時の魔法を願って

作者:黒織肖

●いつか魔法が
「はぁはぁ……」
 下校のチャイムと共に教室を飛び出し、部活に向かう友達の横を通り過ぎていく。
「ねえ、ミサぁ~、漫研に入ってよ。好きでしょ、漫画」
「あのっ……ご、ごめん……用事あるから!」
「えー? この時間じゃ新番組ないでしょー?!」
「そうじゃないの、ゴメン!」
 ミサは振り向かずに走る。アニメの新番組が目的じゃないと心の中で呟いた。
(「はやくはやく! 間に合わない」)
 定期券を見せるのもまどろっこしいぐらいに、次の電車が到着するのをホームに駆けこんで待つ。
 心臓のドキドキに願いが重なる。
 あの電車が通り過ぎたら、別の次元へ飛べる。
 あの電車に乗ったら、導き手に逢える。
(「ほうき星が私のステッキになって、私は魔法少女になる……」)
 最後の階段を上がり切って、快速電車の通り過ぎる風が目を覚ませとミサの頬を打った。
 目の前に見えるのは、満杯の電車。もちろん、いっぱいに詰め込まれてるのは人間。
(「わかってるわよ……」)
 どこを見てるのかわからない無数の顔が、ガラスの向こうで余計に虚ろに見えた。
 でも、通り過ぎた電車の向こう側、反対のホームの電車の窓に映ってるのは、くしゃくしゃになった惨めな自分。
 そのまま黙っていつも通りに電車に乗って、家に着くなり部屋に飛び込んだ。
 魔法少女のイラストや妖精の絵。鉱石やペンタクルで飾ったミサの部屋は魔法使い見習いの部屋のようだった。
(「魔法使いになるの、とびっきりの。あと、一か月しかない……」)
 不安を押しこめて、少女期最後の一か月――15歳11ヶ月目を過ごす決意をする。
「そうだ。諦めたりなんてしない……私、絶対魔法少女になるんだから! もしもなれなかったとしても、これからもずっと魔法少女を好きでいる!」
 ケルベロスにでも覚醒すればなれるのかもしれないが、それが望めなくとも魔法少女は大好きな気持ちは変わらない。だから、ずっと好きでいるのだと決意を固めた瞬間、まるで狙っていたかのようにそれはやってきた。
「な、何……?」
(「おとぎ話みたい……」)
 眼前にいるのは黒いコートの異形。胸にはギラギラ光るモザイクがあった。
「魔法少女? ふぅん……あんたの愛って、ホント気持ち悪くて壊したくなるわね。魔法少女になれた子が近くにいても、同じことが言えるかしら。嫉妬はしないの?」
「そ、そんなことないもん!」
「あぁ、嫌だ嫌だ。嘘吐きな上に現実には目が行かないのね? でも……触るのも嫌だから、自分で壊すといいんだわ」
「きゃぁッ!」
 手に持った巨大な鍵を持ち上げると、それはミサの心臓を一突きした。
 鍵は心臓を突き刺したものの、血すら零れることはなかった。だが、溢れていくのは、魔法少女そのものへの愛情。それを吸い取られ、ミサはその場に崩れ落ちる。
 そして立ち上がったのは、とんがり帽子に可愛いコスチュームの、胸に大きなモザイクのあるドリームイーターだった。

●ヘリポートにて
「よく来たな……彼女の予想が当たってしまったらしい。魔法少女になるという願いを持ち続ける15歳の少女が狙われた」
 刀隠・緋彩(オラトリオのヘリオライダー・en0193)は言った。
「……魔法少女への愛情を……奪うなんて……」
 リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)はふわんとした雰囲気を漂わせて言った。
「愛情?」
 隣には、すでに着ていたノエル・ブランシュ(ヴァルキュリアのウィッチドクター・en0192)が目を瞬かせる。
「あぁ、見返りの無い無償の愛を注いでいる人が、ドリームイーターに愛を奪われてしまう事件が今までに何度も起きている。今回は魔法少女への想い、愛情を奪われたんだ」
 襲われてしまった被害者は、ミサと言う名の魔法使いになりたい15歳の少女だという。
 16歳になったら結婚できるようになるから、『少女』とは呼べないのではないか?
 それなら15歳までが魔法少女と呼べるのだと思い、16歳になるまでは魔法少女になるんだと夢を見続けてきたという。
「来月が彼女の誕生日みたいだな。たとえなれなくてもずっと好きと、魔法少女が好きなことを捨てれず、思い続けることを誓ったために、ターゲットにされたらしい」
「なんか……可哀想だね」
「そうだな。夢見がちな少女の気持ちを利用するなんて、酷いな」
「うん……」
 愛を奪ったドリームイーターは『陽影』という名らしく、彼女の正体は不明だが、奪われた愛を元にして現実化したドリームイーターが事件を起こそうとしていることがわかった。
「愛を奪われる被害者をこれ以上増やさない為にも、ドリームイーターを撃破して欲しい」
 そう緋彩は言った。
「このドリームイーターを倒す事ができれば、愛を奪われてしまったこの子も、目を覚ますだろう」
「早く目を覚まさせてあげたいね」
「そうだな……残念ながら、夢見の悪いことにはなっているんだけどな」
「え?」
「もう被害者が一人出てるんだ」
 そして、緋彩は続けてドリームイーターが狙っている人の情報を教えた。
「ドリームイーターが徘徊するであろう場所は、ミサという少女の学校の周辺で雰囲気のいい場所だ。すでに事件が起きた場所から少し離れた、薔薇がいっぱい咲いている公園に今度は現れる。その場所は洋風の東屋があったり、綺麗な噴水と水路があったりと、少しファンタジーっぽい場所がある所だったようだな。時々、そこで文学系らしい少女たちがお喋りをしていたり、写真を撮ったり、遊んだりしていたらしいぞ」
「そんな素敵な所なら、事件が起きて欲しくないね」
 ノエルは悲しそうに言った。
「魔法少女好きな女の子がひっそりと集まったり、魔法少女ごっこをして写真を撮ったり。そういう穴場スポットらしいな。ミサという子は、気後れしてその輪の中に入れなかったんだ。だから、そう言う遊びを実際にしたり、魔法少女になれると公言している子を襲ってくる。ケルベロスは一般人に比べて、愛の力も大きいからな。ケルベロスが囮にになる事ができれば、ドリームイーターは、ケルベロスを狙って現れる可能性が高くなるだろう」
 緋彩はあとで事件を聞くことになってしまうだろうミサの事を考えたか、物憂げな瞳でケルベロス達に告げる。
「このドリームイーターの戦闘能力は、知識を吸収して麻痺させたり、魔法少女になろうと誘って悪夢に侵食しようとしたりするな。あと、『心を抉る言葉と鍵』でトラウマを具現化してくる。攻撃力よりも怒りとかの効果が多いから気を付けてくれ」
 攻撃方法を教えると、緋彩はケルベロス達の方に向き直った。
「変わらぬ愛情を注げるのは優しい子である証拠だ。それに女の子がひっそりと紡ぐ物語を汚し続けるというのも、彼女が目覚めた時に大きなショックとなるだろう。この子があとで悲しまないように、ここでこの連鎖を断ち切ってやってほしい」
 そう言って、緋彩は頭を下げる。
 その話を聞いて、ノエルも涙ぐみつつ、緋彩に習って頭を下げた。


参加者
ラビ・ジルベストリ(意思と存在の矛盾・e00059)
アシュヴィン・シュトゥルムフート(月夜に嗤う鬼・e00535)
シルフィリアス・セレナーデ(魔法少女ウィスタリアシルフィ・e00583)
伊上・流(虚構・e03819)
高原・結慰(四劫の翼・e04062)
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)
時雨・乱舞(サイボーグな忍者・e21095)
北烏・久嶺(オラトリオの降魔拳士・e23023)

■リプレイ

●本物だけが持つ何か
「魔法少女マギアス・リーナ♪ ただいま参上! どう? こんな感じかな」
(「……ん、演技とはいえ、わたしのキャラじゃないね」)
 リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)はやや照れながら言った。
 リーナ達は囮役。魔法少女や『魔法少女になると願う少女』を演じて誘き寄せる作戦だ。
  公園に一般人が近づかない様に、身体から殺気を放って周囲の人たちが無意識的に近付かないように遠ざけている。
 おかげで、先程から周囲には人影は見えなかった――ごく一部を除いて。
 無論、それは螺旋隠れや隠密気流で隠れたケルベロス達だ。
「さて……来るかな」
 物陰に隠れていたアシュヴィン・シュトゥルムフート(月夜に嗤う鬼・e00535)は周りに聞こえないぐらいの声で呟く。
 向こう側では時雨・乱舞(サイボーグな忍者・e21095)は螺旋隠れを、伊上・流(虚構・e03819)とラビ・ジルベストリ(意思と存在の矛盾・e00059) は隠密気流を使い身を隠して待機していた。
 ラビは結婚できるけれど16歳も少女ではないかなと思っていた。
(「ま、しかし「そのもの」ではないが、魔法少女も魔法も実在するんだよなァ」)
 現にラビも、いうなれば魔法使いのようなもの。存外的外れな夢でもない。
 囮を演じる女の子達プラス女装男子を、乱舞は微笑ましそうに見つめた。
(「みんな最初はこんな感じだったんだろうなあ……」)
 可愛いとも思うし、照れるような感じのこそはゆい感じもする。
(「まあ、魔法少女になりたいという可愛らしい夢を願う気持ちはよくわかりますよ……。人間みな、子供の頃はそういう夢を持っている物ですからね。若干男子が混じってますが~」)
 乱舞は少し苦笑した。

「魔法少女にへんしーんっす」
 魔法少女の物らしく装飾された杖を振って、かわいらしくポーズするケルベロスの女子達。
「救済天使☆魔法少女・北烏久嶺、参上!」
 ナノナノを肩に乗せ、ついでに目立つように飛行して、北烏・久嶺(オラトリオの降魔拳士・e23023)は口上とばかりに高らかに宣言。
(「これちょっと恥ずかしいわね」)
「……それらしく魔法少女談話をしてれば良いのかなぁ?」
 高原・結慰(四劫の翼・e04062)は、シルフィリアス・セレナーデ(魔法少女ウィスタリアシルフィ・e00583)にこっそりと話しかけた。
「あちしはそれでいいと思うっすー……しかし、女の子の夢を踏みにじるなんて許せないっすね」
 魔法少女の秘密基地の団長であるシルフィリアスは少々憤っているようだ。
「そうよね……でも、20歳過ぎた女性も魔法少女でいるし。年齢は其処まで大事じゃないと思うの」
(…そういえばあんまり魔法少女の事良く分からないんだよねぇ。どんな感じが魔法少女になるんだろう?)
「魔法少女って、マスコット的な喋れる小動物をお供にしたら魔法少女になれるのかな?」
 結慰はシルフィリアスに質問した。
「それは結構難しい質問っすね」
 黒いロリータドレスの皺を整えつつ言う。
「魔法少女って、英語だと変身ヒロインとバトルヒロインに限られてるんだっけ? 俺、ここに来るまでにちょっと、動画見たんだけど」
 ノエル・ブランシュ(ヴァルキュリアのウィッチドクター・en0192)は地球に来て知らないことばかりらしく、どうも調べてみたらしい。
 シルフィリアスと久嶺の二人が頷いた。
 アメリカでは、ジャパニメーション好きでも戦わないタイプの魔法少女を『Maho Syojo』という言葉でイメージできないらしく、年代や地域的なもので差がある等。魔法少女談義が続く。
「マスコット的な生物などにアイテムをもらって、後天的に魔法能力を付与されるのが、認識として一般的っすね」
「私は魔法少女のつもりなのだけど?」
 久嶺は胸を張って言った。
 厳密にはケルベロスだから。思い込みみたいなモノかもしれないけどと思いつつ、自分の中の小さな誇りが自分を魔法少女たらしめている気がしないでもない。
 そんな魔法少女談義をしつつ、久嶺は周囲を窺う。
 シルフィリアスもそろそろ来ないかと、声を少し大きくして言った。
「そろそろマスコットが契約しにあらわれないっすかねー」
「キャハハッ! 私も入れてヨ!!」
 リーナの後ろから声がした。
 ケルベロス女子達が振り返って武器を構える。
 とんがり帽子にツインテール。可愛いコスチュームの、胸に大きなモザイクのあるドリームイーターがそこにいた。

●魔法少女の気概
「魔法少女ォー……あたしーも、入れてェれてれてよよォ!」
「あらわれたっすね、いくっすよー」
 シルフィリアスは杖を振った。
 光に包まれ、ひらひらしたミニスカドレスの魔法少女衣装に変身する。
「魔法少女への愛を奪うなんて許せない。魔法少女の秘密基地所属、マギアス・リーナ。……行くよ!」
「さぁ、かかってきなさい。貴女の無念や怒り、全部私が受け止めてあげるわ!」
 久嶺は叫んだ。
「魔法少女の戦いを見せてやるっす……魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす!」
 シルフィリアスは杖からほとばしる雷を、ドリームイーターに向けて撃ち放った。
「さぁ、始めようか」
 隠れていたアシュヴィンが飛び出してくる。
「アハァ~、敵敵敵ィィ!」
「大人しくしててもらおうか」
 まずは敵の動きを制限すべきと、アシュヴィンの初手はスターゲイザー。
 流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させ、敵の機動力を奪う。
「ギャ!」
 ドリームイーターは叫び声を上げた。
 少し足を引き摺り、よろめいている。
(「さあ、魔法使いの出陣だ……!」)
 ラビも隠れていた所から相手の初手行動を狙う。味方の攻撃の起点を作るため、アシュヴィンに合わせて自身もスターゲイザーを放った。
「グギャア!」
「日常に悪しき夢を齎す貴様に相応しい魔法を与えに来てやったぞ。貴様を滅ぼす魔法をな……」
 流は隠密気流を解除し、それと共に敵へ攻撃を仕掛けた。
 卓越した技量からなる、達人の一撃。
 ドリームイーターは不意の冷気と攻撃に叫ぶ。
「キヒィッ! 冷たィ!」
「今だ!」
「はいッ!」
 流の声に結慰が応えた。
 星辰を宿した、重力を操るを翳す。
 長剣地面に描いた守護星座が光り、星のきらめきが前衛の仲間達を守護した。
 乱舞も流に合わせ、氷結の螺旋を放って凍らせる。
「その夢はあなたのものじゃない……ミサさんのモノ! 絶対に、返してもらう……!」
 斬霊刀を非物質化し、リーナは霊体のみを汚染破壊する斬撃を放った。この一撃が夢を取り戻すための力になるはずと。
 魔法少女の先輩として、魔法少女を愛する仲間として、リーナ達はミサのために戦った。
「欲しィー! 魔法が欲しいッ!」
 ドリームイーターはステッキを翳してモザイクを飛ばす。
「危ない!」
「きゃぁッ……な、流さんっ?」
 結慰をモザイクで包み込もうとしていた所を、流は飛び込んで庇った。
「ぐあッ!」
「キャーハハハッ!」
「欲しいならくれてやる! ……但し」
「キヒィ?」
「俺の扱う魔法は知識だけ得ても、それを『理解』して『制御』出来なければ意味が無い代物だがね!」
 ライドキャリバーのシラヌイは炎を纏い突撃する。
「グギャッ!」
「別に私はただ特別な力を持っているから魔法少女を名乗っている訳ではないわ」
 久嶺は凛々しく叫んだ。
『信念が、生き方が、魔法少女なのよ……我が右手に封じられし神魔よ! 破邪の力を解放せよ!』
 神魔の力を限定的に解放し、前衛に破邪の力を与えた。
「ナノナノ~っ♪」
 ナノナノは流をハート型のバリアで包む。
「甘いな!」
 ラビは緩やかな弧を描く斬撃で、腱を的確に斬り裂く。
「ギャアア!!」
 ドリームイーターの体が大きく揺れ、ダメージが溜まっているのが見て取れた。
 アシュヴィンはここだと狙って必殺の一撃を放つ。
『舞い散れ』
 ドリームイーターを斬り裂くと共に桜が舞い散る。相手の力を奪い取り、花弁は紅く血に染まっていった。
「みんなでなろうよォ……魔法少女にィッ!」
 ドリームイーターはアシュヴィンを狙う。
「オレは男だ!」
「なろうよォ!」
「危ない! ……あうッ!」
 光の翼をはためかせて、ノエルがドリームイーターとの間に飛び込んだ。
「キャッ! ……だ、だめ。やめて!」
 ノエルがトラウマに苦しんだもの、戦わねばと光の翼を暴走させ、全身を「光の粒子」に変えて敵に反撃、そして突撃した。
「ギャア!」
「チッ……トラウマか。嫌な攻撃だな」
 アシュヴィンが舌打ちした。
「届いて! ほら、これが魔法だよ?」
 結慰はドリームイーターに向かって叫び、マインドシールドでノエルを回復していく。
 リーナも同様に叫んだ。
「貴方の望んだ魔法だよ…! 竜の炎よ、敵を焼き尽くせ…!」
 リーナは掌からドラゴンの幻影を放ち、敵を焼き捨てた。
「ギャァァッ!」
「ヒャハハハハ!」
 乱舞は緩やかな弧を描く斬撃で、腱や急所のみを的確に斬り裂く。
「ヒイッ!」
『これでとどめっす! グリューエンシュトラール! これでもくらえっすー』
 シルフィリアスは敵が弱ってきたのを確認し、必殺技っぽく杖を構えて杖の先端に魔力をチャージした。
 マジカルロッドに魔力を集め、シルフィリアスは光とともにエネルギーの塊を放射する。その魔力を放出するような仕草はまさしく魔法少女。
 一瞬、ドリームイーターが立ち止ったかのように反応し、次の瞬間吹き飛ばされた。
「ぎゃァ!」
『アクセス・終焔―終りを齎す白き浄化の焔よ、此処に顕現せよ』
 そこを狙って、流が窮極の浄化で敵を浄め滅ぼす禁絶の業を放つ。
 術者に終焔を扱う者の象徴として純白の焔で出来た片翼が背に現れた。
「日常に害為す異端なる存在は狩り屠る…貴様の概念情報。全て浄め祓い滅する!」
「ア゛ア゛ア゛ッ!!」
「ほら、これがあなたが欲しかった魔法だよ? でも……もう、最後!」
 流に続く様に結慰が禁縄禁縛呪をを唱え、半透明の『御業』がドリームイーターを鷲掴みにする。
 見事な連携にドリームイーターは完全に手も足も出なかった。
『唐突かつ無造作なる切断。静かで致命的な散華。それこそが刃の真理だ』
 そこにラビのアタユナの踊る三連府が追い打ちをかけ、ホーミングアサルトが決まる。
「グギャァ!」
(「体力が10%切った……チャンス!」)
『これが最後。わたしの最大の魔法で、貴方を解放する…! 集え力……。わたしの全てを以て、討ち滅ぼせ…黒滅の刃!!』
 リーナが戦闘域に散らばる敵・味方の魔力やグラビティを、強引に自身へと集束させた。
「魔法少女への愛情を返しなさい!」
 黒く輝く一振りの魔力刃が煌めくと、ドリームイーターを切り裂く。
 勝利を確実なものとする為、乱舞が必殺の一撃を放つ。
『その名の通り、乱舞の如き動きをご覧あれ!』
「グギャ……ア゛ア゛ア゛ッ!!!」
 目にもとまらぬ速さで乱舞は敵を切り裂きや機械の手を使った武装で連続攻撃をした。
 その動きはまさに死の舞。
 死するべき者への舞の前に、ドリームイーターは絶命を持って応えるしかなかった。

●未来へ
 ドリームイーターを倒したケルベロス達は、周辺をヒールしてからミサの家へと向かう。
 それは小さな可愛い家だった。
 幸いと言うべきなのだろうか、家の人は誰もおらず、ミサが自室で倒れていた。
「ミサさん!」
「え……わ、私」
 最初は戸惑ったものの、やってきた相手がケルベロスと聞いて、ミサはなにがしかを感じたようだ。
 ケルベロスはデウスエクスの事件を扱う。つまり、そういうことなのだと。
 そして、ミサは倒れる直前まで記憶に残っている全てを話した。
「例え16歳になったって。希望を抱き、夢を与え続ければ魔法少女って名乗ってもいいんじゃないかしら」
 久嶺は言った。
「え?」
「貴女の望んだモノとは違うかもしれないけど、後輩に魔法少女の良さを伝えるとか、どうかしらね」
「ほら……見て」
 目覚めたミサに、リーナは魔法少女としての姿を保ちつつ、エイティーンを使って16歳以上になってみせた。
 魔法少女に年齢なんて関係ないと知ってほしい。例え魔法少女を諦めたとしても、決して魔法少女への愛を失わないで欲しいと伝えたかったから。
「その夢を愛する心、決してなくさないでください」
 乱舞も微笑んで言った。
「略奪者って奴は、ホント身勝手な奴が多くって……でも、奪われたらのなら奪い返すだけね。あなたの夢、撮り返してきたよ」
「わ、私……」
 結慰の言葉に、ミサは涙を零した。
「あちしの旅団は魔法少女の旅団っす。いわば魔法少女とそれへの愛情の塊っすよ? 勇気を出すっすー」
「ちなみに、私の中では17まで少女だ」
 ラビがそっと言って、そっぽを向いた。照れくさいらしい。
「ありがとう……。私、最近辛くって……もう16になるのよ、とか。昔だったら…とか親に言われまくってて」
 ミサは微笑み、そしてため息交じりに皆に言った。
「大好きな姿のまま、時間が止まればいいなーって。でも、きっと……」
 みなさんのほうが大変なんじゃないかとミサは言った。
 ミサが見せた優しさに、リーナが握手を持って応える。
「わたしの魔法は、決して望んで手に入れたものじゃない……。それでも、わたしは戦うよ。デウスエクスに苦しめられる人達の為にも。ミサさんの言う、魔法少女として……」
「ありがとう、私……ずっと、魔法少女を好きでいるね、大人になっても」
 それはあなたたちのことだから、と続けてミサは言い、ケルベロス達に向かって笑って見せた。
 ケルベロス達は彼女の命だけでなく、夢も笑顔も守り、そして未来をも守った。

作者:黒織肖 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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