黄金の不退転ローカスト～金の一刺し

■リプレイ

●退くを知らざる金の影
「不退転、ねぇ……」
　木々の間に煌めく黄金色の人影を認め、加賀・マキナ（覗く深淵・e00837）はその双眸を細めた。かのスポアスティンガーが持つという黄金装甲、一体どれくらいの硬さを持つのか。爪を硬質化させて敵を待ち構えるマキナは、向こうが不退転のつもりならと、こちらも退かず戦う覚悟を固める。
「（黄金ローカスト……果して如何なる力を持つのか……）」
　ミルフィ・ホワイトラヴィット（ナイトオブホワイトラビット・e01584）は不安も半ばといった表情で警戒を強める。一方で、黄金装甲を……アルミニウム生命体を、仲間として受け入れられたらという希望もまた、心のうちの半ばを占める。
　堂々と待ちうける八人のケルベロスと、ボクスドラゴンにライドキャリバーが一体ずつ。近づく敵も、彼らに気付き戦闘態勢に入った。
「オマエタチ、ケルベロスカ」
「ええ、そうですよ」
　返答と同時に、ユキヒョウ型の獣人が霧を発する。ミスト・ホロゥ（ゴーストキャット・e10406）はその手の煙玉を炸裂させ、不快感を伴う音を発する。こちらに視線を向けるデウスエクスに、返す笑みはどこか挑発的に見えた。
「そちらにも事情はあるのでしょうが、やすやすとやられる訳にもいきません。ここで止めさせて貰いますよ」
「コノ黄金装甲、タメサセテモラウ」
　スポアローカストが身をかがめた、次の瞬間。とっさに身をひねったミストの腹部を、黄金色の槍がかすめる。怒りに任せた強力な一撃。距離がなければ串刺しだっただろうという事実に、背筋が冷える。
「テメェらにゃ同情はするが、養分にも実験台にもなってやんねーよ」
　藤弦堂・広柾（鋼鬼・e02791）は地面に鎖を這わせ、守護の陣を敷く。これから始める戦いは長引かせると決めていた。先手を打って固める防御。魔法陣の放つ燐光が、晴れつつある霧の中で滲んで見える。
「此処は一つ、お互いの事情をぶつけ合おうか」
　言葉尻は飄々と、距離を詰めるは風の如く。日月・降夜（アキレス俊足・e18747）はローカストとの距離を詰める。スポアスティンガーの牙に黄金装甲が集中していくのを見て、防御が薄くなった胴体に重い回し蹴りを叩き込んだ。かかとが黄金装甲に突き刺さる瞬間、降夜はさらに接触テレパスに乗せて、声を伝える。
「（おい、俺の声が聞こえるか）」
「グ……オノレ」
　戦法を逆手に取られ、ローカストがうめく。距離を取り直す一瞬、黄金装甲がざわめくように波打った。
「おや、これはどうしたことかのう」
　ローカストの意志とは思えない黄金装甲の反応に、ユウ・アドリア（影繰人・e09254）は楽しげに笑う。そして割り込みヴォイスを用いて声を張り上げた。
「黄金装甲よ、わしらの言葉が聞こえるか！」
　反応するかのようにざわめきは更に大きくなるが、すぐに収まってしまう。押さえつけようとするローカストにまだ余裕がある……そのように思えた。
「突きはそちらの専売特許ではありませんのよ」
　ミルフィのゲシュタルトグレイブが深々と突き刺さる。怯んだ敵の隙をついて、ミルフィはその手を黄金へと伸ばした。
「（ずっとその蟲のいいなりで宜しいんですの……？）」
　ひときわ激しく暴れる黄金装甲の反応は、否、という意志表示だと直感する。
「それよりも」
　ずいと進み出たシエナ・ジャルディニエ（攻性植物を愛する人形娘・e00858）は、ローカストの肩の攻性植物を指差した。
「Question...あなたにとってその子はどの様な存在ですの？」
「タダノ武器……黄金装甲ト同ジ」
　答えを聞き終わるやいなや、シエナの攻性植物『ヴィオロンテ』が咆哮を上げる。それは敵に利する同朋への怒りにも思える大音量で周囲の木々を揺らした。さらにボクスドラゴンのラジンシーガンが羽音を響かせ、その属性の力でケルベロス達の防御を固めていく。
「怖いのヤダ……でも、戦う」
　鼓舞を聞いたクロエ・ランスター（シャドウエルフの巫術士・e01997）はうさぎのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ意を決する。その手から伸びた鎖が描く魔法陣は広柾の作りだしたものと合わさり複雑な文様を描き出した。守護の力は更に高まり、強固な防御力をケルベロス達に与えていく。
「思ったより柔らかいかな」
　さらに機を掴んだマキナの爪が、ローカストに深く食い込み装甲を切り裂いていく。歯の立たない硬度ではない。それはローカストが黄金装甲を扱い損ねたのか、それとも。
　その答えを得るには、今少し時間がかかりそうだ。

●黄金へ手を伸ばす
　幾度となく交わる干戈。ローカストの攻撃をかいくぐりながら、ケルベロス達は黄金装甲へと呼びかける。
「もし、お主が今の境遇に悲嘆しておるなら、わしらと共に自由を手にせんか」
　ユウのチェーンソーが唸りを上げる中、その声は騒音に遮られることなくローカストへ、そして黄金装甲へと届く。
「ナニヲ……言ッテル……」
　忌々しげに言うスポアスティンガーは、その言葉が黄金装甲へ向けられたものとは思いもしない様子だ。その声音に困惑の色を感じ取ったユウは、お主には言っておらぬと言い捨てて間合いを開ける。
「何でお前さん達がローカストに良い様に使われてるか知らないが、俺達ケルベロスはローカストの敵だ」
　敵の敵は味方、と降夜は笑みを浮かべる。黄金装甲は敵の武装、しかし利害は一致するはず。そうなれば、文字通り獅子身中の虫として、共に戦ってくれるのではないか。音速の拳がローカストの肩関節を捉え、強烈な打撃を加える。
「現状に不満があるのなら、元デウスエクスの意地を見せろ！」
　胞子を吸わぬよう息を止め、広柾がチェーンソーで斬りかかる。振り抜かれたチェーンソーが黄金装甲を、そしてスポアスティンガー自体の甲殻をもねじ切った。一撃離脱を旨とし後退する広柾と入れ替わるように、ライドキャリバーのクロンが機銃を掃射して離脱を援護する。
「少なくともわたくし達や地球の方は、そちらの蟲達よりは、貴方の意志も尊重しますし……受け入れますわ」
　意志があるなら抗って見せろと、ミルフィは毅然と言う。その手が放つ白銀色の弧は黄金装甲に覆われた外殻に深い傷跡を刻んだ。
「いろいろと警戒すべきこともあるけど、攻めないことにはね」
　より重く、より鋭く。降魔真拳・二式によって敵の魂を喰らったマキナは、確かな手ごたえを感じ取りながらも、敵の動きを警戒。敵も不利な状況にはそれなりの対策を講じるはずだと、最悪を予想しならがも最善を模索する。
「黄金装甲……解放したい」
　祈るように囁くクロエは、アルミニウム生命体を救いたいという願いをユウに託す。癒しの力は輝く盾となり、彼をグラビティの脅威から守らんとする。同時にスポアスティンガーの金色を纏った鋭い針がユウを狙う。
　だが。
「ナニ……？」
　ユウに狙いを定めたはずの針は、稲妻のように地面に深々と突き刺さっていた。意志に反した動きをする己の身に、ローカストは明らかな狼狽を見せる。一方でケルベロス達はこの事態を予測済みだ。
「やるではないか、黄金装甲！」
「その意気ですわ」
「黄金装甲さん、頑張って！　それと攻性植物さんも、私たちと共に来て！」
　ユウとミルフィが黄金装甲を励まし、他のケルベロス達も再び攻勢に出る体勢を整えている。
　シエナの攻性植物も応援するように咆哮し、味方への加護を重ねていく。攻性植物を愛する彼女は、スポアローカストの肩に生えたキノコ型への勧誘も忘れない。
「不退転の覚悟はその程度ではないのでしょう？」
　ミストの挑発を受け、ローカストは攻撃の構えを取る。だがその針の向く先はふらふらと変わり、まともに攻撃を命中させられそうにないことが傍目にも分かる。その隙を突き、空の性質を帯びたミストのゲシュタルトグレイブが、黄金装甲の作りだした防御の隙を正確に切り裂き、薙ぎ払う。
「（黄金装甲に不具合が出てきた……？）」
　ついに来たかとマキナは思う。考えを同じくしていたケルベロス達は、注意深くスポアスティンガーを観察した。左腕を抑えたローカストのうめき声がケルベロス達の耳に届く。
「黄金装甲……言ウコトヲキケ……！」

●敵の敵は
　戦いが長引くにつれて、ローカストの動きは悪くなっていった。スポアスティンガーが纏う黄金装甲はもはやその制御下になく、攻撃のほとんどは黄金装甲によって狙いを外されている。
「オノレ……」
　追い詰められたスポアローカストに、シエナは治療を施す。正確には、対象はローカストの持つ黄金装甲だ。これまでの攻撃で黄金装甲も損傷を受けている。しかし、ローカストと共に死なせるつもりはなかった。
「フザケテイルノカ……」
「ふざけてなんかいませんの！　貴方は敵ですが、黄金装甲さんは敵ではありませんの」
　言いながら、シエナの視線はちらりと攻性植物へ。攻性植物の表情は変わらず、しかし少ししおれているように見えた。
「その通りですわ」
　ミルフィも桃色の霧を放ち、回復を試みる。ローカストは倒すべき敵だが、黄金装甲はもしかしたら、味方になってくれるかもしれない存在だ。
「もう少し、黄金装甲と話す時間が欲しいんでね」
　ローカストを倒しきらぬよう、十分に手加減した攻撃を広柾は放つ。チェーンソーの歯の軌跡に沿って、アルミニウム生命体の鎧が薄くなるのが見て取れた。広柾はニッと笑い、ローカストを切り刻む。
「もはや思い通りには動けんようじゃの」
　ここ数分、ローカストの攻撃は黄金装甲の阻害によって失敗し続け、ケルベロス側の回復役の手が余るようになってきている。ユウが飛び出すと、ローカストは回避を試みた。しかし脚部に集中した黄金装甲の硬化によって移動を妨げられる。
「止まっている的は狙いやすいのう！」
　ユウが思い切りローカストの頭を蹴りあげる。倒れることすらままならぬ虫は頭部に強い衝撃を受けて悲鳴を上げた。
「鬼さんこちら、こちらを向いてもらいましょうか……向けるものなら」
　霧によって惑わされるスポアスティンガーの視界。しかしどれだけケルベロス達に怒りを向けようが、彼らを害することは黄金装甲が阻む。
「もうお終いかな？」
　拍子抜けだね、とマキナはローカストの関節部にキックを見舞う。崩れ落ちるローカストはにわかに苦しみ出した。黄金装甲が不規則に暴れまわっている。
「……なんだ？」
　今度はケルベロス達が困惑する番だった。グラビティの一点集中でローカストを攻撃した降夜は、自分の攻撃から想像される以上の苦しみ方をする敵の様子をいぶかしむ。
「黄金装甲……暴走……？」
　クロエも、まさかと思いながら攻撃を行った。その一撃は敵に死を与えることを目的としない、可能な限りの手加減をしていたはずだった。だが、打撃を受けたローカストはかすれた断末魔を残し、その動きを止める。そして攻性植物もろとも、急速に干からびていった。
　後には、ローカストの体から離れようとする黄金装甲だけが残る。

●新たな絆
　スポアスティンガーの体を離れ、不定形となって宙に浮かぶ黄金装甲をケルベロス達が取り囲む。もしかしたら、話す間もなく逃げられてしまうのではないか……そんな疑念がわずかながらあった。
　しかし、黄金装甲は逃げようとはせず、ひときわ強い輝きを放つ。その光を見たケルベロス達に、黄金装甲の意思が流れ込んだ。
「アルミニウム生命体……他のデウスエクスの、武器になって……グラビティ・チェイン……もらう？」
　クロエは黄金装甲の思念として受け取った、アルミニウム生命体の性質の情報をを口にする。それは他のケルベロス達にも伝わっているようで、クロエの視線に皆が頷く。
「その力を使って、あのローカストから全てのグラビティ･チェインを奪い取った……そういうことですのね」
　ミルフィはその状況から敵の最期を分析。ケルベロス達の激励を受け、損傷を癒してもらい、黄金装甲はローカストに抗うための最大限の力を引き出すことができた。それをローカストの視点から見るならば、武装の暴走とも言えるだろう。
「黄金装甲がダメなら攻性植物で何かしてくるかと思ったんだけど」
　マキナは、それすら許さず宿主に止めを刺したアルミニウム生命体の恐ろしさを感じつつ、周辺を警戒する。攻性植物の胞子が何かするのではという予想は、しかし本体のキノコが枯れたことで杞憂となったようだ。
「何が起きたかは分かりました。しかし……貴方はこれからどうするのです？」
　ミストの問いには答えが返らず、黄金装甲はふわりと大地へと降り立った。その輝きから、ケルベロス達は共に戦いたいという意思を感じ取る。
「食った分働くって約束するなら、俺らと一緒に戦わねぇか」
　さっきのローカストみたいな目に遭うのは御免だが、と広柾は注釈する。半ば冗談だが半ば本気の感想であった。
「共に来い」
　差しのべられた降夜の手。黄金装甲がじっと見つめているように、降夜には感じられた。この個体としては手を取りたがっているように、しかし取れない理由があるようにも。しばらくして、黄金装甲は溶けるように地面に消えていく。
「……仲間……嫌？」
　クロエの疑問に、ユウは思い当たる考えを述べる。
「嫌ではない……むしろ、仲間になりたそうに、わしは思ったがのう。しかし、自分だけがこちらに来るわけにはいかんのだろう」
「確かに、ヴァルキュリアの時も一筋縄ではいきませんでしたしねぇ」
　ミストは、少し前に定命化した種族のことを思い出す。種族単位で苦境にあるのならば、仲間達をも助けてほしいと願うのは自然なこと。黄金装甲は地球に味方がいると知った。ローカストの本星に戻り、他のアルミニウム生命体にそれを伝えられれば、種族全体に希望がもたらされるだろう。
「後々、皆さんでこちらに来てくれるかもしれませんわ……攻性植物のように」
　攻性植物は今のところ敵ではあるが、生命エネルギーと引き換えにケルベロスの武器となっている個体も多数存在する。アルミニウム生命体もそのような経過をたどるのではないかとシエナは予想する。
「ま、期待しすぎかもしれないけどね。……でもボクも、そんな気がするよ」
　マキナの冷静な分析を以ってしても、一堂の期待を覆す結果は出ない。何よりこの戦いで結んだアルミニウム生命体との絆が、これだけでは終わらないことを予感させていた。
「我々も一度戻りましょうかねぇ。大規模な事件が起こるなら、こちらも大規模な対応が必要ですから」
　ミストの提案に、ケルベロス達も同意する。ひとまずは戦果を報告し、次の動きを待たねばならない。
　シエナの希望で攻性植物を丁重に葬った後、ケルベロス達はその場を後にした。アルミニウム生命体との、確かな絆を胸に抱いて。

作者：廉内球	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月7日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 19／感動した 4／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 5
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