黄金の不退転ローカスト~閃槍の女帝

作者:深淵どっと


「ココガ地球、グラビティ・チェイン、ドッサリ」
 長い毒針と鹵獲した攻性植物を武器とするローカスト、スポアスティンガーが感嘆の声をあげる。
「この地を支配する事ができれば、グラビティ・チェインの枯渇に怯える同胞達は救われるだろう」
 それに答えるように、蟻型ローカストの宿将、金甲のフーガが重々しく答えた。
「油断するな。この地には、我が同胞を殺戮する存在、ケルベロスがいるのだ。あのネフィリアでさえ撃退されたその実力、侮りがたし」
 2人を制したのは、この侵攻部隊の隊長であるヘルクレスト・メガルム。  絶大な忠誠心と不退転の覚悟を持つ、カブトムシ型のローカストである。
「心配しなくても大丈夫っすよ。この黄金装甲があれば、ケルベロスなど、恐れる事は無いですから」
 メガルムの言に、他の3人が気を引き締める中、特務部隊インセクターから引き抜かれたイエローシケイダが調子良く答えて、ローカストでも有数の傭兵集団を統率する蜂王アンナフルに叱責された。
「あら、あなた、油断するなというのが聞こえなかったのかしら? この黄金装甲の強化は未だ不安定、不測の事態は常に起こりえるのです。調子にのるものではなくってよ」
「アンナフルの言うとおりだ。われらの目的は、グラビティ・チェインの奪取。そして、ケルベロスとの戦いにより、黄金装甲の威力を実証し、更なる強化の礎となることである」
 そこまで言うと、メガルムは、右手を皆の前に差し出す。
 他の4名も、また、メガルムと同様に右手を差し出し、円陣を組んだ。
「全ては、困窮する同胞達の為に」
「「「「全ては、困窮する同胞達の為に」」」」
 5つの声が唱和し、そして、ローカスト最強の部隊が、動き出したのだった。


「よく集まってくれた、ケルベロス諸君。ローカストの軍勢に新たな動きが見られたようだ」
 ヘリポートに集ったケルベロスたちを見渡し、フレデリック・ロックス(シャドウエルフのヘリオライダー・en0057)は資料を開く。
「先日、ローカストの指揮官だった、『上臈の禍津姫』ネフィリアが撃破された事でローカストの動きが縮小しつつあったのだが、今度は別のローカストが行動を開始した」
 確認された敵は僅か5体、しかしその一人一人が部隊長クラスの実力を持つ強敵である。
「ここに集まったキミたちにお願いしたいのは、その内の1人である『蜂王アンナフル』を迎え撃つ事だ」
 そしてもう一つ、敵自身の強さ以外にも油断できない要因がある。
「ローカストがアルミニウム生命体を利用し戦うのは知っていると思うが、今回の5体はそのアルミニウム生命体を強化した『黄金装甲』を用いて襲撃に来るようだ」
 襲撃の目的は、恐らくその『黄金装甲』の地球環境下での実戦試験。そのため、こちらが戦闘を挑めば確実に正面から受けて立ってくるだろう。
「体の一部に留まらず、全身をアルミニウム生命体で覆う『黄金装甲』……通常のローカストより遥かに高い戦闘力を持っているものと思った方が良い」
 だが、それ故に制御が不安定になっているようで、戦闘が長引けばアルミニウム生命体がローカストの意志に逆らう等の不具合が出てくる事が予測されている。
「苛烈な攻撃に耐え抜くのは至難だが、しっかりと連携を取り長期戦に持ち込む事で、勝機を得られるかもしれないな」
 アンナフルは『傭蜂集団』という群れの女王蜂で、今回の司令官でもあるメガルムに雇われたようだ。
 幸いなのは、今回は彼女単体との戦いになると言う点だろう。
 とは言え、黄金装甲化の技術を用いた2本の槍と羽を使った素早い動きは、正に蝶のように舞い蜂のように刺す、と言う言葉を体現したような戦い方である。
 一瞬でも油断すれば、死の一突きが待っている。
「アンナフルは木々の連なる自然公園に出現する。キミたちには現地に赴きそれを撃退してもらうことになるな」
 時刻はまだ明るい時間帯だが、複雑な木々の隙間もアンナフルからすれば都合の良い隠れ蓑となる。
 木々の影から影へ、死角から死角へ、そして隙を窺い決定的な一打を狙ってくるだろう。
「しかし『黄金装甲』か……今回の襲撃を予測したイグナスくんの推測によれば、長期戦によるアルミニウム生命体の暴走は、ローカストを否定しているからでは無いかと言う話らしいな」
 そう、今まではローカストの武器としてしか見てなかったが、アルミニウム『生命体』なのだ。
「あるいは、彼らにも意志のようなものが……?」
 思案顔で呟くフレデリックだったが、一息してから首を軽く横に振った。
「いや、憶測に過ぎない、気にしないでくれ。まずは今回の襲撃を退け、敵の増長を防ぐ事が大切だ、頼んだぞ」


参加者
ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)
九道・十至(七天八刀・e01587)
ノル・キサラギ(銀架・e01639)
セラス・ブラックバーン(竜殺剣・e01755)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
田抜・常(タヌキかキツネか・e06852)
ノア・ウォルシュ(ある光・e12067)

■リプレイ


 蜂王アンナフルを迎え撃つべく、ケルベロスたちは襲撃が予測された自然公園へと訪れていた。
 まだ昼間だと言うのに陽光は木々に遮られ、微風に揺られた葉がざぁざぁと鳴く。何らかの要因でヒールを受けた木々は奇妙に捻じれ、不気味な雰囲気を醸し出している。
 まるでこれからここが戦場になるなんて嘘のような静けさだった。
「さて、気を引き締めていこう」
 その静寂の中、ノア・ウォルシュ(ある光・e12067)は落ち着いた口調で仲間たちに告げる。
「……十至、大丈夫?」
「うん? あぁ問題無い問題無い……ちょっと、酔っちまっただけだ、すぐ治るからよ」
 どこか緊張した面持ちの九道・十至(七天八刀・e01587)にノル・キサラギ(銀架・e01639)が心配そうに声をかけるが、どうやら本当にヘリオンで軽く酔ってしまっただけらしい。
「……本当は酒が抜けるまでゆっくり休みたい所だが……どうも、そうは言ってらんねぇみたいだしな」
 戦う前から疲労の浮かぶ表情。その視線が、ふと微かに揺れる枝々の隙間へと向けられる。
 最初に訪れた変化は、風。緩やかに強くなった風に、木々がまるで怯えるようにざわつき始める。
「……来る」
 それに続いてノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔女・e05320)が短く呟く。風に飛ばされないようトレードマークの魔女帽子の唾を摘んで十至同様、頭上へと視線を向けた。
 そして、同じように視線を上げたケルベロスたちは、その姿を捉える事になる。
 黄金の鎧に身を包み、同じく金色の二槍を手に降り立つ異形の虫人。
「出たなローカスト! カッコイイ装甲つけてんじゃねーか。てめーらにはもったいないぜ!」
「お主が蜂王アンナフルか、名に違わぬ大層仰々しい姿じゃて。さて、どれほどの実力か、楽しみじゃのう!」
 その大きな羽は見た目とは裏腹に無音のまま、アンナフルは地上へと降り立つ。
 既に戦闘態勢は万全なセラス・ブラックバーン(竜殺剣・e01755)とドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)の言葉に彼女はゆっくりと口を開いた。
「ケルベロス……丁度良い、私もあなたたちに用があったのです。我らが大義のため、ここでその礎となりなさい!」
 アンナフルは黄金装甲を使った戦闘データを得る目的がある以上、ケルベロスたちを見逃さない。そしてケルベロスたちにはその阻止と、もう一つの目的がある。
 故に、相対すれば多くを語らずとも結果は同じだ。
「同胞のために戦うか……その気概は嫌いじゃない。が」
 黄金装甲で強化された槍を振るうアンナフルの構えには、一分の隙も無い。彼女が黄金装甲を使わずとも十分な強敵である事が窺い知れる。
 だが、こちらにも譲れないものがあり、退くわけにはいかない。ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)は地を踏み締め、突き刺さるような殺気を放つアンナフルに対峙する。
「黄金装甲……その心、魂の在り処、見定めさせてもらいます」
 この陰る森の中でも雄々しく煌めく黄金装甲を見つめ、田抜・常(タヌキかキツネか・e06852)は呟いた。


「先手必勝じゃ!」
 言葉通り、先手を打ったのはドルフィン。
 拳を覆うのはかつて屠った水晶竜『亢竜』の外殻を使った手甲だ。
「地球人にしては中々……だが、遅いッ!」
 空を裂く拳はギリギリのところでアンナフルを逃し、その背後の木を根本から殴り倒す。
「ほう! 聞いた通りのすばしこさじゃのう!」
「同胞の勝利のためにも、私に油断は無くってよ。そのような攻撃、当たりませんわ」
 目にも留まらぬ素早さで羽ばたき、木々を使って撹乱しながらアンナフルはドルフィンへ手にした槍を突き出す――が。
「立派だねぇ。おっさんには眩しすぎるぜ」
「だが! 俺たちだって負けられないぜ!」
 回避と反撃の隙を狙った十至の剣閃が木々の枝を斬り裂いてアンナフルを捉え、同時にセラスが鋭い刺突を繰り出す。
 まだ少々顔色が悪いが十至の剣に鈍りは無い。
「小賢しい真似を……!」
 連携の取れた攻撃にアンナフルは飛び退くように距離を取る。
 流石に手強い。辛うじて当たりはすれど、これほどの連撃も決定打には至らない。
「黄金装甲の力、その目に焼き付けなさい!」
 直後、黄金色の暴風が森の中を駆け巡った。飛翔したアンナフルによる二槍を駆使した暴虐の風だ。
 だが、デタラメに暴れ回っているわけではない。その一撃一撃は的確にケルベロスたちを狙い、貫いていく。
「このまま串刺しにして差し上げましょう!」
「やれやれ……こう動き回られては、話ができないね」
 速度を乗せた強烈な一突き、それを受け止めたのはノアだった。
 味方への被害が最小限に抑えられたのも、ライドキャリバーのスーパーノヴァの働きがあった故である。
「少し話をしよう。俺たちは君を支配しているローカストを倒すつもりだ。良かったら、協力してくれないか?」
 ノアが語りかけているのは、当然アンナフルではない。その視線は自分の脇腹を貫く黄金の槍へと向けられていた。
「全てはあなたたち次第です。私たちの言葉にどうか応えてください」
「まさか、あなたたちの狙いは……!」
 槍を引き抜きアンナフルが間合いを取ると同時に、ノアの傷を常が癒やす。
「逃しはしない、気が済むまでは話をさせてもらうぞ!」
「わたし達も、アンナフルも譲れないものの為に意志を持って戦う。……あなたも、意志を示せ」
 アンナフルが見せた一瞬の動揺をティーシャの蹴撃が狙った。
 身を翻し蹴撃を避けるアンナフル。だが、その足元をノーザンライトの古代語魔法が石化させ、阻害する。
 そして、ティーシャの一撃は自慢の羽の一つをへし折り、千切り落とした。
「聞こえるか! あんたが意志のある存在なら、そいつらに抗いたいのなら! 俺達と一緒に来い!」
 ケルベロスたちのもう一つの目的。それはローカストが使役するアルミニウム生命体との意思の疎通だ。
 増幅した魔力をありったけの雷撃に変換し、アルミニウム生命体に向けた言葉を一緒に乗せて、ノルはアンナフルに拳を打ち込む。
 ――その瞬間だった。
 突然脳裏を過る、何かのヴィジョン。
 それがアルミニウム生命体による感応――すなわち、応えである事も、ケルベロスたちにはっきりと伝わってくる。
 朧げなヴィジョンには、彼らの生物としての在り方が刻まれていた。
 ――元来、彼らは他者に自らを武器として使ってもらう代わりに、得たグラビティ・チェインをの一部を得る、言わば共生生物だった。
 だが、ローカストは彼らにグラビティ・チェインを与えずに使役する方法を開発し、その生命を使い捨てている。
(――我々を)
 怒り、憎しみ、悲しみ、苦しみ。
 アルミニウム生命体が抱く、確かな感情がケルベロスたちの意識に触れていく。
 やはり彼らは、この世界に生きる一つの生命体なのだ。
(――我々を、オウガメタルを助けてくれ!)


「うりゃあ!!」
 変質させた黄金装甲が刃となって降り注ぐ中、セラスはそれをかいくぐるように木の幹を蹴り、跳躍する。
「そこを動くな!」
 その動きをティーシャの連想砲が援護する。
 砲撃によって動きを抑えられたアンナフルに、竜殺しの名を冠する刃は咆哮を上げるように刃を回転させ、その黄金の鎧を斬り砕く。
「俺らの所に来いよ、オウガメタル。一緒にローカストをぶっ飛ばそうぜ!」
 彼らは応えた、助けてくれと。
 ならば、その呼びかけに応えてこその正義の味方だ。セラスの言葉に迷いは無かった。
「ぶっ飛ばす? 一緒に? 舐められたものですわね、あなたたちはここで、この蜂王アンナフルに駆逐される定めでしてよ!」
 だが、この地に降りたローカストの覚悟もまた、その正義に等しく強い不退転の決意だ。
 二槍から繰り出される怒涛の連続突きを庇ったスーパーノヴァは一時的に消滅してしまう。
「籠手よ、その力を示せ」
「怪我をした方は一旦こちらへ。離れ過ぎず、固まり過ぎず行きましょう」
 だが、今は止まっている余裕は無い。まだ長引くであろう戦いに備え、ノアは何度目かの紙兵を撒き、常は適宜状況に合わせヒールを繰り返す。
 ノルやセラスもノア同様、仲間を守るように立ち回りつつ戦うが、アンナフルの猛攻はその全て防ぎ切れるようなものではない。
「ドルフィンの方向……行った」
「カッカッカッ! これしき、怪我に入らぬわ!」
 ノーザンライトの声にドルフィンは咄嗟に身を翻し、その反動を回し蹴りへと活かす。
 純粋に戦いを楽しむように笑ってはいるが、ダメージは確実に蓄積している。そしてそれはドルフィンに限った事ではない。
 戦況だけ見れば、ケルベロスたちは劣勢と言わざるを得なかった。
「かつては心の無いダモクレスだった俺を、地球の人達は受け入れてくれた。だから……オウガメタル! あんたの心を、その誇りを、俺達は受け入れる!」
 それでも、ノルは言葉に想いを乗せ続ける。
 受け入れられた過去があるからこそ、それを望む者の未来を、受け入れる未来を諦める事など、できる筈がない。
「無駄だと言って――ッ!」
 そんなノルの眼前に迫る、黄金の槍。
 しかし、その必殺の一撃は頭部を貫く直前で止まり、アンナフルは動揺の声色と共に間合いを取る。
「様子がおかしい。形状が安定していないのか?」
「……反抗、しているのでしょうか?」
 戦いながらも黄金装甲の状況を観察していたティーシャと常が同時に呟く。
 それは他のケルベロスたちの目にも明らかだった。
「……アルミニウム生命体風情が……ならば、完全に暴走する前に始末をつけるまででしてよ!」
 歪に形状を変化させる黄金装甲を抑え付け、アンナフルはケルベロスたちへの攻撃を再開する。
 しかし、その一撃の重さ、正確さは先程より確実に精彩を欠いていた。
「チャンス、かな。でも油断は禁物だ……ここが正念場ってところだね」
 ノアの言葉通り、追い詰められたアンナフルの気迫は凄まじく、僅かな油断が命取りになるだろう。
「そんじゃあ、こっちも少しばかり無茶するかね……」
 だからこそ、出し惜しみなどしてはいられない。十至は一息零しつつ、刀を鞘へ収める。
「正義の炎で焼き尽くしてやるぜ!」
「ならばその正義、我々の大義で踏み消して差し上げましょう!」
 セラスの剣とアンナフルの槍がぶつかり合い、火花を散らす。
 一斉に繰り出される攻撃に、アンナフルはやむを得ず一旦間合いを取る――が。
「もうここはあなたの得意な地形じゃ無い……わたしたちが、ただ闇雲に攻撃してたと思った?」
 その動きを二つの人影が捉えた。
 一つは、間合いを取るアンナフルを遮るように飛び込んだノーザンライトだった。打ち込まれる連撃は月の光を携え、アンナフルを追い込む。
 既にケルベロスたちの攻撃の余波で木々は倒され、身を隠せる場所は限られている。これなら、アンナフルの高速軌道を捉える事も不可能では無い。
「そういう事だ。悪いがちょいと付き合ってもらうぜ」
「おのれ……ケルベロスッ!」
 そして、もう一つの影は十至だった。
 その背中には六枚の翼が広がり、アンナフルすら凌駕する素早さでその動きを追従する。
「ならば、まずはあなたから貫いて差し上げます!」
 振り抜かれた剣閃は周辺の木々ごとアンナフルの片方の槍を持った腕を斬り落とす。
 だが、肉斬骨断とばかりに突き出されたアンナフルの一撃は十至を貫き、そのまま投げ捨てるようにその身体を木の幹に叩き付けた。
「ッ……ぁー、年甲斐も無く無茶なんてするもんじゃねぇなァ……!」
「だが、ようやった!」
 瞬間、投げ飛ばされた十至の陰からドルフィンが飛び出しアンナフルに肉薄する。
 最早アンナフルに逃げ場は無い。いや、そもそも度重なる攻撃とアルミニウム生命体の反抗によって、既にドルフィンを振り切る事は不可能だろう。
「その自慢の黄金装甲とやらを剥ぎ取ってやろう!」
 アンナフルは足掻くように、手に残るもう一方の槍を突き出そうとするも、槍は既に武器としての形をほとんど保ってはいなかった。
 気力を振り絞った竜闘技がアンナフルを絡め取り、地に叩き付ける。
 あっという間にアンナフルはドルフィンに組み伏せられ、身に纏った黄金装甲を力尽くで剥ぎ取られる。
「ぐ、ァ……! こんな……この、私が……!」
 節々からオーラを流し込まれながらもアンナフルは最後まで抵抗を続けるが、やがて言葉は途切れ、地に伏せたまま動きを止めた。
「蜂王アンナフル……あなたは、強かった。技も力も、そして何より、貴女の決意が強かった」
 最後の最後まで闘争心を失わず、自身の掲げた大義のために戦った相手に敬意に近いものを感じながらノーザンライトは呟く。
 黄金装甲の暴走が無ければ、負けていたのはこちらだっただろう。


「カッカッカッ! 完全勝利じゃのう!」
「完全……でもないかも……でも、勝てて良かった」
 剥ぎ取った黄金装甲を高く掲げ、ドルフィンは満足そうに豪快な笑みを浮かべる。
 確かに状況を考えれば完全勝利とは言い難いが、それでも目的を果たし勝利する事はできたのだ。ノーザンライトも細かい事は抜きにほっと息を吐く。
「あいたたた……全く、やっぱ無茶はするもんじゃねぇなァ……」
 怪我を自力でヒールしつつ、十至は帽子を拾い上げ、深めに被った。
 その表情はドルフィンとは逆に、少し暗い。先ほどの技の反動だろうか、知り得るのは当人のみだろう。
「――閃槍の女王蜂、冥途の土産に頂いて行きます」
 一方の常はアンナフルの魂を喰らう。相容れない敵ではあるものの、その魂に宿る技は、確かな力となる。
「それで、どうするんだ、それ?」
 落ち着いたところでノアはドルフィンの持つ黄金装甲を指差した……その時だった。
 突如、黄金装甲に亀裂が入り、弾けるように割れてしまう。
「!」
 咄嗟にティーシャや常は身構えるが……破片は8つに別れ、ケルベロスたちの手へと、それこそ意志を持つように降り立った。
「……力を貸してくれるのか?」
 ノルの言葉に対し、先ほど脳裏に響いたような声は聞こえてこない。
 だが、その手に残ったオウガメタルの熱い想いだけは、確かに伝わってくるようだった。
 その想いをセラスも感じているのか、オウガメタルを強く握り、どこかにあるのであろうローカストの母星を見上げるように、顔を上げる。
「何にしても、まだオウガメタルたちはローカストに捕まってるんだよな。だったら、必ず助けてやらないとな!」
 ――かくして、蜂王アンナフルは倒れ、ケルベロスたちの手には新たな仲間ともなり得る、オウガメタルが残った。
 だが、彼らを地球に受け入れるには、まだもう一つの戦いが残っている。
 オウガメタルが戦いの中で伝えた意志によれば、その戦いはもう間も無く始まるのだろう……。

作者:深淵どっと 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 40/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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