宿縁邂逅~鴉山凛子の刀術収集

作者:紫堂空

●剣鬼あらわる
「よく来た、一刀斎・鴉山凛子。螺旋忍軍男爵アダムスが、新たなる使命を伝える」
 山中の廃屋。
 障子を越えて届く月の光のみを照明とする薄暗い室内で、シルクハットに片眼鏡という紳士然とした格好の男が、闇に向かって口を開く。
「地獄の番犬を称するケルベロスを、殺害或いは捕縛せよ。
 既に上位組織との調整は済んでいる、思う存分暴れてくるがいい」
「は、我が刀術にお任せください」
 部屋の隅――月光の届かぬ暗がりに控えていた女は、伝えられた標的の名に、小さく笑みを浮かべるのだった。

「今日の訓練はみんな気合入ってたわねぇ。この分なら――」
 ドラゴニアンに戦闘術を教えることを生業とするキリスティア・ファンション(群龍教官・e01462)は、明日の訓練内容について考えながら夜道を一人歩いている。
「……ん?」
 ふと気付けば、いつのまにか周囲に人の姿がまったく見えない。
 それほど人の多い通りではないが、人も獣も、気配も無いほどに静まり返っているのは異常である。
「誰!?」
 警戒するキリスティアの前に音も無く現れたのは、鬼のような角を生やして刀を背負った褐色肌の女。
「今日こそ、その刀術の秘儀、奪わせていただく」
「またアナタなのぉ? 何度も言ってるけど、ワタシはカタナなんて使えないわよぉ?」
 一刀斎を名乗り、刀剣術に関する秘儀の収集に血道を上げる螺旋忍軍、鴉山凛子。
 彼女に何度となく襲われたキリスティアは、うんざりした声を漏らす。
「そうつれなくされるようでは、お前の教え子に協力してもらわねばならぬかな?」
「なっ、!」
 一対一では分が悪い。
 冷静に逃げの道を探っていたキリスティアは、生徒のことを持ち出されて一瞬にして『教官』としての顔に切り替わる。
 だが、戦闘中にそれ以外のことに気を取られるのはまずかった。
 鴉山凛子が振るう、相手の体を凍りづけにする斬撃を受け損ねてしまう。
「さぁ、見せてみろ。その刀の業を」
 興奮を抑えきれぬ色を見せながら。
 激しく吹き飛ばされたキリスティアへと、刀術喰らいの螺旋忍軍はゆっくりと近づいていくのだった。

●刀剣の技、探してマス
「キリスティア・ファンション(群龍教官・e01462)が、宿敵であるデウスエクス、一刀斎・鴉山凛子の襲撃を受けることが予知されました」
 珍しく慌てた声で、セリカ・リュミエールは集まったケルベロス達に告げる。
「急いで連絡を取ろうとしたのですが、連絡をつけることは出来ませんでした。
 もはや一刻の猶予もありません。キリスティアさんが無事なうちに、なんとか救援に向かってください」
 敵はデウスエクス、螺旋忍軍の一刀斎・鴉山凛子。
 配下などは無く、単体での襲撃である。
 攻撃方法は三つ。
『氷結の太刀』は、氷結の螺旋をのせた斬撃を放ち、対象を凍らる。
『月影』は、相手の手足を狙い、動きを鈍らせる斬撃。
『斬空』は、対象の敵を空間ごと斬り裂く、魔法じみた抜刀術だ。
「氷結と斬空は素早さを、月影は理力を用いた攻撃です。
 氷結と斬空は遠距離まで届くので、ご注意ください」
 日本刀での攻撃のみを行ってくるが、螺旋忍軍の技と同等の刀術も用いるので、『日本刀』装備の『螺旋忍軍』として考えて当たればいいだろう。
 現場は夜間の市街地。
 大通りという程ではないが、十分な広さがあるので戦闘に支障はないだろう。
 また、鴉山凛子の人払いの術によって周囲に一般人などは存在しないため、巻き込まれる者が出るという心配は不要である。
「まさかケルベロスを直接狙ってくるなんて……。
 しっかり返り討ちにしてあげないといけないよねっ!」
 共にセリカの説明を受けていた夏川・舞は、螺旋忍軍の企みは必ず阻止しなければと、いつも以上にやる気をみせるのだった。


参加者
テルル・ライト(クォーツシリーズ・e00524)
リアトリス・エルス(冥途忍者さん・e01368)
キリスティア・ファンション(群龍教官・e01462)
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
シルキー・ギルズランド(ぱんつはかない系無表情座敷童・e04255)
呂・花琳(鉄鍋のファリン・e04546)
チェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)
十字ヶ丘・丁(キャストファング・e21484)

■リプレイ

●疾れ! 救え!
「支援者じゃなくてケルベロスを直接狙う手段に出るとはね、敵もなかなか大胆な事するね」
 そんなことを言うのは、戦の前の腹ごしらえとしてチョコバーを齧っていた比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)。
 食べる事が好きというだけあって、本作戦にも、いくつもの食べ物を持ち込んでいる。
「一対一では此方が不利ですし、各個撃破は有効な作戦ですね。
 ……狙うなら旅団長など地位の高い方を狙えばより有効かと思いますが」
 黄泉の発言にそう返すのは、テレビウムの『先生』と参加した、レプリカント娘のテルル・ライト(クォーツシリーズ・e00524)。
 テルルは迅速にキリスティア・ファンション(群龍教官・e01462)を救助する為に、アイズフォンによる検索で、目的地までの最短ルートを見つけている。
(「飛べる人は飛んで行けば早く着きますね。
 先生でも運んでもらえば……?
 サーヴァントは人とか大荷物に該当するんでしょうか?」)
 その際、飛行可能な者に先行してもらうことも考えたようだが……。
「まぁ先生を抱っこするのは私だけで十分ですね」
 と、自身の信条に従い思い付きを却下。
 大人しく、全員で地上からのアタックと相成ったのだ。

 そうして、可能な限り急いで現場に向かったところ。
 危ういところで、どうにか間に合ったらしい。
 派手な戦闘音が具体的な場所を知らせており、到着がいくらか早まったおかげである。
 だが、まだ距離がある。
「くぁっ!」
 あと少しの道のりを急ぐケルベロス達が到着するより先に、キリスティアは強烈な一撃を受けて倒れてしまう。
 魔人状態になっていることからも、予知で伝えられたところからさらに抗っていたのが見て取れる。
 倒れた状態のキリスティアに近寄った螺旋忍軍、一刀斎・鴉山凛子は、なにやら言葉をかけているようだ。
「どんだけ刀フェチなのよぉ~!!」
 キリスティアの叫び声がこちらまで届いてくる。
 どうやら、鴉山凛子の提案は否定されたらしい。
 螺旋忍軍は仕方ないというようにかぶりを振ると、手にした刀をゆっくりと振り上げ――。
「刀……螺旋忍軍……そしてあの髪……クク、ククククククク。
 見つけた……見つけたぞ! ついに奴に繋がる有力な手掛かりを!!」 
 その光景を見た呂・花琳(鉄鍋のファリン・e04546)は、狂的な笑みを浮かべて、猛烈な勢いで駆け出していく。
「っ!?」
 刀を振り下ろしつつも、走り来る新手に思わず振り返る鴉山凛子。
 花琳は勢いを緩めることなく螺旋忍軍の脇を滑り抜け、キリスティアの前面に立って、迫る刃を寸前で受け止める。
「キリスティアさん、大丈夫!?」
 一瞬遅れて駆けつけた、いつも笑顔なたれ耳うさぎのウェアライダー、チェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)がキリスティアに言葉をかける。
「ケルベロス……邪魔をしに来たというわけか」
「一人でいるところを狙うだなんて、なんて卑怯な!」
「ふ、一人を多数で囲むお前達に言われたくはないな」
「む、むむ。……ええい、勝てば官軍なのだ!
 増援、いきまーす!」
 言い負かされかけたチェリーは、開き直って正々堂々、数の暴力の行使を宣言する。
「ドラゴニアンに危害を与える輩はこのテイさんが許さないよってね」
 実家がドラゴニアンの為の格闘術を教える道場だったこともあり、キリスティアに親近感を持つ十字ヶ丘・丁(キャストファング・e21484)は、教え子を人質にしようという鴉山凛子に強い怒りを向ける。
「彼女の代わりに……わたしが刀術を教えてあげる…………」
 無ぱんつ流の遣い手(嘘)、シルキー・ギルズランド(ぱんつはかない系無表情座敷童・e04255)がキリスティアから自分に注意を引き付ける為、ゆっくりと日本刀を抜き放ち構える。
「ほう、面白いな」
「授業料はあなたの命……。もしくは……その頭の角……」
「っ、本当に、面白い」
 命、のところまでは確かに浮かべていた鴉山凛子の不敵な笑みが、無表情ながら興味津々というのが痛いほど伝わる視線を角に向けられて、僅かに引きつる。
 軽口や煽りの類ではない、やると言ったからにはやるという凄みがそこにはあった。
「一刀斎とやら、お主に恨みは無いが……別の意味でも見逃すわけにはいかん!」
「……敵じゃなければ仲良くしたい容姿なのに」
 この相手になにやら尋ねたいことがあるらしい花琳と、見た目が気に入ってしまったという黄泉の二人は、夜間の戦闘に際して用意したハンズフリーのライトを点けて準備完了。
「ん、別に恨みはないけど死んでもらうね?」
「がう!」
 刀術にこだわる『忍者』とはいったい……。
 そんな疑問が浮かんでしまったリアトリス・エルス(冥途忍者さん・e01368)だが、目の前に敵がいるなら倒すだけ。
 白いふわもこボクスドラゴンのステラと共に、宣戦布告。
「舞さんは、メディックで回復とかお願いするね」
「おっけー、まかせといて!」
 要請を受けた夏川・舞は、軽く頷くと後方に下がり、刀術収集者の攻撃に備える。
 陣形は整った。
 さぁ、ケルベロスを狙う刺客とのバトルの始まりだ。

●いざ戦闘開始
「刀に詳しいそうじゃな……ならば蒼白い光を放つ青竜刀を持った黒尽くめの女を知っておるか?」
「……」
 キリスティアとの間に立ち塞がった花琳は、自身の宿敵である『墨華大聖』について問いかける。
 だが、鴉山凛子がそれに答えを返すことはない。
 知っていて黙っているのだろうか。
 あるいは刀剣の技にしか興味が無く、そもそも知らない……ということも、あるかもしれない。
「まぁ、喋ろうが喋るまいがお主の運命は変わらぬがな!」
 焦りがあるのだろうか。
 心と体がちぐはぐだ。
 相手に合わせて自慢の鉄塊剣、『無情大剣』での一撃を喰らわせてやろうと思うのだが、どうにも動きがぎこちない。
「ならば!」
 せめて、キリスティアと敵との距離を離そう。
 花琳はエアシューズ、戦術機動輪『島風』を使い、激しい竜巻を起こしてぶつけるのだった。
 続けて、相手の注意をキリスティアから逸らす為、シルキーが斬りかかる。
「くっ、おおっ!?」
 抜かりなく受け太刀を構えるも、予想を外された鴉山凛子が思わず声を上げる。
 咄嗟に体を反らして刃を避けようとするが、間に合わない。
 ぱんつをはかないことにかけては達人級! なシルキーの、冷たささえ感じさせる斬撃が、螺旋忍軍の体を鋭く抉る。
「む、普通とは違う太刀筋――面白い」
 どうやら、普通の達人のようでちょっと普通でないシルキーの技に、刀剣術収集家としての血が騒いだらしい。
 実際には、ぱんつを穿いてないが故の微妙な動きの差異なのだろうが……。
 そうやって相手の対処にズレを生じさせることこそ、無ぱんつ流の極意なのかもしれない(適当)。 
「もっと見せてみろ! 今度は護りの技だ!」
 狙い通りシルキーに興味を持った刀術狩りは、さらなる術技を求めて攻撃を仕掛ける。
「させないよ!」
 だが、これは一対一の勝負ではない。
 多数でかかっても、勝てばいいのだと言った通り、チェリーが猛進。
 シルキーに向かう凍てつく螺旋の力を、自らの肉体でしっかりと受け止める。
「痛た……。返してもらうよ!」
 本来は素手での戦闘が得意なチェリーだが、時にはナイフも使う。
 素早い動きで一気に距離を詰め、回避を許さずナイフで切り裂く!
 血を操る能力に長けているというだけあって、返り血を吸収して傷を癒すというおまけ付きだ。
「テイさんの足技も受けてくれるかな!」
 さらに狙い済ましたように跳び込んだ丁が、急所狙いの蹴りを叩き込み、痛みで相手の動きを止めにかかる。
「さ、今の内に――楽にしてあげましょう。……冗談ですよ?」
 各人の働きにより、無事窮地を脱したキリスティア。
 だが、彼女の負った傷は深い。
 テルルは自然治癒力、免疫力強化の薬液入り弾丸、メディカルバレットを撃ち込み治療にあたる。
 その間の安全を確保する為、サーヴァントの先生が顔面から激しい光を放って囮となっていく。
「これもオマケにつけとくね」
 舞も回復役として抜かりなく、キリスティアの分身を作って次の攻撃に備えるのだった。
「残念だけど、縛らせてもらうね」
 いくら見た目が良くても敵同士、現実は非情である。
 残念がりつつも手心を加えるようなことはなく、黄泉は禁縄禁縛呪で一刀斎の動きを制限する。
「ん、ボクは刀なんてどうでもいいし、殺すのに刀にこだわるとかしないし、お気になさらずで?」
「きゅっぴぃ?」
 気にしなくていいといいながら、本当に気にしなかったら死ぬような攻撃を繰り出すリアトリス。
 シャドウエルフらしい隠密製の高い斬撃が、螺旋忍軍の傷口を正確になぞり広げていく。
「くっ、」
 斬撃とはいえ、あくまで刀剣の術にしか執着しないのだろう。
 特別な注意は引けなかったが、とりあえず問題は無い。
 主の攻撃の間にステラがキリスティアの回復を行い、連携度の高さを披露する。
(「最悪な状況、そこまで『私の刀』が見たいって訳!?
 襲われた中でも今回が一番過激だけど、誰かに入れ知恵された?
 でも今はこの状況を打破しないと駄目……」)
 危ういところを助けられたキリスティア。
 色々と気になることはあるものの、今大事なことは、一つだけ。
 数々の治療を受けていくらか持ち直した戦闘教官は、本格的に戦うために前に出る。
「仕方ない、本気で戦わせて貰うわ」
「面白い。ようやくその気になったようだな」
 構えをとるキリスティアに、鴉山凛子が愉しそうに笑みを浮かべる。
 さぁ、ここから刺客撃退戦の第二ラウンドだ。

●執着の終着
「私の刀はね、アナタが思うより――結構早い」
「っ!?」
 竜種抜刀(ドラゴンスケイルブレード)、解禁。
 確かに刀など持っていなかった。
 驚きが動きを鈍らせ、回避をしくじらせる。
 キリスティアが放ったのは、無数の竜の鱗を集めて作った刀身による斬撃。
 発動の瞬間までかたちを持たない為に、容易に見切れるものではない。
「これがお望みの刀よ、欲しくなっちゃった?」
「いい。いいぞ。もっと見せてみろ!」
 軽口を向けるキリスティアだが、刀剣術収集家の執念は、彼女の予想を上回っていたようだ。
 目の色を変えて、自身の奥義で返礼する。
 それは、同じく回避困難な剣。
 空間ごと分かつ、必殺の抜刀術。
 ――だが。
「躱せぬのなら受ければいい。簡単なことじゃ」
 そう。
 一対一ならともかく、数で勝っているのなら、攻撃は受け役に任せてしまえばいい。
 再び二人の間に割り込んだ花琳が、躱せない攻撃を自らの肉体で防いでみせる。
 受けた傷には、回復役であるテルルが、すかさずメディカルバレットを撃ち込んでいく。
 さらに先生も、応援動画による回復補助を。
「ボクらも忘れちゃいけないよっ!」
「がぅ!」
 舞とステラも、癒し手として戦線の維持に尽力する。
 その間に攻撃役は、遠近それぞれの得意距離から、相手の対応力と生命力をしっかりと削っていく……。

 そうやって数の利を用い、各々の強みを生かした結果、個の戦力では大きく上回る鴉山凛子を追い詰めることに成功した。
「とっておきのトウジュツを……見せてあげる……」
 そう言ってシルキーが使うのは、【呪怨の童巫女・カゴメカゴメ】。
 呼び出された、怨嗟の念にまみれた童巫女集団は、それぞれ手にした日本刀を抜刀し――。
「なっ!?」
 一斉に投げつける!
 投げつける! 投げつける! 投げつける!
 なんという暴力。
「どう……?」
 刀術ならぬ投術を披露したシルキーは、いつの間にか鴉山凛子の背後を取り、容赦なく斬りつける。
「くっ、かはっ、は、やってくれる」
 トラウマ級の童巫女の恐怖に加え、多大なダメージを受けた角付き女子は、それでも地に膝つくこと無く戦意をみせる。
「させぬわ!」
 放たれた急所狙いの斬撃を、花琳が受け止める。
 回復?
 否、今の自分はそのような手段など持ち合わせていない。
 反撃あるのみ!
「那由他那由他。為一頻波羅。頻波羅頻波羅。為一矜羯羅。矜羯羅矜羯羅。為一阿伽羅。踊るがいい、狂うがいい、黒き羽音の中で!!」
 八獄顕正【叫喚】矜羯羅の咢。
 かつて喰らった魂から花琳が創り出したのは、夥しい数の羽虫である。
 肉体的ダメージよりも、地獄の如き光景による心の傷を与えることを目的とした技が、一刀斎を苛んでいく。
「く、ま、まだ……」
「駆け巡れ私!」
 十分に相手の動きが鈍ったのを察した丁は、攻撃を威力重視に変更。
 一式・嵐風。
 高速飛行ですれ違い様に閃く、竜の爪。
 引き裂かれた螺旋忍軍の体から鮮血が舞う。
 同じく黄泉も、動きを抑えるものから倒す為の攻撃に。
 ブラックスライムの槍で突き刺し、毒に侵していく。
「ん、しっかり死んでいってね」
 うっかり殺し損ねないように。
 逃げ場を奪うように位置取りしたリアトリスが、影の弾丸による追い討ちをかける。
「一切合切! 全部ボクにちょうだいっ!」
 駄目押しの一撃にチェリーが放つのは、『桜花拳聖の吸血捕植(オウカケンセイノヴァンパイアツリー)』。
 血を操る能力の発展形であるという桜色のオーラに包まれた拳を叩き込むと同時に、闘気で作り出した桜の苗を植え付ける。
「くっ、あ、ああっ」
 傷口に根を張った桜は相手の血を吸い上げ、見事な花を咲かせるのだ!
「いい加減、諦めてくれないかしら?」
「……笑止」
 もはや息も絶え絶えという有様の一刀斎に情けをかけるキリスティアだが、返ってきたのは、明確な拒絶。
「仕方ない……わね」
 撤退するようならばそのまま逃がしてやるつもりだったが、どうやら相手にその気は無いようだ。
 螺旋忍軍としてのしがらみ。あるいは、刀剣術に対する異様なまでの執着――いずれにせよ、逃げないというのなら、やることは一つしかない。
「これで終わらせるわ」
 せめて最期に、彼女が望んだものを。
 放たれた竜種抜刀は、素早く鋭く。
 鴉山凛子の肉体を斬り裂き、長い因縁に終止符を打ったのだった。

●各自解散! ――は危険かな?
「宿敵か……私にもいつか現れるのかな」
 ぽつりと呟き、遠い目をする黄泉。
「それでは……授業料を徴収します」
 そんな、少しばかりセンチメンタルな空気もなんのその。
 シルキーは、鴉山凛子の体から宣言通りに角を奪い取る。
 そのまま自分の頭につけてみたりして、無表情ながらひどく満足気だったりするあたり、じつに容赦が無い。
「ん、武器にこだわりってないんだけど、舞さんの一押しってあったりする?」
「がぅぅ??」
 相手の尋常ならざる執着を見たリアトリスは、戦闘後に一息ついての雑談として、そんな質問を舞に向ける。
「やっぱり、バトルガントレット……かな?」
 殴り飛ばすのが一番手っ取り早いからね!
 と答える舞。
 頭の中身どおり、単純明快である。
「ん、まあ、何はともあれだけど、今後はケルベロスの一人歩きは危険かもってことかな?」
「きゅぴぃ」
「そうですね、各個撃破を狙ってるみたいですし、帰りも一人にならない方がいいかもしれません」
 リアトリスの発言に、戦場の後片付けを終えたテルルが注意を促す。
「確かに、避けられる危険は避けた方がいいかもね~」
 一度襲われているだけに、キリスティアの発言は説得力が違う。
 そんなわけで、無事仲間を助け出したケルベロス達は、さらなる襲撃を警戒しつつ帰路につくのだった。

作者:紫堂空 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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