宿縁邂逅~強敵狂襲

作者:流水清風

 それは何処とも知れない場所での出来事だった。
 尋常ならざる存在と、同様に尋常ならざる者との邂逅。
「初めまして。それがし、螺旋忍軍、アダムス男爵と申す者です」
 一方が慇懃に名乗りを上げるが、それに対するもう一方はうさん臭いモノをどうでも良いという風に睨み付けるだけであった。
「我々デウスエクスは、それぞれ、味方同士というわけではありません。しかし、共通の敵は存在いたします」
 アダムス男爵の語り掛けにも、もう一方の巨体は何の反応も示しはしなかった。あくまでも表面上は。
「そう、その邪魔者とはケルベロスです。地球侵攻の邪魔者であるケルベロスを殺害或いは捕縛する事ができれば、地球での戦いを有利に運ぶ事が出来るでしょう」
 淀み無く語るアダムス男爵に対して、その巨体からエインヘリアルであると分かるもう一方は、瞳に宿った狂気の光を隠すことを止めた。これ以上自分にとってどうでも良い話を続けるようであれば、即座にゾディアックソードを叩き込むつもりであることは明白だ。
「誉高きエインヘリアルの将たる者、短気は禁物ですよ。エルヴァ・スィモス・エスパーダ殿」
 攻撃の気配を見せたエインヘリアルの将エルヴァの機先を制するように、アダムス男爵は芝居がかった動作を見せる。道化じみたその所作に毒気を抜かれ、エルヴァは剣の切っ先を下げた。
「ケルベロスが脅威とは言え、あくまでも組織としての話。単独であれば恐れるに足りません」
 デウスエクス両者の間の空気は静かな湖面のように穏やかであった。瞬き1つの間に消えて無くなる平穏に過ぎないけれど。
「……」
 エルヴァは戦闘狂ではあるものの、一軍を束ねる将でもある。彼女の狡猾な一面が、この螺旋忍軍を斬るべきではないと判断していた。少なくとも、今はまだ。
「貴女が望む戦いの場を、提供致します。そう、ティーシャ・マグノリアとの一騎打ちを」
 その名前を聞いた瞬間に、エルヴァの中の何かが弾けた。
「お前の目的は知ったことじゃないが、アイツと戦えるならどうでもいいさ。乗ってやるよ、その話」
 エルヴァの狂気は、既に己の仇敵に向かっている。目の前のアダムス男爵の存在すら、意識のほんの僅かにしか捉えていなかった。

 
 かつてはデウスエクスの一種、ダモクレスであったティーシャだが、今では『心』を得たレプリカントである。
 それはつまり、ケルベロスとして地球で生活を営んでいる事を意味している。
「……」
 特に目的は無く街中をぶらついたティーシャは、ファンシーショップのウィンドウに飾られた服を着た兎のぬいぐるみに、無表情ながら愛らしいものだと心中で呟く。
「ふむ……この新作バーガーは悪くないな。皆の分も土産に買っておけば良かったか」
 その後に目に付いたバーガーショップで新作を買い求めて、食べ歩きの最中である。
 目的地無く歩いていたティーシャが違和感に気付いたのは、バーガーを平らげてから。繁華街ではない場所ではあるものの、周囲に唯1人の人影も見当たらない。そして何かを察し脱したかのように鳥や犬などの動物の気配も無い。
「……?」
 持ち前の冷静さで異変に慌てることなく状況を把握しようと、ティーシャは周囲を観察する。
 視界の中に異常を認めることはできなかった。だが、自身の勘がこの場に留まることは危険だと告げている。とにかく移動しようとティーシャが歩を進めたその瞬間、それは現れた。
「……!」
 ティーシャの全身を、激痛が支配する。決して油断などしていなかったが、その奇襲を避けることは出来なかった。
「よう、久し振りだねえ」
 いっそ朗らかとさえ表現できる口調で、エルヴァは旧友に再会したかのような言葉をティーシャへ投げ掛けた。けれど、その表情は狂喜に歪んでいる。
「あんたの事は、潰し甲斐のある敵だと思ってたんだよ。それが何をどうしてケルベロスなんぞに堕ちたのやら……」
 一方的に期待を裏切られたと落胆するエルヴァだが、ティーシャへ向ける殺意は揺ぎ無い。
「まあ、それでもあんたはあんただ。アタシの手で、直接叩き潰してスクラップにしてやるよ!」
 狂喜乱舞といった様相の荒々しい挙動で、ティーシャに襲い掛かるエルヴァ。
「……くっ」
 元より1対1では分の悪い相手だが、奇襲によって痛手を負ったティーシャは防戦に徹するのみ。
 敗北は時間の問題であった。
 
 ヘリオライダーであるセリカ・リュミエールは、慌てた様子のままに集ってくれたケルベロス達へと呼び掛けた。
「皆さん、ティーシャ・マグノリアさんが宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けてしまいます」
 それを予知したセリカは急ぎ当のティーシャとコンタクトを取ろうとしたが、叶わなかった。
「おそらくは既に予知が実現してしまっているのでしょう。皆さん、急いでティーシャさんの救援に向かってください」
 焦るセリカに、ケルベロス達もやや気忙しく頷き返す。
「ティーシャさんを襲う敵は、エインヘリアルのエルヴァ・スィモス・エスパーダです。多くの部下を率いる将でありながら、力量を認めた敵と単独で戦う事を好む戦闘狂でもあります」
 その嗜好が、今回は幸いしたと言えよう。配下を引き連れていないので、数の上ではケルベロス達が優位に立つことができる。
「ゾディアックソードを用いて戦うようですが、それ以上の事は分かりません」
 敵の戦闘方法が不明であることは厄介だが、用いる武器からある程度は絞り込むことが出来るだろう。
「ティーシャさんが襲われる場所は人気の無い路上です。一般の方の避難誘導などは必用ありませんので、戦いに専念してください」
 他の事に気を配らず戦いにのみ集中できる状況というのも、ケルベロス達にとっては好条件だ。
「ケルベロスの皆さんがデウスエクスの標的となったこの事態は、非常に危険です。ティーシャさんを救出して、敵の目論見を阻んでください」
 戦いの場へとケルベロス達を送り出すセリカは、こうした事態が続くことを懸念し、彼等の奮起を促すのだった。


参加者
クロエ・アングルナージュ(エールシャッセール・e00595)
イグナス・エクエス(怒れる獄炎・e01025)
ル・デモリシア(占術機・e02052)
ジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
エフイー・ノワール(遥遠い過去から想いを抱く機人・e07033)
アシュレイ・ヘルブレイン(生まれたばかりの純心・e11722)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)

■リプレイ

●宿敵
 人気を失った市街の路地で、2人の人物が対峙している。
 双方共に人の形格好だが、どちらも人成らざる者だ。その長身から人外の存在であると分かるエインヘリアルが、手にした星辰を宿す長剣をもう一方の人物に突き付けた。
「正直なところさ、最初の不意打ちは当然避けられると思ってたんだよね」
 つまらなそうな口調で呟くエインヘリアルの将は、その名をエルヴァ・スィモス・エスパーダ。
 口振りとは裏腹に、瞳は目の前の敵を討つという強い情念に満ちている。
「……生憎と、貴様の期待に応える事に興味など無いのでな」
 対するケルベロスであるティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)は、エルヴァにさしたる思い入れなど持っていない。
 両者の間には決定的な温度差があるが、互いにそれを気にしていないという点は共通している。
「あっはっは! ま、そりゃそうだ」
 快活に笑いながら、エルヴァの長剣から放たれた蠍のオーラがティーシャを掠める。
「あんたは適当に黙ってるなり呻くなりしてりゃあいい。何なら叫んでも良いし、もがいてもいいさ。アタシはあんたを壊せれば、それでいい」
「……」
 処刑宣告を、ティーシャは無言で聞き流す。初手で追った深手が戦況を決してしまった。自身がこの窮地を覆す術は皆無だ。だからと言って、むざむざと仕留められてやるつもりはないが。
「言い遺したい事があるなら言うだけ言っておきな。誰も聞いちゃいないけどね」
 勝敗が明白であろうとも、エルヴァは無為に嬲ろうとはしない。加虐趣味は持ち合わせていないし、他者の苦しみを喜ぶ類の嗜好も無い。
 構えた長剣は、次の一撃でティーシャの命を奪おうとしている。

●合流
 ここまでにエルヴァに一切の手落ちは無かった。それ故に、結果論ではあるが、ティーシャを討つことは不可能であったのだ。少なくとも、この時点では。
「ティーシャからのSOSを聞いて駆け付けてみれば……」
 エルヴァが長剣を振るうよりも先に、両者の間に割って入った者がいた。ただその場に現れただけでなく、幻影を伴う挙動がエルヴァに警戒を生み前に出ることを躊躇わせる。
「好き勝手やってくれたな! 俺の同僚を傷付けて、ただで済むと思ってないだろうな!」
 イグナス・エクエス(怒れる獄炎・e01025)は、負傷したティーシャの姿に目にし、敵への怒りを抑えきれずにいた。
 さらに続けて2人のケルベロスがエルヴァからティーシャを庇うように立ち塞がる。
「ティーシャさんは、やらせない!」
「レプリフォースは戦友の危機を見逃さん。SYSTEM COMBAT MODE READY……ENGAGE」
 エフイー・ノワール(遥遠い過去から想いを抱く機人・e07033)とマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)に阻まれ、止む無くエルヴァはティーシャを狙いから外した。無論、ティーシャ撃滅を微塵も諦めてはいないが。
「おいおい4人掛りかよ……いや、違うな」
 そう不満気に漏らすエルヴァに、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りが浴びせられる。
「8対1ですが……悪く思わないでくださいね」
 やや緊張感や緊迫感に欠ける口調で、表情もぼんやりとしたアシュレイ・ヘルブレイン(生まれたばかりの純心・e11722)だが、仲間を助け敵を倒すという意志は他のメンバーに劣らない。
 前衛に立った3人と、アシュレイによってエルヴァとティーシャの間には十分な間合いを確保することが出来た。
 そこで、ジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)はまずは己の感覚を増幅し、この後の立ち回りを有利なものにする。
「よりにもよって、我等の同志を狙い撃ちするとはな。大胆な奴だ。だが、許せん」
 冷静な立ち回りだが、それはジドの怒りが浅い事を意味するものではない。ここまで全速力で駆け付けておきながら直截な行動に移らない自制心は、怒りを敵の撃破に結び付けるように機能しているのだろう。
 レプリカントの能力を用いて、仲間に連絡を取ったティーシャ。彼女と合流を果たしたケルベロス7人は、全員がレプリカントである。その繋がりから普段より交流のある、信頼できる者達だ。
「ティーシャさん、まだ壊れてないでしょ? ヒールドローン、VFリング展開。サブジェネレーター、HBパルス抽出開始……照射。私の命、大事に使いなさいよ」
 深手を負ったティーシャのため、クロエ・アングルナージュ(エールシャッセール・e00595)は自身に負荷の掛る治癒手段を行った。
「ああ、お陰でまだもちそうだ。助かった」
 冷徹な抑揚に欠けた口調で問うクロエに、ティーシャは率直な答えと手短な謝意を返す。
「別に礼なんていらないわ。……まあ、気持ちは受け取っておくけど」
 礼を言われるとは予想していなかったので、クロエの口から出た言葉は照れ隠しであった。
「それは何よりじゃ。バーガーを奢ってもらうまでは、死んでもらっては困るのじゃよ」
 ティーシャにオーラで癒しの時間を提供したル・デモリシア(占術機・e02052)の発言は、クロエとは逆に照れ隠しでも何でも無い。強敵を前にしたこの状況においても、平常心を失っていないのだと解釈するべきだろうか。
「はははっ! 頼もしい仲間の到着かい。こいつはやり辛いね」
 エルヴァの将としての理性は、この状況の不利に警鐘を鳴らしている。だが、それを上回る宿敵への熱狂が戦闘の継続を求めたのだった。

●激戦
「折角の一騎打ちだ。邪魔をしないで欲しいんだけどねえ!」
 星座の重力を宿したエルヴァの長剣が、マークを斬り裂いた。
 エルヴァにとっては、この場のケルベロス達は宿敵との一騎打ちを阻む邪魔者でしかない。わざわざ剣を振るうことすら忌々しい。
「キサマがどうオモおうが、マークはティーシャを、ナカマタチをマモる」
 跳び上がりエルヴァの頭上から振り下ろされたマークのアックスは、軽々と避けられてしまった。
 感情の乏しい機械的な口調ではあるが、マークの気迫はエルヴァに対して僅かばかりも劣りはしない。
「ナカマをミステルことは、ケッしてない。キサマがティーシャをネラうカギり、イッポたりともシリゾきはしない」
 不退転の覚悟で立ちはだかるマークに、エルヴァは舌打ちを漏らす。実に面倒だと。
 エインヘリアルの将として相応の武力を有するエルヴァだが、それでも単独でこの人数のケルベロスを圧倒できる程ではない。贔屓目に見ても、精々が互角程度のものだ。
 無意識か、ほんの微かにエルヴァの足が後退するように動こうとした、その瞬間だった。
「どうした、私達に気圧されたか?」
 ジドが見えない爆弾を起爆し、爆発がエルヴァを包み込む。
 それは偶然だったが、エルヴァにとっては臆したと嘲笑されたに等しい屈辱であった。
「誰がびびってるって?」
 元よりティーシャを討たずしてこの場を後にするつもりなどなかったが、エルヴァはこの場のケルベロス全てを平らげなければ気が済まなくなっていた。
「いい覚悟だ。もっとも、貴様が私達に勝てる可能性など有りはしないがな。レプリフォースの力、思い知るがいい」
 レプリフォースがこの場のケルベロス全員が籍を置く旅団だと、エルヴァは知る由もない。何かしらの部隊名か何かだろうと見当を付け、連携が取れているのはそのためかと納得する。
「こいつらが姉貴達の代わりってワケかい。つくづく寂しがり屋だな、オマエ」
 挑発のために侮蔑の言葉を吐き捨てるエルヴァだが、ティーシャは全く動じるない。
「そうだ。姉さん達以上に頼れる仲間達だ」
 凍結光線で挑発に応じようと構えるティーシャ。
「私から行きます!」
 しかしそれよりも早く、アシュレイがエルヴァに向かって突きを繰り出した。彼我の間には数メートルの距離が隔たっているため、その突きは届かない。
「奔れ、苦難を越えし覚悟の旋風……カーディナルガスト!!」
 アシュレイの攻撃は、突きによる打撃ではなかった。繰り出された突きから、グラビティの赤い波動の奔流が放たれる。直線的に放射されたその波動は、エルヴァの体内を破壊し感覚に衝撃を与え透過した。
 人一倍仲間想いなアシュレイにとって、エルヴァの侮辱は看過できないものだったのだろう。当のティーシャよりも先に反応するくらいに。
「そう言うあなたは、1人きりですか? 人望は大切ですよ」
 マインドリングから具現化した光の盾でマークを防護しながら、エフイーは挑発を返す。
(「ここは攻めるべきでしたでしょうね。しかし、攻撃手段が乏しい……」)
 状況を鑑みればエフイー自身も攻勢に出たいところだが、攻撃手段が1つしかないために自粛する。同じ攻撃手段を続ければ対処され易くなってしまう。ここぞという時にそうなる事態は避けたい。
「エフイーは手厳しいのぅ。誰にでも得手不得手はあるものじゃ、あれに人望といった類の美徳を持てというのは無理難題というものじゃ」
 前衛の味方を治癒していたルが、アシュレイの挑発に相槌を打つ。本人は真剣だが、周囲からは天然の煽りにしか聞こえないだろう。
 実際にはエルヴァは一軍を率いる将なのだが、それを知っているのは本人を除くとティーシャだけだ。
 ティーシャにフォローしなければならない義理は無いし、エルヴァは訂正するよりも長剣で黙らせれば良いと判断した。
「これは大層なバーサーカーねっ」
 蠍のオーラに襲われた自身を含め後衛陣を癒すクロエは、純粋にエルヴァから受けた印象を呟く。
 鬼気迫るエルヴァは、狂戦士という形容が似つかわしい。実際には冷静に適切な戦術を選択しているのだが、初めて対面するクロエにとってはそうした印象を抱くのは仕方のないことだ。
「手強い相手だぜ! 出し惜しみは無用だな。これが俺のトップギアだ!」
 エルヴァの虚を突こうと、イグナスはさらに多くの幻影を纏う。自身に掛かる負荷を無視はできないが、それだけの代償がこの強敵に勝つためには必要だと判断したのだ。
「レプリフォースとか言ったね。ティーシャと一緒に、覚えておいてやるよ!」
 敵味方どちらもが、必勝を期してぶつかり合う。互いの力と心が激突する戦いは、その苛烈さ故に決着までに要する時間が短いことは明白であった。
 それはさながら、鮮烈に輝く花火のように。

●宿縁決着
 戦いの趨勢は、レプリフォース達が到着した時点で決していたのかも知れない。
 エルヴァの斬撃はケルベロス達の強化を打ち消し、また守護星座の光は自身に課された負荷を浄化する。単独での戦闘としては理に適った戦術であった。
 けれども、ケルベロス達の連携の前には着実に敗北へと追い込まれているに過ぎない。
 エルヴァの将としての実力と矜持、そして何よりもティーシャへの狂気的執着が、圧倒的不利な戦況にあっても破格の戦果を挙げた。
 エフイーとマークは満身創痍となり、特に狙われるティーシャもまた窮地に追い込まれている。だが、それが限界でもあった。
 ケルベロスは誰1人として倒れてはおらず、エルヴァに残された力は尽きる寸前だ。
「エルヴァさん、作法として聞くわ。敗北を認め、剣を降ろす?」
 クロエの問い掛けに、エルヴァは歯を剥き出しにした笑顔で答えの代わりとする。獰猛な獣のような、無邪気な子どものような、最期まで自らを揺らがせることのない笑い。
 予想通りの答えに、クロエは仲間達へ合図を送る。
 ルに肩を支えられながらのティーシャを皮切りに、レプリフォースの面々は次々にコアブラスターを発射した。
「行くぜ、皆! レプリフォースの力を見せてやるぜ! コアブラスター一斉砲撃を食らいやがれ!」
 イグナスが、
「さぁ、幕といこう!」
 ジドが、
 レプリフォース全員が、続き繋げる。
 途切れる事の無い連携攻撃は、まるで一手での極大攻撃かのようにエルヴァに割って入ることを許さない。
「……」
 正直なところ、最後の攻撃となるであろう必殺のエネルギー光線を発射した際にも、ティーシャは何の感慨も抱くことはなかった。
 最初のティーシャがトドメを刺していたのかも知れないし、途中の誰かだったのかも知れない。全員が光線を放ち終えた後には、かろうじて原型を留めたエルヴァの遺体が地面に横たわっていた。
 エルヴァの遺体が風に舞うように塵となって消えていく様を見守ってから、ようやくケルベロス達は戦闘態勢を解除することができた。
 だが、まだ安堵しきってはいない。
「何とかなりましたか……。ですが、まだ戦いは続きそうですね」
「そうですね、今回は撃退できましたけど……」
 仲間達の傷を癒したエフイーは、この襲撃を手引きした存在を疑い周囲に目を向ける。
 同じようにアシュレイは、何者かが居はしないかと警戒する。
 どちらも、今回の一件がこれで落着したと考えてはいなかった。ケルベロスへの襲撃という異常事態は、何かの始まりを告げる合図なのではと懸念しているのだ。
 一頻り警戒と周囲の調査を行ったケルベロス達だが、何者かの気配も痕跡も発見することはなかった。それなら、今は胸を撫で下ろしても良いだろう。
「ティーシャの無事と、俺達の勝利を誇ろう。R.F R.F R.F!」
 マークは左肩のエンブレムを掲げるように勝鬨を上げた。それに同調し、他のメンバーも腕を上げたり声を合わせたりと、勝利を喜ぶのだった。

●日常
 戦いを終え、ティーシャはエルヴァへと発した自らの言葉を反芻する。
 かつて自分の周りにいた姉妹達とは、もう共に歩めはしないだろう。けれど、今はこうして危機に駆け付けてくれる仲間達がいる。
 ダモクレス、ティーシャ・カシャットはもう居ない。ここに居るのはレプリカント、ティーシャ・マグノリアだ。
 そして、それには仲間達の存在があってこそだ。
「助けに来てくれたこと、感謝する……。本当にありがとう」
 照れくさそうに、ティーシャは心からの想いを仲間達に告げる。
 この時のティーシャの表情も、レプリフォースメンバーの表情も、きっとダモクレスには浮かべることは出来ないだろう。
 かつてと、今。
 デウスエクスと、ケルベロス。
 ダモクレスと、レプリカント。
 同じ存在でありながら、そこには決定的な差がある。
「ふむ……、礼ならば新作バーガーで手を打つかのぅ。皆もそれで良いかえ?」
 死闘を終えたばかりとは思えないルの提案に、仲間達は普段の調子で応じた。
 全員分のバーガーとサイドメニューの金額を計算し、奇跡的に無事だった財布の中身を確認するティーシャ。
 それは、レプリフォースの日常風景であった。

作者:流水清風 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 11
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