決戦、マサクゥルサーカス団~この死都を見よ

作者:土師三良

●魚群のビジョン
「さあさあ、我ら『マサクゥルサーカス団』のオンステージだ!」
 夜の市街地でショウの開幕を告げたのは、蛾の翅を有した男。『団長』と呼ばれる死神だ。
「今宵は、豪華なキャストにゲストも加えての特別ステージだ。それでは始めようか、愉快なショウを!」
 団長が言うところの『ゲスト』とは五体の死神だった。骨だけで構成された魚型の死神、神々しい光を放つウミウシに似た死神、長大な牙を持つチョウチンアンコウのような死神、不気味な目の色をしたクロマグロを思わせる死神。
 そして、アンコウそっくりの巨大かつ醜悪な死神。
 ゲストたちの姿を確認すると、団長は歩き始めた。五体の死神も宙を泳いで移動した。それぞれが別の方向に。
 事前に決めていたであろう地点で同時に停止する。
 団長の鞭の音を合図にして、全員がなにごとかを始めた。
 その『なにごとか』の結果によるものなのか、各々の死神の前に人影が現れた。
 シャイターンだ。
 あるいは『かつてシャイターンだった者』と言うべきか。
 そう、彼らは死の世界からサルベージされた存在だった。
 アンコウの前に立つシャイターンの体は変異していた。タールの翼は溶け落ち、代わりに蜘蛛の脚めいた灰色の長い骨が何本も突き出ている。手にしたゾディアックソードの刃も半ばから折れていた。
 だが、当人は体の変化も武器の破損も気にしていないだろう。
 知性も感情も残っていないのだから。
 
●ザイフリートかく語りき
「各地でデウスエクスをサルベージしていた『団長』なる死神のことは知っているな?」
 夜のヘリポートに集まったケルベロスたちの前でヘリオライダーのザイフリートが語り始める。
「奴が新たな作戦を開始した……いや、開始せざるをえなくなったのだろう。きっと、皆の奮闘によって、尻に火がついたのだ」
 ジン・フォレスト(からくり虚仮猿・e01603)を始めとするケルベロスたちは団長のサルベージ作戦を何度も阻止してきた。ザイフリートはそのことを言っているのだ。
「で、尻に火がついた団長が企んでいる新たな作戦についてだが――」
 ザイフリートは東京の地図を広げ、小さな六芒星が記された場所を指し示した。破壊撤去された人馬宮ガイセリウムの跡地だ。
「――東京防衛戦で死亡したシャイターンをここでサルベージし、なにかの儀式をおこなうつもりらしい。五体の強力な海魚型死神とともにな」
 団長と五体の死神は三百メートル以上離れた地点(六芒星の頂点になる位置だ)でそれぞれサルベージをおこなうのだという。
 ケルベロスたちも六つのチームに分かれ、各地点の死神とシャイターンを叩くことになる。
「おまえたちの相手は『ディブガリア』なる醜い死神だ。通常の深海魚型死神が使う攻撃系グラビティの他、エンチャントを吹き飛ばすグラビティも用いるらしい」
 とはいえ、そのディブガリアといきなり戦えるわけではない。ザイフリートが予知したビジョンによると、ディブガリアはシャイターンにケルベロスの迎撃を任せて、自分は儀式に専念するのだという。
「まず、シャイターンを排除し、その後でディブガリアを攻撃して儀式を中断させる――そういう流れになるだろう。儀式の中断を余儀なくされた場合、ディブガリアはおまえたちを攻撃する。しかし、おまえたちが撤退すれば、敵も深追いすることなく逃げていくはずだ」
 シャイターンと死神を続けざまに撃破するのは容易ではない。状況的に撃破が難しいとなった場合は、無理をせずに撤退することも必要かもしれない。ただ撤退するのではなく、他の死神と戦っているチームの援護に向かうという選択肢もある。複数のチームで事に当たれば、死神を倒せる確率も上がるだろう。
「まあ、どのような戦術を取るにせよ、無理はするな。奴らの強さは通常の深海魚型死神のそれとは比較にならないからな。しかし、叩き潰せるようであれば――」
 ザイフリートはケルベロスたちに視線を巡らせた。兜に隠されていても、その目に怒りが宿っていることは判る。死神たちに対する怒りが。
「――全力で叩き潰せ。生を嗤い、死を弄んできたツケを死神どもに払わせてやるのだ」


参加者
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
鏡月・空(虚月・e04902)
百丸・千助(刃己合研・e05330)
ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)
月杜・イサギ(蘭奢待・e13792)
白嶺・雪兎(斬竜焔閃・e14308)
伊庭・晶(ボーイズハート・e19079)
夜尺・テレジア(偽りの聖女・e21642)

■リプレイ

●速攻、剣戟、照らすは月光
 夜の街で怪しげな儀式をおこなっている六体の死神。
 鳥の視点で下界を見れば、彼らが六芒星を描くように陣取っていることが判るだろう。
 その六芒星に時計の文字盤を重ねると、マサクゥルサーカス団の団長がいるのは十二時の場所。
 そして、団長の左斜め下――十時の場所に浮遊しているのは、巨大なアンコウに似たディブガリア。
「あいつに会うのは二度目だ」
 自分の前に立ちはだかる者の頭越しにディブガリアを眺めながら、百丸・千助(刃己合研・e05330)が呟いた。
「最初に会った時、ぶった斬ってやろうと思ったんだが、師匠に止められたんだ。おまえの敵う相手じゃないってさ……」
「今日は誰も止めませんよ」
 白嶺・雪兎(斬竜焔閃・e14308)が斬霊刀を抜き放った。竜の角から鍛えられた長刀。その竜の名を取り、雪兎は『灰迅』と呼んでいる。
 特殊神父服に身を包んだ鏡月・空(虚月・e04902)もゾディアックソードを抜いた。
「でも、その前に奴を倒さなくてはいけません」
「判ってるさ」
 空の言葉に頷き、千助は眼差しの焦点を変えた。
 ディブガリアから、自分の前に立ちはだかる者に。
 死の世界から引き戻されたシャイターンに。
「では、ちゃっちゃとかたづけちゃいましょうっ! おうちに帰って、深夜アニメを見るために!」
 スケールの小さいモチベーションを元気よく口にして、ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)が御業を呼び出した。
「汚物は消毒だぁーっ!」
 ピリカの叫びに応じて、御業が熾炎業炎砲を放つ(声を出せるなら、『ヒャッハー!』と笑っていたかもしれない)。
 炎弾がシャイターンに命中すると同時にケルベロスたちの背後で次々と爆発が起きた。攻撃力を上昇させるブレイブマインだ。
「表情一つ変えないなんて……まさに生ける屍ですね」
 爆発を起こした夜尺・テレジア(偽りの聖女・e21642)がシャイターンに憐憫の目を向ける。
 彼女の言うとおり、シャイターンは無表情だった。汚物呼ばわりされた挙句に炎弾をぶつけられたにもかかわらず。しかし、無反応というわけではない。炎で焼かれたまま、折れたゾディアックソードを構えてケルベロスたちに近付いていく。
「実につまらないね。意志も思考もない相手というのは斬り甲斐がないよ」
 斬霊刀と日本刀を手にした月杜・イサギ(蘭奢待・e13792)がシャイターンを迎え撃った。斬霊刀の刃が非物質化し、生ける屍を斬り裂く。
 続いてシャイターンに浴びせられたのは、アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)と伊庭・晶(ボーイズハート・e19079)によるスターゲイザーの二連打。
 それでも、シャイターンの表情は変わらない。そんな主人に代わって、得物のゾディアックソードに変化が起きた。折れた刃が霜に覆われていく。
「来るぞ!」
 晶が警告を発した直後、ゾディアックソードの刃から氷のオーラが飛び、ケルベロスの後衛陣――千助、雪兎、テレジア、ボクスドラゴンのコマの前で炸裂した。だが、雪兎とテレジアは無傷だった。前者はボクスドラゴンの蓮龍が、後者はミミックのガジガジが庇ったのだ。
 蓮龍に目顔で謝意を伝え、雪兎はシャーマンズカードを掲げた。
 【氷結の槍騎兵】が召喚され、シャイターンに突進していく。
 その実体なき騎士を追って、空も駆けた。
「貴方にかかずりあってる暇はないんです。速攻で倒させてもらいますよ」
 エアシューズが唸り、グラインドファイアがシャイターンを焼いた。

●強攻、憤激、燃ゆるは眼光
「数多の生き血と悲鳴を啜り、人々より忌み嫌われた紅蓮の波刃よ」
 数分に渡る剣戟に終わりを告げるべく、雪兎が『裂傷剣・煉獄紅刃(インフェルニティア・フランベルジュ)』の呪文を詠唱した。
「今こそ我が手に来たれ。その美しき刃をもって、この地を絶叫で満たせ!」
 炎を纏って紅に染まった灰迅の刃がシャイターンを斬ると同時に焼いた。
 そして、空がゾディアックソードを横薙ぎに払うと――、
「キェーッ!?」
 ――シャイターンが初めて声を出した。
 それは最期の声でもあった。体から断ち切られて宙を舞う首が発した声なのだから。
 首を失った体が倒れ伏し、数秒の間を置いて、体と別れた首も地面に落ちた。
「さあて、前座はかたづいた。次はおまえだ、くされアンコウ!」
 晶がディブガリアに指をつきつけた。
 しかし、ディブガリアは反応を示さない。儀式から手が離せないのか。あるいはシャイターンの死に気付いていないのか。
「シカトしやがって……三枚におろして、たたきにしてやるぜ」
 ディブガリアに向かって、晶はゆっくりと歩き始めた。
 他の者たちもそれに続く。
「今度はもっと前に出て戦いますよ、コマちゃん」
 テレジアが歩調を速めた。疲弊したサーヴァントたちを補うため、後衛から前衛に移動して楯役になるつもりなのだ。
『なんで俺が楯にならなくちゃいけねえんだよぉ?』と不満げな態度を全身で表しながらも、コマはテレジアに並んだ。
 そんな一人と一体の横でイサギが叫んだ。シャウトで傷を癒しているのである。
 彼の咆哮が喜悦の響きを帯びていることにアジサイは気付いた。
「なんだか楽しそうに見えるのは気のせいか?」
「気のせいじゃないよ。とても楽しいんだ。あの死神はさっきのシャイターンと違って、斬り甲斐のある相手だからね」
「じゃあ、俺も少しばかり楽しむとするかな。一番槍ならぬ一番蹴りはいただいた!」
 アジサイはいきなり跳躍し、スターゲイザーをディブガリアに食らわせた。
 遅れてはならじと空が達人の一撃を決め、イサギも斬霊斬を放つ。
「アッグェーッ!」
 ディブガリアの口から奇声が飛び出した。もっとも、それは痛みではなく、苛立ちから生じたものだろう。三人の攻撃はどれも命中していたが、ダメージはあきらかに半減していた。巨体を覆う粘膜に阻まれたのだ。
「そういえば、アンコウはヌメヌメしてるから、吊るして解体するらしいですねっ」
 ピリカがブレイブマインを爆発させた。対象は後衛。
 その後衛の一人である千助が――、
「でも、こんなデカブツとなると、クレーンでもなければ吊るせないな」
 ――雷刃突を仕掛けて、粘膜を削り取っていく。
 彼とともに、雪兎に召還された【氷結の槍騎兵】も攻撃を加えた。
「ヌァーッ!」
 ディブガリアが再び吠えた。
 そして、儀式を中断し、ついにケルベロスたちを攻撃した。
 その標的となったのは前衛の晶。
「クワセロー!」
 大きな口で晶の右腕を挟み込み、牙を肉に突き立てて、己の体を回転させる。ディブガリアの周囲で砂煙が円を描いたかと思うと、晶の体が地面と平行に飛んだ。放り投げられたのだ。
 晶は電柱に激突し、呻き声を発して地面に落ちた。
「大丈夫ですか?」
 と、テレジアがすかさず気力溜めで癒す。
「大丈夫じゃねえよ。あの野郎、噛みつくついでにドレインまでしやがった。まあ、こっちもお返しさせてもらったけどな」
 晶は立ち上がり、右腕を力いっぱい振り下ろした。唾液と血が地面に破線を描く。唾液はディブガリアのもので、血は晶のもの……ではない。そこにはディブガリアの血も混じっていた。
 晶は口中に降魔真拳を打ち込んでいたのだ。
「ク、ワ、セ、ロ……」
 呪詛するように呟きながら、ディブガリアは左右の目を別々に動かし、ケルベロスたちを改めて見回した。
 その目を染めている感情は二つ。
 儀式を阻止した者たちへの憤り。
 そして、嘲り。
 複雑な言葉を紡げない発声器官に代わって、彼の両目はこう語っている。
『貴様ラゴトキニ俺ガ倒セルモノカ』
「見くびるなよ……と、言いたいところだが、おまえの評価は正しい」
 敵の尊大な思考を察して、アジサイが自嘲気味に笑った。
「そう、俺ごときが息巻いたところで、やれることなどたかが知れているのだろうな。だが、しかし、それでも――」
 笑みを消してライトニングロッドを振り、ライトニングボルトを放つ。
「――俺は足掻くぞ、ディブガリア!」
「それは違いますよ、アジサイ様」
 アジサイに語りかけながら、雪兎がディブガリアに斬霊斬を浴びせた。
「息巻いているのは貴方だけじゃありません。私もです」
 ある意味、それは嘘だった。雪兎の中で燃えている感情――生と死を冒涜する死神たちへの怒りは『息巻いている』という言葉で表されるようなものではないのだから。
「俺だって、息巻いてるぜぇ!」
 千助が二本の斬霊刀を振るい、絶空斬でディブガリアの傷口を斬り広げた。
「クワセロー!」
 ディブガリアもまた息巻いた。格下と侮っている者たちに対して。
 牙の並ぶ口が開き、黒い球体――怨霊弾が発射され、前衛陣を巻き込んで爆発した。
 その黒い爆煙が有する毒に蝕まれながらも、空が『霊気龍脈活性(レイキリュウミャクカッセイ)』の呪文を唱えた。名前が示す通り、大地の龍脈を活性化させて、人々を治癒するグラビディである。
 いや、ただ治癒するだけでなく――、
「――受け取りました!」
 テレジアがブレイブマインを用いて、自分を含む前衛陣を治癒した。前衛に移動したので後衛の回復役の恩恵は失っているにもかかわらず、治癒力は通常よりも上昇している。それが『霊気龍脈活性』の効果だ。
 更にピリカが黄金の果実の光を照射し、異常耐性を付与した。
 その光を翼に受け止め、ブレイブマインの煙の糸を引きつつ、イサギが飛翔する。
 そして、すぐに降下し、月光斬でディブガリアの鰭を断ち切った。
 同じく爆発と光の恩恵を受けた晶も煙の糸を引いてディブガリアに突進し――、
「こいつでどうだ!」
 ――と、旋刃脚で鰓を抉り抜いた。
「ク、クワセロー!」
 違う方向を見ているディブガリアの二つの目から嘲りの色が消えた。
 いや、塗り潰された。
 怒りの色に。

●猛攻、乱撃、掴むは栄光
「こんちはーっ!!」
 激しい攻防が続く戦場でピリカが場違いな声を響かせ、光を放った。仲間の傷を癒し、状態異常を消し去る光だ。
「地気は我により悉く廻るべし」
 空も『霊気龍脈活性』を発動させた。この戦いで彼が『霊気龍脈活性』を用いた回数は片手の指では足りなくなっている。シャイターンを相手にしていた時は攻撃に重点を置いていたが、今は逆に治癒の頻度を上げているのだ。
 そのように慎重かつ堅実に戦っているにもかかわらず、ケルベロスたちが負っているダメージは大きかった。既に蓮龍とガジガジは力尽き、消えてしまっている。
 しかし、ディブガリアが負っているダメージもまた大きかった。キュアを有していないため、毒や炎やパラライズなどの状態異常も蓄積している。
 それらを更に悪化させるべく、アジサイがジグザグスラッシュで攻撃した。惨殺ナイフの禍々しい刃がより禍々しい形に変わり、粘液まみれの体表を斬り刻む。
 ジグザグ効果を与えた刃はそれ一つではない。雪兎が手にした灰迅も『裂傷剣・煉獄紅刃』によって再び燃え上がり、ディブガリアを傷だらけにしていた。
「クワセロ!」
「ああ、食らわせてやるよ!」
 晶が降魔真拳で追い打ちをかけ、生命力を吸い取っていく。
「クワセロ! クワセロ! コロサセロォー!」
 痛みと怒りを大音声に変えて、ディブガリアは反撃した。
 放たれたグラビティは振動波。
 その見えざる攻撃を受けた者の中にテレジアがいた。
(「かつて、お父様が教えてくださいました。デウスエクスの中で最も危険で狡猾なのは死神だと。しかし、いかに危険で狡猾な存在であろうと――」)
 ドワーフの少女は死神を睨みつけた。
 心中の独白が声になって外に出る。
「――私は負けません。貴方をここで止めてみせます!」
 勇ましい言葉ではあるが、彼女の小さな体は意志を裏切って力尽き、頽れた。
 だが、敗れたわけではない。
 ディブガリアの両目が初めて同じ方向――真正面を見た。
 そこに映ったのは、テレジアが身を挺して庇った仲間。
 イサギだ。
「ありがとう」
 テレジアに礼を述べながら、イサギは一気に間合いを詰めて、ディブガリアの下顎を『弧月旋(コゲツセン)』で斬り上げた。同時に翼を広げ、斬撃が描く三日月形の軌跡を追うように舞い上がる。
 間髪を容れず、彼の背後に隠れていたプリムとコマがボクスブレスを浴びせた。
「クワセ……」
 ディブガリアの声がかき消された。
 大きな地響きによって。
 巨体が地面に落ちたのだ。
 もちろん、再び浮遊する隙を与えるほど、ケルベロスは甘くない。
「アンコウとかけまして!」
 アジサイが叫び、ディブガリアの右半身にライトニングボルトをぶつけた。
「絞首台の罪人ととぉーく!」
 晶が答え、ディブガリアの左半身に旋刃脚を打ち込んだ。
 ディブガリアは地面の上で体を震わせた。反撃を試みたのだ。だが、パラライズに阻害され、なにもできなかった。
「そのこころはーっ!」
 ピリカが爆破スイッチを押した。
 ブレイブマインの爆発群が戦場をカラフルに染めていく。
「吊るして捌く(裁く)んだぜぇー!」
 爆風を背に受けて、千助がディブガリアに迫る。
 その手にある二刀――『葦切』と『綿摘』から霊力が迸り、本来の刀身を芯にして別の刀身が生み出された。長く、薄く、透明で、光を放つ刀身。
「舞え、朱裂(スザク)!」
 師から伝授された奥義の名を千助は叫んだ。
 葦切がディブガリアの体を垂直に両断し、コンマ数秒ほど遅れて、綿摘がディブガリアの体を水平に両断した。あるいは綿摘のほうが先だったのかもしれない。それは千助自身にも判らなかった。
 斬られたディブガリアにも判らなかっただろう。

「さてと……」
 刀身についた血糊と脂を拭いながら、イサギが皆に提案した。
「他のチームを手伝いに行こうか」
「その必要はない」
 アジサイがそう言って、頭部に装着したヘッドセット型のトランシーバーをつついてみせた。
「今、連絡があった。あいつらも死神を倒したらしい」
「『あいつら』っていうのは、どのチームだ?」
 と、晶が尋ねた。
「すべてのチームだよ。俺たちの完全勝利だ。しかし――」
 アジサイが苦笑を浮かべて、イサギを見やる。
「――寂しそうに見えるのは気のせいか?」
「気のせいじゃないよ。実に残念だ。三連戦を期待していたのに……」
 イサギ(だけでなく、他の者たちも)は立っているのもやっとの状態だったが、強がりや冗談を言ってるわけではない。本気で三連戦を望んでいた。
 いや、望むどころか、本当に臨む者もいる。
「まだ終わっていません!」
 拳を握りしめて叫んだのはピリカだ。
「絶対に負けられない『時間との勝負』という戦いが残っています! 大急ぎで帰らないと、深夜アニメが始まっちゃいますよーっ!」
 彼女の声に呼ばれたかのように、聞き慣れたローター音が夜空の彼方から近付いてきた。
 ヘリオンが皆を迎えにきたのだ。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月3日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 21/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。