要囲周到なる豚の声

作者:幾夜緋琉

●要囲周到なる豚の声
「さて……ドン・ピッグよ、来たな」
 薄闇の中、ドラグナーの一人、ギルボーク・ジューシィは、目の前の金髪モヒカンオーク、ドン・ピッグを見下ろす。
 ドン・ピッグは、煙草を葉巻でふかしながら。
「あぁ、何だよ?」
「ドン・ピッグよ。慈愛龍の名において命じる。お前とお前の軍団をもって、人間共に憎悪と拒絶とを与えるのだ」
「あぁ? 俺っちの隠れ家さえ用意してくれりゃ、あとはウチの若い奴が次々と女を連れ込んできて、憎悪だろうが拒絶だろうが稼ぎ放題だぜ?」
「そうか。やはり、自分では戦わぬか。だが、その用心深さが、お前の取り柄だろう。良かろう。魔空回廊で、お前を安全な隠れ家に導こうではないか」
「おう、頼むぜ? 旦那」
 ニヤリとニヒルに笑うと共に……彼らは、魔空回廊で、移動し始めた。
 東京都荒川区、西日暮里駅、深夜。
 飲み屋街が並ぶ繁華街から一本入った所で……壁に身を凭れかけて、こく、こく……と眠りかけている女性。
『もぅ……なによぉ……もう、しらなぁい……』
 と、恨み毎をぶつぶつと呟いている彼女。
 ……どうやら、恋人に振られてしまい、荒れてしまっている模様である。
 そんな……路地裏に、そっと近づいてくるのは……オークの群れ。
 彼女が寝息を立ててしまうのを待ち……そして、呟きから、寝息へとシフトした所で。
『ヒヒヒ……!』
 と、下品な笑みを浮かべながら、オークらは、女性を捕獲するのであった。
 
「皆さん、集まって頂けましたね? それでは、説明を始めさせて頂きますね」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロス達に一礼すると、早速説明を始める。
「竜十字島のドラゴン勢力が、新たな活動を始めた様なのです。今回事件を起こすのは、オークを操るドラグナーである、ギルボーク・ジューシィ。その配下のオークの群れの様なのです」
「オークの群れを率いるは、ドン・ピッグというオークで、非常に用心深く配下を使い、女性を攫わせている様なのです」
「女性が狙われるのは、東京の路地裏で、存在が消えても怪しまれないような弱者を狙い、反抗を行っているのです。襲われる女性は、其の場で配下達に暴行された後、秘密のアジトへと連れ込まれる様なのです」
「オークが女性に接触する前に女性に接触すると、オーク達は別の対象を狙ってしまいます。オークと女性が接触した直後に、現場に突入する事になります」
「汚らわしいオークが、悪事を働く前に、是非撃破して欲しいのです。宜しくお願い致します」
 と、そこまで言うと、続けてセリカは詳細に説明を始める。
「出現するオークは8体。戦闘能力としては、他のオークとほぼ同様で、その触手を活用しての捕獲をメインに、女性陣を中心に狙う攻撃を主にしかけてきます」
「なので、女性の方。特に10代20代の外見を持つ方は、オークに狙われやすい様なので、該当者はご注意下さい」
「又、戦闘場所になるのは、西日暮里近くの繁華街の裏路地です。薄暗闇で狭い場所なので、戦闘するのには余り適さない場所です。ですが、オークを誘い出すには、この狭い場所に行かなければならないので、その辺りは注意する様にお願いします」
 そして、最後にセリカは。
「この様なオーク達の略奪は許す事は出来ません。皆さん、女性達を護る様、その力を揮って頂けますよう、宜しくお願い致します」
 と、一礼するのであった。


参加者
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)
ヴェルサーチ・スミス(自虐的ナース・e02058)
斬崎・霧夜(抱く想いを刃に変えて・e02823)
八坂・茴香(乱レ淡華・e05415)
サラ・エクレール(銀雷閃・e05901)
立花・彩月(刻を彩るカメラ女子・e07441)
ジャック・スプモーニ(死に損ないのジャック・e13073)
マルメロ・ジュゼッペ(錻力の心臓・e22684)

■リプレイ

●要囲周到
 東京都荒川区、西日暮里。
 飲み屋街が並ぶ繁華街から一本入った所に、恋に破れ、酒にも酔いつぶれた女性。
 もう、自分は必要とされていないんだ……と強く想った結果、人気の無い所で前後不覚になってしまっているという。
 ある意味、不用心だ、と言われればそうかもしれない。
 でも、そんな彼女へ、人知れず襲いかかろうとするのが、用意周到、注意深いオーク達。
「傷心の、酔って、寝ている女性を襲う。ここまで酷い要素を集めてくるのも、オークの才能なのかな?」
「そうだな。しかし憎悪と拒絶の感情……一人ずつ狙っていて、足りるものなのかな……? いや、ケルベロスからオークに向けられた感情であっても、彼らにとっては同じ事なのか……? だとしたら、ある意味では事件を起こすだけで彼らの目的は達成している事になるけど……いずれにせよ、危機に瀕した人を救うことに変わりは無い、か」
「そうさ。ま、見逃すって事は無いさね」
 と、笑い合う斬崎・霧夜(抱く想いを刃に変えて・e02823)とギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)の会話。
 そんな二人に対し……大層恐怖を露わにしているのは、八坂・茴香(乱レ淡華・e05415).
「うぅ……皆さんは……怖がる演技……みたいですけれど……わたしは……本当に……怖いです……一人で……遭遇したら……ど、どうなる……事やら……ケルベロスのわたしで……この有様……ですし……一般人さんの恐怖は……すさまじい物……でしょうね……」
 と、それにサラ・エクレール(銀雷閃・e05901)と、マルメロ・ジュゼッペ(錻力の心臓・e22684)が。
「ええ……この様なオークの所業を、許す事は出来ません。薄汚いオークの好きな様には、決してさせません」
「そうデスネ。不遜なオークをこのままのさばらせておく訳にはいきまセンネ」
 そして、ジャック・スプモーニ(死に損ないのジャック・e13073)、ヴェルサーチ・スミス(自虐的ナース・e02058)も。
「所詮は獣……か。良く喋る豚は、さっさと倒すに限るだろう」
「そうですねぇ。女性を怯えさせて、私欲を満たすオーク……絶対許しません」
 そして、立花・彩月(刻を彩るカメラ女子・e07441)が。
「さて、と……それじゃあ、行きましょうか……ホントはあんまり、こんな露出の高い服、着たくは無いんだけど、でも、誘い出さないといけないなら、仕方ないわね」
 と溜息をついて、そして斬霊刀などを仲間に預けると共に、ケルベロス達は、いざオーク討伐に向けて動き始めた。

●恐怖を誘う
 そして、ケルベロスの女性陣は、裏路地に立つ。
 一人では、まず出歩きたくないであろう、そんな不気味な雰囲気の漂う裏路地。
 だからこそ、人も居ないし、襲撃するにはもってこいの場所なのだろう。
 そんな裏路地へ、彼女達は。
『うう……人気が無くて、怖い……です……」
 と涙目の茴香に対し、真逆に明るいのがマルメロ。
『ふふふー♪ ほろ酔いデスヨー♪ さー、二件目行きマショー♪』
 その足元は千鳥足。
 ……本当に酔ってるかどうかは解らない位、ふらふらと千鳥足で歩いていて、そんな彼女に肩を貸しているのがサラと彩月。
「全く……そんなに一杯飲んで、それで二件目ですか? 流石に帰った方が良いんじゃないんですか?」
「まあまあ、折角の女子会なんだし、次いつあるか解らないし、今日はとことん付き合うわよ。ねー」
「ええ、二件目デース♪」
 ……そんな女性陣の楽しげな会話は、あえて他の人にも聞こえるように、大きな声で。
 その大きな声を危機ながら、残る男性陣は周囲を実地調査し、事前に目星を付けていたオークと戦うのに都合の良さそうな場所を一つ一つ見て回る。
 そして、問題なさげな場所を見つけ次第、仲間達に一斉メールで場所を送信し、そして女性陣を離れた所から見守る。
 ……十分程、裏路地を巡り巡っていくと……。
『ヒ、ヒヒ……』
 と、下衆な笑い声が、どこからともなく聞こえてくる。
 そして、その笑い声の方向を見ると……その道の先で、酔いつぶれた女性を、8体で徒党を組んで襲いかかろうとしているオークの群れ。
 そんなオークの群れに臆すること無く近づいていくマルメロ。そして彼女は、オークに。
「まだ、飲み足りまセーン! 一緒に飲むデスヨ!」
 と、陽気に声を掛ける。
 ……突然声を掛けられ、振り返るオーク……勿論、その大声に、酔いつぶれた女性も、朧気に目を開く。
 そして、廻りにいるオーク達。取り囲まれている、と認識し。
『キャアアア!!』
 大声で悲鳴を上げる。
 悲鳴を上げた女性に、チッと舌打ちしつつ、再度襲いかかろうとするオーク。
 マルメロが注意を引き付け、女性が目を覚ます……その数十秒という隙に、一気にケルベロス達は彼女の下へと接近。
 オークの群れを、取りあえず身を当てて引き離すと共に、囲まれた女性の元へと到着。
『な、なによなによなによ!!! こ、コレって何よ!!』
 と、完全に恐怖に取り乱している彼女を、ヴェルサーチが優しく微笑みかけながら。
「怖かったですよね。でも、もう大丈夫ですから。すぐに済みますから、ちょっと離れた所で待ってて貰えますか? お連れしますよ」
 優しく、落ち着かせるよう、声を掛けるヴェルサーチ。
 そんな彼の顔立ちは、どこか女性的で……恐怖に彩られた彼女からは、女性に見える。
 そして、彼女の手を引いて、其の場から引き離すヴェルサーチ。
 勿論オークは、こら、返せ、邪魔するな! と言わんばかりに、ブーブー言い始める。
 ……そんなオークに対し、マルメロ、ジャックが。
「送り狼ならぬ、送り豚デスカ。どちらにしろ、か弱い女性を狙う子にはお仕置きデス」
「そうですね。彼女を追いかけるならば、残念ですが我々を倒さないと先には行けませんよ」
 と言い放つ。
 そんな二人の言葉に対し、オークは更に鼻を鳴らす。
 ……でも、次の瞬間……オークたちは、女性陣を見渡すと、露出度の高い服装や、肌も露わな所などを見て……舌なめずり。
(「……エロい目で見つめるな、この変態豚」)
 と、心の中で悪態をつく彩月。
 そして……戦うかと思えば、次の瞬間、ケルベロス達は其の場から離脱。
 オークは、獲物が逃げたとばかりに、当然追いかけていく。
 でも、それは当然、作戦……先ほどメールされた、戦闘場所に向けて、ケルベロス達は逃げていく。勿論……彼女を逃がす場所とは、別の所へ。
 そして、ある程度戦えそうな広さを持った所まで逃げおおせると、くるっと振り返り、ケルベロス達はオークに対峙。
 そして。
「一人こちらが少ない状態だけど、やるしかないねぇ。油断しなければ、やれない相手じゃないさ」
「……え、ええ……い、行きます……」
 霧夜に頷き、そして茴香は、兎を模した武装に、フィルムスーツにて、戦闘態勢へ。
 他の仲間達も同様に、一気に戦闘態勢を整え、オーク達に宣戦布告。
「オークを生かして置く程、私達は優しくありません。この場で確実に仕留めさせて頂きます」
 と、先手の一撃を食らわせるサラ。
 クラッシャー効果を纏った一撃は、とても痛い。
 そして、更にギルボークが。
「狭い場所には狭いなりの戦い方があります。サーヴァントを除けば数は同じ。個々の力量を考えれば、一斉攻撃を掛けて数を減らす方が順当……参ります」
 と続いて斬霊斬で斬り付ける。
 そんなケルベロス達の攻撃力の強さに、流石に怯んでしまうオーク。
 驚声、鳴き声などが左から右からと響き渡るが……更に追い打ちを掛けるように、霧夜が死天剣戟陣で武器封じを付与し、更にスナイパーのジャックはケイオスランサーの毒を注入。
 そして彩月が、ロックオンレーザーの武器封じを重ねると、茴香は。
「確かに……わたしって……気が弱いですし……オークさんには……良い獲物と……映るの……でしょうね……ですけど……それは……油断です……」
 と言いながらヒールドローンで盾アップを付与。更にマルメロのミミックが齧りつく。
 ……そして、大体一巡し、オークが動く。
 もう、負けてられるか、やられてばっかりじゃいられねえ、とばかりに鼻息を荒くして、反撃を開始。
 勿論、その攻撃のターゲットは、一番狙いやすくて……気が弱そうな茴香。
 触手を色んな所から飛ばして、茴香の手足に縛り付けたりしてくる。
「ひゃうぅぅ……んっ!」
 と、それら攻撃に対し、甘い声を上げてしまう茴香。
 ……流石、その声に更にオーク達は意気揚々と士気を高めてしまう。
 でも……そんなオーク達の攻撃を受けた後、最後に動くはマルメロ。
「お守りしマス」
 と、マインドシールドを飛ばして、茴香の体力を一気に回復していく。
 そして次のターン。
 まだ、避難させているヴェルサーチは戻ってこない。
 でも、だからといって、オークの攻撃が休まる事も無い訳で。
「みなサン、頑張ってくだサイ。ファイト一発デスヨ!」
 とマルメロが皆を応援する様に声を上げると、解りました、と頷くサラ。
 先ほどのターンで、敵陣個々のポジションをあらかた当たりを付けた上で……狙うはジャマーオーク。
「左2匹目のオークだと思います。皆さんで集中攻撃し、一気に畳みかけましょう」
「了解です。全力で潰しましょう」
 サラとギルボークの言葉。
 そしてケルベロス達の猛攻は、オークの集中撃破を開始。
 ……みるみる内に体力を削られて行くオークは、1ターンで1匹死んでいく。
 そして3ターン、4ターンと過ぎていき、順調に1匹ずつのペースで倒し……5ターン目。
「お待たせしましたぁ」
 と、避難させていたヴェルサーチもやっと合流。
 勢揃いするケルベロス達……対してオークは、茴香の甘い声で、逆に興奮しながら防御を忘れ、攻撃一辺倒。
「……全く、本当オークって奴は……」
 と、そんなオーク達の単純な思考に大きく溜息を吐く彩月。
「まぁ何にせよ、豚は死んで下さい」
 とヴェルサーチがポジショニングで狙いを定めつつ、次に。
「フロマージュ・ア・ラ・テート・ド・コション。火薬のスパイス入り完成~」
 と、ヘッドショット等で確実に仕留めていく。
 ……そして、9ターン目。
 残るオークは、とうとう後一匹。
『……ゥゥ』
 低く唸るオーク。
 いつのまにか、自分の周りに誰も居なくなってしまったという事を気づいてしまったのだろう。
 そんなオークに対し、ヴェルサーチが。
「『俺が最後!? くそっつ、こんな所で!』ってな感じですかねぇ?」
 と指をずびしっ、と突き刺し、『台詞の先読み』を発動し、オークを驚かせる。
「……何にせよ、これ以上君達の好きにはさせない。ここで……終わりにさせるよ」
 と、霧夜の最後通牒に、オークは甲高く鳴いて、破れかぶれの攻撃。
 ……でも、その攻撃は空を切り、そのまま前のめりに倒れる。
 そして。
「覚えておくといいわ。この世に居なくなっても誰からも悲しまれない人なんて誰一人居ないのよ。人の絆をバカにしないで!」
 と、彩月の渾身の『桜華電刃衝』が、最後のオークの身体を、一刀両断に切り捨てるのであった。

●恐怖の先
 そして……どうにか無事にオークを倒したケルベロス達。
「終わりましたネ。ふぅ……囮役を買って出てくれた皆サン、ありがとうございまシタ」
 と、ジャックが女性陣に深く一礼すると、それに茴香とヴェルサーチが。
「はいぃ……ほんとうに……怖かったです……ぅぅ……」
「まぁ、女性の敵たるオークをこうやってきっかり決着付けられたから良いとしましょうかねぇ……」
 と、頷く女性達。
 そしてヴェルサーチが、救出した彼女の元へと向かい、無事にオークを倒した事、もう安全である事と共に……求められてない、などの声を掛けて、安心させていく。
 そして、彼女を人通りの多い所まで送り届ける。
 彼女の後ろ姿を見送りながら、霧夜が。
「しかし、親玉の尻尾を掴めない事には、こういった事は続くよね……何か手がかりが聞き出せればいいんだけど……望みは薄そうかな」
 それにギルボークも。
「ああ。モグラ叩きの様な現状を、帰られる一手があれば良いのですが……その為にも、今は戦い続けるしかないのでしょう。接触は出来ずとも、魔空回廊の出現位置は見ておきたい所ですが……難しいですかね」
「うん、そうだね……まぁいいや。皆が無事ならそれを喜ぼうよ♪」
 と微笑む霧夜に、少し複雑な表情をしてたギルボークも頷いて。
「そうだな……さて、ならば壊れた所の片付けはしておくことにしよう」
 と、戦闘の結果壊れた所の修復を行い……そして其の場を後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。