飛行オークは月夜に飛ぶ

作者:望月誠司

「ムムム、量産型とはいえ、実験ではこれ以上の性能は出せないなァ」
 ドラゴンを崇める狂信者種族であるドラグナーの博士ラグは、今まさに眼前で産み出されたオークを前にして、ひとりごちるように呟いた。
「これ以上の性能を得るには、新たな因子の取り込みが不可欠だ」
 故に彼は指令した。
 人間の女を襲って、新たな子孫を生み出すように、と。
「お前達が産ませた子孫を実験体にすることで、飛空オークは更なる進化を遂げるだろう!」
 この言葉に、指令を受けた居並ぶ触手を生やしたブタ面の者達――オーク達――は歓喜の声を以って答えた。背の触手が蠢き、赤い双眸が歪められてギラリと輝く。
 彼等にとって、子供が実験体になるのは別にどうでもよく、とにかく人間の女を襲いにいければそれで良かったのである。

●満月に浮かぶ影
 夜。
「はぁ~、生き返る」
 月光と照明が照らす中、頭に濡れたタオルを乗せた黒髪の若い女が、白いすらりとした手足を湯の中の伸ばしつつ、桃色の唇からほっと息を吐き出した。
 ここは某県のとある川に沿って作られた露天風呂、簡素な岩作りながらも、その広々とした間取りや入浴料が無料である事などによって人気があった。
 黒髪の女の他にも、家族で入りにきたらしき大人や子供の三人組みや、仕事帰りらしき男女の姿で溢れている。
 そんな中、一人の童女が空を指差し声を響かせた。
「ねーねーママー、あれなぁに?」
 小さな指が示す先、満月の中に黒い影が浮かんでいた。
 影はみるみるうちに姿を大きくしてゆく。近づいてきているのだ。
 やがてそれらの姿形が人々の目にもはっきりと捉えられるようになった。
「ヒャアアアアアアハァアアアアアアッ!!」
 それは飛行オークであった。
 翼を広げて滑空し、月光の中を飛行オーク達が、露天風呂目掛けて急降下してきたのである。
「おっ、おっ、オークだぁああああああ!!」
 悲鳴があがり、突然の事態に目を丸くし硬直する者、脱兎の如く逃げ出そうとして足を滑らせて転ぶ者、等々、憩いの場は一気に騒然となった。
「オトコは! 殺セッ! オンナは、捕まえロッ!」
 ぎゃあ! という叫びをあげて戦斧に斬り裂かれた男が真っ赤な血飛沫を噴き上げながら湯船へと落ち、湯を赤く染め、女達が触手に絡め取られ拘束される。童女が火がついたように泣き叫んでいた。
「ひぃぃぃぃぃっ!!」
 黒髪の女もまた触手に絡みつかれていた。紫色に滑る触手が女の身体を這い回り締め付け拘束してゆく。その恐怖感と嫌悪感から女は心の底から助けを求め叫んだ。
「誰か! 誰か! 助けてぇ!!」
 しかし助けはなく、オーク達の下卑た笑い声と人々の悲鳴が、血と恐怖と欲望に染められた場内に響いてゆくのだった。

●オーク討伐要請
「――このように、露天の温泉が五体のオークによって襲撃される事件が発生するようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が渋面を作って、集まったケルベロス達へと予知内容を説明した。
 これは竜十字島のドラゴン勢力による活動であり、今回事件を起こすのは、オークの品種改良を行っているドラグナー、マッドドラグナー・ラグ博士が生み出した、飛空オークという、飛行型のオークであるらしい。
 飛行といっても、高い場所から滑空して目的の場所に移動するだけの能力で、自由に飛行する事はできない。なので降下後は戦闘能力などは一般のオークとほぼ変わらないのだが、このように、高所から滑空しながら目標地点へと直接降下するという襲撃方法はかなり効率的で脅威となるだろうとの事だった。
「今回、皆さんには、この温泉を襲撃する飛行オークを討ち、襲撃される人々を守る、という事をお願いしたいのです」
 ただし飛空型オークは、滑空しながら襲撃場所を探す為、事前に避難活動をしてしまうと、予知と違う場所に降下してしまい、事件の阻止が出来なくなるらしい。
「ですので、人々の避難はオークが降下する直前から行うようにする必要があります。よって、皆さんはすぐに対応できるように、あらかじめ温泉客のふりをして、人々の中に紛れていて欲しいのです」
 そして、飛行オークが接近してくるのが確認されたら、人々に避難を促し、迎撃する。避難誘導は温泉の係員が行なってくれるので、ケルベロス達はオーク達との戦闘に専念してその注意を惹きつけて欲しいとの事だった。
 なお、ケルベロス達の武装などは場内に岩などに偽装した箱に隠し入れて持ち込んでおくので、オークの接近を確認したらそこから取り出して装着してくださいとの事。
「皆さんが温泉に配置されてからオーク達の接近まではしばらく時間があります。襲撃されると解っている場所でくつろぐふりをするのは大変だと思いますが、オーク達に怪しまれない為にも、上手く普通に露天風呂を利用しているお客さんのふりをしてください」
 金髪の少女は義憤に燃える瞳で言った。
「オーク達の凶行はとても許せるものではありません。どうか皆さん、オークを討ち、人々をその魔手から守ってさしあげてください」


参加者
守矢・鈴(夢寐・e00619)
ブリュンヒルト・ビエロフカ(活嘩騒乱の拳・e07817)
神籬・聖厳(日下開山・e10402)
マリアローザ・ストラボニウス(サキュバスのミュージックファイター・e11193)
睦月・冬歌(やらしく治療したい・e15558)
ウルトゥラ・ヴィオレット(あーゆーはぴねす・e21486)
アリス・クルス(なんちゃってサキュバス・e22380)
風戸・文香(エレクトリカ・e22917)

■リプレイ

 満天の星だ。
 月明かりの下、紺碧の薄闇が広がっている。
 川のせせらぎの音が聞こえた。
 湯気が闇の中に立ち昇り、岩盤をくり抜いて造られた浴槽には乳白色の湯がなみなみと溢れていた。
「これが俗に言う温泉回ってやつだね!」
 仄かな照明がさす湯の中、伸ばされた白手から掬われた湯が毀れて、濡れた白肌が光る。微笑するアリス・クルス(なんちゃってサキュバス・e22380)の佇まいは艶かしい。
「ここはサキュバスであるぼくも一肌脱がなくては」
 が、しかし、男だ。
 六歳の男の子である。
 その付近をパタパタと小さな羽を動かして浮いているボクスドラゴンが「やれやれ」といった風情で嘆息した。
 その様にアリスは、
「え? そういうのいらない!?」
 と軽くショックを受ける。
 青のドラゴンは返事をする代わりにアリスの肩に肩車されるように着地して、桃色の髪をわけて生える二本の黒角を掴んでしがみついた。
「ドラゴソは湯船に入らないの? ――うん、ぼくは温泉大好きなんだ!」
 湯の中できゃっきゃと少年とドラゴンの主従は仲が良さそうだ。
 他方、
「――もうしわけありません しみん」
 幼い女の子の声が岩の浴場に響いた。
「わたしには このおふろというものが りかいできそうにありません」
 ウルトゥラ・ヴィオレット(あーゆーはぴねす・e21486)である。
 銀髪の小柄な童女は、浴槽の縁に座り、その白い足を伸ばして、小さな鳥が未知のものを探るかのように、親指の先でちょんちょんと湯面に触れている。
 そんなウルトゥラへと保護者であるボクスドラゴンの『コンピューター様』は岩陰で身を隠しつつ、お風呂の概要を伝えた。どうやらコンピューター様はウルトゥラに入浴を勧めているようだ。
 しかし、
「むき ふむき というものが あります」
 ウルトゥラ、全力で渋っている。
 このレプリカントの童女は、基本シャワー生活だったので風呂について知らず、さらに指先で湯に触れた感じ『熱すぎて入るのヤダー!』状態なのである。
 かくて入浴を巡って保護者と童女との攻防が繰り広げられる。
 その傍ら、
「あぁ~、仕事のついでに温泉堪能出来るなんて役得だなァ♪」
 褐色肌のブリュンヒルト・ビエロフカ(活嘩騒乱の拳・e07817)は浴槽の縁に背を預けつつ、星空を仰いで温泉を堪能していた。
「ほんとね」
 水着姿の守矢・鈴(夢寐・e00619)もふうと息を吐きつつのんびりと湯に浸かり頷く。やや熱めの湯温が心地よい。弱酸性の温かさに身がほぐされ、日頃溜まっていた仕事の疲れが溶けるように癒えてゆく。
「ま、慌てたところで物事は上手く進みはせん。”例の時”まではゆるりと英気を養うかのう」
 と、小柄な身を湯につけつつ、タオルで頬を拭っているのは神籬・聖厳(日下開山・e10402)だ。
「ここの温泉の効能は何かしら? 肌がすべすべになる、とかだったら嬉しいのだけど」
 鈴は乳白色の湯を手で掬いあげて独りごちるように呟いた。湯が女の掌からこぼれ、絹のような白肌を伝って落ちてゆく。
 それに、風戸・文香(エレクトリカ・e22917)が答えて言った。
「あぁ、美肌に効果、あるそうですよ」
 文香は先程温泉の係員と避難の手筈を打ち合わせた時に、効能についても耳にしていたのだ。
「それは素敵ね」
「他にも風邪の予防や慢性疲労、神経症、胃腸病、肝臓病、呼吸疾患、婦人病などに良いとかなんとか」
 眼鏡をかけた黒髪娘が指折りしつつ述べてゆく。
「主に内臓に良いのね……飲んだりするのかしら?」
 小首を傾げる鈴の隣でブリンヒルトがタオルを己の頭に乗せつつ言う。
「そういえば温泉がゆとか売ってたなァ」
 会話に華が咲いている中、
(「やったあ温泉だーっ! 普通のお客さんとか他のケルベロスのお美体を合法的に眺めるちゃーんすっ!」)
 との思いを抱いていたのは睦月・冬歌(やらしく治療したい・e15558)である。ふふふふと笑みが毀れそうになるところなのである。
 しかし、依頼の性質上、
(「普通のお客さんの振りしなきゃなんだよね」)
 との思いから、実際の表情は何気ないものを装っている。何食わぬ顔で桃色の髪の娘は身を洗い終えると、瑞々しい豊な曲線を描くその身の前を白タオルで隠しつつ湯に入る。
 さりげなく視線を走らせているとマリアローザ・ストラボニウス(サキュバスのミュージックファイター・e11193)と目が合った。
 豊な胸元と白い肩を艶やかに外気に晒して湯に浸かっている金髪碧眼の少女は、上気した瞳を細めてにこっと冬歌へと微笑した。
「温泉、気持ち良いですね」
「うん、良いお湯よね」
 冬歌は笑顔を返し頷く。
 目が合ったのは、実はマリアローザも胸中『周囲も綺麗な女性ばかりで素晴らしいですね』と思って周囲をさりげなく見ていたからだ。目の保養なのである。サキュバス的にそれは快楽エネルギーとなるのである。
 そんな調子でのんびりと温泉で過ごす中、
「対応しやすいよう少しバラけておいた方が良いかしら?」
 ふと鈴が言って、
「このまま例の連中が出てこなければ一番なんじゃが、そうもいかんじゃろうしのぅ」
 と聖厳が頷き、一同もまたその言葉に同意すると、浴場内に分散して敵襲を待つのだった。

●襲来飛行オーク!
 月光が翳った。
 気付いた鈴がさりげなく仲間達に合図を送る。
「ヒャアアアアアアハァアアアアアアッ!!」
 奇声と共に夜空に浮かぶ影五つ。
 飛行オークである。
「きました! お願いします!」
 オークを引きつける為にまだ裸体のままの文香が、防水ケースに入れたスマホを片手に、ドワーフ的に幼さを残した身の前を手で隠しつつ叫んだ。
 マリアローザと係員が避難誘導を開始し、童女ウルトゥラはきらきらと光ると十八歳の銀髪少女へと変身、ブリュンヒルトは隠し岩から装備を取り出すと素早く武装した。首元に何よりの宝物のチョーカーをして気合は十分だ。冬歌もまたナイフとロッドを取り出す。鈴は水着姿のままでライドキャリバーに騎乗する。
「やれやれ、やはりきおったか、落ち着いて入浴もできんな……」
 少女に見えるが御歳61歳のドワーフである聖厳は、慌てず騒がずゆったりと湯から上がり、武装を整える。
 なお、武装=全裸。
 彼女の戦闘術は徒手での格闘術が主体であったので、故に『自らの動きを制限する衣服など無用っ!』なのである。
「ムッ?! 気付カレテル?!」
「逃ガスナッ!」
「残ッテル子達、上玉ダゼッ!」
「捕マエローッ!!」
 かくてオーク達が浴場に残っているケルベロス達目掛けて空より突っ込んで来る。
「見苦しい」
 鈴が迫り来るオーク達を見据え、愉しそうな笑みを浮かべた。
「あなた達に生きている価値は無いの」
 水着姿の黒髪の女は、グラナートの鞍上より胸部からエネルギー波を発射した。
「ギャッ!」
 光の線が会心の精度で鉄鎖オークへと伸び、装甲の薄い首元へと直撃して、致命的な負傷を与える。グラナートからさらに弾幕が放たれ――ガトリング掃射――鉄鎖オークの身から次々に血飛沫があがってゆく。

 ――ひとのいのちはみじかく くるしみはたえない……

 一方、ウルトゥラは演算機能と重力を駆使し、数式で形成された涙を伸ばした手のひらが向く宙へと産み出し浮かび上がらせていた。
 蒼白い光が少女の周囲に飛び交い数式とそして涙を象ってゆく。

 ――……はなのようにさいては しおれ かげのようにうつろい ながらえることはない。

 潤すだけでは人々は幸福にならない。
 けれど、開いた花はきっと誰かを幸福にしてくれる、そう信じた。
 苦しみに満ちた定命にあってなお、ウルトゥラは万人の幸福を希求する。
 たとえその手段が、欺瞞であったとしても。
「しみん これを」
 ウルトゥラは聖厳へと『涙』を放った。
「うむ!」
 銀髪赤眼の娘の身に蒼い光が吸収され、その気力を活性化させてゆく。コンピューター様も属性を聖源へと注入して耐性を与えた。さらに冬歌も杖を翳して眩い雷の壁を発生させ、前衛達の異常耐性を高めてゆく。
「たとえこの身に代えてでも、一般人はやらせはせんぞ」
 諸々の強化を受けた聖源は一歩を踏み込みつつ腕を旋回させて前へと突き出し、オーラの弾丸を撃ち放った。
 光の尾を引き誘導される弾丸が唸りをあげて必殺の勢いで飛び、オークの顔面に炸裂して壮絶な爆裂を巻き起こした。
 悲鳴をあげてオークが吹き飛ぶ。独楽の如く回転しながら地に落ちる。動かない。撃破。
「オークは好みではないのですよ。離れてくださいな?」
 サキュバスの角と翼を出現させた金髪娘――マリアローザが、挑発するようにくねっと身を捻りつつ、碧眼で流し目をオーク達へとやった。魔力がこもっている。催眠魔眼だ。
 青い瞳が剣盾オークと戦斧オークの精神を激しく揺さぶってゆく。
 さらにドラゴソが戦斧オークにタックルを直撃させる中、ブリュンヒルトは無手のオークへと突っ込んだ。
「いくぜ!」
 紫色の長い髪を靡かせ、ステップインすると身を捻りざま、しなる鞭の如くに脚を奮う。
 次の刹那、鈍く重い音が轟いた。
「ゴハッ?!」
 電光石火に放たれたブリュンヒルトの足先がオークの脇腹に喰い込み、痛烈な衝撃が炸裂すると同時にオークの身が折れる。
 さらに、
「女性とみるや、欲望の対象! 気にくわないですね」
 文香がブラックスライムを放つ。
「喰らい尽くされるが良いです」
 しかし、その射線上、精神を揺さぶられふらついている剣盾オークが間に入った。スライムは無手オークではなく、剣盾オークの身に絡みついてゆく。
「オノレッ!!」
 ブリュンヒルトに蹴りを入れられ、身を折っていた無手オークは身を沈ませるとひねりざま、背から蠢く触手をブリュンヒルトへと放った。
「おっと!」
 迫る触手に対し紫髪の女は不敵な笑みを浮かべつつ上体を後ろにスウェーさせる。
 触手はブリュンヒルトの鼻先を掠めて空間を貫いた。かわした。
 しかし直後、間髪入れずに杖オークもまた触手を解き放っていた。唸りをあげて紫色にぬめる触手がブリュンヒルトへと迫り、
「がーど します」
 ウルトゥラが間に飛び込んだ。
 触手は十八歳になっている少女を打ち、その身に絡みついて、締め上げてゆく。
「おぉぉぉ、オーク、ナイス!」
 何故か冬歌はオークを褒めた。なお視線は触手に締め上げられているウルトゥラをガン見している。
 剣盾オークと戦斧オークは催眠効果が発動して互いに斬り合い、アリスは攻撃を受けたウルトゥラへと杖を翳して電気ショックを飛ばした。
 電気にうたれたウルトゥラの身が回復し、戦闘能力が向上してゆく。

●温泉戦歌
 グラナートがスピンしながら突撃してオーク達を撥ね、鈴が炎纏の蹴りを繰り出して無手オークの鼻面を踏みつける。
 ウルトゥラがミサイルを乱射して己に触手を伸ばしている杖オークと無手を爆裂させ、コンピューター様が封印箱に入って箱ごと杖オークへと体当りしクリティカルな一撃を叩き込む。保護者は杖オークの娘への狼藉に怒っているのかもしれない。
「うーん、怪我はないかな」
 仲間達の負傷具合を見やって冬歌が呟く。えろい目にあうのはいいけど体に傷を残すのはだめ、なのである。ウルトゥラはアリスのエレキブーストで全快しているようだ。
「なら、この曲で!」
 唐突にロックな音楽が響き始めた。冬歌が激しくエアギターを弾きながら熱唱を開始する。
 すると氷で出来た音符が煌きながら宙に出現し、無手オークへとミサイルのように飛び出した。
 氷の音符は唸りをあげて迫り、身をかわさんとした無手オークを逃さず、その腹に突き刺さった。凶悪な破壊力が炸裂してオークが身をくの字に折りながら吹き飛んでゆく。撃破。
「大事な所がお留守なようだなぁ!!」
 勢いに乗り聖厳が戦斧へと猛然と迫った。オークとの至近距離まで踏み込むと、五本の指を閃かせる。オークが声をあげ、指は急所を握り捉えると同時、強引にぶっこ抜いた。
 オークのぬめる触手の一本が引き千切られ、戦斧の彼は「ひぎぃ」と息も絶え絶え、という様子でよろめいた。
「ふふ、とどめですね」
 マリアローザが言ってブラックスライムを放った。黒い軟体生物が戦斧オークに纏わりつき丸呑みにしてゆく。あわれ戦斧オークはそのままブラックスライムの中で動かなくなった。
 ドラゴソのブレスが剣盾オークを焼き、さらにブリュンヒルトが炎を纏った蹴りを叩き込み、文香がやればできると信じる心を魔法に変えて、将来性を感じる一撃を叩き込む。
 剣盾オークは炎に巻かれてダメージを受けながらも、杖オークを触手で殴りつける。一撃を受けた杖オークは催眠状態の仲間に舌打ちしつつ聖厳へと光の矢を放つ。
 が、
「遅いの」
 聖厳はかろやかに横っ飛びに跳んで回避。炎纏のグラナートが剣盾オークに体当りし、
「さよなら。最期に見るのが私の体で良かったわね。感謝しなさい」
 グラナートに騎乗する水着姿の女――鈴が言ってコアブラスターを至近距離から発射した。
 剣盾オークは光線に撃ち抜かれて吹き飛び、転がる。撃破だ。
「残りはキミだけだね」
 アリスが妖精の弓に心を貫くエネルギーの矢を番え、残った杖オークへと鋭く撃ち込んだ。ウルトゥラが加速突撃し、コンピューター様がブレスを浴びせ、マリアローザが歌で精神を揺さぶり、ブリュンヒルトが石火の蹴りを叩き込む。
「良い感じに温まってきたわ。これで最後よ!」
 文香は高温に熱した剣先を杖オークへと繰り出し、突きつけて焼き焦がした。
 肌をジュッと焼かれたオークはついに耐え切れず、ばたりと倒れ伏したのだった。


 かくて、オーク達を撃退した後、ケルベロス達は浴場をヒールして修復すると温泉に入りなおした。
「汗を流した後の温泉もいいよね~」
 すっかり貸切状態となった温泉につかりつつアリスがふぅと息をつく。
「まったりですね」
 マリアローザが乳白色の湯の中でのんびり手足を伸ばしている。
「しゃふつしょうどくされる そうびのきぶんです……」
 一方、戦闘後汚れ落としのため観念して湯に入ったウルトゥラは、一、二、と百までのカウントを開始していた。
「……コンピューターさまもはいるべきでは」
 と途中、保護者を睨んだが、コンピューター様は視線を逸らしてどこふく風である。
 そんな様を眺めてブリュンヒルトは「はは」と微笑ましそうに笑うと、
「いや、しかし、良い湯だな」
 岩の浴槽の縁に背を預けて空を見上げた。
 漆黒の空に、煌く星々が輝いている。

作者:望月誠司 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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