黄金の不退転ローカスト~武人は忠義を尽くす

作者:木乃

「ココガ地球、グラビティ・チェイン、ドッサリ」
 長い毒針と鹵獲した攻性植物を武器とするローカスト、スポアスティンガーが感嘆の声をあげる。
「この地を支配する事ができれば、グラビティ・チェインの枯渇に怯える同胞達は救われるだろう」
 それに答えるように、蟻型ローカストの宿将、金甲のフーガが重々しく答えた。
「油断するな。この地には、我が同胞を殺戮する存在、ケルベロスがいるのだ。あのネフィリアでさえ撃退されたその実力、侮りがたし」
 2人を制したのは、この侵攻部隊の隊長であるヘルクレスト・メガルム。 絶大な忠誠心と不退転の覚悟を持つ、カブトムシ型のローカストである。
「心配しなくても大丈夫っすよ。この黄金装甲があれば、ケルベロスなど、恐れる事は無いですから」
 メガルムの言に、他の3人が気を引き締める中、特務部隊インセクターから引き抜かれたイエローシケイダが調子良く答えて、ローカストでも有数の傭兵集団を統率する蜂王アンナフルに叱責された。
「あら、あなた、油断するなというのが聞こえなかったのかしら? この黄金装甲の強化は未だ不安定、不測の事態は常に起こりえるのです。調子にのるものではなくってよ」
「アンナフルの言うとおりだ。われらの目的は、グラビティ・チェインの奪取。そして、ケルベロスとの戦いにより、黄金装甲の威力を実証し、更なる強化の礎となることである」
 そこまで言うと、メガルムは、右手を皆の前に差し出す。
 他の4名も、また、メガルムと同様に右手を差し出し、円陣を組んだ。
「全ては、困窮する同胞達の為に」
「「「「全ては、困窮する同胞達の為に」」」」
 5つの声が唱和し、そして、ローカスト最強の部隊が、動き出したのだった。
 
●来たる者は忠義を胸に
「指揮官だったネフィリアが撃破され、ローカストによる事件は減少しておりましたが……そのローカストに新たな動きが見られました」
 オリヴィア・シャゼルは静かに口を開き、ケルベロス達の顔を見渡す。
「強化したアルミニウム生命体、『黄金装甲』で全身を覆ったローカスト達が侵攻部隊として襲来したようですの。この『黄金装甲』はケルベロスへの対抗手段として生み出されたらしく、纏ったローカストの戦闘力は以前のローカストをはるかに凌駕しております」
 侵攻部隊は僅か5名……しかし、個々の実力は脅威となりうる強敵であり油断は禁物だ。
「侵攻部隊の目的の一つが『黄金装甲』を地球の環境下で実際に使用し有用性を実証、更なる改良の礎とする新技術の試験運用でもあるようです」
 ケルベロスが戦いを挑めば、『黄金装甲』の性能を試そうと正面から受けて立つだろう。
「体の一部だけではなく、全身をアルミニウム生命体で覆うことで『黄金装甲』を纏ったローカストの戦闘力は飛躍的に向上していますが、欠点としてアルミニウム生命体の制御がかなり不安定になっているようですわ」
 ――戦闘が長引けば長引くほど、アルミニウム生命体はローカストの意志に反して、行動を失敗させるなど不具合を起こしかねないだろう。
「侵攻部隊の5名は出現地点からそれぞれ別々の方向へ進行し、グラビティ・チェインの収奪を計画していますの。皆様にはこの内の一人『金甲のフーガ』を撃破していただきます」
 『金甲のフーガ』は一兵卒だったが、高い実力を認められメガルムが自らの手で黄金化させた強者だ。
「油断ならない相手ですが、長期戦に持ち込められれば勝機は充分にありましてよ」
 
 フーガは今回の抜擢もあってか、司令官であるメガルムに強い忠誠心を抱く実直な武人だ。
「蟻の習性によるものでしょうか、目指す先は市民で溢れ返る地下街です。下水道を経由して侵攻していますので、道中にある下水処理場で迎撃してくださいませ」
 金甲のフーガも戦闘データを獲得したいとあってケルベロスを発見次第、応戦してくるだろう。
「フーガは『黄金装甲』で強化した槍と盾を使用しますわ。特に槍はアルミニウム生命体で伸ばし広範囲に攻撃、かつ精神汚染を仕掛けてきますので注意が必要ですの」
 しかし、そこに勝機があるとオリヴィアは指摘する。
「『黄金装甲』の技術は未完成ですわ、故に使い続けていく内により不安定な状態となりますの。逃がさず突破させず、戦闘を長期化させられればアルミニウム生命体は制御不能な状態となるでしょう」
 持久戦にもつれ込むことになるため、全員での連携が重要になるだろう。
 
「『黄金装甲』の力は計り知れませんわ、早急にかの侵攻部隊を撃破して新技術の改良を阻止いたしましょう」
 また、この事件を察知したイグナス・エクエス(怒れる獄炎・e01025)からある推測が出ていたという。
「長期戦になった際にアルミニウム生命体が不具合を起こす原因は、アルミニウム生命体が意志をもって拒絶しているからでは、と……もしかしたらローカストのアルミニウム生命体を手に入れる機会があるかもしれない、とも予測されていましたわ」
 もし意思疎通が出来れば、地球側の新戦力となるかもしれない。
「入手できるかは別として、アルミニウム生命体に意志が残っているならば、何らかの働きかけを行うのは悪くないでしょうね」


参加者
マイ・カスタム(重モビルクノイチ・e00399)
コッペリア・オートマタ(アンティークドール・e00616)
天尊・日仙丸(通販忍者・e00955)
吉柳・泰明(青嵐・e01433)
神咲・刹那(終わりの白狼・e03622)
時浦・零冶(幻鬼刀雷・e03656)
斎藤・斎(修羅・e04127)
森宮・侑李(星彩の菫青石・e18724)

■リプレイ

●黄金の武人
 独特の汚臭が鼻腔をくすぐる中、ケルベロス達は地下に設備された下水処理場に足を踏み入れる。
 といっても枝分かれする下水路が重なる地点に浄水用の装置を設置し、ろ過した水を下流に流すだけの簡易的な設備だ。
「ここだね、指定された場所って」
 森宮・侑李(星彩の菫青石・e18724)が標示板を照らし、予知された地点であるか確かめる。
 侑李の隣から覗きこむ神咲・刹那(終わりの白狼・e03622)も真剣な表情で見つめた。
(「突破されれば、多くの方が犠牲になるのですよね」)
 私達が唯一にして最後の防衛線なのだと、刹那は密かに気炎を上げる。
 汚水に踏み入らぬよう足元を気を付けながら斎藤・斎(修羅・e04127)は、暗闇に包まれる下水道の先を静かに見据える。
(「……強敵ですが、私達ならきっと大丈夫です」)
 表情が強ばる斎に対し、時浦・零冶(幻鬼刀雷・e03656)は胸の昂りを抑えられずにいた。
「デウスエクスとはいえ武人が相手、しかも生粋の実力者か」
 性分だと自覚しているものの高揚する自身を律しようと大きく息を吐くと、耳を澄ませていた吉柳・泰明(青嵐・e01433)の肩がピクリと揺れる。
(「床を踏み鳴らす音、それに混じる金属音」)
「――来たか」
 得物に手を伸ばす泰明に気づいたマイ・カスタム(重モビルクノイチ・e00399)も視線の先に明かりを突き出す。
 ……迫る足音は次第に大きくなり、正体を現すと同時に止んだ。
 強化されたアルミニウム生命体による黄金の全身甲冑。
 使い込まれた槍と幅広の盾を携える姿は騎士を想わせる。
「金甲のフーガ……まさか、貴殿とこのような形でまた刃を交えようとはね」
「いつぞやの女か、今度は仲間連れのようだが」
 マイが自嘲気味にこぼすと、目の前に立つ宿敵は侑李達に視線を巡らせる。
「数が多ければ有利と言うものではないぞ」
 告げられた言葉を挑発ととらえたコッペリア・オートマタ(アンティークドール・e00616)は獄炎を焚きつけ身構える。
「共生出来ず私達の生活を脅かす侵略者よ、此処が貴方の墓場でございます」
「どちらにも大義はある。ならばあとは戦って決めるしかあるまい、でござる」
 天尊・日仙丸(通販忍者・e00955)もアームドフォートを起動させ、砲口を黄金の武人に向ける。
「大義、か」
 フーガは小さく呟くと、愛槍と五角の盾に黄金装甲を纏わせる。
「同胞達の明日の為に」

●忠義の士
「回復は俺に任せて!」
 攻性植物が侑李の片腕から伸びると収穫形態に姿を変えて、斎達を聖光で照らし黄金槍の精神汚染に備える。
「蟻一匹だって通すつもりはないのです」
 斎は地獄の炎を全身に纏うとチェーンソー剣を手に、刹那と共に正面から斬りこむ。
 駆動音を響かせながら斎が振り抜くと、黄金の盾で刃を受け流し軌道を逸らす。
 後方から迫る刹那が息つく間も与えず、縛霊手を振り下ろすと盾ごと霊力の網で捕らえ、同時に日仙丸達も動き出す。
「もう一撃、いきます!」
 攻勢を維持しようと刹那は宙で身体をひねり、延髄めがけて鋭い蹴りを仕掛ける。
「浅いな」
 黄金装甲で強化されたフーガは容易く網を突き破り、跳躍する刹那にシールドをぶつけて押し込むように足元に叩き落とす。
「かはっ!?」
 周囲を揺さぶる強い衝撃が走り、足元は大きくひび割れていた。
「一撃であれほどの威力でござるか」
 追撃を防ごうと分身の幻影を纏う日仙丸が砲撃で牽制する。
 飛来する砲弾に対しフーガは槍を支えに跳ねあがり、かわすと同時に槍を振りかぶる。
「ぬんっ!!」
 音もなく伸びる穂先は辺りを照らす照明で煌めき、泰明は金色の閃光が走ったように感じられた。
 ――しかし、直後に襲いかかる痛みと歪む視界が強烈な一撃であると物語る。
「ぐ、うぅ……っ」
「泰明様!?」
 精神汚染に苛まれる泰明は、獣化した拳をコッペリアに向ける。
 狙いの定まらない大振りな一撃は、コッペリアが飛び退くと壁に激突し拳の跡を残す。
「てぃー坊、治療にあたれ!」
 応戦するマイの指示を受け、テレビウムのてぃー坊は応援動画を流し始める。
 フーガが盾を構え突撃すると、マイもピクセルビットをぶつけて勢いを相殺するが、踏ん張りを効かせても数メートルほど地を滑らされる。
「ローカストにその身を支配される諸君に共闘を提案したい、今こそ意趣返しの時だ! 我々の声に応えてくれ!」
 黄金装甲を呼び起こそうと呼び掛けるマイを、フーガは容赦なく滅多打ちし反撃を許さない。
 正気を取り戻した泰明は黒狼の影を暗闇から呼び寄せる。
「奔れ」
 猛然と駆ける影は濁った水を蹴りあげ、フーガの右脚に喰らいつくと雷光を放つ牙を食い込ませる。
「お主たちの事情は知らぬでござるが、少なくとも不本意な服従を続ける必要はないでござろう」
 一瞬止まった隙に日仙丸も黄金装甲に呼び掛けながらフーガと一定の間合いを保つ零冶に分身の術をかけると、零冶は一気に駆け出す。
「さあ、仕合おうか」
 霊力を込めた二振りの刀で胴体めがけて斬りかかると、甲冑からフーガの副腹部をわずかに露出させる。
「敵を前に余裕だな」
 刻まれた傷はアルミニウム生命体によってみるみる塞がれていき、輝きが増したようにすら感じられるた。
 迫るコッペリアを一瞥し、フーガは零冶をコッペリアの方へ突き飛ばし槍を直線状に突き伸ばす。
「っ!?」
 よろめく零冶に気を取られ、踏み込みきれなかったコッペリアの左肩を鋭利な切っ先が貫き足元を赤く染める。
「動きを止められれば!」
 刹那が古代語魔法を詠唱し、魔法の光線を放てばフーガも腰を落として頭上にやり過ごす。
 間合いを詰めて黄金槍を豪快に振り回し、日仙丸達を巻き込んでいく。
「言っただろう、数が多ければ有利というものではない」
「回復が、間に合わない……!」
 侑李がコッペリアと零冶を催眠状態を解いていると、今度は前衛に立つ仲間が混乱して味方に攻撃を仕掛けていく。
 一方を回復している間に、もう一方で同士討ちが始まる……乱戦が続いていく。
 再び地獄の炎を纏うコッペリアは、自身の認識に誤りがあったと痛感する。
 ――黄金装甲という未完成の技術で強くなったと錯覚していると、そう思っていたのに。
(「借り物の力に頼り、驕っている訳ではございません。8人を相手に立ち回る技量と大胆さ……歴戦の勇士に相応しい実力でございます」)
「これじゃ、攻撃に集中できませんっ」
 斎が混乱する日仙丸の砲撃をかいくぐりながら凝縮したバトルオーラを放っている間に、槍の一撃を受けた侑李が前後不覚に陥り、てぃー坊もモニターを貫かれ霧散していく。
 フーガのみならず催眠状態の仲間が迫り、互いに治療している内に攻め手は次第に減り、フーガの鬼気迫る猛攻は増すばかりだった。

●困窮する同胞達の為に
 司令官メガルムの見出した実力者の噂は伊達ではなかった。
 壮絶な戦闘により床や壁はひび割れ、崩れかけている箇所から汚水が漏れ出ていた。
「戦闘データは充分か、後は」
 膝をつく刹那達を見下ろすフーガの呼吸は荒くなっていたが余力があるように感じられた。
 奥へ進もうとするフーガの前に、ふらつく足に力を入れて斎が立ち塞がる。
「行かせ、ない……です」
「侵略者の、好きには……させ、ません」
 地に伏すコッペリアも去ろうとする武人の背を睨みつける。
「……我らローカストは、グラビティ・チェインの枯渇により存亡の危機にある。だが、この世界のものはお前達のものだ」
 全てを寄こせとは言わない。
 フーガの言葉に日仙丸は怪訝な表情を浮かべた。
「どういう意味でござるか」
「地球人一人の保有する量は、何千何百といる同胞達を救えるほど膨大なもの……必要なのはほんの僅かなのだ」
 ――ほんの少し分けてもらえれば。それだけでローカストは救われるのだ。
「それでも、誰かが犠牲になるんだよね」
 フーガの主張に侑李が顔を上げて鋭い視線を送る。
「同胞の為に尽くさんという一心、それはこちらも同様」
「到底受け入れられる話ではないな」
 ……よろよろと立ち上がる泰明と零冶の言葉に、マイ達は同意を示すべく負傷する身体を気力で奮い立たせる。
「貴殿の主張を、認める訳にはいかない!」
「お前達に理解は求めん……我々に手段を選んでいる時間はないのだ」
 ――フーガの殺気が鋭く肌に刺さる。

●武人の想い
 フーガは予備動作もなく斎に黄金盾を突き込む。
 斎を押し退けてマイが割って入ると、盾は脇腹に食い込み、壁に激突して新たなクレーターが生じる。
「あの厄介な武具をどうにかしないと……」
 侑李がすかさずグラビティの緊急手術をマイに施すと、零冶は精神を一点集中させてフーガに爆破をかける。
 足元から上がる飛沫に気を取られた一瞬の隙を突いて、刹那が飛び込んだ。
(「まだ黄金装甲は応じていない……なら、もっと時間を作らないと」)
 遠慮は無用と、素早く身を翻し胴回し蹴りを叩き込む。
 脇腹に直撃した手応えを受け、刹那が縛霊手を振り下ろした直後フーガは槍を大きく振りかぶる。
「っ!」
「かかったな」
 催眠攻撃を警戒し右に避けた刹那を死角からシールドの乱れ打ちが遅い、強烈な一撃を受けて意識を失う。
「アルミニウム生命体よ」
 日仙丸の支援砲撃を受けながらコッペリアは黄金装甲への呼びかけを続け、華麗な跳躍で距離を詰めていく。
「拒むのであれば、私達が解放して御覧に入れましょう」
 重力を纏う飛び蹴りでよろめかせ日仙丸の一斉砲撃を直撃させて、止まった隙にゾディアックソードを右腕に突き立てる。
「っ、だが!」
 フーガは黄金装甲を更に槍に纏わせて、突撃槍に変形させると振り向く勢いを乗せてコッペリアを刺突する。
 伸びる穂先を零冶が間一髪でかわす真横を、脇腹を抉られたコッペリアが吹き飛ばされていき壁に衝突すると力なく倒れこんだ。
「黄金装甲、貴殿らはそのままで良いのか?!」
 次々と仲間が倒れていく状況に肝を冷やす泰明は、応戦しながらアルミニウム生命体への呼びかけを続ける。
 騒音を撒き散らす鎖の刃を体を捻りやり過ごすと、向き直る勢いに乗せて斎の顎めがけて下から突き上げる。
「っ、ぁ……」
 シールドによるアッパーカットは小柄な少女を容易に打ち上げ、地面に叩きつけた。

 3人も戦闘不能に追い込まれ、すでに疲弊が色濃く見える侑李達は焦燥する気持ちを押し殺し黄金装甲へ呼びかけを続ける。
「俺たちなら一緒に手を取り合えるはずっす! だから――」
「諦めろ、黄金装甲は我が一部だ」
 侑李の言葉を遮ろうと黄金槍が迫ると、泰明が庇って縛霊手で受け止める。
「いつまで支配され続けているつもりだ?」
 自己修復するフーガに、零冶はマイの放つミサイル群の隙間を縫って肉迫し、未だ応える様子を見せないアルミニウム生命体に檄を飛ばす。
「嫌なら少しは抵抗してみせろ、それとも一生いいように扱われたいのか?!」
「何度も言わせるな、黄金装甲は――」
 ミサイルを槍と盾で撃墜させていたフーガの体勢が大きく傾いた。
 地獄の炎弾が左肩を撃ち貫き、風穴からプシャと赤い飛沫が飛び散る。
 異変に真っ先に気づいたのは、注意深く様子を窺っていた泰明だった。
 ほのかな期待と疑念を晴らそうと、闘気を拳に練りこませる。
「黄金装甲……もし心が、矜持が残っているならば、諦めず抗ってくれ」
 泰明の音速を超える一撃にフーガは盾で受け止めようとするが、重しを付けたように鈍重で、拳は容易に懐へ潜り込み増加装甲を打ち砕く。
「皆、黄金装甲に呼びかけは届いているぞ! まだ意志は残っている!」
「承知した、拙者も攻めに転じるでござる」
 泰明の呼びかけに勝機の兆しを感じ、日仙丸とマイは布陣を変えようと動きだす。
「奴等に応じているというのか?! だが、引くわけには……!」
 傷を塞ごうとフーガはアルミニウム生命体に装甲を強化させようとするが、抵抗し始めたせいか役目を果たさずヒビを僅かに埋める程度だった。
 フーガから焦りは感じられたものの、攻撃の手を止めようとせず日仙丸に向かって大きく踏み込む。
「――変式詠唱、Miserum est arbitrio alterius vivere!!」
 邪魔はさせまいと、侑李が後方から突出して両手に生じる相反する力を右手に収束させていく。
 アルミニウム生命体だけを回復させられれば――願いを込めた一撃は、黄金装甲に亀裂を入れて突進するフーガの足を止める。
「駄目だ、回復出来ない!」
 黄金装甲の抵抗で足取りが重くなっていたこともあり、零冶が隙をつく余裕が生まれていた。
「荒れ狂う嵐の如く、ただ斬り捨てるのみ」
 全身を斬り刻む勢いで黄金の鎧をボロボロに斬り崩し、隙間から鮮血が滴り落ちていく。
 払い除けようとフーガは強引に槍を振り抜くが、明らかに挙動が遅くなっていた。
「は、ぁ、負ける、訳には……!」
 武人の意地がフーガを駆り立てるのだろう。
 苦悶の声を漏らしながらもう一度日仙丸に得物を向けるが、刺突した先に泰明が再び飛び込み身を挺して阻む。
「ぐぅっ!」
「吉柳殿、すまぬ……螺旋の極地、存分に味わい、そして逝け!」
 日仙丸の細い瞼の奥で瞳が光る。
 螺旋の力を限界まで高め一気に接近し……螺旋瞬身連壊掌を炸裂させるとフーガの脳は強く揺さぶられる。
 ――注意の逸れていたマイが、満身創痍となった宿敵を背後から捕らえた。
「地球に抱かれて……眠れぇ!!」
 体は重々しい挙動に比べ想像以上に軽かった。
 胴体をホールドし一気に高角度へ持ち上げると、マイは美しいアーチを描きながら垂直落下させて地面に突き刺す。

「が、ぁ……っ!」
 フーガは触角を痙攣させ、口から噴き出した大量の血液が水路に赤を混ぜる。
「わ、我らの行いが、正しいとは、言わん……」
 拘束を解かれたフーガは今際を悟り、虚ろな視線でマイ達を見つめる。
「だが、生きる為に……必要、なのだ……すまな、い、ど、ほ――」
 マイが複雑な表情で見下ろしていると、フーガの甲冑から黄金装甲が滲みだし地面に染み込むように消えていった。
 日仙丸は傷だらけの身体を引きずって死体の傍らに膝をつき合掌すると、泰明もそれに倣う。
「敵ながら天晴な漢でござったな」
「ああ、武人としては敬意に値する相手だった」
 数瞬の沈黙が流れマイが口を開いた。
「怪我の手当てが済んだらフーガを丁重に弔いたい」
 せめて敬意をもって眠らせたい、マイの提案に反対する者は居なかった。
 斎達も目を覚まし応急処置を手早く済ませフーガの死体を地上に引き上げると、近くの森に埋葬し愛槍を墓標代わりに突き立てた。
(「民の為に戦った武人には敬意を表しますが、それでも私達は略奪を認める訳にはいかないのでございます……」)
 忠を尽くし同胞の為に戦った兵士の安らかな眠りを願い、コッペリア達は冥福を祈る。

作者:木乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 41/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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