真っ赤で大きな薔薇を、番犬へ

作者:屍衰

●アルカンシェルは任務に勤しむ
 明かりもない深夜の華園。綺麗な花が咲き誇り、昼間は人で賑わっていた。だが、その花も巨大な人影によってぐしゃりと踏み潰された。
「ハァ、相変わらず地味よねぇ。ほんっと、地球人を殺し回ってグラビティ・チェイン集めたいんだけど」
「そう急くな、スターローズ。そろそろケルベロスも俺たちの存在に気付くだろう。奴らと戦うのも、それからでも遅くはない」
 紅一点でありながら、過激な思想をぶちまけるスターローズを、黒紫の鎧の巨漢、スターノワールが諌める。
「もしかしたら、もう気付いているのかもしれないね。ただ――」
 今回の任務はオーズの種の回収だと、そう告げるスターブルーにローズも肩を竦めてオーズの種の位置を仲間へと伝えた。
「よし、始めよう! 皆、グラビティ・チェインを高めるんだ!」
 赤鎧のスタールージュの合図と共に、それぞれエインヘリアルたちの鎧が輝き出す。高められたエネルギーは黄色の鎧を纏ったスタージョーヌの持つバズーカへと吸い込まれていく。
「ほな、いきまっせー」
 どこか気の抜ける言葉とは裏腹に、凄まじい力が放出された。
 同時に、地下から巨大な薔薇が咲き誇る。奪われた己の力を取り戻すべく。すでに諸悪の根源は立ち去ったとも知らず、薔薇の攻性植物は暴れ出した。
 
●真っ赤な大きな薔薇を送りましょう
「貴方たちは、薔薇は好きか?」
 集まったケルベロスたちに、ヴァルトルーデ・シュタール(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0172)は問い掛けた。
 今回の敵は巨大な薔薇の攻性植物だと、ヴァルトルーデは告げる。
「元凶は星雲戦隊アルカンシェルと呼ばれる五人組のエインヘリアルだ」
 敵の素性も手法も分からぬが、地下に眠るオーズの種を見つけて大量のグラビティ・チェインを与え、強制発芽させた後に回収しているらしい。彼らはその回収行動を優先しているようで、回収直後に撤退する。
 それよりも、問題は残った攻性植物である。発芽したオーズの種は、全長が七メートルほどにも及ぶ巨大な攻性植物で、奪われたオーズの種の分のグラビティ・チェインを回復するべく市街地の一般人を虐殺する。
 それを止めるべく、この攻性植物を撃破することが、ケルベロスたちに課せられた任務である。
「この攻性植物は、極めて戦闘能力が高い。特に攻撃性に特化している」
 強力な攻撃を有しているが、代わり弱点として大量のグラビティ・チェインを奪われたため耐久が落ちている。こちらが落とされる前に攻めきれば何とかなるだろう。
「敵の数は一体。時刻は夜で、無人だ。心置きなく戦ってくれ」
 ただし、何度も告げるようで悪いがと前置きして、敵の破壊力について言及する。
 巨大なだけあって、一度でこちらの多くを狙える攻撃を放ってくる。そこも厄介な点である。せめてもの救いは一体しかいないということであろうか。
「説明は終わ――あぁそうだ。アルカンシェルに挑むことは可能だが……私からは勧めない」
 勝てる可能性が低過ぎる故にだ。
 戦場に送り出す以上は、彼らへの万難を排しておくべきだ。そう考えるヴァルトルーデは、最後にその情報を伝えてヘリオンへと彼らを導いた。
 


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
望月・巌(巌アンド穣のガンマンの方・e00281)
白神・楓(魔術狩猟者・e01132)
五里・抜刀(星の騎士・e04529)
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)
山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)
シャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876)

■リプレイ

●大輪を咲かす
 無理はするな、と。望月・巌(巌アンド穣のガンマンの方・e00281)の一言に、山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)は頬を掻きつつ苦笑した。
「何か情報を手に入れる、それも重要だけどな」
 ほしこの命と天秤に掛けても得るものとまで思うことは、巌にとって不可能であった。止めはしないが、危険に変わりはない。故に案ずる気持ちは、言の葉に乗る。
 それを理解したからこそ、ほしこも苦く笑う。それでも、もし何かを手にする機会が生まれるのならば。わずかなチャンスに賭けてみるのも悪くはないと。
「大丈夫だっぺ。無理と思ったら、迷わず逃げるべさ」
 自分一人を犠牲にしても、という言葉は飲み込んだ。他のケルベロスが待機する位置とは異なる場所からアルカンシェルを観察する。最悪見つかったとしても自分だけで何とかすることは可能なはず。
「そうは言うが、私としては反対せざるを得ない」
 白神・楓(魔術狩猟者・e01132)が、はっきりと告げる。自分の命をチップにして何かを手に入れるという行為は、正直なところ信条に反する。
 生きていれば何とかなる。その事実は確かなはずだから。
 だが、ほしこを止めることはできないだろうと、どこか内心で解っていた。信念を基に行動する相手を引きずってでも止めることは、流石にできないだろう。嘆息しつつも、ほしこの向かう先を見つめた。

 数分後。周囲は未だ静寂に満ちている。
 嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)は時計を見る。ヘリオライダーの告げた刻限にはまだ少しある。隣を見やれば、少し落ち着きのない様子の巌が目に入った。
「どうした、巌、相棒が居ないからってそう寂しがるな」
「ちげぇよ」
 素っ気ない返事に、単身別行動しているほしこが気に掛かっているのだろうなと当たりを付けて苦笑した。基本的に根は善良でお節介焼きな彼の性格を考えれば当然か。その程度に分かるくらいに付き合いは長い。
(「ま、付き合いが長い奴が多いってのは良いことだな」)
 連携も取りやすいだろうし、何より心構えが変わる。どうにも負ける気は全く以て湧いてこない。慢心しない程度には気を張っていて、それでも冗談を言えるくらいにはリラックスできている。ベストコンディションに近いだろうと、自分の状態を観察しつつそう評する。
 一方で、シャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876)は深く息を吐き緊張を押し殺していた。夜はまだ涼しいが、それとは違う震えがぞくりと背筋を這う。武者震いであれば、まだ良かっただろうか。どちらかといえば、これは――。
(「怖い、のでしょうか……?」)
 敵は強力。一歩間違えば、即座に瓦解する。一手のミスがすべてを狂わせる。誰彼をも傷付けてしまう。それが、怖い。
 だが、一歩を踏み出さない訳にはいかない。自分も戦えるのだと言い聞かせるようにして気を落ち着かせた。
 そろそろ時間だと、カルナ・アッシュファイア(熾火・e26657)は不敵に笑みながら告げる。確かに、刻限だった。
 しかし、刻限を過ぎても何も起きない。十数秒が経ち、それでも変化はない。
「まさか、ほしこ――」
 巌が不安に駆られたその瞬間、巨大な薔薇がメキメキと音を立てて姿を見せた。

「あー、駄目だったぺか」
 耳元のスマートフォンから返ってくるのは通話中の音だけだった。通話先の機器は、おそらく破壊された。
 情報を探るための策を掛けていた。アルカンシェルたちへの騙りと対話。予めスピーカーフォンの状態にしておいたスマートフォンを出現場所付近に置き、彼らへ話し掛けた。しかし。
『何だこれ。鬱陶しいし、壊すか――』
 その言葉の後に、静止の返事を伝える間もなくザッとノイズが走って音が消えた。聞く耳すら持たぬと来た。ただ何らかの任務を帯びている。それだけが解った。
 少しだけ呆けている間に、薔薇が聳え立つ。

●迫る異様、それは巨大な薔薇
「どうやら、無事だったようですよ」
 五里・抜刀(星の騎士・e04529)が、こちらへと近づいてくるほしこを見つけて他の六人へと声を掛けた。アルカンシェルたちが立ち去る姿を双眼鏡越しに覗けていれば、これほどの不安を抱える必要もなかったろうが、この暗闇の中を見通せるはずもなかった。かと言って、明かりを灯せば気付かれる危険性がある。だから、ほしこの無事を今の今まで確認できなかった。
 彼の表情を伺う限り思うような結果は得られなかったのだろう。それでも無事に戻ってきた彼を見て、仲間たちは安堵の息を漏らす。
「無事で何よりですのー。ただ問題はやはり、あの薔薇ですねー」
 フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)が遠目に巨大な薔薇を視認する。夜なので少し見辛いが、あそこまで巨大だと流石に目に付く。月明かりの下に咲く薔薇。攻性植物でなければ、感慨に耽ることもできたろうか。
「いやいや、幾らなんでもアレは育ち過ぎなのではないでしょうか!」
 抜刀がヒュージ・ローズの姿を見て、悲鳴じみた叫び声を上げる。
「ハッ、関係ねぇだろ。デウスエクスなんざ――さっさと行って燃やそうぜ」
 カルナが好戦的な態度で薔薇を見やると、そのまま駆け出す。

 巨大な薔薇には視覚や聴覚を司る器官は存在していない。それにも関わらず、ソレはケルベロスたちの存在を知覚した。蔦が蠢き、敵と認識したか、巨大な茎が翻る。
「おわぁあああ!? 皆さん、避けましょう!」
 抜刀が叫ぶと同時に、轟音を上げて迫り来る巨大な刺を持つ蔦を飛び越える。こんな超重量が衝突したとあったら、並の人間など無事に済むはずもない。しかもご丁寧にグラビティ・チェインで満ちている。ケルベロスとて当たれば無事では済まないだろう。その威力はその蔦がただ通っただけの道がズタズタに破壊されている様子を見るだけで推し量れるだろう。
 まともに受けた場合の想像をして、すぐに抜刀は魔力を旗へと象る。願いは治癒の力。一撃を受けても、すぐさま傷が治るそんな奇跡。
「お、こいつは有難い」
 薔薇の蔦から距離を取って回避していた陽治に力が満ちる。十全より数割増しの力を感じる。ある程度の傷なら、一瞬で治癒できるだろう。
「熱烈っちゃぁ、熱烈に愛をくれてるのかね、これは」
 確か『赤薔薇』の花言葉は『情熱的な愛』だったはずだと、楓は益体もないことを思い出しながら着地した。通過点の足元を見れば、華園は無残な姿へと変えられている。花を散らさないようにはしたいが、ただ動かれるだけでこの有様である。やはり――短期決戦しかない。
 楓が空間を捻じ曲げる。呼び出すは、失敗作。失敗作と言えども、それは在り方が生物という観点から間違ってしまった悍しきモノ。
「喰らえ。喰ろうて、餓えを満たせ」
 呼び出された数多のナニカは、一斉に薔薇へと襲い掛かった。しかして薔薇も化生である。齧る間もなく蔦を振るい蹴散らす。
 その枝に突然、炎が灯る。ボッと燃え上がる地獄の火焔はフラッタリーの鉄塊剣から上がっていた。振るう先から延焼していく。
「ア、ハ――」
 植物が燃える匂いをフラッタリーは吸い込んで、狂笑を浮かべる。脳を焼く痛みさえ心地よく、炎に身を委ねる。思考が燃える。憎き敵を燃やし滅ぼせと地獄は告げる。それに任せて理性を溶かしながら暴れる。
 燃え盛る火炎に対して伸縮し、まるで本体を護る盾のように邪魔をする。蔦を貫くべく、シャルローネが槍を構える。
「ごめんなさい! あなたはここで刈り取ります!」
 一閃、突く。瞬きの間もなく、銀色の刃が光となって駆ける。地を蹴り衝突のエネルギーを全て穂先に回す。衝突の瞬間に左手を突き出し、さらに加速。重力の加護を乗せた一撃は、貫いた箇所を爆ぜさせる。
 それでも蔦が覆い被さっていき貫通には至らぬそこへ、二閃目をカルナが捩じ込む。さらにほしこが傷を広げるかのごとく、チェーンソーを振るう。
「チッ、止まらねぇか!」
 なおも増殖は止まらずウゾウゾと薔薇の棘は空間を満たし続ける。カルナの悪態通り、敵は止まる気配がなく。増え続ける蔦で周囲を薙ぎ払う。
 巨大さはそれだけで暴力だった。受け止めた巌だったが、頑強な彼の肉体であっても、それをすべて受け止めることができない。
「ぐ、うぉっ――!」
 手元のスマートフォンから立ち上がる謎の力を漲らせていなければ危うさを感じるほど。ギシギシと骨は軋み、断裂した筋肉が痛覚として悲鳴を上げる。
「こいつはヤバいな」
 冷静に距離を取っていた陽治は狙われた前衛へと治癒の雨を降らせる。連続で受けたら――持って二発か。とてもではないが、こちらの多くを巻き込んでくる攻撃にしては破格の破壊力だ。それこそ単体を狙ってエネルギーを絞った威力に等しいところまでは見抜いた。
「っつつ。それでも、こちらの攻撃も効いてはいるみたいです」
 前に立っていたため巻き込まれた抜刀が、貫かれた箇所を見て告げる。確かに再生する様子はなく、本体から分かたれた箇所が一瞬で枯れていく。増殖も止まっており、本体を叩き続ければ何とでもなりそうだ。
「このまま、攻めましょう」
「んだ、すぐに終わらせるっぺ」
 シャルローネの言葉に、ほしこも頷きを返し、ケルベロスたちはヒュージ・ローズへ再度、攻め掛かる。

●華は枯れ行く
 迫る花弁から身を翻す。地を蹴り、枝を蹴り、葉を蹴り。迫る枝葉をエアシューズで駆け巡り、楓は主たる茎目掛けて蹴りを穿つ。捉えた直後に叩きつけられようとする枝を察知して、エアシューズから空気を噴出させて距離を取る。
 抜刀のオルトロス――レオ太が発火能力を以て枝葉を焼き尽くしていく。無尽蔵にも見える物量であるが、少しずつ数を減らし、そして本体へと傷が付いている。
 順調ではあるが、その分だけこちらも被害が相応に増えてきていた。特に、巌は後一撃でも受けたら倒れる程度には傷が深い。事此処に至り、陽治も全域をカバーする治癒から、巌へと集中する。
「じっとしてろ、よ!」
 生気を全身に纏い、そこから拳へと凝縮させる。薄らと汗が滲むほどに力を滾らせると、地へと打ち込む。奔流が拳から地へ、そして巌へと伝播する。これで運が悪くなければ、後二撃は持つ程度にまで回復する。
 薔薇の大部分は炎で焦げたり、刃で切り取られたり、穂先で貫かれたりと、大きく損壊している。しかし、そこは痛覚もないと思われる存在。残っている花刃を辺りに撒き散らして、ケルベロスたちを傷付ける。
 血で身体を濡らしながらも、刃の嵐をカルナは抜ける。鯉口を切り、白刃を抜く。月光を映していたはずの鋼はいつしか赤黒い炎を纏っている。
「派手な演出は好みだぜ!」
 燃え盛る剣を華へと叩き付けた。轟と音を立てて、一際強く炎が上がる。心無しか、ヒュージ・ローズの動きが僅かに鈍っている。敵も限界が近く必死なのだろう、怒涛のごとく蔓を伸ばしてケルベロスたちへ向かってくる。迫る数の暴力に対して、こちらも手数で応戦する。
 それを見たケルベロスたちは此処ぞとばかり、一気呵成に攻め上がる。
 唄う。ほしこの声が、言霊となり力を宿し岩と化すと迫り来る薔薇の幹を撃ち落とす。それでも抜けた一部の棘枝を、シャルローネが鎌で刈り取る。生命さえも簒奪するその鎌はヒュージ・ローズの生気を奪い取り、切った先から瞬く間に枯れていく。
「灼ケヨ、焦ゲヨ、燃エ尽キテ――」
 フラッタリーの焔が立ち昇る。槍は灼熱を纏い、彼女の右手が引き絞られる。歪んだ口は祝詞のようにただ一言を紡ぐ。
「灰トナレ」
 張られた弦が緩むが如く。矢と化した槍が、巨大な薔薇の花弁の中心部へと突き立つ。一瞬の閃光が奔った後、一息に巨大な薔薇は燃え上がり、そのまま燃え尽きた。

 終わったと。誰からともなく呟いて、ケルベロスたちは構えていた武器を下ろした。
「しかし、これは酷いな」
 一息を吐いて、周囲を見渡した楓が零す。デウスエクスとの戦いの後は概ねこのような事態になることは多いものだが、今回は輪を掛けて酷いように思える。憩いの場であっただろう場所も、華が咲き誇っていたであろう場所も、何もかもが見る影もない。
 少しでも片付けばとヒールを掛けてみるが、焼け石に水だろう。割と本腰を入れてのヒールが必要そうではある。
「こういうものはー、簡単に弁償とはなかなかー、いかないかもしれませんけれどー」
 戦闘時だったときの姿は形を潜めて、のんびりとした様子でフラッタリーが懐からケルベロスカードを取り出す。明朝にでも、此処の職員へ渡せば良いだろうか。
 ともあれ、事件は収束に向かった。出来うる限りと、ケルベロスたちは華園をヒールで元に戻して、華園を後にする。

作者:屍衰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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