「チャンスだ、じゃあ……」
「甘い!」
 さらに続こうとしたシーガルが武器を振り上げた瞬間のことだった。
 そこに存在していた、繰り出す技を選ぶ一瞬の隙……それを見逃さず、ドラゴニアンの大剣がシーガルにしたたかに打ち付けられる。
「…………!」
 敵が繰り出す技のどちらでもない防具の回避耐性、最初から傷を負った状況下で選んでいた前のめりな戦法、使う技をいつどうするか決めていなかった大まかな作戦……様々な不利が重なっていたのが、災いしたか。敵の一撃は本来の威力を最大にまで増して、シーガルの身体を一刀のもとに吹き飛ばした。
「シーガルさん!」
 ルイアークはとっさに回復しようとしたが、シーガルの傷を見て、即座にもう戦いを続けることはできないことを察した。代わりにルイアークは味方を警護するドローンを前に立つケルベロスに向かって飛ばし、残された戦力を最大限に整える。
「案ずるな、命までは取っておらぬ……殺す甲斐もない者よりは、戦いがいのある獲物を狩りたいのでな。さあ、番犬どもよ……このピョートル、容赦も油断もせぬ。持てる力の全てを尽くし、かかって来るが良い」
 ドラゴニアンは大剣を構え直し、おもむろに向き直った。
 残るケルベロスたちも意識を失ったシーガルを背にかばい、佳境に入る戦いへの準備を整えるのだった。

●交わす剣戟
「……はっ!」
 クライスは気合い一閃、空の霊力を帯びた刀をジグザグに切り結ぶ。
「……人間関係というのは当機にはよくわかりませんが、子どもに全力で手を上げる親は修正させていただきます」
 クライスに続き、ハクィルゥもエアシューズで大地を蹴り、渦を巻く炎の力を込めた蹴りを叩きつける。苛烈な攻撃には、こちらも全力の手加減抜きであたるまで……文字通り『修正』するかのように、ハクィルゥはことさらに力を込め一撃を放った。
「我は相手が誰であれ、この剣に全ての力を込めるのみ……!」
「……! やはり死人の剣。黄泉帰っても、こんなものですか」
 どうにか両手の剣で威力を殺しても、なお手痛い一撃。しかし伸太郎は苦痛を表に出すことなく、守るために戦う信念を胸に返す刀を振りかぶった。
「その心意気……私が援護しましょう」
 ルイアークはすかさず生命を賦活する力を込めた杖から電気を送り、伸太郎の傷を癒すと同時に刀を振るう手に力を与える。彼の皮肉めいた光を宿す瞳は、メディックとして戦線を支えるため、味方の負傷状況をしっかりと見極めていた。
「……蝕影鬼、いい感じだ。……祟り往くぞ。弔うように祟る。祟る祟る祟る祟祟祟祟……祟祟祟祟祟祟祟……封ジ、葬レ……!」
 ビハインドの『蝕影鬼』が金縛りを決めたのを淡々とねぎらい、イミナは呪力を込めた杭を取り出した。そして祟る言葉を永遠に続くかのようにリフレインしながら、何度も何度もドラゴニアンの身体に打ち付ける。味方たちの正気をも削っているような気がしなくもない徹底した呪いは、暗い赤色の鱗にしっかりと食い込んでいった。
「こいつもくらいな、クソ野郎」
 イミナが呪いなら、こちらは魂を汚す毒を……とばかりに、アルヴァは斬霊刀でドラゴニアンを斬る。
「テメェにゃテメェの信念も有ってドラゴニアンを狩って来たンだろ? ……俺ァ俺たちの夢に従って、テメェを撃つ」
 続いてウォーレンが、相手に累積していた回避を削ぐ効果で何とかある程度の命中を確保したのを見て取り、『砂塵潤す硝煙弾雨』の集中射撃で大ダメージを狙う……が、降り注ぐ銃弾はギリギリでドラゴニアンの鎧をかすめ、地面に多数の穴を穿つに留まった。
「死に魅入られた呪いに、死を引き寄せる魂の毒に、死せる亡霊どもの引き起こす嵐か……面白い。ならば、こちらからも死に導く剣をくれてやろうぞ!」
 死して蘇ったドラゴニアンは、ケルベロスたちの波状攻撃を楽しむかのように、大剣をおもむろに振りかぶった。そして魂と体力をすする斬撃を、ウォーレンに向かって鋭く繰り出す。
「おっと、そいつは通したくないねぇ」
「っと、済まねェ、助かった。ありがとな」
 アルヴァはすかさずカバーに入り、その太刀筋をがっちりと阻んだ。この技に合わせて選んできた防具の効果もあいまって、その打撃力はそのまま直撃していた時よりも大幅に抑えられていた。礼を言って銃を構え直すウォーレンに、アルヴァは飄々とした様子で自らも体勢を整える。
「味方の被害は軽微、当機は攻撃に回ります」
 ハクィルゥの両手にガトリングガンが構えられ、敵の全てを破壊せよとばかりに弾倉が激しく回転する。目標を追尾する弾丸の雨は、ドラゴニアンの足元に派手な煙を浮かび上がらせた。
「森羅万象の理を以ち、天に轟し、地に堕ちよ……天龍の嘶きよ、疾れ!」
 その機を逃さず、再びクライスは拳と脚に重力を込め、踏み込み、地を揺らす。比較的余裕のある自分の体力を見て取り、攻撃を引きつける技を重ねることにためらいはなかった。
「その身に我が剣を引き寄せんとするに、ためらいは無いか……ならば我も敬意を持って全力の刃を振るおう。とくと見よ、我が闘気!」
 受けたものに圧倒的な威圧感をもたらす闘気を込めた斬撃で、ドラゴニアンはクライスに応える。見るからに重々しい大剣が振りかぶられ、低い音で唸りを上げる風圧と共に振り下ろされた……が、彼女はひらり身体を翻し、その斬撃は空を切った。防具をこの攻撃に合わせてあったのが少なからず功を奏したようだ。
「良い隙を作っていただき、感謝します。ならば……」
 敵が強力な斬撃を外したことで発した隙を、ルイアークは見逃さなかった。
「ふふっ、まだお気付きで無いようで……? 既に私の術中に陥ってる事に……。身を包む地獄の業火……貴方を焼き尽くそうと云う、神罰の炎にッ!」
 仰々しい言い回しと共に放たれたのは、『ルスティグの偽証』。ドラゴニアンの精神に浴びせかける偽りの情報は、いつの間にか現実の炎となってその鱗を取り囲み、錯覚を現実の痛みへと昇華させた。
「おのれ……!」
 ドラゴニアンは険しい表情で、前に立つケルベロスたちに暗い色の炎を浴びせかける。そのダメージは決して軽くはなかったが、込められた力の大きさは、与えられた痛手の大きさをも表すかのようだった。
「攻勢に出ます……システムチェンジ、モード・アクィラ起動。絶対に逃がしません」
「……!」
 相手が確実にダメージを受け、味方たちの与えた状態異常も重なってきているのを見て取り、ハクィルゥは攻撃システムの出力を上げた。巻き込まれないよう周囲への避難を勧告するシステムメッセージと共に、背部の翼と戦闘機能は極限までエネルギーを高められ、高速の刃となってドラゴニアンに襲いかかった。その激しい攻撃は敵の身体全体を切り裂き、とっておきの一撃を放った彼女の機体からはオーバーヒートの蒸気が立ちのぼっている。
「随分景気良く燃えてきたもんだねェ……俺も行きますよ、って」
 ウォーレンは燃え盛る御業を叩きつけ、仲間たちが積み重ねた炎をさらに燃え上がらせる。
「己より弱いものを殺すためだけに練り上げた武ならば、ここで散りなさい。僕の生き方は。僕の血は。そんな物を一片足りとも認めはしない……壬育流交活法、壬育伸太郎。推して参る!」
 武人のような言葉を口にしながら、やろうとしていたことは闇討ち……そんな敵の姿勢を全否定するかのように、伸太郎は己の武の道を両手の剣に乗せ、風を斬る音とともに激しく斬りつけた。
「その傲慢なまでの太刀筋……我が剣を持って塞いでくれる!」
「……その一撃を止め、さらに祟る。……少し貰うぞ」
 強烈な痛みを返すかのように、怒りと力が込められた斬撃が伸太郎に向けられる。イミナはその攻撃を代わりに受け、返す刀で奪われた体力を吸い返す。
「この刀や……槍のように……ぬしも己れの力と貸すが良い……!」
 瀕死の傷を負ってなお尊大な口調を崩さないドラゴニアンに、クライスの刀が居合いの構えで引きぬかれ、鋭く身体を裂き、再び鞘に納められる。
「このピョートルを……貴様らのことは、冥土で……思い出して、やろ……う……」
 それが、とどめの一撃だった。
 赤い鱗のドラゴニアンは大剣を地面に突き立て、立ったままの姿勢でその動きを止めていった。

●そして、己の武の道を
「武人らしく振る舞いながら、誇りを汚すような奴らは……決して、許せはしないものよな……」
「ええ、全く。散った花が、今ある花の邪魔になっては……世の中が回らないではないですか」
 不遜なドラゴニアンの散った方を見つめ、クライスと伸太郎は静かに抜いた剣を収める。その胸に去来するのは、それぞれの武のあり方だろうか。
「……今度ァ迷わず安らかに、な」
 思うところはいったん胸にしまい、ウォーレンは軽く手を合わせた。
 一人はぐれた者を狙うなら、すぐに駆けつけて殲滅するまで。
 敵を退けたケルベロスたちは、無事救出した仲間の治療に向けて帰路につくのだった。

作者:桜井薫 重傷:シーガル・ネプトゥヌス(ドラゴニアン戦士見習い・e00852) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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