黄のビフレスト~激闘、三十星霊戦士

作者:真壁真人

 神奈川県横浜市、横浜スタジアム。
 鎌倉奪還戦の直後、この球場に黄色の光が落ちたのを、多くの人が目撃していた。
 しかし、球場に異変はなく、周辺住民は何事もなく生活を送っていた。だが、変化は確実に起きていたのである。

●黄のビフレスト
「いやー、皆さんの情報がなかったら、手遅れになるとこだったっすよ。感謝するっす」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、ケルベロス達にそう感謝を述べた。『ダンジョン』を攻略したケルベロス達に促され、改めて調査を行った結果、横浜スタジアムに異常が確認されていたのだという。
「実は、鎌倉駅と同様に、横浜スタジアムの地下が、奇妙なダンジョンに繋がってしまっていたんすよ」
 その言葉を受け、ケルベロス達の顔に、緊張が走った。

 横浜スタジアム地下に広がるダンジョンの名は、『黄のビフレスト』。
 このダンジョンは入口の門を抜けると、30個のコロシアムが並んだ空間へと繋がっているという。
「各コロシアムにいるのは、30人のエインヘリアル『星霊戦士』達。
 己の名を捨て、王のために命を懸けて戦う事を選び、強き星の力を宿す『星霊甲冑』を授けられたエインヘリアルの勇者達っす」
 だが、残霊で力は本来より弱いため、ケルベロス達ならば一対一でも勝てる相手だという。
「ただ、このまま放置すると、残霊達がどんどん強くなって、しかも別の残霊を生み出していくみたいなんす」
 状況を理解したケルベロス達の顔に緊張が走る。
 三十星霊戦士との戦いに加え、他の残霊によって消耗が強いられるようになってしまえば、勝利はいっそう困難になる。
「ダンジョン『黄のビフレスト』を消滅させるチャンスは、今のうちっす。
 未然に防いで欲しいっす。敵の概要は判明してるんで、確認して欲しいっす」
 そう言って、ダンテは敵の情報が書かれたリストをケルベロス達に手渡した。

 第1のコロシアム、おおいぬ座シリウスの星霊戦士。
 必殺技は巨狼の如きオーラで敵を貫く『天狼烈襲撃』
 第2のコロシアム、りゅうこつ座カノープスの星霊戦士。
 必殺技は船に乗った幻影の戦士達に攻撃させる『アルゴノウツ』
 第3のコロシアム、ケンタウルス座リギル・ケンタウルスの星霊戦士。
 必殺技は巨大な光の矢を放つ『アルファエンド』
 第4のコロシアム、うしかい座アークトゥルスの星霊戦士。
 必殺技は暴風の如き斧の連撃『アックスタイフーン』
 第5のコロシアム、こと座ベガの星霊戦士。
 必殺技は敵の精神を狂わせる魔性の音楽『ミストラルシンフォニー』
 第6のコロシアム、ぎょしゃ座カペラの星霊戦士。
 必殺技はオーラの騎馬と戦車に乗り、敵を轢き殺す『バスターチャリオット』
 第7のコロシアム、オリオン座リゲルの星霊戦士。
 必殺技は獅子のオーラによる変幻自在の攻撃『妖獅子乱舞』
 第8のコロシアム、こいぬ座プロキオンの星霊戦士。
 必殺技は敵を食いちぎる猟犬の幻影を放つ『ミラージュハウンド』
 第9のコロシアム、オリオン座ベテルギウスの星霊戦士。
 必殺技は輝ける星炎を撃ち出す魔法拳『シャイニングブラスト』
 第10のコロシアム、エリダヌス座アケルナルの星霊戦士。
 必殺技は聖なる水の流れによって敵を浄滅する魔法『セレスティアフラッド』
 第11のコロシアム、ケンタウルス座ハダルの星霊戦士。
 必殺技は雷光を帯びた強烈な空中回転蹴り『サンダードロップ』
 第12のコロシアム、わし座アルタイルの星霊戦士。
 必殺技はオーラの翼で敵を引き裂く『アクィラウイング』
 第13のコロシアム、みなみじゅうじ座アクルックスの星霊戦士。
 必殺技は十字のルーンを宿した拳での一撃『サザンクロスエンド』
 第14のコロシアム、おうし座アルデバランの星霊戦士。
 必殺技は雄牛のオーラにまたがり敵へ突撃する『金牛走破』
 第15のコロシアム、おとめ座スピカの星霊戦士。
 必殺技は敵の戦意を喪失させる光を放つ『ピースフルレイ』
 第16のコロシアム、さそり座アンタレスの星霊戦士。
 必殺技は敵を猛毒に侵す赤き雨を降らせる魔法『レッドホットレイン』
 序 列第17のコロシアム、ふたご座ポルックスの星霊戦士。
 必殺技は斬り裂いた者を稲妻で包む剣撃『コロナブレイク』
 第18のコロシアム、みなみのうお座フォーマルハウトの星霊戦士。
 必殺技は冷気を帯びた「白い影」を放ち敵を凍らせる『ホワイトシャドウ』
 第19のコロシアム、はくちょう座デネブの星霊戦士。
 必殺技は華麗に踊りながら敵を次々と切り裂く『ブラッディスワン』
 第20のコロシアム、みなみじゅうじ座ベクルックスの星霊戦士。
 必殺技は装備した攻性植物を巨大化させ、敵を襲わせる『ジャイアントミモザ』
 第21のコロシアム、しし座レグルスの星霊戦士。
 必殺技は獅子の牙の如く敵を引き裂く『ライトニングファング』
 第22のコロシアム、おおいぬ座アダーラの星霊戦士。
 必殺技は幻影の乙女達を召喚し敵を翻弄する『ヴィシャスメイデン』
 第23のコロシアム、ふたご座カストルの星霊戦士。
 必殺技は嵐を生じさせ、敵を竜巻に呑み込む『シュプリームトルネード』
 第24のコロシアム、さそり座シャウラの星霊戦士。
 必殺技は蠍の尾の如き鋭い刺突『魔蠍穿』
 第25のコロシアム、みなみじゅうじ座ガクルックスの星霊戦士。
 必殺技は十字を描くように敵を斬り裂く剣撃『魔星十字斬』
 第26のコロシアム、オリオン座ベラトリックスの星霊戦士。
 必殺技はオーラの「角」で敵の心臓を貫く『マタドールキラー』
 第27のコロシアム、おうし座エルナトの星霊戦士。
 必殺技は巨大な「蹄」状のオーラ塊で敵を叩き潰す『ブルスタンプ』
 第28のコロシアム、りゅうこつ座ミアプラキドゥスの星霊戦士。
 必殺技は敵の胴体を叩き割るかの如きパイルドライバー『竜骨砕き』
 第29のコロシアム、オリオン座アルニラムの星霊戦士。
 必殺技は装着者に力をもたらすベルトを召喚する『メギンギョルズ』
 第30のコロシアム、ほ座スハイル・ムーリフの星霊戦士。
 必殺技はオーラの「帆」で敵を包み窒息させる『聖帆葬』

「鎌倉奪還戦を勝ち抜いたケルベロスの皆さんなら、きっと成し遂げられるはず。どうか、よろしくお願いするっす!!」
 ダンテの言葉に、ケルベロス達は力強く頷くのだった。


参加者
レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)
静雪・みなも(水面に舞い降りる銀狐・e00105)
天導・十六夜(境界を越えた天を導く妖月・e00609)
滝川・真朱(ミルククラウン・e00790)
ルチア・フィロルーチェ(花蕾のカデンツァ・e00850)
閑谷・レンカ(アバランチリリー・e00856)
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)
小室戸・空亡(空亡大博士・e02020)
輝流・円(地球人の降魔拳士・e02173)
ズミネ・ヴィヴィ(ケルベロスブレイド・e02294)
大粟・還(クッキーの人・e02487)
メルナーゼ・カスプソーン(廃墟に佇む眠り姫・e02761)
オイナス・リンヌンラータ(星空を駆ける白羊・e04033)
ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)
秋波・朔夜(月の海を飛ぶ双剣士・e04171)
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)
ノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔法少女・e05320)
ジーナ・ヘイズ(流浪する多霊な剣士・e05568)
ゼダ・ラインス(ウェアライダーの鹵獲術士・e05667)
フォルトゥナ・コリス(運命の輪・e07602)
結城・灰(地球人の降魔拳士・e07604)
フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)
エイジ・スルビィーシャ(シリアスブレイカー・e07778)
矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)
ディー・リー(右手左手・e10584)
マリー・エヴァンス(星を見つめる者・e10801)
五十嵐・獣兵衛(ウェアライダーの刀剣士・e11194)
サナルーシア・ボーゲンハイム(悪の女頭領・e11943)
黒崎・数馬(黒衣の復讐鬼・e13934)

■リプレイ

 ダンテの招集を受けて集まったケルベロス達は、横浜スタジアムの一角に忽然と現れた、地下への階段を下る。長い長い階段を降りた先に広がるのは、階段の入った長い塔を中心とした巨大な空洞内に、三十のコロシアムが点在する光景だ。
「この空間、完全に地上のスタジアムより広いわね」
 マリー・エヴァンス(星を見つめる者・e10801)の言葉に、五十嵐・獣兵衛(ウェアライダーの刀剣士・e11194)は兎耳を揺らした。
「……儂の目にはコロシアム一つ一つがスタジアムぐらいあるように見えるのう?」
「……滅茶苦茶なダンジョンだな」
 結城・灰(地球人の降魔拳士・e07604)は呆れたように肩をすくめた。
 横浜の地下に他の影響は出ていないようなので、空間が捻じれていると思った方が良いのだろう。
「しかし、コロシアムを順番に攻略するのかと思っていたが、これは」
 レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)は、ぐるりと周囲を見渡した。
「……負けた時の救援など、出せそうにもないな」
「そうやって時間かけると最初の方で倒した残霊復活しそうですね……」
 結局、一対一で勝つしかないということだ。身も蓋もない結論を出しつつ、ケルベロス達は互いの健闘を祈り合うと、コロシアムへと向かっていく。
 そこに待ち受けるのは、残霊と化して姿を現した星霊戦士達との戦いであった。

●第1のコロシアム
「御機嫌よう、シリウスの星霊戦士。申し訳ないけれど、貴方は今日この地で討たせてもらうわ。覚悟は、いい?」
「残霊の身で良ければ、お相手しよう」
 マリーの言葉を受け、相手は徒手のままに構えを取ると、一気に距離を詰めて来る。マリーは使い魔のモモン君へと声を向ける。
「今日も宜しくね」
 マリーの腕を走り抜けたモモンガが、空中で杖へと姿を変えた。
 杖をキャッチすると、マリーは星霊戦士が繰り出す拳を次々と打ち払いながら詠唱を紡いでいく。
「星の記憶に眠りし守護者よ。我が身を依代に再び現世に舞い戻れ。汝は悪しき竜を打ち倒した真なる英雄。汝が名はジークフリート! ──伝承憑依【悪竜滅騎】!」
 杖が剣へと変形、マリーの姿が鎧纏う英雄のそれへと変わる。
 警戒の表情を浮かべる相手へと遠間から振り下ろされた剣は、衝撃を帯びて星霊戦士を薙ぎ払う。
「このまま、ペースを掴ませて貰うわ!!」
 勢いに乗るマリーは魔法と【悪竜滅騎】を駆使し、そのままの勢いで星霊戦士を追いこんでいく。
 星霊戦士の残霊が消滅するまで、時間はそうかからなかった。
「さて、少しダンジョンの中を巡ってみますか」
 何があるとも思えないけれど、などと呟きつつ、マリーはモモン君と共にコロシアムを後にした。

●第2のコロシアム
「さて、一丁やってみましょうかね!」
 コロシアムの反対側に待ち受ける相手の姿を認めた瞬間、輝流・円(地球人の降魔拳士・e02173)は地を蹴った。
 真っ直ぐに距離を詰めて来る円に対し、星霊戦士の足元から忽然と現れる船の幻影。
 そこから飛来するのは、上空を覆うかの如く放たれた無数の矢や魔法は、計算されたかのように空中で軌道を変え、円へと降り注ぐ。
「誘導弾……!」
 回避は不可能と即座に円は判断、バトルガントレットを頭の上にかざすとコロシアムの地面を蹴ってさらに身を低くしながら加速する。
 着弾と同時に上がる爆発。しかしその煙の向こうから姿を見せるのは、全身に呪紋を浮かべた円の姿だ。
「──抜けて来るか!」
「邪魔ぁっ!!」
 拳の一撃が、幻影の船を破砕しながら星霊戦士を穿つ。
 突き刺さる降魔真拳の一撃に耐えた相手は、なおも矢と魔法を円へと降り注がせて来る。
「上等……戦いましょうか、死が二人を分かつまで!」
 円は拳から伸びる糸を敵へと伸ばす。そこからは泥試合だ。身を折る相手を離すまいと、密着しながらの打撃と締め付けを繰り返す円に対し、星霊戦士はひたすらに攻撃を降り注がせる。
 だが、根競べに勝ったのは円の側だ。
 やがて一瞬の隙を突いて円の放った糸が、星霊戦士の首へと巻き付く。
 相手が反応するよりも早く、引かれた赤い糸は星霊戦士の首を断ち切っていた。
「これで残霊だって言うんだから、参っちゃうわよね」
 いつか本物と戦うこともあるのだろうか?
 全身に痛みを覚えつつ、円は深く溜息をついた。

●第3のコロシアム
 閑谷・レンカ(アバランチリリー・e00856)がコロシアムに足を踏み入れた瞬間に見たものは、自分へと飛来する巨大な光の矢だった。避ける間もなく貫かれたレンカは、しかしその衝撃を受けながらも膝を着くことなく駆け出した。
 直後、彼女のいた場所を第二、第三の巨大な矢が貫く。
「いきなりとは、御挨拶ね……!」
 走りながら魔導書に書かれた呪文を詠唱、幻影の竜が現れ、レンカの意に従い星霊戦士へと炎を放つ。
 炎に捲かれた相手は、しかし怖じる様子もなく再び光の矢を番える。
 その矢が引き絞られ、そして放たれた瞬間、
「見切ったぁ!」
 レンカは円形のコロシアムの外周を、円を描くようにして突っ走った。矢が外れたことを受け、照準を定め直さんとする星霊戦士へとの距離がみるみるうちに詰まっていく。
 すれ違いざまに繰り出された斬撃で斬り裂くも、振り向きざまに放たれた矢がレンカを再び射抜いた。
 だが、戦意を失うことなく相手の懐へと潜り込んだレンカは、両手に集中させた魔力を叩き込む。
「赫が咲くわ。地上で最も鮮烈な色を、堪能なさい!」
 一点に集中させた魔力を、相手の胸板へと叩き付ける。
 体内で暴走する魔力に、星霊戦士の体が朱に染まり、内側から弾け飛ぶ。

●第4のコロシアム
 二振りの斬霊刀を提げた秋波・朔夜(月の海を飛ぶ双剣士・e04171)は、コロシアムへと足を踏み入れた。
「アークトゥルス、だっけ? ま、楽しく戦おうじゃないの」
 朔夜の呼び掛けにニヤリと笑みを浮かべたアークトゥルスの星霊戦士は、猛然と朔夜へ撃ちかかった。
「その冑、格好いいな。俺にもくれない?」
「エインヘリアルとなれば、お主が身につけることもあるであろうよ!」
「そいつはどうも……っと!」
 強烈な斧撃をいなし、朔夜は反撃とばかりに地獄の炎を纏わせた刀を振るっていく。
「俺の炎の剣、アンタに避けきれるか?」
 斧と刀が火花を散らし、互いの体に傷が刻まれていく。
 先に勝負を決めにかかったのは、星霊戦士の側だった。斧に書かれたルーンが輝き、風が吹き出し朔夜の動きを一瞬止める。瞬間、嵐のような斧の連打が叩き込まれた。
 朔夜の体が宙へと吹き飛ばされる。
 だが、星霊戦士の顔に浮かぶのは不審の表情だ。
「浅い……」
「気付いたか。だが、遅い!!」
 翼を広げ、頭を下にした体勢を取ると、朔夜は二刀を構えた。黒き翼が空気を叩き、彼の体を加速させる。
「闇に舞い、全てを斬り裂け!」
 繰り出された斬撃は、アークトゥルスの残霊に十字の傷痕を刻みつけた。
 耐えかねたように分断された残霊は、欠片一つ残さず消滅するのだった。

●第5のコロシアム
「ぐっ、これほどとはな……」
 ベガの残霊と相対する灰は、ベガの星霊戦士が奏でる魔曲に苦しめられていた。
 耳を塞ごうとも脳の中に流れ込んで来る竪琴の調べは、頭の中で反響し、灰に自傷することを促し、死へと誘わんとする。
「けどよ、残霊程度に遅れを取るわけにはいかねぇな!」
 叫びと共に魔曲を振り払い、灰は敵を見た。
 ここまでの戦いで、灰は、その拳と蹴りとを敵に確実に届けて来ている。
 通用していないわけでは無いのだ。だが、状況を打破するのは、己の最高の一撃しかないという確信と共に、灰は拳を固めた。
「使うしか、ないようだな……」
 決着をつけんとする意志を感じてか、敵の竪琴を奏でる指先に、力が籠るのを灰は知覚する。
「あんたの竪琴も、そろそろ聞き飽きたぜ!」
 波濤のように迫る見えざる音の波を貫いて、灰色は拳撃を繰り出す。
「そこだっ!!」
 その拳の前に、グラビティを帯びた音の波が弾けたように霧散。
 驚いた表情を浮かべた残霊へと突っ走った灰が連続して放った拳は、狙い澄ましたように敵を貫いた。
 残霊が消滅し、コロシアムに響いていた竪琴の調べが止む。
「ま、ざっとこんなもんだ」
 満ちる静寂が、灰の勝利を告げていた。

●第6のコロシアム
「カペラの星霊戦士よ、バスターチャリオットで来い……!!」
 コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)の眼前に現れるのは、オーラで出来た軍馬に引かれた二頭立ての戦車だ。飛び乗った星霊戦士が鞭を打つと共に走り出した軍馬とコロッサスの距離は瞬く間にゼロになる。
「ぐわああああーーーッ!!」
 絶叫の後、コロシアムにコロッサスの巨体が落ちる重い音が続いた。
「何の真似かは知らぬが、この技を受けて無事では済むまい……何ッ!?」
 戦車の頭を巡らせる星霊戦士の眼前で、コロッサスはふらつきながらも立ち上がる。
「少なくとも、お前の相手に力で当たるのは不利というところか」
「まさか貴様、私の力を量っていたというのか……!?」
 コロッサスは頷く代わりに全身に力を籠めた。
 筋肉が隆起し、全力の行使を告げる。
「だが、残霊といえど貴様如きに負けはせぬ!」
 再び迫る軍馬へと、総身に傷を受けたコロッサスは剣を構える。
「我、神魂気魄の斬撃を以って獣心を断つ――」
 振り抜かれた剣は、その上に乗っていた星霊戦士ごと、戦車を両断した。
「貴様が本物の星霊戦士であったならば、俺は今頃死んでいただろう」
 いずれ、真の強者たるエインヘリアル達と戦う時のことを思い、コロッサスは気を引き締めるのだった。

●第7のコロシアム
「獅子と竜、何方が上か、とくと知るが良い。さ、存分に死合うとしようか!! 総餓流、天導十六夜、いざ参る!」
「オリオン座リゲル、参る!」
 天導・十六夜(境界を越えた天を導く妖月・e00609)と星霊戦士、双方が名乗りを上げ、戦いが始まる。先手を取ったのは、十六夜の側だ。
「さぁ、綺麗な華を沢山咲かせてくれよ……」
 総餓天導流禁術、その奥儀たる『蓮華』が、開幕から炸裂した。
 神刀【十六夜】と妖刀【新月】に斬り裂かれた星霊戦士の体に、次々と傷口が開く。
 血に濡れた星霊戦士はオーラの獅子を放ち、これに対抗した。己にのしかかって来る獅子を斬り裂き、十六夜は一瞬のうちに呼吸を整える。
「総餓流活殺術……息吹」
 態勢を立て直した十六夜は、再び飛び掛かって来た獅子の下へと潜り込むように踏み込むと、上方へと刀を一閃させた。
「天導の星々を司る者として、負ける訳にはいかんのだよ!」
 オーラの獅子を霧散させた十六夜の手の中で、二刀が輝く。
「天導の一端を見せてやる。其の知識吸い尽せ、天導流神殺し……!」
 神刀と妖刀が閃く。
「……散華」
 刀を鍔に収めた瞬間、残霊は血煙だけを残し霧散していった。

●第8のコロシアム
「私は魔法少女プリズム……いえ、今はあえて『プロキオンの魔法少女』と名乗りましょう!」
 ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)はケルベロスコートを脱ぎ捨てる。その下にある姿は、装飾過多気味のオレンジのドレスだ。
「面白い! 同じ星の下に生まれたならば、その力を競うが宿命……!」
 まさに魔法少女といった装いのルーチェに、対するプロキオンの星霊戦士は、同じく『プロキオン』の名を持つ少女へと、幻影の猟犬を解き放った。
 銀の牙を鳴らして首筋に飛びかかって来る犬の群れを、ルーチェはその腕を振るって払いのけると、鋭く蹴りを繰り出した。受け止めた星霊戦士の腕に、鋭い傷が走る。
「プロキオンの名を名乗るだけのことはあるようだな!」
「そちらこそ!」
 星霊戦士は、格闘戦を挑むルーチェに再び幻影の猟犬を襲い掛からせていく。だが、
「その技は、もう見切りました……!
 ルーチェの言葉と共に、突きこんだ腕、その肘から先が回転を開始。
 レプリカントたるルーチェの腕に内蔵されたモーターが回転し、風を生み出す。
「邪悪な意思を吹き飛ばす、正義の旋風!」
 トルネード・グリッターが幻影の猟犬達ごと星霊戦士を吹き飛ばし、コロシアムの壁に叩きつける。
「これが、レプリカント魔法です……」
「れ、レプリカント魔法……恐るべし……」
 消滅していく残霊へ、ルーチェはぺこりと頭を下げるのだった。

●第9のコロシアム
 コロシアムには、拳の音が激しく響き合っていた。
「真っ向勝負! 殴って倒した方が勝ちだ!」
「上等だ! 我がシャイニングブラストの前に燃え尽きるがいい!」
 魂を宿したディー・リー(右手左手・e10584)の拳と、ベテルギウスの星霊戦士の拳が激しく交差し、互いの体にぶち当たる。
 一際高く音が響き、両者は弾かれたように距離を取る。
 ディーの口元に笑みが浮かんだ。
「なかなか楽しませてくれる。だが、おぬしの弱点は見抜いた!」
「何ッ!?」
 ディーの全身が地獄の炎に覆われ、気合と共に突進を開始。
 地獄の炎すらも燃やし尽くさんと放たれる魔法拳が、再び激しくディーを撃つ。
 星炎に包まれながら、ディーは指先を鋭くベテルギウスの星霊甲冑の隙間へと突き立てる。
 石化し、体のバランスを崩しながらも、放たれて来る魔法拳。
 だが、ディーは尻尾をその腕に巻き付けて攻撃を封じると、強引に引き寄せる。
「──歯ァ食い縛れ?」
「──!」
 顔面へと放たれた拳が、尻尾で固定された星霊戦士の頭部を貫くように撃ち抜く。
 それが、第9のコロシアムの決着の一撃であった。

●第10のコロシアム
 アケルナルの星霊戦士の用いた魔法によって、コロシアムは川のようになっていた。
 速攻でペースを掴もうとしたフォルトゥナ・コリス(運命の輪・e07602)は、コロシアムの観客席へと降り立つ。彼女を追って聖水は重力に逆らい、観客席へと追って来る。
「残霊になっても王様に誓いを立てているって、大変ねぇ……大人しく退場してもらいましょう」
 翼で大気をひとつ打ち、聖水の流れを飛び越えると、フォルトゥナは手の中に現れた光の槍を投げ上げた。
「もうどーにでもなーれ!」
 まさに投げ槍な言葉と共に放り投げられた光が、恐ろしい速さでコロシアムの上空へ向かう。訝りながらも魔法を連発して来る星霊戦士へ向け、フォルトゥナはケルベロスチェインを放つ。動きを封じられた敵へと駆けよりざま、勢いよく小さな拳を叩き付けるように振るった。
 衝撃に跳ね飛ばされる敵へと、もう片方の手にある鎖が伸び、再び巻き付いていく。
「せーのっ!!」
 気合一閃、地面へと叩きつけられた敵へと上から突き刺さるのは、先程放った光の槍だ。何のことは無い、失速して落下して来たのである。
「さて、後はみかん氷でも食べて帰りましょうか」
 フォルトゥナの意識は、貫かれ消えていく敵よりも、既に帰路のことに向いているようだった。

●第11のコロシアム
「卑劣なる神共に唾吐く者よ! 名を捧げ尚その武勇を示す貴様に終焉を齎すこの名を冥府への手土産とするが良いわ!」
 コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)が勢いよく振るったスレードゲルミルを、徒手の星霊戦士は振り抜いた拳で迎撃する。鉄塊剣の押し戻される感覚、そしてその拳が纏う雷光に、コクマの脳裏を忌々しい思い出が過ぎる。
「その雷光……ワシは何れ忌々しい雷神を打ち破らねばならぬ! 故に貴様の技にワシは挑む!」
「ならば受けよ、ライトニングドロップ!!」
 雷電を帯びた星霊戦士の踵が、稲妻の如き勢いでコクマの脳天へと直撃する。
 だがコクマの反応はただ一つ。
「その程度か……!」
 耐えたのだ。彼の執念はその一撃程度で止まるものではない。怯む残霊に剣を向け、彼は宣言する。
「ならば、次なるは貴様に送る終焉の技! 片目の賢者同様に冥府への旅路への手土産とするが良い!」
 コクマの手の中、スレードゲルミルが原初の巨人の意の如く巨大化していく。
「我が得物に宿るは神殺せし魔狼の牙! 冷たき牙は片目を捧げし賢者をもニヴルヘイムへ送るだろう!」
 大上段からの一撃が、星霊戦士ごとコロシアムの地面を叩き割る。
 土煙が収まった時、そこに立っているのはコクマだけだった。

●第12のコロシアム
「行くよ、タマ! 融合だぁ~!!」
「何……!?」
 警戒の色を見せる星霊戦士の前で、矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)はボクスドラゴンのタマをひょいっと担いだ。
「融・合!!」
「それに私はどう反応すれば良いのだ」
 真顔で言う残霊に対し、莱恵は担いで突撃を敢行した。立て続けに攻撃を繰り出す莱恵の上から、タマが星霊戦士へと泣き声を浴びせていく。
「ええい、やかましいぞ! お主は五月蠅くないのか!? まさか聴覚を封じて!?」
「やってないやってない。慣れてるだけだよ」
 返答と同時、出来た隙へと莱恵は攻撃を入れていく。
 痛打を受けながらも星霊戦士は背にオーラの翼を現し、斬り裂くように突撃して来るが、莱恵はその攻撃を、交差させたルーンアックスでしっかりと受け止める。
 上空へと跳ね飛ばされた莱恵は、空中でバランスを取ると地面に降り立った。
「ふ~、危なかった! ボクじゃなければ、外宇宙まで飛ばされてたね!」
 その間にも、タマに属性インストールを指示し、回復を行わせる。
 こうなってしまえば、あとは莱恵とタマの独壇場だ。
「タマ、ボクスタックル!」
 莱恵の声を受け、タマが箱に収まったまま突進すると、それを蹴って莱恵は宙を舞い、時空凍結弾を放ち、残霊の動きを完全に停止させる。
 1人と1匹の連携を崩すことの出来ないまま、星霊戦士は消滅するのだった。

●第13のコロシアム
「やあ、私は小室戸というよ。しがない鹵獲術士をしている」
「みなみじゅうじ座アクルックス。参る」
 拳に十字星のオーラを宿し、殴り掛かって来る星霊戦士。
 オーラの光を映し、小室戸・空亡(空亡大博士・e02020) の眼鏡がきらりと光った。
「面白そうなものを持っているねえ、少し先生に分解させてくれないか――」
「……!?」
 空亡の神経掌握型命中補完術式が作動。
 星霊戦士の視界に文字列や図形が浮かぶ。困惑する相手の感覚すらも掌握した空亡は、的確な一撃を加え始めた。
 空亡の貫手と星霊戦士の拳が交錯し、互いの体が氷を帯びていく。
「魔術士が、格闘戦とはな」
「鹵獲術士が後ろから派手な魔法を撃つだけの生き物だと思ったら大間違いなのだよ」
 気力を高めて身を覆う氷を取り払うと、空亡は、慎重な戦いを進めていく。
「まあ、実際そちらのほうが向いてるのは否定のしどころもないけど……アクルックス君、本来の君と戦うなら、どうするのがベストだろうね?」
 繰り出された拳を見切り、身をかがめた空亡は、身を伸ばしざまに指輪から現れた光の剣を振り抜いた。
「さて、他の皆は大丈夫かな?」
 消滅していく星霊戦士を背に、空亡はコロシアムを後にする。

●第14のコロシアム
 ノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔法少女・e05320)の『殲光の矢』に抉られ、星霊戦士の『金牛走破』で耕された第14のコロシアムは、爆撃でも受けたかのように荒れ果てていた。
「独立した戦場で、よかった……誰かに見られる前に、殺す」
 満月にも似たエネルギー光球が、土煙舞うコロシアムを一瞬照らす。
 光を受けたノーザンライトの傷が癒えると同時に帽子が落ちる。
 髪の間からのぞく瞳が獣性に染まり、口の端から唸り声が漏れる。
「ウェアライダー。それが本性か!?」
「──!」
 土煙に紛れ、地を這うが如き低い体勢から敵へと迫ったノーザンライトは、オーラの牛にまたがる星霊戦士の足元から跳び上がるようにして獣化した拳を繰り出す。
 拳は星霊甲冑にめり込み、くっきりと陥没が生まれた。
 星霊戦士は反撃を繰り出すも、それより早くノーザンライトは機械弓に矢弾を装填。
「とっておき。塵の一つも、残さない……」
 魔力を最大限に籠めた矢弾が、機械弓から放たれる。
 矢弾は迎撃を受けるよりも早く弾け、その内に秘めた魔力を解放した。
 爆発が連鎖し、星霊戦士の残霊がその中に消えていく。
「あなたは最初から、わたしの術中。凶暴にならざるを得なかったのは、想定外……」
 エインヘリアルは嫌いだが、その力に敬意を示すように、ノーザンライトは帽子を被り直した。

●第15のコロシアム
「鎧は金じゃないのか……」
「変形しやすい金属で鎧には向かない気もしますが」
 律儀に反応して来る星霊戦士に、サナルーシア・ボーゲンハイム(悪の女頭領・e11943)はひらひらと手を振った。
「ともあれ最高にステキなパーティーを始めようか、英雄!!」
 気を取り直したように刀と銃を抜き、彼女は戦いの始まりを告げる。銃声から始まった戦いの趨勢は、じわりじわりとサナルーシアの不利へと傾いていった。
「……何とも厄介な!」
 敵の放つ閃光が、こちらの戦意を奪って来る。武器を手放しそうになる自分を叱咤しながら、サナルーシアは敵へと最大の一撃を繰り出さんと敵へと走る。
「全てを燃やし尽くせ! 『燃え盛る不滅の焔』……!」
 だが、繰り出されんとした刀は、帯びる魔焔は敵に届くことなく鎮火していく。
 至近距離から放たれた光が、サナルーシアの胸を貫いたのだ。戦意がみるみる萎え、腕が力なく垂れる。
「争いを止めるのです。平和こそ万民の望み」
「確かに平和は大事だ。だが、愛する地球の為に負けるわけには……いかない!」
 決然と立ち上がり、サナルーシアは刀を振り下ろす。
「不屈の闘志、燃え盛る意志は……不滅!!!」
 サナルーシアの闘志が刀を通じ、燃え盛る焔となって今度こそ星霊戦士を包み込む。
 それが、戦いを決する一撃であった。

●第16のコロシアム
 メルナーゼ・カスプソーン(廃墟に佇む眠り姫・e02761)が足を踏み入れた第16のコロシアムの中には、赤い毒雨が降り続いていた。
「でも大丈夫……こんなこともあろうかと傘は用意して来たのです……」
 メルナーゼはスタジアムのショップで買って来た傘を広げた。
「……うなぁぁぁ!? 傘が溶けたのですよ!?」
 開いてから僅か0.2秒で、傘は短い命を終えた。
「何処の星の紋様か知らぬが、傘如きで防げるものではないわ!」
「そうですね」
 勝ち誇る星霊戦士に傘の骨を投げつけつつ、メルナーゼは石化呪文の詠唱を開始。
 降り続く毒雨は、コロシアムの全てを赤く染めていく。
「雨の音は眠くなるのです……」
「我が雨の中で眠りに就くがいい! 二度と目覚めることの無い死の眠りにな!」
 相手は自分の必殺技によほど自信があるのだろう。だがメルナーゼは、既に魔法の内容を見切り、対抗呪文を編んでいる。
 平然と魔法を連打して来るメルナーゼの姿に、相手の顔に焦りが滲む。
「気付くのが……遅過ぎなのです」
 受けていた毒を気合と共に吹き飛ばすと、メルナーゼの足元に巨大な魔法陣が広がる。
「誰も彼もが小休止。決して叶わぬ願いの波止場。幸福が己の首を絞める……魅惑の世界へご招待」
 星霊戦士の体がぐらりと揺れ、地面に倒れるとそのままに消滅する。
 大きく欠伸を一つ、メルナーゼはコロシアムを後にするのだった。

●第17のコロシアム
 ジーナ・ヘイズ(流浪する多霊な剣士・e05568)の突き出した名刀【百景】と星霊戦士の振り下ろした剣が、幾度目になるか分からない火花を散らした。
「心ゆくまで戦いたいところだが……」
「お互い、あまり余裕は無いようだな」
 互いの顔に笑みが浮かぶ。
 巨躯の戦士を見上げながら、ジーナは刀を鞘に収め、腰を落とす。
 高まる力に、相手の顔が引き締まった。
「ならば、我が一撃で決着をつけよう!!」
 星霊戦士の剣は、稲妻の如き勢いでジーナへと振り下ろされる。だが、ジーナは地を蹴り、その剣の軌跡から、僅かに身を逸らす。
「──!」
「いま必要な理はただ一つ……刀が生かし、私が活かす」
 ジーナの鞘の内部で、重力と斬霊刀の霊力が反発現象を発生。
 鞘の内から恐るべき勢いで迸る刃の切っ先は、弧を描いて星霊戦士の首筋を一閃した。
「決め技か……何という技だ」
「封刃・重霊鋼断」
 ジーナが応じると同時、星霊戦士の存在が霧散する。
「ガハッ!」
 直後、ジーナの口元から血が溢れ出る。
 敵の剣が帯びた稲妻は、確かにジーナを捉えていたのだ。
「慢心の報いか。……ん?」
 百景の鞘を支えに立つジーナは、星霊戦士の消えた後に残った剣を拾い上げる。
 ポルックスの名が刻まれた剣は、ジーナの勝利を称えるように一瞬光を照り返した。

●第18のコロシアム
 ルチア・フィロルーチェ(花蕾のカデンツァ・e00850)の口から、白い息が漏れる。
 戦場を包むは、フォーマルハウトの星霊戦士が繰り出す『白い影』がもたらす冷気。
 対するルチアは次々と魔法を繰り出して応戦していた。
 手の平から放たれる竜の幻影が、敵を炎で包み込む。
「ケルベロスの魔術、これほどとはのう!」
「フォーマルハウトさん、決着をつけましょう!」
 既に業火の中にある敵へと、ルチアは叫ぶ。
 返答として返って来るのは、亡霊の如き白い影の群れだ。
 翼を一つ撃ち上空へ逃れるルチアを、白い影の群れが追う。
「貴方が冷たき影を操るというのならば、私は暖かき光を灯しましょう」
 空中でUターンし、敵へと向かいながら、ルチアは呪文を詠唱していく。
「常闇に灯りを。永久に尽きること無き、《希望》の焔を!」
 すれ違いざまに放たれた光球は、花の如く爆ぜた。術者たる星霊戦士がその光の中に消え、ルチアを追跡していた白い影も消失する。
「またお会いできたその時は必ず、決着を」
 急速に元に戻っていく気温の中、ルチアは着地すると、仲間達と合流するべく踵を返した。

●第19のコロシアム
「──静雪のみなもが参ります」
 静雪・みなも(水面に舞い降りる銀狐・e00105)の髪に括られた鈴が、軽やかな音を鳴らした。相対する星霊戦士も細身の剣を振るい、双方の切っ先が舞うように交錯する。
 刃同士が触れることもなく、ただ繰り広げられる剣の振るい。
 一つのダンスの如き華麗な剣戟は、互いを己のペースに巻き込もうとする剣舞のぶつかり合いだ。
 鳥の羽ばたきの如く大きく剣を振るう星霊戦士と、渦の如く敵の周囲を巡りながら刀を振るうみなも。
 双方が互いのリズムを崩し、自分のペースに巻き込まんとしていく。
 やがて、その主導権の奪い合いに勝利を収めたのはみなもの側だ。
「その技は、もう見切った──」
 月弧を描いた刃が敵へと届く。
 手傷を負った敵が逆転を求め、その剣舞を加速せんとした瞬間、機先を制する形でみなもは加速した。
「――ただ静かに、儚く舞い散る……」
 周囲の音が消えてゆくような錯覚。
 加速する意識の中で、みなもは己へと迫る横薙ぎの刃を見る。
 強い踏み込みを一つ、身を前へと飛ばしたみなもは、刃を飛び越えざまに一閃を放つ。
 敵の横をすり抜けるようにして静かに着地した彼女が耳にするのは、星霊戦士がどうと地に倒れ伏す音だ。
「……ふぅ、終わり……」
 みなもは敵の消滅を見届けると、血払いをし、拭い紙を取り出して刀を清め、鞘へと納めた。

●第20のコロシアム
「さあ、ボクは逃げも隠れもしないよ! その図体、粉々にしてあげる!」
 銃をホルスターから引き抜くと、滝川・真朱(ミルククラウン・e00790)は一気にコロシアムを駆け抜ける。
「先手必勝っ! 業炎、舞い散れ、深紅の暴雨(スカーレット・ドミネイト)!」
 銃弾が炎と化して降り注ぐ中、コロシアムの地面が割れると、巨大な植物が頭をもたげる。
 星霊戦士に寄生した攻性植物ジャイアントミモザ。
 その振り下ろす棘蔦を銃を交差させて受け止め、真朱は腕に走る痛みに普段の戦いと違うことを感じ取る。
「けど、たまにはいいかもね……」
 続けて振り下ろされて来る攻性植物の蔦を飛び退いて回避すると、再び振り上げられようとする蔦を掴んだ。
 勢いよく引き揚げられた真朱の体が宙を舞い、星霊戦士の真後ろへと着地。
「何──」
「遅いよ!」
 振り向きざまの連射が、星霊戦士を貫く。
 足元に気配を感じ、それが何かを理解するよりも早く再び跳躍。
 飛びのいた真朱の目に、盛り上がる地面を割って伸びる緑の蔦が映る。
「植物相手なら、やっぱり炎だよね!」
 両手の銃が、再び天を向く。
「焔の弾丸、燃やし尽くせ!!」
 再び放たれた弾丸は残霊を貫いて炎と化し、攻性植物を焼き尽くす。
 後に残るは炎の残り香と、ローブの裾を払う真朱だけだった。

●第21のコロシアム
「くっ……!!」
 レグルスの拳の一撃を受けたローザマリア・クライツァール(双裁劍姫・e02948)の体が宙に舞う。翼を一打ち、足から着地した彼女は、その二刃を鞘に収めた。
「何のつもりだ? 戦意喪失というわけでもないだろう」
「綺麗な技。獅子そのものの動きには羨望すら抱く――でもね」
 頭を上げたローザマリアの瞳には、強い戦意が宿る。
「アタシも持ってるの。アンタと同じものを。アンタが最後に目にするのは、舞い降りて命を散らせる──全てを引き裂き散らす、花吹雪よ」
「ならば……再び食らうがいい!!」
 敵の拳に光が宿り、獅子牙の如くローザマリアを引き裂かんと迫る。
 だが、それが届く0.1秒にも満たぬ時間の中で、ローザマリアの腕が消えた。
 超高速の連続斬撃が、彼女の腕を霞ませたのだ。
 ローザマリアの編み出した『風花散華』。
 因果と応報を司る二刃の煌めきが、花吹雪の如くコロシアムを満たす。
 刃の動きが止まった時、斬り裂かれ尽くした残霊の姿は跡形もなく消失していた。
 踵を返そうとしたローザマリアの前に、斬り裂かれて散った星霊戦士の残霊のオーラが変じたものか、戦装束が現れる。
「ま、勝者の報酬ってことにしておきましょうか」
 戦装束を手に、彼女は悠然と闘技場を歩み出る。

●第22のコロシアム
 エイジ・スルビィーシャ(シリアスブレイカー・e07778)は、幻影の乙女達を操る敵の術中に思いっきり嵌っていた。
 アイネとの連携は既に星霊戦士を追いこんでいる。だが、肌も露わな美少女達が、エイジへと襲い掛かって来ていた。
「くそっ! 美少女揃いで集中出来ねぇ。きたねぇぞ!」
 幻影の乙女達が兇器を手に、エイジへと飛び掛かる。幻影であるにも関わらず、斬り裂く力は本物だ。
「くそ……勝てねぇ……」
 アイネがエイジを守ろうと、乙女達の前に立ちはだかる。
 エイジの脳裏を、旅団の仲間達……そして、一人の女性の姿が過ぎった。
「そうだ……こんなとこで負けてたまるか!」
 己に活を入れ、立ち上がり、一歩を踏み出す。
「たくさんの美少女なんざアホらしい……俺にはあいつ一人で十分だ!」
 瞬間、エイジの体が加速する。
「あいつに届ける! 俺の気持ちを拳に乗せて、あいつ、一人に!」
 視界から、己を惑わす乙女達も、アイネの存在すらもが消え失せる。
 ただ目に映るのは、敵の姿だけだ。そこへ目掛け、一直線に加速する。
「この拳に全てをかける! 俺の思い! 届きやがれええ!」
 体当たりするような勢いで敵の懐へと飛び込んだエイジは、力強く地面を踏みしめる。
 渾身のアッパーカットを受けた敵はコロシアムの地面に落下すると同時に消滅、瞬間、エイジの全身から血が溢れ出した。
「やった……ぜ……」
 誰にも聞こえないほどの小さな声で、想い人の名を呟いて、彼は己の血の中に倒れ込む。

●第23のコロシアム
「名前を捨てた、っていうけど忘れたわけじゃあないんだろ? だったら答えろよ、星霊戦士さん」
「勝ち誇るなら本物の俺にでも勝ってから聞け。まずは俺に勝ってからだがな」
  ゼダ・ラインス(ウェアライダーの鹵獲術士・e05667)の問いを切って捨てた星霊戦士の両腕に魔力が走り、解き放たれる。
 魔力は嵐となり、ゼダとボクスドラゴンのドライを呑み込んだ。
 少年の体が幾度となく地面に叩きつけられるが、しかし転がりながら嵐の範囲から逃れた瞬間、ゼダは触手を召喚して敵を撃つと、ズタズタになったバトルクロスを翻して走り出す。
「私の技を耐えるとは!」
「お前の必殺技、嵐って、カッコいいよなぁ!」
 ゼダの左腕が巨大な狼のそれへと変わり、敵が繰り出した蹴り足とぶつかり合う。ゼダはその後も、執拗に敵の魂を引きちぎらんとしていた。本物ならばいざ知らず、残霊に過ぎない星霊戦士に、その全てを回避しきれるはずもない。
 さらにドライがゼダを癒し、その行動を支援していく。
「全部奪って綺麗に使ってやるからさ。俺にも、使わせてくれよ!」
「ならば、望みの技を受けろ!」
 再び両腕に集中する魔力は、目を輝かせるゼダへ向けて放たれる。これを喰らったらマズイ、と頭のどこかが理解した瞬間、ゼダの腕が星霊戦士を貫いていた。
「ちぇっ、思うように当たらないな。もっとちゃんと狙わないとダメか」
 ドライが同意するように鳴き、戦いの終わりを告げた。

●第24のコロシアム
「シャァァ!!」
「これが魔蠍穿か!!」
 蠍座の星霊戦士が繰り出す細身のゾディアックソードが、黒崎・数馬(黒衣の復讐鬼・e13934)を狙う。
 両手の刀を交差させてそれを受け止めながら、咄嗟に後方へと跳躍した数馬の体が、恐ろしい勢いでコロシアムの壁へと激突した。
 死経装が身を守ってくれた事を感じつつ、数馬は立ち上がる。
 相手の顔も険しい。吹き飛ばされながらも数馬が放った衝撃波が、彼を貫いていた。
「恐るべき殺気よ。剣士よ、何が貴様をそうさせる?」
「デウスエクスはみな殺す、その残霊も一人残さず殺す」
 底冷えのするような声音で数馬は言った。
 牽制とばかり影の弾丸を放つと共に、星霊戦士へ向け疾走する。
「愚かな!」
 黒影弾を受け止めた敵は、弓を引くように大きく剣を引いた。
 その切っ先が、再び数馬へと向けられ、そして放たれる。
 金属の剣が肉を裂く、鈍い音がコロシアムに響いた。
「……馬鹿な!?」
 だが、驚愕の声を上げたのは星霊戦士の側だ。
 数馬は剣に己の身を貫かせ、引き抜く動きを封じたまま、強引に歩を進めていく。
 一歩を進むごとに血が溢れ、その血は腕を伝い、下げた刀を濡らした。
「我が肉体、我が魂、我が命の全てを一閃の刃と成して……斬り裂け、斬刃!!」
 剣から手を離す暇すら与えず放たれた魂の一刀が、残霊を深々と斬り裂く。
「最期に何か言い残すことはあるか?」
「……我らは残霊。語るべき言葉など持ち合わせぬ」
 そして、残霊の姿は数馬の前から消えた。体を支えていた剣も消え、数馬はその場に倒れ込む。

●第25のコロシアム
 加速した感覚が、獣兵衛に敵の動きを『遅く』捉えさせる。
 攻撃を重ねて来る敵に、じりじりと追い込まれつつも攻撃の機を伺っていた獣兵衛は、敵が十字斬の態勢に入った瞬間に動いた。
「攻撃してばかりでは勝てぬが、回復してばかりでもジリ貧じゃな」
 獣兵衛の足が炎を帯びて蹴りを放つ。踏み出そうとした足を蹴りつけられたガクルックスの星霊戦士を炎が包んだ。
 炎に焼かれゆく腕で振り抜かれる斬撃。
 跳び退る獣兵衛の腕を剣が浅く掠め、微かな痛みが走る。
 両の手に持った斬霊刀で二刀斬霊波を放ち牽制しながら、獣兵衛は敵の隙を伺う。
「では儂の手で二分裂きにしてやろう!」
 獣兵衛はフレイムラインで地を蹴り滑走。炎の轍を残して迫る獣兵衛を、待ち受ける星霊戦士の剣が迎撃するべく振り下ろされる。
「本来は銃を使うんじゃがな。今日は特別じゃ!」
 右手の刀で相手の剣を食い止めると、激しい衝撃が獣兵衛の体を揺らす。
 だが、その瞬間、獣兵衛はねじ込むように、逆手に持った斬霊刀を叩き込んでいた。
 腿を貫かれた相手が態勢を崩した瞬間を見逃さず、地面に炎の輪を幾つも作るように回転しながら刃ごと身を振り回す。
 狙い過たずに急所を斬り裂いた刃を受け、星霊戦士が消滅していく。

●第26のコロシアム
 地獄の炎を帯びて繰り出されたレーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)の縛霊手は、星霊戦士の手甲に包まれた拳とぶつかり合った。激音がコロシアムに響き、衝撃が互いの体を揺らす。
 打ち合った縛霊手と手甲が破砕し、両者はそのまま逆側の腕で再度の拳撃を繰り出す。
 再びの衝撃音。
 組み合う態勢となったノーグルは、力任せにこちらを押しつぶそうとして来る星霊戦士を全力で押し返した。
「おおおッ!!」
 翼まで動員し、飛び上がるようにして一瞬相手を押し返したノーグルは、空中で縦回転。態勢を崩した相手の脳天に叩きつけられるのは、回転しながらの旋刃脚の一撃だ。足の先が鋭い刃のように星霊戦士を下から斬り裂く。
「この程度では、止まらんよな……!」
「当然だ!」
 転倒を堪えた星霊戦士の腕に、『角』状のオーラが生じるのをレーグルは見た。
 いまだ空中にあるレーグルを目掛け、拳の振るいと共にオーラが放たれる。
 とっさにかざした縛霊手がひしゃげ、オーラは導かれるようにレーグルの胸板へと直撃。レーグルを刺し貫いたオーラは反対側の壁へと飛び、激突音と共にコロシアムの一角が崩壊した。
「これで貴様も……何ッ!?」
 星霊戦士が驚愕の声を上げる。
 レーグルは胸に大穴を開けたまま、崩れ落ちるコロシアムの瓦礫の中に立ち上がっていた。砕けた縛霊手の内からは、地獄の焔が噴き上がる。
「心臓は汝にはやらぬ。これは愛しき人に捧げるもの故──戦慄け、炎よ」
 地獄の炎が大きく揺れ、レーグルを包み込む。
 炎塊と化して飛び立ったレーグルは、燎原を走る火の如く星霊戦士へと迫り、その両腕を叩き付ける。
「見事──!」
 炎鎚の如き一撃を受け止めた星霊戦士は、賞賛の言葉と共に霧散した。

●第27のコロシアム
「オイナスなのです。白羊宮の剣と相棒のプロイネンと共に挑ませてもらうのです」
「エルナトだ。参るぞ!」
 小柄なオイナス・リンヌンラータ(星空を駆ける白羊・e04033)へと向け、振り下ろされる拳。オイナスは飛び込みざまにそれを切り払い、オルトロスのプロイネンが敵の足を斬り裂く。
「連携か。ならば!」
 蹄型のオーラがオイナスとプロイネンの頭上を覆った。
「牡牛座というので、牛の蹄なのですね……」
 間髪入れず叩き落とされた蹄を、プロイネンの瘴気が迎え撃ち、僅かに落下までの時間を稼ぐ。その間に、オイナスは蹄の下を掻い潜った。
「行くのです、白羊!」
 白羊のオーラが剣から放たれ、敵を凍てつかせる。
 今度はオイナスのみを狙う形で蹄が突っ込んで来るのと交差するように、プロイネンが攻撃のために瘴気を放つ。
「パターン豊富なのですね」
 必殺技は一つだが状況に応じて使い分けて来るので、実質的には二つ持っているようなものか、とオイナスは思う。他の残霊も本体の劣化コピーに過ぎない以上、この場で見せたものとは別の使い方をする事も出来るのだろう。
「でも今は、僕達が勝つのです!」
 握りしめたゾディアックソードへと、オイナスのグラビティチェインが流れ込む。白羊剣を己の一部のように感じながら、オイナスは高々と跳んだ。
「グラビティチェインチャージコンプリート! ボクの全力! 行くのです!」
 振り降ろされる重い斬撃が、戦いに決着を告げた。

●第28のコロシアム
「ん……わたしはフォン・エンペリウス。正々堂々勝負するの」
「りゅうこつ座ミアプラキドゥス。手加減はせぬぞ!」
 エイティーンを使ったフォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)の相手は、巨漢揃いのエインヘリアルの中でも、ひときわ体格の良い男だった。
「ん、掴まれたらマズいね」
 フォンはエアシューズで地を蹴り高速滑走。
 ボクスドラゴンのクルルと共に、素早く動き回りながらの接近戦を挑んでいく。
 狙うのは体格差的にも狙いやすい腰から下だ。
 小柄なフォンに翻弄されながらも『静かな水面』を意味する星の名を持つ巨漢は動じることなく攻撃を繰り出して来る。
「ハッ!」
 手甲が、フォンを庇ったクルルを激しく打ち据える。
 そのまま残霊がクルルを掴み、必殺のパイルドライバーの態勢に入ろうとした瞬間、フォンの指先がその肩を貫いた。クルルを掴んだままに、敵の動きが止まる。
「ん……クルル、蒼いのいくよ!」
 掴まれたままの状態でクルルの吹きつけた蒼き炎はフォンの拳を焼くことなく包む。
 そしてフォンは一気にラッシュをかけた。
 動きの自由を取り戻そうとした残霊の顎を下から打ち上げるように拳を入れると、落下しながら一直線に拳の連打を叩き込む。
 着地と同時に残霊の姿は消滅し、残霊の手から解放されたクルルが肩へと舞い降りた。
「ん、ふぁぁ……勝ったらなんだか眠くなって来ちゃった」
 眠気によろけながら、フォンはコロシアムの外へと向かう。
 残霊がつけていた手甲を引きずりながら、その後ろをクルルが追いかけて行った。

●第29のコロシアム
「今頃、他の人達はどうしているかしら……」
 ズミネ・ヴィヴィ(ケルベロスブレイド・e02294)は肩で荒い息をつく。
 敵の主武器はゾディアックソードだが、『メギンギョルズ』なるベルトを装着してさらに分厚い甲冑姿に変身してからというもの、さらに力を増しているように見える。
 接近してきた残霊の剣の一撃が、ズミネを大きく吹き飛ばした。
「くっ……殺せ」
 ズミネの黒いレオタード状の服は大きく裂け、豊満な胸が服から零れ落ちそうだ。
 戦いの熱に彼女の頬は上気し、普段よりもいっそう艶めかしい。
 対する残霊の反応は迅速かつ慎重だった。
「死ねェ!!」
「シャオラッ!」
 残霊が慎重に遠距離から射手座のオーラを放って来たので、ズミネは演技を止めて黒影弾を放った。両者の顔面に互いの攻撃が直撃する。
「少しは油断しなさいよ! 何、不能なの!?」
「一目見りゃ戦闘能力残してることぐらい分かるに決まってるだろうがッ!」
 見苦しく言い争いながら、両者は今度こそ本当に決着を着けるべく有利な態勢を取ろうと激しく切り結ぶ。
「見せてやるわ、最期に……命を燃やし尽くす代わりに出せるシャドウエルフ究極のグラビティを!」
 胡乱げにズミネを見つめる残霊の足元から、突如として杭が生じた。
「私はみなの欲望を利用して生きている。ああ、神を裏切り 永遠などという幻想に その人間の汚れなき崇高な魂を差し出すがいい。……創造!!」
 ズミネのグラビティによって生まれた杭に貫かれた残霊は、弾けるように消し飛んだ。

●第30のコロシアム
 大粟・還(クッキーの人・e02487)の目に、星霊戦士の残霊が操る武器は巨大な旗のように見えた。
「でも帆なんですよね。あれで包んで窒息させるとか何それこわい……」
「フッ、我が必殺技を知ってなお掛かって来るとは大した度胸よ」
「でも地味ですよね」
 還の言葉に多少傷ついたような表情を浮かべた残霊は、帆を勢いよく奮うと還へ襲い掛かる。帆に覆われた還の喉が締まり、息が詰まる。
「これは……地味だが恐ろしい……」
 流石に三十人の闘士に名を連ねるだけの事はあるらしい。
「確実に命を奪わせてもらうぞ」
「だったらクッキーの人の本気、見せてやんよ……!」
 還は一回転して帆を振りほどくと、笑顔で決めポーズをキメた。ウインク一つ、スマホのゲームアプリを立ち上げる。響く電子音に、残霊が怪訝な顔を浮かべた。
「何をする気だ……!?」
「さあ、クッキーパーリィの始まりだ!」
 唐突にクッキーが降り注ぎ、星霊戦士へと襲い掛かる。
「面妖な……! どういう理屈だ!」
 目を輝かせながら無心にスマホを操作する還を、再び帆が襲う。顔を帆で包まれ、しかし還の指の動きは止まらない。ブラインドプレイであった。
「イエー、一兆達成ー!!」
 還の歓声と共に、星霊戦士の姿はクッキーの中に消える。
「はい、おしまい」
 そして唐突にスマホアプリを取ると、先程のテンションまで消えたかのように、還は静かにその場を立ち去るのだった。

●ダンジョン崩壊の刻
 三十のコロシアムを攻略したケルベロス達は、再び中央階段へと集まっていた。
「無事、全員攻略したようだな」
「ダンテさんの話では、全てのコロシアムを攻略すると消滅するとのことでしたが……」
「そういえば、ビフレストって崩壊しましたよね」
 一同は顔を見合わせる。
 静寂の向こう、遥か空洞の端の方から、崩れるような音が聞こえて来る。
 それがダンジョンが崩壊する轟音だと理解するやいなや、負傷者や眠っている者を背負い、ケルベロスは一目散に階段を駆け上っていく。
 やがて彼らが階段を上り終えるのと時を同じくして、横浜スタジアム地下に出現していたダンジョン『黄のビフレスト』は完全に消滅するのだった。

作者:真壁真人 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月28日
難度:普通
参加:30人
結果:成功!
得票:格好よかった 29/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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