空飛ぶオークと露天風呂

作者:蘇我真

 ひとりのドラグナーが、資料を見ながら唸っていた。
「ムムム、量産型とはいえ、実験ではこれ以上の性能は出せないなァ。これ以上の性能を得るには、新たな因子の取り込みが不可欠だ」
 見ていたのは飛空オークの実験データ。今の飛空オークは高所から滑空するくらいしかできない。一度落下したらまた高所まで登ってから滑空する必要があった。
「……というわけで、お前ら、ちょっくら新しい因子を取り込んでくれんか」
 ドラグナーは資料から目を離し、集まっていた飛空オークたちへと指示を出す。
「???」
 しかし、飛空オークたちはドラグナーの指示を理解していないようだった。
「あァ、お前ら向けの言葉で言い直してやらねばわからんか。人間の女を襲い、孕ませてくれ」
「!!!」
 孕ませ、というワードには過敏に反応するオーク達。
「お前達が産ませた子孫を実験体にすることで、飛空オークは更なる進化を遂げるだろう!」
「ブヒイィィィ!!」
「女だ!!」
「ハラマセロ!!!」
 歓声を上げる飛空オークたち。とはいえ、進化を遂げることはどうでもよく、女性を襲えることへの喜びのようだった。
 静岡県熱海市。海を見渡せる場所にある露天風呂、女湯。
 そこへ襲来する飛空オーク。何も起こらないはずがなく……。
「ウヒョオオオオォォォ!!!」
「ちちしりふとももーっ!!!」
「きゃあぁぁぁっ!!」
 昼から女湯へのんびり浸かっていた美女たちが、バスタオルを身体に巻きつけて逃げ惑う。
 そのタオルをはぎ取り、我がものにしようと触手をうねらせる飛空オークたち。
 狂乱の宴が始まろうとしていた。

●空飛ぶオークと露天風呂
「飛べない豚はただの豚だというが、飛べるのも厄介だな」
 自らが予見した光景を思い返し、星友・瞬(ウェアライダーのヘリオライダー・en0065)はそうひとりごちた。
「竜十字島のドラゴン勢力が、新たな活動を始めたようだ。
 今回事件を起こすのは、オークの品種改良を行っているドラグナー、マッドドラグナー・ラグ博士が生み出した、飛空オークという特殊なオークだ」
 飛空といっても、高い場所から滑空して目的の場所に移動するだけの能力で、自由に飛行する事はできない。
 だが、高所から滑空しながら襲撃目標である女性を見つけ出して、その場所に直接降下するという攻撃方法はかなり効率的で脅威となるだろう。
「ケルベロスの皆には、飛空オークに襲撃される女性を守り、飛空オークを撃破してもらいたい」
 そう言うと、瞬は続いて現場の状況を説明しはじめた。
「場所は静岡県熱海市、ホテルに併設された露天風呂だ。オーシャンビューを楽しめるのだが……その見晴らしの良さが仇となり、飛空オークたちに目をつけられてしまったようだ」
 ただ、目をつけられていても、避難は襲撃される直前に行わなければならない。
 事前に避難活動をしてしまうと、予知と違う場所に降下してしまい、事件の阻止が出来なくなるからだ。
「飛空オークは7体で、いずれも好色で精力旺盛といった様子だな。襲撃の時間帯には同程度の人数の女性が入浴している。男性はいない……まあ女湯だから当然だが」
 瞬はひとつ咳払いをして、喉の調子を整えてからケルベロスたちへと頭を下げた。
「女性がオークに襲われるのも困るし、飛空オークの性能を上げさせるわけにもいかない。みんな、頼んだ」


参加者
リーズグリース・モラトリアス(怠惰なヒッキーエロドクター・e00926)
露木・睡蓮(ブルーロータス・e01406)
因幡・白兎(ジビエって呼ばないで・e05145)
シャルロッテ・リースフェルト(お姉さんチックな男の娘・e09272)
羽衣乃・椿(衣改の魔女・e20239)
月影・環(神霊纏いし月の巫女・e20994)
麗風・彩臥(兇弾・e24220)
高天原・碧(エメラルドドラグーン・e27164)

■リプレイ

●空からくる脅威
「温泉、気持ちいい、ね」
「いい眺めの露天風呂ですね……これでオークが来なければ最高なのですが」
 露天風呂、女湯。湯船に肩まで浸かったリーズグリース・モラトリアス(怠惰なヒッキーエロドクター・e00926)と高天原・碧(エメラルドドラグーン・e27164)は一緒に天を仰いでいた。
 まだ、抜けるような青空しか見えない。雲に紛れて飛空オークたちがやってくるのには、もう少し時間があるのだろう。
「……やつらは北からくるのだろうな」
 流れる雲の方角を確認して、麗風・彩臥(兇弾・e24220)はそう呟いた。
 中性的な顔立ちの美丈夫にも見えるが、その実女性で風呂場を密かに警護している。
 隠密気流を使い、一般人には気取られないよう、風呂場の隅に陣取っていた。
「滑空しかできない飛空オークは風の流れに乗るしかないですからね。今日は北風、ですか……」
 羽衣乃・椿(衣改の魔女・e20239)はバスタオルを腰に巻いている。一見無防備なように見えるが、眼鏡はレンズが曇らないように対策済だし、バスタオルの下にはチューブトップの水着を着こんでいた。
「仕事じゃなくてプライベートで来たかったかも……」
 一方、出入り口を固めるのは露木・睡蓮(ブルーロータス・e01406)だ。
 隠密気流で装備や己自身を隠し、女性客に近い位置で隠れている。
「あれ? シャルロッテさんは入らない、ですか……?」
「えっと、私も露木くんと一緒にここで避難経路を確保しますです」
 女湯の手前で月影・環(神霊纏いし月の巫女・e20994)に問われて、しどろもどろになるシャルロッテ・リースフェルト(お姉さんチックな男の娘・e09272)。慌てているからか口調もあやしい感じになる。
(「私が男の娘だって知ったら環ちゃんもショックだろうし……なんとかごまかさなきゃ!」)
「~♪」
 そんなふたりの足元を、1羽のうさぎが駆け抜けて行った。
 因幡・白兎(ジビエって呼ばないで・e05145)だ。ゴムマリのように跳ねながら脱衣場へと突入していく。
「今のは……因幡さん?」
 普段はなかなか無い光景に一瞬硬直したものの、同族の環はすぐにその可能性に思い当ったようだ。
「ひぅ、男の人が女湯に入るのはダメですよ……ね? シャルロッテさん」
「で、ですよね」
 同意を求められて困り果てるシャルロッテ。環は白兎を止めようとして脱衣場へと入り――
「ウヒョオオオオォォォ!!!」
「ちちしりふとももーっ!!!」
 飛空オークたちの下卑た声を聞いた。

●オークを狩るモノたち
「きゃあぁぁぁっ!!」
 女性客の悲鳴。いち早く動いたのは、湯船に浸かっていたリーズグリースと碧だった。
「ん、皆、こっちに」
 リーズグリースはためらいもなく生まれたままの姿で立ち上がると、一般女性客を出入り口へと誘導していく。
「慌てず騒がず速やかに、ね」
「出ましたね、邪悪なオークたち! オークは我々ケルベロスが引きつけますので、皆さんは避難して下さい!」
 一方の碧はバスタオルを身体に巻きつけつつ、女性客へと声をかけていた。
「逃げても無駄だああ……オレたちの子を孕めぇ……!!」
 着地、もしくは着水していく飛空オークたち。碧は毅然とした態度でオークたちに相対し、手首にはめたブレスレットを掲げる。
「鎧装装着! エメラルド・ドラグーン!」
「………」
 しかし何も起こらなかった。呆然と見ているリーズグリースとオークたち。
「あっ、ドラグーンシステムは脱衣所に置いてきたんでしたっ!」
 思い出したように脱衣場へと身体を向ける碧。首だけ、オイル切れのロボットのようにギギギ……とオークたちへとめぐらせた。
「えーと、ちょっと装着してきますから、待ってて……くれませんよね?」
「「「ブヒイイイイィィィ!!!」」」
「キャーッ!!!」
 碧へ襲い掛かろうとするオークの足元に銃弾が飛ぶ。
「ここは私が時間を稼ごう」
 彩臥だ。硝煙を銃口から立ち昇らせたまま、オークたちを牽制する。
「私もいます! ほら、こっちを向いて!」
 椿もラブフェロモンを醸し出しながら前衛で庇うように立ちはだかる。
「でへへへ……」
 あくまで一般人にしか効果がないラブフェロモンだが、それとはまた関係なくオークたちは椿のスタイルにくぎ付けのようだった。
「うぅ……っ」
 内心、鳥肌が立つ椿。
「あ、ありがとう! とにかくドラグーンシステムを……」
 脱衣場に向かった碧。そこで見たものは――
「あーっ、いけませんお客様いけません! 押さない駆けない喋らない、おかし、おかしです!」
 出入り口で動物変身を解き、中居さん風衣装で裸のお姉さんたちにもみくちゃにされている白兎の姿だった。変身を解いたのはうさぎのままだと踏みつぶされてしまうからだろう。
「我々が守りますから、落ち着いて避難してください!」
 割り込みヴォイスで指示を飛ばしつつも、女性陣に触れることができて笑みを浮かべている。
「白兎さん、ちょっとうれしそうっぽい?」
 まだ異性への興味が薄いのか、白兎の反応が良く分からずに首を傾げるばかりの睡蓮。
「避難経路はありますんで、押し合わずに……う、うぅ」
 シャルロッテも誘導をしているが、目のやり場に困るのだろう。ときおり視線をずらしては顔を赤く染めている。
 かなり混乱はしているが、誘導自体は上手くいっているようだ。碧は脱衣場に置いていた装備を装着する。
「わたしもいきます……!」
 人の波へ逆らうように、環も碧と共に脱衣場から露天風呂へと飛び出していく。
 胸に巻いたバスタオルがめくれ、タンクトップ形に焼けた素肌と黒いマイクロビキニが露出する。
「お、お待たせしましたっ!」
 露天風呂では、数で劣るケルベロスたちが若干押されていた。
「……ッ!」
 舌打ちし、早撃ちで触手を落としていく彩臥。1対1ならともかく、2体、3体と同時に相手をするのは流石に不利だ。
「は、はぅぅ、が、我慢……あぅぅ」
 リーズグリースはオークの触手で身体を引き寄せられ、乱暴に胸をわしづかみされる。
「ブヒヒヒヒ……!!」
 背後から抱きすくめられ、豊満な胸がオークの短くて太い指の形にへこむ。
「あぅ、そ、それは……あぁぁん!」
 一方、椿もオークたちに襲われていた。
「そ、それ以上引っ張らないでっ!」
 チューブトップの水着を思いっきり引っ張られる。伸縮性のあるゴム素材なのが幸いして破れてはいないが、伸びた隙間から見えてはいけない部分がチラリとのぞきそうになる。
「ブヒヒヒッ!!」
 絶体絶命のそのとき、攻勢植物の蔓触手がオークの触手に絡まった。
「ブヒィ!? なんだァ!?」
「そこまで、です!」
 環だ。その横では緑色のパワードスーツを着こみ、戦闘態勢を整えた碧が、涙目で全砲門をオークへと向けていた。
「こ、このオークたちだけは、絶対に許すわけにはいきませんっ! 覚悟してくださいっ!」
「ブ、ブヒィ……お、落ち着け、話せばわか――」
「ドラグーンシステムの威力、受けて下さい!」
「ブヒイィィィ!!」
 椿を襲っていたオークの1体が、ガトリングの連射を浴びてその場に倒れ込んだ。
「あ、ありがとうございます、助かりました」
 環と碧へ礼を述べる椿。その言葉へ呼応するように、脱衣場から睡蓮たちがなだれ込んできた。
「避難、完了したっぽい!」
「ぽいじゃなくて、完了しました!」
 睡蓮の言葉をフォローするシャルロッテ。
「僕たちが来たからには百人力だよ!」
 白兎の言葉通り、風呂場外にいた面々が戻ってくることでパワーバランスは一気にケルベロス側へと傾いていく。
「これ以上のおいたは許さない……ね」
 後衛に下がり、体勢を整えたリーズグリースは魔力を込め、癒しの雨を前衛へと降らす。
「よくもやってくれましたね!」
 椿は纏っていたバスタオルを媒介とし、鞭を作り出してオークを打ち据える。
「伸びよ鞭よ! 纏いし衣をその身に変えて、彼の者へ!」
「ブヒイイィィ! 痺れる!! ンキモチイイィィ!!!」
 鞭に打たれ、痛みと快感を覚える飛空オーク。
「よ、喜ばないでっ!!」
「ブオオオォォン!!」
 トドメの一撃で、オークはいろいろな意味で果てた。
「此処は月の庭、私の領域、です」
 別のオークへ、攻勢植物の蔓触手が伸びる。
「ひっ……! オレは、オレはそんな趣味ないブヒ!!」
 嫌がるオークの全身に、茨の棘とへと姿を変えた蔓触手が絡みつき、包み込んでいく。
「ど、どうせ包まれるなら、そこのかわいこちゃんに――」
 顔以外を茨の棘に包まれたオークはシャルロッテを見ながらこぼした。
「いや……おまえ、オトコ――」
「えっ?」
「はっ!!」
 目にもとまらぬ早業で、シャルロッテの放った銃弾がオークの目を潰す。スナイパーらしい部位狙いが決まった。事切れるオーク。
「シャルロッテ、さん?」
「ん……」
 環とシャルロッテの間に気まずい空気が流れる間も戦闘は続いている。
「女おんなオンナァ!!」
 触手が白兎を刺し、女物の着物を破る。露わになる白いおみ足、そして男物の下着。
「可愛い女の子だと思った? 残念、僕は男だよ。ねえどんな気持ち? どんな気持ち?」
 煽り立てる白兎に、オークは涙目になって怒り狂う。
「オトコはシネエエエ!!!」
「弱り目に祟る、泣きっ面に蜂をけしかける。やるときはトコトンと、ね?」
 白兎が指を鳴らすと、いつの間に仕掛けていたのか、足元から輪になった縄が出現してオークの片足を吊り上げる。
「お、オオッ!?」
 踏ん張ろうとするオークだが、露天風呂の足場はツルツルと滑って耐えられない。宙に吊るされたまま、雁字搦めに縛られていく。
「こ、この野郎っ!!」
 それでもせめてもの一撃とばかりに触手を刺すように伸ばしてくるオーク。
「そう上手くはいかせないかも」
 前衛の睡蓮が間に入って、代わりに触手の攻撃を受ける。
 ロングコートが破れ、鮮血に身体をにじませながらも睡蓮は退かなかった。
「黒の魔弾は呪の魔弾。咲き誇るは呪いの華」
 お返しとばかりに、植物の種子から魔弾を錬成する。
 そして、魔弾をアームドフォートに込めると照準を定めて砲撃した。
「ぐ、グアワアアアァァッ!!」
 宙づりになったままのオークを中心に、黒い華が咲いた。呪いの華はオークから生命力を吸収し、睡蓮へと還元していく。
「残りも、一気に倒す、ね」
 後列からリーズグリースの援護攻撃が飛ぶ。
「錬成開始、基本症状設定、薬剤選定、調合調整、錬成終了」
 即座に薬剤を調合すると、まだ立っているオークたちの足元へと投げつける。
「な、なんら、これ……」
「身体が、動か、ねぇ……」
 薬品の効果で麻痺していくオークたち。こうなれば、もうケルベロスたちの優位は覆されることもなく。
「私の弾丸はお前たちを容赦無く貫く」
「バスタービーム!!」
 彩臥の兇弾と碧のビーム掃射により、全てのオークは沈黙するのだった。

●いい湯かな
「う……あ……」
 戦後処理やヒールが終わり、綺麗になった露天風呂。
 環にじっと見つめられていることに気付き、シャルロッテはうろたえていた。
「今まで私は……恥ずかしい、です」
 赤面し、両手で顔を覆いうつむいてしまう環。
「いや、こちらこそ隠していて、ごめんね……」
 同じくうつむくシャルロッテ。ふたりをよそにリーズグリースは既に湯船を再び堪能していた。
「んぅ、やっぱり温泉は、いいねぇ」
「僕も、帰るのは温泉でのんびりしてからにしたいかも!」
 破けたロングコートを羽織っていた睡蓮も力強くうなずく。
「みんんs入浴かい? なら、僕がまたオークが襲ってこないか見張っておくよ。大丈夫大丈夫!」
「ダメです!」
 胸を張る白兎へ、胸や股間を腕で隠しながら断言する椿。もちろん水着やバスタオルはつけているのだが、それでも露出が高く、異性の前では恥ずかしいのだ。
「ノゾキも、ダメですよ?」
「あ、あはは、もちろん、わかってるって……!」
 碧のガトリングガンに狙いを定められ、まさしく脱兎のごとく逃げて行く白兎。
 兎にも角にも、露天風呂と女性たちは守られたのだった。

作者:蘇我真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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