夢を見たいから

作者:麻香水娜

「今月はちょっと使いすぎちゃってるかなぁ……でも、もうすぐアキラの誕生日だし!」
 暗くなった夜道を家路に向かう田島・美雪が一人ごちる。
 手にはブランド時計店のロゴが入った小さな手提げ袋を持っていた。
「誕生日当日だと他の客もいるし、遅れるより早い方がいいよね……明日お店行こう」
 その時、前方から黒いコートの少女が歩いてくる。
 美雪は特に気にしなかったが、少女がすれ違い様に、手にした大きな鍵で彼女の心臓を貫いた。
 ――ドサリ。
 心臓を貫かれた美雪は、その場に倒れてしまう。しかし、美雪からは一滴の血も流れない。
『あんたの愛って、気持ち悪くて壊したくなるわ。でも、触るのも嫌だから、自分で壊してしまいなさい』
 少女が呟くと、倒れた美雪の横には、心臓部分がモザイクになっているホストのような怪人が現れた。
 
「見返りの無い無償の愛を注いでいる人が、ドリームイーターに愛を奪われてしまう事件が起こっているのは皆さんもご存知かと思いますが……」
 静かに祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が口を開く。
 今回はホストクラブに通う女性が被害者になってしまったようだ。
 客の中の1人としか思われていなくとも、少しでも自分を印象づけたくて貢いでしまう女性が狙われたのである。
「愛を奪うドリームイーターの名は『陽影』。正体不明ですが、奪った愛を元にして現実化したドリームイーターが事件を起こそうとします」
 最初は被害者が貢いでいたアキラというホスト、次は他のホストにまで被害が及ぶかもしれない。
「まず、被害者の田島さんが貢いでいたアキラさんというホストを狙うと思われます」
 時刻は21時すぎ。美雪が来店してたのが、大体このくらいの時間だからだ。
「このドリームイーターは、一見ホストのようですが、心臓部分がモザイクになっているので見ればすぐわかるでしょう」
 【パラライズ】、【武器封じ】を付与するモザイクを飛ばして攻撃してきたり、モザイクで傷を癒したりするとの事。
「営業時間内って事は、他のホストや客も……」
「勿論います。かと言って、臨時休業にしてしまうと違う日に現れるか、お休みのアキラさんが何処かで襲われてしまうかもしれませんし……」
 ファラン・ルイ(ドラゴニアンの降魔拳士・en0152)が口を挟むと、丁寧に答える蒼梧。
「田島さんは、お金がかかって見返りがなくとも、このアキラさんと過ごす時間が楽しかったのだと思います。幸せは人それぞれ……それを気持ち悪いなどと……被害が出る前に、どうか、このドリームイーターの撃破をお願い致します」


参加者
リーア・ツヴァイベルク(紫花を追う・e01765)
シヲン・コナー(清月蓮・e02018)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
コール・タール(多色夢幻のマホウ使い・e10649)
霞・澄香(桜色の鎧装騎兵・e12264)
タカ・スアーマ(はらぺこ守護騎士・e14830)
アンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)
ヴィキ・オリヴォー(ヒューマノイドアームズ・e22476)

■リプレイ

●ホストクラブ潜入!
「フルーツ盛り、できました」
「ポテトできたぞ」
 ヴィキ・オリヴォー(ヒューマノイドアームズ・e22476)が、綺麗にカットして皿に盛りつけたフルーツの盛り合わせを出し アンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)が、バスケットに盛りつけられたフライドポテトと、ケチャップを入れたカクテルグラスを出す。
 プラチナチケットを使ってるとはいえ、顔に装着している装備では目立ってしまうというヴィキと、年齢的な事もあれば性格的にも客という柄ではないというアンナは、キッチンのスタッフとして潜入する事にしたのだ。見た目も年齢も客としては不自然ではないが、ファラン・ルイ(ドラゴニアンの降魔拳士・en0152)も、ホストクラブのようなところでは、酒を飲んだ気にならないとキッチンで料理を作っている。
「あぁ……」
 ウェイターの制服を着たタカ・スアーマ(はらぺこ守護騎士・e14830)が、フルーツ盛りとフライドポテトを受け取った。
「ホストって大変な仕事なんだな……接客苦手な俺にゃ無理だわ」
 キッチンの片隅で、勝手にお茶をいれてくつろいでいるコール・タール(多色夢幻のマホウ使い・e10649)が呟く。
「あ、私も隠れておけば良かったか……」
 コールを見ながら、自分もそうすれば良かった、とタカは後悔した。
 ホストクラブという慣れない場所で頭がいっぱいになってしまい、ウェイターという役割を選んでしまったのである。
 華やかな雰囲気に気後れしつつも、出来上がった料理を持って歩いていった。

 明るすぎず、かといって暗すぎない、上品な明るさに、華やかなムードのフロア。
 それぞれのテーブルからは、ホストと客の楽しげな声が溢れている。
「ホストクラブは初めて入りましたけれど、この格好で大丈夫だったでしょうか……」
 緊張して、おどおどとしてしまっているイリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)が不安そうに店内を見渡した。
「大丈夫だよ。普通にしてた方がいい。はい、ウーロン茶飲んで気を落ち着けて」
 その隣にホストとして座っているリーア・ツヴァイベルク(紫花を追う・e01765)が微笑む。
「何だか慣れた感じでありますね……ホスト経験があるのでありますか?」
 同じテーブルで、イリスと共に来店した客として座っている霞・澄香(桜色の鎧装騎兵・e12264)が、まるで水のようにワインをがぶ飲みしながら尋ねた。
「流石にホストをやるのは初めてだよ。接客に慣れがあるだけ」
「しかし……スミカはワインを水みたいに飲むな……」
 リーアが笑顔で口を開くと、同じくホストとしてテーブルに着くシヲン・コナー(清月蓮・e02018)が、澄香の飲みっぷりに呟く。
 事前に店側に事情は説明しているとはいえ、4人はプラチナチケットを使って、事情を知らない他の客からは、新しいホストとその客として溶け込んでいた。

●シャンパンコールの最中に
「姫からシャンパン入りましたー!」
 今まで緩やかな音楽が流れていたのが、楽しげな音楽に代わり、店内の雰囲気が何かのイベントのように楽しげになる。
 店中のホストが集まり、シャンパンコールが始まったのだ。
「これがシャンパンコールというやつでありますか……凄いであります……」
 その雰囲気に澄香が目を輝かせ、イリスは圧倒されて言葉を失っている。
(「あれがアキラか……」)
 シヲンが、一箇所に集まるホスト達の中から、売り上げ順に飾られている写真で確認した狙われるホストを見つけた。その横でリーアが時計で時間を確認。そろそろだろうと気を引き締める。
 その時――、
『オオオオオ!!』
 入り口からホスト風の怪人ドリームイーターが現れ、一直線にアキラへモザイクを飛ばした。
「下がれ!」
 即座に立ち上がったシヲンが、アキラの前に立ちはだかり、モザイクに包まれる。
「あのドリームイーターは君を狙っている。殺されたくなければさっさと避難しろ」
 ダメージに顔を顰めるシヲンが、振り向き様に忠告した。
「キャー!!」
「バケモノ!!」
 女性客の1人が悲鳴を上げると、他の客やホスト達にも悲鳴は伝染して、店内は混乱に包まれる。
「さて……出番だ。お仕事するぜ」
 キッチンの片隅で寛いでいたコールが、開いた左掌に右手で作った拳をパンッと当てて気合を入れた。
「俺達はケルベロスだ! こっちに避難しろ!」
 キッチンから飛び出したコールは、入り口にはドリームイーターが居る為、非常口へと呼ぶ。
「落ち着いて下さい! 必ずお守りします! ですから落ち着いてあちらへ!」
 立ち上がったイリスも、非常口へ向かう近くの客やホストの後ろについて、周囲を確認。慌てて怪我をしたり、腰を抜かしてしまった人はいないだろうかと。
 イリスの視界にほろ酔いで走り出した為、転んでしまった女性客が映る。すかさず駆けつけ、抱えて非常口に向かった。
 アキラが逃げ出したのを確認して、他の一般人を確認するシヲンは、倒れて割れた酒の瓶が足に刺さってしまったホストを見つける。
「大丈夫か」
 肩を貸して非常口へと共に向かった。
「行け」
 アンナが、自分そっくりなビハインドを、攻撃がきたら庇うようにと指示をして、逃げる一般人の傍につかせる。そして、自分はドリームイーターの気を引く為、フロアに躍り出た。
「撃ち抜く」
 小さく呟いて、取り出したスティック状のスナック菓子に『気』を通して鋭い刃に変える。それをドリームイーター目掛けて真っ直ぐ投擲して太股に突き刺した。
 ソファの影に隠れていた灰色の子狐がリーアの下へ駆け寄り、杖の形になる。
「すべてを喰らえ、惑いの牙」
 一般人達を背にするようにドリームイーターの前に躍り出たリーアが、手にしたファミリアロッドから獣の形のオーラを放った。
『!!』
 足に攻撃を受けて警戒したドリームイーターは、咄嗟に横に飛び退いてかわしてしまう。
 ドリームイーターが体勢を整える前の隙をついて、シヲンのサーヴァントであるボクスドラゴンのポラリスがボクスブレスを放ってアンナがつけた傷口を広げた。
「避難が終わるまで粘るぞ」
 タカが大量の紙兵をばら撒き、前衛の味方を守護させる。そして、アキラを庇ってモザイクに包まれたシヲンの傷も僅かだが癒した。
(「……人数が多いから仕方ないとはいえ……」)
 サーヴァントも含めて8人になる対象は数が多く、分散された威力は落ち、何人かは守護がつかなかったようで、タカが僅かに眉を顰める。
「一般人への被害はきっちり抑えるでありますよっ」
 あれだけワインを飲んでいた澄香が、アルコールが入っているとは思えない機敏な動きで旋刃脚で急所を貫いた。
「大丈夫ですか」
 ヴィキが、パニックになりかけて、突き飛ばされた客を助け起こす。
「押さないで! アタシ達がいるから! 楽しみに来たのに怪我なんかしたらつまんないだろ!」
 腰を抜かしてしまった客を抱えながらファランが声を張り上げた。 

●モザイクを晴らせ
『ガアアア!!』
 ドリームイーターは、標的のアキラを見失い、目に付いたリーアに、大きな口の形にしたモザイクを飛ばす。
「……っ」
 右肩を思い切り噛み付かれたリーアは、武器を握る手に上手く力が入らずに顔を歪めた。
「大丈夫か」
 タカがリーアに気力溜めを使って、傷と不調を取り除く。
「ありがとう」
 短く礼を言ったリーアは、動きの悪くなっているドリームイーターに、ファミリアシュートを放って更に動きを制限させた。
 仲間の攻撃でよろめいたドリームイーターに、アンナが真っ直ぐ音速を超える拳で殴りつけて吹き飛ばす。更に吹き飛ばされた先で、構えていた澄香が指天殺で気脈を絶った。
『グゥ……』
 苦しげに呻き声を漏らしたドリームイーターは、モザイクで傷口を修復し、全てではないがいくらか不調も取り除く。
「……くるりんぱ」
 タカが、ドリームイーターに背を向けた状態で切りかかって回る。
『ガアアアア!!』
 そのふざけた攻撃に、ドリームイーターの瞳が怒りの色に変わった。
 そこへ、リーアがドラゴニックミラージュを放ち、ポラリスがボクスタックルで突撃する。
(「人数のせいでタカの紙兵散布の効果が落ちていたな……」)
 シヲンがフロアに戻りながら状況を分析した。何人か紙兵の守護がついていない者もいるが、そこに上手くスターサンクチュアリの守護をつけられる保証はない。
「ならば……っ」
 回復は仲間を信じようと、最初にアキラを庇った時のモザイクが残っている腕に神経を集中する事で、殺神ウイルスのカプセルを的確に投射した。
「いけませんね」
 ヴィキは避難誘導から戻るなり、シヲンの様子に気力溜めを使ってその傷を癒す。
「すまない」
 シヲンが短く礼を述べると、ヴィキは口元を小さく笑みの形にして応えた。
「銀天剣、イリス・フルーリア―――参ります!」
 避難誘導を終えたイリスがフロアに戻って名乗りを上げ、
「光よ、彼の敵を縛り断ち斬る刃と為せ! 銀天剣・零の斬!!」
 刀と翼に光を集めて煌々と輝く刀で一閃した。『物質の時間を停止させる力』を帯びた光により、数秒間行動不能にし、翼から溢れた光が数十本の刀となり、超高速の連撃を叩き込む。
「待たせたな!」
 避難誘導から走って戻ってきたコールが、そのまま加速して稲妻を帯びた超高速の突きで神経回路を麻痺させた。
「もう殆ど動けねぇみたいだが……念には念を入れねぇとな……っ」
「クイックスイッチ、オープンロック。アンキャニーアルティメイタムキャノンズ、……ファイア!」
 アンナが旋刃脚で急所を蹴り抜くと、澄香が腕部武装のブーストをクイックタイプに切り替え、敵の周りをランダムに動き回る。牽制弾5発を足元に撃ち、うろたえるドリームイーターのモザイクになっている心臓部分に本命の1発を撃ち込んだ。
 モザイクを撃たれたドリームイーターは、全身がモザイクのようになって、その輪郭を不確かなものにする。
 まだ何かあるかもしれないと次の攻撃を構えたままのケルベロス達。
 しかし、モザイクは店中に飛び散り、消えていった――。

●それぞれの想い
「酷い有様でありますな」
 肩の力を抜いた澄香が、まずは片付けましょうと周辺に散らばる瓶の欠片を拾い出す。
「壊れた店内のヒールも必要だな」
 シヲンが口を開くと、他のケルベロス達もヒールや掃除を始めた。
「面白内装になっても知らん」
 物質へのヒールは元の形そのまま戻るのではなく、多少ファンタジーっぽくなってしまうのだが、そこまでは面倒みきれないとタカが漏らしながらヒールにとりかかる。
「陽影……ですか」
 イリスが掃除をしながら、今回の黒幕に思いを馳せた。
「……。……消えちまったし、どうせ聞いても分からねぇか……」
 知人の宿敵だからと意識して追ってるアンナも、陽影の事を考えながら手を動かす。
(「無償の愛ってなんだろうな……」)
 口には出さなかったが、アンナも無償の愛というものがイマイチ信じられないのだ。
「夢を見るのは自由だし、夢を見せるのも勝手……意味はなくとも価値はある。それを気持ち悪いだなんてな……」
「たとえどんな形のものであれ、見返りのない、無償の愛を気持ち悪いと一蹴する態度は許せないよ」
 コールが呟くと、リーアも眉を顰める。
「そういえば料理を作りすぎてしまっていたのでした。捨てるのも勿体無いですから、皆さん、召し上がっていただけませんか」
 ヴィキが思い出したように口を開くと、皆がキッチンへと足を向けた。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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