月華の少女は夜、時間を盗む

作者:伊吹武流

●月下美人の求めしものは
 淡き月光の下、深夜を迎えた街路はひっそりと静まり返っっていた。
「この都市は……それなりの規模の割には、夜が早いですわね」
 とあるビルの屋上から、そんな街並みを眺め下ろしているのは、まるで闇が具現化したかの様な、漆黒のスーツに身を包んだOL風の女性だ。
「あなたへの命令は、地球での活動資金の強奪、或いはケルベロスの戦闘能力の解析です」
 女性……螺旋忍軍、夕霧さやかは、その長い黒髪を夜風になびかせつつ、眼下の風景を見やりながら、それでいてそこには何の興味も見せないまま、傍らに控えているであろう何者かへと静かに命令を下す。
「あなたが死んだとしても、情報は収集できますから、心置きなく死んできてください。勿論、活動資金を強奪して戻ってきてもよろしくってよ」
 そう言い切ったさやかの非情な命令に、無言で頷きを返したのは、彼女の背後で跪く、螺旋の仮面を被った小柄な少女。
 そして、少女……『月華衆』と称される螺旋忍軍は静かに立ち上がると、ひらりと屋上から飛び降り、そのまま闇夜へと溶け込んでいった。

●闇を疾りし螺旋の盗賊
 午前3時18分。
 すべての出入り口が閉鎖され、防災ランプの灯りが照らすのみとなった地下街は、薄闇に支配されていた。
 そんな、さながら地下迷宮の様にも感じられる薄暗き通路を、螺旋の仮面を被った少女が音も立てずに駆け抜けていく。
 そして少女は、通路を挟む様にして立ち並ぶ、数々店舗の中にある、とある小さな店の前で立ち止まると、シャッターの脇にあるパネルのロックを難無く解除し、そこに隠されていた開閉ボタンを押す。
 ――ガラガラッ
 束の間、シャッターの動く音が地下街に響き渡る。
 そして、小柄な者が何とか通り抜けられる程度までシャッターが開いた隙間、少女はその隙間へするりと身を滑り込ませる。
 その先にあったものは……陳列ケースの中に整然と置かれた高級ブランド時計の数々であった。
 続いて少女は、店内に張り巡らされた警備システムを難無く解除してしまうと、時計の収められたケースへと手を伸ばした。
 それから数分後。
 異変に気付き、懐中電灯を片手にした警備員達が店舗へと到着した頃には。
 既にそこには、先刻まで盗みを働いていた少女の姿は無く、空っぽとなった陳列ケースのみが残されていたのであった。

●時間泥棒を阻止せよ
「皆さん、螺旋忍軍が名古屋の地下街で、金品を強奪する事件を起こそうとしているみたいっす」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、集まったケルベロス達の前でぺこりと頭を下げてから、そう切り出した。
 強奪する金品は高価なものではあるものの、特別なものではない様だ。
 どうやら螺旋忍軍の狙いは、地球での活動資金の確保であると思われる。
「この事件を起こしている螺旋忍軍は、『月華衆』という一派で、小柄で素早く隠密行動が得意みたいっす」
 そう告げたダンテは、更に月華衆の特徴をケルベロス達へ説明し始める。
「月華衆は特殊な忍術を使ってくるみたいっすね。その技は……『自分が行動をする直前にケルベロスの皆さんが使ったグラビティの一つをコピーして使用する』ってものらしいっす。ちなみに、月華衆はこれ以外の攻撃方法は持ってないっぽいっすよ」
 加えて、理由は良く分からないが、月華衆は『その戦闘で自分がまだ使用していないグラビティ』の使用を優先する様だ、とダンテが更に補足する。
 つまり、此方の戦い方次第では、敵が次に使う攻撃方法を特定する様な戦い方も出来るので、そのあたりも踏まえて作戦を立てる事が出来れば、かなり有利に戦う事も可能だ、と言う事だ。
 そして、ダンテは戦場となる地下街についての説明を始める。
「ちなみに、深夜の地下街への入口はは通常、すべて封鎖されてるっすけど、事前に管理事務所に話を通しておけば、特に問題なく地下街に入れるっすから、敵がやって来るまでの間、地下街の通路の角や階段付近に身を隠して待機する事は可能っす……ただし、深夜の地下街の照明は、防災ランプぐらいしか灯ってないっすから、地下街全体はかなり暗くなってるっす。なので、何らかの準備はしておく必要があるっすよ」
 そう言い終えたダンテは、集まった者達を改めて見回してから、
「月華衆の行動には不可思議な点も多いっすから、もしかすると、この作戦の裏には黒幕がいるのかも知れないっす……でも、事件の解決も大切っすよ!」
 と、ケルベロス達へ向け、よろしくお願いします、と頭を下げるのであった。


参加者
ジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)
神門・柧魅(王風のかどみうむ缶・e00898)
アイリス・フィリス(気弱なトリガーハッピー・e02148)
黒谷・理(万象流転・e03175)
風魔・遊鬼(風鎖・e08021)
祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)
京・鷹子(悪食・e21705)

■リプレイ


 午前2時50分。
 普段は人通りで賑やかな地下街は深夜を迎えれば、そこは暗闇と静寂に支配された地下の大迷宮と化していた。
 そんな中、防災ランプの緑色光が作り上げた薄闇の一角に、幾人かの影が動いていた。
「おいおい、名古屋は地下街と地下街がくっ付いてるのかよ……こんだけ広いと、戦場どころか、敵が何処から来るかなんて予測できねーじゃん」
「いえ、戦場となるのは店の周辺からオブジェのある広場辺りまでだと思います。照明もその周辺に設置するのか良さそうですね」
 予想以上に広大な地下街の地図を眺めながら、ジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)がワイルドに逆立てた髪をやや苛立つ様に掻き上げると、その仕草に気付いた黒き忍装束姿の青年、風魔・遊鬼(風鎖・e08021)は、手元の地図と実物の地下街とを交互に指で指示すと、仲間達に潜伏出来そうな場所や照明の配置についての情報を伝えていく。
「ふむふむ……じゃあ、まずは手分けして、広場に照明を設置するヨ」 
 そんな遊鬼の言葉に笑顔で答えたのは、真っ赤なチャイナドレスに身を包んだ妙齢の女性、京・鷹子(悪食・e21705)だ。
 そのまま彼女は嫌な顔ひとつする事無く、よいしょっと照明を持ちあげると、その場のケルベロス達もそれに続く様に照明を運び始める。
 設置作業は、鷹子が事前に管理事務所に話を通すだけでなく地下街の下見も済ませていた事もあってか、数分後には全てが完了した。
 そしてケルベロス達は、それぞれの照明を消すと、物陰へと身を細ませていく。 

「実は螺旋忍軍と戦うのは、これが初めてなんだが……月華衆ってのはどんな奴らなんだ?」
 黒谷・理(万象流転・e03175)は、左手に刻まれた大きな傷跡を確かめながら、何気ない問いを仲間達へ向けた。
「私が月華衆を相手取るのは、これで二度目だが……はっきり言えば、感情の伺えぬ者達だ」
 彼の問いに最初に答えたのは、ダニエラ・ダールグリュン(孤影・e03661)であった。
 そして彼女は、だが、それでも戦うしかない、と言い切ると、闇の中でその美しき面差しを僅かに歪める、
 「それにしても……彼女達は使い捨ての駒なんでしょうか?」
 そんな中、アイリス・フィリス(気弱なトリガーハッピー・e02148)も、小さな疑問を口に出す。
 彼女は……デウスエクスが大嫌いだ。
 だから、今回も絶対に仕留めてみせる、と決意しているものの、捨て石の様に扱われる月華衆の事を考えると、少し不憫にも思えてしまう。
「月華衆を使ってケルベロスの情報を集めているのは……一体誰で、どうやって集めてるんでしょうね」
「ひょっとすると、奴らには本体がいて……分裂とかしてたりしてるかもな」
 そんなアイリスの気持ちを知ってか知らずか、根拠の無い推論を返したのは、神門・柧魅(王風のかどみうむ缶・e00898)だ。
「まあ、何体いようが、この完璧なオレがいる以上、負けないだろうけどな」
 そう言って、彼女は妙な自信に満ち溢れた笑みを浮かべ掻けた時。
「……倒しても倒してもキリがない。それだけの数がいるのか、それとも分身の一種か……まあいい、どとらにしろ……祟るだけだ」
 暗闇の中、呪わしげな声が響く……その声の主は誰あろう、祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)のものだ。
 長い黒髪を垂らし白装束を纏ったイミナの姿は、正に丑の刻参り……いや、この地下街に現れた怨霊にすら見える。。
「お、おい……そろそろ、お喋りは止めときな。敵にバレちまうぜ」
 そんなイミナの雰囲気に薄寒いものを感じたのだろうか、ジョーイがそれ以上の会話を遮る様にして仲間達に注意を促す。
「了解……では、予定通りに」
 その言葉に短く答えた遊鬼が隠密の気流を纏って闇へと溶け込んでいくと、続く様に仲間達も物陰で静かに息を潜める。
 再び静寂を取り戻した地下街に、永遠に続くかの様な時間が流れ始める。
 それから程無くして……ケルベロス達は暗闇の中、何者かの近づく気配を感じ取った。


 午前3時18分。
 暗闇に包まれた地下街を、何者かが音も立てずに駆け抜けてくる。
 その人影は、広い通路の一角にある、とある時計店の前で立ち止まると、シャッターの脇にあるパネルのロックを難無く解除し、そこに隠されていた開閉ボタンへと手を伸ばす。
 その瞬間。
 一斉に点灯された照明達が、今まさに時計店へと忍び込もうとする仮面を被った少女の姿を煌々と照らし出す。
 その光の中、月華衆の少女は静かに振り向き、眼前の暗闇を見据えると、そこには猛獣の様な笑みを浮かべた理と、彼に続く様にして武器を構えるケルベロス達の姿が映る。
「よう、ニンジャさん。お仕事おつかれさん」
 理の不躾な挨拶に月華衆は何も答えない。それどころか、その思考や感情すらも螺旋の仮面によって隠されている。 
「てめぇ、面白い技を使うんだってなぁ……だったら、喧嘩しようぜ、喧嘩」
 彼がそう告げた瞬間、月華衆は身を低くして構えを取ると、動きを封じられぬ様、広場へ向かって駆け出した。
 それを見て取った遊鬼は無言で氷結の螺旋を創り出すと、月華衆へと撃ち込み、戦闘化開始を告げる。
 と、同時にダニエラも敵の機動力を削ごうと、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを打ち込んだ。
「またこそ泥かァ? 毎度毎度懲りねェなァ!」
 そこへジョーイが叫び声と共にチェーンソー剣を振り下ろす。
 対する月華衆は、その攻撃を躱す事無く受け止めるも、ジョーイの卓越した一撃は月華衆の腕の一部を瞬時に凍らせた。
「さあ、蝕影鬼。お前も祟ると良い……真似だが祟り返されて愉しいぞ」
 そんな彼らに呼応するかの様に、イミナの命令に従った彼女のビハインド、蝕影鬼が心霊現象を発生させ、敵へと金縛りの念を送る。
「……恨めしく祟る。祟る。祟る祟る祟る祟祟祟……呪イ、砕ケ……!」
 と同時に、彼女自身も呪いの力を言霊に乗せた呪術で禍々しき領域を形成すると、そこから滲み出した呪言で、前衛に立つ者に霊的加護を崩す呪力を与えていく。
 そして、その領域の陰から飛来し、敵の腕の一部を凍結させる。
 それは、忍び一門、神門家に代々伝わってきた氷結の螺旋術だ。
「くっくっく、今日がお前の命日になるかもな」
 その螺旋を放った赤き装束を纏った少女、柧魅は長いマフラーをなびかせながら。不敵な忍び笑いを浮かべてみせる。
 更には敵へと一気に間合いを詰めた理が、刹那の抜刀から鋭い斬撃を見舞う。
「なあ、アンタの情報集めってどうやってんだ? まあ、俺の方は別にかまわんかな」
 そんな理の問い掛けに、月華衆は何も答えない。
 それどころか、敵はケルベロス達の猛攻を全て受け止めつつ、一瞬たりとも眼前の者達から目を逸らす事はしない。 
 そして、その姿勢は、仲間達をを守護する為に鷹子が魔術加護を打ち破るルーンの力をダニエラへ与えた時も、アイリスが召喚した「御業」が柧魅を守る鎧へと変じさせた時も、全く変わる事がなかった。
「どうやって集めてるのかな……どこかで戦いを見てる?」
「いずれにしても、狙いが商店の時点でシケた連中なのは間違いないヨ。まあ、コソ泥程度じゃこのくらいが関の山……」
 そして、そんな月華衆の行動を見たアイリスが疑問を呟き、鷹子が挑発の言葉を月華衆へ向け、何処かにいるかも知れない黒幕に聞かせようとした瞬間。
「……来るぞ! 気を付けろ!」
 敵の動きが変わった事にいち早く気付いたダニエラが警告の声を発する。
 その瞬間、月華衆の少女は目の前の壁を蹴って身を翻すと、その勢いを殺す事無く、ケルベロス達へと走り込む。
 そして、その螺旋の力を宿した腕を、まるで抜き身の剣であるかの様に振るい、遊鬼へと狙い澄ました一撃を叩き込んだ。
「……ッッ!!」 
 その一撃を浴びた遊鬼は、思わずその場でたたらを踏む。
 敵の真似た斬撃は、ジョーイが先程放った達人の一撃と寸分も変わる事のない動きであった……しかしながら、それを上回る威力を秘めていたのだ。
 だが、彼はすぐさま体制を立て直すと、返す様に空の霊力を帯びた武器を振るって、敵の傷跡を正確に斬り広げた。
 そんな彼に続けとばかりに、アイリスが敵の首筋を狙って「死」の力を帯びた大鎌を振り下ろせば、そこに長き髪を鬣の様に風になびかせながら走り込んできたダニエラと。2本のチェーンソー権を構えて豪快に突っ込んできたジョーイとが、共に高速で回転する刃を横薙ぎに振るう。その攻撃で生じた摩擦熱が、2本のチェーンソー剣を水平に薙ぎ払う。
 そしてイミナは、先程敵が放った達人の一撃をお返しとばかりに繰り出し、それを援護しようと、ビハインドがその場あった物を敵へと飛ばす。
 さらに理が氷結の螺旋を敵へと放つのに合わせて、柧魅が体内を巡るグラビティ・チェインを武器に乗せ、重々しい一撃を敵へと叩き込んだ。
 そんな仲間達の猛攻を支援しようと、鷹子は喚び出した「御業」を鎧へと変じさせ、負傷した遊鬼を癒し、彼に破剣の力を与えていく。


 月華衆とケルベロス達との攻防は数度も続き、地下街にはいまだ戦いの音色が響き続けいた。
 敵は地下街を駆け回りながら、自身へと向けられたケルベロス達の攻撃を吟味するかの様にしては、コピーした攻撃を繰り出してくる。
 そして、ケルベロス達も敵を逃すまいと、地下街を駆け回り、持てる技を月華衆へと叩き込んでいく。
「ハアハア……こんなに走り回るなら、アームドフォートを持って来くるべきでした」
 ずり落ちそうになった帽子を元の位置に戻したアイリスは、切れ掛けた息を整えながら、思わずそんな事を呟いてしまう。
 それもその筈、彼らはいまだ、月華衆を追い詰める事ができなかったからだ。
 此方の攻撃の手は緩んではいない。だが、理の素早き攻撃が見切られている事もあってか、決定的な打撃を与えるには至らない。
 だが、敵は自分達の多彩な攻撃を真似ながら、確実に此方の損耗を増やしていくのだ。
 それは、敵の使うグラビティはケルベロス達の真似事ではあるものの、その威力は彼ら以上のものであったからだ。
「同じ攻撃なのに威力がデカのかよ……クッソ、面倒臭ェな!」
 ジリジリと追い詰められているのは此方側のなのかも知れねェな、と嫌な考えを頭から追い払いながら、ジョーイはまっすぐ敵を見据える。
「このままじゃ埒が明かないネ。どうするヨ?」
「いや、攻防が度重なればお互い同じ技の繰り返しになってくるだろう……だが!」
 皆の後方から戦場を見渡していた鷹子が誰に言うともなく口にした言葉に、まるで答えを出すかの様に答えたダニエラは、敵へと真っ直ぐに突撃すると、
「獣撃拳は私の鋭い蹄が放つ技、同じに見えたとて……威力で負ける訳にいかないっ!」
 その誇りと共に己の蹄へと重力を込め、敵へと力強く打ち込んだ。
 そして、そんな彼女の言葉を裏付けるかの様に、少しずつではあるが、戦況は自分達へと傾いていく。
 それは、攻撃手段を可能な限り、単体相手の斬撃という形に絞った事もあるだろう。
 つまり、此方は斬撃への耐性を備えていれば、絶大な威力すらも半減する事が出来る。
 しかし、中にはその備えをしなかった者もいる。恐らくそれは……有り余る自信の成せる業だったのであろう。
 そして、その優位性に気付けば、敵は例え使い捨ての駒であろうとも、間違いなくその弱点を突いてくる。
 その事に気付いたのであろうか、広場を駆け抜けていた月華衆は突然足を止めると、目の前にいた理へと遊鬼の動きを真似た絶空斬を繰り出した。
「理さん! 危ないっ!!」
 その動きに咄嗟に反応出来たアイリスは、二人の間に割り込むと、その斬撃を一身に引き受けた。
 月華衆の手刀がアイリスの肩口を容赦無く斬り裂く……だが、幸いにもその攻撃は減じられ、致命傷には至らなかった。
「チッ! 俺とした事が!」
 年端もいかぬ少女に庇われた為であろうか、理は舌打ちを鳴らすと、敵へと達人の一撃を返すが、既にその太刀筋を見切っていた敵は、紙一重でこれをかわす。
 だが、その動きは戦闘開始時と比べれば明らかに鈍くなっている。
「くっくっく……その攻撃は見切れても、このオレの完璧な攻撃は見切れねーよな?」
 もうひと押しだ、そう逸る気持ちを忍び笑いで抑えながら、柧魅は広場のオブジェの陰から飛び出すと、己に宿った重力を破壊力に変え、強烈な一撃を敵へと叩き込む。
 彼女の不意打ちを受け、さしもの敵もぐらりと体制を崩しかけるも、すんでの所でその場に踏み止まる。
 仮面の奥の表情を読み取る事は出来ないが、その覚悟を決めたかの様な動きを見た者達は、この戦いの終わりが近付いた事を悟る。
 だが、それでも敵は退くはせず、コピーした攻撃を続けるのみだ。
 そして、対するケルベロス達も……蝕影鬼を失い、満身創痍となりながらも、決して攻撃の手を緩めようとはしない。 
「……ッ!」
「テメーは人形か? 猿真似ばっかやってんじゃあねーぞ!」
 遊鬼が何度目かの氷結の螺旋を放てば、ジョーイも負けじと摩擦炎を伴った2本のチェーンソー剣を横薙ぎに振るう。
 次の瞬間、その一撃を受けた敵の仮面にヒビが入る。
「……この程度の祟り返し、微塵も愉しくはないぞ……もうよい、祟り殺してやろう!」
 そしてイミナが、死の力を纏った大鎌を敵の首筋に目掛けて一気に振り下ろすと。
 敵はその場に倒れ込み、幾度か痙攣してから……ぴくりとも動かなくなった。


「楽しませて貰ったよ、いい喧嘩だったぜ」
 動かなくなった月華衆を一瞥しながら、理が強敵へと別れの挨拶を送る。
「くっくっく、小娘ごときがこの完璧なオレに敵うわけもないだろう……さぁて、調べさせてもらうぞ」
 そんな中、柧魅は誰よりも早く月華衆の亡骸へと近付くと、素早く敵の持ち物を調べ始める。
 だが、月華衆の所持していた物品は、どれもありふれた物ばかりであった。、
「何か手掛かりになるものを持っているかと思ったのですが……残念ながら、これといった物は無さそうですね」
 そして、彼女と同じく敵の持ち物を探ってみた遊鬼も、やはり情報を得る事は出来なかった。
「まあまあ、事件を未然に防げただけヨシとするネ」
「あ、鷹子さん、私はこれを直しますね」
 そんな二人をなだめながら、鷹子が破損した地下街を、アイリスが広場のオブジェにヒールを掛けていく。
「部下を捨て駒扱いするなんて、クッソ面倒臭ェ事しやがって……気に入らねェ!」
 そしてジョーイは、仲間達から少し離れた場所で、やり場のない怒りを地下街の壁にぶつけていた。
 やがて地下街の修復も終わり、ケルベロス達は速やかにその場を去っていく。
 少しだけ、いや、完璧と言える程まで豪華になった地下街を後にして。

作者:伊吹武流 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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