止めろ火竜、守れ人々を

作者:かのみち一斗

「緊急連絡です!」
 ヘリオライダー、セリカ・リュミエールの澄んだ声が場を貫いた。
 その場にいる者が落ち着くのを待つかのように、一度深呼吸するとケルベロスたちに向かい合った。
「デウスエクスの大軍勢が鎌倉に出現しました。その圧倒的な勢力に鎌倉周辺は即座に彼らの手に落ちてしまいます」
 ケルベロスたちの息を呑む気配に、セリカ自身もそれを納得させようと胸に手をあてたまま、はっきりと告げる。
「このままでは鎌倉を完全制圧したデウスエクスたちが日本全土を蹂躙してしまうかもしれません」
 この大侵攻にケルベロスたちは立ち向かわなければならないのだ。

「これに呼応したのか、各地で封印されていたドラゴンたちの封印が解けてしまうようなのです」
 先日のドラゴンの出現はこれの前兆だったのだろう、とセリカは以前の事件で現れたドラゴンたちの資料を広げていく。
「前兆として出現したドラゴンたちの撃破に成功したのは幸いでした。今回、新たに封印を解かれたドラゴンの数は決して多くありません」
 今回のドラゴンもまた封印が解けたばかりであり先日の事件と同様、グラビティ・チェインの枯渇により空も飛べず、弱体化しているようだ。
「この点も先日と共通します。これらが何を意味しているかは全くわかりませんが、確実に言えることは」
 街を破壊し、人を殺戮することでグラビティ・チェインを奪うこと。
 グラビティ・チェインを集め次第、鎌倉を目指すであろうこと。そして。
 ──それを許す訳にはいかない、ということなのだ。
 
「ドラゴンは山梨県甲府市の市街地に出現し、そのまま中心部を目指すようです」
 広げた甲府市の地図上にドラゴンの進行方向を指し示しながらセリカが話し続ける。
「大きさは10m程。溶岩のように熱を放つ真紅の鱗に覆われた体表と、筋肉質の尾、やはり真紅の翼に鉤爪を持っています」
「特に気をつけて欲しいのは、炎のブレス攻撃でしょう。とは言え、その巨大な体から繰り出される爪や尻尾の一撃も十分恐ろしいものです……これでグラビティ・チェインが枯渇しているというのですから……。万が一にもグラビティ・チェインを与え鎌倉に行かせる訳にはいきません」
 写真に写る破壊されたビルや建物を見ながらセリカが鋭く言い切った。
「ドラゴンは目に付いたモノを選ばずに襲いかかってきます。また、先の戦訓から、進行方向にあるビルなどの高い建築物を利用すれば、例え建築物が破壊されてもドラゴンの頭上を狙ったり背の上に飛び移ることは可能です。そこから一撃を狙うのも有効だと思われます」
 建物の破壊は問題にはならない。ヒールが有効だからであり、気にせず全力を尽くして戦って良いだろう。
「ですが、人の命は取り返しがつきません。市民には避難勧告を出す必要があります。県警も協力してくれるでしょう」
 勿論、ドラゴンを倒してもゆっくりはできない。ケルベロスたちが真に戦う相手が迫っているのだ。
「この作戦が終わり次第、ヘリオンで鎌倉に向かうことになります。鎌倉の戦いには十分間に合うはずですので、安心してください」
 そこまで話したセリカ。その瞳は先ほどまでの厳しさから柔らかさへと。そうして、ケルベロスたちひとりひとりを見つめながら、
「皆さんなら、今度もきっと成し遂げて頂けると、信じています」
 ケルベロスたちに微笑みかけるのだった。


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)
ガルディアン・ガーラウル(ドラゴンガンマン・e00800)
玉城・キオ(法の守護者・e00992)
三神・カズト(目覚めた竜人・e01148)
時神・綾(オラトリオの姫神兼覚醒天魔・e06275)
セレナ・スフィード(古の英雄・e11574)

■リプレイ

●襲来、誘導
「──人々よ、よく聞いて欲しい。我々はケルベロスじゃ! ドラゴンが襲うとの予知が出た、すぐそこから避難するのじゃ!──」
 時神・綾(オラトリオの姫神兼覚醒天魔・e06275)の声がスピーカー越しに響き渡る。
 続いて避難方法の指示が続き、顔を見合わせる人々。だが、走る県警のパトカーからも避難を促す放送に慌てて頷き合うと、駆け出していく。
 無人となった市街地の外れ。
 突然、熱風が辺りを吹き荒れ、数件の家屋が燃え上がる。
 炎の向こう側からの咆哮──ドラゴンが現れたのだ。
 待ち構えていたかのように離れた家屋の影から、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)が飛びバイオレンスギターをかき鳴らした。
「お鬼さんこちら、手の鳴る方へ、デース!」
 小柄なドラゴニアンの少女が少しだけ離れるように飛び、再びドラゴンの方へと振り返った。流れる黄金のポニーテールが熱波に揺れる。
 ドラゴンの首がぐりんと動き、爬虫類の目がシィカを見つけた。そのまま地響きを立てて追い始める。
(「かかったネ!」)
 シィカに笑顔が浮かぶが、すぐに表情を引き締めると、市の中心部に向かって飛ぶ。
 突然、追ってきたドラゴンの口元に炎が溢れた。次の瞬間、轟音と共に灼熱のブレスが放たれる。
「こっちよ!」
 飛翔しているシィカの下方、待機していたセレナ・スフィード(古の英雄・e11574)が翼を広げ飛びあがりざま、シィカの腕を取って引き込み家屋と己の体で庇った。
 短めの金髪が熱波に炙られ、碧眼がドラゴンを睨むその姿に全くの気負いは無い。セレナは予め地図で現場の地理を把握し、誘導ルートを想定していた。そうしてシィカから引き継ぐタイミングを計っていたのだ。
「ありがとうネ!」
 礼を言いながら癒しを与えるシィカに、セレナは目だけで頷くと、ブレスで大きく開いた空き地越しに火竜の眼前へと飛び出した。
 引き継いでドラゴンを誘導しながら家屋と低めのビルを縫うように飛ぶ。

 一方、市中心部。
「ほれ、走れ走れ! 振り返んな! 死にてぇのか!」
 アリア・ウルストンクラフト(鴉龍・e05672)が空を飛びながらあげる声が街路に響き渡った。細身な彼女に大きすぎる程のバスターライフルを担ぎ周囲を急き立てる。
 言われた人々、最初は戸惑うような表情を浮かべるも、放送とケルベロスたちのコート姿に得心したのか、整然と避難していく。
「ドラゴンの出現地点側の避難は問題なし、であるよ!」
 ガルディアン・ガーラウル(ドラゴンガンマン・e00800)が降り立つ。出現地点に向かって作成した手配書を避難誘導を行う警察車両へ渡し、協力していたのだ。
 さらに別方向から戻った玉城・キオ(法の守護者・e00992)が周囲へと呼びかける。
「近辺の避難は大丈夫みたい、そろそろ配置に」
 確認を行っていた制服警官たちにも急いで避難するように伝える。別れ際に巡査らしい若者から「お気をつけて」と敬礼を受けたキオが無帽のまま思わず答礼を返しそうになって苦笑を浮かべた。代わりに笑顔で礼を言うと仲間たちと合流し、アリアが抱えて飛ぶ。
 ケルベロスたちが決戦の舞台に選んだ市役所庁舎は三層の平たい箱に、十層の一回り小さな高い箱を組み合わせた形になっていた。その低い側の太陽電池パネルが設置された屋上へとアリアとキオが降り立つ。
 高い側の建物には綾が放送を繰り返す設定にして近くの窓へと配置につくのが見える。
(「私が出撃することなくどこかの勇者が倒してくれれば良かったのじゃがの」)
「……そうもいかぬか」
 ため息一つついて綾がひとりごちる。
 道路を挟んで反対側のビル上にガルディアンが着地し、室外機に身を隠しながら備える。
 そして、高い側の建物の屋上では吹きすさぶ風がケルベロスコートをはためかす中、
「カカッ、あれだけのデカブツ相手じゃと腕が鳴るのう!」
 ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)がすでに姿も見えはじめたドラゴンへと、片足で身を乗り出すようにして眺めながら言い放つ。
 傍らの三神・カズト(目覚めた竜人・e01148)もまた、ドラゴンから目をそらすことが出来ずにいた。
 偉丈夫とも言える若者の背にはドラゴニアンの翼。収まりの悪い黒髪からは二本の角。
(「……なぁ、竜よ。お前と戦えば……倒せば、何かが見えてくるのか?」)
 小さな問い。
 鉄塊剣『二の太刀要らず』を握る手に知らず力が篭った。

 ドルフィンが合図し、頷いて全身に地獄の炎を纏ったカズトが翼を広げ空中へ身を翻す。

●奇襲、炎熱
 誘導を終えたセレナが着地し、焦げたコートもそのままに追いかけっこは終わりだとばかりに振り返る。
「盾となり、我らを守護せよ!」
 短い詠唱と共に宿る龍の力を解放し、龍鱗状の魔法障壁を展開する。
 低層の雑居ビルを轟音を上げて吹き飛ばしながら路地を抜けたドラゴンが眼前に現れた。周囲の気温が灼熱へと変わる。アスファルトも一歩ごとに融解し、ただの人間では近づくことさえ出来ないだろう。
 セレナを血祭りにあげようと、ドラゴンが一歩、進む。

 次の瞬間──沢山のことが一度に起こった。

 綾が歌うような精霊語の詠唱を解き放つ。
「氷の精霊よ、我が導きに従うのじゃ! 凍てつく吹雪と化せ!」
 現れた氷河期の精霊がビルの窓ごと砕きながらドラゴンへと突き進む。砕けたガラスと熱風が即座に吹雪と化してドラゴンへ襲い掛かった。せめぎあう熱波と冷気が一瞬にして霧と化し、その効果以上にドラゴンが苛立たしげな唸り声をあげる。
 室外機の傍らに並び立つシィカとガルディアンがドラゴンへと高らかに叫んだ。
「『神裏切りし十三竜騎(ノブレス・トレーズ)』が一人、病喰いの『白金の竜騎』に連なるドラゴニアン! シィカ・セィカデス! ロックにキメてくデスよー!!」
「同じくノブレス・トレーズが一人! 『石竹の竜騎』ガルディアン・ガーラウル参る!」
 シィカがかざした手に魔力を込めてセレナの傷を癒し、ガルディアンが操る力ある言葉──竜語をを短くつぶやくと、眼前に突き出した手から現れた幻影の竜をドラゴンの首へと叩きつける。
 太陽電池パネルの左から飛び出たアリアがバスターライフルを構え、輝きと共に放たれた一条の光線が霧を貫きドラゴンの胸元を抉った。血と共に鱗が千切れ飛ぶ。
 右からキオが体を低くして駆け抜けながら妖精弓を携え小さく詠唱を重ねる、
「──天空の戒め解き放たれし怒れる刃よ、空の下なる我に従え──」
 晴れ渡っていた空が俄かに掻き曇っていく。青き妖精弓に矢を番え、
「──神々の魂すらも打ち砕く、蒼き力よ!」
 天空へと構え引き絞り、その視界の端にドラゴンを認めて、
「天を切り裂く雷の力、耐えられますか?」
 天高く撃ち上げる矢。
 カッ!
 轟音と共に落ちた落雷を纏ったキオの矢がドラゴンの巨大な翼をも貫通し、本体へと突き刺ささった。

 これだけのことが一度に起きたのだ。

 強力な先制の一撃に、ドラゴンが痛みの咆哮を上げる。だが、その殺意に満ちた目がケルベロスの射手たちを射抜くと、大きく息を吸い込んだ。
「ブレスであるな、散るのである!!」
 ガルディアンが叫んだ、ショットガンを構えたまま飛び降りる。頷いたシィカが続く。
 真紅の火炎の奔流がキオが一瞬前まで居た太陽電池パネルを屋根ごと吹き飛ばし燃え上がった。直撃を避けたキオが安堵の息を漏らすが、それはまだ早い。ブレスが掃射するかのように屋根上を薙ぎ払い射手たちを飲み込んでいく。ひとたまりもなくビルの屋上が崩れ落ちていく。
 そのまま綾の窓まで掃射した所で、ドラゴンが初めて気づいた。足元を見下ろす。
 先ほどまで自分を翻弄していた小さき者が、生意気にも火竜たる自分に炎のブレスで攻撃していることに。
「さぁ、ブレス勝負だっ!」
 セレナだ。それは自分へと攻撃を引き付ける為のものだ。結果としてそれは成功した。
 巨大な爪を振りかざし、潰れろとばかりにセレナを襲う。まともに受け止めたその一撃にも光剣は耐えた、だが力には抗しきれずその場に膝を着き、さらに押し込まれた光剣が彼女の肩を僅かに切り裂く。
「く、あっ……」
 食い止めるセレナの表情が苦悶に染め上がる。
 龍鱗の障壁が無ければ、鎧の助けが無ければ、初撃で終わっていたかもしれない。
 瀬戸際の抵抗。だが、それさえも許さぬとばかりにドラゴンの尾がセレナを襲う。
 第二撃──!
 刹那。直上のドルフィン、カズトが翼を閉じざま、壁を蹴って下方へと加速。
 ドルフィンが着地と同時にバトルガントレットでドラゴンの尾を受け流しざま、火花が散るのも構わずドラゴンへと駆ける。完全に受け流しきると同時に懐に飛び込み、
「ようこそ、死地へ! 歓迎するぞ!」
 戦いへの歓喜のままに巨大な足の筋へ指を突きこみ、ねじり切りざま駆け抜ける。
 足元の痛みに怯んだドラゴン。その頭部へと直上からカズト──。
「食らいやがれぇ!!」 
 裂帛の気合と共に、鉄塊剣を叩き付けた。その一撃はドラゴンの後頭部を抉り片角を叩き折りながら抜けた。連続の衝撃に、ついに苦痛の咆哮と共にドラゴンがたたらを踏む。むき出しとなった道路が大きく亀裂を描き、轟音があがる。
 カズトが勢いのままドラゴンの背を蹴って翼を再度開くや、滑空して破壊されたビルへと着地。そして再びドラゴンへと挑む。

●決着、問い
 戦いはケルベロスたち優位に展開していた。先の戦いの経験が生きたのだろう。
 完全な奇襲をもって放たれた射手たち、そしてカズトの一撃は、決定的な傷をドラゴンにもたらしていた。
 癒しは完全ではなかったが、ドラゴンはそれさえないのだ。
「……っち、……しぶとい奴だ」
 アリアが用意していたガトリングガンへと変え、連射しながら舌打ちをする。
 射手たちの見切らせない攻撃は、確実にドラゴンの生命力を奪い続けていた。綾は見切られた見てとるや、不足する癒しへと切り替える。

 ドラゴンが弱りつつあるのを見て取ったドルフィンが駆ける。巨大な足を踏み台にして躍り上がり、その首へと連撃を叩き込む。怯むと見るや爪の一つに飛びつき両腕と自身の尾とで関節を決め、締め上げる。
 痛みに震えるドラゴンがもう片方の腕で叩き落そう振り上げた瞬間、唸りをあげて飛ぶ収束したショットガンの弾丸がその爪を吹き飛ばした。
 ガルディアンが構えたショットガンから薄く煙がたなびく──ガルド流散弾術『集』。
 ついにドルフィンが締め上げていた爪が怖気を発する音を立てて折れた。
 トドメとばかりに鉄塊剣を上段にカズトが跳ぶ。だが、繰り返された動きは見切られていた。大振りの一撃を首を振って避ける。
 その避けた先。
 キオが読みきっていたように立つ──さらに背から取り出した赤き妖精弓をX字に組みあわせている。『トリニティ・クロス』の真の姿──漆黒の矢を引き絞り、
「覚えておきなさい。『ガルド流殲闘術』──それが、あなたを倒す流派の名前です」
 解き放つ。刹那の間も空けずドラゴンの右目に突き刺さった。
 絶叫と共にドラゴンがよろめき、轟音を立てて雑居ビルを崩しながら倒れ込む。

 それでも尚、終わってはいなかった。
 強靭なドラゴンの意思が傷だらけの体に鞭打ち、ゆっくりと、だが確実に立ち上がろうとする。
 竜は己が滅ぼされようとしていることを悟った。その体に戦う力がもはや無いことも。
 炎の息を吐こうにも、この小さきモノたち──いや、恐るべき戦士だったのだ、彼らは──それを許さないだろう。
 だが、追撃は無かった。
 奇妙な静寂に訝しげに首だけをもたげ、ドラゴンはケルベロスたちを見やる。
 己に向かって声を上げる姿を。

 セレナが朗々と語りかけた。
「火竜よ、私達の声を聞け。お前は今、別の生き方、道を選ぶ事が出来る」
「死ぬのと、新しい場所。どちらを選ぶ?」
 アリアがその言葉を継ぐ。

 ドラゴンの爬虫類の瞳が細まり、その眼差しがケルベロスたちを順番に巡る。己を追い詰めた者たちを目に焼き付けるかのように。
 そうしてセレナと、それを自らの体で守って見せると構える綾、最後にアリアの視線と絡み合う。
 ややあって。
 ドラゴンの口から巨大な牙が覗いた。それは笑っていたのか。
「そこが、キミの居場所なんだね……」
 アリアの寂しげな呟きと、
「カカッ、それでこそドラゴンよ! ならば屍となるがよい!」
 ドルフィンの、初めから知っていたと言わんばかりの歓声。
 ドラゴンが飛翔叶わぬ翼を広げ、天へ咆哮をあげる──遠き己の主へと向かってか。
 次の瞬間。
 その口元に綾のオラトリオの重力弾が。同時にキオの矢が、ガルディアンの弾丸が突き刺さり、アリアのガトリングが肉を抉る。
 高く遠い断末魔の吼え声が長く響き渡り、やがて細くなり、消えた。
 崩れ──落ちる。

 それが、火竜の最後であった。

●終わり、始まり
 アリアが火竜の亡骸に僅かの間頭を垂れ、そうして仲間たちを振り返った。
 周囲を見回して笑顔で肩を竦める。
「あっはっはー、派手に壊れたもんだね」
「笑ってる場合じゃありません。手伝ってください!」
 警察官として見過ごせない、とばかりに生真面目な調子で言うキオが祝福の矢を次々と放ち、建物を癒していく。
 手伝うガルディアンも癒しを与えるが、
「いささか、前衛的に修理してしまうかもしれんであるがな!」
 陽気な笑い声。
 かくてクリスタルと大理石、太陽電池モザイクといった風情になる市庁舎の一角。
 シィカが勝利の祝福とばかりに一曲披露しはじめる横で、呆然としている市職員たち。
 セレナが珍しく困り顔で、
「大丈夫……なのか?」
 傍らの綾がくすくすと笑う。
 キオが胸を張って答えた。
「大丈夫です!」
(「……多分」)
 心の中だけで呟いたのは秘密なのである。

 そして。
 カズトはドルフィンと二人、火竜の亡骸の傍らに立っていた。
「あの時、コイツはもう戦えなかった。足掻くことさえしなかった。どうして、コイツは……」
 カズトが小さく呟く。
 ドルフィンが少し考え、僅かに首を振って答えた。
「わしにも解らんよ。だが、そうじゃな……竜の誇りという奴だったのかものう」
 カズトは答えなかった。代わりに真っ直ぐに竜の屍を見つめ続ける。
(「竜の誇り──」)
 自分の思いと共に。

 綾が願っていたケルベロス・ウォーへの人々の応援を求める放送が遠く聞こえた。

 そしてローター音。
 それに気づいたドルフィンが振り返り、歩き始めた。
 知らず笑みが漏れる。
(「楽しみなヤツがまた一人増えたようじゃのう」)

 ローター音がどんどん近づく。
 鎌倉の決戦は近い──。

作者:かのみち一斗 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。