雨に濡れ堕ちて

作者:朱乃天

「……来たか、ドン・ピッグよ。」
 闇に覆われた空間の中、フードを目深に被った男が眼前に現れたオークに言葉を投げる。
 フードの男――ギルポーク・ジューシィに呼び出された金髪モヒカンのオークは、葉巻を咥えて太々しい態度で男の話を聞いていた。
「慈愛龍の名において命じる。お前とお前の軍団をもって、人間共に憎悪と拒絶とを与えるのだ」
 ギルポークの命令に、ドン・ピッグは紫煙を燻らせながら不敵な笑みを覗かせる。
「ああ、隠れ家さえ用意してくれりゃお安い御用だ。後はウチの若い奴が次々女を連れ込んできて、憎悪だろうか拒絶だろうが稼ぎ放題だぜ」
 その返答を聞いたギルポークは、案の定だと口元を微かに歪ませた。
「やはり自分では戦わぬか。だが、その用心深さがお前の取り柄だろう」
 全ては想定通りの話の上で、ギルポークは狡猾なオークに提案を持ちかける。
「良かろう。それなら魔空回廊で、お前を安全な隠れ家に導こう」
「おぅ。頼むぜ、旦那」
 ドン・ピッグは口から大きく煙を吐き出した後、くるりと背を向けると魔空回廊の中へと姿を消すのであった。

 東京都墨田区にある繁華街。
 ネオンが煌めき、夜でも眩しく輝く町並みを避けるようにして、一人の少女が人目に付かない裏通りへと入っていった。
 彼女はこの春高校に入学したばかり。期待に胸膨らませていた新しい高校生活は、思ったように馴染めずにいて、次第に嫌気が差して無気力感に苛まれていた。
 おまけに事あるごとに口煩い両親との確執もあり、日々のフラストレーションが蓄積し、ついに耐え切れなくなって家出することを決めたのだ。
 裏通りを彷徨って奥に進むと表通りの光が遠退き、徐々に仄暗い世界に迷い込んでいく。そうして少女が辿り着いたのは、人気のない細くて薄汚い路地裏だ。
 足を止めると、ポツリ、ポツリと上から小さな冷たい粒が落ちてきた。
「……雨、か。はぁ……ツイてないな」
 時間が経つにつれて雨脚は強くなり、少女の体を濡らして足元に水たまりが出来上がる。
 少女は早く雨宿りができる場所を探そうと、急いで路地裏を抜けようとした時だった。
「グッヘッヘ。こんなところで迷っちまったかい、可愛い子猫ちゃんよう」
 複数のオーク達が、下卑た笑いを浮かべながら少女を逃さないように取り囲む。
 悲鳴を上げようとする少女の口を塞いで手足を抑えつけ、衣服を乱暴に剥ぎ取っていく。
 ――どうして、どうしてこんな酷い目に。
 短絡的に家出をしてしまったことを後悔し、嘆く少女の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
 雨が激しく降りしきる中、少女は抵抗虚しくオーク達に陵辱されてしまうのだった――。

 竜十字島のドラゴン勢力が、新たな活動を見せている。
 玖堂・シュリ(レプリカントのヘリオライダー・en0079)はヘリポートに集まったケルベロス達を前にして、今回予知した事件の内容を話し始める。
 オークを操るドラグナー、ギルポーク・ジューシィの配下のオークが事件を起こす。群れを率いるのはドン・ピッグというオークで、非常に用心深く配下を使って女性を攫わせているようだ。
 女性が狙われるのは東京の路地裏で、存在が消えても怪しまれないような弱者を狙って犯行を行うらしい。
「今回襲われるのは、家出中で夜の繁華街を彷徨っている女子高生だよ。彼女はオーク達に暴行された後、秘密のアジトに連れ込まれてしまうんだ」
 ここでオークが少女に接触する前に行動を起こすと、オーク達は別の対象に狙いを変えてしまう。よって現場に突入するのは、オークが少女に接触した直後が良いだろう。
 シュリは引き続いて、敵の情報と現場の状況を説明する。
「敵となるオークは全部で五体だよ。個々の戦闘能力は高くないけど、狡賢くて卑劣な連中だから、その点だけは注意してね」
 いざとなれば嘘を付いて油断を誘ったり、平気で仲間を見捨てて逃げようとする。そうした性質を踏まえて対策を練る必要があるだろう。
「現場となるのは細い路地裏で、明かりは表通りのネオンが薄らと差し込むくらいだね。それとその時間帯は雨が降ってるけど、何れも戦闘に支障はないから安心していいよ」
 シュリは表情を変えずに淡々と語りつつ、ケルベロス達を真っ直ぐに見つめる。
「連中は用心深いから、連れ去られてしまった被害者もいるかもしれないね。でも……」
 一瞬間を置いた後、語気を強めて再び言葉を紡ぎ出す。
「いつまでも好き勝手な真似をさせるわけにはいかないからね。少女の救出はキミ達の手にかかっているから、よろしく頼んだよ」


参加者
リブレ・フォールディング(月夜に跳ぶ黒兎・e00838)
浦葉・響花(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e03196)
オズワルド・ドロップス(眠り兎・e05171)
コルチカム・レイド(突き進む紅犬・e08512)
月城・樹(ケルベロスの鎖・e17497)
シレン・エアロカーム(握力は二五五キログラム・e21946)
ヨミ・カラマーゾフ(桜流し・e24685)
リノン・パナケイア(怒ってはいない・e25486)

■リプレイ


 ネオンが眩しく煌めく繁華街。その光に隠された影の部分。
 人々が行き交う大通りから逸れた、人気のない路地裏で事件は起きた。
 古びたビルとビルの狭間が生み出す、無機質で薄汚れた退廃的な世界。
 人の闇が渦巻くように広がる仄暗い空間に立ち入ろうとする者はなく。
 更に侵入者が訪れるのを拒むかのように、漆黒の雲に覆われた空から雨が降り出した。
 そこへ運悪く、都市の暗部に迷い込んだ一人の少女が、醜悪な異形のモノ達に囚われてしまい――乙女の危機に晒されていた。
「グッヘッヘ。泣いても喚いても、こんなトコに誰も来やしねえよ!」
 鼻息荒く、少女を取り囲んで柔肌を貪ろうとするオーク達。少女の叫び声は雨音に掻き消され、外の世界には届かない。オーク達はそんなこともお構いなしににじり寄り、汚らわしい触手が少女を掴もうとした時だった――。
「ひっ……!? な、何よアレ……」
 路地裏の入り口付近で人の声がした。オークが声と気配に気付いてチラリと見ると、そこには三人の女性が身を震わせながら立ち竦んでいた。
 声を出したのは、フリルが付いたピンクのロリータファッションに身を包んだコルチカム・レイド(突き進む紅犬・e08512)だ。
 小柄な彼女の隣では、ゴスロリ衣装のリブレ・フォールディング(月夜に跳ぶ黒兎・e00838)が怯えた様子で身体を強張らせていた。
「今日は随分とオンナ共が寄って来るじゃねえか。こいつはツイてるぜ!」
 オークの一体が彼女達の怖がる姿に興奮し、口から垂れる唾液を拭いながら、新たに迷い込んできた少女達に歩み寄る。
「アアン? よく見りゃガキもいるのか? っと、そっちはべっぴんさんみてえだな」
 ジロジロと嫌らしい目で舐め回すように見るオークの視線の先には、ヨミ・カラマーゾフ(桜流し・e24685)がいた。彼女はオークを誘惑しようと、服の肩紐をずらして白い肌を露出させていた。
「俺はそっちの年下の嬢ちゃん達でもいいぜ。じっくり楽しませてもらおうじゃねえか」
 別のオークがリブレとコルチカムに目を向けて、ベロリと舌なめずりをする。更にもう一体も彼女達に興味を示し、計三体のオークが三人の方に近寄っていく。
 残る二体は最初に捕らえた少女の側から離れず、それじゃこっちは続きを楽しもうかと少女に卑しく顔を近付ける。
 しかしその瞬間、ビルの屋上から複数の影が飛び降りて落下してきた。雨に濡れた地面に着地すると水飛沫が跳ね上がり、同時に彼等は少女を囲むオーク達に武器を突きつける。
「そこまでだ。彼女を解放してもらおうか」
 リノン・パナケイア(怒ってはいない・e25486)が白い翼を折り畳み、ゲシュタルトグレイブを構えながらオーク達に警告を促した。
「家出の女子高生を狙うオーク、か」
 普段はぼんやりした性格のオズワルド・ドロップス(眠り兎・e05171)だが、オーク達の横暴に憤りを覚え、眠そうな眼にも真剣味を帯びていた。
「これ以上卑劣な事を繰り返す前に、ここで終わらせよう」
 そう言ってオズワルドは星降る剣を抜いてオーク達を睨めつける。
 彼等ケルベロスは雨に紛れて奇襲を仕掛け、少女とオーク達を引き離そうと試みた。オーク達は突然の襲撃に驚いて、少女を置いて我先にと逃げ出そうとするが。ミミックの『シトラス』が回り込んで行く手を遮り、退路は完全にケルベロスによって塞がれていた。
「年端のいかぬ子供に手を挙げるとは……まして、女性になど!」
 同じ女性が酷い目に遭わされるとあって、シレン・エアロカーム(握力は二五五キログラム・e21946)は怒りを露わにしていた。
「ただ懲らしめるだけでは許さぬ、触手のすべてを引きちぎってくれる!」
 ここからは絶対に生きて返さない。そんな強い決意を抱いて、刃を握る手に力を込めた。
「今のうちです。あなたは、早くこっちへ」
 仲間が注意を引き付けている隙を窺って、月城・樹(ケルベロスの鎖・e17497)が少女の手を取り、安全な場所へ避難させようとする。
「フフッ、これで豚共は止まるはずよ」
 ビハインドの『コーパァ』と一緒に少女の避難のフォローに入った浦葉・響花(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e03196)は、何とスクール水着姿でオークの気を引こうとした。しかも胸には平仮名で名前まで書いてある。
「誰よ、イタイ女と言った奴。更に『貧乳のイタイ年増痴女なんて襲うかよバーカ』と言ったわね」
 誰もそんなことは口には出していない。が、お前等の目がそう言っている……と、響花はオーク達に言いがかりをつけて怒りをぶつけるのであった。


「チッ、ケルベロスの連中か!? こうなりゃまずオンナ共から犯っちまおうぜ!」
 こうした状況下であっても欲望には逆らえないオーク達。本能の赴くがまま、女性陣に狙いを定めてケルベロス達に襲いかかった。
「ふぅ……演技するのは難しいですね。ここからは本気で行きましょうか」
 リブレは先程までの気弱な表情とは一変し、感情の無い冷たい眼差しを向けてオークに斬りかかる。ゴスロリ服を翻して触手攻撃を掻い潜り、踊るようにナイフで触手を斬り刻んでいく。
「やっと遠慮なく暴れられるわね。そのひらひらした格好、ずっと我慢してたんだから」
 コルチカムが一瞬リブレの方に目線を送る。彼女は普段のリブレと違う可愛らしい衣装に違和感を覚え、笑うのを耐えていたのだ。
 しかしもうその必要はない。コルチカムは不敵な笑みを漏らしてオークと正対し、刃の如く鋭い蹴りで迫り来る触手を斬り裂いた。
「うっ……気持ち、悪い……」
 オークの触手が雨で滴るヨミの肢体に絡みつく。スカートを捲り上げられ、粘液のおぞましい感触が肌に伝わってくる。
 その醜悪な存在を視界に入れるだけでも不快なのに……。主人に忍び寄る危機を、ウイングキャットの『アーニャ』が尻尾のリングで触手を斬り払って救出し、ヨミはこの難を無事に逃れた。
「これはお返しよ」
 一刻も早く下劣なオークを排除しようと、ヨミがゲシュタルトグレイブを振り翳して纏めて薙いでいく。
「まだ終わりじゃないよ。でも、楽にもさせないけど」
 オズワルドは身体に纏う黒い残滓を鋭利な槍へと変化させ、長剣を指揮棒のように振るうと槍が一直線に伸びてオークを刺し貫いた。
「……狩る」
 女性に気を取られている背後を狙って、リノンが魔法の力を行使する。上に掲げた掌から鎌を携えた影が顕現し、首筋目掛けて刃を振り下ろす。
 ドシャリ――と、大きな塊が地面に落ちた。アスファルトが赤く染まって雨と混ざり合い、路地裏一面に鮮やかな朱が広がっていく。
 一体のオークを狩り終えても表情を変えることなく、リノンは次の獲物を見定める。
 空から雨が絶え間なく降りしきり、番犬達の身体を激しく打ちつける。閉ざされた空間に薄ら射し込むネオンの光が、路地裏に潜む深淵を色濃く浮かび上がらせ、淫靡な景色に彩っていた。
「グヒヒッ、筋肉質なオンナも悪くねえなあ!」
 下卑た笑いを浮かべつつ、オークがシレンの引き締まった肌に卑猥な触手を巻き付ける。
「拙者のような筋肉の塊でも喜ぶとはな。だが、貴様如きにこの筋肉は触れさせぬ!」
 気合と共にシレンの全身の筋肉が盛り上がり、二振りの刃を豪快に振るうと風がうねりを上げて、剣圧で生じた斬撃がオークに叩きつけられる。
「こういうのもマニアックでいいじゃねえか。そそられるぜ」
 片や、スクール水着を纏った響花を襲うオーク。触手を槍のように尖らせて、水着を剥ぎ取ろうと突き刺してくる。
 まさかの反応に響花は戸惑いつつも、バスターライフルを担ぎ照準を合わせて射出する。
「少しは頭を冷やすといいわ!」
 冷気を帯びた光線がオークに撃ち込まれ、凍気が徐々に肉体や触手を蝕んでいく。
「お待たせしました。あの少女はもう大丈夫です」
 少女を安全圏に避難させていた樹が、無事に役目を終えて戦線に加わった。樹は自らの気を昂らせ、内に眠る力を呼び起こす。
「内なる”獣”を呼び覚まし、”鎖”と”首輪”を持って”力”を制する」
 気は青白い光を纏い樹と仲間を繋ぐ鎖となって、彼女の破壊衝動が鎖を通じて伝播する。
 戦況はこの時点でケルベロス達全員が集結し、オークを完全に包囲した状態だ。逃走を図ろうとしても、道は阻まれている。逃げ場を失くしたオーク達が殲滅されるのは、もはや時間の問題である。

 コルチカムは隣り合っているリブレと目配せをして、仕掛けるタイミングを計る。
「それじゃ、私から切り開くわよ!」
 最初に動いたのはコルチカムだ。深紅の髪を靡かせながら、ピンクのフリル服が華麗に舞う。全身から滾る赤黒い闘気を拳に宿し、魂を喰らう一撃をオークの腹に捻じ込んだ。
「ふん……ボサ犬は、本当に真っ直ぐ突っ込むしか脳がねーですね」
 付き合いが長いからこそ、お互いの思考がすぐ読める。だからこそ、いつしか連携が自然と取れるようになっていた。
 直線的な紅犬とは逆に、リブレは機動力を活かして相手を攪乱させる。ビルの壁を足場代わりに跳び回り、オークに狙いを絞らせない。
「這いつくばってくださいな」
 高々と跳躍しながら黒兎は刃を研ぎ澄まし、一気に急降下してナイフをオークの首に突き刺した。よろけるオークを仕留めるべく、無慈悲に喉を掻き斬って、完全に息の根を止めたのだった。


 執拗にオークに攻められて、ヨミは思わず顔をしかめる。こんな連中に好き勝手させるなんて許さない、それならこっちも思い知らせるまでのこと。
「――ねぇ、何に見える?」
 ヨミが俯き加減で顔を逸らして、再び振り向いた時――彼女の外見は、人の憎悪で練り上げられた異貌の怪物に転じていたのだ。
 それを見たオークは恐れ慄きその場にしゃがみ込んでしまう。恐怖で醜態を晒すオークを追い詰めるべく、オズワルドは雨に濡れる地面に剣を突き立てた。
「最近覚えたての新術、試させてもらうよ」
 周囲に冷気が漂って、足元の雨が凍てつき無数の剣が現れた。氷の刃はオークに一斉掃射され、その身に氷の紋章を刻み込み、凍結するように浸食させていく。
「静かな眠りを約束するよ……よい夢を」
 オークの全身を氷の柩に閉じ込めて、オズワルドが剣を抜いた瞬間――氷漬けのオークは粉々に砕けて散った。これで残るオークは後二体。
「や~……相変わらずうねうねして気持ち悪いですね。まぁその方が……潰しても後腐れ無くて良いんですけどね」
 戦いも大詰めを迎えて、樹の感情が高揚感を増して嗜虐的な性格へと移行する。オークを蔑むような眼で見下して、降魔の力を纏った脚で急所を勢いよく蹴り上げる。
 激痛に耐え切れず蹲っているオークに対し、響花が無骨な鉄塊剣を大きく振り上げる。
「もっと痛い目に遭わせてあげるわよ。怒りの鉄槌を食らいなさい!」
 地獄の業火を帯びた大剣が豪快に振り下ろされると、オークは鈍い音と共に叩き潰されて、炎に包まれ灰燼となって肉片諸共消し飛んだ。
「お前で最後だ。逃がしはしない」
 残った一体を確実に仕留めるべく、リノンがグレイブを振るう。冷静な口調の中にも熱気を帯びて、漲る感情を雷へと変換させて武器に込め、不可視の速度で突きを繰り出した。
 雷鳴轟き閃光が迸り、リノンの紫電の刃がオークを穿ち貫いて、ガクリと膝を突くオークの前にシレンが立ちはだかった。合羽が雨風ではためいて、眼光鋭くオークを睨む。
 鞘に納めた日本刀を腰に当て、不浄なる異形の存在を強く見据えて――気合一閃、渾身の力を込めてシレンが刃を抜き放つ。
「女子供に手を挙げる輩には、慈悲など無用! 覚悟いたせ!」
 奔る刃は妖しく煌めく軌跡を描き、猛雨を裂いてオークを真っ二つに断ち斬って、真紅の雨が艶やかに虚空の彼方に舞い堕ちた――。

 戦いを終えると雨足は次第に弱まってきた。 
 コルチカムはリブレと目が合うと、改めて彼女の衣装を目の当たりにして、ついに堪え切れずに噴き出してしまう。
 リブレはそんなコルチカムに半ば呆れながらも、以前横取りされたカキ氷のお返しでもしてもらおうかと考えていた。
 ケルベロス達が路地裏を抜けた先には、一人の少女が雨に濡れながら立ち尽くしていた。
 樹は差した傘の中に少女を入れて、ニコリと笑って言葉をかける。
「良かったら私達が相談に乗ってあげますよ」
 樹の声にも少女は黙って俯いたまま。そこへ響花が少女の身体をタオルで包み、滴る雫を拭き取りながら優しく呼びかける。
「そうそう、愚痴ぐらいは聞いてあげるわ。それにその格好だと風邪引くわよ」
 二人が親身に話しかけてくれることに安心したのか、少女は顔を上げて響花達を見る。
 オズワルドはじっと少女を見つめて、戦いで疲れた頭を巡らせながら言葉を紡ぐ。
「明日があればやり直すチャンスはある……きっと家族も心配してるよ」
 それだけ言い終えると欠伸を一つして、眠そうな目を擦るのだった。
 オズワルドのそうした仕草をシレンが愛おしく眺めつつ、腹ごしらえにと用意したおにぎりを少女に差し出した。
「ところでお腹空いてないか? おにぎりでもどうだ」
 シレンは少女の髪を軽く撫でながら、宥め賺して落ち着かせようとする。
 険しかった少女の顔が少しずつ綻ぶと、今まで静かに見つめ続けたリノンが口を開いた。
「早く帰った方がいい。意地は後悔しか生まない」
 表情こそ変化はないが、リノンなりに少女を心から慮っての発言である。
「そうね。身体がベタつくし、早く帰ってシャワー浴びたいな。あなたもそうじゃない?」
 少女にそう呟くヨミも感情を表にこそ出さないが、口元が微かに緩んで見えた気がした。
 降り注がれる雨は何れ止み、少女の心もやがて晴れる日が来るだろう。
 オークの卑劣な目論見を阻止した地獄の番犬達は、雨に濡れた身体を早く温めようと、路地裏の闇から立ち去るのであった。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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