解放的プールサイド

作者:林雪

●マッドドクターの指令
「よォし、いいぞ! いいぞ! そのまま……フラーあぁあああイ!」
 マッドドラグナー・ラグ博士の声が響き渡る。彼こそは飛行型オークを生み出した、フリーダムかつハイテンションな科学者である。
 実験により量産した飛行オークの訓練の様子をムムム、と眉をひそめながら眺めていたラグ博士は、いっかぁーん、とオーバーアクションでため息をついた。
「現状では能力に限界があるなァ……これ以上の性能を得るには、新たな因子の取り込みが不可欠だ、そこでお前たち」
 ちゅーもく! とラグ博士が両手をあげて、飛行オークたちの視線を集めた。
「指令だ! 今から人間の女子を襲って、新たな子孫を生み出してこぉい! お前達が産ませた子孫を実験体にすることで、飛空オークは更なる進化を遂げるだろう!」
 このおぞましい指令に、飛行オークたちはブキャア、と歓声で答えた。
「オンナ! オンナ!」
 飛行オークたちの歓声を浴びながら、ラグ博士は興奮に目をぎらつかせて叫んだ。
「はーっはっはっ! さあ、進化の空へ飛びたてオークども!」

●ヨガスクールの悪夢
 とあるホテルの屋上プールサイドで行われている、女性限定のヨガスクール。
 ここのホテルは高層ビル街の一角にあり、そのビル街を見渡せるリッチな展望から働く女性に大人気のスポットだ。泳ぐにはまだ早い今の季節も、こうしてスクールなどが行われる。インストラクターも、当然女性。参加者はOLやモデル、他にもキャビンアテンダントや、看護師など。
「では、両手を胸の前で合掌して……今日も穏やかな時間を過ごしましょう」
 ゆったりとした音楽に合わせてインストラクターが笑顔でそう言うと、マットの上に座っていた女性たちが一斉に頭を下げる。皆、動きやすいノースリーブに体の線の出やすいスパッツ、ビキニタイプのヨガウェア姿の参加者もいる。
 このスクールは内なる自分の解放、を謳っているので、両足を広げたり、思い切り胸を突き出して体を反らせたりとポーズもなかなか大胆なものが多い。
「それではまず、マットの上に仰向けになって、両手を広げて、腰幅に足を開きましょう。それから膝を立てて……キャアアアッ?!」
 インストラクターが悲鳴を上げたのも無理はない。周りは高層ビル、見えるのはその隙間の青空だけであるはずなのに。突如空から降ってきた、けがらわしい生き物。
『ブヒャヒャヒャヒャ……!』
 無防備に、仰向けに寝転がっていた女性たちの上に、次々と6体もの飛行オークがヨダレをまき散らしながら舞い降り、女性たちに覆いかぶさっていくではないか。その背中にはウネウネした、8本の触手……。
「イヤァア! 何コレ!」
「さ、さわらないでぇ」
『ブキキッ! 命令遂行だァ!』

●飛空オークを撃破せよ
「新しい敵だよ、空飛ぶオーク……まあ、飛ぶっていうか、降ってくる……?」
 何て言えばいいのかな? とボンヤリ考えてしまってから、ヘリオライダー安齋・光弦はケルベロスたちに視線を戻す。
「竜十字島のドラゴン勢力がまたオークを使って騒ぎを起こしてる……飛空オークって言ってね、あいつら泳いだり飛んだり忙しいよね」
 いずれにしても結局目的は同じだけど、と光弦が呆れて言う。
「飛空って言ってもね、本当に鳥みたいに自由自在に飛べるわけじゃなくて、滑空? 高いところからこう、ぶわっと」
 と、光弦が両手を広げてみせた。敵の飛行能力はまだ未熟であるようだが、高所から狙いを定めていきなり襲う、というのは効率的だ。何より襲われる女性は逃げ場もなく、たまったものではない。
「今回は、ホテルのプールサイドのヨガ・スクールに目をつけたみたい。このホテル自体15階建てだから結構背の高い建物なんだけど、周りは高層ビル群だからね」
 ちょうどビルの谷間のような部分で行われる、女性のみのヨガ・スクール。参加者は若い女性を中心に20名ほどだという。飛空オークの格好の餌食だと言わざるを得ない。
「滑空してくる飛空オークは6体。ちょっと多いけど、戦闘力は並だし、いったん着地したら普通のオークと変わらない。ただ、例によって事前にスクール参加者やインストラクターの女性を避難させてしまうと、襲撃場所が予知と変わっちゃうから」
 女性たちを避難させることが出来るのは、オークが落下地点を定めて滑空を始めてからという、ギリギリのタイミングになりそうだ。
「事前に女性たちの近くで潜伏することは出来そうだけど、スクールは女性限定だから紛れるとしたら女性ケルベロスだけだね。男性は……なんか地味にしてる方がいいかも? あからさまなイケメンオーラとか出しちゃうと、ほら、女性たちが意識しちゃうから」
 つまり、開放的な気分で思い切り体を動かしている女性たちの前に肉体派男性ケルベロスなどが現れてしまうと、動きが小さくなったり妙にお淑やかになってしまう懸念がある、ということだ。
「そうするとね、オークが来なくなっちゃうかもだから。そうなった場合は、ケルベロス側で囮になってもらう必要が出てくるかなあ」
 そのときはフォローよろしくね、と光弦はふんわり笑いながら言う。
「とにかくオークって、女性を辱めることしか頭にない連中だからね。ロクなもんじゃないよね。飛空オーク6体、地面に叩き落して女性たちを守ってあげてね、ケルベロス」


参加者
ノア・ノワール(黒から黒へ・e00225)
筒路・茜(赤から黒へ・e00679)
アルメイア・ナイトウィンド(星空の奏者・e01610)
月見里・一太(咬殺・e02692)
フレナディア・ハピネストリガー(サキュバスのガンスリンガー・e03217)
四葉・リーフ(天真爛漫・e22439)
フィアルリィン・ウィーデーウダート(フォールンリーブス・e25594)
フロル・ネスキオ(照る道標・e27100)

■リプレイ

●ヨガスクールにて
 都内の、高層ビル街の一角。
 ホテルのプールサイドに、30人近い女性たちが集結している。中心になっているのはちょっとふくよかなヨガインストラクターの、こちらも若い女性だ。マットを敷いて、それぞれウォーミングアップを始めた受講生たちの間を、笑顔で見回っている。
 参加者は各々ヨガのクラスに向けてウォーミングアップ中だが、もちろんそこに紛れているケルベロスたちは、飛空オーク退治に向けての、である。
「ヨガって……こんな感じ?」
 ノア・ノワール(黒から黒へ・e00225)も、その中に混じってさっそく柔軟を始めている。ヨガは初めての挑戦だがその体の柔らかさを生かし、足を背中に回したスコーピオンのようなポーズを決めている。
「彼らの相手をするのも久しぶりだね……」
 密かに戦意を滾らせるノアの隣で、筒路・茜(赤から黒へ・e00679)が、キラキラした目をノアに向けて立ち上がった。
「ヨガ、ヨガって……炎吐いたりするヤツでしょ。これでいいの? こう、ドラゴンブレスで……」
 がぉーっ! と茜がやりかけたところを、ノアに襟首を引っぱられる。
「あ、いでぇ!?―――、な、なに? 違うの?」
 それは違うゲームの話、とノアに嗜められてスンと鼻を鳴らす。
 すこし離れた場所で、やはりヨガマットの上のアルメイア・ナイトウィンド(星空の奏者・e01610)が呟いた。へその出るノースリーブの蒼いハーフトップに、短めの丈の黒いスパッツ姿をあわせたセクシーないでだちだ。
「……なんかなあ?」
 最近あまり柔軟もやっていない気がするので、いい機会だとスクールに加わってヨガにいそしむが、確かにこれはなかなかの露出と大胆なポーズ。おさげに結わえた豊かな金髪を揺らしながらくるりと周囲を見回す。
「いかにもオークどもが喜びそうだぜ……」
 と、胸を反らして『コブラ』のポーズをとりつつ、警戒を怠らない。
「エロ豚ども、どっからでもこーい!」
 四葉・リーフ(天真爛漫・e22439)も、愛用のバンダナと体にフィットしたノースリーブにスパッツの健康的な姿で、両腕を空に向かって伸ばした『英雄』のポーズを取りながら、上空からの襲撃に警戒している。回りは一般参加者ばかりだ。絶対に手出しはさせないぞ、と気を配る。ウイングキャットのチビは、プールサイドの目立たない位置から警戒に当たる。
 そのプールサイドのデッキチェアで豊かな肢体を伸ばしていた水着姿のフレナディア・ハピネストリガー(サキュバスのガンスリンガー・e03217)が、ゆったりと立ち上がりスクーリングの方へ歩み寄る。
「飛び入り参加って、いいかしら?」
 フレナディアの大きな胸とくびれたウエスト、完璧なプロポーションに参加者の女性たちも思わず目を奪われる。インストラクターが歓迎の意を表した。
「あ、この子も一緒なの」
 と、フレナディアが見学の体で近くに待機していたフロル・ネスキオ(照る道標・e27100)の腕を引っぱった。一瞬戸惑どったフロルだったが、観念したように一応準備していたスパッツ姿になる。スタイルのいい金髪美女がふたり並んだ姿に、一般女性たちが羨望の声を上げた。
「見学、でも良かったのですが……」
「いいじゃない、せっかくだもの」
 ふうと息を吐くフロルに、フレナディアが悪戯っぽいウインクで答えた。ふたりの近くで、エト・カウリスマキも参加者として潜り込む。
「初めて参加、なのです。ヨガはお肌にいいでしょうか?」
 フィアルリィン・ウィーデーウダート(フォールンリーブス・e25594)が参加者のひとりに、にこやかに話しかける。ノースリーブからのぞく彼女の白い肌に、声をかけられたOLの方が思わず見とれる。先生の指導に従って両足裏を合わせてマットの上に座り、くたりと柔らかく前屈してみせる。
「ご自分の心も体も、解放させていくクラスです。リラックス、リラックスして……」
 インストラクターの指導の声を聞きつつ、参加者たちはマットの上に仰向けになる。
 7人の女性ケルベロスの姿をじっと見つめているのは……。
「結局、全員紛れこめたみてーだな……てか、誤解されそうだな俺?」
 高性能の双眼鏡を持参し、一番近いビルの屋上で飛空オークの襲撃に備えている月見里・一太(咬殺・e02692)である。本作戦における、唯一の男性参加者だという気遣いもあってか、獣人型で行動している。
「まあ絶対どっか近くで舌なめずりしてるよな……」

●豚降る空
『ブキャキャッキャー!!』
 一太の思った通り、飛空オークどもはヨダレまみれで小躍りしていた。
『見てみろ、あのカッコウ!』
『あのまま押さえ込んでベロベロ舐めてヨガらせまくってやるぜブキキキ……』
 ダジャレにしても質が低い。
 卑猥な会話をかわしつつ、6体の飛空オークが一斉にしがみついていた隣のビルの外壁から飛んだ。もちろん目指すのはただ一点、スクーリング中の女性たちだ。
『さぁーて、どれが一番美味そうだぁ?!』
 バッと翼を広げて一気に降下する、その姿はものすごく太ったコウモリ、またはモモンガ……なんにせよ、背中にけがらわしい触手が8本うごめいていることに変わりはない。
 一般人女性たちにさきがけて、ケルベロスたちが異変の影に気づく。
「出たな、トカゲ科学者製オーク共め!」
 アルメイアが鋭い声でそう言うと、仰向けの姿勢から腹筋を使ってひと跳びに立ち上がる。何事かと驚いて顔を上げた周囲の女性たちに、避難を促した。
「とりあえず逃げな。ここは引き受ける!」
 アルメイアの声に、まだ何が起きたのかわかっていない女性たちは、動揺してその場に立ち尽くす。インストラクターの女性は何事なのかとアルメイアに駆け寄ろうとするが、フィアルリィンがそっとインストラクターの腕を引き、微笑みかけた。
「オークが降って来るなんて、嫌な天気ですね……授業を中断させてしまってごめんなさいです」
 その隣にフロルが歩み寄って、エトのいる避難口を指差した。
「彼女、エトさんが先導してくれますから。あなたも生徒さんたちと一緒に室内へ避難して下さい」
 フィアルリィンとフロルは視線を交わして頷きあうと、同時にモードを解放。青白く輝く鎧姿の戦乙女と、重武装に身を固めたシスターが、オークの前に立ちはだかる。
「私たちはケルベロス。あなた方を守ります!」
 ふたりがそう告げると同時に、滑空してきたオークの声がプールサイドに響き渡った。
『ブッキャッキャー! オンナァあぁ!』
 事を理解した女性たちが悲鳴を上げて走り出す。逃げ遅れたひとりの一般女性の上に、オークが覆いかぶさった!
「い、嫌ァああ、何コレ?!」
「こらー! やめろー!」
 助走をつけて飛び上がったリーフが、勢いよくオークに横蹴りをかまして女性から引き剥がす。
『ブキャア!』
「やーい! 飛べない豚ー! ここまでおいでー! お尻ぺんぺーん!」
 べ、とあっかんべーをしながら可愛いお尻を突き出すリーフ。
『ブヒャヒャ……いいケツだ』
 当然オークは蹴り飛ばされた痛みなど光の速さで忘れ、リーフを追いかけ始めた。
 そして続くもう1体は、逃げ遅れた風を装って無防備に仰向けの姿勢で待ち構えているフレナディアの胸めがけて、ヨダレの糸を引かせて飛び込んでくる。
『イタダキマース!』
「やっと来たわね……待ちくたびれたわ」
 フレナディアは仰向けの姿勢のまま、すらりとした脚を組み替える。そのままオークを迎え入れると見せかけて、オークの豚っ鼻の先を狙いすまして足の甲でパァン! となぎ払った。
「はいは~い、貴方達の相手はアタシ達ケルベロスがしてあげるわよ」
 無様にプールサイドに落下して悲鳴をあげるオークを横目に、ゆったりと立ち上がるフレナディア。
 一方、ノアは次々降ってくる飛空オークを眺めて、呆れたような声を出した。
「空が飛べる、って言ってもこの程度か……それじゃあ、後学の為に本物の空中戦を見せてあげようか」
 ボクたちふたりで、と、ノアがすぐそばにいる茜の耳元に囁いた。
「―――、うん!」
 茜は目を丸く見開くと満面の笑顔を返し、思い切り翼を広げた。
「飛べない豚は唯の豚―――、偉い人はそう言いましたってか? 所詮は不出来な真似事なんだ!」
 まるで歌うようにそう言うと茜は空に舞い上がる。当然、繋いだ手の先にはノアの姿。立ててあったパラソルの上あたりを茜が旋廻し、女性に覆いかぶさろうと滑空してきたオークの進路を阻むノアのひと蹴り!
 そしてオーク達は気づいていなかったが、滑空を始めたすぐ上から、一太が迫っていた。
『ブッヒャ……楽しい種付けタイムだぜぇ……』
「こ、来ないで!」
 追い詰められた女性にオークが飛びかかろうとした瞬間、割って入るように一太が音もなく着地を決めた。怯える女性をエトに託してから、ゆらりと獣の瞳が敵を睨みつけた。
「番犬様の降臨だ、慄けよ豚共」

●戦闘
『オスに用はねぇよ……ブキキキッ』
 そうだそうだ! とばかりに2体のオークが性急に触手を伸ばす。
「おうおう、おいでなすった」
 黒い帽子を被り、ステージの準備は万端と身構えたアルメイアに、触手が絡みつく!
「ひっ……ええい、くそ、ド畜生め!? 離せ! 死ね!」
 そしてもう1体は、ノアに覆いかぶさった。
「ノアっ!」
 茜が顔色を変えたのを、小さく合図してノアが制した。このまま調理してやる、と不敵に微笑み、自ら仰向けに倒れて敵を誘い込む。
「俺だって別に好きでお前らのツラ見に来たわけじゃねえよ豚ッ! 手土産だ、とっとけよ!!」
 一太のスターゲイザーがオークの脛に命中すると、アルメイアから触手がほどけた。
「こンのくそが……叩き潰してやるぜ! 床のシミになれ!」
 アルメイアが弾かれたように、怒りの反撃を叩き込む。
 ノアはけがらわしい触手が己に絡むのを止める代わりに、敵を見つめる。赤い瞳が、オークの肉体を見て、きたないなぁと笑う。そして。
『Whose Eye Is This Anyway――その目、誰の目?』
 でっぷりしたオークの腹が歪む。見えない力で毟り取られているような苦痛に悲鳴が上がる。
『溺れる者は藁をも掴む―――、藁、居る?』
 畳み掛けるのは茜。その背後には翼の代わりに大きな時計盤が現れ、黒い霧がオークから体力を吸い取っていく。
 しかし、味方のピンチになど構っているヒマは、オークにはないらしい。下品極まりない鳴き声をあげながら、後衛の4体が一斉に溶解液を飛ばしてきた。どうやら『よりオンナに近い方が天国=前衛が天国』という発想に基づき、ちょっとレベルが上のオークが前衛を務めているらしい。
「マシマシで乗せてってあげる」
 毒液をかいくぐって、フレナディアがサキュバスの本領発揮、と青い瞳でオークを翻弄する。元々血走ったオークどもの目が、ますます濁って汚らしい。
「チビー! 回復は任せたぞー! 我が奥義を受けてみろー!!」
 リーフが体にこびりついた溶解液を振り払いながら、四葉流奥義・破桜をお見舞いする。手の速さにより、傍目には一発パンチを当てたようにしか見えない。その上空を、チビが羽ばたきながら浄化していく。
 撒き散らされた粘着液体に顔を顰め、フィアルリィンが左手の杖をかざしてライトニングウォールの光で仲間を癒す。
「豚は降るわこんな汚いモノまで降るわ……今日は本当に嫌な天気ですね」
 でも後は血の雨が降るのですよね。そう呟いたフィアルリィンの槍の穂先が、キラリと光って、オークどもを指し示した。
 数は多いが、恐るるに足らず。欲望丸出しのオークどもは、火がつこうがパラライズがつこうが女体めがけて突き進んでくる。
 戦闘は、ケルベロス優勢。
 一太は屋上から弱ったオークが逃げ出さないように立ち回り、極力プール側へ追い込んだ。
「喰い殺してやってもいいんだが……まずは丸焼きにしてやるよ、豚」
 呟いた一太の、グラインドファイアの強烈な炎がオークを焼いた。
 アルメイアとリーフはディフェンダーだから、という理由ではないとしか思われないが、やたらめったら触手に狙われる。
『ブキャキャ、ブキャキャキャ……』
「こっ……この野郎、その目障りなモノを絡ませてくんな!?」
 前から後ろから気色悪い触手を、演奏中よろしくギターを振り回してアルメイアがなぎ払う。これでも食らえ、と放った地獄の炎弾がオークの生命力を吸い取っても、残念ながら無限の性欲が彼らを突き動かす。その様子に、フロルが口を開いた。
「オーク……欲望に、忠実なのですね。その行為を、否定はしません。それもまた、在り方の一つなのでしょう」
「マジでかぁ?!」
 ビシッと触手を叩き落しながら、思わずフロルを振り返ってしまうアルメイア。
「しかしながらそれに嫌悪を抱き、排除する事もまた、在り方の一つ」
 静かにそう付け足すと、フロルは神聖魔術の詠唱を始める。
「あははっ、なかなか面白いね。ボクらも楽しもう、茜!」
 ノアがそう言ったときには既に、茜はノアの手を引いて舞い上がっていた。ノアが狙った1体にガトリングの雨を降らせると、茜が同じ個体にバスタービームでとどめを刺す。
「うん、よく出来たよ」
 と、着地と同時にノアに頭を撫でられ、茜の顔が甘くとろける。
 後衛オークはフレナディアの魔眼に惑わされ、オーク同士で触手を絡めたりしていた。
「そろそろ、狙い撃ってあげましょうか♪」
 その地獄絵図はトラウマに……なるかどうかわからないが、フレナディアの放ったトラウマボールを受けて瀕死のオーク。
「血の雨、のちに雷の予報でした」
 続くフィアルリィンのライトニングボルトで、オークは完全に動かなくなった。
「『極光の旋律』所属、異端審問官『照る道標』、フロル。あなた方に、天への道を標しましょう……」
 詠唱を終えたそう言うや、フロルは自らの指先を噛み破った。同時に、激しい火柱があがる。その中でまた1体、オークが消し飛んでいく。
「い、痛くないかー?」
 心配そうにリーフがフロルの指を覗き込むが、フロルは微笑んでいる。
「この痛みも、この熱も、彼らの罪を焼き清めるために……」
 隣で聞いててちょっと怖いぞ、と思ってしまった一太であった。
『ブキャァアーー!』
 次々と倒れていく仲間……はどうでもいいらしいが、孤立はピンチだとオークも悟る。
『ここで死ぬわけにはいかない、死ねば……死んだらオンナが犯せない!』
「うるせえ! 死ね!」
 アルメイアの一言が、全女性の代弁であろう。
 聞こえない様子で屋上から飛び降りて逃げようと走り出す飛空オーク。だが動きは完全に一太に読まれていた。滑空など許さず、すれ違いざまに急所の喉への『咬殺』で、プールサイドを襲った飛空オーク6体は全滅したのだった。
「……やっぱ、美味くはねぇな」

●戦い済んでプールサイド
「……とりあえずシャワー借りようぜ。うん」
 アルメイアの提案には女子全員賛成だった。
 なんせオークの攻撃は、きったないのである。ケガより何より、それが気になる。
「茜、おいで。髪洗ってあげよう」
「え?! いいの!」
 ご褒美を聞いて、茜が激しくノアに擦り寄る。早く早く、とぴょんぴょん跳ねながらふたりは手を繋いでシャワー室へ向かう。
「チビもおいで! あ、シャワー嬉しいけど着替え持ってきてないなー!」
 と言うリーフに、微笑んでフレナディアが告げた。
「ホテルだもの、バスローブくらい貸してくれるわよ」
 その言葉の通り、ホテル側のアフターケアは万全だった。なんせ、商売柄『あそこのプールサイド、オークが出るらしい』などという風評が立ってはたまったものではない。出来る限りケルベロスたちにくつろいで貰って、もう大丈夫、と言って貰えた方がありがたいのである。
「ヨガスクール、中断してしまって残念です。そのうちまた参加して穏やかな時間を過ごしたいと思うですよ。それとも次はプールかな?」
 と、シャワーを浴び終えたフィアルリィンがデッキチェアでくつろぎながらそう言うと、フロルがおっとりと答える。
「オークばかりが欲望を解放しては、女性が欲望を満たせる場がなくなってしまいますからね」
 まだまだ夏はこれから。日本の夏、水着の夏。ケルベロスたちも夏を満喫できるように、オークが暴れないことを祈るばかりだ。
「俺は、いいって。もう帰るから……いや本当に」
 ただひとり、場違いな気がしてしまってそそくさと帰ろうとする一太を、何故かトロピカルドリンクを持ったホテルの従業員が、必死に接待しようとしていた。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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