薄暗く、至る所で触手が蠢く湿った空気。
「グスタフよ、慈愛龍の名において命じる。お前とお前の軍団をもって、人間どもに憎悪と拒絶とを与えるのだ」
「ひゃっはー! 敵がいれば逃げるが、敵がいなければ、俺達は無敵で絶倫だぜー」
ギルポーク・ジューシィが配下のオーク達を呼び出すと、虹色のモヒカンを自慢げに揺らすリーダーのグスタフが下卑た笑みを広げる。
「……やはり、期待は薄いか。だが、無闇にケルベロスと戦おうとしないだけ、マシかもしれん」
ギルポークは不安を抱きつつも、自分を納得させる。
「ひゃっはー! その通り、色気に迷わなければ、俺達は滅多に戦わないぜー」
深く溜め息を吐いたギルポークは、無言のまま魔空回廊を指差すと、グスタフと共に、数体のオークが魔空回廊に入って大阪の町を目指した。
大阪市某所――。
「もうこんな時間や。明日も早いのに、残業とかしんどいわぁ……」
仕事帰りのOLと思われるスーツ姿の女性が家路を急ぐ。
腕時計を確認すると、もうじき日付が変わろうとしていた。
「ひゃっはー! イイ足のメス発見!」
暗がりから下卑た声と共に数本の触手が伸ばされ、彼女を絡めとる。
「な、何!? いや! 誰か……んぐっ」
助けを呼ぼうとした女性の口に、更に触手が伸びてきて無理矢理口を塞いだ。
体中に絡まる触手が、舐めるように女性の身体を這い回る。
(「いや、誰か……助けて……」)
恐怖と嫌悪感に涙ぐむ女性と、汚らわしいオーク達の宴が始まった――。
「竜十字島のドラゴン勢力が、新たな活動を始めたようです」
眉間に皺を寄せた祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が口を開く。
今回事件を起こすのは、オークを操るドラグナーである、『ギルポーク・ジューシィ』の配下のオークの群れのようだ。
オークの群れを率いるのは、『グスタフ』というオークで、その配下は臆病だが非常に女好きという特徴を持っている。
「このオーク、戦闘開始前にケルベロスを見つけると、そのまま逃げ去ってしまうくらい臆病でして、女性が襲われるまでは、周囲に隠れておびき寄せる必要があります」
しかも、戦闘開始後も、隙あらば逃げ出そうとするので、逃がさないようにする工夫も必要でしょう、と続けた。
場所は深夜の住宅街。公園の前を通りかかった所で女性が襲われる。
大通りから1本入った道なので、人通りはなく、街灯もあるので戦闘に支障はない。
「現れるオークはグスタフ含めて6体。いずれも武器も防具もなく、触手を使って攻撃してきます。1体は然程強くはないのですが、数が多いので面倒ですね。隙あらば逃げようとしますし……ブレイク、追撃、捕縛、毒、服破りを付与してくる攻撃がありますので、充分注意して下さい。それと――」
モヒカンのグスタフは、雄叫びを上げて攻撃力を高める事がある、と付け加える。
「非常に臆病な連中ですが、好色さも群を抜いています。オークを惹きつけるような戦い方で戦えば、逃走を阻止する事ができるかもしれません」
では、お願い致します、と蒼梧は頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474) |
上月・紫緒(テンプティマイソロジー・e01167) |
ステイン・カツオ(御乱心アラフォードワーフ・e04948) |
ヴァルリシア・ゲルズ(シャドウエルフのウィッチドクター・e11864) |
除・神月(猛拳・e16846) |
ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983) |
巽・清士朗(町長・e22683) |
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410) |
●好きにしていいよ♪
静寂に包まれた住宅街。
(「……変わらないですね」)
公園の植え込みの影に隠れるステイン・カツオ(御乱心アラフォードワーフ・e04948)が小さく溜め息を吐く。
ドワーフである彼女の肉体は10歳頃で成長を止めており、オークは中学生以下を女性として見ないので、エイティーンを使って成長させようとした。しかし、ドワーフとして18歳に若返ったものの、見た目は全く変わらなかったのである。
(「オークのリーダー、グスタフ……その背後のドラグナー、ドラゴンへの道筋を拓くためにも逃がす訳にはいかない」)
グスタフを派遣したドラグナーを宿敵とするギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)が、公園の植え込みの影でぐっと拳を握る。
その時、スーツ姿の女性が溜め息を吐きながら歩いてくる。
『ひゃっはー! イイ足のメス発見!』
下卑た声と共に、スーツ姿の女性目掛けて触手が伸ばされた。
「オークさん、いっぱいいっぱい遊びましょ♪」
すかさず物陰から飛び出した上月・紫緒(テンプティマイソロジー・e01167)が、ミニ丈の浴衣からスラリと伸びる白い脚を見せ付けながらにっこり微笑む。
「私達に勝ったら、好きにしていいわよ?」
紫緒の隣で、ライダースーツのジッパーを胸の真ん中まで下ろしたジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)が、白い2つの膨らみを揺らしてがウィンクを投げた。
『オォ!? こっちにもメスが!!』
OL女性に群がったオーク達が、紫緒とジェミに鼻の下を伸ばしただらしない顔を2人に向ける。
『いっぱい遊ぼうぜー!!』
前にいた体の大きなオークが紫緒に向けて触手を伸ばして、溶解液を飛ばした。
「危ない!」
ジェミが紫緒の前に立ちはだかり、鎖骨と左胸の間に溶解液を受ける。
「……っ! ……キャ、服が……」
破けた服の部分を右手でおさえてジェミが悲鳴を上げると、今攻撃した隣のオークが触手を伸ばしてジェミの脚を締め上げながら転ばせた。
「……ぁあ!」
ジェミはわざとらしく悲鳴を上げてオーク達を惹き付ける。
「臆病なうえに女襲うしか能がねー野郎共ヲ、ミンチにして事件解決といこうじゃねーカ!」
オークの背後から除・神月(猛拳・e16846)が、体の大きなオークに気咬弾を放った。
『グォ……』
『こ、こいつら! ケルベロスか!』
オーク達は攻撃された事に驚いて逃げ出そうとする。
「逃げちゃうんだ? 残念だなぁ……私を倒せたら、好きにしてもイイんダ・ケ・ド♪」
更に、ダイナマイトモードを使って、胸元の開いた衣装に身を包んだシルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)が、わざと前屈みになって投げキッスを可愛く投げた。
「大丈夫ですか」
深いスリットのチャイナドレスを着たヴァルリシア・ゲルズ(シャドウエルフのウィッチドクター・e11864)が、ジェミに駆け寄って魔法の木の葉を纏わせてその傷を癒す。
「ありがと」
メディック効果によって締め上げられて痺れていた足の痺れと、体にしみこむ溶解液の毒素が消えたジェミがヴァルリシアに笑いかけた。
「もう大丈夫。あとは我らケルベロスに任せて」
巽・清士朗(町長・e22683)が、恐怖で涙ぐんでいた女性に絡まる触手を斬り落とし、小声で声をかける。
「今のうちに逃げて下さい」
そこへギルボークが駆け寄り、腰を抜かしてしまっている女性に手を貸して立ち上がらせた。
●好きにさせてもらうぜ!
『ひゃっはー! 好きにさせてもらうぜー!!』
虹色のモヒカンを揺らすグスタフが、シルヴィア目掛けて、先端を鋭く尖らせた触手を猛スピードで伸ばす。
「いけませんっ」
さっとシルヴィアの前にステインが飛び出し、右肩を貫かれた。
「私の愛でアナタの全てを抱き締めてあげる♪」
にっこりと、どこか狂気を感じさせる綺麗な笑みを浮かべた紫緒は、ダメージを受けていたオークに抱きつく。そのまま抱きついた自分の体ごと地獄の炎で作った鎖で縛り付けた。
『オ、積極的な……ギャアアアアアアア!!』
激しい愛と憎しみで燃え上がった炎は、予想以上の大きな炎となってオークを飲み込む。
「しっかり!」
仲間達の状況を確認したジェミが、ステインに気力溜めを使って傷と破れた服を少しだけを修復させた。すかさず彼女のサーヴァントであるボクスドラゴンのばるどぅーるは、癒えきっていない主人の傷を属性インストールで癒しながら、状態異常に対する耐性をつける。
「まず1体か……先に前にいる2体を片付けないと危険ですね」
被害者になる予定だった女性が離れてくれたのを見届けたギルボーグが雷刃突で分厚いわき腹を貫いた。
「さて、本日の主役は女性陣とギルボーク。見事助太刀役こなしてみせようか」
小さく呟いた清士朗は、手元の爆破スイッチを押して、前衛の仲間達の背後にカラフルな爆発を起こして士気を高め、ジェミとステインの傷を癒す。
「お前も月ニ、狂ってみるカ?」
背後にカラフルな爆発を背負った神月が、よろめいたオークに眩く輝く蜜色の光球をぶつけた。
『オ、オアァアア!!』
光を浴びたオークは、高められた凶暴性で精神を侵され、狂いながら細胞をズタズタに引き千切られて四散する。
『ウホホ! その体、好きにさせてもらうぞー!!』
仲間2体が倒されているにも関わらず、シルヴィアの投げキッスと前屈みになって零れ落ちそうな胸に視線が釘付けになっていたオークが、触手を伸ばして胸元を叩きつけて服をはだけさせる。
「キャッ」
シルヴィアは慌てて胸元を手で押さえて顔を赤らめた。
『俺はあの脚がいい!!』
『あのチャイナドレスいいんじゃねぇか?』
キャスターオークが神月を触手で乱れ撃ちにし、スナイパーオークがヴァルリシアを先端を鋭くした触手で腰を貫いてそのまま服を引き裂く。
「やってくれるじゃねぇカ」
「……ぁ」
神月がダメージに顔を顰めると、ヴァルリシアはただでさえ普段着ないチャイナドレスで恥ずかしいのに、その上更に服を破かれて涙目になってしまった。
(「……負けませんっ」)
キッと顔を上げたヴァルリシアは、一番ダメージの深いシルヴィアに気力溜めを使って回復させる。
「ありがと♪ 私の特別なオンステージ♪ みんなに聞かせてあげるよ!」
ヴァルリシアに笑顔を向けたシルヴィアは、仕返しだといわんばかりに、幻影のリコレクションを歌って自分を攻撃してきたオークの信念を揺らがせた。
●甘い誘いと鋭い棘
激しく踊りながら歌うシルヴィアの揺れる胸や、ひらひらとちらつく太股に釘付けになっているオーク達。
今のうちにと、ジェミがヴァルリシアに気力溜めを使ってその傷を癒しながら服を修復し、ばるどぅーるが神月に属性インストールで傷を癒して耐性をつける。そこへ紫緒がドレインスラッシュでオークの腹を横一閃に大きく切り裂き、大量の血液を浴びた。予想以上の手ごたえを感じた紫緒は狂気的な恍惚とした表情を見せる。
「玉衝の閃きに……星よ、堕ちて砕けよ!」
体勢を立て直す前にと、ギルボーグが抜刀と同時に飛び上がりながらオークの腹から顔へと斬り裂き、落下しながら頭を鞘で強く打ち付けた。
『ギャアアアアアアア!!』
断末魔の悲鳴を上げるオークは、そのまま背中からドサリと倒れて動かなくなる。
『ヒッ! あんなの相手にしてられねぇ! 逃げるぜ!』
グスタフが顔を青ざめさせて逃げ出そうと踵を返した。
「オラ、あたしの足に飛び込んで来ても良いんだゼェ?」
グスタフの背後に回り込んでいた神月が、太股の付け根まで見えそうなホットパンツから長い脚をスラっと伸ばす。
『オ、オォ!?』
思わず神月の脚に目が釘付けになった瞬間、
「なぁ豚野郎……てめぇの魂はどんな味ダ?」
神月の不敵な呟きと共に、その脚に降魔の力を宿らせた脚がグスタフの腹部に撃ち込まれた。
『グ、グフ……』
「逃げ腰の敵を逃さず仕留めるとなれば、これなかなかの難敵――……少ない手数で仕留めるべし」
「こっちですよ」
呻くグスタフとキャスターオーク目掛けて、清士朗がマインドスラッシャーをさっと飛ばして分厚い肉を削り落とす。するとダメージに呻くグスタフの左側からステインが声をかけ、全く予備動作なしで光の矢を放った。
『ガ、ガァ!?』
2人の攻撃に予想以上に苦しむグスタフ。リーダーの様子に青ざめた他の2体のオークも必死で逃げ道を探して周囲を見渡す。
「あ、ま、待って下さい……あの……」
言葉が上手く見つからず、どうしようか迷ったヴァルリシアだが、意を決して首元の留め具を外し、スリットから白い脚をゆっくり前に出した。
「逃げちゃうのぉ?」
更にシルヴィアが前屈みで胸元に指をかけ、上目遣いで甘えた声を出す。
『ウ、ウホー!』
鼻の下をだらしなく伸ばした2体のオークはヴァルリシアとシルヴィアから目が離せなくなっていた。
●逃がすわけには!
『ウオオォォォォ!!!!』
グスタフが欲望に満ちた雄叫びを上げると、傷を癒しながら触手を太く逞しい形に変える。
「やはり魔法力に弱いのでしょうか……」
清士朗とステインの魔法攻撃でかなり苦しそうにしていた。更にヒールの使用。
ギルボークがジェミに目配せすると、ジェミは頷いて拳を握りこみ、2人ほぼ同時に気咬弾を撃ち込む。
『グアアアアアアアアア!!』
グスタフの絶叫が夜空に響き渡り、そのまま倒れて動かなくなった。
「キス、してあげよっか?」
リーダーが倒れて逃げ出そうとしたキャスターオークの前に、紫緒がミニ丈浴衣の裾を摘まんで自慢の脚を見せつけながら立ちはだかる。
『オォ?!』
紫緒は、逃げるのも忘れて脚に目が釘付けになっているキャスターオークにブレイズクラッシュを叩き付けた。
同じく逃げ道を探していたスナイパーオークの背後に神月の気咬弾が直撃すると、ステインの熾炎業炎砲が炎に包む。
「貴方が犯した罪に相対する時が来ました! 自分の過去に向き合ってください!」
羞恥で顔を真っ赤にしていたヴァルリシアが、目の前に飛ばされてきたキャスターオークを睨みつけ、罪を量り裁く役目の天使サリエルの名の許に呼び出した鏡を向けた。
『ヒッ……グアァ!』
恐怖に怯えた顔になったオークは、更に炎に包まれる。
「♪~」
シルヴィアの欺騙のワルツが響いた。すると、スナイパーオークが耳を塞ぎながら蹲る。更に、ステインの熾炎業炎砲で消えていなかった炎が燃え上がった。
「今ですね」
攻撃によろめいたスナイパーオークの隙を見逃さなかったギルボークが放った気咬弾に食いつかれる。
『ガアァ!!』
背後から食いつかれたスナイパーオークは、そのまま前のめりに顔から倒れて動かなくなった。
「あれが最後ね!」
「私の愛を受けきってくれる?」
ジェミが飛び上がってスターゲイザーで重力という錘をつけ、ほぼ同時に紫緒が惨殺ナイフで斬りつけながら、更に返り血で自らの体を赤く染める。
『グォ……』
ドサリと倒れたキャスターオークはそのまま動かなくなった。
――パン!
全てのオークが倒れ、静寂を取り戻した夜道に清士朗の柏手が響く。
「人も降魔も死ねば神――寿ぎ申す。今そなたは神と……言いたいところだが、まあなんだ――色々あったが死んでよし!」
清士朗の声に、一同の肩の力が抜け、苦笑が広がった。
「じゃ、勝利を祝って一曲! ……って言いたいけど、夜更けは迷惑かな?」
シルヴィアが明るく笑いかけたが、最後の言葉には、やはり苦笑が返される。
「ふぅ、普段言わない台詞はやっぱり疲れるわねー」
「欲に忠実なのは嫌いじゃねーガ、もっと情熱がねーとナ?」
ジェミが肩を軽く回しながら溜め息を吐き、神月が転がる死体を見下ろしながら呟いた。
「……私の愛、受けきってくれないんですもん……」
紫緒は、何処か残念そうに呟く。
「ぁ……」
「……早く帰ってお風呂に入りたいですね」
気が抜けて羞恥がこみ上げてきたヴァルリシアが真っ赤な顔でおどおどしだすと、それに気付いたステインが口を開いた。
その言葉に同意した一同は歩き出す。
「……」
一番後ろを歩くギルボークは、いつか戦う事になるであろう宿敵の顔を夜空に浮かべた。
作者:麻香水娜 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年5月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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