早咲きの紫陽花

作者:陸野蛍

●雨の中の『アルカンシェル』
「もう! なんでこんな日に任務なのよー!」
「そんなに嫌なら、早く終わらせるぞ、スターローズ」
 冷たい雨が降りしきる深夜の公園に現れた5人の戦士。
 その中の紅一点、ピンクの髪の戦士が不満を漏らせばやれやれと言った様子で、黒い鎧の戦士が宥める様に言う。
「スターノワールの言う通りだ。早く見つけてくれないか? スターローズ」
 青の戦士も雨に濡れる眼鏡が不快なのか、不機嫌そうに言う。
「はいはいって言うか、そこだよ、スタールージュ」
「おっ、早いな、スターローズ」
 赤の戦士が褒める様に言うがピンクの戦士は、仏頂面で。
「そう言うのいいから。この雨、鬱陶しくてしょうがないの。早く終わらせて戻ろうよ」
「了解。スタージョーヌ行くぞ!」
 ピンクの戦士に言われ急かされるように赤の戦士が指示すると、戦士達がグラビティ・チェインを高めて一つの輝きとし、黄色の戦士のバズーカに集めていく。
「ほな、いきまっせ―……どっかーん!」
 黄色の戦士が放ったグラビティ・チェインは地中深くに潜り、目的の物の中へと入っていく。
 雨が降りしきる中、緑の茎を伸ばし色鮮やかな花をいくつも付けた、巨大な攻性植物が姿を現した。

●雨の日の依頼
「みんな! アルカンシェルが現れた。すぐに説明始めるぞー!」
 雨に濡れたのか、大淀・雄大(オラトリオのヘリオライダー・en0056)が濡れた髪を掻き上げながら、ケルベロス達を招集する。
「みんなも知っての通り、かすみがうら市から飛び散ったオーズの種の回収を、5人組のエインヘリアルの部隊『アルカンシェル』が行っている。目的は依然として不明だけど、居場所を特定した『オーズの種』にグラビティ・チェインを与えて強制的に発芽させ、その後成長した功性植物から『オーズの種の部分』だけを奪ってその場を去っていく。今の所、『アルカンシェル』には、それ以外の任務は、与えらていないみたいだな」
 発芽した功性植物は、オーズの種の力で7m級の大型攻性植物に育ってしまう。
 オーズの種を奪われることにより、耐久力は落ちるが、失ったオーズの種の力を補う為、グラビティ・チェインを求めて市街地に人々を虐殺しに降りてしまうことが予知されている。
「アルカンシェルに勝負を挑むのはまだ早いかもしれないけど、この攻性植物だけは、野放しに出来ない。オーズの種の力で急成長した強力な個体だけど、確実に撃破してもらいたい」
 人々の虐殺を食い止めなければいけないのは当然だが、もしこの攻性植物が十分なグラビティ・チェインを得てしまえば、手に負えない強力な敵になることも間違いない。
 確実に撃破しなければいけない相手と言えるだろう。
「撃破目標となる攻性植物は、端的に言うと超巨大な紫陽花だ。個体としては一体の功性植物だけど、花部分が広いから、範囲攻撃が得意な個体になる」
 時期としては、まだ紫陽花の季節ではないが、オーズの種と降りしきる雨が早い発芽を促したのかもしれない。
「全長は7mと巨大。オーズの種の影響で攻撃力が上がっているから、十分に気を付けて欲しい。アルカンシェルに奪われるオーズの種の力の分だけHPは下がるから、上手くダメージを与えて倒してくれ」
 凶暴性とそれに見合った攻撃力を持った、餌に飢えた野獣と言ったところだろう。
「『アジサイ』の攻撃手段を説明するぞ。まず、紫陽花の花部分からレーザー状のグラビティを広範囲に放って来る。次に自らのグラビティを空気中に散布して爆発を起こす攻撃。最後に蔓草を伸ばしての薙ぎ払いだな。どれも複数対象を狙える攻撃になってるから注意してくれな」
 複数人対象の攻撃ばかりと言うことは、連続して被弾してしまえば、軽く戦線が崩壊してしまうだろう。
「説明は以上だけど、今回の撃破目標はあくまで攻性植物だからな。アルカンシェルの動きを止めたいのは俺も同じだけど、まだデータが足りなくて時期じゃない。いずれ戦う時はきっと来る。だから今は、今出来ることを……攻性植物の退治をしっかりやって来てほしい。頼むな、みんな!」
 そう力強く言って雄大は、ヘリオンへと駆けていった。


参加者
叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)
皇・絶華(影月・e04491)
鈴木・犬太郎(超人・e05685)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
カナメ・クレッセント(羅狼・e12065)
アクレッサス・リュジー(葉不見花不見・e12802)
獅子鳥・狼猿(世界に笑顔を・e16404)

■リプレイ

●アルカンシェルとオーズの種の謎
 雨降りしきる公園で、8人のケルベロスは息を殺しながら、敵が来るのを物陰で静かに待っていた。
「星霊戦隊アルカンシェル……!!」
 獅子鳥・狼猿(世界に笑顔を・e16404)が、もうすぐ現れるであろう、敵の名前を口にする。
「アルカンシェル……何が目的なのかしら。狼猿さん何か知らないの?」
 螺旋の力を使い、周囲の次元を歪めながら、リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)がアルカンシェルとの因縁が噂されている、狼猿に尋ねる。
「アルカンシェルとの因縁……それはまだ語る時ではない。……でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。……重要な事じゃない」
 そう言われてしまえば、リリーもそれ以上聞きだすことは出来ない。
「……静かに。……現れた様だ」
 叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)が黒髪に雨を滴らせながら呟いて、前方を睨む。
 そこには、色鮮やかな鎧を纏った5人のエインヘリアルが何処からともなく現れていた。
「来たわね。それじゃ時間測ってみるわ。……何かの役に立つかもしれないし、情報は少しでも多い方がいいからね」
 言って、リリーはスマートグラスフォンをタップする。
「今回は攻性植物との戦闘か。なんかデカいらしいな燃えるぜ」
 鈴木・犬太郎(超人・e05685)が、やがて姿を現すであろう敵を思い拳を握る。
「それにしても、オーズの種の影響を受けると7mにも育つのか。オーズの種ってのはすごいな……。だが奴らはそんなもの集めて何をしようとしているんだ……。気になるな」
 犬太郎が、指を顎に当てて考え込む。
「まぁ、考えても分からんな。あいつらに直接、オーズの種を回収する理由とそれを命令する人物について、聞いてみよう」
 そう結論付けて、アルカンシェルの元へと歩み出そうとする犬太郎の腕を、皇・絶華(影月・e04491)が掴む。
「駄目だ。今回は、アルカンシェルに接触しないと皆で決めた。危険すぎる」
 絶華にそう言われてしまえば、犬太郎も頭を掻いてアルカンシェルの動向を見守るしか出来ない。
 勿論、絶華とてアルカンシェルの行動にはいくつもの疑問を持っている。
(「オーズの種……何故アスガルドの連中は之を欲し攻勢植物を利用する……? 奴らは緊張状態ではなかったのか……そうなると種の回収は敵の分析かエインヘリアル側の強化だろうか……」)
 頭をよぎる疑問の答えは出なくとも何かのヒントになればと、アルカンシェルの動きをつぶさに観察する、絶華。
「歯痒い事だが……今は機を待つ!」
 レッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650)が口惜しげに口にする。
 敵が目の前に居るのにもかかわらず見ているだけと言うのは、ケルベロスとして……いや、レッドレークとしても、正直性に合わない。
 だが、勇敢と無謀が違うこともケルベロス達は理解していた。
「元凶を叩きたいところだが、今回は勝機がねぇから我慢だな」
 闇に紛れる気流を操りながら、アクレッサス・リュジー(葉不見花不見・e12802)も眼鏡の奥の瞳を光らせながら言う。
 相棒のボクスドラゴン、はこもアルカンシェルに飛びかかりたくてうずうずして居る様だが、必死に目をギューっと瞑って耐えている。
「……ピンクの鎧の奴が種を見つける能力を持っているようだが。他の4人と何か違う点があるのか?」
 疑問を言葉にするレッドレークだったが、その疑問に答えられる者はいない。
 その時、ケルベロス達の視界の先で、黄色の戦士のバズーカが轟音をたててグラビティ・チェインを放った。
 すると、着弾した箇所から、すぐに緑の柱……いや、巨大な攻性植物が急速に成長し姿を現した。
 攻性植物は7mの高さまで成長すると、体のあちこちに、青や紫の花を咲かせる。
 次の瞬間、青の戦士が恐ろしい早さで動いたかと思うと、手にした獲物で攻性植物の一部を抉り取った。
 着地した、青の戦士の手には、グラビティ・チェインに満ちた『オーズの種』が握られていた。
 他の戦士達がそれを確認すると、もう此処には用は無いとでも言う様に、苦しむ攻性植物に目もくれず、アルカンシェル達は、闇の中へと消えていった。
「……現れてから、1分50秒。攻性植物の成長速度と合わせても手早い仕事ね……」
「オーズの種を持ち去ったか……ここは君たちの勝ちのようだ。また会おうアルカンシェルの諸君!」
 時間報告をするリリーの言葉にかぶせる様に、狼猿が高らかに宣言する。
「……正直会うとフルボッコのような気もするが……」
「諦めるの早!」
 最初の言葉を打ち消すかのように小声で言う狼猿にリリーが思わずツッコミを入れてしまう。
「何はともあれ、攻性植物を止めないとな!」
 そう言うと、犬太郎は二本の日本刀を抜き、攻性植物の元へと駆け出す。
 雨の中の依頼は、ここからが本番だった。

●飢えた紫陽花
「オーズの種、凄まじい力を持ったあれを集めて、何をするつもりなのか……。気になりますが、今は目の前の事に集中しましょう」
 カナメ・クレッセント(羅狼・e12065)が偽骸である右腕にゾディアックソード『蒼の運命』を握り、冷気のグラビティを収束させると、攻性植物……美しく凶暴に花開いた『アジサイ』に向かって駆けると、渾身の力で斬りかかる。
「我が剣を受けてみよ!」
 カナメの斬撃の痕は、攻性植物を一部分だが氷結させる。
(「オーズの種……一度闘った事がありますが、人を異形に変えてしまう力。あんなモノを集めて何を企んでいるのか……いえ、今は目の前の問題を優先しましょう」)
 目の前の敵と戦う意志を改めて決めると、カナメは『紅の運命』を左手に握り二刀の構えをとる。
「以前の吉野の桜に取り憑いたヤツといい、攻性植物にはこの星の季節の情緒というものがわからんらしいな!」
 レッドレークは、尊大に言うと赤錆を纏った鎖にグラビティ・チェインを込め陣を敷く。
「……まあ今回は概ねエインヘリアルの所為だが。飢え苦しむ前に、俺様が眠らせてやるぞ」
 両目を覆うゴーグルは雨に濡れ、レッドレークの瞳を映すことは無いが、言葉……そして、レッドレークが纏うグラビティ・チェインが彼の言葉の覚悟を示していた。
「薙ぎ祓うぞ、ほのか……」
 静かに宗嗣が、血の様な炎のオニヤンマの名を呼ぶと、ほのかは宗嗣の刀『宵星・黒瘴』に同化し、その刃を深紅の炎で覆う。
 宗嗣は、煉獄の炎を纏った刀を振りかざすと跳躍し、逆袈裟の要領で、攻性植物に斬りかかる。
「惨禍燎原……!」
 宗嗣の刀の軌跡は夜闇に紅い残像を残して消える。
「短期決戦……すぐに終わらせる」
 素早く宙を舞った絶華の雷を纏った一撃は、攻性植物の茎に新たな傷を付ける。
 絶華が着地した時だった。
 攻性植物の蔓草が意志を持って横に薙ぎ払われた。
「仲間を傷つけさせるか!」
「オレッち達が盾になるんだ!」
 カナメの前には犬太郎が、宗嗣の前には狼猿が盾となるべく立ち塞がり、蔓草の一撃を受けた。
 浅くない傷を受けた二人だったが、すぐに癒しの雷が二人を癒す。
「バックアップ、きっちりさせてもらうぜ」
 彼岸花を思わせるライトニングロッド『ライトニングロッド改-葉不見-』を構えたアクレッサスが頼もしい言葉を発する。
「はこ、お前さんが協力してくれれば心強い。頼めるな」
 アクレッサスの言葉に応える様にはこは、犬太郎に自らの属性を付与する。
 それを、頼もしく、そして愛おしく見つめるとアクレッサスが仲間達にハッキリ言う。
「お前さんたちの強烈な一撃、期待してるぜ。めいっぱい叩き込んでやってくれ」
「任せるんだな」
 アクレッサスの言葉に答えると、狼猿はその拳に魔を降ろし、強烈な一撃を叩き込む。
「続くぜ! 狼猿!」
 犬太郎の声を聞くと、狼猿はその巨体からは想像できない早さで大地を蹴って道を作る。
「一撃だ、俺のたった一撃を全力で完璧にお前にブチ込む」
 犬太郎は、全身から湧き出る地獄の炎と魔を織り交ぜたグラビティを拳に纏わせると、轟音が響く程の強烈な正拳突きを攻性植物に撃ちつけた。
 だが、ケルベロスの怒涛の攻撃を受けてもなお、飢えた攻性植物の動きは収まらない。
 動き止まぬ蔓草の一本に雷を帯びたゲシュタルトグレイブが深く突き刺さる。
「殺界を形成してたら遅くなっちゃった。ちゃんと戦闘領域は確保しないとね」
 リリーは、言いながらゲシュタルトグレイブを抜くと螺旋手裏剣を手にする。
「さて、さっさと終わらせないと……!」
 言う、リリーの美しいブロンドから雨が滴り落ちた。

●雨の中の勝利
 雨の中、攻性植物からグラビティ反応を感じると、前に居た、狼猿、カナメ、レッドレーク、宗嗣、犬太郎の周りの雨が霧となり瞬時に弾け、5人に一気にダメージを与えた。
「この雨を癒しの雨に……皆できっちり仕事終わらせて、無事に帰るんだ」
 アクレッサスがヒールを飛ばせば、鈍くなりそうだった身体の異常も犬太郎を除いて癒される。その犬太郎にもすぐに、はこが更なる回復を与える。
 戦闘開始から5分が経過していた。
 攻性植物の攻撃は一度に数人を巻き込む攻撃ばかりだったが、ディフェンダーである犬太郎と狼猿がカバーする事でクラッシャーの被弾率を下げていた。
 絶華が残像を作りながらダメージを与えれば、次の瞬間には宗嗣の空をも裂く斬撃が一度に何本もの蔓草を切断していた。
「葬る! 星天十字撃!」
 カナメの二本の星の剣は美しい十字を描いて、攻性植物の花弁を散らす。
 レッドレークの炎の一撃が決まれば、後ろに控えたリリーが螺旋手裏剣を投げ攻性植物の深くに突き刺した。
「まだ、倒れないか!」
 蒼天ノ太刀・逆鱗を斬り上げながら、犬太郎が叫ぶ。
「……これぞ、かつて世界を震撼させたカバ王家の超奥義が一つ!!」
 狼猿は、空高く飛び上がると、空中で回転し態勢を整えるとそのまま真っ直ぐ、攻性植物に頭突きを喰らわせる。
 だが、攻撃の手を止めると、犬太郎と狼猿は、膝を付く。
 アクレッサスの献身的なヒールを受けてもなお、ディフェンダーである二人の負傷は完全に癒されていなかった。
 アクレッサスの脳裏に、これ以上戦闘を長引かせてはならないと言う、危険信号が点滅する。
(「相手の体力的にも頃合いか」)
 アクレッサスは赤黒いブラックスライムにグラビティ・チェインを与えることで、蜘蛛の形に作り変える。
「いい子だ赤蜘蛛。逃がすんじゃないぞ、めいっぱい齧りついてやれ!」
 その命令を忠実に実行する為に赤蜘蛛は、攻性植物にまとわりつくと、グラビティ・チェインを貪るように齧りつく。
「俺の炎で燃やし尽くす……」
 苦しみもがく攻性植物に、宗嗣の炎の刀が深い傷を作る。
「止めの流れを私が作るわ。螺螺螺……螺旋!」
 全身を極限まで捻り、限界まで螺旋の力を溜め込んだリリーが、音速をゆうに三倍は超える速さでその力を攻性植物に向かって解放すると、攻性植物の体内を暴力の渦が襲う。
「その身を贄と捧げろ!」
 赤く染まった攻性植物は、レッドレークの意志の元、アジサイの周りに魔法陣を描く。
「地徳は我が方にあるぞ!」
 レッドレークの言葉を命令として、熊手状の蔓草がアジサイを引き裂いていく。
「……私が先に行く。止めは頼む」
 カナメにそう告げると、絶華は、真言を口にする。
「我が身……唯一つの凶獣なり……四凶門……『窮奇』……開門……! ……ぐ……ガァアアアアアア!!!!」
 一つ言葉を紡ぐごとに、古代の魔獣が絶華の身体を支配していく。そして、獣と化した絶華は超強化された身体速度を持って、狂戦士となりカタールを爪の様に振るう。
 その姿は狂ったようで恐ろしく、だがそれでいて哀しくも見えた。
「これで最後にしよう。……騎士の誓いと誇りを見せよう」
 カナメは、攻性植物に一気に接敵すると両手の剣を振りかざす。
「騎士の誓いと誇りを乗せ、必ずや勝利の二文字を!!」
 流れる様な動きで振るわれるカナメの剣は斬撃の嵐となって、攻性植物を切り刻んでいった。
 そして、その嵐が終わった時、攻性植物『アジサイ』は命尽き、その身体を横に倒したのだった。

●見えない謎と見えない未来
「普通の攻性植物との差異は無いか……」
 息絶えた『アジサイ』を調べながら絶華が呟く。
 分かるのは、オーズの種が強化に一役買っていたと言うことだけで、オーズの種を失った後も強化は維持されるが、特殊変異的なものは無い様だ。
「地中も調べてみたが、目立った変化は無い様だな」
『アジサイ』が埋まっていた周辺を掘り起こしてみた、レッドレークの方も収穫は無い様だ。
「ナニカ手掛かりでもあればと思ったが……」
 狼猿も思わず落胆の声を出してしまう。
「これだけ同じ様な事をやっていて変化が無いと、向こうもおかしいって気づくんじゃないかしらね?」
 リリーが言っているのは、アルカンシェル側の変化だ。
 アルカンシェルが発芽させたオーズの種も少なくない。
 その過程で、暴走する功性植物が出ることも分かっているだろう。
 それに対して、攻性植物の被害は出ていないが、自分達の動きを止めるケルベロスも現れない。
 そのことに、アルカンシェルが疑問を持ち、次の動きに出るかもしれない……可能性はゼロでは無い。
 リリーが測っていた、アルカンシェルの出現から攻性植物の発芽、そしてアルカンシェル撤退までの時間も、これまでの記録と比べることは出来るが、狼猿の記憶する限り、統一性は無いように思えた。
「いい加減どうにかしてやりたいのに……」
 オーズの種が規則性無く地球上のあちこちに飛んでしまったのなら罠の張り様もない。
 ケルベロス達に無力感が襲った時、アクレッサスの明るい声が響いた。
「攻性植物は退治出来た。街の人々に被害も出ない。皆で無事に帰れる。今日はそれでいいと思うぜ」
 アルカンシェルとオーズの種の脅威が去った訳ではないが、今出来る最善が出来た。その事に誇りと喜びを持つべきなのだ。
 いずれアルカンシェルの企みを全て無に帰せることを信じて。
(「はこもいっぱい頑張ってくれたから、家に帰ったら沢山褒めてやらなくちゃな」)
 アクレッサスの笑顔の裏に、こんな本音も隠されていたことを他のケルベロス達は知る由もなかったのだった。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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