本日は晴天に恵まれ

作者:一条もえる

「さらに、だ。さらに性能を向上させなくては!」
 薄暗い部屋の中で、白衣の上に紫のマントという奇妙な出で立ちの男が、誰に聞かせるというでもなく声を張り上げていた。
「飛行オークが、天才たる我が輩にふさわしい画期的な発明なのは間違いない! しかしながら、まだまだ性能的には向上せねばならん!
 ……うぅむ、やはり新たな因子を導入しなくては、これ以上は無理か」
 叫ぶような笑うような声を上げていた男が、急に冷静になって顎をなでる。
「やはりサンプルが足りん。より多くのオークが必要だ」
 と、結論づけた奇人は、オークどもに次々と指示を出した。
「オークども! より多くの子孫を生み出すのだ! 行け!」
「ぶひひー! お許しが出たぶひー!」
「我慢しすぎて、触手から汁が漏れるところだったぶひー!」
 喜び勇んでオークどもが飛び出した、その目的地は。
 某女学院、である。
 その県ではそれなりの歴史と格をもつ、お嬢様高校だ。
「――次は、1年生女子による障害物競走です」
 晴天に恵まれたその日、某女学院では体育祭が行われていた。女子学生たちが賑やかに、グラウンドを駆け回っている。
 とはいえ。
「はー、体育祭とか、超面倒くさい」
「ねー。これ終わったら校舎裏で寝てよ……」
 お嬢様学校といっても、そこは今どきの女子高生。行事に熱心でない生徒がふたり、スタートラインに並んで気怠げに言葉を交わしていた。
 ピストルが鳴らされても、ふたりはたらたらと走るだけ。
 その前を行くおさげの女子生徒は真面目に走っている。が、かなり遅い。
「……障害物競走選んで正解。あの人たちには勝てるだろうし!」
 と、小さく呟く。ビリになりたくない、涙ぐましい「作戦」があったらしい。
 そのとき!
「ぶひひひひー! 真面目に走るぶひ! 躍動するメスのカラダが大好物ぶひ~!」
 上空に黒い点が見えたかと思うと、それは瞬く間に大きくなり、地上に降り立ったではないか。飛行オークだ!
「ひぃぃぃぃッ!」
 不真面目な女子学生たちは悲鳴を上げ、あっという間にお下げの女子生徒を追い抜いていく。
「えええ? きゃー!」
 哀れ、最下位となったおさげの女子生徒は狼狽えるあまりに、急いで平均台を渡り終えると、こんな事態となってはくぐる必要もない網の中に潜り込んだ。
 焦りと生来の運動神経の鈍さによってもがいているあいだに、あっさりと触手に絡め取られてしまう。
「ひえぇぇぇッ!」
 触手と網とによって、手足も腰も、意外と豊かな胸もギリギリと絞られ、オークどもを狂喜させた。
「ぶひひひひー!」

「女子校の体育祭が危険なんだって?」
 と言いつつ、伊庭・晶(ボーイズハート・e19079)が席に着いた。
「はい。竜十字島のドラゴン勢力による新たな活動は、マッドドラグナー・ラグ博士が生み出した飛行オークによるものです。
 飛行、と言っても滑空するだけで、飛び上がることは出来ないのですが」
 と、セリカ・リュミエールも並んで席に着く。
「それでも、上空から一気に襲いかかられたらたまったものじゃないな」
 晶は渋面で腕を組んだ。
 戦闘能力に変わりはなくとも、獲物の発見と襲撃を『効率よく』行ってくるに違いないのだ。
「わかっている敵の数は7体。
 ちょうど障害物競走をしているときが、襲撃の時刻になるようです。
 学内にいる他の生徒や教員はすぐに逃げ出せるでしょうから、ちょうど出場している女子生徒の救出が最優先となります」
「あらかじめ、避難は出来ないのか?」
「オークの襲撃地点が、他に移るだけです。
 敵は競技中の女子生徒に狙いを定めてくるのですから、それを除くことは不可能です」
「ふむ……」
 晶の眉間の皺が、いっそう深くなる。
「あらかじめ学内に潜む時間はありますが……父兄が持つチケットがないと、体育祭の観覧は出来ないようになっています。
 事情を話せば対処してくれるかとは思いますが、相手方はかなり驚かれると思います。そのやりとりが女子生徒たちに漏れてしまうかもしれません。
 こちらの準備は進めやすくなりますが、かえって先方の混乱を招くかもしれませんね」

「こんなやり口を見過ごしたんじゃ、男が廃るってもんだ。そうだろ?」
 と、晶は鋭い目つきで、一同を見渡した。


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)
高原・結慰(四劫の翼・e04062)
プロデュー・マス(サーシス・e13730)
ナクラ・ベリスペレンニス(オラトリオのミュージックファイター・e21714)
バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)
金剛・吹雪(スマホ中毒・e26762)

■リプレイ

●賑やかな体育祭
「どうも~。芸人のナクラでーす。イベントの盛り上げ役として派遣されました!」
 ぽろろ~ん♪ ギターを弾きながらの、押しの強い営業スマイル。
「あ……そうですか。どうぞ」
「出番まで、そこらの木陰で待ってますんで!」 
 プラチナチケットの効力もあって、校門にいた若い女性教諭はナクラ・ベリスペレンニス(オラトリオのミュージックファイター・e21714)を微塵も疑わず、中に通した。
「にぎやかですね」
 おなじく、こちらは父兄を装って潜入した水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)が、前髪で隠れた目を左右に巡らせて、様子を窺う。
 よくよく見ればほかの面々もあちこちに潜み、『そのとき』を待ちかまえている。
 女性教諭はのんびりとした雰囲気の女性で、気配を殺して潜り込めば、割合に容易く潜入できた。
「――次は、100メートル走です」
 ピストルが鳴らされ、少女たちが疾走する。そのたびに、彼女らの汗ばんだ身体が上下に揺れ、躍動する。
 その様子を金剛・吹雪(スマホ中毒・e26762)は茂みから覗き見し、
「役得役得……♪」
 などと呟きながら、ニヤニヤと笑っていた。
「なんだかスケベオヤジみたいよ? こんな状況だから仕方がないけれど、まるで盗撮犯」
 と、バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)が心なしか冷たい視線を送ってくる。
「さすがに撮影はしてないっすよ! それくらいの節度はあるっす」
「やってたら、そのスマホ叩き割ってるわ。
 ……本能のままに人を襲う奴らを、とうてい許すことはできないみたいに」
「も、もちろん許せないっすよ! オークどもから、お姉さんたちを守ってみせるっす!」
 勘弁してほしいっすよ、と、吹雪はスマートフォンをバジルから隠すように身をよじった。
 一方、プロデュー・マス(サーシス・e13730)は一点に視線を向け、そこからゆっくりと横にずらしていた。
「どうしたの……女の子の方を、じっと……見て」
「まさか、気になる女の子でもいたの?」
「あぁ、いた」
 思いもよらない返答に、フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)と高原・結慰(四劫の翼・e04062)はそれぞれ、
「まあ……」
「あら」
 と、驚きで目を見開く。
「あぁ、違う。そうじゃない」
 誤解を招いたことを悟ったプロデューは額を抑えつつ、
「さっき、おさげの女子生徒が自分の席から移動していくのが見えた。それを追いかけてたんだ。
 あれが、予知に出てきた少女じゃないのか?」
「……どうやらそうらしいな」
  木立の陰から目を凝らしてそれを追った八代・社(ヴァンガード・e00037)が、確信を持って頷く。
「そろそろ出番らしいな。
 ということは、俺たちの出番でもあるわけだ。……さっさと片づけて、一杯やろうぜ。これほど心が痛まん依頼も、なかなかねぇよ」
 社はニヤリと笑って、ホルスターから銃を抜いた。

●オーク強襲!
「――次は、1年生女子による障害物競走です」
 来た。いよいよだ。予知にあったとおり、おさげの女子生徒がスタートラインに並ぶ。ピストルが鳴って一斉にスタート。出遅れているのは、やる気のなさそうな2人の生徒。
 そろそろ……来る!
「皆さん、上空よりオークの一団が接近しています! 落ち着いて、慌てずに避難してください! 私たちはケルベロスです!」
 申し訳程度に用意された(高校ともなると、見に来る父兄など多くはないのだ)父兄席から飛び出したアンクが、放送席のマイクを横から奪い、怒鳴った。
「ぶひひひひー!」
 そうしている間に、滑空してきたオークどもは瞬く間に高度を下げ、その醜悪で好色な面構えまでもがよく見えるようになってきた。
 辺りは騒然とし始めるが、
「心配はいらない、俺たちに任せてくれればな! さ、早く外に逃げるんだ!」
 ナクラがギターをワンフレーズ弾き鳴らして衆目を集め、人々を誘導していった。
「やるか……蠅は、たたき落とさなくてはな」
「えぇ。鬼さん……こちら。『誘導電波』の鳴る方へ……!」
 プロデューとフローライトとが、並んで敵を見上げる。
 フローライトが手にしたライトニングロッドから放たれた不快きわまりない音波に、オークどもはのたうち回った。
 ふらふらと着地してこようとするところを、プロデューの攻性植物が襲う。
「なんだ、ぶひー!」
「足掻いたところで、逃れる道理はもはやない! 燃え尽きろ、我が罪過に縛られて!」
 オークどもを絡め取った攻性植物に地獄の炎が伝い、オークどもに灼熱の苦しみで押し包んだ。
「同意。醜い豚は、滅却処分」
 結慰が小さな声で呟くと、魔法の光線が最後に着地しようとしていたオークを貫き、身を強ばらせたそいつは、無様に落下した。
 オークどもは怒りで目を血走らせ、プロデューとフローライトにその矛先を向けてきた。
「始めるか」
 ニヤリと笑った社は突進する先頭のオークに向かって、抜く手もみせぬ速さでナイフを放った。それは触手の1本に深々と突き刺さる。
「まだこれからだ!」
「邪魔するな、ぶひー!」
 しかしそのオークは社を見向きもせず、プロデューたちの方に突進していく。
「メスどもはみんな、俺たちのものぶひー!」
 ふたりに、合計4匹のオークが襲いかかる。立て続けに放たれる触手をふたりはかわしていくが、後方から放たれた触手を避けきれず、絡め取られて締め上げられてしまった。
「そのミミズ、もうしまえよ。みっともない!」
 プロデューはそう嘯くが、骨が軋む。
 身動きのとれないフローライトに、鋭く先端が研ぎ澄まされた触手が襲いかかる。
「ぐッ……!」
 ロングコートの胸が裂け、吹き出した血がグラウンドの土を濡らす。
「いえ……問題、ありません。こちらに攻撃が集まるのも、目論見通り……」
 それでも、傷は焼けるように痛むが。
「ぶひひー! ケルベロスは血祭りぶひー!」
「そう簡単にいくかしら? 私のことも忘れないでね、お相手してくれるとうれしいわ」
 バジルはすかさずフローライトの傷を魔法切開し、緊急手術を行った。
「望みとあらば、お前で繁殖してやるぶひー!」
 中列にいた1体が襲いかかると、
「お断りよ! 来るな、気持ち悪いッ!」
 と、バジルは吐き捨てて身をよじる。
「本当に……」
 こいつは先ほど撃ち落としたオークだ。結慰は顔をしかめて、御業を召喚する。それに鷲掴みにされ、オークは身動きがとれなくなった。
「ぶひッ!」
 触手を蠢かせて守りの姿勢にいたオークが、結慰に襲いかかる。延びてくる鋭い触手。身をよじったが、腰のあたりを裂かれてしまった。
 白い脇腹がのぞき、ホックの壊れたスカートがストンと落ちて、下に履いたブルマが露わになった。
「大丈夫?」
「多少、問題が。受けた傷は大したことはないけれど……破れた服、修繕するのは難しそう。買い直す出費が……痛い」
「いやまぁ、ブルマ丸見えとか、結慰ちゃんが気にしないんなら、いいんだけど」
 バジルは苦笑いし、肩をすくめた。雷の壁を構築し、仲間を助ける。
「ミンチにしてやるぜ、豚野郎!」
 社のナイフが深々と食い込み、血をまき散らす。それを浴びながら、社は凄絶な笑みを浮かべた。
 それでも、そのオークはプロデューに向かって躍り掛かり、触手で締め上げようとした。
 もう1体のオークが突進し、槍のごとき触手をフローライトにのばす。
 ふたりはそれぞれ、紙一重のところでそれを避ける。
「数が多い。しっかりと受け止めなければ……」
 と、プロデューは口元を引き締めた。
 今の2体と、後方から触手を伸ばしてくる2体。いずれも怒りに燃える視線で、ふたりを睨みつけている。
 一方でバジルと結慰に襲いかかったのが、守りを固めていたのと、中列にいた1体。
 そして、もう1体は。
「ぶひひー! こっちにまだ、若いメスがいたぶひ!」
 ケルベロスの挑発に乗らなかった1匹が嬌声をあげ、トラックの方へと走っていった。

●これもまた欲か
「逃げる姿がまた、たまらんぶひー! 肉が踊るぶひー!」
「あわわ、あわわわわッ!」
 泡を食った、とはこういうことを言うのであろう。
「お姉さん、逃げちゃっていいんっすよ! 律儀に網に潜らなくていいんっす!」
 吹雪が半ば呆れて叫ぶが、耳に届かなかったようだ。
 案の定というべきか、おさげの女子生徒は網に絡まってもがいていた。慌てたせいなのか、普段からこんなもんなのかは知らないが。
「おっと待て! せっかくだ、一曲聴いてけよ!」
 ナクラが敵の前に立ちはだかり、攻性植物を伸ばす。ハエトリグサのごとき補色形態で、オークの肩口にかぶりついた。中にある毒針が、敵に毒を注入していく。 
「少々荒っぽいですが、勘弁してくださいよ!」
 それを横目に見たアンクは強引に、力任せに、網をひきはがした。
「きゃー!」
 すると、ここまで行くと逆に器用だと思うほどに片足がすっぽり網の中に入っていた女子生徒は、引っ張られてゴロゴロと地面を転がる。
 目を回したおさげの少女は仰向けになって地面にごろり。片足を網に引っ張られたまま、ショートパンツをはいた股を大きく開いて吹雪の眼前に転がった。
「う、うぅ~ん」
「おおう……」
 役得と言えば役得だが、さすがにこれは申し訳ないかなぁと視線を逸らし、いやでも、もうちょっと見てもみたいような。
「吹雪さん、敵が!」
 アンクが叫ぶ。
「お、おっと!
 ハルナ! 頼んだよ!」
 背後に立ってその様子を窺っていたビハインド『ハルナ』は、『弟』の声を受けて大鎌を振り上げ、次々と繰り出される触手を防いでいく。
「僕も負けていられないね!」
 距離をつめた吹雪は、握りしめたスマホの角でオークのこめかみを容赦なくぶん殴った。
「よし、いまのうちに。つかまってください」
 おさげの女子生徒を抱き上げたアンクは、「ええええええッ?」と真っ赤な顔で狼狽する彼女を後目に、ほかの生徒たちがいるところまで運んでいった。
 これで、避難は完了だ。
「では、あとは一気に行きます……! クリスティ流神拳術四拾九式……殲輝連衝(カタストロフブラスター)ッ!」
 アンクは右腕から白炎を噴いて舞い上がると、空中で突き出した拳から無数の白炎弾撃ち出した!
 それはオークどもに降り注いでいき、その太った身体を灼いていく。
「まずはこいつらから始末してやろうぜ!」
 社が、プロデューらに群がる2匹のオークどもにナイフを向ける。その攻撃力は侮れない、戦士どもだ。
 しかし複数の敵を巻き込んだ攻撃を幾度も浴び、さらには社のナイフも浴びている。
「わかった……的確だと、思う」
 頷いたフローライトはアームドフォートに接続したままの杖から、雷撃をほとばしらせた。
 呼応してプロデューは地獄の炎を燃え上がらせ、それを弾丸としてもう1匹に叩きつける。
「安静にする暇なんて、与えないわよ?」
 バジルが、ここぞとばかりに毒薬を噴霧する。それを浴びたオークどもはのたうち回り、聞くに耐えない悲鳴を上げた。
「うふふふふ、効いてる効いてる……」
 好機だ。全員が、そいつらに狙いを定めて飛びかかる。オークどもは血だまりの中に、その身を沈めた。
「次……!」
 先ほどおさげの女子生徒に襲いかかっていたオークに、結慰は狙いを付けた。跳躍し、鋭い蹴りを放つ。
 しかし、守りを固めていたオークは仲間の前に立ちはだかり、触手を振り回してそれを防いだ。
「いこう、相棒!」
 ナクラがギターを構え、『欺騙のワルツ』を奏でると、彼の相棒、ナノナノの『ニーカ』も呼応して光線を放った。
 ところが光線は、味方を庇ったオークによって防がれてしまう。
「ぶひひひひひひ~ッ! やられはせん、やられはせんぶひ!
 ピチピチのメスを手に入れる情熱があるうちは、倒れはせんぶひ~ッ!」
「ぶひひ~ッ! しっとりと汗ばんだ肌に、触手を絡めるぶひ~ッ!」
 仲間の盾となったオークが叫ぶと、仲間たちも興奮したのか叫び声を上げた。
 欲望に満ちた叫びが、オークどもに生気を蘇らせ、戦意をいっそう旺盛なものにする。
 繰り出される触手の威力がいっそう増し、それに貫かれた吹雪、それに社の防具が、裂けて砕けた。
「この程度で、勝った気になるなよ!」
 流れ出る血にもかまわず、社は歩を進めた。一秒でも早く、オークどもを屠るのだ。
 受けた傷は、バジルが『エレキブースト』で癒やしてくれる。
「歪め。俺の魔弾をくれてやる!」
 足首の仕込み銃と脚とを魔術的に接続し、魔術により脛までを覆う『影のブーツ』。そこから放たれた魔弾は、違うことなくオークの胸元を貫いた!
 瀕死の仲間を庇おうとした盾役のオークだが、それは叶わない。
 再び放たれたフローライトの『誘導音波』を2匹ともが浴びて倒れ込み、瀕死のオークは絶命した。
「お前の相手なら、俺がしてやるぜ!」
 ナクラの『気咬弾』が狙い違わず追いすがり、盾役のオークも倒れる。
 それでもなお、中列のオークは触手を伸ばし、アンクを絡め取ろうとした。一歩飛び下がってそれを避けたアンクは、超加速の突撃で相手を吹き飛ばす。
 すかさずそこに結慰とナクラとが襲いかかり、とどめを刺した。
 一端崩れた均衡。それは戦況を一気に動かしていく。
 仲間を庇う者ももういない。
「もう一撃! 凍えて潰れろっす!」
 スマホを手にした吹雪が叫ぶと、金剛石の塊が冷気をまといつつオークに襲いかかっていった。
「ぶひぃッ!」
 情けない悲鳴を上げて倒れたオークの額に、さらに降り注ぐ金剛石が命中した。血飛沫をまき散らしながら、大の字に倒れる。
「さて……あとはあなたたち2匹だけね」
 バジルが目を細めて、そちらを見やる。
 ケルベロスたちがズイッと距離を詰め、後列から仲間を支援していたオークどもは怯えたように一歩下がった。
「ぶ、ぶひー!」
 叫んで放ってきた触手は、いかにも苦し紛れだ。
 容易くそれを避けた結慰は、
「劫が巡り巡る1と0の法則。滅びを告げる【壊劫】……此処に在り!」
 その身に破壊の力を宿し、その一撃で、及び腰のオークを粉砕した!

「逃がすかッ!」
 最後の1体となったオークは背を向けて逃げ出したが、ケルベロスたちは取り囲んで逃がさなかった。
 立て続けに攻撃が降り注ぎ、ついに、吹雪の炎上させたサイトの炎が、オークをも焼き尽くした。
「うわー、すごーい!」
「かっこいいー!」
 いつのまにか遠巻きに眺めていた女子生徒たち。戦いが終わると、彼女らは歓声を上げて駆け寄ってきた。
 戦いが行われたのは広いグラウンド。オークどもの血が流れているのは不快だが、大きな被害もない。
「あの……ありがとうございましたッ!」
 お下げの女子生徒が、勢いよく頭を下げる。
「役得とは、こういうことを言うのかもしれませんね。冥利に尽きる、というやつです」
 と、アンクは微笑んだ。

作者:一条もえる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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