宿縁邂逅~強襲の女ピエロ

作者:なちゅい

●残忍なる女道化師
 くすくす、くすくす……。
 闇の中、その豊満な体型の女は楽しそうに宙を舞う。左の瞳の下には星と滴のメイク。ボディラインがはっきりと分かるシルエット。その薄手の服は派手なデザインに彩られている。
 まるで宙を泳ぐ魚のごとく、気持ちよさそうに宙返りをする女性。それでも、頭の上の小さなピンク色の帽子が落ちる様子はない。時折おどける仕草を見せるのは天性のものか、それとも……。
「道化師レム様……」
 そこに現れたのは、シルクハットにコート、顔には片眼鏡という出で立ちの男だ。
 一見すれば、サーカスの座長とピエロという組み合わせにも見えないこともないが、2人の境遇はあまりに異なる。
「きゃはっ、アダムス男爵、ご苦労様っ☆」
「お望みの情報をお持ちしました」
 男……螺旋忍軍男爵アダムスは、レムへと何かを投げ飛ばす。それは、メモリースティックのようなものだ。
「ん、ありがとっ♪」
「いえいえ、互いの利益が一致しての事ですので」
 くすりと笑うレムは、そのデータ媒体を宙で転がしていたが、それを口の中へと放り込んでしまう。
「あれっ、ギブアンドテイクって思ってたけど?」
「あなた様が標的を確実に始末していただければ、結構です。それで、我が利益となりますから」
「あっそ。それじゃ、ちょっくら行ってこよっかなっ☆」
 情報をすぐさま吟味し、道化師レムはきゃはっと笑ってその場から消え失せる。
 アダムスはふんと鼻を鳴らし、その場から去っていくのだった。
 
 ビル街のとある路地。
 自宅に帰るべく歩を進めていた、金剛・吹雪(スマホ中毒・e26762)の前に突然、それは姿を現した。
「きゃはっ♪ 1人なんて、格好の餌食じゃない?」
 突然、ふわりと宙から現れる女道化師。それに、吹雪は慌てて後退りし、スマホを取り出す。
「あ、あなたは……!」
 スマホをいじりながら問う吹雪は、目の前の相手を知っていた。『道化師レム』と、吹雪は小さく呟く。
「ご名答~、探したよ~、きゃはっ♪」
 その当人、レムは吹雪の言葉を聞き逃さず、口元を吊り上げる。
「キミをどうやって殺そうか、そればかり考えてたよっ☆」
 すでに、この近辺から人の気配が消えている。どうやら、レムが人払いを済ませていたらしい。人払いはケルベロスの専売特許でないということか。
 吹雪はさらに後退りするが、ドンと何かにぶつかる。すでに、レムは彼の背後へと回りこんでいた。
「それじゃ、キミも家族の元へ、送ってあげるよっ!」
 瞳をギラリと光らせるレムは笑みを浮かべ、まるでお手玉のように宙に舞わせたナイフを取って投げてを繰り返し、吹雪の身体を切り裂いて行く。
「ほらほらっ、どうしたの、きゃはっ♪」
 吹雪を切り裂くレムの顔は、嗜虐の笑みに満ちていたのだった。
 
 ヘリポートへとやってきたケルベロス達。
「ごめんね、時間がないからすぐ説明を始めるよ」
 そこにいたリーゼリット・クローナ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0039)の表情は険しい。彼女はある程度の人員が集まったのを確認し、説明を始めた。
「1人のケルベロスが、宿敵の死神から襲撃を受ける予知があったんだ」
 そのケルベロスの名前は、金剛・吹雪(スマホ中毒・e26762)。リーゼリットは事前に彼と連絡を取ろうとしたのだが、残念ながら叶わなかった。
「もう予知の時間まで猶予がないんだ。彼が無事なうちに、皆に救援へと向かってほしい」
 現場となるのは、とある路地。ビル街ではあるが、裏通りの奥で人気が全くない場所だ。
 吹雪は1人で帰宅中、デウスエクスから襲撃を受けてしまった形だ。
「現れるのは、死神、道化師レム。吹雪の因縁の相手だよ」
 だからこそ、吹雪も引くに引けなかったのだろう。彼はそのまま1対1で戦いを挑む形となるが……。予知では、奇襲を受けてかなりの傷を負ってしまう。今から向かえば、吹雪が倒れる前にこの戦闘へと介入できるかもしれない。
「道化師レムは、ピエロの姿に似合ったグラビティを使ってくる強敵だよ」
 それでも、レムは単体で現れ、配下を連れてはいない。チームとしてかかれば、数でアドバンテージがあるはずだ。
 しかも、彼女はご丁寧にも人払いをしてくれている。一般人の避難誘導などの必要はない為、全力でこの討伐に当たりたい。
 説明を終えたリーゼリットは、最後にケルベロス達へと告げる。
「吹雪の救出はもちろんだけれど……」
 ケルベロスを直接、個別に狙うのが敵の狙いと思われる。だからこそ、ここで彼を救出することで、ケルベロスを襲撃しても無駄だと思い知らせてやりたい。
「よろしく頼んだよ」
 リーゼリットはケルベロス達に頭を下げ、この事態の解決を託すのだった。


参加者
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)
白城・優生(猛虎焔舞・e10394)
原・ハウスィ(必殺の張り手・e11724)
ケイト・クリーパー(灼魂乙女・e13441)
ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975)
リフィルディード・ラクシュエル(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e25284)
火乃宮・レミ(火呑み屋・e25751)
金剛・吹雪(スマホ中毒・e26762)

■リプレイ

●襲撃された彼の救出を……!
 現場空域に向かうヘリオンの中、ケルベロス達は、今か今かと到着を待ち侘びていた。
「命を弄ぶ。その考え、気に入りませんね」
「暗殺たぁ、せこいこと考えんな」
 ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975)の呟きに、白城・優生(猛虎焔舞・e10394)が言葉を返し、逆に入れ食いにしてやると意気込む。
 待機するケルベロス達は、死神……道化師レムに襲撃された、金剛・吹雪(スマホ中毒・e26762)の無事を願う。
「しっかり、吹雪くんを助け出さなきゃね♪」
「同じ旅団の先輩として、ウィッチドクターとして、吹雪さんの命、護り通します」
 デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)、ゼラニウムは、同じ師団、あるいは旅団の仲間の救出を誓う。
 現場到着までの間にと優生が携帯電話の番号交換を申し出たが、火乃宮・レミ(火呑み屋・e25751)がすでにリアルタイム連絡用のアプリの入った携帯端末を人数分用意し、スムーズに連絡が取れるようにしてくれていた。
 できるだけ備えるべく、デジルも地図を広げる。周囲が暗い場所であることを想定し、彼女はヘッドライト、ネックライトといった装備を用意していた。
「彼の過去。前に進む為に、それを今乗り越える時が来ているの。少しだけど、その欲望を晴らすよう、手伝ってあげなきゃね♪」
 デジルの言葉に頷くメンバー達。ただ、過ぎ行く時間が彼らの焦りを募らせる……。

 現場に到着し、ケルベロス達はヘリオンから降下していく。
 リフィルディード・ラクシュエル(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e25284)はその際、光の翼を使用する。
(「……感知することができれば」)
 だが、吹雪の反応を掴むことができない。善戦していると前向きに考えたいが……。
 灯りを点灯させ、各自離れすぎないよう区域を分担させて捜索に当たる。レミは時に、吹雪の知人メンバーへ連絡が入らないか確認を促すが、その様子はない。
 優生も同じく、予知の情報、吹雪の家。移動するルートなどを駆使して探索を行う。後はレムの殺気、そして、何より、吹雪のGPS情報が把握できれば……。
 それらの情報を妖精さんに要約してもらい、優生は出来る限り早い位置の特定、素早い合流を図ろうとする。
 ゼラニウムは上空を舞いつつ、GPS情報を駆使して探索を行う。うまく吹雪を感知するとよいのだが……。

●道化師レム
 とある路地に、きゃははと甲高い笑い声が響く。
 豊満な体の道化師レムはジャグリングをしながら、青髪の少年吹雪の身体を裂いていく。
 吹雪、そして彼に付き添うビハインド、ハルナに新たな傷が刻まれる。愛用の携帯で、吹雪はGPSを起動させたものの……。
「家族4人全員で出かけていた所をお前が……、普通の家族だった僕達を……いきなり現れたお前が潰した!」
 スマホを持ったまま吹雪は大声で叫び、気合で自身の傷を塞ぐ。
 因縁の相手を前に、吹雪は感情の爆発を押さえきれない。
 それは、ハルナも同じ。彼女は心霊現象を起こして、レムの身体を縛りつけようとするが……。
「きゃはっ♪」
 まるで意に介する様子がなく、おどけるレム。
 そいつが急に近づいてきたと身構える吹雪だが、それはフェイク。レムはさらにナイフを振るい、路地に鮮血が飛び散った。
 仲間の到着を待ちたい。このまま戦うのは、蛮勇に他ならない。今は叫び、耐えるのみ……。
 そこで、突然、頭上から何かが落ちてきた。それは五点着地で転がってレムへと切りかかったが、相手は「きゃはっ」と笑って避けてみせる。
「フランス旅行してるときパルクールを習ってな。……俺はトラスールなレベルだぜ」
 日本刀を振り下ろしていた優生は、ゆっくりと刃を振り払う。
 さらに、どっしりとした体型で、マニュピレータをつけた男がゆらりと現れた。
「天知る……地知る……人ぞ知る……友のピンチを知っている……!」
 原・ハウスィ(必殺の張り手・e11724)もまた、仲間の情報を元にこの場へと駆けつけていた。敵の姿を認めたハウスィは、表情をまるで変えずにこう告げる。
「お、ピエロじゃぁ~ん」
「きゃはっ♪」
 シュールな男の出現にもレムはおどけた態度を変えないが、ケルベロスは続々とその場に到着する。
 まず、ゼラニウムが上空から降り立ってくると、別所の上空からレムを狙撃する銃弾があった。それは敵の首筋を撃ち抜く。
「ショーは閉幕させてもらうよ、貴方がここで果てるって幕でね」
 リボルバー銃を手にしたリフィルディードもまた、光の翼を使って吹雪の前へと降下してきた。
「こういう時は、待たせたなって言えばいいのかな? ともかく情報通りだったね」
「吹雪くん、お待たせ♪ お姉さんが助けに来たわよ♪」
「あ……」
 リフィルディードに続き、デジルが現れる。見知った声に吹雪の表情が和らぐ。
「きゃははっ☆」
 射撃を受けたはずのレムは笑みを浮かべたまま、集まるケルベロスを眺めている。吹雪を背に立つデジルが飛ばす電光石火の蹴りを受けて見せたのも、余裕の表れか。
「それそれっ☆」
 レムが両手でジャグリングするナイフが、徐々に増えていく。狙うは、新手のケルベロス達の背後にいる吹雪のままだ。援軍として現れたケルベロスなど眼中にないということか。
 そのナイフを飛び出して受け止めたのは、ケイト・クリーパー(灼魂乙女・e13441)。だが、力のある死神の連撃はかなりの威力だ。ケイトは血を流しながらも叫びかける。
「調子に乗ってんじゃねえでございますよ、悪趣味三流道化様!」
「燦斬無惨――」
 いくつもの真空の魔術刃が、レムへと飛んでいく。同時に、斬撃の魔法で強化したゾディアックソードを振り上げ、レミが死神との距離を詰めてくる。
「切裂斬舞!」
 そこで、刃を振るうレミが道化師の身体を斬り尽くす。だが、死神はそれをさらりと避け、口元を吊り上げた。
「遅れてすまんね。全員で無事に帰って、茶でもしばこうぜ」
 レミは茶のみ友達の関係ではあったが、どうにも吹雪を放っておけずにこの場へやってきていた。
 そして、目の前の人外へと冷めた視線を向ける。
「あたしらが楽しいのはこの先だ、お前は楽しまずに果てろ」
「思い知らせてやるでございますよ、道化様。アンタは襲撃しに来たんじゃない。迎撃されに来たんでございます――さぁ、戦争でございます!」
 ケイトは全身からバトルオーラを発し、改めて敵を見据える。
 集まる仲間達を前にし、吹雪も痛む身体を奮い起こす。
「報いを……、今ここで受けさせてやる!」
 来てくれた仲間達に応える為にも。ここで……。彼はもう1台のスマートフォンを取り出す。
「きゃはっ、楽しくなってきたねっ☆」
 怪しく瞳を光らせるレムは、ケルベロスへと躍りかかって来た。

●宿縁を断ち切るべく……!
「それじゃっ、いっくよっ☆」
 敵の数が多いと判断したレムだが、あくまで吹雪を狙って炎を吐き出す。
「させるなでございます、相棒!」
 後ろへと飛ぶ炎を、ケイトと彼女のライドキャリバー、ノーブルマインドが受け止める。
 その手前から、優生、デジルが一斉に襲い掛かる。相手の立ち位置はまだ分からないが、優生は避けられないようにと立ち回る。
「……壊れちまいなっ!」
 彼は相手を打ち砕くべく、地獄の重力を日本刀に込めて叩き込む。
「楽しければいいんでしょう? なら、最後まで一緒に楽しんであげるわ!」
 跳び回って戦場を移動するレム。ならばとデジルも派手に舞う。
「逃がさない♪ 降魔拳が秘技、鬼気一髪!」
 くすりと笑うデジルはまるで蛇のような動きで長い髪を操り、髪の先端に帯びた鬼気でレムの身体を貫いていく。
 炎を浴びたケイトはすぐさま体勢を整え、敵の弱点をボディと見据えて殴りかかる。背後からは、ノーブルマインドが炎を纏って突撃してきた。
「さぁ、来い! 実はハウスィは一回刺されただけで死ぬぞオオ!」
 次に、レムに叫びかけたハウスィが『ずばばばばば』と音を立て、マニュピレータ型砲台から牽制射撃を行う。
「きゃはっ♪ キミ、面白いねえっ☆」
 ハウスィに興味を覚えたのか、レムは彼にナイフを突き出す。身を張るメンバー達の為にと、真後ろにいたレミが地面に守護星座を描いていた。
「自分自身しか笑えるものが居ない道化師か……三流もいいとこよね」
 リフィルディードは素早く、銃の引き金を引く。
「……いや、そもそも道化師ですらないわ」
 確かに弾丸は命中させ、リフィルディードも手応えを感じていた。だが、頭に弾丸をめり込ませてもなお、レムは陽気な笑いを崩さない。
(「本当の道化師なら、他者を笑わせるものだろうしね」)
 そいつは吹雪を憤怒させ、人々に恐怖を与える死神なのだ。
 同じ後方では、ゼラニウムが吹雪の傷を気遣う。
 生きている証『魂』。虹色に光る『核』を、彼女は見ようとしていた。
「諦めないで。吹雪さんの……貴方の『核』は、まだ光を失ってはいません」
 ゼラニウムは直接その核へと癒しの力を与え、吹雪の体力を回復させる。
「嬉しいっす……」
 スマホを握りながらではあったが。吹雪は駆けつけてきてくれた仲間に感謝しながらも、ビハインドへ呼びかける。
「……頑張ろう! 姉ちゃん!」
 頷くハルナは周囲に転がるゴミを死神に飛ばすと、吹雪は2台のスマホを操作し、姉が足止めしたレムの身体を燃え上がらせる。
「熱いっ、熱いねぇっ♪ きゃははっ☆」
 人数的には劣勢。それでも、レムは不敵な笑みを崩すことはなかった。

 多数のケルベロスを相手にする道化師レム。どうやらキャスターとして振舞う敵が主立って狙うのは、ハウスィだ。
「効かぁぁぁぁぁん!!」
 彼は敵の牽制とシャウトを繰り返し、盾として仲間のダメージを減らそうと動く。しかしながら、レムの攻撃をほぼ1人でカバーするには、あまりに負担が大きすぎた。
 ゼラニウムがハウスィの核を必死になって回復させるが、レムの凶刃は彼の体深くへ食い込んでしまって。
「しかた……ないね」
 路地の地面へと、ハウスィはゆっくりと沈んでしまう。
 だが、ハウスィが盾となってくれた間、メンバーはレムへとダメージを重ねていた。
 古代語を紡いだレミは魔法光線を発射して命中した箇所を石化させ、吹雪は地面から溶岩を噴出させて、因縁の相手へと圧力を与える。
 リフィルディードもその動きを阻害すべく、緩やかに弧を描いて敵の腱を狙って切り伏せ、デジルは敵の後頭部を狙って電光石火の蹴りを叩き込んだ。
「家族を殺した人間……いや、死神に、遠慮は全く必要ないわ」
「ピエロらしく散りな!」
 優生は2本の日本刀を抜き、急所を狙って空間ごと切り捨てる。
 手応えはある。だが、敵はそれをおくびにも出そうともしない。
「なかなか効いたよっ♪ きゃははっ☆」
 宙を舞うレムは、防御役となるメンバーを叩いてゆく。突進してきたノーブルマインドを怪しげな舞いで惑わし、動きを完全に止めてしまう。
 さらに、合流前のダメージも重なっていたビハインド、ハルナ。フェイクを織り交ぜ突き出されたレムの刃を受け、その姿はかき消されてしまった。
「きゃはっ、きゃはははっ☆」
「…………!」
 刹那、言葉を失う吹雪。だがここで、止まっているわけにもいかない。
「燃えろ、魂。……炎だろうが心の惑いだろうが関係なく、焼き払えでございます!」
 1人、残る盾役ケイトは、自らに食い込む刃による傷を癒すべく、魂を燃え上がらせる。ゼラニウムがそのケイトを持たせようと、自身の癒しの力を振舞い続けた。
 これ以上長引くと、ケルベロス達も持ちはしないが、果たして疲れも見せぬ化け物を倒せるのか。ヘリオン搭乗時とは違う焦りが、メンバー達に漂い始める。
「それそれっ、きゃははっ☆」
 怪しく宙を舞い踊るレム。それに危機感を覚えたデジルは、癒しの霧を振り撒く。これ以上、チームの態勢を崩すわけには行かない。
 雷の霊力を宿した刃を、レムに突き入れたリフィルディード。果たして、レムを倒せるのか。
 攻防の中、ケルベロス達の傷が増えていく。
 後1人倒れたなら。レミは自らの潜在能力の暴走すらも考えた。
 だが、目の前の死神が宙で妙な落下をするのが見えた。やはり、敵も体力は低下している。
 敵の頭上から、光り輝く重力の蹴りを叩き込んだレミが吹雪へと叫ぶ。
「やっちまえ! 過去の亡霊なんて、ぶっ飛ばせ!」
 トドメは吹雪に……。そう考えるメンバーが一様に頷く。
 それに応じた吹雪は、己の苗字でもある金剛、ダイヤモンドを槍のように鋭くした。
「両親に会ったら伝えとけ……僕はもう……大丈夫だよって!」
 呼び起こした冷気を纏わせたそれを……吹雪はレムの胸深くまで突き刺す。
「きゃははっ、ざーんねん……☆」
 奇怪な笑みを繰り返すレムは、糸の切れた操り人形のようにぷつりと動きを止める。
 思った以上にあっさりとした幕切れ。しばしの間、吹雪は色々な感情を抱き、消え行く遺体を見つめていたのだった。

●果たされた復讐の裏で……
「さて、皆様。ご無事でございます?」
 ケイトは仲間の状態を確認し、治療を行う。重傷を負う者もいたが、なんとかこの場を乗り切ることができた。
「みなさん、自分の為に本当にありがとうございました!」
 スマホを持たずに、仲間へと頭を下げる吹雪。彼は仲間達の手当てもあり、歩いて帰れそうな状態だ。
「元気になったら……、改めて胴上げしようかねぇ」
 ハウスィは自身の傷が深い為、この場で吹雪を胴上げできないのが残念そうだったが、吹雪の顔は晴れやかだった。
「『死神』か……」
 ゼラニウムはレムが消えた場所を見て考える。
 この復讐が成っても、吹雪の家族が戻ってくるわけではない。
 また、自分達は今、死神レムを『殺した』のだ。デウスエクスから見れば、自分達もまた『死神』なのかもしれない。
(「それでも……、デウスエクスを野放しには……」)
 ゼラニウムはやや逡巡していた。
 吹雪にとっては、1つの区切りとなる事件。だが、それで全てが終わったわけではない。デウスエクスはなおも地球を襲ってきているのだ。
 優生はあさっての方向に向かって中指を立て、舌を出す。
 道化師レムをそそのかしたのは、アダムス男爵ではないかという話もある。そいつがどこからか見ているかもしれないと優生は考えていた。
「無駄なことしてねぇで、かかってきな」
 だが、その場で何かが現れることはなかった。
 不気味さを完全に拭い去ることはできなかったが、それでもメンバー達は、吹雪の晴れやかな表情を見て心を和ませたのであった。

作者:なちゅい 重傷:原・ハウスィ(バーニングハウスィ・e11724) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 10
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