決戦、マサクゥルサーカス団~宿敵シェイドアングラー

作者:林雪

●儀式
 深夜の市街地。ここはつい先日、人々を恐怖の渦に巻き込んだ移動要塞ガイセリウムが陣取っていた場所である。今はガイセリウムそのものは解体され、ケルベロスたちの手でヒールされた街は、静けさを取り戻している。
 だがこの地にまだ残っている戦いの記憶を、呼び起こそうとする者がいる。蛾の羽を生やした死神『団長』だ。
「さあさあ、我ら『マサクゥルサーカス団』のオンステージだ!」
 どこか狂気じみた声が響き渡る。
「今宵は、豪華なキャストにゲストも加えての特別ステージだ。それでは始めようか、愉快なショウを!」
 声と共に暗闇の中から浮かび上がる、5体の海洋生物型の死神。これまでに多く見られた、細長い体の死神とは少し様子が違う。骨を晒した姿のもの、光を発するもの……5体のどれもがおぞましく、不気味な姿をしていた。
 5体の死神たちはフワフワと空中を漂うように泳いで団長から離れ、等間隔に広がっていく。もしこのショウの一部始終を空から見る者がいれば、彼らがそれぞれ六芒星の頂点となる場所に移動したのだとわかっただろう。
 パァン! と団長の鞭が鳴る。それを合図に、死神たちは一斉に儀式を開始した。
 六芒星の一角を担う、チョウチンアンコウの姿に似た死神、シェイドアングラー。その頭部に光る誘引突起の中には、薄笑みを浮かべたシャドウエルフの少年の姿が浮かぶ。『ウフフフ……』低い笑い声に踊らされるように、シェイドアングラーは8の字を描いて泳いだ。その軌跡から、やがて不気味に光る魔方陣が浮かび上がり、そして。
『オゴォオォ……! ガァ……ガァ……っ』
 サルベージされたのは、東京防衛戦の記憶。シャイターンだった。
 ただし、召喚されたシャイターンの目に、知性の光はない。身にまとっている衣服や胸当ても、自らの爪でボロボロに引き裂かれている。ただ獣のような荒い呼吸が、戦いへの渇望を表していた。
『ウフフフ……』
 シェイドアングラーは巨大な目をぎろりと光らせ、儀式を続行すべく闇を泳ぎ回るのだった。

●団長の作戦
「死神の『団長』って知ってるかな? 死んだデウスエクスをサルベージしてた、蛾みたいな奴」
 ヘリオライダー安齋・光弦が、集まったケルベロスたちに説明を始めた。
「こいつがね、新たな動きを見せるみたい。宿敵のジンさん筆頭に、随分サルベージ作戦を阻止したから、作戦を変えてきたんだろうね」
 失敗する作戦をいくら続けても、意味はない。
「今回は団長は、有力死神を5体引き連れて、人馬宮ガイセリウムの跡地に現れる。防衛戦で死んだシャイターンをサルベージした上で、何か怪しい儀式をするつもりみたい」
 これまでは、下級死神を数体使役してウェアライダーなどを呼び出していた団長が、ついに有力死神を伴なって現れたということだ。

●強敵、シェイドアングラー
「5体の死神と、団長含めて6体。それぞれの死神をチームごとに襲撃してもらいたい。みんなには『シェイドアングラー』をお任せするよ」
 言いながら光弦が画像を示した。シェイドアングラーはチョウチンアンコウ型の有力死神で、ぎょろりとした大きな目と、誘引突起の中に人影を有するのが特徴だ。
「こいつら、ボディーガードみたいにシャイターンを召喚してるから、まずはそのシャイターンを素早く倒して、それからシェイドアングラーを攻撃して儀式を中断させないとならないよ」
 儀式を行っている死神本体を倒すのが目的だが、そのためにはまずシャイターンを排除する必要がある。
「ただ、シェイドアングラーはかなりの強敵。サルベージされた変異強化型シャイターンとの連戦で撃破するのは、君たちの力をもってしても難しいかも知れない。状況に応じての作戦を立てて、場合によっては撤退も視野に入れて挑んだ方がいいと思う」
 無理はしないで、といつになく真剣な様子で光弦が言い足した。
「そうでなくても死神って謎が多いからね。目的がよくわかんないけど、絶対人間に害のある儀式だとしか考えられないよ。阻止してきてね、ケルベロス」


参加者
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
神宮時・あお(忘却ノ未来・e04014)
須々木・輪夏(翳刃・e04836)
アディアータ・リンディ(ヴァイオレットウィッチ・e08067)
コール・タール(多色夢幻のマホウ使い・e10649)
クー・ルルカ(いたずら妖精・e15523)
砂星・イノリ(奉唱スピカ・e16912)
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)

■リプレイ

●儀式の夜
 静かな夜の隙間を、ケルベロスたちが駆けていく。
「ここにガイセリウムがあったなんて、今じゃもう信じられないわよね……」
 8人分の足音を縫って、アディアータ・リンディ(ヴァイオレットウィッチ・e08067)の声が響いた。
「失った命を掬い上げたい。誰しも一度は思うことだとは思うけれど、一度しかないからこそ、命の輝きも増すもの」
 アディアータの言わんとすることを汲んで、四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)が応じる。今宵の敵は、死神。一度死んだデウスエクスを蘇らせて使役することを得意としている。 
「シャイターンは許せないけれど……命を弄ぶのはもっと許せない!」
 クー・ルルカ(いたずら妖精・e15523)が睨んだ先では、その命を弄ぶ行為、サルベージがまさしく行なわれているところだった。
「あいつか……!」
 ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)も、死神の姿を視界に捉えた。
 夜を泳ぐのは、シェイドアングラー。その姿は深海魚のチョウチンアンコウによく似ている。似ているが、最大の違いは頭上に光る誘引突起の中に浮かぶ、人影だった。
『ウフフフ……』
 光の中、シャドウエルフの少年は微笑む。
「…………」
 コール・タール(多色夢幻のマホウ使い・e10649)は黙ってその光をじっと見つめていた。
「タール様……」
 神宮時・あお(忘却ノ未来・e04014)は、コールの沈黙に悲しみの気配を感じとる。
 シェイドアングラーは、コールの宿敵である。
 彼自身あまり詳しいことを語らない分、仲間たちは全力で戦うことで、少しでもコールの心に添おうとしている。
「死神の、儀式……」
 須々木・輪夏(翳刃・e04836)は、シェイドアングラーの動きから一瞬たりとも目を逸らさない。
 浮かび上がる魔方陣の中から、呼び出されたのは。
「シャイターン……!」
 その姿を目にした砂星・イノリ(奉唱スピカ・e16912)の耳に、ふと蘇る慟哭。団長が弄んだウェアライダーの命はどこへ消えただろう。
『オゴォオォ……! ガァ……ガァ……っ』
 胸の痛む記憶を振り払い、イノリは目の前の戦いに集中する。許せない気持ちは、みんなと同じ。
 宿敵を目の前にして、コールの頭は妙に冴えていた。目の前にいる、これは。
(「向き合わなければならない。そうしないとアイツが、俺が。みんなが……救われない」)
 だが、コールが手を伸ばすより先に、シャイターンが襲いかかってきた。
「来る!」
 まずはこいつを倒さなくては、話にならない。ケルベロスたちは一斉に戦場に散る。

●獣
 本命はあくまでシェイドアングラー。ここで時間はかけられない。怪しげな儀式を続行している死神を横目に、ケルベロスたちは攻撃的な布陣でシャイターンに挑む。
 先制してコールのストラグルヴァインがシャイターンの足元に絡みつく。そこへ。
「まだ完成には遠いが、人を守れる力になるなら……この技を使おう!」
 出し惜しみする気はない、と、ソロが奥義の体勢をとった。体内に蓄積されたエネルギーが、ソロの体の端々で弾ける。
「これが今の私の全て……砕けろ、サンダークラッシュ!」
 変換された力が雷刃となり、シャイターンに叩きつけられた。だが落雷のような音とともに身を裂かれても、シャイターンはただ獣のような呼吸をするだけだった。
「……出来る事を、やりましょう……」
 足を止めないシャイターンに、あおが縛霊撃を放った。彼女の心を表すような、繊細な霊力の網が、敵に絡みつく。状況を冷静に見極めつつ、印を結んだ輪夏の手元から木の葉が舞い上がり、後衛のイノリを覆い隠す。それを見たアディアータも、心得たとばかりにこれまでに食らった魂を己に憑依させ、力を溜め始めた。紫の紋が、妖しく彼女を包んでいく。
「行こうか、どるちぇ……ボクたちの戦場へ」
 自らの顔を覆っていた手をスッと引くと、戦化粧が施されたクーの顔が現れた。彼の森の掟、戦いに際しての礼儀である。常の明るく元気な様子から一転、戦士の一面を見せた少年は、歌を紡ぎだす。ミミックのドルチェも加わって、シャイターンの動きを封じた、かに見えた。しかし。
『ギャアァッ……!』
 おぞましい声をあげて、シャイターンは跳んだ。今やボロきれのような翼を不気味に揺らし、構えたアックスを無慈悲に振り下ろす!
「ぐっ……あぁ!」
「ソロ!」
 なんとか頭上への直撃は避けたが、衝撃にソロがよろめく。素早く回り込んで玲斗がその身を支え、ウィッチオペレーションの施術に入った。
「結構な、力だな……だが、まだ甘いぞ!」
 ソロは気力で負けていなかった。その様子を確かめたコールは、このまま押し切れると判断し攻撃を続ける。向き合わなくてはならない過去は、もう目の前にいるのだ。立ち止まってはいられない。コールの全身から、赤いオーラが立ち上る。
 コールのそんな思いを感じ取るのか、あおの攻撃にも力が入った。
(「……タール様に、あの人を、返して、あげたいと思う、から……」)
 表情ひとつ変えずに胸の内のみを揺らして、あおは刃を振るう。
 仲間たちの強化役に徹しつつ、輪夏はシェイドアングラーの『動き』にも注意を払っていた。シャイターンを召喚したときとはまたすこし様子が変わっている気がする。一体『団長』たちと組んで、何をする気なのだろう。
 シャイターンが、両腕を振り上げてアックスを構えた。狙いは、クーだ。
「当たらないよ!」
 素早い動きで双刃の下をくぐり抜けたクーのポニーテールが解け、青い長髪が波打った。空を切ったシャイターンの力が、ズガンと地面にめり込む。
「……畳み掛けてしまいましょう!」
 治療もそこそこに攻撃に転じていたソロの身を案じていた玲斗だったが、確かにここで時間はかけられない。そばにいたイノリと頷きあって、シャイターンを沈めに向かう。
 哀れなシャイターン。死してなお、殺戮の道具として使われる。
「覚えている……キミ達の拒絶、嘆き、怒り……」
 歌いながらふと、イノリは考える。死神はシャイターンのみならず、ここ、ガイセリウム後に眠る誰かを蘇らせようとしているのかな……。
「まーったく、一回死んだならそのまま死んでおきなさいよねっ!!」
 死者の弔い、というにはなんだか賑やかなアディアータの声とともに、シャイターンの姿が紫色に染まった。彼女の放った魔法光線をまともに受け、その場に崩れ落ちる。
「はい、また寝てて頂戴!! 次、いくわよ!」
 
●宿敵
 盾がなくなったことを察知したのか、死神は動きを止めた。巨大な目がギョロギョロ動いて、状況を推し量っているように見えた。
「……人の忘れ物、勝手に使いやがって。覚悟は出来ているか」
 コールが、その死神の前に立った。その表情からは焦りや動揺といったものは感じられない。ただ、どこか悲しげなその佇まいに、チームはますますシェイドアングラー打倒に向けての思いを強くした。
 しかし。
『ウフフ……フフフフ……キョキョキョ』
 死神自身の声なのか、あざ笑うような不気味な声とともに、そちこちから黒い煙のようなものが立ち上る。
「これは……!」
 ガイセリウムに残る怨念が呼び起こされたような不吉な黒い陰。それはひとつに固まると、ケルベロスたちめがけて発射され、炸裂した!
「うわぁああー!」
 被弾したのはソロ、クー、あお、アディアータの4人。
「な……、何よこれ……」
 黒い、ベトベトしたものが体内に入り込んでくる不快感に、アディアータが顔を顰めた。
「くっ……、光以て、現れよ!」
 撒き散らされた毒素を治癒すべく、玲斗が術式を開始した。
「こんなものに……負けはしない!」
 先に受けた分と重なってダメージの小さくないソロが、裂帛の叫びをあげた。
 あおは、自分の手の中でべとつく死神の毒を無表情に見ている。その身とてダメージを受けているのだが、考えているのはまったく別のことだった。
(「……これ以上、悲しみを増やさないために……そのためなら、ボクは……」)
 再度霊力の網を放ち、あおが死神を捕らえると、音もなく輪夏が接敵して、斬りつける。ダメージを与えるとすぐに距離を取る。
 敵の死角を突くように動きつつ、輪夏はほんのすこしだけ周囲の状況を思った。他班は、うまく儀式を中断させられただろうか。
「お魚さん、こっちだよ!」
 クーが歌で気を引く。このまま戦いに夢中になっていればシェイドアングラーは儀式どころではなくなる。だが、肝心なのは倒すこと。
「コールさんに、決着つけさせてあげるんだ……!」
 クーが思わず口走った言葉に、イノリが耳を揺らした。
「……そうだよ、決着」
 絶対に倒す。気持ちを乗せたイノリの足技が敵の身を焼いた。
 攻撃は、当たっている。効いてもいるようだったが、どこか手応えを感じさせないのは、やはり敵が死神という得体の知れない存在だからかも知れない。
 シェイドアングラーが身をくねらせて宙を舞うと、ケルベロスたちから受けた傷が、みるみるうちに塞がっていく。
「……ちっ!」
 コールがすかさず攻性植物の蔓を伸ばして敵を捉える。そこへソロとあおが左右から飛び込んで、一斉に斬りつけた。何度回復されようと、その分吸い取ってやればいい。
 手を休めずに斬りかかる攻撃手たちを、輪夏と玲斗もまた必死にサポートする。
「じっとしてろー!」
「してなさい!」
 イノリとアディアータのスターゲイザーで、再び敵の動きを封じた、かに見えたが。
 突然、死神の姿が消えた。
「な……っ」
 もちろん、本当に消えたわけではない。これまでのフワフワした動きを一変させたシェイドアングラーは、暗闇の中で身を捩って泳ぎ、一瞬でクーの喉元に噛みついていたのだ。
「うあぁ!」
 仲間たちの顔色が変わった。が、ディフェンダーであるクーは、咄嗟に肩を入れて致命的ダメージを避けていた。後衛に下がったアディアータが、その威力にゾッと背筋を寒くした。あれを彼女が食らっていれば、危なかったはずだ。心配ないよ、と言う代わりにクーが気丈に蝶の翅を揺らす。
 これ以上、仲間が傷つく姿を見たくはなかった。コールの手にある強化精霊長銃『イフリート』が、ほの暗い影に包まれる。再び赤いオーラを纏ったコールの銃口が、シェイドアングラーを捕らえた。
「―――裏技の中の裏技だ。真似すんなよ―――」
 黒く染まった武器から放たれた黒い弾丸。銃本来のそれとは姿を変え、異質なものとなった正確な一撃が、シェイドアングラーに命中する! 
『オギャッ』
 これまでとは、質の違う悲鳴があがった。ケルベロスたちの与えたダメージは、着実に死神を蝕んでいる。クーから離れ、ヨタヨタと宙を漂う死神。ふと、ソロはシェイドアングラーの頭上の少年が気にかかった。彼は何を思い、何を考えているのか。それとももう何も感じてはいないのか……。
「……倒す!」
 思いを振り払うように、ソロが攻撃の手を重ねる。ここで倒しきってしまわないと、また回復されてしまう可能性があるのだ。
「魚の動き、鈍らせてやる!」
 クーが歌声からは想像もつかないようなコーキュトゥイング・ハウルを放ち、どるちぇと連携攻撃をする。そのクーの傷を癒しながら、玲斗は戦況を分析していた。このまま進めれば勝てる、だが油断は出来ない。先の噛みつきの一撃といい、一度の攻撃で優劣が入れ替わってしまうのは、そう珍しいことではない。
 輪夏も油断なく立ち回り、攻撃を重ねる中でも『儀式』に極力注意を払った。万に一つも、ここで新たなシャイターンなど呼び出されれば、戦線は一気に崩れてしまうだろう。
『フフフフフ、フフフフフフ……』
 これまでになく、大きな笑い声が響いた。敵は再び、不吉な黒い陰を集め始めた。来る、と身構えるケルベロスたち。黒い塊が弾けとぶ。
『コール……』
 確かに、そう聞こえた。次の瞬間、死神が放った黒い弾丸の中にシャドウエルフの少年の顔が浮かび上がったのだ。
「あぁっ?!」
 動揺するイノリと玲斗、そしてアディアータもその弾丸を食らってしまう。輪夏の青い瞳も、確かに弾丸の中に少年の姿を見ていた。
『ウフフフフ……』
 頭上に少年の姿を宿したまま、シェイドアングラーはグルグルと宙を回りだす。あまりに禍々しいその動きは、ケルベロスたちを一瞬不安にさせ、沈黙させた。
 このままシェイドアングラーを倒してしまって、コールの心に添うことが出来るのだろうか。
「構わなくて、いい」
 過ぎった不安を払拭したのは、コールの声だった。動き回る死神をストラグルヴァインで捕らえ、静かな声で言う。
「これは……俺の過去」
 忘れていた、目を背けていた過去。……向き合わなければならないもの。
「……わかったよ」
 頷いたソロが雷の一撃を放ち、飛び出したあおのナイフが鋭い軌跡を描いて敵を斬り裂いた。その瞬間。
 ふわりと、シェイドアングラーの頭上から少年の姿のみが離脱した。
「あ……!」
 全員が見つめる中、シェイドアングラーの体は散り散りに砕け、黒い煙のようなものとなって消えていく。それに一歩遅れて、シャドウエルフの少年の姿もまた、溶けるように空に吸い込まれていってしまった。

●撃破
「れ、連絡こなかったけど……他の班、大丈夫だったかな」
 戦いを終え、はたと思い出した連絡係のイノリが慌ててトランシーバーを取り上げ、一番近いであろうシュヴァルツトゥーン班へ連絡を入れた。
「こちらシェイドアングラー班イノリ。シェイドアングラーは倒したよ! そっちはどう?」
 程なく、他のトランシーバーにも勝利の連絡が次々に舞い込んできた。
「はい、四条……そう、お疲れ様。ケガ人はいない?」
「ん、皆お疲れ様。まだ、もう一頑張りできる人、いる? ううん、こっちは勝ったけど。ヒール、とか」
 団長の野望は阻止されたのだ。
 地に倒れ伏していたシャイターンの体もさらさらと砕けて消えた。その様子を見送って、アディアータがなんとなくため息を吐いた。
「こうなってくると逆にかわいそうなのかもね……?」
 ケルベロスたちに安堵が広がる。敵の大きな作戦を阻止し、仲間の宿敵を討つことも出来た。傷つく覚悟と、戦い抜く決意を持って挑んだ結果なのだろう。だが。
「……」
 あおが、変わらない無表情のままでコールの背中を見つめていた。
 コールの忘れ物は見つかったのだろうか。それは彼にしかわからない。
「帰ろう……コール」
 本物のボク。
 呟きは、夜空に消えていった。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月3日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 4
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