うさぎの魂

作者:絲上ゆいこ

●開演
「さぁさぁ! 今宵も始まる、我ら『マサクゥルサーカス団』のオンステージだ!」
 深夜の市街地に響く声音。蛾の羽を背より伸ばした死神が朗々と宣言する。
 青白い光を纏う巨大な怪魚を4匹侍らせた彼――『団長』は、その手に持った鞭を撓らせて叩きつける。
「君たちが新入りを連れて来次第パーティを始めよう! 楽しい楽しいパーティだ!」
 鞭の音にゆらりと怪魚が空を泳ぎだす。
「それでは君達、後は頼んだよ」
 怪魚達が泳ぐ様を満足気に確認し終えた『団長』は夜暗に姿を消し。残された魚達は青白い燐光を纏い、軌跡は魔法陣を描き出す。
 ゆらゆら、月明かりの下を泳ぐ魚。
 幾度目かの回遊が終えた時。その魔法陣の中心に影が生まれた。
 
●演目
「よぉ、集まってくれたか。ンじゃぁ、早速だが今回の事件概要だぞ」
 軽くケルベロス達に会釈したレプス・リエヴルラパン(レプリカントのヘリオライダー・en0131)は片目を瞑り、資料を掌の上に映し出した。
「お前達も、もう知ってるかもしれないが……。蛾の様な羽を生やした死神が、第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスをサルベージする作戦の指揮を執っているようでなぁ」
 配下である魚型の死神に変異強化とサルベージを行わせて、復活させたデウスエクスを死神勢力の戦力としようとしているようである、と『団長』の姿を掌の上でくるくると回しながらレプスは語る。
「まあ、みすみす戦力増強を見逃してやる訳にも行かないだろう? そこでお前達ケルベロスクン達の出番って訳だ」
 レプスはウィンクし直すと地図を取り出し、出現ポイントにバツ印を付けた。
「深夜のために人通りは無いが、普通に市街地の交差点だ。出来るだけ周りに迷惑がかからないようにお願いしたい所だなぁ」
 といっても、一番大切なのは敵の撃破だ。
「サルベージされたデウスエクスは、ウサギのウェアライダーだ。今は仲間のウェアライダーもデウスエクスだった頃があるってな。戦い方はウェアライダーそのものだが……知性は失われているようで、会話は無理だろうな」
 戦い方を忘れはしないが、感情も言葉も、記憶も失われているとは哀れなもんだな、と付け足したレプスは細く息を吐く。
「ああ、そうそう。4匹の魚型死神もディフェンダーでおまけに付いて来るぞ。ちゃんと倒して来てくれよな」
 どう考えてもおまけでない量をさらっと伝えると、レプスはケルベロス達へと真剣な瞳を向ける。
「ウェアライダーの皆は、もしかしたらご先祖様かもしれない相手を死神に弄ばれるなんて胸糞が悪いと思う。……だからこそ、きっちりトドメをさしてきてやって欲しい」
 死神の策略を潰し、そして悲しき魂を解放する為に。ケルベロス達の力が求められている。


参加者
朔望・月(欠けた月・e03199)
雨之・いちる(月白一縷・e06146)
パーカー・ロクスリー(浸透者・e11155)
アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)
黄檗・瓔珞(斬鬼の幻影・e13568)
虹・藍(蒼穹の刃・e14133)
ルルリアレレイ・パンタグリュエル(黄金魔書の詠み手・e16214)
空木・樒(病葉落とし・e19729)

■リプレイ

●うさぎうさぎ
 青い双眸がゆっくりと体を起こす獣人を捉え、虹・藍(蒼穹の刃・e14133)は細く息を吐いて呟いた。
「こういうのを見ると本当に『死ねない』って思うわね」
 ゆらゆらと月夜を泳ぐ魚達が一斉に視線を一方へと向ける。
 魚達に守られるように踞っていた獣人が、周囲を警戒するようにピンと耳を立てた。
 死神に魂を囚われし獣人の姿は、小柄な少女そのものだ。
 ぴくぴくと幾度も耳を揺り動かしながらケルベロス達を見やった瞳は、感情が抜け落ちたような虚ろさを感じる血色に満たされている。
「寂しいから、土の中から出てきちゃったの? 兎さん」
 藍がエアシューズでトントンと地を叩き尋ねてみる。
「っ!」
 うさぎの少女の返答は、アスファルトを割るスタンピングからの強烈な一撃だ。
「させません」
 白銀のオーラを瞬かせて、迷わず加速したルルリアレレイ・パンタグリュエル(黄金魔書の詠み手・e16214)が、逆手に掲げた鉄塊剣でその一撃を食い止める。
 衝突の勢いに地がガリガリと割れ、削れ。ルルリアレレイの毛先、地獄の炎が舞う。
「……相変わらず死神のやることは目的がわかりにくいですね……」
「敵さんの事情、よく解らないけど。……寝てるのを無理に起こすのは、よくないと思う」
 対照的とも取れる月白の髪を揺らし、雨之・いちる(月白一縷・e06146)が殺気を撒き散らしながらぼんやりと呟いた。
 ケルベロスたちの動きを警戒し、行く手を阻むように死神がぐるりと空を泳ぐ。
「封じられし邪神、私に力を貸して。――『虚喰』、全てを喰らい尽くして」
 ぐるぐると回遊していた死神が一気に前衛へと喰らいつかんと跳びかかり、牙を剥いた瞬間。
 捧げるのは自らの血。
 瘴気を纏う魔導書の封印を解けば、終焉を詠う邪竜は吠えた。
 喰らいつく死神へと、喰らいつく邪竜。びたびたと死神がその身を捩り暴れる。
「先手必勝、ってね」
「その通りですよー。さ、始めましょうか」
 いちるの呟きに応えるように、携えた刀の柄に手首を載せた黄檗・瓔珞(斬鬼の幻影・e13568)は唇に笑みを浮かべて頷いた。
「先人さんには、天から見守っててもらいましょう」
 呟きと共に瓔珞が自らの影を踏むように足をトンと鳴らすと、ぶわりと影の蝶が幾匹も生まれ舞う。
「揺蕩い捕らえよ、我が式神―――!」
 ひらりひらりと舞う蝶は、暴れていた死神にその羽根を休め。解け消えるように黒い紋様を残す。
 紋様が刻まれた事により動きが緩慢になった死神を地へと叩きつけると、魔導書へと竜は姿を消した。
 そんな死神を省みる事も無く。 
 ケルベロスたちの懐に飛び込もうとステップを踏んだうさぎのウェアライダーの前に立ちふさがったのは、アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)だ。
「ウサギ! アラタも元々はダモクレスだ! その事は経緯は其々だろうけど、納得してる!」
 ウサギの獣人の少女は、少女の訴えに応える事は無い。身を低く構え、鼻をピクピクと揺らして警戒を露わにするのみだ。
 巨大なハバネロを生み出しながら、アラタは更に言葉を紡ぎ、問う。
 敵に、人の理屈や価値観が通じるとは思っていない。
 しかし、理不尽に巻き込まれる側はいつだって可哀想だ。
「……ウサギは納得できるのか? 眠ってるとこを起されて、言葉も奪われて、それでも昔のことを、覚えているのか?」
 死神がガチンと歯を鳴らしてアラタへと喰らいつかんと空を駆けるが、ミミックのガルガンチュアが硬そうなボディをその前歯へと割って入り、庇う。
「ピ・リ・リ・と! 美味しくなーれっ!!」
 アラタは同時に生み出されたガスマスクを抑え、ウサギへと発射するのはハバネロビームだ。
 死神の間を擦り抜け、直撃する激辛砲。
 ルルリアレレイはビームに合わせて、地を蹴って跳躍する。
 そして、ぐうとバネのように体を撓らせてから上段に掲げた巨大な鉄塊めいた剣を振り下ろした。
「……がああっ!」
 怒りを露わにしたウサギに瞳を細めてアラタは思う。
 せめて戦士として感じて欲しい、認識が出来なくなっていたとしても。
 彼女の魂に残る戦士が、夜の風を、戦場の殺気を、昔駆け抜けた場所を感じる事ができれば。
「一瞬でも、還ってこれるといいな」
「……どんな目的があったとしても。墓を荒らして尊厳を踏みにじるを許す事はできません」
 毛先に揺れる、地獄の炎の髪と、涼しげなアリスブルー。
 アラタとルルリアレレイは背中合わせに。理性を失った戦士を食い止めんと、立ちはだかる。
「ええ、不可逆にして絶対である死の壁。超えることは許しません」
 妖精弓より放たれた矢を祝福に変え、空木・樒(病葉落とし・e19729)は仲間へと癒しを与える。
 敵は敵。特に感慨など抱きはしない。
 しかし、死神は倒した敵を引き戻す厄介な敵だ。
 樒の桃色の瞳は、冷たく死神と獣人。――標的を睨めつける。
「わたくしが居る限り、あなた方の思い通りになど致させません」
「団長とやらはサーカスの動物として芸でも仕込むのかね? そしてうさぎの奴は鞭で打たれてしまうのかね?」
 はん、と嘲笑するようにパーカー・ロクスリー(浸透者・e11155)は言い。
 掲げたガトリングガンより死神へと雨のように弾を降らす。
「此処で倒されるにしろ哀れなもんさ」
 がちんと歯を鳴らす死神を窘めるように、流星めいた蹴りを抉りこませる藍。
「何にせよ、敵に利用されるなんてまっぴらよね。ねえ、貴方だってそう思うでしょう?」
 蹴りあげた死神を足蹴にしながらウサギの獣人に尋ねて見るが、答えは帰ってくる事も無い。
 解っては居た事だが。
 まったく、感情の全てを奪い、敵の手先にされるなんてまったくぞっとしない話だ。
 藍に足蹴にされた死神がその牙を足先へ伸ばす前に、後ろ足で蹴りあげて躱して距離を取る。
 朔望・月(欠けた月・e03199)は自らの名前を貰った星、月をちらりと見上げる。
 月明かりの下での目覚め。
 これは、自分自身が目覚めた時と重なる境遇だ。……自身の目覚めは、この世界で今と未来の時間を生きるという意味を与えてくれた。
「うさぎ……さん、聞こえますか?」
 藍も先程も語りかけたように、答えが帰ってくるとは思ってはいない。
 しかし、言わずには居られないのだ。
 理解する知性を失っていたとしても届けられる思いはあると、思うからこそ。
「貴方が、今度こそ安らかに眠れるように」
 縛霊手より紙でできた兵をばら撒きながら月は思いを強める。
 こくんと頷いた少女のビハインド、櫻が名前と同じ色の髪を揺らして死神の背後へと現れると、拳を合わせて叩きつける。
「そうだね、勝手に起こされて、戦わされて。……せめて私達が引導を渡してあげよう」
 空を跳ねる魚。
 屈んで死神の突撃めいた食らいつきを避けたいちるは、振り返りざまにオーラの弾丸を死神に喰らいつかせた。

●おつきさまみてはねる
 死神たちは、数は多けれど自らを癒す術を持ちあわせていない。
 ケルベロスたちは着実に死神たちの体力を削り、死神はその数をすでに残り二体へと減らしていた。
 慣れた手さばきで、薬匙型のロッドを振るい雷の壁を生み出す樒。
 幾度か拳を重ね分析した結果、うさぎの一撃の真に恐ろしい所は威力にあらず。
 そのバッドステータス、そしてエンチャントの付与量だと樒は感じていた。
 そして、そのバッドステータスは癒しさえちゃんと重ねていれば対処できる範囲であろうとも。
「……! うさぎが動きます!」
「おー!」
 死神を抑えているチームへとサイドステップで回り込もうとうさぎが動いた瞬間、樒が叫ぶ。
 先に動いたのはアラタだ。
 仲間にたどり着かれる前に、密着し。間合いに飛び込んだアラタはうさぎのその魔力の咆哮をモロに浴びる。
「ぐうっ……!」
 脳を直接揺さぶる叫び。
 アラタが頭を抱えたたらを踏むが、前にでることで庇うようにルルリアレレイが駆けた。
「はっ!」
 巨大な鉄塊剣の一撃を弾く弾力。
 うさぎとルルリアレレイとの間に魚が割り入り、その身を挺してうさぎを庇ったのだ。
 弾き飛ばされた死神は、びたんと地に体を打ち据えられながらも歯をむき出し、ゆらりと空を再び泳ぎだす。
 魚たちは愚直に噛み付く事しか出来ぬとは言え、戦意を失う事は無い。
「ハッ!サーカス団のくせに出来る事は限られてんだな。芸のない奴らだ」
 ハンドガンをくるりと掌の中で弄び、握りしめてパーカーは小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「パーカーさん、おじさんと合わせられるかい?」
「ああ? ……まあ、合わせてやるよ」
 尋ねる瓔珞はステップでタイミングをずらしつつ間合いを詰める。
 そのまま構えた斬霊刀で放つ突きは雷めいて。文字通り弾かれ、空中を飛んでいるが故に堪える事が出来ぬその身を弾き飛ばされる。
 このままパーカーが突っ立っていれば見事、自分自身へとストライクしてくれる事であろう。
「チッ、ノーコンが!」
 パーカーは舌打ち一つ。目前へと迫る死神へと、目にも留まらぬ勢いで弾を叩きつけた。
 びくんと大きく跳ねる死神の体。
 しかし勢いが死ぬ事は無く、そのまま突っ込んでくる。
「っ!」
 サイドステップでなんとか避けたパーカーの足元を擦り抜け、壁へとめり込む死神。
 ざらりとその身が砂のように解け消えるのを確認してからパーカーは軽く瓔珞を睨めつける。
 おやー? と瓔珞は軽く首を傾げ。そんな彼らを狙い、大口を開ける最後の死神。
「あら。だめよ。貴方の相手はこっちよ?」
 ガードを上げながら、魚の体を堰き止める藍。
 逆手に握った鎌は、お伽話やタロットように死神めいた鎌だ。
 目にも留まらぬ速さで振り落とされた虚をその身に受け、死神は仲間と同じくざらりと解け消える。
「さあ、最後は貴方よ兎さん」
 藍が呟くと、青と銀のショールをはためかせながら、いちるは虚喰の封印されし魔導書へと魔力を注ぐ。
「無理矢理起こされると、眠いよね、そろそろおやすみ」
 再度呼び出されし邪竜はうさぎへと一直線に駆け、合せるように櫻がその後ろを駆ける。
 月は瞳を細めて、アラタへの癒しの歌を口ずさむ。
「――わたしは歌う。わたしは願う。あなたへと繋がる「奇跡」があるならば」
 自然でない生を与えられ、生きる為でなく、死をもたらす道具としての目覚め。
 それは、とても悲しい事だと月は思う。
「いつか。たどり着くその未来に。この歌が、祈りが、届くよう」
 捧げる歌は仲間に癒しを、そして願いはうさぎの魂へと捧げよう。

●囚われた魂
 ガルガンチュアがうさぎの足元へと噛み付いた。
「黄金魔書よ、書架の主が請い願う。蒼天の碧、緋天の朱を極彩と混ぜ、夢を現に幻を現に」
 ルルリアレレイは前衛に向かって、魔書を手に加護の言葉を口にする。
 滅亡への抗いを詠うそれは、強い意志を持って先を進む者に歩き続ける力を与える再生の御業。
「癒やしを、滅びに抗う強さをどうか此処に――!」
「……が、ああ、あ!」
 滅亡への抗いも、意思も。無くしてしまったうさぎの少女はただ咆哮をあげる。
「あぁ、折角可愛いのにな、まあ、スタイルは良くないが。……全く色々残念だな」
 弾を吐き出すガトリングガンをぶっ放しながらパーカーは軽口を叩く。
 鬱陶しげに降り注ぐ弾の雨の中を走る彼女にはもう、もしもは無い。
 一度死んでしまったら、後は自分の意志なんて失ってしまう。
「……っ!」
 櫻がうさぎの足に金縛りを掛け、一気に距離を詰めたいちるは重心を落として、拳を振りかざした。
 音速を超える拳は後から音がついてくる。
 金縛りによって不安定な体勢ながらにその拳の速度についてきたうさぎは同じく音を置き去りに。
 いちるとうさぎの拳と拳がぶつかり合う。
「うさぎさん、やるね。でも、私達はもっとやるよ。……さ、畳み掛ける、よ!」
「おぉ、いくぞーっ!」
 いちるは笑い、跳ね飛んできたアラタのドリルがうさぎの横っ腹に叩き込まれる。
「わたくしが居る限り、決して仲間を倒させたりはさせません」
 為せることを為すというだけ。
 樒は自らの持つ矜持を噛み締め、矢を穿つ。その矢はいちるの体を癒し、祝福を与える矢だ。
 地面を派手に転がったうさぎは、壁を蹴ってぴょんと体勢を起こし、幾度もステップを踏む。
「……もう一度眠らせてあげるわ」
 藍の指先から、虹色を纏う星銀の弾丸が撃ちだされる。
 敵に利用されるなんて、まっぴらよね。もう一度彼女に言った言葉を頭の中でなぞる。
「――貴方の心臓に、楔を」
 集中を高め、うさぎの拳を睨めつける月。
「うさぎさん、もう、戦わなくても大丈夫ですよ」
 爆ぜる音は、サイコフォースが彼女の拳を覆う篭手を弾き飛ばした音だ。
 僕らの手で、……想いを込めて。あなたを送ります。
「黄檗さんっ!」
 こくんと頷いただけで鷹揚に返事の変わりとした瓔珞は、紫苑へと手を掛ける。
 その巨大な日本刀の柄を握りしめた後、キンと甲高い音だけが残った。
 目にも留まらぬ速さの居合い斬り。
 ばらり、とうさぎの体がその場で解け、砂となり散る。
「おやすみなさい、先人さん」
 口端に浮かべていた笑みを少し崩し、瓔珞は呟いた。

●青い月
 空に浮かぶ月は、ケルベロス達を青々と見下ろしている。
「起しちゃって、ごめん」
 アラタは瞳を閉じて見送るように祈る。
 彼女は少しでも、昔に戻れただろうかと、考える。
 答えなんて解らないけれど。……それでも前に進むしか無いから。
「さーて、ヒールだ!」
 既にヒールを始めていた樒にアラタは合流し、壊れてしまった街並みを癒し始める。
「キープアウトテープも外しに行かなければいけませんね、行きましょうか」
「げっ、俺かよ……」
 ルルリアレレイがガルガンチュアを抱き、パーカーを誘って戦場に付く前に張り巡らせたキープアウトテープを剥がしに行く。
 舌打ちをしつつもパーカーも自分の貼った物を剥がしに歩き始める。
 並び祈りを捧げる藍と月。
 櫻も普段とは打って変わり、大人しく手を合わせて祈る。
 遠い昔を生きて、死の眠りについた尊い誇りを持つ貴方。
 ――どうか、貴方が今度こそ穏やかで安らかな時を過ごせますように。
 浮かぶ月の色は、彼女を悼む色のようにも見える。
「うさぎは月に住むそうですねー」
 瓔珞は呟き、思う。
 彼女は天へ昇る事ができただろうか?
 せめて、黄泉路で困らぬようにと六道銭の首飾りを手向け。いちると並び空を見上げた。
「……おやすみ、良い夢を」
 いちるは指先で、月みたいにまんまるな蜻蛉玉の武器飾りを撫でながら言う。
 見上げた月の中では、うさぎが餅をついているように見えた。

作者:絲上ゆいこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。