星霊戦隊アルカンシェル~黄星の轟撃手

作者:朱乃天

 ヘリポートに集まったケルベロス達を前にして、玖堂・シュリ(レプリカントのヘリオライダー・en0079)が今回の作戦について話し始める。
「ケルベロスの皆の作戦提案によリ、五人組のエインヘリアル『星霊戦隊アルカンシェル』の討伐作戦を行うことが決まったよ」
 オーズの種を回収する為に暗躍を続けていたエインヘリアルの戦闘部隊。その陰謀を阻止すべく、ついに彼等と戦う時が訪れた。
「五人をまともに相手取れば勝つことの難しい敵だけど、戦隊を分断し、複数のチームがそれぞれ離れた場所で一人を相手に戦えば、撃破も不可能ではないよ」
 つまり、五組のチームを編成し、エインヘリアル一人に対して一チームで当たるよう、敵の戦力を分散させるというわけだ。
 星霊戦隊が次に現れる場所は、予知によって特定できている。
「まずは各チームから一人ずつ、合計五人のケルベロスがこの場所に乗り込んで、星霊戦隊に戦闘を仕掛けてほしいんだ」
 彼ら五人が敵を挑発した上で、囮となって別々の方向に撤退すれば、これまでの作戦で鬱憤の溜まっているアルカンシェル達は、五方向に分かれて追撃してくるはずである。 
 そして逃走した五人がそれぞれ仲間の元まで逃げ切れば、アルカンシェルを各個撃破することができるだろう。

 シュリは引き続き、囮作戦の内容を説明する。
 囮役は作戦の成否を決める重要な役割であるが、たった一人で、敵の追撃を引き受けて逃げ切らなくてはならない。その為、各個撃破する戦いが始まる頃には、戦う力は残っていないだろう。
「要するに、敵の一体をチームに誘導するまでが囮の役割になるよ。その後の戦闘には多分参加できなくなると思うから、その点は十分注意をしてね」
 また、アルカンシェルの五体はそれぞれ性格が大きく違う。
 相手の挑発の仕方や、或いは、撤退する順番や撤退時の演技など、相手に合わせた作戦が必要かも知れない。 
 もし全員が一糸乱れずに別方向に整然と撤退してしまうと、その行動を怪しんで追ってこない可能性がある。
 慎重な相手を激怒させて判断力を削いだり、或いは、迂闊な相手を最初に釣り出して撤退し、なし崩し的に追撃を行わせるように計るなど、対応策を考えなければならない。
 更に状況によっては、複数のアルカンシェルが連携して一人を追いかけるような結果になる場合も考えられる。
 この場合は、追っ手のかからなかったチームが、複数のアルカンシェルに襲撃されるチームの救援に向かうことができるが、救援は急いでも五分以上かかってしまう為、状況によってはこちら側が各個撃破されてしまうだろう。
 何はともあれ、囮役が役割をしっかりと果たせば、残りの七人でアルカンシェルの一体と戦うことが可能になるというわけだ。

 作戦の詳細を伝えたところで、今回このチームが戦う敵の戦闘能力の説明に移る。
「キミ達が戦う相手は、アルカンシェルの一人『スタージョーヌ』だよ」
 黄色の鎧を纏った、豪快そうな恰幅のいい大男。バズーカ砲を肩に担いで、オーズの種の回収時に砲撃を放って攻性植物を出現させていた彼だ。
 スタージョーヌは戦闘になると、バスターライフルのグラビティを駆使して攻撃を仕掛けてくる。
 敵の力は強大だ。だが、ここで星霊戦隊のメンバーを倒すことができれば、エインヘリアルの作戦に打撃を与えることは間違いないだろう。
「かなりの危険が伴う任務になるけれど……どうか、必ず無事に戻ってきてね」
 シュリはケルベロス達と顔を見合わせた後、静かに目を閉じて、戦地に赴く彼等の武運を祈るのだった。


参加者
犬江・親之丞(仁一文字・e00095)
ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)
此野町・要(サキュバスの降魔拳士・e02767)
柳橋・史仁(黒夜の仄光・e05969)
湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)
ガロンド・エクシャメル(愚者の黄金・e09925)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)

■リプレイ

●誤算
 エインヘリアルの精鋭部隊『星霊戦隊アルカンシェル』の分断を狙うべく、囮となって一騎打ちを挑むケルベロス達。
 だが彼等はすぐに後悔してしまう。敵と己の力量差を完全に見誤っていたことに。
「こいつは……甘く見過ぎたか……」
 木の陰に隠れて戦況を窺っていたガロンド・エクシャメル(愚者の黄金・e09925)の目に映るのは、先んじてローズとブルーに仕掛けたイリスとフローネが、一方的に蹂躙される姿であった。
 もし二人を救出しようと介入した場合、敵にも援護が加われば作戦自体が瓦解しかねない。余りにも形成不利な戦局でどう戦うべきか葛藤し、悩み迷って視線を背けると――。
 同様に身を潜めていたロアの赤い瞳と目が合った。彼も同じ思いか……ならば躊躇っている暇はない。ガロンドは自分が戦うべき敵を確りと指し示し、決意を込めて大きく頷いた。
「俺は作戦通り、スタージョーヌに行かせてもらう」
 先に仕掛けた二人の為にも――狂った歯車を戻そうと覚悟を決めて、突入と同時に一騎打ちを申し出る。彼は普段は竜の姿をしているが、戦闘では凛々しい人型の外見を取って敢然と立ち向かう。
「何や、ワイと戦うんか。メンドいのは嫌いなんやけどなあ」
 やれやれと欠伸をしながらバズーカ砲を構える黄色い鎧の巨漢の戦士。どうやらこの男は戦いには積極的ではないようだ。
「エクトプラズム……再構築。リブート!」
 ミミックの『アドウィクス』が発した光が、ガロンドの全身を昇竜の如く包み込み、黄金に輝く鎧へと変化する。
「よう分からんけど、ほな行きまっせ。どっかーん!」
 バズーカ砲の豪快な砲撃音が鳴り響く。その威力は凄まじく、ガロンドは派手に吹き飛ばされて地面に身体を叩きつけられる。
 それでも立ち上がって誘導を試みるのだが、戦況を見守るノワールの監視によって、逃走することもままならず。戦いは劣勢極まりない状態だ。
 更に最悪なことに、フローネがブルーの手によってついに倒れ伏してしまう。圧倒的窮地に追い込まれ、一人の命が潰えそうになった時――。
 ポニーテールの少女が突然乱入してブルーを蹴り飛ばす。彼女から迸る殺気は星霊戦隊をも気圧させて、一瞬全員の戦いの手が止まり、少女――雅は戦場に視線を走らせる。
 刹那、ケルベロス達は彼女に起こった全てを悟り、背を向けて瞬時に離脱を試みる。
「……すまない!」
 金色竜の青年は悔しさを押し殺し、合流地点で待つ仲間の下へと逃走を開始した。
 雅は横たわる紫水晶の乙女を抱きかかえて、戦場を走り去って行く。
「ルージュ、ローズ、ジョーヌ! それぞれ後を追え! 俺は……奴らを仕留める!」
 ブルーは血相を変えて二人の後を追い、ローズとルージュも別の囮を追って疾走する。
「へっ……ワイも行かなアカンの? うーん、どないしよ……」
「俺はブルーと行く。お前は、あの竜人を追え」
 他のメンバーが動く中、判断に迷っていたジョーヌだったが、ノワールに促されて仕方なく追撃するのだった。

●合流
「ほんま、人使いが荒いわー。あんな連中、適当にあしらっとけばええと思うんやけど」
 ガロンドにとっては幸運だったのは、相対するジョーヌは思ったほど真剣には追撃してこなかったことだ。
「来いよジョーヌ! バズーカなんか捨ててかかって来い!」
 追ってくるジョーヌを挑発するが、やる気のなさそうな黄色の戦士の反応は薄かった。
 ジョーヌが渋々と放ったバズーカの砲弾が直撃しそうになったその瞬間――アドウィクスが身を挺して主を護るが、その代償にミミック自身が砕け散ってしまう。
 いくらやる気がなくてもそこは精鋭部隊だけあって、一撃の破壊力は侮れない。従者を失くした主たる竜人は次第に追い詰められて、行き着いたのは人気のない空き地だ。
 立ち止まって竜型に身を変えるガロンドの背後から、ジョーヌがバズーカの砲口を突きつける。しかしガロンドに焦りの色はない。ニヤリと不敵に口元を歪めると、天を見上げて咆哮を上げた。
「そこまでだ、スタージョーヌ!」
「それ以上はさせないよ!」
 二つの影が高々と宙を舞い、彗星の如き煌めきが連続してジョーヌに襲いかかった。
 影の正体は渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)と犬江・親之丞(仁一文字・e00095)だ。この場所で待ち伏せていた彼等は、合図を受けてジョーヌを一斉に取り囲む。
「ここからは僕達が相手だ!」
 ガロンドを庇うように秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)が割り込んで、啖呵を切って注意を引きつける。
「ようやく来たみたいだな。待ちくたびれたぞ」
 仮面をつけた姿がどこか神秘的なワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)は、意地悪そうに微笑みながら、紙兵を展開させて迎撃態勢を整えた。
「どうやら余計な連中は連れてきてないみたいだな。後は俺達が相手をしてやるぞ」
 ドワーフの中では長身な青年、柳橋・史仁(黒夜の仄光・e05969)が落ち着き払った態度でジョーヌの前に立ちはだかった。 
「お疲れ様っ! 後は僕達に任せて、ゆっくり休んでね」
 此野町・要(サキュバスの降魔拳士・e02767)は囮の重責を果たしたガロンドを労って、正対する黄色の戦士に拳を向ける。
「……心配ない。どうやらまだやれそうだ。俺も戦わせてもらう」
 ガロンドも消耗はしているものの、動くことは可能な状態だ。ここまで来たら、行けるところまで行こうと腹を括った。
「な……ひょっとして罠やったんか!? こらアカン!」
 ジョーヌはケルベロスの計略に引っ掛かったと知ると、慌てて踵を返して撤退しようとする。だが湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)が退路を阻む。
「もう遅いですよ。絶対に逃がしません」
 大きく息を吸い込み深呼吸をして心を鎮め、巨大な腕の形をした御業を召喚してジョーヌを抑えつける。
 序盤の誤算はあったが、どうにか作戦通りにアルカンシェルの一人を包囲した。後はこのまま撃破するだけだ。
「俺達もヒーロー、ケルベロスなんでね。声援ももらえない戦隊には負けないのさ」
 数汰の手から伸びた光が一本の剣となり、間合いを詰めてジョーヌに斬りかかる。
「僕は……」
 親之丞はどこか思い詰めた表情で、それでも今は戦いに専念すべきと両脚に力を込めて、炎を纏った熱い蹴りを叩き込む。
「僕だって、みんなの力になれるんだ! そのことを、今見せてやる!」
 彼方の全身から燃え滾るような闘気が溢れ出す。未熟さを感じながらも強くあろうとする気持ちを拳に宿し、超越した力で拳撃を繰り出した。
「ああもう、面倒な奴等やな! ほな、これでも食らえ!」
 ジョーヌはいち早くこの戦場から脱出しようと、バズーカ砲を撃ち込んでケルベロス達を吹き飛ばそうとする。しかし紙兵を従えたワルゼロムがガードに入って、辛うじて攻撃を耐え抜いた。
「我を傷付けたいならロケット砲でも持って来い。この程度ではビクともせぬぞ」
 あくまで強気に振る舞うワルゼロムだが、受けた傷は決して浅くはない。全身の骨が軋む程の痛みを堪えつつ、やはり星霊戦隊の一員は伊達ではないと痛感するのだった。
「待ってな。今すぐに治療する」
 史仁が念を集中すると光で象られた盾が顕現し、ワルゼロムの周囲を飛び交いながら傷を癒して防御力を上昇させる。
「打ちぬくよっ!」
 この場からは絶対に逃さない。要はその強い意思を脚に乗せ、視認できない程の鋭い蹴りを放って足止めをする。
「そんなに急がなくても、少しゆっくりしていきましょう」
 美緒が気を練り上げて生成した黒い塊は、魔力の弾丸となりジョーヌ目掛けて発射した。
 何とかして抜け出しを図ろうとするジョーヌに対し、ケルベロス達は包囲を崩さないように連携し合い、徐々に奥へと押し込んでいく。
「お前の逃げ場はどこにもない。何故ならここで死ぬのだからな」
 数汰が研ぎ澄まされた日本刀を携えて攻め立てる。息をもつかせぬ素早い動きで翻弄し、隙を逃さず懐に飛び込むと、洗練された剣技で斬り払う。
「この調子で押し通そう。突破は絶対にさせない」
 史仁の身体に纏わりついた、黒い残滓の液体がジョーヌに飛びかかる。液体は触手のような形状と化して、ジョーヌを締め付けるように絡みつく。
「何やこれ、気持ち悪っ!?」
 身体に絡む黒い触手の不快な感触に、ジョーヌは思わず身震いしてしまう。とにかくこのおぞましいモノを振り払おうと、手当たり次第にバズーカを乱射する。
 破壊を招く光の奔流が、彼方に向かって伸びていく。回避が間に合わないと察知した彼方は、両腕を交差させて正面から光線を受け止めようとする。
 殲滅の光が彼方を飲み込んでいく、が――少年は倒れてはいなかった。身体は傷だらけとなって意識も失いかけたが、彼の真っ直ぐな思いが高火力の攻撃を凌駕したのだ。
「僕は……まだ倒れるわけにはいかないんだ! ブレイブスター! セットオン!」
 彼方が左拳を胸に掲げて合言葉を詠唱すると、ガントレットの宝石が輝き出して、紅蓮の鎧装が全身を覆う。
 ケルベロス達の戦いはまだ終わらない。これからが本当の正念場だ。

●黄星墜つ
 ドゴオオォォォンッ!!
 砲撃の轟音が戦場にけたたましく響き渡った。
 必死に逃げようとするジョーヌに追いすがるケルベロス達。幾度となく攻撃を浴びながらも、それぞれが身を盾にして撤退を許さなかった。
 戦いは激しい攻防が繰り広げられて消耗戦となり、互いの疲労の色が濃くなってくる。
「……悪い。後は、任せ……た」
 ここまで連戦を耐えてきたガロンドだったが、損傷は既に限界を越えており、奮闘虚しく倒れ尽きてしまう。
「ああ……あいつは絶対に俺達が倒す」
 数汰は振り向くことなく眼前の敵だけを見据え、大地を駆け地面を強く踏み込んで空高く跳び上がる。跳躍中に数汰は標的を見下ろし狙いを定め、落下の加速と共に重力を乗せた蹴撃を叩き込む。
「その皮下脂肪、全部燃やしてあげるっ!」
 要の鍛え抜かれた逞しい両脚から炎が燃え上がる。熱く灼けつくような蹴りがジョーヌの腹部に炸裂し、手応えを感じたのか要は得意気に笑んだ。
 そこへ親之丞が炎揺らめく御業を降臨させて、黄色の星霊甲冑を赤く灼き焦がす。
「この期に及んでまだ逃げようとはな。やっぱり黄色はお笑い担当でしかないのか?」
 ワルゼロムが挑発をして嘲りながら、回し蹴りを食らわせる。彼女の荒々しい一撃によって大気がうねり嵐を巻き起こし、ジョーヌの行く手を遮った。
 そして彼女に続いてミミックの『樽タロス』がジョーヌの突き出たお腹に噛みついた。
「辛いことは乗り越えないといけません。この何でもない日常を楽しくいきましょう!」
 疲弊している仲間達の身も心も癒そうと、美緒が明るい声で朗らかに歌い始める。美緒の笑顔とリズミカルな曲調が、戦いで負った痛みを和らげ活力を取り戻す。
「――たとえ仄かな灯りでも、集まればそれは希望となる」
 史仁がフードを目深に被り、魔導書の頁を捲って呪文を唱える。すると霧が発生して暗澹たる夜の闇を浸食し、明かりを灯して進むべき道筋へと導いていく。
「そろそろケリをつけようか。ヤタガラス、行くよ!」
 彼方が相棒のライドキャリバーを駆って攻勢に出る。速度を増して炎の塊となったライドキャリバーは、迷うことなくジョーヌに向かって突撃をする。
 鎧と鋼の塊が衝突し合い、金属が弾け飛ぶ音が木霊した。烈しい衝撃をジョーヌは凌ぎ切れず、ドスンと地面に尻もちをついてしまう。
「いてて……ケルベロスがこんなに強いなんて、聞いとらんで!?」
 不屈の闘志で何度も立ち向かってくる番犬達に、流石の星霊戦隊といえども脅威を感じずにはいられなかった。
「昏き深淵より来たれ、死王の眷属――」
 瞑目して詠唱を行うワルゼロムの周囲に、負の霊魂が招かれるように集まってくる。積もった怨念を晴らすべく、彷徨う亡霊達にワルゼロムが命令を下す。
「共に贄を九泉之下へと誘わん! ファントムディザイア!」
 欲望のままに生命を喰らおうとする怨霊の群れが、牙を剥いて驟雨の如く巨漢の戦士に打ちつけられる。醜悪なその存在は、恐怖心を煽って敵を怯ませる。
 動きを封じた今が好機と親之丞は判断し、二振りの斬霊刀を手に、気迫を剥き出しにして斬りかかる。
「我らに勝利を――犬江流二刀術、金赤反魂煌――!!」
 親之丞の一族が編み出した秘伝の二刀術。球体の闘気を生み出し澄んだ刃に光が集束されて、二本の刃を重ね合わせると。鋭利な光の槍となって敵の星霊甲冑を撃ち貫いた。
「相手は弱っています。一気に畳み掛けましょう!」
「逃がしはしないさ。これで終わらせる」
 美緒と史仁が互いにそれぞれの御業を呼び出して、ジョーヌを挟み込むように御業で掴んで捕縛する。エインヘリアルの大柄な体躯でも、それを振り解くだけの余力はもはやない。
「くっ、こんなはずや……せや! ケルベロスはん、ここは引き分けで手を打たへんか?」
 などと戯言を抜かすジョーヌに対し、要はニコリと笑みを返すが目は笑っていない。
「発現……練気……集中……開放っ!」
 降魔拳士特有の、魂を喰らう力を練り上げ闘気を腕に宿らせる。
「……ぶっつけ本番、当たれば御の字、上手く行ってよ……っ!」
 要は拳を広げて指を突き出し、鋭さを増した貫手を放つ。刃と化した腕は頑丈な装甲を打ち破り、肉体を深々と抉って赤い血が滲む。
「大砲は前衛と連携してこそ真価を発揮する。一人だけで動いたのがお前の敗因だ!」
 数汰は蔑むような冷たい眼差しで日本刀を振り翳し、空を穿つように高く掲げた。
「我が手に宿るは断罪の雷霆――その身に刻め。裁きの鉄槌を!」
 薄雲に覆われた空が震えて、青白い雷光が刃に引き寄せられるように落ちてくる。数汰は落雷を受け止めて紫電を纏った刃を、渾身の力で振り下ろす。
 ――金色に煌めく軌跡を描いて一閃。
 風を断ち、鮮やかな血飛沫が夜空に舞って。
 黄星の戦士は命の輝きを失って、重力に引かれるように地に墜ちた。

 先程まで剣戟が鳴り響いた戦場は、水を打ったように静まり返っていた。
 ケルベロス達は星霊戦隊の一人を倒したことに安堵しながらも、他のチームの動向が気掛かりだった。
 治療を受けるガロンドの脳裏には、最も残酷な決断をしたポニーテールの少女が浮かぶ。
 様々な感情が交錯して複雑な表情をしていると、要が無言で肩に手を置いて、首を力強く縦に振って頷いた。
 まだ全てが終わったわけではない――。
 成すべき務めを果たす為、地獄の番犬達は新たな戦地を目指して歩み始めた。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月3日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 25/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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