
白い学生服が輝かしい生徒、彼はこの学校の生徒会長である。
何故か肩に白い文鳥を乗せており、そして手には消毒液を持っていた。
見回り途中、友達数人と談話している学生を呼び止める。
「その足下の米は、何です」
「ああ、さっき笑ってたら、口からボロボロおにぎり落としちゃって」
ネットでよく見かける『w』の大草原が、言葉からも伝わる。
「包み紙もあるようだが、これらはどうすべきか、答えたまえ」
「うるせーな」
その台詞と共に突如生徒会長の背中からミサイルポッドが迫り出し、マナー違反生徒に大量のミサイルを浴びせた。
「お前のような輩は、生理的に却下!」
転がる被害者の身体に、シュシュシュと消毒液が降り注ぐ。
堅苦しいザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)が例の調子で口を開いた。
「千葉県のとある学校の昼休みに事件がおきるようだ。アンドロイドがルールや規則を破った人物を制裁と称して殺害し、連れている小動物型ダモクレスを通じてグラビティ・チェインを奪取している」
加害者である生徒会長は、『小動物型ダモクレス』により、脳にチップを埋め込まれたことでダモクレスになりかけているようだ。
「生徒会長は『ルールを破る人間』に強く反応するため、彼が見回っていそうな場所で派手なルール違反を起こせば、おびき出すことができるはずだ」
このアンドロイドの凶行を止め、救出するというのが今回の内容だ。
敵は、エネルギー光線やミサイル、肘から先をドリルに変えて攻撃してくる。
「埋め込まれた回路をショートさせれば、生徒会長を人間に戻すことが可能だ。彼が規則を破った人物を許せるよう、力強い説得を行うことができればの話だが」
説得に成功すると、小動物型ダモクレスは強制的に生徒会長と合体して戦闘を継続するが、これを撃破すれば彼は救出できる。
説得に失敗した場合は、救出は不可能となり、小動物型ダモクレスはアンドロイドに後を任せて撤退してしまう。
「ここで注意すべき点は、小動物型ダモクレスを先に撃破した場合だ。生徒会長に埋め込まれた回路が暴走すれば、救出は不可能となり、戦わざるを得なくなるぞ」
「生徒会長は不正や違反に対して病的に神経質で、『痕跡』すら嫌悪感を覚えて消毒液を振りまいているらしい。少し変わり者であるようだが、救える命は救うべきだろう。後はお前たちに任せたぞ」
参加者 | |
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![]() カナタ・キルシュタイン(此身一迅之刀・e00288) |
![]() 不知火・梓(不惑に足がかかったおっさん・e00528) |
![]() シルフィリアス・セレナーデ(魔法少女ウィスタリアシルフィ・e00583) |
![]() ヴォルフ・シュヴァルツ(白猫とラブラブ・e03804) |
![]() アゼル・グリゴール(レプリカントの鎧装騎兵・e06528) |
![]() 舞阪・瑠奈(サキュバスのウィッチドクター・e17956) |
![]() フィニス・トリスティティア(悲しみの終わり・e26374) |
![]() マーシャ・メルクロフ(銀世界・e26659) |
●わざとだと、違反をするって難しい
これから生徒会長を呼び出すべく、違反をしようと意気込む怪しい一行が校門前に集結した。
昼休みという事もあり、生徒たちが外で食事やスポーツをしている姿が目に入る。
校門付近でたむろしている人数は少なかったが、何だアイツら……と訝しげな目で見られ、それは主に、いかにも怪しいおっさんの不知火・梓(不惑に足がかかったおっさん・e00528)と、ケルベロスコートを羽織ったアゼル・グリゴール(レプリカントの鎧装騎兵・e06528)に向けられていた。
「ケルベロスだ! 初めて見た!」
数名、ケルベロスコートを見て喜んでいたので、ここはチャンスとカナタ・キルシュタイン(此身一迅之刀・e00288)とヴォルフ・シュヴァルツ(白猫とラブラブ・e03804)が生徒たちに話しかける。
「これから事件が起きる所なの。悪いんだけど、協力してもらえたら助かるな。敵をおびき出さないとならなくてね、制服貸してもらいたいんだけど、いいかしら?」
運良く5時限目が体育のクラスの生徒が居合わせており、そういうことならばぜひ協力させてほしいと更衣室に案内してくれた。
シルフィリアス・セレナーデ(魔法少女ウィスタリアシルフィ・e00583)も黒いロリータドレスをフリフリさせながら二人についていく。
「私も着替えてくるっす!」
三人が着替えている間、他のメンバーから先に作戦に移ることになった。
戦闘場所に選択したのは校庭。一先ず端の植え込みに身を隠す。
「では、私から試してみます」
アゼルがケルベロスコートを羽織ったまま校庭に歩き始めると、良い意味でも悪い意味でも効果を発揮した。
「あっ、ケルベロス!」
「えっ、何ですか、事件か何かですか?」
珍しいものに興味津々な年代の注目を一身に受け、アゼルの周囲に生徒たちが集まり始める。
ある一定の範囲がひとかたまりになってくれるのは避難指示が出しやすいが、囲まれてしまい、内側で何が起きているのかが分からなくなってしまった。
「人気者になっちゃっているでござる」
マーシャ・メルクロフ(銀世界・e26659)がそう言うと、舞阪・瑠奈(サキュバスのウィッチドクター・e17956)が答えた。
「いざとなったら、私がパニックテレパスをかけて追い払うわ」
梓も頷く。
「それでも避難しねぇ奴がいる場合は、剣気解放使って、強制的に退場願うから、思い切りやって平気だぜ」
ならば、とマーシャが体育倉庫に走って行く。
すぐ倉庫から出てきたと思えば、ライン引きを転がしながら校庭をぐるぐる駆け回る。
「寿司! 天ぷら! 富、士、山~!」
茶色い土に白く浮かび上がる落書きは中々のインパクトがある。おかしな少女の行動を面白がった生徒が写メを取り始めた。
これでもまだ姿を見せない生徒会長に、フィニス・トリスティティア(悲しみの終わり・e26374)が憤る。
「早く出て来なさいよ、ちゃんと生徒会の仕事やってんのかしら……全くもう」
ちゃんと生徒会の仕事をしていると困る場合が今回の事件なのであるが、気が強く気難しいフィニスには待っているのが退屈となってしまうのだろう。
着替えを終えた変装チームのヴォルフとカナタが戻ってきた。シルフィリアスの姿はまだ見えない。
「お待たせ」
と、二人の姿を振り返ったメンバーが思わず吹き出しそうになる。
カナタのあからさまな違反。制服の胸元はわざと大きめに開け、スカートは短めに。ちょっと目のやり場に困る、学園内外でも風紀を乱す系学生の典型的姿だ。それにサキュバス特有の魅力が加わり、若い男性陣にはごちそう様である。
ヴォルフに至っては、同世代で同じ感覚の人には『クール』なのかもしれない。だが、一般常識でそれはだらしないの類いになるアレだ。母親に尻を叩かれながら、はみ出したシャツやら何やらをズボンにしまわれそうなパターンで攻めてきている。
そして、手にした粉まみれの『はうすぃ大福』。
敵を誘き寄せるためにやっているのは理解しているはずなのに、胸にクッと訪れる衝動は隠しきれない。
「じゃあ、行ってきまぁ~す」
ヴォルフとカナタがそろって校庭の一角で違反を始めると、その見苦しい様に敬遠した他のまともな生徒たちが、徐々に遠巻きになっていく。
ボロボロと口から落ちるスナック菓子、口の周りを真っ白に染めるはうすぃ大福。
一同が確かな手応えを感じると、ヤツは姿を現した。
「ギャアアアァ! お前らのような輩は、生理的に却下だーッ!」
●清く正しく美しく
ついに姿を見せた。
肩に白い文鳥を乗せた、白い学ランの、消毒液を振りまいているという、生徒会長その人物が。
「やっと、おいでなすったか」
梓はとりあえず一息つく。
だがこれから説得しなければならない。まだまだ気は抜けないのだ。
「お、お前たち、どこのクラスだ! 何だその……破廉恥な姿! 私が仕切る学びの家で、風紀の乱れは許すべからず!」
騒動に巻き込まれるのを嫌がる生徒たちが、どんどんと遠巻きになっていく。
アゼルが大分頑張って避難勧告を進めてくれていたらしい。今校庭に残っている生徒は、怖いもの見たさや、動画を撮っている危機感のない生徒だけだ。
瑠奈が少しため息をついてから、彼らにパニックテレパスで強烈な精神波を送る。
「早くここから離れなさい!」
残っていた生徒は突然混乱したように右往左往始めると、彼女の言葉に従って校庭から逃げ始め、それを見た生徒会長はそこでようやく彼らがケルベロスだと悟った。
「貴様らケルベロスか! お、おのれぇ……私を謀ったな!」
と、そこで、校庭横の関係者通路に停めてあった車の影から声がした。
「あらわれたっすね、いくっすよー」
ピョンと飛び出してきたのは、変身バンクさながら、ひらひらしたミニスカドレスの魔法少女衣装に変身したシルフィリアスだ。
「魔法少女ウィスタリア・シルフィ参上っす☆」
かわいく決めポーズをつけた少女の突拍子もないコスチュームと、堂々たる不法侵入に、生徒会長の口は開いたままふさがらない。ある意味金縛りに近かった。
生徒はこの隙に全員逃げ出したらしい。
梓が説得に入った。
「水清ければ魚棲まず、過ぎたるは猶及ばざるが如し、っつってなぁ。何事も綺麗なら良いってぇもんじゃぁねぇんだぜ」
「うるさいっ! 堂々と不法侵入を繰り広げておきながら、論外である!」
シュシュシュと生徒会長から消毒液を顔に向かって拭きかけられ、梓は長楊枝が落ちないように咥えながら器用に息でそれを吹き飛ばす。
「そもそもお前ぇさんのやってる、ちょっとしたルール違反で命を奪っちまうってのはよぉ、綺麗なことなんかね?」
「酒! 酒! 校内飲酒厳禁! 酒気帯びも厳禁!」
うっかり懐のスキットルに手が伸びていたのをみつかり、梓はだるそうな愛想笑いでごまかしてみる。
むちゃくちゃな着こなし術をしているヴォルフであったが、しめる所はきっちりしめるべく、梓に同意する。
「確かに規則は大事だし、守るものだけどさ、だからといって違反者を罰してはいけんよ。注意し、これからしないよう指導するのが君の役目だろう? 立場上思うところがあるだろうが、少し背負い過ぎじゃない? 少し荷をおろして温かい目で見ることはできないかな?」
「そんなカッコで、どの口が言うんだお前!?」
再びヴォルフにシュシュシュと消毒液が。
アゼルにバトンタッチ。
「罪と罰は、反省と許しを伴ってはじめて成立するものと私は思います。今のあなたはただ罪を重ねる無法者と大差のない存在なのではないでしょうか」
生徒会長の脳内にインプットされている『違反名簿』、そこにあるアゼルの名前は比較的良好な位置にある。確かに、あまり大きな違反はしていないように思う。強いて言うならやはり……。
「お前も不法侵入者だな」
シュシュシュと振りかけられる消毒液を静かに受け入れ、アゼルからシルフィリアスにパス。
「おじさんも言ってたっす! 物事は、やりすぎてしまっては、なんの意味もないっす」
若干梓の引っかかる台詞が混ざっていたようだが、まあ置いておき。
「正しいと思ってやったこともやりすぎてしまえば、容易に悪いことにかわるっす。人は反省し悔い改めることができるっす、それさえ許せないほどのことをしてるっすか? わからせようという努力もしないで、無理だと決め付けるのはただの怠慢っす」
そしてついにシルフィリアスは、生徒会長に最も言ってはいけない台詞を口にしてしまった。
「そもそもあなたのその行為自体、マナー違反じゃないっすか?」
「な、な、何ィィ!? わ、わ、わ、私が、そんな汚らわしい存在……に、など、なるわけがないだろう! いい加減にしろ!」
肩の文鳥がバタバタ暴れ始めると、生徒会長は鼻から煙を出し始める。
もしかしてショート寸前、もしくは、すでにショートしてしまっているのでは……、フィニスが慌てて説得を続ける。
ここはある程度同意できる部分に共感してやり、様子を見る方が良いだろう。
「自分勝手に振る舞う連中が殺してやりたいほど生理的に無理っていう、その気持ちだけは理解してあげられるわ。でもね、不当に自分の感情で暴力を振るうのは自分勝手、そう言えるんじゃないかしら? 本当に手を出したらあなたもその生理的に無理な連中と同じ立場になると思いなさい」
ムムッ、と声がし、多少落ち着いた彼の『違反名簿』が再び開かれる。そして。
「お前も同罪!」
シュシュシュの消毒液に、バトルオーラをわき上がらせるフィニスを抑え、瑠奈もがんばる。
「違反を注意するのは良いけど。それでマナー違反は減ったのかしら? 相手に何故いけないのか理解してあげるのが重要じゃないかな? 正しいマナーを教えれば違反者は少なくなるわ」
生徒会長の目は据わっている。消毒液を向けられそうになった瑠奈が、これでもダメかとガックリした所にカナタが入り込み、両手を広げてそれを止める。
「あのね、貴方の志と行動は立派と思うけど、人間も機械も間違いはあるもの。そんな間違いの一つで排除を行ってたら、誰も居なくなっちゃうわ。過ちは正せば良い、その機会を与えるのも会長の務めじゃないかしら?」
大きく開きすぎた開襟シャツの襟元から、弾力性のある二つの山を目の前に差し出され、生徒会長は憤慨すると、まとめてシュシュシュシュ消毒液を噴射しまくる。
ここまでか。
生徒会長を救うことは敵わなかった……と諦めかけた時だ。
まるで厳格な和風の背景を背負ったように居住まいを正したマーシャが、深々と頭を下げた。
「誠勝手ながら、生徒会長殿をお救いするために、敷地内に侵入したことを、まずお詫びするでござる」
生徒会長はそこで鋭く息を呑んだ。
脳内『違反名簿』のマーシャのページから、『不法侵入』が削除された瞬間。
彼女は言葉を続けた。
「仮にも学校の顔である会長殿が生徒に手を上げるなど、なんと許しがたい所業! しかし、本当にそれは会長殿の意志でござるか?」
「な、何と申される……?」
マーシャの真摯な対応に、うっかり口調がつられる生徒会長。これはマーシャに意識が同調しているとみて間違いない。
「会長殿……思い出すでござる。生徒達への愛と正しき在り方を! 自分に負けてはなりませぬぞ!」
自分に負けてはなりませぬぞ! 自分に負けてはなりませぬぞ……! 自分に負けてはなりませぬぞ……。
生徒会長の頭に直接木霊する呼びかけは、彼の脳内に埋め込まれたダモクレスの回路をショートさせるのに成功したのだ!
「あうっ! アイタタタ……!」
大事な消毒液を校庭に落とし、悲鳴をあげて頭を抑える生徒会長の肩から、文鳥が慌ただしく羽ばたき、彼の頭上に移動する。小動物型ダモクレスは生徒会長に強制合体し、彼に攻撃するように直接指示を出し始めた。
「やったぜ!」
「でかした!」
「あとは、こいつを倒せばお終いです!」
鼻から煙を吹き出した生徒会長は、前衛目がけてマルチプルミサイルを大量発射させる。
梓、シルフィリアス、ヴォルフ、フィニス、フィニスのウイングキャットであるトゥードゥルスが攻撃を受けて倒れ込んだが、体力は十分ある。
倒れ込んだ勢いを反転させ、梓が起き上がり様の雷刃突。
ヴォルフが入れ替わりに獣撃拳を食らわし、アゼルがキャバリアランページ、シルフィリアスがライトニングボルトを連続でたたき込む。
フィニスがC8H11NO2、瑠奈がライトニングウォールをかけて回復。
カナタが絶空斬、マーシャが熾炎業炎砲を食らわして炎を着火させた。
連続でここまでを食らい、生徒会長はふらふらとよろけたが、コアブラスターでシルフィリアスを狙い撃ちする。
マズイ! と思った瞬間、フィニスが彼女を庇って攻撃を受け止める。それから最期に……と、今までのお返しだとばかりに口を開いた。
「人に消毒液をふりかけるな、バカ!」
彼女を飛び越えるように梓が舞い上がり、文鳥に擬態した小動物型ダモクレスごと試製・桜霞一閃で仕留めた。
「我が剣気の全て、その身で味わえ」
チン、と鍔に鯉口が当たる音が小さく響き、全てが終わった。
「はっ!」
生徒会長が目覚めると、そこは保健室だった。
瑠奈が学校側に事情を説明してくれているらしいが、生徒会長自身は今までの事件をよく覚えていない。
ぼんやり視界に入り込んで来る女性を養護教諭かと思ったが、よく見たらそれはカナタだ。例のとんでもない制服で、胸を強調させながらこちらの様子をうかがっている。
「わっ! ろろ、露出が激しいですよ……! まあ……ウチの学生じゃないようですが。女性は気をつけた方がよい」
つい先ほどまでの生徒会長とは全く違う。堅苦しいことはそうなのであるが、忠告に第三者への思いやりがある。
生真面目な面は同じようで、カナタはついついからかいたくなる衝動にウキウキしてしまう。
「それじゃ今後もお勤め頑張ってね、会長さん♪」
そう去って行く彼女たちを見送り、生徒会長は、ふと校庭の変化に気がつく。
いつもより少し、ファンタジーな風景に様変わりした様子。
もしかして、ケルベロスだったのかな?
そこで自分がどうなっていたのかを大体察すると、彼は思った。
「学び舎にあるまじき景色です。が。まあ、悪くは……うん。ないですね」
彼に消毒液の香りはもう必要ないだろう。
作者:荒雲ニンザ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2016年5月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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