悪夢のショウタイム!

作者:螺子式銃

●その地、鎌倉
「緊急連絡です。――鎌倉で、多数の事件が発生しています」
 集まったケルベロス達に、セリカ・リュミエールは落ち着いた口調で告げる。
 彼女はいつもの通り丁寧で、穏やかだが、語られる状況はかなりのものだ。
 いわく、デウスエクスの大軍勢が鎌倉に出現し、あっという間に制圧しているのだという。
「鎌倉市の周辺に、ドリームエナジーが集まりつつあります。
 場合によっては、完全にモザイク化された、ドリームイーターの世界の一部が顕現してしまうかもしれません。
 同時に、影響を受けてか、市内で見られる異変が多くあります。
『普段は隠して人に知られないようにしている、大きな夢』、――それを、持っている人物が、ドリームイーターを生み出してしまっています」
 夢を持っている人が生み出してしまったドリームイーターは、自分のモザイクを晴らすために、次々と市民を殺してしまう。
 それだけは、けして許せることではないのだと彼女は、沈痛な面持ちで語る。
「鎌倉の市内に、潜入調査を行っていただきます。どうか、撃破し、無事の帰還を――」
 
●夢追い人、夢喰い人
 セリカが説明することには、まだ、ドリームイーターが現れる場所は、完全に特定できたわけではないのだという。
 鎌倉の市街地、更に、とある住宅街であることまでは分かっている。
 公園や小学校、保育園などもある一角で、足で探し回るか、もしくはことが起こってから駆けつけるか、という話だ。
 しかし、とセリカはつけたす。
「ドリームイーターは、夢を持つ人を狙います。
 ですから、ドリームイーターの狙う夢を持つのだと示すことが叶えば、ケルベロスを狙って現れる可能性も高くなるでしょう」
 そういって、彼女は詳しい説明に移る。
 
●夢の形
 今回のターゲットであるドリームイーターについては、以下のような説明がなされた。
 ドリームイーターを生み出したのは、ごく普通の、サラリーマンだ。
 だが彼には、夢があった。
 幼き頃彼は、テレビを見るのが好きだった。歌手、俳優、ダンサー、職人、などなど、自分の技能を磨き、喝采を浴びる人々のなんと輝かしいことよ!
 彼は、友達を驚かそうと手品を始めた。将来、手品師になりたかった。
 しかし、才能のなさと生活の安定性から、会社勤めの道を選んだ。
 その胸には密かな願望がくすぶっている。
「優れたパフォーマーとなり、誰かの喝采を浴びたい――」

 彼が生み出した怪人、ドリームイーターの姿はやせぎすの男性らしい身体つきだが、胸の部分がモザイクなのが特徴的だ。
 身体は万国旗やトランプなどを装飾したタキシード姿、頭部は人間のものの代わりに白い鳩のものとなっており、シルクハットを被っている。
 ドリームイーターを生み出した本人は、手品師を志したようだが、あらゆるパフォーマンス技術と、それによって喝采を浴びることに憧れているようだ。
 夢に近い者を率先して狙い、そうでなければ、無差別に攻撃を行う。
 無差別の場合は、一般人も遠慮なく襲うことだろう。
 何しろ住宅街であり、一般人がいる可能性も多くある。
 また、ドリームイーターはモザイクを飛ばして精神に影響を与える高劇の他、『心を抉る鍵』を使用してトラウマを具現化させる攻撃を得意とする。
 ケルベロスの内に潜んだ、トラウマを直視することになるかもしれない――。
 
「鎌倉は、今、とても危険な状態です。しかし、犠牲を見過ごすわけには行きません。
 ドリームイーターは、皆さんの身体だけでなく、心にまで危害を与える存在です。
 どうか、気をつけて下さい」
 話をそう締めくくったセリカは、皆を静かに見渡した。


参加者
チェスター・ホルム(風見鶏・e00125)
ラトウィッジ・ザクサー(悪夢喰らい・e00136)
アルフレッド・バークリー(殲滅領域・e00148)
花骨牌・旭(春告花・e00213)
ティアリス・ヴァレンティナ(プティエット・e01266)
エイン・メア(リトルナイトメア・e01402)
レナード・アスコート(狂愛エレジィ・e02206)
葛木・鷲介(イーグルアイ・e03006)

■リプレイ

●ショウタイム!
 鎌倉の住宅街。水面下で起こる異変はあれど、公園はいつも通り。
「これくらいあれば十分かなァ」
 レナード・アスコート(狂愛エレジィ・e02206)は軽く靴先で床を叩き、周囲の目視に余念がない。
 噴水のある公園の中央は広々としている。実際、多目的スペースとして使われているのだろう、お誂え向きだ。
「分かった。――俺はあちらに行く」
 現場を決めたのを確認して、葛木・鷲介(イーグルアイ・e03006)は掠れた声を低く抑え、仲間へと囁く。
 ステージにふさわしいのは公園中央、出口までの道筋は南と北側に二つだ。誘導の道筋は頭に入れて、少し離れた遊具の脇に鍛えられた体躯を、影のよう沈み込ませる。
 入れ違いに進み出たラトウィッジ・ザクサー(悪夢喰らい・e00136)は、すらりとした長身に端正な顔立ち、女性が羨んでやまないだろう手入れの行き届いた艶やかな紫の髪をたなびかせ、颯爽と人のいる方へと歩く。携帯を弄っていた女子高生が、その輝くような気配にぱっと顔を上げた。
「ねえ、なんだかあちらで楽しげな催しがあるようよ」
 控えめに声をかけて微笑む姿は完全無欠のオネエであるのだが、そこもまた魅力である。数人が揃って席を立ち、ぶんぶんと首を振る。
「い、一緒に行っていいんですか?」
「なんかいい匂いする…」
 話しかける少女達を微笑ましげに眺めて、もちろん、とラトウィッジは頷いて見せた。
「ね。今からオレら、パフォーマンスするんだ。よかったら見てくれないか?」
 休憩中のOLやサラリーマンに歩み寄ったのはレナードだ。白の肌と対照的な紅の髪の彼女は、女性にしては長身、男性にしては華奢な体躯の中性的な風貌もあいまって、アンバランスな魅力がある。甘い笑みに優しい声が添えば、断れるものはいない。
 彼女は中央に観客を導くと、ぴたりと動きを止める。知らない人間が見れば、等身大のビスクドールとでも思ってしまうかもしれない。
 話しかけられても、触れられても、瞬きすらしない美しい存在に、ざわざわと興味深げな人垣がすぐに出来始めた。
 インキュバスやサキュバスが持つ生来のフェロモンは、人寄せには最適だろう。本人達の持つ輝きとの相乗効果で、あっという間に人々は注目する。
「そろそろはじめましょーかぁ」
 同じくサキュバスの少女、エイン・メア(リトルナイトメア・e01402)は噴水の手前にラジカセをセットする。未だあどけない程に幼く、愛らしい金色の瞳がくるくると楽しげに動く姿は、やはり周囲の視線を惹きつける。
 ラジカセから流れてくるのは、ポップでキュートな、いかにも気分が弾んでしまうような音楽。
「皆さん、聴いてくださいねーぇ。『ケロちゃん☆どりぃーむ』!」
 あまやかな唇から可憐な響きが大きく伸びる、いきいきとした歌声だ。
 音楽に合わせて綺麗なステップを踏み、腕を揺らす姿は有名アイドルではないかとさえ思わせる。
 丁度サビに差しかかったところで、くるりとターン。一瞬にして彼女の姿は華やかなドレスに包まれる。
 大きく、歓声が響いた。


●ひとときのゆめ
 真っ先に拍手をするのは、アルフレッド・バークリー(殲滅領域・e00148)だ。いかにも物柔らかで優しげな少年が、心からの真っ直ぐな拍手を贈り、瞳を輝かせているのを見れば、釣られて拍手を始めるものも多い。
 熱狂と共に終わった歌の収束を、弦楽器を爪弾く柔らかな音が引き受ける。チェスター・ホルム(風見鶏・e00125)はリュートを片手に、観客とパフォーマーの輪の中に悠然と入り込む。
 翼猫を伴った、どこか毛並みの良さを感じさせる彼の立ち振る舞いは違和感なく、観客も続きを聴く姿勢になる。
 次第に爪弾く指の動きは早く、技巧を凝らしながらも流れるような手つきでアップテンポの曲を奏でる。自然と、手拍子が巻き起こり、弾むように身を揺らしている最前列の面々に笑いかけて、聴いたこともないような異国の音楽を緩急つけて披露して行く。
 音楽に集中していても分かる、辺りの強い熱気と賑やかな気配の中心はよく見知った幼馴染だ。花骨牌・旭(春告花・e00213)が、身体を全部使う大きなジャンプで盛り上げ、拳を握って音楽を邪魔しない歓声を交える。
「チェスター!」
 ファンコールじみて大きく名を呼んだかと思うと、また身体が踊るみたいに弾む。
「旭、お前もミュージックファイターだろ、演奏しないの?」
 小さくチェスターが唇だけ動かして全く、という風に肩を竦めるが、その眼差しは穏やかに笑ってしまう。
 ティアリス・ヴァレンティナ(プティエット・e01266)は公園から入口の方に待機する為に歩いていたが、風に乗ってくる耳慣れた兄の音楽に、そうして間に響く歓声に、微かに口端を上げて。なんとはなく、足取りも軽い。
 今は、観客の一人になるわけにはいかないけれど。彼女が望んだら、いつでもまた、聴けるだろう。
 演奏の区切りにチェスターが一礼するのに合わせて、ラトウィッジの肉声の響きが、皆の胸をしんとうった。
 伴奏もなくアカペラで声が伸び、あくまで穏やかに透明な湖面を思わせるような歌い出しで始める。賛美歌、――年末には誰もが聴く旋律であるだけに、耳に馴染んで観客の反応も良い。
 何より、曲の清冽さと対照的に、歌を紡ぐ彼の閉じた瞼が、少し上げた顎からすんなりとした唇が、差しだされた指先が、艶を帯びて美しいのだ。
 アルフレッドは、彼らの様子を見やって、場を盛り上げるのに十分だと判断すれば、少しずつ後ろへと下がる。
 最後まで純粋に楽しんでいたいと思う。彼らのパフォーマンスはそれだけの素晴らしいものであり、贈った拍手も歓声も、本物なのだから。
「けれど、そうもいきません」
 年若い少年の顔は、年齢より余程大人びて、使命感に引き締められている。輪の一番外側まで辿り着いて、次に警戒の視線を向けるのは入口の方角に。
 ドリームイーターがパフォーマンスと賞賛を求めるのなら、もう、すぐ側にいるのかもしれないのだ。
 喜びと愛に満ちた曲の盛り上がりに合わせていつかチェスターの奏でるリュートの音が寄り添う。絡み合う音は高みへと響く、その瞬間。
 真っ先に気づいたのは、入口近くに待機していたティアリスだ。楽しげな雰囲気と歓声に引き寄せられて、ゆら、ゆら、と鳩頭を持った異形の怪物が近づいてくる。方角は北、丁度彼女がいる側となる。
「みんな、――来たわ!」
 鋭く声をあげて、同時に周囲へとパニックテレパスを発動する。公園にいた観客達が、ざわざわと焦燥感にかき立てられ、口々に不安を叫びだす。
「あらぁ、いらっしゃいましたかーぁ」
 コーラスに花を添えていたエインは、いつもと変わらない可憐な微笑で歌を止める。ステージを邪魔された、という不快感はない。ドリームイーターなるものを見据える視線も、歓喜に満ちたもの。
 仲間達と合図して、ステージから離れ、動き出しに向かう。
「南側だ。ゲートに向かって真っ直ぐ走れ!」
 喧騒の中、不思議と邪魔のされない低い声がパニックに陥った集団へと通される。退路を考え、確保していた鷲介のものだ。
 わっと一気にパニックになった人々は走りだし、ティアリスもまたドリームイーターに近い位置の人々を、せきたてる。
「ここは危険だ!早く逃げろ!」
 中央の噴水付近では、観客を誘導しているのは旭だ。彼の視界の端に見えるのは、アイスブルーを溶かし込んだような見慣れたブルーの髪色を持つ少女と、至近のドリームイーター。
 鳩の頭を持ち、奇術師の衣服を着込んだ男は、胸にモザイクを浮かべている。彼の目的は、それを晴らすこと。
「ティア!」
 旭の表情に、恐れるような弱い色が混じる。気をつけろ、と彼女を信頼しているのも関わらず声を投げて。
 戦いは――容赦なく始まる。


●夢食らうもの
 彼らの計算通り、ドリームイーターは誘き出された。故に、一般人より人垣の中心にあったケルベロス達を敵と定め、ぎょろりと鳩の赤い目を動かす。
 最初に動くのは、元々彼を警戒していた、ティアリス、アルフレッド、鷲介となる。
 ドリームイーターはパフォーマー達をめがけて襲いかかるが、その間に三人がまず割り込み、他の五人がその隙に迎撃体勢を整える。
 幸い、避難誘導に手を割いていたお陰で巻きこまれる一般人はいない、歩行に人の手がいるような者もいないとなれば、ティアリスは人知れず安堵の息を漏らす。
 しかし、彼らを目に留めたドリームイーターは邪魔者としてその手に持つ禍々しき、「心を抉る鍵」を振り翳す。狙うのは、ティアリス――その胸に、鮮血がぱっと飛び散る。
「……あ、いや、――やめて!!」
 呆然と目を見開いた少女の、普段は冷静な表情が怯えに歪む。彼女にしか見えない何かが確かに実体化しているのだ。
 失う、奪われる恐怖。浮かぶのは、幼馴染と兄、一番大事なものを――奪われる。自分を庇うように腕を抱き、いやいやと首を振る。
「おい、ティア。大丈夫か、聞こえるか!」
 追いついた旭が、声を微かに震えさせて駆け寄る。彼の心は鍵によって抉られてはいない、けれど、如実に突き付けられる。一度は見捨てた幼馴染と、守れなかった、弱い自分。
「チェス兄、置いていかないで。旭ちゃん一緒に、居て」
 か細い少女の声に唇を噛む旭のその肩にそっと触れるのは、確かな温もり。チェスターのものだ。
「ここに、いるよ」
 告げるのは、二人に。誰も失われていない今を、示す。高らかに歌い上げる、絶望を拒絶する歌を相手に叩きつけながら、相棒たる猫と共に、守る位置へ。
「やってくれるじゃねえか」
 しわがれた地獄のような響きで呟くのは鷲介だ。ファック、と吐き捨てる呟きを添え。鍛え抜かれた精悍な体躯が、重みを感じさせずに空へと舞い上がる。シューズに宿った力は、彼の身体能力を受け止め、――一気に重力ときらめきを放つ!
 吸い込まれるように痩せぎすのドリームイーターへと蹴りは突き刺さり、大きく横合いに吹っ飛んだ。
「これが…ドリームイーターですか。――この場で討滅します。覚悟!」
 異様な外観を持ち、味方を苦しめる異形に、アルフレッドの表情が硬いものになる。けれど、竦む色は一切見せず、凜とした面持ちで顎をあげて宣言し、無数のドローンを呼び出して展開する。仲間達の癒しと、盾となる治療用のドローン達だ。
「ドリームイーター、ずーっっと欲しかったんですよーぉ♪」
 無邪気に声を立てて笑うのは、エインだ。ダンスでも舞うよう軽やかに、そして、着実なステップで距離を一気に詰める。
 華奢な両の手は、それぞれ光と闇を宿して、ドリームイーターを引き寄せ、殴りつける闇色の拳でその肩を粉砕する。強奪者にして魂喰らいである少女は、幼い表情に純然たる、――純粋すぎる程の喜びだけを映して。
「動くなよ、叩き潰すからさァ!!」
 巨大な鉄塊剣を、その細腕で軽々と持ち上げ、真正面から叩きつけに行くのはレナードだ。敵の怒りを煽る目的ではあるが、ダイレクトに肉をひしゃげ、筋を断つ感触が掌に伝わるのに、艶やかな舌で自分の唇をぺろりと舐める。
 特徴的なピンクの瞳は、今は、目の前の敵にだけ注がれている。もっと、もっと、焦燥じみた希求を駆り立てられる侭に、彼女の戦いは本能に近い。
 ふと、その呼吸が止まった。ドリームイーターが至近で放った、心を抉る鍵は彼女へと刺さっている。
「――…オレが、…なんで」
 道に迷った幼子のような、儚い呟き。彼女だけの目に映るのは、『壊れた』自分自身。戦う能力を失った木偶のような。
「夢をよこせ。もっと、もっと、俺の叶えるはずだった夢を!!!」
 ケルベロス達の攻撃に身体を切り裂かれながら、ドリームイーターは吼えて、鍵を振り上げる。胸を満たすモザイクをはらす為に、形振り構わず彼は戦い続ける。


●夢の終わり
「お前の手なんて要らない、お前なんてッ、消えろ、消えちまえッ!」
 ラトウィッジは端正な顔を悲痛に歪ませる。虚空に、普段とは全く違う表情を見せて。けれど、傍らから聞こえる声に息を止めた。
「……キミたちも生きていたかったんだね」
 悼む色で顔を伏せるアルフレッドは、何を見たのか。唇を噛んで、決然と顔を上げる。呼応するように彼の装備から一斉に主砲が発射され、敵に襲いかかる。
「ボクは、貫きます。いつかは偽善も偽善も一生続ければ善になる!」
「ええ、――アタシは癒やすのよ。愛し続けるわ」
 施術着を悠然と翻すラトウィッジは、嫣然と微笑む。病魔すら呼び出すことが叶う、癒し手の誇りを持って。
 チェスターの傷が深いと見れば、その指先はまさしく奇跡の如く、魔術切開すら叶えて見せる。強引な緊急手術ではあるが、その甲斐あって見る間に癒えて行く。
 妹と幼馴染を庇っていたチェスターは目礼で応え、大丈夫だと二人に笑って見せる。彼もまた相棒と共に癒しを降り注がせて、愛しい者の戦いを助けながら。
「チェス兄、格好つけて無茶しないでって言ったのに。――旭ちゃんもヘマしないで格好いいとこみせてね」
 いつもの口調に戻った少女は毅然と顔を上げ、二本のロッドを振り翳す。打ち下ろすのは、ドリームイーターに。
「ああ。――守るから」
 旭もまた、二人に寄り添い、真っ直ぐに立つ。自分を許せる日はまだこなくても、今日、また二人を守ろう。
 二度と、失わない為に。
 少女の放ったロッドの雷光を後押しするよう、無数の魔法の矢が放たれて、降り注ぐ。
「これでこれでーぇ、平等ですねーぇ♪♪♪」
 自らも満身創痍になりながら、エインは古代語を口ずさむ。歌うような不思議な響きは、一本の光線を生み出し――ドリームイーターの足を灰色の石くれで覆うことに成功する。
 報復じみて飛ばされたモザイクを変わりに受け止めるのは、レナードだ。怒りによって引きつけている分、ダメージも重なっているが、動じる様子もなく、むしろ愉悦に紅の唇を歪めて。
「オレはまだ、殺せる。ほうら――」
 紅の炎が、愛を囁くような台詞と共にごうごうと燃え盛り、深紅に包まれた腕がもう片側の足を突き破る!

「終わりだ。――その欠損、手前で埋め直してから出直しな」
 ドリームイーターの身体が大きく揺らいだのを見逃さず、地獄の炎を纏った左腕で鳩の形をした首を、鷲介が掴む。
 自ら選んで失ったはずの腕はなぜか痛みを覚え、同じように四肢を失っては地獄にその身を変えて行った友人の記憶が、胸をさいなむ。
 しかし、だからこそ。
 ただの一つも躊躇わず、ドリームイーターの首をねじ切ることが叶う。
「あ、――ア、…夢、…夢、を…」
 苦しみに喘ぐドリームイーターは、身につけたトランプや奇術の道具を撒き散らしながら、最後には事切れる。
 壊れて虚ろな鳥類の目は、最後まで、生きて、夢を宿すケルベロス達を憎み、――羨望していた。
 
 

作者:螺子式銃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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