黄金の不退転ローカスト～光輝纏いし重甲

■リプレイ

●邂逅
　鬱蒼とした木々の並び立つ森の中。降り立ったケルベロス達の前に現れたのは、黄金の装甲を纏った巨蟲の戦士。
「ほぅ、ケルベロスか。調度いい……」
　黄金色に輝く拳を打ち鳴らし、ヘルクレスト・メガルムは獲物のを品定めするようにして周囲を見回した。
　数の差ではケルベロス達の方が上だが、しかしメガルムは動ずる様子など欠片も見せない。圧倒的な威圧感。その存在だけで、十分に場の空気を支配してしまっている。
「宿敵ネフィリアを潰した後に新たな指揮官クラスですか。朝の戦隊ヒーローでもあるまいに……」
　辟易した様子で口にする餓鬼堂・ラギッド（探求の奇食調理師・e15298）だったが、その言葉にメガルムは答えなかった。だが、ここで彼を見逃す理由が、何ら存在しないのもまた事実。
「黄金装甲……実用化されたら大変です。そして何より、罪なき人々を傷つけさせるわけにはいきません！」
　ケルベロスコートを脱ぎ捨て、ルーチェ・プロキオン（魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143）は、戦うための魔法少女へと姿を変える。天羽・舞音（力を求める騎士・e09469）とイグナス・エクエス（怒れる獄炎・e01025）の二人もまた、改めて戦うための力を解放し。
「黄金装甲とやらの性能、見せてもらおうか……！　変身……！」
「不退転の覚悟は嫌いじゃないが、この星で好き勝手するんじゃねえ！　俺達には、俺達の護るモノと正義がある。行くぜ！　イグニッション！」
　身体を、心を、不屈の闘志で燃やして包み込む。しかし、それを見て臆するメガルムではなく、むしろ満足気に頷きながら、その左手に光の戦輪を出現させた。
「では、望み通り見せてやろう。我が黄金装甲の力を、存分にな！」
　次の瞬間、放たれた戦輪が奇妙な弧を描いてケルベロス達に迫る。その速度は、正に光陰の如し。激しい光の軌跡が目の前を駆け抜けると同時に、防具を破って伝わったのは鋭い痛み。
「……っ！？」
「やってくれたな……」
　イグナスと舞音が、それぞれに自らの身体を走る衝撃に顔を顰めた。咄嗟に身体を盾にした仲間を庇ったが、その代償は決して軽くはなかったようだ。どんな強固な防具でさえも紙の如く斬り裂く威力は、確かに今までの敵とは格が違う。
「どうやら彼らにも、守るべき同胞がいるみたいだね。でもボクらも地球を、大切な人たちを守らないといけない。敵になるなら容赦なく、徹底的に狩り尽くす！」
「レギオンレイドの方には申し訳ないデスけど、あくまで私は地球の味方デスからね。潰すからには徹底的に、デスよ」
　敵は生半可な覚悟で戦いを仕掛けてきたわけではない。今の一撃でそれを悟り、試作機・庚（超重量級カナヅチ・e05126）とリュコス・リルネフ（銀雷狼・e11009）もまた覚悟を決め。
「リヴィの宿敵だ。あたしたちは、絶対に負けるわけにはいかねぇ！」
　そう、白銀・ミリア（ピストルスター・e11509）が叫んだ言葉が、ケルベロス達にとっての反撃の狼煙。
「メガルム……。去年、情報収集時に貴様と遭遇し、適当にあしらわれ逃げられた屈辱、今ここで晴らす！」
　拳を構え、敵の懐に飛び込むリヴィ・アスダロス（魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130）。黄金の装甲に鋼の刃と拳がぶつかり、衝撃が森を駆け抜けた。

●無双
　金色の風が力となり、森の木々を薙ぎ倒しながらケルベロス達へと迫る。黄金装甲を纏った巨蟲の戦士、ヘルクレスト・メガルムの攻撃は、その一撃が恐ろしく重かった。
　光の戦輪はケルベロス達の身体を防具ごと斬り裂き、その破れ目を狙って繰り出されるエネルギーの奔流は、避けることさえ難しい。距離を詰めて戦おうにも、黄金の拳から繰り出される強烈な一撃は、身に纏った加護諸共に、容赦なく肉と骨を破壊するのだ。
「どうした？　貴様達の力はそんなものか？」
　再び拳を繰り出すメガルム。対するリヴィも真っ向から拳を繰り出して、敵の攻撃を正面から受け止めるが。
「……くっ！」
　拳と拳が衝突した瞬間、リヴィの身体は一撃で吹き飛ばされ、彼女を受けとめた巨木が音を立てて圧し折れた。
「我が拳に正面から挑む、その意気込みは良し。だが、それでも地力が違うのだよ、地力が！」
　勝ち誇るようにして叫ぶメガルムの言葉が、重く身体に圧し掛かる。それだけ敵の攻撃は激しく、力量の差を感じさせるものだった。
「確かに、そうかもしれんな。だが……」
　口元の血を拭い、立ち上がるリヴィ。骨の髄まで痛みが響くが、それを気にしている場合でもない。
「何にせよ、互いの譲れぬものがあるのだ。我らが戦うには、それだけで十分な理由だろう……！」
　そう言って、すかさず鋭い蹴りの一撃を見舞う。が、しかし、急所を狙って放たれた攻撃を食らってもなお、メガルムは微動だにしなかった。
「それで終わりか？　残念だが、我が黄金装甲の前には届かぬな」
　効いていないわけではない。ただ、相手の力が強大過ぎるだけなのだ。それこそ、今まで戦ってきたローカスト達が、赤子同然に思えてしまう程に。メガルムの纏った黄金装甲は、冗談抜きでそれだけの力を今の彼に与えていた。
　バラバラに戦って勝てる相手ではない。舞音から軽く目配せされたことで、庚はドローンを飛ばしつつライドキャリバーの試作兵装ー辛ーを突撃させる。激しいスピンと共に迫る車体を軽く受け止めるメガルムだったが、それこそが彼女の狙いだった。
「……ムゥン！！」
　試作兵装ー辛ーをメガルムが投げ飛ばした瞬間、舞音が死角から一気に間合いを詰めた。
「神妙にしていろ……！」
　蒼炎を纏った薙刀を振るい、そのまま敵の身体を蹴り上げる。直後、自らも空中へと飛翔して、メガルムの身体に容赦ない追い打ちを叩き込む。
「まだまだ！　どんどん行くぜ！」
　黄金の身体が落下するよりも早く、続けて飛び込んだのはミリアだ。小柄な身体を高速で回転させ、敵の装甲を突き破らんとするが、それだけでは終わらない。
「その節目からバラバラにしてあげるよ！」
　装甲の微かな破れ目を狙い、リュコスが傷口を広げるようにしてチェーンソー剣を振るった。鋼と鋼が衝突し、鋭い音と共に火花が散る。
「我々の牙で奴を野望ごと砕きましょう、イグナス様」
「ああ。俺達の後ろには村があるからな。負けられねえ」
　これは好機だ。ならば遠慮をする必要もないと、ラギッドとイグナスもまた続けて仕掛けた。
　網状の霊力がメガルムの身体を縛り、炎弾が黄金の装甲を焔で包む。爆炎は周囲の木々までも焼き焦がし、煌々とした炎の色がメガルムの身体を照らし出す。
「かなりの覚悟を持ってここに来たようですが、譲れないのは私たちも同じ！　貴方達の目論見、ここで喰い止めます！」
　最後はルーチェが、その手に握った槍を構えて、稲妻を帯びた穂先を正面から突き立てた。が、さすがに、そう何度も好きにやらせる程、メガルムも甘い存在ではなかったようだ。
「踏み込みが甘いわ！　その程度の覚悟で、我が黄金装甲を貫けるとでも思ったか！」
　寸分狂わぬ狙いで繰り出された槍の柄を、メガルムの屈強な腕が掴んでいた。そのまま鬱陶しそうにルーチェの身体ごと槍を払うと、その掌に黄金の輝きを収束させて行く。
「そろそろ、小手調べも飽きてきたところだ。まずは一人……我の戦闘データの糧となれ！」
　その言葉と共に、放たれるのは膨大なエネルギーの奔流。金色の軌跡を描いて迫り来る気弾を、ミリアは辛うじて上に跳ぶことで避けようとするが。
「……っ！　曲がりやがった！？」
　まるで、ミリアの後を追うようにして、気弾もまた直角に曲がって真下から肉体を貫いたのだ。
「ミリア！！」
「ミリアさん！」
　激しい輝きと爆音を前に、仲間達が思わず叫ぶ。が、そんな彼らの声も虚しく、爆風の中から落ちて来たのは、満身創痍になったミリアの身体。
「さあ、次に黄金装甲の糧となりたい者は誰だ？」
　迫り来るメガルム。そして、歯噛みするケルベロス達。だが、彼らは戦いを通して気付いていた。
　実力の差は圧倒的。しかし、メガルムの纏う金色の装甲に、新たな意思が芽吹き始めていることを。

●離反
　長引く戦いは、それだけで対峙する者達の気力と精神力を奪って行く。強大な敵を前にして、気が付けばケルベロス達は壊滅寸前まで追い込まれていた。
「長期戦に持ち込めば勝機があるなら、回復と防御は怠る訳には……！」
　そう言って後ろに目配せをするリヴィだったが、そもそもの彼女自身が既にボロボロなのだ。
　防具は既に意味を成さない程にまで破られ、艶めかしい胸元と太腿が顔を覗かせている。それでも自分の回復を後回しにせねばならないのは、仲間達もまた酷く負傷しているからに他ならない。
　ミリアは倒れ、ライドキャリバーの試作兵装ー辛ーもまた、その姿を消滅させていた。後一撃、あの戦輪が前衛を襲うのを庇ったら、自分とて立っていられるか否か。それを知っているからなのか、メガルムは余裕に満ちた口調で情け容赦なく彼女達に迫る。
「ふむ……。噂に聞くケルベロスも、黄金装甲の前では敵ではなかったようだな」
　この辺りで、そろそろ終わりにしてやろう。そう紡いでメガルムは戦輪を生み出そうとするが、果たしてそれは、彼の思う通りには行かず。
「むっ……！　どうした、黄金装甲よ！？」
　敵が行動に失敗した微かな隙。それこそが、ケルベロス達の待っていた好機でもある。
「ボクの声が聞こえる！？　ボク達はキミを操るものと戦う存在だ！　もし、キミがそいつの支配から逃れたいなら、ボク達が力を貸すよ！」
　間髪入れず、リュコスは黄金装甲へと語り掛けた。道具ではなく、仲間として。共に、この世界に生きる命として。
「見たところ、メガルムには嫌々従っているみたいですね。では、どうですか？　私たちと共にローカストに抗うというのは！」
「こっちについてくれれば、保護をする用意があるデスけど、どうデスかね？」
　ルーチェと庚の二人もまた、リュコスの言葉を支えるようにして語り掛けた。その度にメガルムの身体を包む装甲が、何かに答えるようにして蠢き出し。
「グヌゥ。黄金装甲よ、我が意志に従え！」
　暴走する装甲を抑え込むようにして、メガルムが胸元を抱え、膝を突く。だが、そうそう好きにはさせないと、ラギッドがメガルムの身体を殴り飛ばした。
「聞こえるか、オウガメタル！　無理やり使役されるなんざ、腹立つよな？　俺達は、ローカストから解放したい！　出来るなら、メガルムを倒す為の力を貸してくれ！」
　敵の意識が再び逸れた。そこへ畳み掛けるようにしてイグナスが言葉を浴びせ掛け、舞音が叫んだ時だった。
「お前の力が必要だ。俺達のもとに来い！」
　その言葉を言い終わらない内に、メガルムの身体から金色の装甲が剥がれ落ちた。液状化した装甲は、ゲル化したまま不定型な身体を揺らして留まっている。その輝きは未だ失われていないものの、対するメガルムは、こちらはすっかり身体から黄金の色を失っていた。
「黄金装甲は、困窮するローカストの未来に必要不可欠なもの。お前達を倒した後、我が意志に従えてみせる！」
　だが、それでも、さすがは敵の指揮官を名乗るだけはあるようだ。
　不退転の覚悟。それを見せつけるようにして、鎧を剥がれたメガルムは、なおもケルベロス達へと向かって来た。

●執念
　鉄壁の鎧を剥がれたところで、メガルムが強敵であることに代わりはない。今までの戦いで追ったダメージも相俟って、ケルベロス達にとっては予断を許さない状況が続いていた。
　だが、消耗しているのはメガルムもまた同じ。黄金の鎧を失った今、流れは徐々にだがケルベロス達の方へと傾きつつある。
「どうした？　動きが悪いぞ？　あの時の勝利はマグレか？」
　肢体を見せびらかすように挑発しつつ、リヴィは拳を握り締めてメガルムへと挑む。互いに限界が近いのは百も承知。だからこそ、決して負けられないのだ。
「業拳と私の力でもって、その身刻み砕いてくれる……！」
「面白い……。ならば、我も全身全霊を持って応えよう！　困窮する我が同胞と、我が母星であるレギオンレイドのために！」
　この一撃に全てを賭ける。正面からぶつかり合い、交錯する巨蟲と女拳士。着地と同時に苦悶の表情で膝を突くリヴィだったが、それはメガルムも同様だった。
「グゥッ……。我は、ここまでのようだ。だが、この戦闘データで、黄金装甲はより完全なものになるのだ……」
　それがヘルクレスト・メガルムの、最後に紡いだ言葉だった。
　屈強な身体が大地へと倒れ伏し、その額に生えた雄々しき角が、音を立てて砕け散り、圧し折れる。後に残されたのは不退転の覚悟で戦った戦士の亡骸と、ゲル状のまま浮遊する黄金色の金属塊のみ。
「これがアルミニウム生命体……オウガメタルか……」
　回収しようと手をイグナスが手を伸ばした瞬間、金色の液体金属は弾けるようにして８つに割れた。その断片は、まるで勝利を祝福するかのように、それぞれケルベロス達の下へと舞い降りて。
「ボク達に、力を貸してくれるの？」
「どうやら、そのようですね」
　互いに顔を見合わせるリュコスとラギッド。気が付けば、戦いで倒されていた者達もまた立ち上がり、光り輝くオウガメタルを手にしていた。
「潰すからには徹底的に、とは言ったデスけど……もっと平和的な解決方法無いんデスかね……」
　物言わぬ塊になったメガルムと見比べつつ、庚は無情なる戦いへと疑問を零す。もっとも、問い掛けられたミリアの方は、上手く返す言葉が見つからなかったようだ。
「まぁ、それも一つの解答デスかね……」
　とりあえず、今は無事にオウガメタルを回収できたことを喜ぼう。新たな力の躍動を前に、舞音は静かに武装を解き、ルーチェもまた光り輝くオウガメタルへと微笑んで。
「改めて、地球へようこそ。これから、よろしくお願いしますね」

作者：雷紋寺音弥	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月7日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 27／感動した 4／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 2
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