黄金の不退転ローカスト~英雄譚は重ならない

作者:久澄零太

「ココガ地球、グラビティ・チェイン、ドッサリ」
 長い毒針と鹵獲した攻性植物を武器とするローカスト、スポアスティンガーが感嘆の声をあげる。
「この地を支配する事ができれば、グラビティ・チェインの枯渇に怯える同胞達は救われるだろう」
 それに答えるように、蟻型ローカストの宿将、金甲のフーガが重々しく答えた。
「油断するな。この地には、我が同胞を殺戮する存在、ケルベロスがいるのだ。あのネフィリアでさえ撃退されたその実力、侮りがたし」
 2人を制したのは、この侵攻部隊の隊長であるヘルクレスト・メガルム。  絶大な忠誠心と不退転の覚悟を持つ、カブトムシ型のローカストである。
「心配しなくても大丈夫っすよ。この黄金装甲があれば、ケルベロスなど、恐れる事は無いですから」
 メガルムの言に、他の3人が気を引き締める中、特務部隊インセクターから引き抜かれたイエローシケイダが調子良く答えて、ローカストでも有数の傭兵集団を統率する蜂王アンナフルに叱責された。
「あら、あなた、油断するなというのが聞こえなかったのかしら? この黄金装甲の強化は未だ不安定、不測の事態は常に起こりえるのです。調子にのるものではなくってよ」
「アンナフルの言うとおりだ。われらの目的は、グラビティ・チェインの奪取。そして、ケルベロスとの戦いにより、黄金装甲の威力を実証し、更なる強化の礎となることである」
 そこまで言うと、メガルムは、右手を皆の前に差し出す。
 他の4名も、また、メガルムと同様に右手を差し出し、円陣を組んだ。
「全ては、困窮する同胞達の為に」
「「「「全ては、困窮する同胞達の為に」」」」
 5つの声が唱和し、そして、ローカスト最強の部隊が、動き出したのだった。

「みんな……大変だよ……!」
 大神・ユキ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0168)は沈痛な面持ちで俯いたまま、口を開いた。
「ローカストの偉い人だった『上臈の禍津姫』ネフィリアをやっつけて、ローカストの事件が減ってたけど、そのローカストが動き始めるみたいなの」
 少女は深いため息をつき、覚悟を決めたように顔を上げる。
「強化されたアルミニウム生命体、『黄金装甲』で全身を覆ったローカスト達が、地球侵攻軍として襲ってくるの。黄金装甲は、皆に対抗する為に生み出されたものみたいで、それを纏ったローカストの戦闘力は今までとは比べものにならないよ。今回の侵攻部隊は、5人しかいないけど、その一人一人が部隊長に匹敵する実力者だから、絶対に油断しないで」
 ヘリオライダーは警告と不安を混ぜ合わせたような瞳で番犬達を見つめて、一瞬だけ崩れそうになった表情を両手で叩き、自らを鼓舞する。
「ローカスト達の目的の一つが、強化されたアルミニウム生命体『黄金装甲』を地球で試験運用することなの。こっちから戦いに行けば、向こうは実践データを取るために真っ向勝負でうけてくれるよ」
 それから、と語り手の瞳に少しだけ光が灯る。
「体の一部じゃなくて、全身がアルミニウム生命体に覆われてるから『黄金装甲』を纏ったローカストの戦闘力はものすごく上がってるけど、その分アルミニウム生命体の制御がかなり不安定になるみたい。戦闘が長引けば長引く程、アルミニウム生命体が言う事聞かなくなって、ローカストが行動に失敗しちゃうとか、不具合が出てくるかもしれないよ」
 ユキはトン、トンと地図の5カ所を叩いた。
「5人の地球侵攻部隊は、出現地点からバラバラに動いてグラビティ・チェインの収奪を行おうとするの。皆にはこの中の1体、『イエローシケイダ』を迎撃してやっつけて欲しいんだ。敵は強いけど、長期戦に持ち込めれば希望はあるよ!」
 グッと拳を握った少女は、黄金の蝉人間のイラストを描き上げる。
「イエローシケイダは『特務戦隊インセクター』って群れの一員で、ヒーローっぽい攻撃をしたり、自分が得意な音波を武器にしたりして来るよ。何かとカッコつけようとしてくるあたり、かなりのお調子者みたい。でもそれって、『戦場でもふざける余裕がある』ってこと。気を抜いたらあっという間にやられちゃうから、油断は絶対にしないで」
 釘を刺したうえで、ユキはイエローシケイダの羽に丸を付けた。
「あっちはアルミニウム生命体を利用した肉弾戦に加えて、自分の羽をこすり合わせて周囲一帯を攻撃してくるよ。これが一番厄介で、音の振動を利用して、人の脳を直接揺さぶって錯乱させることができるの。音による空気の振動そのものが武器だから、耳栓くらいじゃどうしようもないからね」
 続いて、先ほど叩いた地図上の地点の一つを叩く。
「イエローシケイダが移動する途中、ここの荒野を通るの。かなり広いし、当然人なんていないからここで叩いて欲しいな。ただ、身を隠す場所はほぼないから、奇襲とかは難しいの。正々堂々、真正面からの決闘になるよ!」
 それから、と。彼女は思い出したように続ける。
「イグナス・エクエス(怒れる獄炎・e01025)ってケルベロスさんがこの事件を察知したんだけど、敵に不具合が起こるのは、アルミニウム生命体が意思を持ってて、ローカストが嫌いだからなんじゃないかって予想してるみたい。味方になってくれるか分からないけど、アルミニウム生命体に意思があるなら、何か仕掛けてみるのもいいかもね」
 一通り話し終えたユキの表情は再び暗く、少し俯いてしまう。
「今回の敵の『黄金装甲』は本当に危険な力なの。本当は皆を行かせたくない……でも、誰かが戦わなくちゃ、たくさんの人が傷つくことになるかも……だから……」
 再び番犬達に向けられた顔は、不安に染まっていた。
「絶対に、帰って来てね?」


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
エリオット・シャルトリュー(不退転のイカロス・e01740)
相上・玄蔵(隠居爺さん・e03071)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
嘩桜・炎酒(星屑天象儀・e07249)
笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)
リディア・アマレット(蒼月彩雲・e13468)
有枝・弥奈(紫電双閃・e20570)

■リプレイ

●問答無用
「戦う前に一つだけ。こちら側につく気はないかな?」
 広大な荒野のど真ん中。有枝・弥奈(紫電双閃・e20570)は対峙したイエローシケイダに問うた。黄金のローカストは鼻で笑い、拳を握る。
「それで死んだ同胞は帰ってくるっすか?」
「……そうか」
 もはや語ることはない。そう言わんばかりに流星の如く駆ける弥奈に合わせ、ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)が発砲、しかしその弾丸はシケイダではなくその足元の地面を穿つ。
「さてさて、たまには真面目に番犬らしくセミ退治しちゃおうかなっと」
 彼が微笑んだ瞬間、ボン! と小爆発を伴って粉塵が巻きあがった。視界を奪われたローカストだが、狼狽える様子もなく拳を振り抜き……
「いないっす!?」
 拳圧で吹き飛ばした粉塵の中に弥奈はいない。視界を奪った隙に横へ、死角から横っ面を蹴り飛ばそうとするも、その脚を迎え撃つシケイダ。一瞬、互角に見えた。
(「まずい!」)
 直感的に距離を取る弥奈。シケイダは二撃目の拳を構えていたのだ。
「シケイダ……ナックル!」
 実に分かりやすい技名を叫びながら、後退する彼女を叩き潰そうとする拳を、冷気の光学兵器がいなして軌道を逸らす。笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)は白煙を上げる銃口を上げた。
「お初にお目にかかる。ケルベロス、笹ヶ根・鐐だ。目立つ登場でようこそ。移住をお考えなら歓待させて頂くよ?」
「あんたみたいのが……いや、言ってもしゃーないっす」
「同胞のために不退転の覚悟で臨むか……確かにそういう心意気は嫌いじゃねえな」
 首を振り、トントンと軽くリズムを刻んで跳ねるシケイダに相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)が素早く踏み込み、その反動を乗せた膝蹴り。
「だがオレ達とてこの星を守る使命があっからな、全力で行かせてもらうぜ!」
 着地の瞬間を狙い、かつ格闘技のモノマネなどという隙をついた一撃。しかし。
「硬ぇ……!」
 外殻に弾かれた感覚に、素早くバックステップ。軽く揺らして脚の痺れを取り除く。そちらを向こうとするシケイダの頭が、逆方向へ吹っ飛んだ。
「随分目立つ方ですね……人目を引くには、むしろあざとい程ですが」
 非物理的攻撃ならば、と念動を叩きつけるリディア・アマレット(蒼月彩雲・e13468)だが、シケイダは多少驚いた程度で特に傷ついた様子はない。
「はっ! 上等じゃん!」
 大斧を振り上げる嘩桜・炎酒(星屑天象儀・e07249)。圧倒的な戦闘力の差を前に、引くどころか昂ぶりを覚える戦闘狂は得物を振り下ろし、金属同士を打ち付けたような重々しい音を立ててローカストを中心に小さなクレーターを穿つ。その足元に南京錠を付けたミミック、ツァイスがプラズマを鎚に変えて叩きつけた。
「キンキン煩いっす!」
 大きく羽を広げるシケイダ。その風圧だけで炎酒と相棒は吹き飛ばされ、羽ばたき始めれば突風に誰も動けなくなる。
「シケイダ……」
 人差し指をゆっくりと番犬達へ向ける。まるで、何かを指揮するように。
「パルスッ!!」
「――!?」
 その声成らぬ声は、誰のものだったか。異形の放つ振動は、仲間の盾にならんとした番犬達の脳を揺さぶるなどという表現では足りない。神経の集約たる脳を狂わされ、心臓を握りつぶされて内臓をかき混ぜられるような、言いようのない『不快感』。そう、苦痛とは異なる故に、耐えうる術すらないままに心を侵されていく……。
「何やってんだてめぇら!!」
 相上・玄蔵(隠居爺さん・e03071)の一喝と共に、シケイダとは異なる黄金が戦場を駆ける。巨大なトマトに叩かれた番犬達が目を覚まし、エリオット・シャルトリュー(不退転のイカロス・e01740)はその身に翡翠の炎を宿した。
「あんた等の事情や、生き残りたいって考えは、まぁ知ってる。けどな、それでハイそうですかと黙って倒される訳にもいかねぇんでな」
 頭を振って不快感の残り香を払い、炎は足へと収束。蹴りつけた大地から舞い昇るは地獄鳥。番犬達を中心に円を描き、やがて天に飛び去る姿から降り注ぐ炎は前衛の身に宿り、淡く光る加護へ姿を変えた。

●戦う意味
 戦線を立て直したところでエリオットが大斧の腹でぶん殴り、硬い外殻を逆手にとって内臓への攻撃を狙い、殴られて下がった頭に対してヴィルフレッドが挟み撃ちするように蹴り上げる。そこへ炎酒が飛びかかり、全体重をかけて蹴り倒そうとする。
「人の顔を足蹴にするもんじゃないっす!」
 シケイダが憤慨しながら炎酒の脚を掴もうとするが、その前に離脱。マークの外れたリディアが機械刃で斬りかかり、激しい火花を散らす。振り向こうとしたシケイダの逆から弥奈が踏み込み、白刃を振るって斬光を散らす。続けざまに泰地が打ち上げるようなボディブロー、闘気を爆破させるも響かず。
「効かないっすよ! 困窮する同胞の未来を背負った正義の前に、そんな小細工は無駄っす!!」
 ビシッと指を突きつけ、空高く舞い上がるシケイダに、リディアが笑った。
「貴方達は生き残りたい。私達は捕食されるつもりは無い。互いに生き残りを賭けた戦い。そこには正義という概念の介在する余地などありません」
 背中の武装が機動。マニピュレーターに懸架された盾が左右一枚ずつ、肩越しに扉を閉ざすように展開される。
「ソル・シケイダ・パンチ!」
 太陽を背に、逆光で目くらまししながらタイミングを悟らせずに隕石の如く真っ直ぐ降下してくるローカスト。受けて立つべく、リディアが立ちはだかった。
「これは単なる、生存競争ですよ」
 意見をぶつけ合うように、二枚の盾で防ぐリディアだが、二本の跡を残して一気に押し切られ、倒れこそしなかったが武装に過剰な負荷がかかり、自身の両肩も悲鳴を上げている。全身を襲った衝撃と胸の激痛からして、肋骨も持っていかれたかもしれない。
「ふっ、峰打ちっす……今ならまだ、見逃すっすよ?」
 背を向けて、肩越し流し目でクールに笑うシケイダ。その隙に、すぐさま明燐と鐐が回復にあたり、玄蔵は豪快に笑う。
「戦闘中に格好を付けただと? これが無駄に洗練された無駄に格好良い無駄なポーズ、か。おいこら金ぴか蝉。他にあるなら見せて見ろやコラ。ちなみに……」
 晴天の下、光が一際強く輝いた。
「光の強さなら、こっちも負けねぇぞ」
 玄蔵の輝く頭部の光を背に、前衛の傷は異常なまでの自然治癒力を見せるのだった。

●無限の力など、ありはしない
 何度めの打ち合いだろうか。泰地は息を切らせ、晒した筋肉を上下させて荒い呼吸を繰り返す。蹴り続けた脚は皮が裂け、真っ赤に染まっていた。それでも、引くわけにはいかない。呼吸を整えようとした、その時だ。
「戦場で止まっていいのは、超余裕ぶっこいてる奴か、死にたい奴っすよ!」
「しまっ……」
 身構える泰地だが、痛みが来ない。ローカストは何かに縛られたように固まっている!
「戦場で止まっていいのは、なんだって?」
 ドロリ、穢れが溢れだす。
「そのローカストが気にいらねーか? もしそいつから自由になりてーならオレ達も手を貸すぜ!」
 黄金装甲に意思の存在を感じた泰地が吠え、その身をドス黒い闘気が包み込み、傷を塞いで右脚を覆った。
「こっからが本番だ! まずはその蝉野郎をぶっ飛ばしてやんぜ!!」
 トンっと軽く跳んで、体重と遠心力を乗せた回し蹴り。グシャリ、生々しい殻が潰れるような音が響いた。
「うぐっ!?」
 ついに苦痛に表情を歪めて体をくの字に折り、吹き飛ばされるシケイダは宙で体勢を整え、片手を地面について急制動をかけるも、そこにヴィルフレッドが追い縋り、銃口を向けた。
「人……いや虫に従属するなんて君には耐えられるのかい? 一度負けたからって何だい。そいつを飲み込むくらい抗ってみなよ」
 銃声を轟かせて、ヴィルフレッドが放つ弾丸はブレーキングの為に伸ばされた腕の手首、肘の関節の隙間を穿ち、腕の運動構造を破壊する。
「風穴くらいは開けてあげるからさ」
 空の薬莢を転がして次弾を装填しながらムーンサルト。入れ替わりに突っ込むのは、二対四枚の機械翼を展開したリディア。収束したグラビティチェインで残光の軌跡を描きながら、右手に集めた光を振りかざす。
「この力は現世の『在る』を縛る力。けれど、今だけはあなたたちを解き放つ力として振るいましょう」
 ダラリと下がる腕とは逆の肩を掴み、握りつぶすようにして『存在率変容因子』流し込み、存在という事実を揺らがせ、筋肉繊維をズタズタにしながら活動そのものを束縛する。
「あんたもローカストとの共倒れは嫌だろ?」
 黄金装甲に問いかけるように、エリオットは機械刃を突き立てる。傷口に当て、その表層の鎧を引き剥がすように、深く抉り、削ぎ落とさんとする。
「この……!」
 シケイダが羽を広げて立ち上がり、その際の風圧で引き離されるエリオットだが、この瞬間を待っていたように炎酒が懐に飛び込んだ。
「あえての零距離射撃ってのも、たまにはいいじゃん!?」
 真っ赤に輝く瞳はまさに、戦闘狂。あえて自分が巻き込まれるリスクもいとわず、放つそれはグラビティチェインを圧縮させた小さな爆弾染みた弾。手榴弾でも使ったような爆発にその身を焼き、高笑いしながら吹っ飛ぶ炎酒。爆煙から出てきたのは、直撃した片脚に内側から爆ぜたような傷をつけ、それでもなお立っているシケイダ。だが、その身が揺らいだ。

●敗者の言葉に価値などない
「かはっ……」
 シケイダの外殻に亀裂が走り、ついにその膝をつく。しかし、止まらない、止まれない。
「自分は……っ!」
 もはやアルミニウム生命体は言う事を聞かない。ただの重荷と化したそれに身を包んだまま、ローカストは再び立ち上がる。
「同胞の……為に……!」
 もはや勝負などついている。両腕は力なく揺れ、片脚を引きずって、それでも向かってくるシケイダに、玄蔵は無言のまま頭を振りかぶった。
「俺らは交わらぬ平行線だ。だったら、真正面からぶつかるしかねぇ。てめぇの覚悟、受け止めてやんぜ……!」
 腕も脚も使えず、同じく体を後ろに反らせるシケイダ……

 ガッ!!
「……ははっ」
 額を突き合わせたまま、ローカストはひび割れた顔で笑った。
「敵わないっすね……あんたらには」
「ったりめーよ。俺らにだって守りてぇもんがあんだ」
 ニヤッと笑う玄蔵に、シケイダは初めて弱々しい目を向ける。
「こんなこと言うのは、虫のいい話だって分かってるっす。でも、自分を倒したあんたに頼みたい……」
 パキリ、ヒビが昆虫のような甲殻を走っていく。
「困窮する同胞を……そして、自分らの相棒を……」
 パキパキ、煌めく破片がこぼれ落ちていく。その、命と共に。
「どうか……救ってほしいっす……!」
 己の遺志を残し、応えも待つことなくローカストの戦士は、その生涯を終える。
「……はんっ」
 額から血を垂れ流しにしたまま、玄蔵はただ、笑った。

「命を奪わずともチェインを譲渡出来る術が見つかれば……勇士よ、貴殿がその時に同胞として生まれ変わらんことを願おう」
 十字を切る鐐は、まぶたを開くと後に残る不定形へと目を向けた。
「人を襲うなら、斃さねばならぬが……」
 弥奈が頷き、手をかざす。
「敵の敵は友とも言……うっ!?」
 戦闘の疲労が出たのだろう。バランスを崩して顔面からアルミニウム生命体へダイブ!
「おいおい、大丈夫か?」
 鐐が助け起こそうと彼女に触れた時だ。二人の精神が『彼ら』の精神へとダイブした……

「オウガ……メタル?」
 弥奈は心に直接語られたその名を繰り返す。ローカストの用いたアルミニウム生命体が、何かを伝えようとしているようだ。
「これは……」
 鐐が呟き見渡したのは、見たこともない世界だった。そこには昆虫に似た人々と、不定形の生命体が暮らしていた。ある者は相棒として戦地に赴き、ある者は友として日常を支え合う。いずれにしてもローカストにとってアルミニウム生命体……オウガメタルは、共に手を取り戦う、尊重と信頼の対象だった。
「なのに、グラビティチェインが枯渇して、ローカスト自身が生きていくのが困難になった……」
 ポツリ呟いた弥奈の前には、オウガメタルを相棒ではなく、道具として振るうローカストの姿があった。
「自分達も生きていくのに必死になって、オウガメタルにグラビティチェインを渡さないどころか、利用するようになったのか……ぐっ!?」
 突然の激痛と、何かを奪い取られる虚脱感に、鐐が表情を歪める。
「これが……黄金装甲? グラビティチェインを奪って使っていたのか。こんなことをしていたら、いずれ朽ち果ててしまうぞ……!」
 苦悶の表情でその原理を理解した弥奈の声に、微かな怒りが混じる。それは、オウガメタル自身が生きるのに必要なグラビティチェインを無理やり引き出していたのだ。二人が痛みから解放され、ビジョンが見せるのは、額から血を流して、笑いながら仁王立ちする番犬の姿。

『お腹いっぱいにするって約束、守れなくて、ごめんっす……今までありがとう……さようなら』

「今の……」
 それが誰の最期の声か、これが誰の記憶か、理解した弥奈は唇を結んだ。オウガメタルたちは、二人に願いを伝える。それは、仲間達の救済だった。
「あぁ、もちろんだ。任せたまえ……!」
 鐐が力強く頷いた事で、オウガメタルの意思は遠ざかっていき、二人は彼らの意識から浮上していく……。

 弥奈と鐐は目を覚ますと、自分たちが見てきた物を伝える。
「つまり、ローカストに利用されてただけで、オウガメタルとやらに俺らと敵対する意思はない、と?」
 奴隷時代を思い出したのか、苦い顔で確認する炎酒に鐐が頷く。
「……なんや、しゃーないなぁ」
 むりやり、普段の口調でおどけるように笑う。爪が食い込み、血を染み出させる拳を握り、炎酒は改めて誓う。この力は戦いたい故に、人々を守りたいが為に、そして……彼らを救う為に振るおうと。
「にしても、かなりの情報が出て来たな……」
 エリオットは情報を反芻する。今回得た情報はかなり多く、それはこの部隊の功績だ。きちんと整理しておきたいところである。
「しかしアルミ生命体が元デウスエクスだなんて、世の中知らないことがいっぱいだね。分からなかったことが判明するって面白いよね……それで、彼らは助けを求めたのかい?」
「あぁ、そして応えたとも。必ず助けると」
 黄金の不定形と化し、地面に染みこんでいったオウガメタルの跡を見ていたヴィルフレッドは、鐐の答えを聞くなり、彼はやれやれ、と首を振る。
「ならば仕方ない、彼らを助けなくちゃいけなくなったね……情報屋は依頼人を尊重するんだ」
 銃に手を添えて、決意を固める彼の傍ら、弥奈はシケイダが崩れ落ちた場所を見つめる。
「本当、やりにくいったらありゃしないね……いろんな意味で、さ」

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 46/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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