星霊戦隊アルカンシェル~赤く燃ゆる

作者:ヒサ

「『星霊戦隊アルカンシェル』を倒す作戦について、纏まったわ」
 ケルベロス達の提案を元に組まれた作戦概要を記したメモを片手に、篠前・仁那(オラトリオのヘリオライダー・en0053)はそう言った。
 かのエインヘリアル達へ正面から仕掛けるのは無謀。だが、上手く彼らを分断出来れば勝機はある。一チームでは難しくとも五チームで当たれば、と彼女は地図を広げる。
「彼らが次に現れる場所は此処。……まずは、あなた達の中から一人、他のチームからも一人ずつ、合計五人に囮になって貰う必要がある」
 アルカンシェル達の出現地点へ囮役の五名が乗り込み戦闘を仕掛け、敵達を挑発して各人一体ずつを引きつけた上でばらばらに撤退すれば、アルカンシェル達の追撃を誘い各個撃破を狙えるだろう。彼らは手練れの戦士でありながらこのところずっと、その腕を揮う機会に恵まれていなかった様子であることだし。
「──あなた達の中からは、囮は、一人」
 仁那が繰り返す。
「赤色の……『スタールージュ』を引きつけたら、彼を自分のチームメイトのもとへ誘導する事に専念してちょうだい。囮役が途中で倒れてしまったり……そもそも挑発がうまく行かなかったりすれば、彼が同胞の援護に向かって他のチームが危なくなるかもしれないわ」
 その場合、他のチームの救援に向かう事は不可能では無い。だが、状況を把握し駆けつけるには、五分以上の時間を要すると考えられる為、場合によっては罠に嵌められるのはケルベロス達の側になるかもしれない。
 ゆえに、囮役の責任は重い。敵達の性格を踏まえた上で、挑発の仕方、撤退順やその際の演技などに工夫を凝らす必要があると思われる。チーム間の連携が取れ過ぎているように見えても敵はケルベロス達の行動を怪しむだろうし、稚拙な挑発ではそもそも相手を乗せられないだろう。
 更に囮役は、敵達を分断するに足る距離をチームメイト達のもとへ移動する間、怪しまれる事なく敵を引きつけ続け、その攻撃を凌がねばならない。仲間達が迎撃に動けるようになる頃には、戦う力が残っていない可能性が高い──ケルベロス達が万全の態勢で迎え撃つ事は、出来ないと考えて良い。
「囮は、色々と損な役回りではあるけれど……大事な、役割よ。上手く動いてくれれば、待ち伏せた仲間達の手で、敵を倒す事が出来る」
 適役を一人、ケルベロス達自身で選んで欲しいと彼女は言い。
「──作戦は調った。準備もまもなく。以前とは違うわ……危ないのは、一緒だけれど」
 以前、アルカンシェル達がオーズの種を発芽させて回り始めたばかりの頃。人々の命を守って欲しいとケルベロス達へ依頼していたヘリオライダー達は、策も無くエインヘリアル達へ仕掛けるのは危険だと憂えた。それゆえに我慢を強いられ歯痒い思いをしたケルベロスも居るだろう。
「今なら……あなた達皆の、力があれば。あなた達ならば彼らを倒せると、彼らの行動で沢山のひと達が危険に晒されるような事はもう無くせると……わたし達は、信じている」
 強く、信頼の色を瞳に乗せて少女は真っ直ぐにケルベロス達を見つめた。


参加者
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
罪咎・憂女(捧げる者・e03355)
パティ・ポップ(溝鼠行進曲・e11320)
志臥・静(生は難し・e13388)
風音・和奈(固定制圧砲台・e13744)
獅子鳥・狼猿(世界に笑顔を・e16404)
白刀神・ユスト(白刃鏖牙・e22236)
ロア・イクリプス(エンディミオンの鷹・e22851)

■リプレイ

●苦
 敵の連携を阻害し各自の目標を釣る。その目的に限って言えば、一騎打ちを仕掛ける策は悪く無かったろう。
 だが先んじてローズとブルーへ仕掛けたイリスとフローネの状況は酷く悪い。圧されている、どころでは無い。束の間であれ一人で相手取れる敵では無かったのだ。瞬く間に傷が増え行く二人を案じ、ロア・イクリプス(エンディミオンの鷹・e22851)は迷う。と、己と同じく木陰に身を潜め状況を窺っていたガロンドと目が合った。
 逡巡は彼も同じだったのだろう、刹那絡んだ視線は、けれど向こうから断たれる。そして『俺は予定通りに』と決意を告げるよう彼の目と手がジョーヌを示すのを見、ロアも迷いを捨てる。強く頷き返し、通信を繋げたままのマイクへ告げた。
(「ルージュ担当、仕掛ける」)
 下手な介入では事態を悪化させかねないし、作戦そのものが立ち行かない。ロアは星辰宿す二振りの剣を握り、ルージュの前へ出た。敵達に一瞬警戒の色が過ぎったが、臆する事なく堂々と、彼はルージュだけを見上げる。
「よう、あんた今暇だろう。俺とやろうぜ」
 ローズとブルーがそうしているように。緊張を制しロアは不敵に笑んで見せた。彼を見下ろしルージュは思案する素振りを見せたが、胸元へ向けられた星剣の切っ先に目を留め頷く。
「良いだろう」
 その声には少なからぬ侮りがあった。彼も先の二人と同じく、ただの無謀な死にたがりだろうと。
 それでも同じ得物を携え同じように相対するを望むならばと、赤きエインヘリアルもまた、剣を抜いた。

 各々目標を捉えて戦うは四対。だが過ぎる力量差と、状況に目を配るノワールの存在により、誰一人この場から抜け出せずに居た。機をはかる事は諦めず、されど劣勢のまま暫し過ぎ。やがてブルーと相対していたフローネが、倒れた。
 状況は絶望的。仲間の危機に、微かなれど心を乱したその刹那。ルージュの重い一撃にロアが打ちのめされる。膝を折る事は拒んで、予測出来た追撃を捌く術を探し目線を上げた彼はその時、風の音と耳慣れぬ呻きを聞いた。
「ブルー! 無事か!?」
 それは、ルージュも同様。眼前の獲物から視線を外した己が敵の驚愕を見てロアは、ノワールを襲撃する機を窺っていた雅が動いた事を知り、好機と続く。
「あんたの相手は俺だろう」
 手に宿した気弾で敵を穿つ。『暴走』を選んだ雅が変えた流れに警戒を向けつつもルージュがまず示した仲間意識を、捉えてロアは侮蔑して見せた。
 その一撃と嘲りに、敵の存在を思い出しルージュが顧みる。ロアは一息に敵から距離を取り、公道へ至る途にて剣を手に標的を招いた。重い体に鞭を打ち、未だ余裕がある如く振る舞う。この機を逃すわけには行かない──引き戻されれば手詰まりだ。敵が乗ってくれる事を期待して、ロアは急ぎその場を離脱した。

●辿
 月が隠れた闇と、張り詰めた静寂の中。彼らは耳元に受信する囮担当達の状況に気を揉んでいた。
(「落ち着かなきゃ……信じるしかない」)
 地上、予定の交差点にほど近い商店の陰に身を潜めた風音・和奈(固定制圧砲台・e13744)はマイクを塞ぎ深く息を吐く。
 計画は早々に破綻した。それでも何とかルージュだけを連れ出せたと判った時は数名が安堵を零した。
「白刀神および罪咎、動きます」
 抑えたロアの声がじき住宅地を抜けると報せて来た頃、罪咎・憂女(捧げる者・e03355)がマイクを通し告げた。建物の上に待機していた二人が翼を広げる。早々に敵に気取られる事は避けねばならないが、ロアに万一があってはと。
「ヨロシク。出来れば背後に回って貰えりゃ」
「オッケー」
 キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)の依頼に白刀神・ユスト(白刃鏖牙・e22236)が応じる。理想は交差点で包囲、手前で仕掛けざるを得ないなら大通りで挟撃を試みる算段だ。
「すみません、もう暫くご辛抱を」
「アタシも走るね。二人はロアさんをお願い」
 地上を行く者達は正面を塞ぐ予定。改めて確認を取り志臥・静(生は難し・e13388)はロアへ、己の翼は目立つやもと和奈は空へ上る二人へ言う。報告曰く誘導経路は今の所計画通り、彼らは速やかに動き出した。

「居た!」
 敵の視野に入らぬよう上空を進んだ二人はやがて、求めた姿を捕捉した。追う側のルージュからは幾度も星辰が気と放たれる。先を行くロアは防御と治癒に徹し凌いでいるが、肉体の限界を押して動く彼からの報告はもう、疲労と苦痛を繕えない。駆けながらゆえに単調な敵の攻撃を読めたとて、避ける余裕も無かった。
 罠と露見するのは遅い方が、仕掛けるのは包囲完了後の方が望ましい。とはいえ、と空の二人が躊躇う間にもルージュが青年を追い上げて行く。
「ぐっ……伊達にデカい図体してねぇな」
 気のみならず、最早剣身が届く間合い。背に受けた重い斬撃にロアが呻き、ならばと踏み込み同じく加護を砕く一撃を返した彼は、しかしほどなく力を失い頽れる。その姿にルージュは剣を持つ手を下ろしたが。
「正面は?」
「到着は未だもう少し」
「っ、すまん、待てん!」
 動けぬロアにとどめをと、敵は思考したのだろう。再びかざされた剣が不穏に瞬く様を見、ユストの翼が翻る。急降下と共に敵へ蹴りを見舞った彼に続き憂女が地上へ降り、巨躯の正面へ。
「それ以上はお待ち頂こう。同胞の危機、見過ごせぬ」
 不意を突かれる形となりルージュは目を瞠ったが、やがて不敵に笑う。
「一人が二人になったところで後を追って貰うだけだぞ」
「地上、到着ちたでち!」
 その時割り込んだ報告は通信機越しのみならず。パティ・ポップ(溝鼠行進曲・e11320)の声が夜を裂き、既に刀を抜いた静の斬撃が衝撃波となり飛来する。
「生憎二人では無い……ここで逢ったが初めまして」
 進み出たのは獅子鳥・狼猿(世界に笑顔を・e16404)。直接まみえるのは初なれど、アルカンシェル達にはかつて大切なものを奪われた──この場へ至る少し前、仲間達に問われて彼は、低くそれだけを明かした。
 ユストが旋回し敵の背後へ降り立つ。建物の屋根を伝い跳んだキソラがその前へ。意識を失ったロアの身は後方へ逃がし、ひとまずの包囲は成った。
「──デッドエンドは貴様にこそ相応しい」
 役目を果たした仲間への感謝を囁いて後、敵へと放たれた狼猿の声は静かに、されど激しく燃えた。

●痛
「少しでも被害を減らすよ……!」
 和奈が防護の鎖陣を敷く。主の命を受けきよしが敵へ殴打を加える。憂女が空に放った超音波が場の気を染め上げ仲間達へ力を与えた。まずは着実にと、求めてケルベロス達は敵へ呪詛を与えるべく攻める。その歩を鈍らせ、かの身に確かな傷をと。
 彼らの連撃は、標的を捉えた感触を得物を介し担い手へ伝えた。だがルージュに堪えた様子は見えず、また、続けた大技は敵の剣に打ち払われる。対し反撃は、眩く拡がってなお、前衛達へ猛威を振るう。盾役達が動き被害を抑えたが、当の二人が顔をしかめる結果となった──改めて、ロアが成した事の意味を知る。人数を揃えた今とて、脆い箇所を狙われれば容易く瓦解しかねない。
 とはいえ、それは敵が守りより攻めを重視しているからとも判る。ゆえ、正確に攻撃を重ねて行けばいずれは、と彼らは臆さず敵を囲み立ち回る。
 だが。畳み掛けれど、連携を取りきれぬ隙を突かれ手酷いダメージを貰う事や、相手が相手ゆえだろう、攻撃の精度を確保出来ずに一手一手が賭けじみて、十分な効果を期待出来かねる事がちらほらと。加護を重ねてもまだ足りず、和奈は鎖を広げる機を窺うが、敵の攻撃の一つ一つがやはり重い。躊躇う少女を解放すべく、盾役達が声をあげる。
「オレッちの事は後で良い、構うな」
「同じく。私達が枷になるなど耐えられぬ」
「……ありがとう」
 治癒より守護をと和奈の鎖が鳴り広がる。狼猿は己の回復を優先しつつ守りに徹し、憂女は皆の攻撃を緩めさせぬ為に再度大気の流れを正す。敵火力の低減こそ星剣に阻まれ為し得なかったが、ユストは敵へと傷を重ね、その足運びの更なる鈍化を狙う。キソラが与えた残り火は敵の身を焦がし、静の刀が正確に獲物の肉を裂く。
(「イレギュラーを警戒ちゅる必要は無い……と良いでちゅが」)
 囮達が仕掛けたのは、敵が今回の『種』を回収するより前。とはいえ、彼らが持ち帰った種をどうしているのかにも依る、とパティは警戒を緩めず、敵の挙動に注意を払い闇を駆ける。
「喰らうでちゅ!」
 そして機を見て仕掛けた。敵の死角へ跳び、体幹ごと揺らす蹴りを見舞う。
「っ……!」
 顔をしかめたルージュはしかし素早く身を翻し、離脱を図る少女を捉え剣を振るう。パティの小さな体が血の尾を引き横ざまに打ち捨てられた。
「──ごめん、でち」
 悔しげな声が、繋げたままでいた通信機を介し仲間達の耳に届く。幼い騎士の矜恃は、負傷ゆえばかりでない痛みに軋んだ。
 先の衝撃を身に残してなお、敵の攻撃は苛烈。攻め手への追撃を盾役達に防がれルージュは、傷抉る刃を操るユストへ狙いを変えた。纏う衣の護りだけでは防ぎきれなかった痛みに危機感を抱く彼へ、後方から攻めの手を緩めるなと要請が飛ぶ。呪詛を重ねねば危険──時としてこちらの加護は敵の手で砕かれるゆえ余計に。
「傷はアタシ達に任せて!」
 和奈が矢に治癒の力を篭めた。仲間を支える為の弓を祈りと共に引く。きよしも画面を瞬かせ支援した。癒し手達には既に攻撃に加わる余裕など無かったが、懸命に役目をこなして行く。代償めいて守りの加護が薄れ行くのは盾役達で支えた。
 だが暫しの後。戦線を支える癒し手達を煩わしく思ったか、敵の術によりきよしが倒れた。務めの為にと派手な動きは控えていたが、いざ標的とされれば逃げきれず、また、耐えられなかった。加護があっても侮れぬその威力に、ルージュに自由な行動を許す事はあまりに無謀だったとケルベロス達は痛感する。多少の危険は承知と、備え耐え抜く戦法を採ったものの、加護は重ねれど未だ足りず、敵への呪詛もまた同じ。敵の回避を妨げれど力量差がそれを不足とし、役割分担も裏目となり凌がれた際のフォローが不十分、結果手数が奪われる。
 追い詰められ行く現状を認めざるを得ない。後を託し倒れた者達の思いに応えねばならぬのに──憂女は歯噛みする代わり、咆哮を三たび。
「キソラ」
「任せとけ」
 そして、重ねた縁ゆえに幾らかは呼吸も読み合い得る友へと託す。同じ判断をして声より早く動いていた彼と、畳み掛け攻め崩すべく続いた暗殺者の背を視界に捉え、彼女は敵の警戒へ意識を戻す。星辰が震える術の予兆を見、身を侵す凍気を堪え奮闘する癒し手を守った。けれどそれで終い、憂女の体は主の意志に背き膝を折り、月色の鈴が無念に泣いた。

●別
「──貴様は」
 既にルージュの負傷も決して軽いとは言えない。だが、少なくない血を零しながら今もなお剣筋を鈍らせぬ敵の姿を見据え、静が口を開いた。
「数束ねる頭になって、強くなったのか?」
「何の話だ」
 絶えず攻撃を続けていた一人がふと足を緩め正面に位置する様に、敵が警戒を露わにした。
「ただの与太話だよ。折角だ、少し付き合え」
 青年の唇が笑みの形に歪む。戦場の時が僅かに緩み、互いの次を警戒して空気は引き絞られ、ほんの一瞬静寂があった。和奈が破呪の矢を放ち、敵の死角を探して跳んだユストが今一度銃を構える。
 光弾が敵を捉え、罠かとルージュが顔をしかめる。されど静は気に留めた風無く語る。
「実は俺は群れるのが苦手でな」
 今、仲間と共に戦えるのはきっと立ち位置が同じだから。人の上に立って他人の分まで面倒や責任を負うなど、と彼は息を吐いた。言葉と共に振るわれた二刀が、風を斬り裂き不可視の刃となり敵を襲う。血を噴いた胴に眉をひそめるも、ルージュはケルベロス達を見据え否定を紡ぐ。
「俺が皆の上に居るんじゃない。俺達アルカンシェルだってお前達ときっと同じだ」
 対等で在れる仲間が居るからこそ。そうルージュは応じながら、はっと目を瞠る。
「そうか……!」
 その時初めて、ルージュの顔に焦燥が浮かんだ。含むところの無い真っ直ぐな戦意に澄んでいた彼の目に、怒りが灯る。そうして激情のままに剣を振るい彼は、魔を降す拳撃を放つ狼猿を真っ向から叩き斬る。振り抜かれた剣に邪魔だとばかり跳ね飛ばされた彼は、その身を案じたキソラと目が合い、心配するなと言うよう笑んで見せた。
「だが……悪いな」
 気概、だけではもう立てない。深い裂傷と溢れる血が、下手に動いては危険と報せる。それでも、諦める事を拒む意志が身を苛む。ゆえに彼はそれを仲間へ預けた。
「奴を頼む……。俺の事はその後にでも」
 だから無事で、と。胸中に等しく重い、もう一つの望みに包んだ。応じ頷いたキソラが敵へと向かう。
「お前達は俺達の分断を狙ったのか……やってくれる」
 ルージュの声が悔やむ色と共に低く地を這った。それをかき消し閃く雷牙と、轟音に紛れ影の如く忍び寄る弧刃。幾度目か、息を合わせた攻め手達の連携を受けなお屈さぬ敵は、地を蹴りケルベロス達の包囲を脱する。
「遊びは終わりだ。ローズ、無茶するなよ……!」
 各人の性格等を考えての懸念なのだろう。ごちてルージュは、まだ煩わせるならば殺すと言わんばかりにケルベロス達を睨め付けた後、瓦礫と化した建物を越えて去り行く。
 容易く背を向けたその姿に静が舌打ちを一つ。だが彼はすぐに殺気をおさめ刀を下ろした。業腹ではあるが、ここでルージュが退かなければ勝てたかと問われれば、頷けはしない。こちらは半壊、今追撃を試みたところで返り討ちに遭うだけだ。
「退くしかねえか……」
「悔しいけど」
 敵が消えた闇を睨むユスト。頷き和奈は仲間達を介抱すべく瓦礫の合間へ歩を進める。
 ルージュ個人に関して言えば、彼の誇りは闘争の為にのみあるものでは無かったのだろう。それは結果として自分達を助けたが、ゆえに無念──後一歩、にも迫れなかった。
 少女を手伝う前に静は、荒れた路面に膝をつき肩で息するキソラを助け起こした。別の場所で今もそれぞれ奮戦しているであろう同志達への連絡を依頼する。
「お疲れのところすみません」
「んにゃ、起きてんだからオレがやんなきゃだしな」
 倒れた仲間達の殆どは意識すら無い。その痛ましい姿を視界の端に捉えキソラは背筋を伸ばす。他チームとの連絡は、その身が無事である限り彼の役目だった。呼吸を整え通信を確認してのち口を開く。
「スマン、ルージュに逃げられた──」
 なるべく簡潔に明瞭に事態を報告して各チームへ警戒を促した彼はふと、周囲の仲間達へ今一度視線を巡らせ。
「……全員、無事で」
 既に少なくない被害が出ている事は耳に入っている。それでもなお彼は、戦いの中で仲間から託された祈りにして、己が胸にも灯る願いをそう、紡いだ。

作者:ヒサ 重傷:パティ・ポップ(溝鼠行進曲・e11320) 獅子鳥・狼猿(猟兵王かばおくん・e16404) ロア・イクリプス(エンディミオンの鷹・e22851) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月3日
難度:やや難
参加:8人
結果:失敗…
得票:格好よかった 20/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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