●平和な街角に動く影
ある夜、多摩川河川敷からすぐそばの住宅地に、彼女たちは現れた。
1人のシスターと、3体の巨大でグロテスクな魚。
深海魚を思わせる姿だが、その体長はゆうに2m以上もある。
死神と呼ばれるデウスエクスだと、ケルベロスならば気づく者もいただろう。シスターもどうやら仲間のようだ。
「ああ、ここにもエインへリアルとケルベロスの因縁が残っておりますのね」
彼女の口をついて出たのは、敬虔なる使徒が神の恩寵を感じたかのような声だった。
エインへリアルの移動要塞である人馬宮ガイセリウムの進軍からはや数ヶ月、痕跡はもはや残っていないがここもまた戦場となった場所の1つだった。
「いったい、彼は殺されるときになにを思ったのでしょう。どれほどの恨みを抱いて死んだののかしら」
歌うように呟く彼女は、深海魚たちに向き直る。
「あなたたち、この方を回収してさしあげて。きっと、とても素敵なことが起こるわ」
祈るように両手を握って、シスターは深海魚にそう命じた。
青白く光る怪魚たちが踊り始めるのを確かめて、シスターはいずこかへと姿を消した。
主が去っても、深海魚の形をした死神たちは一心不乱に踊り続ける。
魚たちがまとう輝きはやがて宙に魔法陣を描きあげた。
魔法陣の中央かに浮かび上がったのは、鎧を着た1人の男であった。
赤い鎧は生前よりも歪んで禍々しく、ルーンを刻んだ斧もねじくれている。
「ウ……グア……アァ……コロしタイ……。コロし、タリねエエェェ!」
エインへリアルの精鋭、『アグリム軍団』の一員である『殺戮旋風』フレードリクは目を赤く輝かせて高らかに叫んだ。
●サルベージを阻止せよ
数ヶ月前、多摩川防衛線を敷いた八王子市で女性型の死神の活動が確認された。
「アグリム軍団が、またサルベージされるかもしれないと思って調べていたのだけれど、『因縁を喰らうネクロム』という死神が動いていることがわかったわ」
語ったのはローザマリア・クライツァール(双裁劒姫・e02948)だ。
ネクロムはアギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)の宿敵で、翼を持つシスターのような姿をしている。
「深海魚の姿をした死神がデウスエクスをサルベージして回っていることはみんなもう知ってると思うけど、命じていたのはネクロムで間違いないみたいね」
彼女は殺されたデウスエクスの残滓に死神の力を注いで変異強化し、戦力として持ち帰らせようとしているのだ。
死神の目論見を防ぐためにも、急いで多摩川へ行かねばならない。
ドラゴニアンのヘリオライダーが、ローザマリアの調査から予知した情報をケルベロスたちへと語り始めた。
サルベージ作戦が行われているのは、アグリム軍団との対決があった多摩川のすぐそばだ。現場となる道路をまっすぐ歩くとすぐ土手に突き当たる。
周囲は住宅地だが、移動にさきがけて避難勧告を出すので人を巻き込む心配はない。
今から向かえば、おそらくサルベージされた直後に現場に到着できるだろう。
「敵はアグリム軍団の『殺戮旋風』フレードリクという人物です。生前から狂戦士に近い人物でしたが、今は知性を失って殺戮衝動のまま暴走するだけとなっています」
武器がルーンアックスであることは変わらない。
光り輝く呪力で防具ごと破壊する攻撃や、高々と飛び上がってプレッシャーを与えつつ頭を叩き割る技を使ってくる。
ただし、ルーンを付与して回復する技はもう使えないようだ。代わりに、斧を振り回して無数の竜巻を飛ばし、捻り潰そうとしてくる。
もとより強敵だったフレードリクの攻撃はサーヴァントなど体力で劣る者なら一撃で倒されるほどの攻撃力があるようだ。
「怪魚型の死神もその場に残って戦うようです。3体いて、噛み付いて生命エネルギーを奪い取る攻撃をしてきます」
他に、泳ぎ回って態勢を立て直したり、怨念を集めた弾丸を爆発させて毒を撒き散らす範囲攻撃なども行ってくるようだ。
ヘリオライダーが説明を終えた。
「もともと精鋭だった敵がさらに死神に強化されてるなんて、厄介よね。でも、知性がないんだったら戦術ではこっちに分があるんじゃないかしら」
ローザマリアはいっそ気楽にも感じられるような口調で言う。
「ネクロムが戦力を集めてなにをするつもりかはわからないけど、まずは敵の作戦をしっかり止めておきましょ」
参加者 | |
---|---|
アシェリー・サジタリウス(射手座の騎士・e00051) |
中邑・めぐみ(ときめき螺旋ガール・e04566) |
浅羽・馨(星斗・e05077) |
上野・零(ブレイク・e05125) |
河内原・実里(誰かの為のサムズアップ・e06685) |
望月・護国(死龍ゴクラッチ・e13182) |
シンシア・ジェルヴァース(兇劍継承・e14715) |
クルル・セルクル(兎のお医者さん・e20351) |
●狂戦士の復活
復活の儀式が行われている場所から、少し離れた場所に着陸したヘリオンから、ケルベロスたちは駆け出していた。
「クッキーは悪くなかったわ」
「食べ過ぎなければ、であろう?」
アシェリー・サジタリウス(射手座の騎士・e00051)と望月・護国(死龍ゴクラッチ・e13182)が言葉を交わす。
ヘリオンの中で、護国は英気を養おうと仲間たちにココアクッキーを配っていた。
食べ過ぎなければ、というのはアシェリーがそれに応えて言った言葉だ。
「アグリム軍団は以前もサルベージされてて、僕も追っていたんだよね。今回の敵は僕がかかわった相手ではないけど、見過ごすこともできないな」
気負うところのない笑顔で河内原・実里(誰かの為のサムズアップ・e06685)が言う。
(「あの時は依頼には成功したけど倒れてしまった。今度こそ、僕は……」)
まっすぐに前を見て実里は河川敷を駆け抜ける。
ケルベロスたちが現場にたどり着いたときすでに儀式は完了していた。
怪魚たちが描き出す魔法陣の中央には、真紅の鎧を着た偉丈夫の姿がある。
(「……あれがサルベージされたアグリム軍団の……『殺戮旋風』フレードリクだっけ」)
上野・零(ブレイク・e05125)は心の中で呟いた。
(「……生前はもっと強かったんだろうなぁ…その状態の時に戦えてたら、僕ももっといい経験が出来たかもしれないな」)
地獄化した右目に炎のような光が宿る。
その手の中でうごめくのは漆黒の溶岩が具現化した、悪魔の粘着質な炎。
「……だが『因縁を喰らうネクロム』……悪いが、こいつは……排除させてもらおう」
すでにここにいない死神へ向けた呟きが虚空へと消えた。
「さて、這い上がってきたとこ悪いけど、ここに貴方の居場所はないわ」
アシェリーに応じたかのように、フレードリクが咆哮をあげる。
シンシア・ジェルヴァース(兇劍継承・e14715)が叫ぶ狂戦士へ弓を向けた。
「死してなお戦うよう仕向けられるとは可哀想だとは思わないか」
浅羽・馨(星斗・e05077)が言う。
「ええ。死してなお、理性も失って戦うとは……哀れなものですわね。……いえ、狂戦士であるならばむしろ本望なのでしょうか?」
兎の頭部を持つ女性が目を伏せる。
クルル・セルクル(兎のお医者さん・e20351)は医師であったが、服装はどちらかというとクラシックな看護婦に近い。
ケルベロスたちに気づいたフレードリクは、ルーンアックスを思い切り振り上げる。
「いずれにせよ人々を害する者は捨ておけません。わたくしは、わたくしにできることを」
「そうだな。せめて今一度、静かに眠りにつかせてやらねばな」
和装に身を包んだ馨は、一族に伝わる古武術の構えを取る。
深海魚たちも、牙を剥き出しにした。
威嚇する死神たちにも、咆える狂戦士にも臆すことなく1人の女性が指を突きつける。
「死者の眠りを妨げる死神と眠りを忘れ暴れる殺戮の風よ、あなた方に遥かな眠りの旅をささげましょう」
大きな胸をしっかりと張り、中邑・めぐみ(ときめき螺旋ガール・e04566)は朗々と口上を述べる。
リングでは相手もまた言葉を返してくるのかもしれない。
だが、デウスエクスから返ってくるものは、ただ殺意のみだった。
●乱舞する怪魚
死神たちより先に風のごとく突っ込んできたのは、赤衣の戦士だった。
「ゴオァァァ!」
3mの巨体が宙を舞い、斧がシンシアの小さな頭へ叩きつけられる。その強襲には護国や実里がかばう隙もなかった。
狂戦士に次いで、怪魚たちもそれぞれに牙をむき出して前衛たちに襲いかかる。
「太陽の騎士団が一振り、笑顔を守る者。河内原・実里、参ります!」
実里は死神たちに目もくれず、狂戦士の前へと飛び出した。
同時に背負ったアルミ合金製のコンテナから、盾が飛び出す。
グラビティ・チェインを用いて盾をフレードリクとシンシアの間に割り込ませる。
攻撃を受けたシンシアの、金色の髪が血に濡れていた。体力に劣る彼女にはきつい一撃だったようだ。
「殺したいかい? 残念、誰も殺させはしない!」
距離をとった少女に代わり、実里は狂戦士の前に立ちはだかる。
強烈な一撃だからこそ他の誰かには向けさせない。
騎士王の剣を模した柄をしっかりと握り、実里は周囲に突き立てた盾を操ってフレードリクの注意を自分に向けさせる。
「死したる者は、そのままに。敵であろうともひとしく眠りは安らかでありますように。……そして、次に生まれ来る時には……わたくしたちの、同胞であることを願いますわ」
クルルがしっかりとライトニングロッドを握り締めて雷の壁を作った。護国もケルベロスチェインを操って、仲間たちを守る。
「護る力に」
馨が静かな声とともに闘気を高めて治癒力を強化した。
傷ついたシンシアが、それでも魔力で鋒を生み出す。
妖精弓から放たれた鋒は空中で分身し、しかしその全てが同じ場所へと集中。死神の1体を貫いた。
だが、死神たちはひるむことなく漆黒の弾を放ってきた。いや、炸裂する呪詛の爆弾は、必ずしもシンシアだけを狙ったわけではなかったが。
前衛に向けて炸裂する怨霊弾のうち1発から護国がかばった。
けれど残り2発が、まだ負傷の残っていたシンシアを打ち倒していた。
「シンシアさん! よくもやってくれましたわね」
彼女と同じプロレス協会に所属するめぐみが怒りの声を上げた。叩きつけるように触れた掌から、螺旋の力を流し込む。
残り7人となったケルベロスたちへと、死神たちはさらなる攻撃をしかけてくる。
ケルベロスたちも迎え撃ち、乱戦が始まった。
護国は幾度目かとなる死神の牙から馨を守った。
「これ以上誰も倒させないのであるよ」
「助かるよ、望月さん」
「礼には及ばないのである。我輩は守りを固めるので、攻撃を頼む」
地面に守護星座を描き出して、さらなる守護を重ねる。
「助かる。では、行くとしよう」
護国の背後から飛び出した馨の指先が、最も傷の深い敵に容赦なく突き刺った。
指を引き抜くと同時に敵が爆発する。零だ。
痛打を受けた敵を、アシェリーの背負った砲塔が狙う。
「滅びよ」
6門の砲口、それぞれの先端で光が渦巻いていた。
最大まで高められたエネルギーが一気に解き放たれ、6本の輝線が死神の1体へと集中し、炸裂する。
焼け焦げた深海魚は力なく道に落下した。
「護国の調理でもこの魚は食べれそうにないわね」
アシェリーはクールに呟いた。
1体が倒されるまでの間にも実里はフレードリクの攻撃を受け続けている。次々にウェポンボックスから盾を射出し、攻撃を自分へ誘導しているのだ。
回復役のクルルはほとんど彼の回復にかかりきりになってしまっていた。
(「長引かせるのは……まずいな」)
馨は死神たちと戦いながらも、実里のことも気にかけている。
何回かに一回はフレードリクの攻撃が流れ弾のように他の仲間へと飛ぶが、それでも狂戦士の攻撃は実里に余裕を与えない。
彼が持ちこたえている間に、仲間たちは次の1体へと攻撃を集中する。
「長期戦にさせるわけにはいきません。音速の一撃を止められるかしら?」
めぐみの拳が死神を吹き飛ばした。
「生怪魚のミキサーはどうかしら?」
アシェリーの腕が吹き飛ぶ敵をひっつかんで高速回転し、地面に叩きつけた。
馨や零の攻撃もそこに重なった。
怪魚たちは牙をむき出しにして零と馨に噛み付いてくるが、戦いの間に護国が守りを固めている。致命的なダメージはない。
「……お前ら程度の、死に怯えていては、僕は生きていけないからね、ここで死ね」
噛み付かれた零の体から、地獄の炎をまとった漆黒の溶岩が飛び出して敵を焼く。
馨も噛み傷から血をほとばしらせながら走った。攻撃してきた敵でなく、零と同じ相手を確実に狙っていく。
固めた拳に宿っているのは、魂を食らう降魔の力だ。
「悪いね。ゆっくり相手をしている暇は、ないんだ」
奪われた体力を、容赦なく馨は奪い返す。
普段は温厚だが彼も武術の家の長男。戦いは決して嫌いではない。
2体目の死神が動かなくなった。
●狂戦士の再葬
最後の死神をケルベロスたちが狙う間も実里はフレードリクを押さえ続けていた。
「眠りを妨げられたことには僅かに同情を覚えますけれど……」
果たして、狂戦士はこの戦いを楽しんでいるのだろうか。
クルルは実里の回復にかかりきりになりながら、心を吐露する。
同情を覚えると同時に、死神たちへ憤りを感じる。その冒涜者も残りは1体だ。
実里は傷つきながらも盾を操って自分へ攻撃を誘導している。
当初、クルルは攻撃役や狙撃役を優先して回復するつもりだった。しかし、敵もさすがに精鋭というべきか。実里を優先するよりない状態が続いている。
「河内原様、あと少しでこちらは終わりますわ」
「ありがとう。きっと耐えきってみせるさ」
傷だらけになりながら、それでも笑ってみせる実里へライトニングロッドを向ける。
飛び出す電撃は、生命を賦活させる電気ショックだ。
電気を浴びて、実里はまた剣の柄をしっかりと握りなおしているようだった。
クルルが実里の回復に手一杯な分、護国が死神による負傷の回復に回っている。と、いっても主に回復が必要なのは仲間をかばいながら戦う彼自身だったが。
零が最後に残った1体の死神へと意識を集中し、爆破する。
それで、ようやくもすべての深海魚が倒れた。
フレードリクのほうへと振り向く。
敵よりも先に目に入ったのは、旋風に引き裂かれながら倒れていく実里の姿だった。
「ミナ……殺し……ダ! シネェェェ!」
ケルベロスたちが狂戦士へと走り出す。
倒れゆく青年は……最後の力を振り絞って、仲間たちへと右手の親指を立ててみせた。
それは信頼を示すメッセージ。
「あとは任せてくださいませ」
声をかけながらめぐみが実里のそばを駆け抜ける。
倒れた仲間の向こうには強烈な威圧感を放つ敵の姿がある。
零は心のうち、地獄と化した記憶のなにかが『死』を感じさせる敵の姿に刺激されているのを感じていた。
「……貴様はきっと強いんだろう、だが、俺はそのお前の……理性なき屍を超えて、護るための力を手に入れる……ここで貴様は死に晒せ」
見る物が凍りつくほど無駄のない動きで、前進しながら零は矢を放つ。
突き立った矢は狂戦士の腕を氷で覆っていた。
「手合わせ、願おうか」
馨の鋭い蹴りが敵を捉える。
流れるように叩き込まれるケルベロスたちの攻撃にも、敵は動きを止める様子はない。
とはいえ、死神たちが倒れたことで、護国もようやく攻撃に加わることができるようになっていた。
ゾディアックソードを構えて、護国が生み出すのは射手座の弓を模ったオーラだ。
それはかつてのアシェリーの名であり、そして手にしたゾディアックソードに刻まれた守護星座でもある。
彼の動きに合わせて、アシェリーも得物を構えていた。
「アシェリー殿、仕上げは任せるであるよ!」
一瞬目を向けただけで護国が告げ、アシェリーは応じて後方から一気に接近する。
「OK、任せて」
静かな答えと共に、射手座の剣が弓の軌道を正確に切り開いた。
星座のオーラによる氷結が、その傷口の中まで凍てつかせていく。
「グアアァァッ」
悲鳴ともつかぬ叫びを上げて、フレードリクが斧を振るった。
アシェリーへと竜巻が襲いかかる……が、割り込んだ護国が代わりに受ける。
ドラコニアンの鱗が風にひき潰されてきしむ音が聞こえてきた。
「死神とは桁が違うようであるな。だが、河内原殿が何度も受けた攻撃を、一撃食らったくらいで倒れるわけにはいかないのであるよ!」
風が過ぎ去った後、護国が揺らぐことなく立っているのを確かめて、アシェリーは微かに息を吐いた。
「エインヘリアルとしての誇りも戦士としての誇りも何もなさそうね」
身軽な動きで距離を取り、アシェリーはまた敵に狙いをつける。
6人がかりでもアグリム軍団は容易い相手ではない。しかしながら、もうすでに3月も前に一度勝った相手でもある。
なにより、実里は配下が片付くまで強力な攻撃を必死で耐えていたのだ。6人でしのげなければ、彼のサムズアップに顔向けできないだろう。
護国とクルルの支援を受けつつ、剣や拳が死したる巨漢の体を削り取っていく。
敵を覆う氷もケルベロスの攻撃とともに戦いの熱を奪っているようだった。
だが、崩れ落ちる寸前まで傷つこうと意に介さず狂戦士は斧を振るい続ける。
めぐみは渦巻く風の中に巻き込まれた。
大きな胸が乱暴に揺らされ、服が引きちぎられる。だが、倒れるわけにはいかない。
「そう簡単にスリーカウントを取られるわけにはいきません。なぜってそうね日頃から鍛えているから」
ここはリングの上でなく、相手はレスラーではない。逆転劇などあってはならない。
傷だらけの敵に止めを刺すべくケルベロスたちが攻撃する。
アシェリーの剣がさらに深く傷口を切り開いた。
「――この身を焦すは豪の焔――彼の身を貫くは紅蓮の刃――地球の核から溢れて轟け――逃げ場なき焔の地獄――燃やし尽くせ――ッ!」
高めた零の魔力が、溶岩へと変わる。
それは赤く燃える竜巻と化して、死体を焼いた。
竜巻の中に突き入れた馨の指先が敵を貫く。
「あなたはここまでよく闘いましたわ。でも、もうおしまいです。これが私のフィニッシュホールド。さあ、安らかにお眠りなさい」
なおも斧を振り上げようとするフレードリクへと高らかにめぐみは宣言した。
戦いの余波で崩れた地面を、一直線に駆け抜ける。
地を蹴ると同時に上半身を大きく反らす。
エビ反りに近いフォームで跳ね上がった膝がエインヘリアルの厚い胸板を打ち砕く。
「グ……ガ……」
うめき声を上げて……そして、狂戦士は斧を振り上げたまま動かなくなった。
零がフレードリクへと近づいていく。
「……いい戦いだったよ、お疲れ様」
手を差し伸べると、青年の体から死者の呪詛、絶望の塊たる粘着質の炎が動き出し、敵へと近づいていく。
その死体もまた、炎のうちへと取り込もうとしているようだった。
本当に取り込まれたのか、それとも単に消滅しただけか……フレードリクの姿は、炎の中へと消え去っていった。
「どうやら、勝ったようだね……。今度こそ倒れずに勝ちたかったけど……いや、こんな言葉は勝利の場面には似合わないな」
実里が壁に手をついて、半身を起こしていた。
「無理はしないでください、河内原様。建物を治したら、すぐに手当てしますわ」
「クルルさんが回復してくれていたから、そんなにひどい怪我じゃないよ。まだ体はろくに動かせないけどね……」
けれども、親指を立てるくらいのことはできる。
痛みをこらえて笑顔を見せ、実里は勝利した仲間たちへとサムズアップを贈った。
作者:青葉桂都 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年5月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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