決戦、マサクゥルサーカス団~たゆたうオルクス

作者:東雲ゆう

 東京都府中市の近郊。数ヶ月前の東京防衛戦でケルベロスたちが撃破したガイセリウムも今ではすっかり解体され、破壊された街並みもヒールされていた。
 そんな、ある日のこと。
 しん、と静まり返った深夜の交差点に、ふわり、と蛾の羽を生やした人影が降り立つ。
「さあさあ、我ら『マサクゥルサーカス団』のオンステージだ!」
 彼――死神『団長』は、芝居かかった大げさな口ぶりで言うと、にやりと笑う。
「今宵は、豪華なキャストにゲストも加えての特別ステージだ。それでは始めようか、愉快なショウを!」
 団長が大きく腕を振ると、空から5体の死神たちが下りて来る。その中の1体、神々しく輝くウミウシ型死神『オルクス・ブラウ』は、六芒星の頂点の1つとなる小さな公園へと、ゆったりと体をくねらせながら浮遊していった。
 そして、ペシイィン、と団長の乾いた鞭の音を合図に、ヒレと尾から輝く光の粒子を放出する。それは地面に不思議な模様を描き、オルクスがゆらり、と体を震わせると、文様の中心から、赤黒い色のタールの翼と尖った耳を持った1体のシャイターンが現われていた。
 
「死神の『団長』が、新たな作戦を開始したみたいっす」
 ヘリオライダーの黒瀬・ダンテの言葉に、ケルベロスたちの間に緊張が走る。
 『団長』――多くのデウスエクスをサルベージしてきた死神。そのサルベージ作戦は、しかし、ジン・フォレスト(緑風館木人拳継承者・e01603)をはじめとした多くのケルベロスたちによって阻止されてきた。
 固唾を飲んで次の言葉を待つケルベロスたちに、ダンテは軽く頷く。
「団長は、東京防衛戦の後に破壊・撤去された人馬宮ガイセリウムの跡地で、5体の有力な深海魚型死神と一緒になって、東京防衛戦で死亡したシャイターンをサルベージしようとしているみたいっす」
 そこで、とダンテは続ける。
「ここに集まってもらった皆さんには、その5体の死神のなかの1体、『オルクス・ブラウ』の対処をお願いしたいっす」
 ケルベロスたちが頷くのを確認すると、手元のタブレットに視線を移す。
「オルクス・ブラウは、神々しい光を放つ巨大なウミウシの形をした死神っす。大きな口で相手を飲み込んだり、体内に溜め込んだ毒のある粒子を放出したり、ピンチになったら泳ぎ回って回復したりするっす。どうやら、住宅街の中の小さな公園で、サルベージの儀式を行っているみたいっすね」
 そしてダンテは、3つのことを説明する。
 1つ目は、儀式を行っているオルクスはケルベロスに襲撃された場合、サルベージしたシャイターンに迎撃させつつ儀式を続行しようとするであろうこと。
 2つ目は、既に1体のシャイターンが召喚されており、それを撃破しないとオルクス・ブラウを攻撃できないこと。
 そして3つ目は、シャイターン撃破までに時間がかかりすぎた場合、新たなシャイターンがサルベージされて増援となる場合があるので、素早く撃破する必要がある、ということ。
「シャイターンは東京防衛戦の時に戦ったのと同じような攻撃をしてくるんっすけど、そのパワーはアップしてるんで注意が必要っす」
 それから、とダンテはケルベロスたちに視線を戻し、真剣な表情で話し始める。
「団長を含めた死神達は、かなりの強敵っす。シャイターンとの戦いの後、連戦が厳しいと感じたら無理せず撤退することも考えておいてほしいっす」
 ケルベロスたちの視線を受けて、ダンテは少し表情を緩めて続ける。
「幸い、儀式を中断させられた死神は、ケルベロスが撤退するようならば、追撃せずに撤退するみたいっす。これを利用して、戦場から撤退しつつ、他の死神と戦っている仲間と合流する作戦もアリかもしれないっすね」
 説明を終えたダンテは、改めてケルベロスたちに向き直る。
「死神たちが何を企んでいるのかは、正直分からないことだけっす。でも、少なくとも良いことではないことは確かっす。だから、皆さんの力で、オルクスの儀式を確実に阻止してほしいっす!」
 自分、信じてますから! とダンテは勢いよく頭を下げた。


参加者
文野・丈太郎(ビージェイ・e00055)
ファン・バオロン(拳闘師・e01390)
武田・由美(空牙・e02934)
月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)
植原・八千代(淫魔拳士・e05846)
鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)
北・神太郎(大地の光の戦士・e21526)
セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)

■リプレイ

●立ち向かう者たち
「六芒星ってのはそれだけで意味ありげだよな。中心部を調べてみたいけど……まずは儀式とやらの阻止が最優先だな」
 ヘリオンの窓から外を見下ろす北・神太郎(大地の光の戦士・e21526)は、セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)が配った地図と眼下の6つの光る点を見比べる。その後ろでは、月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)が他の班と周波数を合わせたトランシーバーの確認をしていた。
「まさか……祖父より伝え聞いた死神と対峙するとはな」
 静かな声音の主は、ファン・バオロン(拳闘師・e01390)。彼女の持つ地図には、合流・撤退時の最短経路が書き加えられており、その準備の入念さに今回の依頼にかける意気込みが伝わってくる。
「俺の探している死神とは違うようだが、分類が同じってェンなら、ヤツの尻尾を踏んづけるいい機会だ。ファンとは何やら因縁めいてるってことだし、気張らねェとな」
 文野・丈太郎(ビージェイ・e00055)が不敵な笑みを浮かべる。
「その、相手の死神について、師匠は何かご存知っすか?」
 膝の上にのせたウイングキャット・マネギを撫でながら、鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)が尋ねる。目をかけて可愛がっている彼女からの問いかけに少し考えこんだ後、ファンはぽん、と軽く五六七の頭に手をのせ、目線を合わせてゆっくりと言葉を紡ぐ。
「他の死神を蘇らせデスバレスへと還す特殊な死神と聞いていたが、詳細は分からない。或いは儀式との関連があるのかもしれないが……」
 情報が少なくて申し訳ない、と恐縮する彼女に、丈太郎はビハインド・慰撫の髪を軽く弄りながら答える。
「あいつら死神が何を考え、何を起こそうとしているのかなんてェのは、二の次だ。――あいつらがいる限り、戦いは終わらねェンだからな」
 その言葉に、植原・八千代(淫魔拳士・e05846)も同意する。
「まあ、相手を叩き潰すチャンスだと思えばいいかな?」
「うん、サーカスの団長がなーんか悪だくみしてるみたいだけど、あたしたちがきっちり邪魔しちゃうもんね」
 ぴん、と背筋を伸ばす武田・由美(空牙・e02934)に神太郎も微笑む。
「ああ、復活したシャイターンは勿論、オルクスもきっちり倒して後顧の憂いはないようにしてやろうぜ!」
 神太郎の言葉に皆が頷いた、その時。
「目標地点です。――皆さん、ご準備を」
 ビハインドのイヤーサイレントを伴ったセデルが促すと、ケルベロスたちは手にしたメモを仕舞い、連絡係が周波数を合わせたトランシーバーを腰に差す。一つ息を吸うと、白い輝きを放つ一点を目指して、大きく開け放たれたヘリオンの扉から舞い降りた。

 ごうごう、と風を切る音が収まり、地面に降り立ったケルベロスたちの耳に、狼の遠吠えのような異様な咆哮が襲いかかる。
 音の発生源を視線で辿ると、正気を失い、ただ戦うためだけに召喚されたシャイターンがいた。その後方には、ゆらりゆらりと漂いながら、なおも儀式を続行する死神オルクス・ブラウの姿がある。
「静かに眠ってたウェアライダーさんを弄んできた団長なんて大嫌い……! 思い通りになんて絶対させないっ」
 縒が武器を構えて相手を睨みつけると、シャイターンはケケケ、と耳障りな声を出す。
『ケルベロス、コロス、コワス、コロス、コロス……!』
 虚ろな瞳で、手にした鎌を光悦の表情で見つめるシャイターン。その種族からの悪夢にも似た支配から助けられた『多摩川防衛戦』の恩を返すべく、儀式の阻止を心に固く誓うヴァルキュリアのセデルも槍を構える。
「やっと取り戻したこの街を、また失わせる訳には行きません!」
 ――戦いの火蓋が落とされた。

●赤き亡霊との戦い
 真っ先に動いたのは、ファンだった。拳に炎を纏わせると、一直線にシャイターンに飛び掛る。
 しかし、戦闘力を強化された敵もそれとほぼ同時に、灼熱の炎塊を彼女に向けて放つ。2つの炎がぶつかり合い、昼間と見まごう程に、辺りが一瞬明るくなった。
(「今日のうちはライオンさん。だから負けない、大丈夫!」)
 自己暗示をかけ、強気になった縒がアォォン、と癒しの効果を持つ遠吠えをすると、
「今回は短期決戦。故に、攻め手の皆様は私とこのサイレントが守り抜きます!」
 セデルもすかさず前衛の皆をカラフルな爆発で鼓舞する。その爆発とほぼ時を同じくして丈太郎が敵に遠隔爆破を仕掛け、マネギの飛ばしたリングに続くように五六七もバスターライフルをぶっ放す。
「さーて、パワーアップしたシャイターンとの勝負か。速攻で落とす!!」
「そうね、ここで時間をかけててはどうしようもないし、なるべく早く倒さないとね」
 由美がマヒ効果のある蹴りを放つ後ろで、八千代の身体に呪紋が浮かんでいく。
「他の場所に向かった皆も目的を果たせるといいけど……まずは自分の心配、か」
 身体に見合わぬ巨大な鉄塊剣を両手で構えると、神太郎は大きく振りかぶる。
「死神のサーカス団、何を企んでるのかしらないが、思い通りにはさせねぇぜ!」
 重い一撃がシャイターンに直撃した。

 シャイターンとの戦いは熾烈を極めていた。
 「素早く撃破しないと、2体目が召喚されてしまう」――その予知を受け、ケルベロス側は早期撃破を目指して攻撃人員を手厚くし、メディック以外が回復を無視して休まず攻撃を浴びせかける作戦をとっている。
 一方で敵も、猛攻に負けじと幻覚作用をもたらす砂の嵐を放ったり、鎌で斬りかかったりしてくる。その攻撃を受け止め、回復し、さらに反撃し……と目まぐるしく戦況が変化していく。
 戦闘の鬼と化していたシャイターンだったが、それでも、地道に積み重ねたバッドステータスは、確実に敵の身体を蝕んでいた。明らかに攻撃の精度が落ちてきたのを好機と見たファンは、さらに傷口を広げるべくチェーンソー剣で斬りかかる。のたうち回る敵を足止めすべく、回復役の縒も攻撃に転じ、月雫の花のツルで敵の足をがんじがらめにした。
 動きの鈍くなったところに、さらに慰撫が金縛りをかけ、丈太郎の伸ばしたブラックスライムの槍が突き刺さる。
「サイレント、私たちも参りましょう」
 セデルが滑空の勢いを付けて蹴りを放つと、彼女のビハインドも敵の背後に回りこみ鎌を振り下ろす。
 声にならない叫び声をあげるシャイターン。しかし、ケルベロスたちは攻撃の手を緩めない。
「抉り込むように――うつべしうつべしっす!」
 マネギの鋭いひっかきと、五六七のスパイラルアームが敵の身体を抉る。
『ギイエァァァァァ!!!』
 シャイターンは、耳をつんざくような断末魔と共に、その場に倒れこみ息絶えた。

 シャイターンを撃破したケルベロスたち。だが、その勝利の余韻に浸る間もなく、急いでオルクスに駆け寄る。
 見ると、オルクスはゆらゆらと美しく尾びれを揺らしながら、地面に文様を描いている。それは最初と同じように思われたが、地面の魔方陣の方は心なしか複雑化し、放つ光が強くなっている――!
「というか、死人に鞭打つんじゃないよ。眠ってる人たちは安らかに眠らせといて欲しいね、ほんと。一撃粉砕! 鉄拳制裁!!」
 由美の怒りの高速の重拳撃が、オルクスの左わき腹を強打する。
「……同感ね」
 しかしウミウシねえ、なんか殴った時の感覚が気持ち悪そう、とぼやきながらも、八千代は容赦なく指天殺で喉元を突く。どことなくその表情が楽しげなのは、戦闘狂の血が騒ぐゆえ、だろうか。
「さあ、お前の攻撃は引き受けた! 俺たちの力、見せてやるぜ!」
 相手の注意を引きつけるべく、神太郎もデストロイブレイドを右前ひれ叩き込む。すると、オルクスは身を捩り、先ほどまでとは一転、荒々しく身体を捩り、一目で有毒と分かる粒子をケルベロスたちに放出した。
 と、その瞬間、それまで地面で光を放っていた魔方陣らしきものが、ゆらり、と光を失っていく。すかさず、縒がトランシーバーで手短に他の班に通信を入れる。
「こちら、オルクス班――儀式阻止成功。死神と戦闘開始」
 返事の確認もそこそこに、トランシーバーを仕舞うと縒も死神に対峙する。巨大なウミウシ型の死神は、誰が見ても明らかなほど、怒り狂っていた。

●荒ぶるオルクス
「……さすがは死神、少しはやるみたいだね!」
 前方のメンバーがダメージを受けたことを見て取った縒は、すかさずグラビティを織り交ぜた遠吠えで仲間を回復し、セデルも続いてブレイブマインで皆を鼓舞する。それでも、前戦のダメージもあり完全に回復できなかったメンバーには、丈太郎がウィッチオペレーションを唱えた。
「ドラドラドラドラドラァ!」
 五六七がどこからともなく爆走して来た列車に飛び乗り主砲を連射すると、由美も敵との間合いを詰める。
「さて、もう一戦。気合入れて行こうか……この一撃に耐えられる?」
 指天殺を放つ。が、惜しくもその攻撃は避けられてしまう。
「――流石に一撃必殺は虫がよすぎるか」
 続いて八千代が放った蹴りも軽くかわされたのを見て、由美がつぶやく。だが、敵が回避した先には、神太郎が回りこんでいた。
「長期戦だろうがやってやるぜ! 切り裂け! ゼクシウム!」
 リング状のエネルギーが敵を斬り裂くと同時に、ファンが強烈な回し蹴りを叩きこんだ。
 
 オルクスの攻撃は一撃一撃が大ダメージにつながりかねない危険なものだったが、メディックだけでなく、ヒールグラビティを持つクラッシャーの神太郎やスナイパーの丈太郎も必要に応じて回復役に回ったため、ケルベロス側が大きく戦線を崩されるような状態には今のところ至っていない。
 しかしながら、オルクスの方もピンチになると泳ぎ回って回復する。我慢比べと化した状況であったが、ケルベロスたちは確実にダメージを積み上げるべく攻撃を繰り出し、受けた傷を回復し、また攻撃し……と粘り強く善戦していた。
 ――戦況は膠着していた。
 ある時、オルクスはケルベロスたちの攻撃を受け止めると、ぐい、と身体をくねらせ、方向転換すると大きく口を開いた。その狙う先には、怒りの攻撃を放った直後の神太郎がいる。
「――!!」
 避けられない、と神太郎が覚悟を決めたその瞬間、黒と橙色の影が彼の前に回りこんだ。
「……サイレント!」
 悲痛な叫び声を上げるセデルの前で、無情にもオルクスがビハインドを飲み込む。しばらくして吐き出されたとき、攻撃を受けたイヤーサイレントは、どことなく満足な笑みを浮かべながら、ぼう、と霧散した。
「――すまない」
 神太郎が謝るが、セデルは軽く首を振り、気丈に微笑む。ディフェンダーとして役割を果たしたことを、誇りに思うからだ。
「ヴァルフリートさん、うちも頑張るから……!」
 彼女の気持ちを思いやり、心を痛めながらも、縒は手にした花を操り敵に立ち向かうと、セデルもそれに一つ頷き、き、と敵を見据えると、流星の如く煌めく蹴りを放つ。
 後方からその様子を見ていた丈太郎も、集中力を高めるとオルクスの尻尾の辺りに爆発を起こす。
「ぶった切ってやるっす!」
 爆風に紛れて接近した五六七が刀でホームランスイングを決め、相手の注意が逸れたところに由美が襲いかかる。
「拳だけに注意すればいい訳じゃないよ!!」
 強烈な蹴りが敵の身体を貫き、続けざま八千代が急所を突く。神太郎も地獄の炎弾を放って追撃した。
 立て続けの猛攻に、オルクスが甲高い叫び声を上げて身を捩る。その動きは、明らかに今までとは違う。
 終わりの時が近いことを悟ったケルベロスたちは、目くばせすると、武器を構える手に力を込める。
「しっかり狙って、びしっと当てる!」
 縒が獣牙動力剣を構え、とん、と軽く地面を蹴ると、しなやかな身体の動きで勢いを増して斬りかかる。
「秩序を乱す者に、清き制裁を!」
 仲間を庇って倒れたビハインドへの想いも乗せて、セデルが破鎧衝を放つ。その衝撃が収まらないうちに、
「おらおらー! れいとうビームっす!」
「小さな星に見えるかもしれねェが……この一撃の星の重さを知りゃァいい……ッ!」
 五六七の冷凍光線とマネギのリング、慰撫が念を籠めた石つぶてと丈太郎の『六等星』が一気にオルクスに襲いかかる。
 その一つ一つの攻撃は、巨大な死神に対してはか細くも見える。しかし、それらは絡み合い一つの大きな攻撃の流れとなって、死神の身体に大ダメージを与えた。
「――これがあたしの全力!」
 体勢の崩れたオルクスに、由美が必殺の一撃を打ち込む。空の一撃――それはシンプルであるが故に、オルクスに打撃を与える。
「わが心、空なり」
 由美が着地したすぐ側から、八千代が前に躍り出る。 
「楽しいわね、こうやって強い相手殴り倒せるのは!」
 その輝く左手は敵を引き寄せ、漆黒を纏った右手で粉砕する。渾身の一撃でふらつく相手に、さらに神太郎が追い討ちをかける。
「死神のサーカス団、お前らの思い通りにはさせねぇぜ!」
 高速回転のエネルギーリングが、さらに敵の傷口を抉っていった。
 猛攻を受け、ゆら、ゆら、とバランスを崩しながらようやく浮遊している、といった様子の死神の前に、一つの影が現われる。
「これは断じて研ぎ澄まされた技ではない。これは決して磨き抜かれた術ではない。これは、ただの『災い』だ……!」
 因縁を経つ――その想いと共にファンの放った地獄の業火はみるみるうちに膨れ上がり、巨大なオルクスの身体を包み込む。そして、炎が爆発した瞬間、『無為(エンド)』の名の通り、オルクスの全てを焼き尽くし、そして――その存在を消し去った。

●死闘の果てに
「オルクス班より他班へ。オルクス撃破成功。繰り返す、オルクス撃破成功――」
 焦げた臭いがただよう広場に、無線を飛ばす縒の呼びかけが響く。が、その声は少し震えている。ビハインドやウイングキャットの助けがあったとはいえ、たった8人で強敵と連戦で戦ったのだ。……よく倒せたものだ、と身震いするのも無理はない。
 残りの7人は地面に倒れ込むと、大きく息を吐いた。冷たい夜の風が煙を押し流していく。それは、空っぽになった身体には心地よく感じられた。
「……それにしても、六芒星に配置してたのって何か意味があったのかしら?」
 八千代が呟くが、答える者はいない。皆、激戦で力を使い果たし、考えを巡らせる気力が残っていなかったからだ。
 沈黙が辺りを包む。
 いずれ、分かる時が来るのだろうか――ケルベロスたちが耳を澄ますと、遠くに聞こえていた戦いの喧騒も少しずつ収まっているように感じられる。きっと、他の班も大丈夫――そう信じながら、かすかに星が光る夜空を仰いだ。

作者:東雲ゆう 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月3日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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