捨てられた心と恨み

作者:幾夜緋琉

●捨てられた心と恨み
 仄暗い、闇の中。
「ふふ……ドン・ピッグ。来た様だな?」
 と、ドラグナーの一人、ギルポーク・ジューシィは、目の前にやって来た金髪モヒカンオーク、ドン・ピッグを見下ろし、言い放つ。
 呼ばれたドン・ピッグは、煙草を葉巻にふかし、煙を噴き上げながら。
「あぁ、何だよ? この俺を呼んでおいて、つまらねえ事じゃねえだろうなぁ?」
「つまらない訳がないだろう。ドン・ピッグよ。慈愛龍の名において命じよう。お前とお前の軍団をもって、人間共に憎悪と拒絶とを与えてくるのだ!」
 と、その指示に再度葉巻を吹かし。
「なんだ、そんな事か。俺っちの隠れ家さえ用意してくれりゃ、あとはウチの若い奴が次々と女を連れ込んできて、憎悪だろうが拒絶だろうが稼ぎ放題にしてやるぜ?」
「そうか。やはり、お前は自分では戦わぬか。だが、その用心深さが、お前の取り柄だろう。良かろう。魔空回廊で、お前を安全な隠れ家に導こうではないか」
「ああ、宜しく頼むぜ? 旦那」
 ニヤリとニヒルに笑うと共に……彼は魔空回廊で、移動し始める。
 そして……東京都荒川区、南千住。
 繁華街から少し離れた、車両基地の裏手側……余り人気が無く、余り好んで足を踏み入れたくない所。
 そんな裏路地で、スマホを操作しているのは、若い女性。
 ただ、その服装は乱れていて……何だか、綺麗ではない。
『……何だよ、もう。あいつ、金を出してくれるって行ったのに、ドタキャンかよ。クソだなクソ』
 そして、その口から漏れる言葉も、何処か汚らしい。
 という彼女……両親と喧嘩して、家出してきてしまった家出娘。
 暫しスマホ操作し続けていて……流石に眠くなってきて、眠りに落ちてしまう。
 ……そして、そんな彼女に、音を忍ばせ、接近してくるオーク達。
『……ヒヒ、ネテル、ネテル……』
 と、欲に塗れた笑みを浮かべ、彼女を捕縛しようとするのであった。
 
「ケルベロスの皆さん、集まった様ッスね! それじゃ早速ッスけど、説明を始めるッスよ!」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロスに笑顔で挨拶すると共に、早速説明を始める。
「今回、竜十字島のドラゴン勢力が、新たな活動を始めた様なんッスよ。今回の事件、オークを操るドラグナーである、ギルポーク・ジューシィの配下のオークの群れなんッスよ」
「このオークの群れを率いるは、ドン・ピッグというオークで、非常に用心深く配下を使い、女性を攫わせている様なんッスよ」
「被害に逢う女性は、東京の路地裏にて、存在が消えても怪しまれないよう世間から消えかけている弱者を狙い反抗を行っているんッス。襲われる女性は、其の場で配下に暴行させ、秘密のアジトへと連れ込む様なんッスよ」
「ただ、オークが女性に接触する前に女性へ接触しようとすると、このオーク達は別の対象を狙うッス。つまり、オークと女性が接触した直後に突入する必要があるんッスよ」
「という訳で、この汚らしい考えを持ったオークが悪事を働く前に、撃破してきて欲しいんッス!!」
 と、そこまで言うと、ダンテは敵の状況と、周辺の状況について説明する。
「今回、このドン・ピッグの配下のオークの集団は数が8匹ッス。女性一人に対し、8人で嬲り者にしようって、本当酷い考えッスよね」
「オーク達の攻撃手段ッスけど、基本的には普通のオークと同様、背中から触手を張り出し、四肢を拘束した上で、残るオークが集中攻撃するといった具合ッス。基本的に彼らはターゲットを一体に絞り込んで攻撃してくるッスから、ターゲットになった人は結構危険かもしれないッスね」
「ちなみにオークらしく、そのターゲットにするのは女性で、外見年齢がある程度幼いのをメインターゲットにする様ッス。該当する人は、身の回りの安全確保も必要だと思うッスよ」
「又、オーク達の出現場所は、人気の少ない裏路地ッス。他の一般人の人達が迷い込む可能性は少ないと思うッスが、狭いので狭いなりの戦い方を考えて欲しい所ッス!」
 そして、最後にダンテはもう一度皆を見渡して。
「こんなオーク達の横暴、許す事は出来ないッス! ケルベロスの皆さん、宜しく頼むッスよ!!」
 と、気合いと共に拳を振り上げた。


参加者
星喰・九尾(星海の放浪者・e00158)
清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)
鷺宮・晃士(地球人の刀剣士・e01534)
阿倍・晴明(阿倍王子の玄武・e05878)
マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
ムソン・バンクス(はぐれ鴉・e13845)
鍋島・美沙緒(ウェアライダーの巫術士・e28334)

■リプレイ

●捨てられた心は
 東京都荒川区、南千住。
 喧噪のある繁華街とは違い、少し離れた車両基地の裏側の辺りは、静けさに包まれており、何処か不気味な雰囲気が漂っている。
 ……でも、そんな所だからこそ、人目を避けたい彼女にとって心地よい所、なのかもしれない。
 そしてそんな彼女に迫り来るのは、やはりこちらも人気の無い所に居る女性達をターゲットにする、金髪モヒカンオークの、ドン・ピッグの配下達。
「家出娘にオークか……」
 と、清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)が呟くと、それに阿倍・晴明(阿倍王子の玄武・e05878)と鷺宮・晃士(地球人の刀剣士・e01534)が。
「ええ。オークもしつこいようですね。ただ、今回はその元締めを討てないのが残念ではありますが……」
「そうだな。またなんかろくでもない事を企んでやがるな……! まぁ、連中の好きにさせる訳もないし、何を企んでいようとも、叩きつぶしてやるだけだ……オークの犠牲になんて、絶対出させる訳にはいかないからな!」
「そうですね。被害者も出ている事ですし、配下達をきっちり殲滅しませんとね……オークなんかに絶対、負けたりはしません!」
 ぐぐっ、と拳を握りしめる晴明に、マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)、イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)も。
「力無き少女を襲い、その未来を奪う……絶対にやらせるものか!」
「そうですね。幾度も女性を襲い続けるオーク……生かしてはおけませんね!」
 と、気合いを込めていく。
 そんな仲間達の声に、そうじゃな、と一服吹き上げる星喰・九尾(星海の放浪者・e00158)。
 ……と、その横でしゅっしゅっ、と手刀の練習をしている鍋島・美沙緒(ウェアライダーの巫術士・e28334)。
「……何じゃ? 奇妙な動きをして」
 と九尾が首を傾げると、それに美沙緒は。
「いや、一応説得はするつもりだけど、もしかしたら混乱の極みで効果無いかも知れないしね? だから力尽くでの説得の準備だよ!」
 天真爛漫な美沙緒の言葉。
 それに対し、そうか……と一息吐く九尾……そして、ムソン・バンクス(はぐれ鴉・e13845)が。
「そうだな。確かに物理的に説得する、という手段もあるな……ふむふむ……そうだ」
 ぽん、と手を叩いて。
「私は考えた。オークはイケメンの方が女性を釣りやすく、あの姿は生物的に賢いとは言えんと、どう思う?」
 それに光が。
「ん? ……オークはイケメンじゃないやん?」
「うむ、そうだ。それでムードたっぷりで腕に抱かれた瞬間にブチャ顔に変貌だ。どう思う?」
 更に問いかけるムソン……でも、その表情は何処か嬉しそうであるが、光はうーん、と首を傾げる。
 それはさておき。
「女の敵であるオークを倒す事に躊躇はあらへんけど、今回は説得が優先なんかな? ま、うちで出来る事ならがんばらさせてもらうんよ。つーわけで」
 と言いつつ。
「この道を修羅道と知り推して参る」
 静かに一言を紡ぎ……そしてケルベロス達は、少女の元へと向かうのであった。

●寂しさに
 そして、すっかり人気の無い夜の闇。
『……何だよ、もう、あいつ……金を出してくれるって言ってたのに、ドタキャンかよ。クソだなクソ……もう……お腹空いた……』
 と壁に身を凭れさせながら、スマホを操作している少女。
 こんな深夜の時間に、外に出歩いているのはとても危険な筈。
 でも……家出した彼女にとっては、そんな事、関係無い。
 そしてスマホを暫し操作していたものの、お腹の空き具合には勝てなくなって、こく…こく……と眠りそうになる。
 ……そんな彼女の下へ。
『ヒヒヒ……ネテル、ネテル……』
 と、下品に笑うオーク達が、その周りから取り囲んで行く8匹のオーク達。
「あ、あそこです!」
 と晴明が高らかに声を上げ、そしてケルベロス達が、其の場に到着。
 そして、取りあえず取り囲んでいるオークの一角に。
「死にさらせ! 豚ァ!!」
 と、マサヨシが先陣切って、奇襲を仕掛け進入路を切り拓く。
 突然の攻撃に、驚くオーク。そしてその叫びに、眠り掛けて居た彼女も目を覚ます。
 ……周りを取り囲む、ケルベロス達と……オークの醜悪な顔。
『……きゃ、きゃああああ!!』
 と悲鳴を上げる。
 そんな彼女に近づくとすぐ、隣人力を使い、落ち着かせる晃士と、光。
「……大丈夫だ、落ち着いてくれ……あなたは、俺達が護ってみせる……! だから、今は安全な場所に行こう」
「そやそや。ほら、水あげるから、先ずは落ち着きーな。な?」
 でも、まだ混乱している彼女。
「全く、仕方ないのぅ」
 と、肩を竦めつつ、彼女をぎゅっと抱きしめる九尾。
『!?』
 突然抱きしめられ、驚く彼女。九尾は。
「もう大丈夫じゃ。安心せい。怖かったの?」
 と、彼女に声を掛けながら、その頭を撫でる。
 二人の言葉と隣人力、更に抱きしめることで、最初の内は混乱の極みだったものの、少しずつ落ち着き、話を聞きはじめる。
 ……その間、残るケルベロス達は、オークが彼女を襲わない様に立ち塞がる。
 無論オークは。
『ジャマ、スルナ……!!』
 と、鼻息荒くし、そして触手を四方八方に飛ばし始める。
 そんなオークの触手攻撃……メインで狙われるのは、一番オーク達の好みにあった、晴明。
「っ……触手!? この程度で……!」
 と、素早く身を翻して、その触手攻撃を回避しようとする。
 でも……完全に避けきることは出来ず、少し服に裂け目が生じ、下の肌色が見え始める。
 唇を噛みしめる晴明。それにイリスが。
「大丈夫ですか?」
「はい……何とか大丈夫です」
 とイリスに笑顔を見せる。
 そして、オークの無差別触手攻撃をやり過ごした後、晴明と共に、マサヨシ、イリス、ムソンと美沙緒が反撃を開始する。
「力無き者に寄って集って襲いかかり、あまつさえその尊厳すら踏み躙ろうとする外道共よ……その魂まで焼き尽くし、殴り潰す!」
 と怒りの表情のマサヨシは声を荒げ、そして月光斬の一閃を喰らわせる。
 そして、更にイリス、ムソン、美沙緒も。
「そうです。貴方達に彼女は襲わせませんっ!」
「ほら……苦しいだろう? これはそういう技だ」
「この変態豚野郎は、ここでさっさと潰しちゃうんだよ!」
 と、二刀斬霊波、『欲動ノ火花』、斬霊斬で、立て続けに反撃、そして晴明は。
「許しません!」
 と達人の一撃で、オークを頭上から渾身の一撃を叩きつける。
 ……更にその後も数分の間は、オークを足止めし、彼女を落ち着かせるように行動。
 段々、落ち着き始めるものの……彼女は恐怖に、其の場から上手く動く事が出来ない。
「オークの包囲網を突っ切って、安全に移動させるのは、少し難しそうか……」
「そやね。でも大丈夫や。うちらがあんな豚共しっかりやっつけたるから、見ときや?」
 と晃士と光は、そう彼女に告げて……其の場に座らせる。
 そして、仲間達に。
「という訳だ……ここで確り、オークを退治するぜ」
 と宣言。
「ああ、解った。んじゃあ、木っ端微塵にオーク達をぶっ潰すぜ!」
 と晃士に対し、眼光鋭く頷くマサヨシ。
 そして立ち並ぶオーク達へ。
「ったく、そんなクソみてぇな攻撃でやらせるわけねぇよ!」
 と言いながら、スターゲイザーを叩き込んで行くと、更に晃士も。
「そうだ。オークどもの好き勝手になんて、絶対させるものかよ……!」
 と、渾身の絶空斬を叩き込んで行く。
 ……勿論、光、九尾も、彼女から顔を離しつつ。
「さて……ほんと下賎な奴らじゃ。さっさと無様に死んでもらうとするぞ」
「そやね。困ったバケモノやで、ほんとに」
 と離しながら、『星喰流”霞”』や、『緋色芙蓉』で攻撃。
 それらの攻撃を、オーク一匹にターゲットを集中させ、一匹、また一匹……と倒す。
 そして……彼女を襲撃してから、約20分程。
 残るのは、オーク一匹……。
 ……そして、オークの触手攻撃を受け続けた、晴明は、顔を紅潮させつつ。
「はぁ、はぁ……これで、最後ですね……!!」
 ……と言うと共に、すくっと立ち、構える。
「さぁ、お帰りなさい……貴方の在るべき場所へ!」
 と、晴明が『四神『玄武咆哮』』を放ち、オークに渾身の一撃を叩き込み……そして、晃士も。
「この一刀で……斬り捨てる!」
 と絶空斬で、最後に残った触手を切り捨てていく。
 そして、光がブレイズクラッシュで炎を付けると共に、九尾が。
「これで終わりじゃ」
 と、ふらりとオークの背後に回り込み……そして、渾身のペトリフィケイションを叩き込み……最後のオークも、崩れ墜ちたのである。

●捨てる先には
 そして……無事、オーク共全てを討伐し、息を吐くケルベロス達。
「ふぅ……今回もどうにかなったか……いいか、何度やっても、叩きつぶすだけだ……!」
 と、骸になったオークに対し、晃士が強い口調で言い放つ。
 そして、救出した彼女に振り返ると共に。
「さて……と。大丈夫ですか?」
 と、優しく微笑みかける晴明。
 とは言え、目の前で繰り広げられた戦いに、流石に驚きを隠せない彼女。
 そんな彼女に、言い聞かせるように。
「いいですか?どれだけ強がっても、人は一人ではいきられないものです……これで怖じ気づくなら、親御さんの元へ戻るべきです。独り立ちには時期尚早。まだまだ親から学ぶ事も多い……そっれをモノにしてからでも、遅くはないでしょう?」
「そうだ。少女、これは覚えておくべきだ。大喧嘩をやらかしても後悔したり、心配したり、何度もごめんねって思ったり、でも素直になれない……結局、親もただの人間。そう、キミと同じだ」
 ムソンの言葉に、でも……と、顔を俯かせる彼女。
 そんな彼女に、そっかそっか、と軽く笑い掛けながら、光とイリスが、それぞれおにぎりとクッキーを渡して。
「まぁでも、こんなところにおってもしゃーないやろ? また同じ様な事が起こったら大変やで?」
「ええ……あの……お家に戻ってみては如何ですか? ……きっと、ご両親も、心配されていると思いますし……」
 ……最初の内は、強ばっていた表情。
 でも、ケルベロス達の言葉に、段々と……頷くようになる。
 そして、彼女が家に帰る、と言い、駅まで送り届けた後。
「さて、と……終わったし、ドン・ピッグにつながる形跡が無いかを調べとくとするか。簡単には見つからんやろうけどな」
 と、光の言葉。
 そして美沙緒も。
「そうだねー。あ、そういえば近くに車両基地があるんだっけ? ならボクは探険に……じゃなくて、調査に向かうよ!」
 と元気いっぱいに応える。
 その言葉に、イリスが。
「えっと……でも……」
 と言うと、それに美沙緒は。
「これは調査であって、遊びに行く訳ではないんだよ」
 真剣な表情で言われれば……否定する理由も無い訳で……そして車両基地に向かっていく彼女。
 それに皆も苦笑しつつ……ケルベロス達は、ドン・ピッグの形跡を探したり、周りの片付けをしたりして行くのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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