仄暗い土の底から

作者:長針

 深夜の市街地の公園に、その五人は集まっていた。
「はあ……今日も地道に土いじりなんてね。たまには狩りがしたいわ」
 そう言って溜め息をついたのは紅一点のスターローズだった。
「まあまあ、今回の任務であるオーズの種の回収だって重要なんだから」
 そうスターブルーがなだめたもののスターローズは口を尖らせるばかりだった。そんな彼女に対してスターノワールが鼻を鳴らす。
「文句を言っても仕方あるまい。せいぜいケルベロスどもが俺たちを見つけてくれることを祈るんだな」
「わかってるわよ、そんなこと。あ、これじゃない?」
 言いながら地面を掘り返していたスターローズが皆へと視線を向ける。
「うむ、間違いない。それでは始めよう。皆、用意はいいか?」
 種を確認したスタールージュの言葉に各員が頷くと、それぞれの鎧が輝き出した。放たれた光は奔流となり、スタージョーヌが持っていたバズーカの中へと吸い込まれる。
「そんじゃま、いっちょ派手にいきまっせ。ポチっ、とな」
 スタージョーヌの言葉とともにバズーカから光が噴き出し、
 地面から植物の芽がぬらりと顔を出した。

「みんな、大変なのです! なんか変なエインヘリアルたちがかすみがうら市から飛び散ったオーズの種を使ってとっても悪いことをするみたいですよ!」
 一同が到着するやいなや、ねむがわたわたと手足をばたつかせながら皆の元へと駆け寄ってきた。
「このエインヘリアルたちは五人組で、よくわからない方法でオーズの種を見つけだして芽を出させて回ってるようなのです! このエインヘリアルはオーズの種を取るとどっかにいっちゃうのですが、芽を出したおっきな功性植物は種がなくなったぶん、周りのヒトからグラビティ・チェインを補給しようとして襲いかかるようなのです!」 
 駆け寄ってきた勢いそのままにねむが説明を始める。
「やっつけて欲しいのはこっちの功性植物一体で、どうもおっきなフジみたいな形をしてるみたいです。作戦はエインヘリアルたちがいなくなってからが開始して下さいです! この功性植物はオーズの種から芽を出しただけあってとっても強い力を持ってるのですが、大事な種を取られちゃっていてちょっとボロボロ状態なのです! でも、攻撃力は変わってないので割と本気で気をつけてくださいです! あ、あと間違っても、周りの人たちを取り込まれないようにして下さいです! グラビティ・チェインを補給されちゃうともう手がつけられなくなっちゃうのです!」
 言いながらねむは大きく両手でバツ印を作り、一同へと注意を促す。
「それで相手の攻撃方法ですが、ハエトリグサみたいにこっちをぱっくんしてくる、つるを伸ばしてぎゅーっと巻き付いてくる、地面に身体を潜り込ませてぶわっとこっちを飲み込んでくるの三つのグラビティを使ってくるみたいです! ただ、一度だけ花を咲かせるときがあって、その直後は攻撃がと~っても激しくなるのでしばらくは防御と回復に徹してくださいです!」
 そこまで話してからねむが一息つき、額の汗を拭う。
「あ、それとエインヘリアルたちには絶対手を出しちゃだめなのですよ! いくらみんなでも五体のエインヘリアルを相手にするには厳しいです! 色々と気をつけないといけないことがいっぱいあるですが、みんなならきっと大丈夫です! それじゃあ、がんばってくださいです!」 
 そう言ってねむは大きく手を振り、皆の後ろ姿を見送った。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)
アルヴァ・シャムス(逃げ水・e00803)
レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)
ヒルメル・ビョルク(夢見し楽土にて・e14096)
クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)

■リプレイ

●萌芽
「おっと、やっこさんたち動き出したみたいだ」
 闇を見通す狼の瞳で望遠鏡を覗いていたレイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)の軽妙な言葉に皆が振り向く。その視線の先、公園の藤棚の下で五つの人影が蠢いていた。
「ぐぬぬぬ……こうして目の前で悪行が為されておるというのに彼奴らに正義の鉄槌を下すことができんとは」
 一連の様子を見ながら悔しげに歯噛みしたのはアデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)だ。そんな彼女の肩にぽんと手が置かれる。
「同感だが……今は対応出来ん。せいぜいヤツらの企みを潰して憂さを晴らさせてもらおう」
 厳しげに眉根を寄せるクオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)の言葉に、アデレードはひとまず納得したようだった。だが、それでも、
「まったく、妾たちはいつも耐えてばかりじゃな。そんな古式ゆかしい女になった覚えはないのじゃがな」
 と、不満をこぼさずにはいられなかった。その台詞に一同は思わず苦笑する。そこへ、滴を垂らすようにぽつりとした呟きが落とされた。
「芽が……出る」
 フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)がそう言って葉牡丹の髪飾りに触れる。するとその髪飾りはしゅるりと茎を伸ばし彼女の右手へと巻き付いた。
「葉っさん……震えている……怖いの……?」
 手にした葉牡丹の功性植物を気遣わしげに見つめた後、フローライトは感情に乏しい瞳を公園の中心へと向けた。そこにはすでに巨大な植物の芽が顔を出し、人影が手を伸ばしているところだった。
「おっ、そろそろってところじゃん。アリスちゃん、勇名ちゃん、周りの様子はどんな感じ?」
 場違いなほど気楽な調子でそう告げたのはアルヴァ・シャムス(逃げ水・e00803)だ。彼のそんな気安い言葉に先に応じたのは鈴が鳴るように澄んだ声だった。
「はい、アルヴァさん。こっちの方には誰もいませんでした」
 金髪の姫カットに、青と白を基調としたロリータルックという、不思議の国から迷い出てきたようなアリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)が手を挙げながら言った。
「こっちも……いない。大丈夫。人払い、は?」
 アリスとは対照的に朴訥な口調で報告したのは伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)だ。勇名が無機的な視線を向けた先にはいかにも執事然とした壮年男性ーーヒルメル・ビョルク(夢見し楽土にて・e14096)が立っていた。
「すでに済ませております。手抜かりはありません」
 恭しく頭を下げつつ、どこか自負のようなものを滲ませながらヒルメルが告げる。
「準備は済んだ。あいつらも……いなくなった。よっし、いっちょやってやるぜ」
 望遠鏡を覗き込んでいたレイがエインヘリアルたちがいなくなったのを確認し、獰猛なうなり声を上げる。
 その声が合図となり、一同は一斉に巨大に生育した功性植物に向かって殺到した。

●蔓延
「ーー!」
 一同が接近するやいなや、巨身の功性植物は無数の蔦を激しく振り乱し、肥大化させた根で地面を割り砕いた。
「ぐ……!」
「おわっ!?」 
「くっ!!」
 手痛い迎撃に一同が押し返される。更に功性植物は攻撃の手をゆるめることなく貪欲に蔦と根を押し広げていく。そんな蔦と根の乱舞に勇名が敢然と立ち向かい、照準を合わせた。
「これいじょう、すすませない」
「!!」
 長い砲身から放たれた光弾は蔦の一部を吹き飛ばし、その勢いを弱める。しかし、功性植物はなおも進撃を止めようとはせず捕食形態に変化させた葉を後方にいたアリスへと触手のように伸ばした。
「おっと、女の子たちには手出しさせねえぜ」 
「!?」
 レイが目にも留まらぬ早さで銃を抜き放ち、正確に捕食形態に変化した葉を打ち抜いた。
「ありがとうございます、レイさん」
「気にするな。それより嬢ちゃんのとっておき、こいつらにも見せてやれ」
 礼を言うアリスにレイがニヒルな笑みを浮かべる。そんな彼の言葉にアリスは頷き、腰のポーチに手を伸ばした。するとどこからともなく不可思議な声が響き、燦然とした輝きが周囲を包んだ。その太陽の光を思わせる輝きに照らされた場所から次々と芽が吹き出し、虹色の花が咲き誇るように広がっていく。
 「はい! 紡ぎます……女神の歌声……! ♪Flowery Princess Vanadialice♪―ー♪Princess Live♪――私も歌います…元気を出して…!」
 光溢れる虹色の花園の中心でアリスが一輪の花をマイクのように握り、きらめきを抱き留めるように大きく手を広げ、澄んだ歌声を響かせた。瞬間、あらゆる傷は癒され、柔らかな光で辺りが満たされる。
「ーー!」
 功性植物は対抗意識を燃やすように蔦を伸ばし、アリスを絡め取ろうとした。しかし、
「フローラ……みんなを護る……それがお父様の望みだから……」
 フローライトがロッドから信号を発し、無数のドローンを展開、蔦の勢いを減衰させた。同時、遅滞する蔦をかい潜り、二人のヴァルキュリアが飛翔する。
「そこまでじゃ、エインヘリアルどもの悪事の残滓め! 貴様もエインヘリアルの企みも妾の正義の炎にて纏めて灰塵としてやる! 覚悟するのじゃ!」
「その枝葉が災いをなす前に、根ごと焼き尽くしてくれる!」
 二対の光り輝く翼が絡み合うような軌跡を引き、功性植物と交錯した。
「ーー!?」
 流星のような蹴りと燃えさかる槍が同時に突き刺さり、功性植物の身体が縫い止められ、炎上した。
 功性植物は苦痛に身体を悶えさえ、動きを鈍らせる。その隙を逃す手はなかった。
「それでは、刈らせていただきましょう……その姿、そちらとしても不本意かと存じますゆえ。もっとも、私は束ねるだけございますが」
「!!」
 慇懃な態度を崩さず、ヒルメルが手にした鎖で無茶苦茶に振り回された蔦を整然と絡め取る。精妙な技巧によって束ねられた蔦は大きな隙間を作り、その根本を無防備に曝した。そこへ刀を携えたアルヴァが飛び込む。
「鬱陶しいぜ、その蔦! まるでほったらかして伸ばしすぎた髪みてえじゃん!」
 高速で振るわれたアルヴァの刃は斬撃の結界を形成し、触れるそばから次々と蔦の群を切り飛ばしていく。
「ーー!」
「はっ! これでちったあ芸術的になったじゃん。俺様に感謝しろよ!」
 赤ら顔に得意げな笑みを浮かべ、アルヴァが勝ち誇る。
「…………」
 多くの蔦をずたずたに切り裂かれ、ボロボロになった功性植物はしばし何かを警戒するように動きを止めた。そして、気づく。目の前にいるモノたちが単なる捕食対象ではなく、明確な脅威となりうる存在であることに。そのことを悟った功性植物は広げていた蔦を自身へと引き戻し、巨大な木のように寄り合わせた。

●芳香
 一同と巨身の功性植物の攻防は、しばし一進一退の状況が続いていた、
「っ……こうげき、通さない」
 鋭く鞭のようにしならされた蔦は後方にいたフローライトに襲いかかったが、その直前で果敢に飛び込んだ勇名に防がれる。
「ありがとう、大丈夫?」
 磨り硝子のような光彩の乏しい瞳で勇名を見つめながら、フローライトは人差し指から癒しの光を放ち、熱切開と縫合による治療を施した。
「うん。そっちこそ、ありがとう」
「うん、どういたしまして」
 互いに無表情でありながらどこか通じてるように二人が頷きあう。
「ーー!」
 巨身の功性植物が再び蔦を振りかざし、別の獲物へとその触手を伸ばす。その攻撃にレイがすかさず相棒に呼びかける。
「ファントム、攻撃を防げ!」
「ーー!!」
 主の呼び声に反応したライドキャリバーが地面を激しく擦らせながら、蔦の一撃を防ぐ。しかし、功性植物はすぐさま蔦を引き戻し、攻撃の隙を最小限に止めた。その動きにレイがうなり声を上げながら舌打ちする。
「ちっ、脳味噌もねえ生きモンのくせに小賢しいな」 
「まったくだぜ。いっそひと思いに切り倒せりゃなあ」
 同意しつつ、割と重大なことを気楽に言い放つアルヴァ。そんな彼をアリスが難しげに眉根を寄せながら見上げる。
「そういうわけにもいかないです。あれが豆の木さんで、巨人さんが降りてこようとしている真っ最中ならそうしたほうがいいかもしれないですけど」
「なるほど、言い得て妙じゃの。もっとも、木の上に五人もいた大物はとっくにいなくなっておるがのう」
 たとえを引き継いだアデレードがしげしげと巨身の功性植物を眺める。
 功性植物の蔦の多くは切り落とされ、すでに満身創痍と言ってもいい状態である。それでも一同が攻勢をかけられないのには理由があった。
「しかし、この甘い香り……いったいいつまで続くんだ?」
 注意深く功性植物を観察しながらクオンが呟く。彼女の言うとおり、先程からむせかえるほどの甘い匂いが漂っているのだ。
「ふむ、藤の花の香りですな。段々と匂いが強くなって参りました。そろそろかもしれません」
 鋭敏な嗅覚によって香りの変化を感じ取ったヒルメルが慇懃な態度を崩さず目を細める。
「……咲きます!」
 アリスの叫びとともに功性植物の身体から淡紫色の花が一斉に開き始めた。更にそれまで単純に寄り合わされていただけの蔦が複雑に絡み合い、一つの形へと収斂していく。
「……獣?」
 感情の乏しい瞳を僅かに揺らしながら勇名が呟く。
 そびえ立つ長大な緑色の身体に、傷跡のように藤の花を咲かせた『それ』はまさしく蔦の巨獣と呼ぶに相応しい姿をしていた。

●徒花
 巨獣へと姿を変えた功性植物は正に手負いの獣のように執拗に攻撃を繰り出してきた。
「……キケン、いっぱいまもる……っ!」
 巨獣が振りかざした『脚』を正面から勇名が受け止める。絡め取ると言うより殴殺するような一撃に小さな身体が大きく揺さぶられた。
 更に巨獣は口を大きく開き、捕食形態へと変形した大量の葉を放出する。そこへ二つの影が躍り出た。
「おっと……通さねぇよクソ野郎!」
「くっ、なんて威力だ……」
 牙を剥き出しにした無数の葉に身を曝し、アルヴァとクオンが攻撃を防ぐ。だが巨獣は自身へと立ちはだかる者をしとめるため、今度は遠吠えするかのように天へと口を突きだした。瞬間、巨大化した根が地面をめくり上げ、津波のように一同を飲み込もうとした。
「下がれ、二人とも! 次は俺たちが引き受ける! 行くぞ、ファントム、アデレード」
「正義のために我が身を盾となす。それも一興じゃ!」
 アルヴァとクオンと入れ替わるように前に出たレイとファントム、アデレード。その二人と一体は襲いかかる根の群れを一手に引き受け、味方の被害を最小に止めた。
 そうして防御役を入れ替え、治癒を施し、一同は巨獣の猛攻を何とか耐えしのいでいた。そしてーー
「花が……!」
 その変化に一同が一斉に口を開く。巨獣の身体に傷跡のように咲いた藤の花の一房が血を流すようにはらりと散っていったのだ。それを皮切りに、他の花も散り始め、崩れるように巨獣の輪郭を失っていく。
「葉っさん……みんなに、温かい陽の力をーー『光合成形態』」
 花が全て散ったのを確認したフローライトは、即座に右手に巻き付けた葉っさんを高くかざし、蓄えられた太陽の光で皆を照らす。温かな陽光の力は皆の傷を癒し、再び戦う力を与える。
「それでは僭越ながら私めから行かせてもらいましょう」
 襟を整えながら悠然と前へ出たのはヒルメルだった。彼は崩れた身体の功性植物に一礼をし、告げる。 
「花に香りをかがせるというのもおかしな話ですが、異形の花には似つかわしいかもしれませんーーしばし、こちらの香りにてお寛ぎください」
「ーー!?」
 ヒルメルが告げると同時、功性植物の身体が痙攣を始める。異常に戸惑う暇を与えず、すでに一同は動き出していた。
「その不浄なる身、妾の炎で焼き尽くしてくれる!」
「!!」
 アデレードが光の翼を広げ、燃え盛る大鎌で功性植物を大きく切り裂く。瞬間、炎は燃え広がり、功性植物は反射的に延焼を押さえるために火がついた部分を切り離した。その今までにない反応に一同は顔を見合わせ、頷きあう。
「貴様の存在は、この地には合わない」
 すっと目を細めたクオンが槍を功性植物へと構え、その三叉の穂先が淡く発光を始める。
「……!」
 クオンが突進を開始すると同時、功性植物は残った蔦を中心部にかき集め、攻撃を阻もうとする。結果、槍は蔦の塊に半ばほど突き刺さり、勢いを止めたかに見えた。しかし、発光は収まらず、逆に全体に行き渡り、
「故に! 貴様に相応しい地、シュオルの地にてその身を存分に咲かせて来い!」
「!!」 
 叫びとともに槍から放たれた浄化の光が、蔦の塊を内部から跡形もなく焼き尽くす。その強烈な光の余波は、功性植物の外郭部まで吹き飛ばし、その下にあった空洞ーー種があったと思われる根と茎の接合部を曝した。功性植物はすかさずその部分を隠そうとしたが、
「随分好き勝手してくれたな。守りに徹するのもここまでだ。こっからはこっちが攻撃する番だぜ!」
「もう花は散ったんだ。潔く枯れ果ててろ!」
 すでにアルヴァとレイが隙を与えることなく肉薄していた。間に合わないと判断した功性植物は残った根で二人を迎え撃とうとする。しかし、
「ぼくが、まもる」
「させないです!」
 勇名が放った光弾とアリスが展開した光の盾により、根は完全に勢いを失った。
「ヒュー、ナイスだぜ。お二人さん!」
「恩に着るぜ、嬢ちゃんたち!」
 二人に礼を言いながら、アルヴァとレイはそれぞれの得物に手をかけ、同じタイミングで抜きはなった。そして、
「示現神通ーー一の太刀を疑わず!」
「これが魔弾魔狼のとっておきだーー全てを撃ち貫け!! グングニルッ!!!」
「ーーーーーー!!」
 魂そのものを斬り伏せる神速の居合いと超高密度エネルギーのゼロ距離射撃によって放たれた光の槍が、功性植物の中心を跡形もなく吹き飛ばした。
「終わり、ですな」
 もはやぴくりとも動かなくなった植物の残骸を見下ろし、ヒルメルが呟く。その言葉に一同は安堵したように一息ついた。そんな中、フローライトが一人功性植物の中心部があった場所へ駆け寄る。
「……葉っさん、おねがい」
 フローライトは相棒に頼み、功性植物の残骸を癒しの光で照らした。その意図を察したヒルメルが彼女の隣に並ぶ。
「せめて苦痛がないように、でございますか」
「うん……無理矢理目覚めさせられて……種子も盗られて……あまり先が長くない事を……自覚している……それでも、生きたい……そう、叫んでる様に……フローラは……感じた。だから、せめて……安らかなる……見果てぬ夢を、って思って……」
 訥々と語りながらフローライトは功性植物の残骸に光を当て続ける。皆は何も言わず彼女の行いを見守っていた。
 そうして一同は望まれぬ花の最期を看取った。

作者:長針 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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