決戦、マサクゥルサーカス団~略奪の徒、殺戮の主

作者:雨屋鳥


 人馬宮ガイセリウム。その侵攻によって崩壊した街並みは、ヒールの補助もあり、既に復興を遂げている。
 至るところが煉瓦や水晶に入れ替わった街並みが、そこに沈んだデウスエクスとの傷跡を如実に表していた。
 府中市。のどかなその町の中、広い交差点。月の下、静まり返った深夜。
「さあさあ、我ら『マサクゥルサーカス団』のオンステージだ!」
 腕を広げた蛾の男。マサクゥルサーカス団、団長が鞭をしならせる。鋭く空気を裂く音が響いて、周りの影が動き出した。
「今宵は、豪華なキャストにゲストも加えての特別ステージだ。それでは始めようか、愉快なショウを!」
 海棲生物に似た姿をしたそれらは、団長の元を離れ散っていく。
 それぞれが、所定の位置についたと分かると、団長は鞭を地面に打ち、一際大きな合図を送った。
 それぞれが等間隔に青白い光陣を描き出す。
 光から染み出るように団長の傍らに現れたのは、褐色の肌、タールの翼を持った男の姿。
 シャイターン。切り裂かれた両眼、垂れた長い舌、絶えず漏らす狂人の笑いに理性の色は無く、両肩からは烈火が吹き上がっている。
 その姿に団長は、始まる殺戮の大舞台を思いその口を歪め、笑みを浮かべた。


「多くのデウスエクスをサルベージしていた、死神の『団長』が、新たな作戦を開始したようです」
 ダンド・エリオン(オラトリオのヘリオライダー・en0145)がその予知を告げた。
 ジン・フォレスト(からくり虚仮猿・e01603)をはじめとしたケルベロス達のサルベージ作戦の阻止が原因だろうと、彼は推測する。
「団長は、5体の強力な深海魚型死神を使役し、東京防衛戦で死亡したシャイターンをサルベージしようとしています」
 場所は、人馬宮の解体された跡地。
 そこで、死神達は大規模な儀式を行おうとしている。その最中ケルベロスに襲撃を受けた場合、サルベージしたシャイターンに迎撃をさせ、儀式を続行しようとするらしい。
「サルベージしたシャイターンを素早く撃破。そして、団長の儀式を中断させる必要があります」
 つまり、強化されたシャイターンと団長との連戦になる。
「撃破が難しいと判断すれば撤退も一手です」
 撤退すれば儀式を中断された死神は、同様に撤退する。
「撤退後、他の死神と戦闘しているケルベロス達に合流。確実に一体をほふる。と言うことも可能です」
 状況を考え、それに沿った作戦を立てなければ苦戦を強いられることは必至だという。
「マサクゥルサーカス団。強力な相手ですが死神の勢力を削る好機でもあります」
 ダンドは、鼓舞の言葉を掛けて呟く。
「……特別ステージ」
 団長が放った言葉に、その隠れた思惑が見え隠れする。
「不気味ですね」
 ただ、失敗すれば、凄惨な何かが起こる。それだけは確信すること出来た。


参加者
エンリ・ヴァージュラ(スカイアイズ・e00571)
ジン・フォレスト(からくり虚仮猿・e01603)
マキナ・マギエル(機械仕掛けの魔術師・e04145)
風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
久遠寺・眞白(勇ましき衝動・e13208)
エシャメル・コッコ(スーパーヒヨコ人・e16693)
ゲリン・ユルドゥス(橙色星の天人・e25246)

■リプレイ


 暗い夜空に青白い光と赤い炎が混じり合っている。
 静謐と、猛然と、交わる光を見つめて彼は、追憶を胸に一歩を踏み出す。
 記憶の再現とばかりに輝く照明。バックパックが自らの重みを訴えるようにアームを伸ばし始めていた。無意識に展開するその振動に、彼は少し笑みを浮かべ体の正面で手の平に拳を打ち付け、息を吐き出した。尻から伸びる髪色と同じ茶の長い尾は、少し毛を立たせながらも緩やかに揺れている。
 只管に鋭い視線を向ける先には黒衣を纏う人型の死神。
 マサクゥルサーカス団、団長。
 あの日、殺戮の劇の中で見た笑み。
「……遂に遭えたな」
 一人では無い。彼の周りには七人の人影がある。その全てが力を備え、信頼を置く仲間。
 ジン・フォレスト(からくり虚仮猿・e01603)は、大きく息を吸う。
「ここでお前を……倒すっ!!」


 久遠寺・眞白(勇ましき衝動・e13208)は猛々しく放たれた一声に盲目のシャイターンがこちらに気付いたのが見えた。理性を無くしたせいか、盲目であるからか、もしくはその両方か。その感覚はむしろ鋭いようだ。
 彼女に因縁は無い。だが、
「仲間の敵、友の敵」
 それで、十分だ。
 遅れて団長がこちらに気付き、鞭を振る。地面を抉り発した音を合図に、シャイターンは弾丸のように駆け出した。
 両肩の烈火をたなびかせる褐色の魔人が迫る前に、竜翼を広げた女性が手に持ったアンティークランプを掲げた。
「さぁ、クルル準備はOK?」
 エンリ・ヴァージュラ(スカイアイズ・e00571)の声にボクスドラゴンが淡い金の毛並を揺らして答えた。
「輝ける一番星よ」
 掲げたランプから空へと淡い光が零れ、周囲を明るく照らす。空に瞬く偽の月光に晒されたシャイターンは、それに構うことなく両手に煌々と火炎を吹き上がらせ、
「キハッ」
 軋むような笑みを浮かべ、ジンへと火剣を振るう。だが、その攻撃は彼には届かない。獣耳を揺らす少女が、自分の腕が焼けるのも厭わずオーラを纏う戦籠手でジェットのように噴く炎を弾き飛ばした。
 次いで、火剣を霧散させられたシャイターンに一閃。容赦のない斬撃が放たれる。
「逃がさない……っ」
 頭上から真一文字に落された一刀を躱したシャイターンに間髪入れず、振りぬいた刀を返し電光の如く突き出した。纏った雷が魔人の身を焦がすが身を退く事は無い。
 茶の瞳を見開き四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)は攻撃を受けながらも火剣を振り上げ反撃を狙う魔人に、刀を引き抜くと数寸、体をずらす。
 攻撃から逃げる為ではない。直後、それは彼女の体のすぐ傍を過ぎた。振り上げられた火炎に魔力の弾丸が着弾、星型の閃光が走り、その業火を凍結する時の中へと閉じ込める。
「ほかならぬジンちゃんの頼みな! コッコがズバッとお助けするな!」
 幻想の矢を放つミミックと共にファンシーな杖から魔弾を踊る様に打つ白い少女、エシャメル・コッコ(スーパーヒヨコ人・e16693)が言い、先程ジンを庇った少女、風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931)が月光の加護をジンに与える。
 ジンは取り出したチェーンソー剣を、炎を纏わぬ手刀で宙を切ったシャイターンに叩き付けた。身を削ぎ斬る刃に圧された魔人に眞白が鋭い流星の蹴りを放つ、と同時に辺りを禍々しい爆炎が包み込む。


 爆炎に吹き飛ばされたケルベロス達は、巻き上げられた土埃と煙に一瞬敵の姿を見失ってしまう。その虚を突く火炎の剣筋。
「千里さん! 左っ!」
 男性の慌てる声に反応した彼女は、煙の動きを察知した。瞬間、視界を塞ぐ幕を裂いて高熱を発する腕が振るわれた。
「……っ」
 咄嗟に腕を交差し攻撃を受け止める。衝撃を利用し間合いを取る千里の腕は焼け爛れていた。
「イタイのイタイの、とんでけ!」
 千里へと注意を投げかけたゲリン・ユルドゥス(橙色星の天人・e25246)はどこか幼い言動をしながらも、爆炎や火剣に焼かれた味方へと薬液の雨を降らせ、その痛みを和らげていく。
「容易い相手ではないのでしょうが」
 その雨に薄くなる煙の中を、激しい駆動音を鳴らしレプリカントが駆ける。高速で回転する貫手は煙を吹き散らしながら、シャイターンへと突き刺さった。マキナ・マギエル(機械仕掛けの魔術師・e04145)の放ったスパイラルアームは褐色の肌を突き破り、その体に風穴を開けた。彼は血を回転で飛ばしながら腕を引き抜き、魔人を蹴り飛ばす。
「今出来る事を、全力を持って成すだけです」
「キ、ハハ」
 炎の魔人はタールの雨を撒き散らしながら猛威を振るう。響のライドキャリバー、ヘルトブリーゼが内蔵した機関銃を打ち放つが、その全てを走りぬけ回避した魔人は両の手に火剣を顕現させ、エシャメルの体を斬り裂いた。そこへエンリの放った矢が突きたつ。エシャメルのファミリアロッドがニワトリの形状を取って攻撃を加え、千里が円弧を描く斬撃がシャイターンの脇腹を切り開く。
 魔人のばら撒く爆炎を突き抜けたジンが獣化した腕を叩き付けて火剣を吹き飛ばし、その隙を突いた響の獣撃拳をシャイターンは爆炎で弾き逸らした。だが、間髪入れず眞白の繰り出した後ろ回し蹴りが、シャイターンの体を宙に浮かせ、
「ヴァラケウス」
 マキナの突き出した掌から溢れだした無限世界より来る竜火の奔流がそれを呑み込んだ。
「ヒッ……カカハッ」
 宙をざんばらに舞い、地面に激突し転がりながらも、立ち上がろうと手を付く狂人は気付かない。
 その眼前には既に拳を引き切ったエンリが立っている事に。そして、自らの体に足はもう無いという事に。
 感覚が鋭かろうと痛みを正しく判断できず、自らの惨状を悟れず、立ち上がる事も適わない。ゲリンの降らせる白い薬雨は、その作用をデウスエクスには与えない。
「哀れだね」
 呟き落とされた彼女の拳は、道化の魂を残さず食らい尽くした。


 傷は多いが、誰も戦意も力も失ってはいない。シャイターンを撃破した彼らは、未だ青白い陣を描いている団長を見つめ、しかし焦る事無く準備を整える。
 駒の撃破には気付いているのだろうが、その儀式を止めようとはしない。各々すべきことを短く終えたケルベロス達は、大地を蹴った。
 アームが躍る。無造作に振るわれたように見えた鞭が異様な速度と圧力を持ってジンに迫るが、バックパックのアームでのたうつ大蛇の様なそれを弾いて逸らす。
 両腕を猿へと変化させたジンは、組み合わせた両腕を叩き付けた。地面が捲れ、八方に亀裂が走る。だが、それを団長は間一髪で躱していた。
「前座は、お楽しみいただけたかな?」
「黙れ……仲間の敵、取らせてもらうぞ!」
 怒るジンの姿に、団長は赤い複眼を歪ませて笑みを形作る。
「おや、貴方は、お会いしたことが……ぁあ」
 依然、青白い光を放ちながら、その視線はジンの顔と背中を行き来し、恍惚と言葉を紡いだ。
「貴方のお仲間は素晴らしかった……素晴らしい喝采を私にくれた。喜ばしい事だ。また、ショウに来場いただくとは」
 蠢く。不気味に、その瞳は、脳をかき混ぜるように毒を垂らす。血管を、蛆が這いまわるような、不快を振り払おうと、手に持ったチェーンソー剣を振りまわす、その直前にジンの体を暖かな何かが覆った。
「変身っ!」
 走りながら人型から獣人へと変じた響が月光の加護を自らに与え、千里が団長へと肉薄し抜刀と同時に月弧を描く剣撃を放つ。が、巧みに操られた鞭がそれを阻む。
「……斬る」
 死神を、それも人型の死神を生かしてはおけない。瞑目し再び開いた千里の瞳は元の茶では無く緋色に揺らめいていた。
 再度、刃を振るうが容易く躱される、が躱したその体にエシャメルの放った炎弾が直撃した。直後、団長の体を覆っていた青白い光はその衝撃に弾け飛び、宙に描いていた魔方陣も光の飛沫と散った。
「……ショウの邪魔を」
 笑む口元をそのままに炎を振り払った団長が言う。橙の電気が交差し、七色の爆煙がケルベロス達を守護し鼓舞する。
「すまん、ありがとう」
 ゲリンとエンリの放ったグラビティを見、ジンはバトルオーラの回復を施してくれた眞白に謝意を告げた。怒りの矛先を無理やりに捻じ曲げられたような感覚はもう無い。
 エンリとエシャメルが空へと青い信号弾を打ち放つ。その意は儀式の妨害の成功。ケルベロスとしての任務の完遂を意味していた。
 だが、彼らが退かない。


 黒に瞬く鱗粉を吸い込んだマキナは途端に胸を焼く痛みに、思わず胸倉に手を当てた。だが、それも一瞬。振るわれた鞭が彼の頭を砕かんと迫る。
 屈み避けたマキナは、一気に団長へと攻め入り、スパイラルアームを叩き込んだ。
「それっ」
 と、体を蝕む毒はゲリンのヒールによって少しずつではあるが回復していく。
 エンリの打ち上げた星の光に導かれた響が宙へと高く舞い上がる。周囲の重力を操作し、軽やかに跳んだ彼女は、軽減した重力を全て重ねるように急激に加速した。
「ッだァァっ!」
 裂帛の気合と共に、彼女の飛び蹴りは避けようとした団長の体へと突き刺さり、蹴り飛ばした。
 団長をバネにするように宙返りをした響が着地すると同時に、死神に流し込んでいたグラビティが爆発する。
 これ以上の無い手ごたえ。だが、
「これで終わるわけが無い」
 確信を胸に眞白は、エアシューズの軌跡だけを残し高速の蹴りを放つ。
「……っ!」
 大きく横なぎに振るわれた鞭が煙から唐突に現れ、迫る眞白の腹部を強打し他のケルベロスをも巻き込んで、吹き飛ばす。毒を撒き散らし、煌々と瞳を滾らせて団長は笑っていた。
「まだまだ、って感じかな」
 エンリがヒールを施しながらもその様子に苦く零した。
 千里が緋眼を灯し、斬りかかる。雷を纏わせた高速の剣を身を僅かに引いて躱した団長にエシャメルがファミリアシュートを繰り出し、眞白が魔を下ろした両腕で団長を殴り飛ばす。
 それだけでは、止まらない。響が獣化させた爪で身を抉り、ジンのチェーンソー剣がその傷を広げ、マキナが竜の幻影から業火を放つ。
 効いていないはずは無い。であるのに、団長は嬉々として戦闘を続けていた。
「気持ち、悪い……」
 ゲリンが抱いた感情はそれだった。
「サーカスもフィナーレと行こうか!」
 神速の足捌きで団長の鞭を避けきった眞白は、身に刻まれた毒の痛みに耐えながら降魔の術を発動する。歪に、黒く肥大化した眞白の腕が団長の体、腹部へとめり込み打ち抜いた。
「……ぶっ」
 瞬間、大量の毒が眞白の肺を侵し、仲間を多く庇っていた彼女は団長を睨みながらも抗えずに倒れ込んだ。
「ハハハハハ」
 衝撃に体を浮かせ黒い液体を口から零しながらも、団長はケタケタと規則的でありながらも耳障りな笑い声を漏らす。
「ああ、足が竦む。腕が震える。此れが死の恐怖……ああ、素晴らしい」
 死神は、未知を享受し狂喜していた。
「叫喚こそ賞賛、絶叫こそ喝采……ぁあ、やはり間違っていなかった。死の恐怖こそ最高の、エンターテインメントっ!」
「違う」
 鞭を振るいケルベロス達の攻撃をいなした団長の不明瞭な独白に誰より早く異を唱えたのはゲリンだった。彼は、胸を押さえ団長を睨む。
「ズキズキするのは、楽しくない」
 その言葉に死神の複眼が彼を睨みつける。だが、その人を惑わす異形の視線からゲリンを隠すように、マキナが割り込んだ。
 彼から見てゲリンの思慮が浅いとも取れる反論は稚拙としか思えなかったが、
「でも嫌いではない、ですね」
 全ての複眼に射抜かれたマキナは、脳内に羽虫が飛び交うような思考の混雑を引き起こして、泡を吹きその意識を手放した。
「マキナさん……っ」
 ゲリンが倒れたマキナを抱える。
「罪を憎んで人は憎まず、敵ともいつか友達に、というスタンスだが……」
 ジンは、死を、恐怖を享楽とする死神の言葉に、掴みかからんとする自分を抑えて、言葉を出せないでいた。巻き込まれて死んでいった親しい者達の声が脳裏に蘇る。
「やはり、お前だけは許さないっ」
 身を低く、矢のように駆けだしたジンだが、その接近は死神の振るう鞭によって防がれた。翼を広げて低く滑空するエシャメルが援護射撃を行い、ゲリンの電幕が走る中を響が駆ける。
 赤い瞳に見竦められるが、体を流れる電流とクルルから分け与えられた金の光がその影響を弱め、意識を乗っ取られる事は無い。だが、団長が縦横無尽に振るう鞭は的確に彼女の行く先を打ち弾き、その接近を許さない。
 未だ驚異的な戦闘能力。
 だが、ジンは再び、猛攻を仕掛ける。疾駆する彼を追い越したエシャメルの放った火炎弾が毒の結界を吹き飛ばす。負傷によろめく彼にゲリンの放った電流が活力を呼び覚まし、その足は地面を踏み砕かんとばかりに加速する。
 特攻を止めようと団長は鞭を振るった。洗練された手腕によって、ジンの攻撃よりも遙かに速いそれは、避ける暇など与えず無慈悲にも迫りくる。
「道を、照らせっ!」
 しなる大蛇がジンの首を折り砕く、その前にエンリの放った光芒がそののたうつ軌道を明々と夜闇に映し出した。そして、躍り出る影。
「――奥義」
 千里がその加護を得て、刀を構えた。激しく入れ替わる引力と斥力に暴れる刃を巧みに御して容赦なく叩きつけられる鞭に剣閃を走らせる。
 刹那、光を返す刃の軌跡が四十二の花弁を開かせた。瞬剣に鞭が弾け飛ぶ寸前、鞭の胴が少女の体へと到達し、その体は吹き飛び崩れ落ちる。
 千里の援護によって、ジンを阻むものはもう無い。彼は団長へ飛び掛かりその四肢で押さえつけると、バックパックの機能を発動する。
 衝撃を伴う爆音。
 膨大な電流が団長の体を灼き、空気を爆発させた。力を蓄えた死神もその雷撃に、体の自由を奪われる。
 その隙が決戦の雌雄が決した。
 ブラックスライムで体を覆っていたジンには雷撃の被害はない。動けない団長へと響の爪が振り下ろされ、ジンの拳がぶち抜いた。
「――ッ!」
 視線すら交わさず、二人は拳打の嵐を繰り出す。正拳、貫手、手刀、爪、足刀、踵、膝、絶え間ない連撃。
 響が地面へと叩き落した団長にジンの猿の手が突き落される。
「終わりだ……っ」
 万感の思いを込めて放たれた拳は、団長の体を伝い地面を陥没させながら、歪な笑みを浮かべていた頭部を叩き潰した。
 沈黙が辺りを包む。黒く残滓すら無く崩れていく団長に勝利を確信してから、漸く詰めていた息を吐き出した。
 歓声は上がらない。そんな体力すらも残ってはいなかった。誰もが疲労に膝を付き倒れ込む。
 通信機から死神撃破の報が流れてくる。撤退を余儀なくされたチームは無く、完全勝利という結果に彼らの胸に一様に歓喜が躍った。


「勝った」
 呟くそれは仲間への報告。拳は深い空に突き上げられ、口元は抑えきれぬ笑みに彩られている。
「……勝ったぞ……っ」
 喉が熱い。肺が震える。
 掠れた声で彼は、空に向けてその名を呼ぶ。

作者:雨屋鳥 重傷:マキナ・マギエル(機械仕掛けの魔術師・e04145) 久遠寺・眞白(豪腕戦鬼・e13208) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月3日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 28/感動した 4/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。