オークをねらえ!

作者:蘇我真

 薄汚れた衣を目深にかぶったドラグナーが、モヒカンを七色に染めたオークへと命令を下していた。
「グスタフよ、慈愛龍の名において命じる。お前とお前の軍団をもって、人間どもに憎悪と拒絶とを与えるのだ」
 重く、荘厳な印象を与えるドラグナーの声色。
「ひゃっはー。敵がいれば逃げるが、敵がいなければ、俺達は無敵で絶倫だぜー」
 一方、オークの声色は甲高く、どこかに臆病さをはらませているように思えた。
「……やはり、期待は薄いか。だが、無闇にケルベロスと戦おうとしないだけ、マシかもしれん」
 呆れ半分に呟くドラグナー。戦場で常に生き残るのは臆病者だ。勇敢な者ほど早く死んでいく。
「ひゃっはー。その通り、色気に迷わなければ、俺達は滅多に戦わないぜー」
 その点では、グスタフと呼ばれたこの七色モヒカンのオークは計算しやすい手駒だった。
「……」
 ドラグナーは無言である一点を指さす。その先にあるのは魔空回廊だった。

 仕事帰りのOL、キミコはその日、いつもとは違う道で帰っていた。
 その道の近くにあった、雰囲気がいいという噂のバーに寄ったからだ。
 確かにいいバーだった。いい男も沢山いた。しかし出会いにはつながらなかった。
「あによ……ヒック、芋焼酎好きで何が悪いんや……」
 クダを巻きながら千鳥足でひと気のない道を歩くキミコ。オシャレなバーに芋焼酎は無かったようだった。
「おっとお姉さん、そんなに飲みたいなら飲ませてやろうかぁ?」
 電柱の陰からふいに現れるオークたち。その数6匹。
「俺たちの下腹部から出る酒をなあ!! ぶひゃひゃひゃ!!!」
「な、なんやアンタたら!! 私を乱暴しようっていうんか!?」
「その通りだよっ!! おらぁ観念しろやぁ!!!」
 多勢に無勢、一斉に襲い掛かるオークたち。
「私に寄ってくる男って、なんでこんなんばかりやねんーッ!!」
 キミコの切実な悲鳴が大阪の夜の闇へと消えていった。

●オークをねらえ!
「どうも、大阪で非常に臆病、かつ女好きなオークたちが暴れているらしい」
 星友・瞬(ウェアライダーのヘリオライダー・en0065)は自らが予知した内容をケルベロス達へ伝えたうえで、現在の状況について説明しはじめた。
 ギルポーク・ジューシィというドラグナーの配下、グスタフというオークが大阪で暴れているという。
「俺が見た大阪の予知では、七色モヒカン……グスタフはいなかったから、配下の配下が相手になるようだな。いうなれば孫請けみたいなものだ、世知辛いな」
 瞬は一瞬、オークに同情めいた表情を残すがすぐに頭を振り、断言した。
「だが、女性を襲うのは止めさせなければならない。孫請けのオーク共は非常に臆病だ。ケルベロスを見つければすぐに逃げ去ってしまうだろう」
 そのため、キミコが襲われるまでは周囲に隠れて6匹のオーク達をおびき寄せる必要があった。
「とにかくこいつらは臆病だ。戦闘が始まってからも隙があれば逃げ出そうとする。逃がさない工夫が必要かもしれないな」
 そう告げて、瞬は戦場となるであろう場所の状況について語り始めた。
「場所は大阪、繁華街から住宅街へと向かう途中にあるひと気の少ない裏道だ。
 十字路や曲がり角も多いが、遮蔽物はそれほどないな。俺が見た光景ではオークたちは電柱に隠れていた……といっても、あの体格だ。横からはみ出ていたし、キミコのように酒に酔っていなければすぐ気づけただろう」
 オーク自体を見つけるのは比較的簡単だが、逃げ道が多い。
「そうだな……この臆病なオーク達を逃がさない方法としては、もうひとつの特徴であるその好色さを活かすことも必要になるかもしれないな。その……女性ケルベロスがお色気で誘惑するとか、か……」
 そう呟く瞬の頬はわずかに赤く染まっていた。


参加者
泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)
チェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190)
リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)
ジャン・クロード(神の祝福を騙る者・e10340)
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)
メイセン・ホークフェザー(いかれるウィッチ・e21367)
金剛院・雪風(雪風は静かに暮らしたい・e24716)

■リプレイ

●襲撃をねらえ!
「オーク、発見しました」
 メイセン・ホークフェザー(いかれるウィッチ・e21367)は夜目を使い、視界の前方で隠れようとしているオークの姿をはっきりと捉えていた。
「オークは初めてだけど、本当に触手がウネウネしてるんだね」
 物珍しそうにオークの後ろ姿を観察する金剛院・雪風(雪風は静かに暮らしたい・e24716)。
 初めて戦う相手だが、緊張などはしていないようだ。むしろ興味のほうが勝っているように見える。
「隠れ方とか、もう少しセンスはないんですかね……」
 思わずツッコミを入れる泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)。オークは電柱に身体を隠してはいるが、その肥満体は明らかに隠しきれていない。
「隠し切れないブタさんのお肉……ボクはラム肉で夢の共演、合わさったら最強だね」
 曲がり角から顔だけ出しながらにこやかな笑みを浮かべるチェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190)。
「ご自身が食材でよろしいんですか……?」
 苦笑するリュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)。そのとき、ジャン・クロード(神の祝福を騙る者・e10340)の目が細まった。
「おっと……そろそろ、向こうからやってくるよ」
「いよいよですね……!」
 隠密気流で身を隠していたアーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)の声色も、真剣さを帯びている。
「あによ……ヒック、芋焼酎好きで何が悪いんや……」
 クダを巻きながら、ヨロヨロと左右に揺れるようにして歩いてくるOL、キミコの姿。
 エサが掛かった、とばかりに電柱の陰から躍り出るオークたち。
「おっとお姉さん、そんなに飲みたいなら――」
「なんや、こんなとこにオークがおるで」
 その背後から、同じように飛び出て会話に割り込む女の影。
「なっ……!」
「後ろ、だと!?」
 振り返るオーク達。
「しもたー今日めっちゃ過激な服着てきてもうたー」
 それはセクシークロスを身に纏い、棒読みでオーク達の劣情を煽る八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)だった。

●オークをねらえ!
「キミコさん、こちらに避難して下さい!」
 オークたちがセクシーなクロスを見て目をハート型にしている間に、リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)が酔っ払いOLキミコを救出する。
「え? は、はあ……」
 キミコは未だに事情が良く飲み込めないらしく首を傾げていたが、
「さあ、こちらへ」
 リュセフィーに加えて壬蔭も真剣な声色で誘導するので、それに従うことにしようだ。ふたりの後ろへとトテトテ駆けていく。
「ブヒィ、この野郎!!」
「あなたたちは完全に包囲されています! 女性をねらうオークは許せません!!」
 リュセフィーの言葉通り、オークたちは前後をケルベロスたちによって塞がれていた。
「ど、どうする?」
「そそそ、そりゃあ逃げるだろ?」
 戦意などほとんどない臆病なオークたち。どこか逃げられる方向はないかと、キョロキョロと辺りを見回している。
「色々と残念な奴らだな……」
 ケルベロスとしては、オークたちの出方を伺う必要も無い。壬蔭はまずは数を減らすべく、マルチプルミサイルを展開する。
「お、おいっ! ミサイルだっ!!」
「ひえ~っ!!」
 深夜の大阪にミサイルの爆発音が鳴り響く。
「こ、こんなの、避けられるか……」
 着弾のあと、もうもうと立ち込める煙が晴れると、そこには倒れ伏している4体のオーク。
「しぶといな……やはりいくら雑魚といえども1撃や2撃では仕留められないか……」
「おまえら、ずらかるぞ!!」
「おおっ!!」
 蜘蛛の子を散らすよう、放射状に逃げはじめるオークたち。包囲されても、それでも1体だけでも逃げようとする。
「チッ……!」
 斬霊刀を握り、ダメージを受けたオークの1体へ対峙する壬蔭。
「こちらは引き受けた、あちらを頼む!」
「了解や!」
 瀬理の方に逃げてきた2体のオーク。瀬理は傷ついている方を先に片づけることにした。
「疾走れ逃走れはしれ、この顎から!」
 獲物を狩る肉食獣の牙の如く、ケルベロスチェインが傷ついたオークの身体に深々と食い込む。
「……あはっ、丸見えやわアンタ」
 そして、うねり絡みつく触手を素手でもぎ取ってみせた。
「ひ、ひいいぃぃっ!」
 無傷なオークは仲間がやられたのを見て、震えあがる。今にも逃げ出しそうなその個体を見て、瀬理はあからさまに胸元を開けてパタパタと風を送り込み始めた。
「いやー今夜は暑いなぁ。こっちも丸見えにしてもうたろかなー」
「えっ……」
 ぴたりとオークの動きが止まり、視線が瀬理のふくよかな胸へとくぎ付けになる。
「……」
 そしてごくりとオークの喉が鳴った。
「? なんか止まってるしチャンスだよー」
 いまいち色仕掛けのことはわかっていないチェザが、ふわもこ羊を召喚して瀬理のパワーをアップさせる。
「もふもふもふもふ~♪」
「こらっ! 羊! 大切なところが見えないだろうが!!」
 もふもふの羊に視界が遮られてご立腹なオーク。
「ごめんなぁん。もうすぐ回復終わるよー」
 そうして召喚が終わり、羊が消えた瞬間――
「お待たせや♪」
 瀬理がエアシューズによる虎撃:執燥猟牙がオークの顔面へ叩き込まれていた。
「早すぎて、見えな、かった……」
 スカートを履いた瀬理のハイキック。色々な意味で見切れなかったオークは無念の言葉と共に両膝からコンクリートへと崩れ落ちていく。
「おい、あっちのやつらやられちまったぞ!」
「なんだよ、あっちのセクシーなのはともかく、幼女に負けたのかよ!」
 別方向のオークの視線は、とりあえずスカートをまくって褐色の足を露出しているチェザへと一瞬向いた。
「いやでも、おばさんより若い方がいいんじゃねえか? とりあえず回復して――」
 言いながら欲望の咆哮で回復しようとしたオークの声は、途中で聞こえなくなった。
「回復は、させませんよ?」
 結んだ金髪に小さな翼。リュセフィーが笑顔で殺神ウイルスをばらまいていた。
「ぶ、ブベラ……」
 泡を吹いて倒れるオーク。
「ひ、ひいっ!! 別にアンタがおばさんって訳じゃ……!」
 恐怖にかられて逃げようとするもう1体のオーク。
 しかし、その足は動かない。
「女性に任せきりという訳にはいかないのでね。悪いけれど、力尽くで止めさせてもらうよ!」
 ジャンのロイヤルストレートフラッシュだ。ポーカー最強の役を構成する5枚のカード。それを扇のように掲げ持ち、光輝くジャンの姿。
「お、おおおお……なんか、なんだんだ……」
 呆然自失といった体で立ち尽くしてしまうオーク。
「戦闘中にどこをボーッと見てるのかな?」
 そして、光はもうひとつあった。
 上空から光の翼で舞い降りてくる雪風。
「ふとももだ!」
 気が付いたオークの視界に、最初に飛び込んできたのは色白で健康的な彼女のふとももだった。
「ふとももだけじゃなくて、見せてあげる――ボクのバトルセンスを――」
 そして、最後に見たのもまた、彼女のふとももだった。
 雪風は地面ではなく、オークの頭へと着地した。両ふとももで首をロックして、そのままオークの豚面を思い切り殴りつける。
「ブヒィ!?」
「思いつきから生まれる無双の拳だよ」
 そのまま両ふとももで首を挟み込んだまま地面へと投げ落とす。プロレスでいう、いわゆるフランケンシュタイナーにひねりを加えた一撃に、オークの首が鈍い音を立てる。
「トドメッ!」
 そしてコンクリートにキスをしたままのオークの後頭部に、追い打ちの正拳を突き立てた。
「ブ、ブヒイィィ……」
 雪風の爽快無双拳を食らったオークは、妙に安らかな顔で逝った。
「み、みんなやられちまった……!」
「お、俺らだけでも生き残って、おまえらの分までチョメチョメしてやる!!」
 残った2匹のオークは、戦う気など全く無く、最初から逃げる気マンマンだった。強引に包囲を突破しようと試みる。
「はぁ……甚だ不本意ですが……」
「よりによって、ですか……」
 その先にいたのは、アーニャとメイセンだった。ふたりとも視線を斜め下に逸らしながら、わずかに頬を赤らませていた。
「ど、どうせ逃げるなら……!」
「ああ、ゲロマブなねーちゃんのほうだ!」
「さっきから聞いたことも無い日本語ばかり使って……」
 ただ、なにかいやらしい意味があることだけは推察しつつ、メイセンはパーフェクトボディを発動して己の小学5~6年生程度に発育した肉体を美しく光り輝かせる。
「優しくして、くださいね」
 地に描いた魔法陣が妖しく艶めかしいピンク色の光を放ち、メイセンの肉体をライトアップする。
「この匂いは……なんだかいやらしいぞ!」
 振りかけていたサキュバスの名を冠する香水の効果もあり、オークは鼻をヒクつかせてその場にとどまった。
「あら。逃げるんですか? 私を倒せたら、好きにしても良いんですよ?」
 嗅覚で捕まえたオークへ、アーニャが視覚で悩殺する。
 前かがみになり、胸元、強調された谷間と共に投げキッスをひとつよこす。
「お、おおっ……!!」
 その動きはぎこちなかったが、その初々しさもまたオークの琴線に触れたようだった。うねっていた触手が硬くなる。
「いやらしいです……」
 羞恥と蔑みの混じった鋭いメイセンの視線。アーニャは恥ずかしがりながらも続けた。
「えっちなお姉さんは好きですか?」
「も、もろち……じゃなかったもちろん!」
「そうですか……」
 にっこりを笑顔を浮かべたまま宣言するアーニャ。
「では、死んでください♪」
「え?」
「へ?」
 瞬間、時が止まった。
「時よ凍って……! テロス・クロノス!」
 笑顔のまま額に青筋を立て、アーニャは時間が止まった数瞬の間に手持ちの全火器による全弾発射を敢行する。
「ぶへええぇぇっ!!」
 そして、時が動き出した瞬間、1体のオークは集中砲火を食らい、爆散する。
「こ、こうなりゃ破れかぶれだ!! てめえだけでも!!」
 最後の1体のオークが硬くなった触手を刺すように伸ばしてくる。メイセンの服を破ろうとしたその一撃は、しかし彼女のビハインドによって受け止められていた。
「何ィ!?」
「マルゾ……」
「……」
 いつもとは違い、真剣な様子のビハインド。その行動に応えるかのように、メイセンも怒りを込めて魔法陣を再展開した。
「Parsley, sage, rosemary and thyme,私の難題に応えておくれ、さもなくば貴方は決して生きてはいない」
 声に呼応するように、虚空より現れる四つの白刃。
「ぶ、ブヒィ……!」
 オークは逃げようにも、触手をビハインドに捕まれている。そして、白刃もまた逃げるものを執拗に追い、貫く性質を持っていた。
「ブヒイィィィィッ!!!」
 発動した呪いにより、最後のオークも無慈悲に切り刻まれたのだった。

●玉の輿をねらえ!
「お姉さん、大丈夫やったか? 豚なんぞにあれこれされんで良かったわホンマ」
 戦闘後、避難していたキミコを保護したケルベロスたち。
 瀬理が声をかけ、アーニャが酔い覚ましの薬とミネラルウォーターを飲ませてやる。
「あ、ありがとう……今日は厄日や……」
「なんや、嫌なこと他にもあったん?」
 瀬理は言葉を選ぶように少し考えてキミコへと言葉をかける。
「んー……せやけど、これで相当不運な事切り抜けたんやし、次はええ事あるんちゃう? ポジティブに考えて明るい笑顔しとった方が、女として魅力的ちゃうかなー、なんて。うちみたいな年の子が言うてもあんま説得力無いかも知れへんけど」
 そして、たははと白い歯を見せて笑った。
「頑張ってや。せっかく助かったんやから!」
「ええ……そうやね……」
 相手の視点にも立ついいアドバイスだったのだが、意外にもキミコの答えは生返事だった。
「ん?」
 瀬理は気になってキミコの視線を追う。
「キミコさん、大丈夫? 怪我は無いですか?」
「は、はい……ありがとうございます……♪」
 キミコは壬蔭をきらきらした瞳で見つめていた。
「ふふ、僕が眩しすぎて見つめる事もできないかい?」
「ああ……こっちもイケメンや……♪ あと10年後くらいに逢えれば……!」
 かと思えばジャンの横顔をチラチラと盗み見ている。
 キミコは恋多き女だった。
「キミコさん、どうしたのかなー?」
 未だ恋愛に疎い様子のチェザは不思議そうに首を傾げるばかり。
「……大丈夫、みたいですね」
 念の為、キミコを自宅まで送り届けようと思っていたメイセンは、やれやれとひとつ小さく息を吐くのだった。

作者:蘇我真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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