しん……とした暗闇の中、二人のデウスエクスの声が聞こえてくる。
通気は悪く、湿気がこもっている。もし、この場に人間がいたのなら、そのむせ返るような空気に、息苦しさを覚えたかもしれない。
「こちらが、彼の情報です。どうぞ、お受け取りいただきたい……」
シルクハットに片眼鏡という姿のデウスエクスが、長いコートを翻しながら、正面の女性のデウスエクスに話しかけていた。その手には何枚かの紙があり、それを彼女に差し出していた。
「ふふふ……そうですか。ご苦労様ですわ、アダムス男爵」
「いえいえ、互いの利益が一致しての事ですので」
アダムス男爵と呼ばれた紳士は、手を胸にあて、軽く頭を下げる。
「礼はいらぬ……ということですか?」
「はい、あなた様が標的を確実に始末していただければ、それが我が利益となるのです」
アダムス男爵の言葉に、紙を受け取った女性の死神、リヴィ・ターヴンはその情報にさっと目を通し、妖しげに微笑む。
「そなたの狙いが一体何処にあるのかは、この際聞かない事にいたしましょう。報告を楽しみに待っていてください」
そう言うと、リヴィ・ターヴンはそのまま闇に消えていった。
「くあ……」
夜も更けた頃、ナギサト・スウォールド(老ドラゴニアンの抜刀士・e03263)は、あくびをしながら自宅の床に入ろうとしていた。
「明日には、道場にでも顔を出してみるかのう……」
ナギサトは弟に任せた道場の事を考えながら、ボクスドラゴンの『スー』を見る。スーはヘッドホンをつけながら、畳の上でごろりと横になっていた。
家は借家だが、不満は特にない。スーは目を瞑っているが、寝ているわけではなさそうだ。ナギサトはその様子を見ながら微笑んだ。
しかしその時、ナギサトが素早く自らの刀を掴み、柄を握った。
「何奴!?」
ナギサトが気配のある暗闇に目を凝らす。スーも、いつの間にか彼の傍らに控えていた。
「ふふふ……流石、と言った所でしょうか?」
「誰じゃお前さんは?」
「ナギサト・スウォールド……。貴方を殺したくて仕方がありませんでした」
声の主、リヴィ・ターヴンがそう言うと、いきなり暗闇から黒い弾丸を撃ちはなった。
バキバキバキ……。
「ぐぉ……!」
ナギサトはその弾丸をまともに食らい、吹き飛ばされた。その勢いで障子が破壊される。
「……名ぐらい、名乗ったらどうじゃな」
スーがナギサトに属性インストールを施し、ナギサトはよろよろと立ち上がる。そして、その低い体勢のまま刀を一閃する。
しかし、刀は空を切った。
「さあ……何もかもこれで終わりです。安らかに、お眠りなさい……」
彼女の左手に握られた刃が、ナギサトの体を貫いた。
「みんな、ごめん。ちょっとええか? 急ぎやねん!」
宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)は、目の前にいたケルベロス達を片っ端から集めていた。珍しく息が上がっている。その様子に、集められたケルベロス達が心配そうに駆け寄ってくる。
「はあ……はあ……。あ、あんな……」
「絹。まあ落ち着け。これを飲め」
リコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)から渡された水筒を受け取り、絹は礼を言いながらそれを飲み干す。
「ん、有難うな。よし、落ち着いたわ。……あんな、ナギサト・スウォールドさんが、宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けることが予知されたんや。急いで連絡を取ろうとしたんやけど、もう、連絡がつかへん状態やねん。ちょっと、ほんまヤバイかもしれんねん。ナギサトさんが無事なうちに、なんとか救援に行って欲しいねん!」
早口でしゃべる絹の話を聞いたケルベロス達は、ケルベロスへの襲撃という事実と、既に緊迫した状況に、驚きを隠せなかった。
「ええか、手短に話すで。ナギサトさんが自宅で、リヴィ・ターヴンちゅう死神に襲われてる。そこへ向かって欲しいねん。敵は一人。自宅内やけど、戦えるだけのスペースはあるから、建物が崩れたりする心配はないで。
攻撃方法は、ドレインの攻撃をメインに毒の黒い弾丸を放ってくる。ヒールもあるっちゅう情報や。せやから、急いで欲しいねんけど、準備は抜かりなく頼むで」
絹の話に少し冷静になるケルベロス達。救出できるだけの準備はしなければならない。こちらがやられてしまっては元も子もないのだ。
「私も同行する。協力してナギサトを救出しよう。宜しく頼む」
リコスの話に頷く絹。
「ケルベロスを襲撃するちゅう話が、そこらへんから聞こえてくるし、なんやきな臭いわ。でも、ナギサトさんを無事に救出して、ケルベロスを襲撃しても無駄だという事を敵にわからせるチャンスでもある。気合入れてな! 頼んだ!」
参加者 | |
---|---|
アンネリース・ファーネンシルト(強襲型レプリカント・e00585) |
スレイン・フォード(シンフォニックガンシューター・e00886) |
月見里・カヤ(神秘捕獲巫女・e00927) |
ディクロ・リガルジィ(静寂の魔銃士・e01872) |
ナギサト・スウォールド(ドラゴニアンの抜刀士・e03263) |
逆黒川・龍之介(剣戟の修練者・e03683) |
イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389) |
エイト・エンデ(驪鱗の杪・e10075) |
●ともしび
ナギサト・スウォールド(ドラゴニアンの抜刀士・e03263) は己の右肩に突き刺さった死神の刃を見つめながら、その傷の深さを認識する。かなり酷い。下手をすればこのまま……という考えがよぎる。しかし、長年の戦いの経験から冷静な思考も生まれてきていた。
(「こやつを野放しには出来ん。せめて、近隣に知らせねば。叫ばねば」)
「デウスエクスじゃ! 避難せい!」
ナギサトはその死神の刃を肩から無理やり抜きながら、外に聞こえるよう、腹に魂をこめながら奮い立ち、大声を上げた。ナギサトの右肩から大量の血が噴き出す。
「ふふ……。用があるのは貴方だけです。ご安心くださいませ」
死神リヴィ・ターヴンの顔を、窓から差し込む月明かりが照らし出す。その表情は、ようやく苦悩から解放されることからの悦びに満ち溢れていた。
ナギサトは刀を鞘に納めながら、両足を前後に開き、腰を屈めて抜刀の構えを取る。
(「実力差がありすぎる。……どこまで、耐えきれるか」)
ナギサトのボクスドラゴン『スー』は、主人の傷を心配そうに見つめる。すると、ナギサトの意識が流れ込み、次の手段を伝達される。スーは不満げであったが、そのまま口にグラビティの力を集め、一気に放った。しかし、そのブレスをリヴィは難なく避ける。
「……悪あがきですか。それも良いでしょう。そのサーヴァントも一緒に仲良くお眠りなさい」
死神はもう一度左手に握った刃を、ナギサト目掛けて打ち放とうとする。
バリィン!!
その時、玄関から大きな音と声が響き渡った。
「師匠、ご無事ですか!?」
「おじいちゃん!」
ドォン!!
間髪居れず裏口からも音が響き渡る。
「スウォールド殿!」
ナギサトはその聞き覚えのある声を聞き、ほんの少しの間、目を瞑る。
「な、何故……!?」
続々と部屋に侵入してくるケルベロス達を確認し、困惑の表情を浮かべるリヴィ。
ナギサトの前に、すっと背を向けた人影が立ち、死神に飛び蹴りを放つ。その蹴りは、リヴィの武器に弾かれ、人影はまたナギサトの前に降り立つ。
「ナギサト、無事か?」
その人影、スレイン・フォード(シンフォニックガンシューター・e00886)は、これ以上死神がナギサトに攻撃を加えようとするのを邪魔するように、立ちふさがる。
そして、いきなり裏口からの飛び蹴りが、リヴィを吹き飛ばした。
「お取り込み中、悪いな。多勢で護らせてもらう」
エイト・エンデ(驪鱗の杪・e10075)が時間差でその足元に蹴りを放ったのだ。エイトは普段は収納してある角や翼、尾を出現させていた。
月見里・カヤ(神秘捕獲巫女・e00927)のボクスドラゴン『ミーガン』が、エイトの横で仁王立ちの構えで、死神をにらみ付ける。
その蹴りを予想していなかったリヴィは、家の壁に激突しつつ、ゆっくりと起き上がる。
「スレイン……。イルヴァにディクロ。おお、エイトも……。それに、他のケルベロスも……。助かった、すまんのぉ」
ナギサトは駆けつけたケルベロスを見て、後ろに下がりながら刀を鞘に納め、ゆっくりと息を吐き集中していく。すると、右肩の出血が止まっていった。
「師匠を傷つけるのは許しません」
イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)は、普段の明るい表情ではなく、硬い表情で呟く。そしてその目には明らかな殺気が漲っていた。
「絶対に、……殺します」
そう言いながらも冷静に、前に立つスレインとディクロ・リガルジィ(静寂の魔銃士・e01872)、逆黒川・龍之介(剣戟の修練者・e03683)に、ケルベロスチェインを地面へと這わせて魔方陣を描いていく。
「マスター・ナギサトを発見。ただちに補助を開始します」
アンネリース・ファーネンシルト(強襲型レプリカント・e00585)が部屋に飛び込み、グラビティの集中を行う。
『スナイパーシステム広域展開、味方とのリンク開始。』
アンネリースは、前衛の3人の武器に対して力を与え、ライドキャリバー『ケーニヒスクローネ』を、更に前へと配置する。
布陣が定まってきた事を見た龍之介が、電光石火の蹴りを放ち、ディクロが暗闇から一気に間合いを詰める。
『黙って踊りなよ』
立ち上がったリヴィを、龍之介の蹴りとディクロの惨殺ナイフ『月禍』が襲う。龍之介の蹴りは、正しくその死神のアゴを捉え、『月禍』の魔法の赤いリボンは、リヴィの咽元をかすめた。
●うらみ
カヤとミーガンが護殻装殻術と属性インストールをナギサトに施し、リコスが螺旋掌を打ち込んだ時、形勢は完全に逆転していた。
「お……おのれ」
リヴィは、その怒りの矛先を目の前の黒猫のウェアライダーに向け、広範囲の黒い弾丸を放つ。龍之介は抜刀し、敵の弾を打ち落として避けたが、不意を付かれたディクロと、隣に居たスレインがその弾丸を食らう。
しかし、ケルベロス達は、攻撃の手を緩めない。
ケルベロス達は、合流と共に、短期決戦を挑んでいった。その攻撃は抜かりなく、様々な補助の力を使いながら、確実にこの死神を消耗させていく。
長引くとこちらが不利となる。だが、絹に言われた通り、冷静に事を進めていく。しかし、スレインは一人、前のめりになりすぎている知り合いに気が付いていた。
『さーあ、神秘の力付与すっぞ!!』
グラビティの力を前衛の3人と、ケーニヒスクローネ、それにミーガンに纏わせ、更なる防御を施すカヤ。
「よっしゃー!いくぞケーニヒ!逆強襲してやろう!」
アンネリースがゼログラビトンを撃ち放つが、それをリヴィは寸での所でかわす。そこへ、避けた先にケーニヒスクローネが炎を纏って突っ込むと、リヴィの右腕から炎が巻き起こった。
『じっとしていろ』
エイトが五指の先端から電気が迸らせながら、リヴィの懐に潜り込み、その腹を焼き焦がす。そのまま流れるように、龍之介が斬霊刀から斬撃の一撃を放ち、リコスがその足元に向かって蹴りを放つ。
龍之介の一撃を食らいながらも、リコスの蹴りを避けたリヴィは、憎悪の表情が浮かび上がってきた。
「ナギサト……キサマを、殺す。キサマさえ、居なければ!」
リヴィは静かに治癒を受けているナギサトに対し、刃を向けるが、どうしても頭の隅でちらついて離れないウェアライダーの姿を見据える。
「煩いんだよ!」
そのウェアライダー、ディクロに向かって距離を詰め、刃をディクロの太腿に付きたてた。
死神は髪の毛を振り乱して笑い、ディクロから力を吸い取っていく。
「っく!」
ディクロがその刃を、無理やり抜き取りながら、距離を取る。太腿から鮮血がぼたぼたととめどなく流れ落ちる。
「もう、こ、これ以上は……」
その攻撃を見たイルヴァが、口元を震わせつつ、気持ちを振り払うかの様に空の霊力を帯びた刃を振り回す。しかし、その攻撃は空を切った。
イルヴァは、少し涙目になっていた。冷静になろうとするも、感情が追いつかない。大事な人を失う恐怖を、何とか力に換えているつもりなのだが、考えれば考えるほどにその切っ先は鈍っていく。
「そう……、そういう手段もありますわよね……」
己の劣勢を悟りながら、その様子を見たリヴィが、妖しげな笑みを浮かべる。眼の奥がその時を楽しむかの様に震えていた。
●たいせつなもの
ぽん……。
ふと、イルヴァの頭に、暖かで包み込むような手の感触が伝わった。
「いつものお前の音とは違う。……いけるのか?」
イルヴァがその感触をたどると、見慣れたスレインの顔があった。スレインの肩口からも血が流れ落ち、その部分がうっすらと変色しているのが見えた。
「……!」
その顔と傷を見て、彼女は一瞬泣きそうな表情をするが、直ぐに口を結びなおし、
「大丈夫です」
と、返す。
それを見たディクロが、気合の声を上げ、己の傷を塞いでいく。展開はこちらに優位に傾いている。しかし、ここで気を緩める訳には行かなかった。
カヤが再び神秘の力を発動させ、今度は中衛のアンネリースとイルヴァに纏わせていく。更にケルベロス達の状態異常耐性能力が上がっていった。
ジリジリと間合いを読みあう両者。少しの時間の静寂。ふと、龍之介が口を開いた。
「何故ナギサトを狙う?」
それは、ナギサトを含め、各自が感じていた疑問であった。
再び静寂が訪れる。その間も両者はにらみ合い、次の一手を探る。
「……それは、貴方達には教える必要がないことです」
ケルベロス達がやはり、と思った瞬間。リヴィはにやりと口角を上げながら、言葉を続けた。
「一つだけ、教えてあげても良いことがあります。……それは、私が彼を殺したいという事だけです!」
そう言うとリヴィは、ナギサトの傍らでミーガンと共にナギサトに最後の属性インストールを施していたスー目掛けて一直線に突っ込んだ。
劣勢を感じたリヴィは、せめてナギサトのたいせつなものを壊すことで、己の恨みを晴らそうと躍起になる。しかし、自分の刃はこのボクスドラゴンにはケルベロスが邪魔をして届かない事はあらかじめ分かっていたのか、直前で足の運びを変え、目の前の少女に切りつけた。
リヴィはその切っ先が当たる瞬間を想像したのか、たまらないと言うような表情が見て取れた。
ガッ!
しかし、リヴィが振り下ろした刃は、イルヴァに当たる直前にあらぬ方向へと弾かれた。
「そう来ると、予感がしていた。さあ、……お引き取り願おうか。なんならこの世以外に引き取っても構わんしな」
表情を変えずに、その刃を刀で弾いた龍之介が、返す刀でそのまま切りつける。
「まあ、逃がすつもりは、無いがな」
エイトが縛霊手で殴りつけ、網状の霊力でリヴィの動きを制限するべく緊縛していく。
「戦闘モード起動。アンナ、迎撃行動に移ります」
ケーニヒスクローネが激しいスピンでリヴィの足元をズタズタに引き裂き、アンネリースがリヴィの頭に向かって回転させた腕で殴り込むと、その角がボロボロに砕かれていった。
●なみだ
「助けに来たぜ、ナギサトさん」
その時、更なるケルベロスの声が集まりだした。
『一人はみんなのために、みんなは勝利のために。我が重力の鎖に願う―――彼の者に勝利を掴み取る力を』
夜船・梨尾が裏口からスレインに癒しのグラビティ・チェインを受け渡す。
『恋人よ、枯れ落ちろ』
イブ・アンナマリアがリヴィの懐に飛び込み、おもむろに口付けを交わす。
「ぐ! 新手……か」
イブの口から運ばれた毒が、更にリヴィに突き刺さる。距離を取り、動こうとするが、更なる攻撃がリヴィを襲う。
『望み抱きし怪物達よ、さあ踊れ、まだ踊れ』
紅音・魅霧から放たれた呪いの咆哮が、リヴィの思考をぼやけさせた。
そして、何処からともなく、前衛のメンバーへと紙兵が付与されていく。ナギサトの窮地に、4人ものケルベロスがサポートに現れたのだ。
絶望の淵に追いやられそうになるリヴィ。しかし、ケルベロス達は一切のスキを見せなかった。
「負けられないのよ!!」
何やらオレンジの文字が書かれたシャーマンズカードを振りかざし、カヤが半透明の「御業」でリヴィを縛り、ミーガンがボクスブレスで傷を更にえぐる。
「観念……するんだな」
エイトが、再び五指から高電圧を浴びせながら、言う。
「お、おのれおのれおのれ! 貴様らに、何が分かる! があああああ!」
再び己の刃を持ち、叫び声を上げながら、支離滅裂な言葉と共に無茶苦茶にそれを振り回す。
しかし、その攻撃は、既にケルベロス達には当たらない。
「こ、ころ……す」
ガシャン……。
嗚咽を漏らしながら、リヴィは刃を取り落とす。
『毎日打ち込み続けたこの一撃、受けて見ろ!』
龍之介がそう言った時には、無数の傷がリヴィの胴体に刻まれていた。
「で、お前さんは一体誰なんじゃ? 初目にかかるはずじゃし、恨まれることをした記憶はとんとないが」
傷から完全に回復したナギサトが、つ、と前に進み出る。
「ナ、ギサ……ト」
リヴィがそう言った時、ナギサトが、いつの間にか抜いた刀を、鞘に戻した。
「既に」
一陣の風が吹く。
「斬り捨てておる」
リヴィはばたりとその場で倒れ、ゆっくりと、消滅していった。
リヴィが完全に消滅した後、ケルベロス達は、戦闘で壊れた室内や、自ら壊した玄関や裏口をヒールで直していた。
「あだだ、包帯きつく巻きすぎじゃ」
「傷は締めるといいって習ったです」
イルヴァがナギサトの傷口に、きつく包帯を巻いていく。
壊れた箇所のヒールを行っていたスレインは、ヒールで傷は塞がっているのに、何故包帯をそれほど巻いているのだ、と聞こうとしたが、なんとなく口を挟まなかった。その理由は、まだ彼にも良く分かっていない。
「師匠……」
「ん? なんじゃ?」
「……良かったです」
イルヴァはそう言い、ほろりと涙の粒を落とし、うつむきながら包帯を更にきつく縛った。
「これ、気持ちは分かるが……泣くでない」
ナギサトはその弟子の姿を見て、ふうと息を漏らし、辺りを見回すと、視線の先にはカヤとミーガンがてきぱきと家にヒールを施している所が見て取れた。
横にはイルヴァに包帯をぐるぐる巻きにされたスーが、ごろりと横になっており、カヤ達の他にも、集まってくれたケルベロス達が家屋を細かく直してくれている。
「……しかしえらく派手に壊したもんじゃな。掃除も大変じゃよ……やれやれ」
「スウォールド殿。こちらの装飾はスーのものかな? これは、無事のようだぞ」
エイトが部屋の片隅に落ちていた小さな装飾を拾い、尋ねるとナギサトは、頷きながら礼を言う。
「そう言えば、おじいちゃん。本当に恨まれていた原因、聞かなくて良かったの? 心当たりとか、無いんだよね?」
少し心配そうに、ディクロがナギサトに問う。
「無い。……そりゃお前さん、俺はケルベロスじゃ。只の、逆恨みじゃろう」
ナギサトは、少し形の変わってしまった裏口を見る。
「死神を斬るのは当たり前じゃろうて。何を呆れたことを」
ナギサトはそう言いながら、注いでいた月明かりを眺め、満足そうに微笑んだ。
作者:沙羅衝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年6月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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