星霊戦隊アルカンシェル~決戦、黒い星スターノワール

作者:白石小梅

●星霊戦隊分断作戦
「皆さんが続けて来た工夫と忍耐が報われる機会が遂に来ました。報復の時です」
 望月・小夜(サキュバスのヘリオライダー・en0133)はそう言いながら、鋭い目つきでケルベロスらを見回す。
「皆さんの作戦提案に則り、星霊戦隊アルカンシェルの討伐作戦を行います。無論、五人を同時に相手取れば勝ち目はない、とは前々からお伝えしている通り。そこで、戦隊を分断いたします」
 以前に有志が工夫を凝らして分断策を取ったが、全員一致した反撃の姿勢を見せたはず。誰かがそのことを指摘する。
「はい。しかし、挑戦も事後の調査も全く無駄になったわけではありません。全員で反撃してくるならば、全員、誘引してやりましょう」
 作戦は、こうだ。
「星霊戦隊の次の出現位置は予知されています。そこで、ケルベロスを五つのチームに分け、各チームより一名ずつ選出した計五名の囮部隊で戦闘を仕掛けるのです」
 敵には一部隊が襲撃を掛けてきたように見えるだろう。それが敵を挑発しつつ闘い、それぞれ別の方向に撤退する。
「星霊戦隊は全体としては好戦的。これまでの工作任務で、鬱憤も溜まっているはず。囮が上手く引きつければ、追撃戦に誘い込めるでしょう。撤退した五名が、それぞれの仲間のところまで逃げ切り、伏した部隊がこれを迎撃。各個撃破するのです」
 
●囮
「言うまでもありませんが……囮を担う方は仲間の元にたどり着いた段階でほぼ戦闘不能と考えてください。分断のため、囮役はたった一人で敵の追撃から逃れなければならないからです」
 小夜の言葉も、重い。分断伏撃の機会は、囮役がその役目に徹しきって、ようやく作れるチャンスなのだ。
「また誘引するにも、星霊戦隊はそれぞれ性格や特徴が異なります。挑発の仕方、撤退する順番、撤退時の演技……彼らに合わせた作戦を練ってください」
 例えば、好戦的な相手を先に釣り出し慎重派を追撃戦に引き込む、慎重派を大胆に挑発して判断力を削ぐなどする必要がある。
「状況によっては、敵が連携して一人を追いかけ、一つの部隊が複数の敵の襲撃を受ける可能性もあります。その場合、追手の掛からなかった部隊が救援に向かえますが、これはあくまで次善の策です」
 救援には五分以上かかるため、逆にこちらが各個撃破される可能性も高いという。
 
●黒い星、スターノワール
「皆さんの担当は、バトルオーラを用いる黒い鎧のエインヘリアル。名を、スターノワールと言います」
 イグニス亡き今、敵指揮官の詳細は不明。だが星霊戦隊は五枚一役の切り札。精鋭中の精鋭のはず。分断が成ったとして、それで勝利が約束されるような甘い相手ではない。
 覚悟が、いるようだ。
 
「しかし、星霊戦隊が切り札ならば、逆にそれを崩せば敵の戦略に打撃を与えられるはずです。彼らが土足で踏みにじっているのは、地獄の番犬が守護する大地。そのことを、思い出させてやりましょう」
 出撃準備を、よろしくお願い申し上げます。
 小夜はそう言って、頭を下げた。


参加者
一式・要(狂咬突破・e01362)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
白波瀬・雅(サンセットガール・e02440)
陸野・梅太郎(黄金雷獣・e04516)
池・千里子(総州十角流・e08609)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
流水・破神(治療方法は物理・e23364)

■リプレイ

●雅の決意
 スターブルーのナイフが煌めいた。囮役のフローネは、血の滲む脇腹を抑えて辛うじて立っている。
(「これ、は……」)
 スターノワールの背後の茂みに身を隠した白波瀬・雅(サンセットガール・e02440)の目に映るのは、一方的な蹂躙だった。
 囮五人が次々に一騎討ちを申し込み、ローズとブルーをまず挑発に乗せる。自分はその後に乱入。ノワールを攻撃して挑発し、なし崩しにルージュとジョーヌも追撃戦に引き込む。
 それがプラン。
 だが、イリス渾身の草槍が直撃してなお、それを余裕で引き抜いてローズは蹴りかかる。
(「地力が違い過ぎる……! 一騎討ちじゃ、駄目だ!」)
 全員が、見誤った。星霊戦隊の、その強さを。一対一で撤退の援護もないまま背など向ければ、次の瞬間、真っ二つだ。結果、逃げに移れない。
 今、自由に動けるのは突入のタイミングを図っていた雅のみ。
 すぐさま助けに飛び込みたいが、自分一人が作れる隙だけでは、四人を同時に救うのは不可能だ。
 どうする。自分の挙動に、作戦の成否どころか仲間四人の命が掛かってしまった。
 一瞬の逡巡。
 その時、悲鳴が響いた。
 フローネが、遂に倒れたのだ。
「……!」
 ああ。そうか。
 雅は、気付いた。
 『絶体絶命』。犠牲を払わぬ道は、ない。
 ならば己は、何を犠牲にするのかを選ぶだけだ……。

 闘いは決した。その場の誰もが、そう思っていた。
 閃光のような蹴りが、ナイフを振り上げたブルーの身を弾き飛ばすまでは。
「……ぐっ!」
 ブルーが慌てて受け身を取り、思わず腕を解いたノワールの向こう。雅がフローネを抱きかかえていた。
「申し訳ありません、不甲斐ない……」
「私こそごめん……これしか、選べなかった」
 意識を手放したフローネから、雅が顔をあげる。
 身に纏うのは、闘いに散った戦乙女の魂。金色を帯びた桁違いの力が迸り、圧倒的に優位だった星霊戦隊を圧してのける。
「ブルー! 無事か!?」
 ルージュさえ振り返ったその一瞬。戦場の視線を一点に集めた雅が、僅かに視線を走らせる。
 今だ!
 囮役たちはその意を瞬時に理解した。それぞれ敵対者に最後の動きを見せ、即座に離脱を図る。
 追う相手を失っているブルーに、雅が叫びを被せて。
「ブルー! それからノワール! 来なよ。あなたたちの相手は、私がまとめて引き受ける。まさか、逃げたりなんてしないよね?」
 ふんと踵を返して離脱する姿は、追って来いと言わんばかり。
「ルージュ、ローズ、ジョーヌ! それぞれ後を追え! 俺は……奴らを仕留める!」
 ブルーは二人を追い、ルージュもローズも、ロアとイリスを追って走る。
 躊躇したのは、ジョーヌ。
「へっ……ワイも行かなアカンの? うーん、どないしよ……」
 その肩を叩くのは、黒い鎧。
「俺はブルーと行く。お前は、あの竜人を追え」
 それに、と一言。口の端を、微かに釣り上がて。
「一瞬だったが……あの小娘の顔は覚えている。ご所望は、俺のようだからな」

●追撃と出撃
 人払いされた道を、青と黒紫の閃光が迸る。
「前に見た時とは、比べ物にならん気迫だな! さあ、俺と闘え!」
 雅の雄叫びが闇に響く。道ごと破砕される寸前、その姿は宙に舞って。
「フローネさん、ごめん……仲間に連絡を。私には……」
 その囁きは木々を揺らす風に溶け、朦朧と送り出された電子の波は夜の闇を飛ぶ。
「あ、ちら、へ……」
 フローネの震える指が指すのは、神社へと続く雑木林。
 その、向こう。境内の広場。
「予定が、崩れた。ノワールとブルーが来る。白波瀬さんが」
 連絡を受けたリリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)が、青い顔で振り返る。
「……暴走、したって」
 走る衝撃。
 重い沈黙が、落ちる。
「随分好き勝手してくれてるようじゃねえか……俺は、メディックに移行だな。これ以上を、させるわけにゃいかねえ」
 それを破ったのは、伏見・万(万獣の檻・e02075)。一式・要(狂咬突破・e01362)が、後に続く。
「そうよ! 仲間が身を削ってるときに、立ちすくむわけにはいかないわ。チームってのは助け合わないとね。私は、ディフェンダーよ」
「私も、力を守りに組み替える。二人相手……だな。退きはしない。受けて立とう。だが白波瀬は、ここまで持つだろうか」
 池・千里子(総州十角流・e08609)の疑問は、尤もだ。暴走したとしても、敵は強大。更に二人。
「最善策が崩れたならば、悠長に待ってはいられませんわね。助手、お出迎えに行きましょうか。リリー、案内はお任せしましてよ」
 アルヘナ・ディグニティ(星翳・e20775)はウィングキャットを呼び付け。
「ここでの奇襲はお流れ、か。二人を助けに行って、味方が着くまで真正面からぶつかり合う……上等だ。やってやるぜ」
 流水・破神(治療方法は物理・e23364)は手を打ち付ける。
「俺はあんまし頭が良く無くて……囮を雅に任せちまった。待っててくれ……身体を張ってでも、お前を守り抜いてみせる! 走るぞ!」
 ライドキャリバーと共に陸野・梅太郎(黄金雷獣・e04516)が走り出す。
 二人の所へ。

 雅の脚から血飛沫が飛び、二人の体は鎮守の森へと転がり込む。血と泥に塗れながら、雅はそれでもなおフローネを背に立ちはだかった。
「やらせない! 絶対にッ!」
 紫の闘気と、金色の蹴撃。血飛沫が、舞う。
「……大した奴だ。闘えたことを、誇りに思う」
 ノワールがその手刀を払い、雅の体が遂に崩れ落ちる。
「しぶとかったね。さあ、とどめだ」
 ブルーが、身構えたその時。
「させねえぇ!」
 雄叫びと共に、バイクの影がそこに飛び込む。
「……!」
 体当たりをかわしたブルーに、ウルフェンから跳躍するのは梅太郎。渾身の蹴りがその巨体を後ろに飛ばす。
 振り向いたノワールに飛び掛かるのは、万。
「ボヤボヤしてっと食い千切ンぞォ!」
 体ごとぶつかる勢いを利用して、反転。両者は続いて来た仲間たちの所に下がる。
「二人は!」
「大丈夫……! 重傷だけどまだ生きてる」
 リリーが二人の状態を確かめ、立ち上がる。
「化物二人を相手に良くやったぜ、二人とも……すまねえが、拳骨治療はちょっと待ってろよ」
 怒りに燃える破神の前で、ノワールとブルーが視線を合わせる。
「またぞろぞろと……どういうことだ?」
「先走った仲間の救出に来たってとこだろうね……はは、無策にもほどがある。立ちはだかった人数だけ、死体が増えるぞ」
 一瞬、万が激怒に身を任せかける。僅かな動きで、それを制したのはアルヘナ。
(「落ち着いて……! こちらの増援が来るまで、時間を稼ぐのです」)
 出撃したため奇襲策は潰えた。代わりにポジションの移動は済んでいる。チームの役目は、変わったのだ。
 意図を察して、万が頷く。
「地獄の番犬なめンな、喰ってやらァ! さあ、掛かって来やがれ!」
 圧倒的戦力の前では、いささか滑稽。だからこそいい。二人が罠に気付いて仲間との合流を選べば、作戦の全てが崩壊する。
 ノワールが、にやりと笑む。
「根性だけはあるようだな……では、教えてやる。仲間と連携したアルカンシェルの、真の強さをな!」
 掛かった。
 そして五分の地獄が、始まった。

●星霊戦隊
 森に瞬く、閃光。木々はざわめき、烏の悲鳴が空を満たす。
 輝くのは、ブルーのナイフ。刀閃より襲い来る、忘れがたい影。
「思い出すか、悪夢を? もっともお前たちの最大の悪夢は、ここで切り刻まれ、死ぬことだろうけれどね!」
 波のようにうねるのは、黒紫の闘気。破られる加護、飛び散る鮮血。
「ブルー! 交互に行くぞ!」

 血に塗れた梅太郎が、雄叫びを上げてノワールを蹴りつける。にやりと笑んだノワールは、組み付いた梅太郎を踏みつけて跳躍した。
「後列に……! 守れウルフェン!」
 梅太郎がそう叫ぶ。
 空中でもつれ合った瞬間、渾身の一撃がバイクの横腹を貫通し、その姿が散る。瞬間、空中のノワールを足場に、目の前に降り立つ、青い影。
「……!」
「良いコンビの主従だ。だが、二度は通じない」
 身構えるより先に、鮮血が飛び散る。完璧な、連携だった。
「畜、生……」
 その膝から力が抜け、梅太郎が血だまりに沈む。

 青と黒の閃光は、二重螺旋のように絡み合いながら布陣の前後に降り注ぐ。黒は後ろに、青は前に。
 要が、リリーにトラウマを祓われている。横合いから、突っ込むノワール。弾き飛ばされた体が、森の向こうに消える。
「クソ! 分断されんな!」
 そう叫んだ万の後ろ。黒い影は、目にも留まらぬ速さで回り込む。振り返りざまに放った蹴りは、その胸元を直撃した。
「ほう。良い蹴りだ。お前のような男が癒し手なのか?」
 巨漢は身も引かずにその足を掴むと、ゆっくりと拳を持ちあげる。
 連発。馬鹿な。速すぎる。
「事情があんだよ……こっちにもな!」
 万の視界に迸る、紫電。そして闇が、その意識を包み込んだ。

(「クソッタレが! まだか!」)
(「急いでくれ……! このままでは……」)
 破神と千里子が交錯し、突撃するブルーと衝突する。
 ナイフから生まれる鏡像を祓うべく、アルヘナが鎖に指を掛ける。瞬間、砲弾のような闘気が、その脇を打った。小柄な肢体が、宙を舞う。
 痛恨の、一発だった。
 転げ落ち、血を吐いたアルヘナを、青い具足が踏みしだく。
「……っ」
 ぼやける視界。冷たい目で見下ろすのは、ノワールとブルー。
「どういうことだ? 護りに入ってばかりとは」
「なにか、気に掛かる。ここは早めに片付けよう。とどめを刺す」
 ブルーが、ナイフを構える。助手の鳴き声が、悲鳴のように響いている。
 助けは、ない。
 倒れ、弾き飛ばされ、幻影に襲い掛かられ……土煙の中、互いの位置も見失った。
 ノワール討伐隊の布陣は、崩壊したのだ。
「ここ、まで、ですわね……」
 ドワーフの老女は、血を滲ませて微笑んだ。
「さ、させねぇべッ!」
 聞きなれぬ声。轟音。星霊戦隊が、飛び退く気配。
「……耐える、のは。さあ、助手。みんな、を……」
 アルヘナの意識が、闇に落ちた。
 戦闘開始より、五分目のことだった。

●救援
「やっと、だ……俺たちは……耐えきった、ぞ」
 囁いたのは、梅太郎。
「起動、クロノスハートッ! 粉砕レベル金剛石! 砕け散ってくださいッ!」
 とどめを刺そうとしていたブルーに飛び掛かる、小柄なドワーフの娘。
「待ちかね、たぜ……ったく、よ……」
 掠れる息の中、万の呟きは誰にも聞こえない。それでも。
「お勤めご苦労さんです。後はあっしらが引き受けやした。しばし、お休みを」
 倒れた己の脇を走り抜けて行く、誰かの足音。
 ずっと、待っていた。
 援軍。
 その、到着を。

 雪崩を打って星霊戦隊に飛び掛かるブルー討伐隊。
 一転、混沌とした戦場の端。千里子に飛び掛かって来た過去の幻影が、清浄な風に祓われて消える。
「助手……! 無事だったか! 主人は……」
 猫は、べそをかきそうな顔で首を振る。
「……誰か! まだ立てる者は! 立て直せるか!」
「応……俺は無事だぜ。情けねえが、俺もその猫に今、助けられた」
 応えたのは、破神。続けて、脇腹を抑えながら、要が姿を見せる。
「救援……来たわね。後衛は? 全滅したの……?」
 ブルーに前衛を切り裂かれ、ノワールに後衛を砕かれた。悔しいが、完璧な連携だった。だが、後衛の援護が前衛に集中した結果、三人はどうにか無事。
「……いるわ、ここに。まだ、アタシが残ってる……」
 頭から流れる血の筋を拭って現れたのは、リリー。
 残ったのは、満身創痍の四人と一体。
 一方、星霊戦隊はこれがケルベロスによる伏撃だと気付いたようだ。ブルーが判断ミスを悟り、新たな敵に逸るノワールを諫め、撤退に移りつつある。
「参謀殿、ここからの最善手はなんだ?」
「分断された仲間を集め、ケルベロスどもを撃破する態勢を整える。何人でかかってこようと、5人揃ったアルカンシェルの敵ではない」
 それは真実だ。今ならわかる。星霊戦隊は五枚一役。揃ったならば、かの八竜さえ撃ち落とす。
 ならば、こそ。
「……逃がさない。倒れたみんなのためにも……絶対に!」
「ああ。残された全てを、ぶつけてやろう」
「私が、クラッシャーになるわ。援護をお願い」
「なら俺と、池が弾除けだ。任せろ。回復は、全部一式に集中だ」
 頷いたリリーの電気ショックが、要の力を増幅する。
「みんなが積んだ足止めが、必ず効いてる。行こう!」
 もはや、後ろは振り返らない。翻弄され、蹂躙され、次々と倒れていった仲間の意志を、届かせる。必ず。残ったのは、その執念だけ。
 走り出したその向こうで、ノワールが殿として仲間達と向き合っている。
「ここは……俺が抑えるッ!」
「すまない!」
 森の向こうに、ブルーが消える。
 瞬間。
「行くぞ……!」
 千里子が跳躍し、増援隊と向き合っていたノワールの脇に飛び込む。
「……お前たち、まだ!」
 千里子の蹴りが僅かに態勢を崩し、破神のチェーンソーが唸りを上げてその足を裂く。
「俺様たちを舐めてんじゃねぇぞ、黒いの! 行け!」
 いつの間にか、ノワールの頭上には、要。リリーの増幅魔術を、一身に受けて。
「逃がさないわよ、お生憎さま。私、今日のラッキーカラーは黒なんだわ……悪運、だったけどね!」
 水しぶきを叩きつける爆音が響き渡り、雄叫びと共にノワールの体が弾かれる。
 羆のような咆哮が響き、絆を踏み躙られた群狼が、殺到する……。

●仲間
 静まり返った、鎮守の森。
 巨木の前に黒い鎧の巨漢が座り込んでいる。
 それを囲むのは、最後まで立っていられた番犬たち。
「互いに策も、力も、出しきったな……俺の、負けだ。だが俺も……ブルーを護り抜いた。悔いは、ない……」
 その呟きと共に、スターノワールの命の灯が、そっと消える。
「こいつはこいつで、仲間のことを想ってたのね」
 要が、ぽつりと呟く。リリーが、そっとその屍に手を伸ばした。黒紫の闘気が、ゆらりとその指に移る。
「想いは、同じ……か」
 振り返れば、破神が助手と共にアルヘナを抱き起している。
「私は助手に任せて……ミヤビを。早く……」
「……いねえんだよ。どこにも」
 視線の先では、木にもたれかかった梅太郎が、空を仰ぐ。
「雅……! あんな状態なのに……どこに行っちまったんだよ……!」
 その姿は、ない。残るのは、血の痕だけ。
「俺はいい……探しに行け、クソッ!」
 万の悪態に、千里子が哀しく首を振る。
「今は……無理だ。連絡が入った。ブルーとルージュが、まだ生きている……」
 残存戦力は、満身創痍。二体を相手に、場を保持することなど不可能だ。
 三人の重傷者を抱え、行方知れずの仲間を想い、番犬たちはその場を離脱する。

 これは、敵も味方もなく。
 仲間の為に、知恵と力と勇気を懸けた者たちの。
 喪失の嘆きがこだまする。
 初夏の月夜の物語……。

作者:白石小梅 重傷:伏見・万(万獣の檻・e02075) 陸野・梅太郎(ゴールデンサン・e04516) アルヘナ・ディグニティ(星翳・e20775) 
死亡:なし
暴走:白波瀬・雅(サンライザー・e02440) 
種類:
公開:2016年6月3日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 27/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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