大都会東京で起こる神隠し

作者:缶屋


「ドン・ピッグよ、慈愛龍の名において命じる。お前とお前の軍団をもって、人間どもに憎悪と拒絶とを与えるのだ」
 ギルポーク・ジューシィは、目の前でふてぶてしく葉巻をくゆらせるオーク――ドン・ピッグに命令を下す。
 ドン・ピッグは豚鼻から大量の白い煙を吹き出し、ニヤリと下卑た笑みを浮かべ口を開く。
「俺っちの隠れ家さえ用意してくれりゃ、あとは、ウチの若い奴が次々女を連れ込んできて、憎悪だろうか拒絶だろうが稼ぎ放題だぜ」
 予想していた通りの答えが返ってきたギルポークは、コクリと頷く。
 この用心深さこそが、ドン・ピッグを選び命令を下した理由なのだ。
「やはり、自分では戦わぬか。だが、その用心深さが、お前の取り柄だろう。良かろう、魔空回廊で、お前を安全な隠れ家に導こう」
 そう言うと、魔空回廊への門を開くギルポーク。
「おぅ、頼むぜ、旦那」
 ドンピックは新たな葉巻に火を点け、魔空回廊に向かうのだった。


 息せき切らし路地裏に駆け込む女性。女性の年齢の頃は、二十代中盤というところだろうか。
 路地裏に入るなり身を潜め、呼吸音すら出さないように、女性は自分の口と鼻を手でふさぐ。
 路地裏に数人の足音が近づいてくる。
「おい! どこいった、あのクソ女は!! 借金踏み倒されたことやぞ!!」
 一人の男が、部下と思われる数人を叱咤し、男の部下たちは顔色を変え駆け出す。
 足音が去っていくのを確認し、女性は安堵する。緊張が解けた女性はその場に座り込み、しばしの休憩をとる。
 不意にトントンと女性の肩が叩かれる。
 見つかった!? と振り返る女性。だが、そこには誰もいない。
「気のせいよね」
 女性が立ち上がり、路地裏を出ようとした時、今一度肩がトントンと叩かれる。
 ゆっくりと女性が振り返ると、そこには下卑た笑みを浮かべたオークたちが立っていた。
「いや、誰か――」
 追われてこることを忘れ、声を上げる女性。
 しかし、その声は表通りに届くことはない。汚らわしい触手が女性の四肢を縛りつけ、その口を塞いだのだ。
 そして借金取りたちの必死の捜索もむなしく、女性は姿を消すのだった。


「竜十字島のドラゴン勢力が、新たな活動を始めたようっす」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、集まったケルベロスたちにそう告げる。
「今回動きを見せたのは、ドン・ピッグ。ギルポーク・ジューシィの配下っす」
 ドン・ピッグはギルポークの配下の中でも、非常に用心深い性格で、部下のオークを使い女性を誘拐させようとしている。
 しかも、その手口は巧妙で、存在が消えても怪しまれないような弱者を狙い誘拐をする。
「今回狙われたのは、借金を抱え売り飛ばされそうになっていた女性っす」
 逃げた親の借金を背負い、借金取りに追われている最中、路地裏に逃げ込み、不運にもオークたちに捕まってしまったのだ。
「オークたちは、その場で女性を襲い、その後隠れ家に連れ込むんすよ」
 隠れ家に連れ込まれれば、追う方法はない。
「できれば、早急に助けてあげたいんすけど、オークが女性に接触する前に女性に接触すると、オークは別の女性を狙ってしまうっす」
 介入は、オークが女性に接触した後となる。
「どちらにしろ皆さんが、汚らわしいオークを打ち倒してしまえば同じっすね」


「事件の詳細について説明するっす」
 ダンテはそう言うと、紙資料をケルベロスたちに配る。
「まずは周辺の状況っす」
 戦闘場所は路地裏で、戦闘を行うのに十分な広さがある。路地裏には女性とオークたちのみがおり、借金取りたちは戻って来ることはない。
「次に、オークたちについてっす」
 ドン・ピッグの配下は六体。オークたちは『触手刺し』、『触手溶解液』、『触手乱れ打ち』、『欲望の咆哮』の中から三つを使用してくる。
「このオークたちはケルベロスたちに隠れ家を探られないように、繁殖を行ってから女性を連れ帰るっす」
 介入は、オークたちが繁殖を行う前に行う必要がある。
「ケルベロスたちに見つかれば、捨て駒とされるようなんで、逃走などの心配はしなくて大丈夫っす」


「ドン・ピッグは用心深く作戦を実行しているっす。もしかすると、他にも連れ去られている人がいる可能性があるっす。しかし、今は目の前の女性っす。皆さんのお力で、女性を助け、ドン・ピッグの作戦を打破してくださいっす」


参加者
桜狩・ナギ(花王花宰の上薬・e00855)
リヴカー・ハザック(幸いなれ愛の鼓動・e01211)
リナリア・リーヴィス(怠惰な観測者・e01958)
夜陣・碧人(御伽創祀・e05022)
竜ヶ峰・焔(焔翼の竜拳士・e08056)
大上・零次(螺旋の申し子・e13891)
折平・茜(群れない羊は葡萄に触れない・e25654)
キルスティ・キトゥン(災猫・e27775)

■リプレイ


 路地裏に飛びこみ息を潜める女性。
 借金取りたちが走り去って行くのを見て、女性は立ち上がると路地裏から出ようとする。
 その時、女性の肩がトントンと叩かれる。
 借金取り! と、女性が振り返ると、そこには借金取りより尚たちの悪いオークたちが、下卑た笑みを浮かべ立っていたのだった。


「いや、誰か――」
 女性の四肢に巻き付く触手。暴れる女性に、オークたちは活きの良い獲物だと舌なめずりし下卑た笑みを浮かべる。
 女性の悲鳴が辺りに響くと共に、ケルベロスたちのスマホにメールが一斉に届く。
 送信元は大上・零次(螺旋の申し子・e13891)。突入の機会を見計らっていた、零次が突入の合図を出したのだ。
 一匹の黒猫が路地裏に現れ、オークの前で伸びをすると、大きな欠伸をする。その姿にオークたちは、豚鼻を鳴らし小首を傾げる。
「初陣の挨拶は派手にいきますにゃー!」
 次の瞬間、黒猫が人形――キルスティ・キトゥン(災猫・e27775)に変化し、女性を捕まえていたオークに、電光石火の蹴りを放つ。
 蹴りの衝撃で、女性の体を捉えていた触手が緩み、女性が抜け出すと再度捕まえるべく新たなオークが触手を伸ばす。
「そこまでだオーク共」
 零次の声で、一瞬、触手の動きが鈍る。
 それでも、触手が女性を捉える瞬間、間に割って入る竜ヶ峰・焔(焔翼の竜拳士・e08056)。焔は、触手を払いのけると、
「さぁ、どからでもかかってこい」
 焔がそう言うと、周りに地獄の炎の火の粉が舞い、オークの様々な攻撃に対応できるように迎撃の型をとる。
 一度失敗しようが、オークはひるまずもう一度触手を伸ばす。
「そこまでや、こん畜生ども! 大人しく転がっとけや!」
 物陰から突如、姿を現した桜狩・ナギ(花王花宰の上薬・e00855)は、大気から練りだした電光を足に纏い、駆けるオークの膝頭を思いっきり蹴りぬく。
 蹴りぬかれたオークは盛大に転び、体が痺れ、一瞬、動きが止まる。
「逆方向に逃げるんだ」
 エネルギーの矢を番えたリヴカー・ハザック(幸いなれ愛の鼓動・e01211)は、女性にそう指示すると、倒れたオークに向かいエネルギーの矢を放ち、エネルギーの矢はオークの心を貫く。
 倒れた仲間を見たオークたちは、鼻を鳴らし密談を始める。これからどうするかを決めているのだろう。
 しかし、ケルベロスたちが密談を終わるのを待つ必要もなく、
「椅子、そこの女性を頼むわよ。私は――」
 眼鏡をかけたリナリア・リーヴィス(怠惰な観測者・e01958)は、サーヴァントの椅子に女性を手助けするように言うと、密談するオークたちに滲奪者の鎌に宿る怨念を解放し、亡霊の群れをけしかける。
 突如襲ってくる亡霊の群れに、慌てて距離をあけるオークたち。
「本日語るは妖精の噺。古今東西よりどりみどり、まずはこの子で始めましょう」
 悪戯好きな妖精を召喚する夜陣・碧人(御伽創祀・e05022)。召喚された妖精は、オークに小石を投げ、指をさして笑い、妖精にからかわれたオークは鼻息を荒くする。
「醜い貴方を貫きます。貴方の殺意を私だけに向けるのなら、互いの武器で血肉を削り死がふたりをわかつときまで、束の間の愛を誓いましょう」
 折平・茜(群れない羊は葡萄に触れない・e25654)は、武装を赤い鋼線に変えオークの体内に思念のこもった欠片を残す。すると、オークは茜の方を向き、怒りを露にするのだった。


 倒れていたオークが立ち上がり、女性の姿が無いのを確認すると、満たせなかった欲望を満たすかのように咆哮を上げる。
 その咆哮を合図としたのか、話し合いを行っていたオークたちも一斉に動き始める。
 二体のオークが触手から白濁色のベトベトとした溶解液をケルベロスたちに浴びせ、残りのオークたちは触手を遮二無二に振るい、または触手の先を鋭利に尖らせながら突進してくる。
 迫って来るオークに碧人は、
「豚さんや、うちのフレアは雄だからね? カワイイけども。フレア喰ったら殺すよ? 喰わんでもここで屠殺だけど」
 サーヴァントのフレアにデレッとした顔を向け、そう言うと、オークたちに向かい杖から燃え盛る炎の弾を撃ち出す。
 碧人が撃ち出した炎の弾を散開し、躱すオークたちだが爆発に巻き込まれたオークもいる。
 爆炎が晴れるとともに、零次がオークに襲い掛かる。
「汚物は死ねぃ!」
 オークに肉迫した零次は、踊るようにオークの体を斬り裂いていき、血まみれとなったオークはその場に倒れ込む。
「あの女性の代わりに、私が愛してあげましょう」
 そう言い、赤い鋼線を放つ茜。オークは飛んでくる鋼線を触手ではらいのけ、代わりに鋭く尖らせた触手で、茜の右肩を貫く。
 肩を押さえる茜にリナリアは、
「今、応急処置するわよ」
 と、患部を魔術切開し、縫合するとショック打撃を行いリナリアは傷を治す。
 白濁色の溶解液を浴びせられたリヴカーに、キルスティは満月に似たエネルギー光球を作り投げつける。
 キルスティが投げた光球は、リヴカーを包み込み、触手溶解液で受けた傷を治す。
 リヴカーは、怒りの籠った力強い目で溶解液を浴びせオークを睨みつける。
「全ての女性の為、塵としてすら残らないよう、擂り潰してやろう」
 魔力が秘められたリヴカーの瞳を見てしまったオークは、虚ろな目をし仲間のオークの方を向くが、慌てて首を振り正気を取り戻す。
「散々殴られとるから、患部冷やしたるわ! 凍傷するくらいな!」
 そう言うとナギは、剣に宿した星座のオーラを飛ばす。星座のオーラを受けたオークは、凍り付く。
 ナギの攻撃で凍り付いたオークに、駆ける焔。
 地獄焔の気に地獄の炎を宿し、力の限りオークの顔面を殴りつける。殴られたオークは短い悲鳴を上げ、膝から崩れ落ちるのだった。


 ケルベロスたちとオークの戦いは佳境に入っていた。残りのオーク四体に対して、ケルベロスたちは八人。戦闘はケルベロス優位に進んでいた。
 苦し紛れに溶解液を放つオーク。
 溶解液を受けた碧人は、お返しとばかり古代語の詠唱を開始すると、魔法光線をオークに向け放つ。
「自慢の触手が台無しですねえ」
 石化した触手を見て、碧人はニヤリと笑う。
「技を振るうのももったいないが、光栄に思うのだな」
 リヴカーが、触手が石化したオークにエネルギーの矢を放つ。オークは触手で矢を防ごうとするが、残念ながら触手は石化しており動かない。矢はオークの心中を捉え、心を撃ち抜くとオークは無表情で倒れるのだった。
 遮二無二に触手を振るうオーク。触手に打たれる零次。その間に割り込んだ茜が、チェーンソー剣で、オークの右肩から左腹まで深々と斬り裂く。
 視線を茜に向けたオークは、触手の先を鋭利に尖らせると触手を放つ。
「こんなわたしを貫きたいんですか? あなたのその醜い触手で?」
 しかし、触手が貫くことはない。
「喰え」
 零次は、オークの体に触れ、螺旋の力で生み出した獲物を捕食・浸食する不可視な霊体のような触手を流し込み、触手はオークのエネルギーを吸い取り、吸い取られたオークは崩れ落ちる。
「やはり豚肉は美味しい」
 口元を拭った零次は、満足そうにそう言う。
「進め、この風と共に」
 路地裏に強大な追い風が吹く。風はケルベロスたちを鼓舞し、追い風を受けたキルスティは風に背中を押され、オークの懐に飛び込むと、
「Aerial throw 720゜roll “Double Moon」
 両脚でオークの首を挟んで宙で二回転、ニャハーっと笑みを浮かべ地面にオークの頭を叩きつける。叩きつけられたオークは、しばらくその姿勢のまま足を動かしていたのだが、動かなくなるのだった。
 最後の一体となったオークは、咆哮を上げる。欲望、普段なら性的な欲望に満ちた声を上げるのだが、今は違う。
 散った仲間のために、一人でも倒すという意を孕んだ咆哮を上げる。
「これで終わりや! 大人しく転がっとけや!」
 ナギが駆ける。その動きを目で追うオークだが、縦横無尽に駆けるナギに目がついていかない。
 ナギの姿を見失ったオークは、ふと視線を下げる。そこに居たのはナギ。触手を走らせるオーク。だが、一足遅かった。雷光を纏った足が、オークの膝頭を砕くのだった。
 よろよろとよろめくオーク。だが、まだその目は死んでいない。
「来いよ豚野郎。その触手は飾りか?」
 挑発を受けたオークは、触手を荒ぶらせ焔に迫る。遮二無二に振るわれる触手を縫うように躱し、オークの懐に飛び込むと手を超硬化し、超高速の一撃をオークの腹に抉り込み、オークは音もなく地面に倒れるのだった。


 戦闘を終えたケルベロスたちは、早々に二組――一組目は、女性の安否を確認する班で、もう一組は辺りの修復、情報収集を行う班に分かれることになった。
「もし、女性が借金取りに捕まってたら軽くあしらってやるぜ」
 そう言うのは焔。もしも、女性が捕まっていたら、時間を稼ぎ、丁重に追い払おうという腹積もりだ。
「親の借金にオーク、あの女性も災難だな」
 零次はそう言うと、壁をよじ登り高所から女性がどこに行ったのかを探す。
 すぐに女性の姿を見つけたケルベロスたちは、女性の許に駆け寄る。女性はまたオークに襲われるのでは、借金取りに見つかるのでは、と怯えていたが、ケルベロスたちの姿を見ると、安心したように少し顔をほころばせる。
「しかるべき筋――警察とか弁護士に頼るんだ」
 リヴカーは女性に傷がないことに胸を撫でおろし、そう言うと女性はわかりました。と短く相づちうつ。
「……あなたにとってはくっそたれな世界でもわたしたちがいます。幸せになって欲しいと思っている人がいることを忘れないでくだし……」
 そう、ぼそぼそと話す茜に女性は、目の淵に涙を浮かべながら嗚咽を漏らす。
「行くんやったらMMシティって街に行き。おせっかいが多いから過ごしやすいで!」
 ナギがそう言うと、女性はありがとうございます。と、深くお辞儀をし去っていくのだった。
 一方、裏路地の修復、調査を行う班は粛々と行動していた。
「これといった情報は何もないです」
 そう、残念そうに言った碧人は、サーヴァンのフレアを抱き、お家に帰ったらしっかり洗おうね、と優しく囁く。
 ヒールで辺りを修復していくリナリア。修復しながらも女性のことが気になるのだろう、時折遠い目をしている。
 同じく、辺りの痕跡を消していくキルスティ。彼女が通った後は、以前と同じ状態とさほど変わりはない。
 修復が一段落し、リナリアは眼鏡を外しサーヴァントの椅子の上でだらけていた。
「疲れた……」
 と。
 そうしていると、女性を探しに行っていた班が戻って来る。
 三人――碧人、リナリア、キルスティは女性が無事だったこと知らされると、安堵する。
 そして、合流したケルベロスたちは帰路につく。
「後はアナタ次第ですよ。逃げるなら全力でどーぞ」
 キルスティは、そう呟き帰路につくのだった。

作者:缶屋 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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