黒い戦乙女

作者:そうすけ


 深夜。
「さあさあ、我ら『マサクゥルサーカス団』のオンステージだ!」
 羽から落ちる鱗粉が月の明かりを受けてきらきらと光る。
「今宵は第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスたちの中から、美しいお嬢さんをパーティーのゲストにお迎えしよう」
 体長2mくらいだろうか。
 楽しげに笑う『団長』の周りを、青白く発光する三体の怪魚が浮遊する。
「それでは君達、後は頼んだよ。君達がヴァルキュリアを連れて来たらパーティを始めよう!」
 シルクハットを持ち上げて蛾の羽をはばたかせると、『団長』はウィンクをひとつ残して姿を消した。
 怪魚はしばらくの間、『団長』がいた場所で光の帯を引きつつ、ただゆらゆら回遊していたが、やがて複雑な動きを見せるようになった。
 青白い軌跡が空で魔法陣を描き、黒いアスファルトの上にゆっくりと沈殿していく。
「ア、アアアア……」
 果たして死せる戦乙女は現世に召喚された。
 その背にあったはずの光る翼は見る影もなく骨だけになり、冷たく澄んだ湖面のような瞳は黒く濁り切って赤い月を浮かべている。青白い指が握りしめるのは黒き光を放つ槍――。
 

「蛾のような姿をした死神が、また動くみたいだよ」
 ヘリオライダーの笹島・ねむは愛らしい目を瞬かせた。
 蛾のような姿をした死神――『団長』は第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスをサルベージする作戦の指揮を執っているらしい。ねむが予知したのもそうした作戦のひとつなのだろう。
「変異強化したデウスエクスをサルベージすることで戦力を増強しようとしているんだね。でも、ねむたちケルベロスとしてはこれを見逃すことはぜーったい出来ないよ」
 小さな両の手をきゅっと胸の前で握りしめて、ねむは目を強く光らせた。
「『団長』はいなくなってるけど、今からいけば『団長』が放った三体の怪魚がデウスエクスを召喚するちょっと前に間に合うよ」
 続いてケルベロスたちが相手をする深海魚型の個体についての説明に移る。
「噛み付く、泳ぎ回る、怨霊弾の三点が確認されているよ。怪魚に噛みつかれると生命エネルギーを奪われちゃうから注意して。泳ぎ回ることで仲間が受けた傷を回復することができるみたい。怨霊弾は列攻撃だよ。中心で爆発するんだって」
 ねむはここまでを一気にしゃべりきってから、ふうっと息を吐いた。
「怪魚たちが召喚しようとしているのはヴァルキュリアなの。彼女はみんなが到着して十秒後には完全に魔法陣から出てしまうよ。攻撃方法は槍の一撃 、槍で突撃する、仲間を鼓舞するの三点なんだけど、平均的よりも強くなっているから気をつけて」
 召喚されるヴァルキュリアには知性がなく会話は成立しない。ただ……。 
「血の涙を流しながら槍を振るう姿が見えたの。すごく悲しそうで苦しそうで……みんな、お願い。死神『団長』の作戦を阻止して、手先にされようとしているヴァルキュリアを救ってあげて。彼らの出現ポイントに急いで向かって欲しいの!」


参加者
フィオレンツィア・グアレンテ(暗黒物質製造マシン・e00223)
烏夜小路・華檻(夜を纏う・e00420)
リリキス・ロイヤラスト(庭園の桃色メイドさん・e01008)
蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227)
逆黒川・龍之介(剣戟の修練者・e03683)
グラム・バーリフェルト(餓える赤竜・e08426)
火鳴木・地外(酷い理由で定命化した奴の一人・e20297)
フィアルリィン・ウィーデーウダート(フォールンリーブス・e25594)

■リプレイ


 ひとっこひとりいない真夜中。建物のほとんどは半壊して闇の中に沈んでいたが、不気味なことに交差点の信号は動いていた。信号が青に変わると同時にケルベロスたちは交差点に進入した。
 まったく、とフィオレンツィア・グアレンテ(暗黒物質製造マシン・e00223)は荒く息をついて足を止めた。
「この手のデウスエクスの屑っぷりには、さすがの私も腹が立つわね。だけどやることは決まってるわ」
 魔法陣のそばから離れ、空をゆるりと泳いで向かってきた死神のしもべに電光石火の蹴りをたたき込む。
 枯枝を踏み折ったような乾いた音がして、怪魚の背からうろこがいくつも落ちた。背骨をやられでもしたか、思うように尾ヒレを動かせないでいるようだ。
 フィオレンツィアは足掻く怪魚へ凄みをきかせた。
「文字通りの雑魚なんかに構ってる暇はないからね」
 かつて、殺された師匠の体を目の前で死神にサルベージされた。その怒りと悔しさは、ケルベロスとして戦う力になっている。ゆえに、今回の仕事は人一倍気合が入っていた。
「ガンガン攻めていきましょう!」
 他の二体は仲間のピンチに悠然と魔法陣の周りを泳ぎまわっていた。
 中心に、骨を背負った青黒い女の背がじわりと浮かびあがってきていた。背から突き出た二対の骨は腐食して黒ずんでおり、折れて捨てられたこうもり傘を思わせる。頭(こうべ)は垂れたままで顔は見えないが、たぶん美しかったのだろう。骸になり果ててさえ、凛としたオーラを放っている。
「わたくしが生まれる前の美女、と言うのはなかなか興味深いですが……この有様では、わたくしを愛してくれる事は期待出来ませんわね」
 烏夜小路・華檻(夜を纏う・e00420)は、艶めく唇から失望の溜息を吹き流した。腰をくねらせながら白のフィルムスーツに包まれた豊満な胸を突き出し、後ろにそらした肩から制服を落とす。サキュバスたる証の角と翼を露わにすると、戦いの準備は整った。
「まあ身体の方は美女ですから、そちらだけ楽しみつつ、眠らせてあげるとしましょう。ですがその前に――」
 逃げるに逃げられず。華檻はくるくると小さく輪を描く怪魚に固めた拳を打ち込んだ。花びらが散るようにして鱗が剥がれ落ちていく。
 四つの信号が黄色に変わった。
「魚をひんむいてもうれしくともなんともありませんわね。まして生ものの悲鳴など……悲鳴? いま聞いたのは悲鳴だったのかしら?」
 それは悲鳴だったのか、はたまた骨が砕ける音だったのか。 
 音を聞きつけた二体の怪魚が魔法陣を離れ、ケルベロスたちに向かってきた。
「そこで止まりなさい。信号は赤ですよ」
 蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227)は、空気中を高速で泳ぎ来る怪魚の前に立ちふさがった。
(「りりさんの邪魔はさせません!」)
 後ろに竜語で呪文を唱える声を聞きながら、二体同時の体当たりを闘気の鎧で受け止める。刹那に爆ぜた気が、死神の使い魔たちをはじき返した。
「いまです!」
 凛子の蒼い翼の影から、手のひらを突き出したリリキス・ロイヤラスト(庭園の桃色メイドさん・e01008)の姿が現れた。
「……忌まわしきものよ、私の怒りに包まれて燃えつきなさい」
 手のひらから放った炎竜の幻影とは対照的に、その声は冷たくとがっていた。その顔にいつもの微笑みはなく、翡翠の瞳には暗い影が宿っている。
 リリキスは自分を気遣う恋人の視線をあえて無視し、アスファルトの上で燻るデウスエクスの残骸から魔法陣に立ったヴァルキュリアへ顔を向けた。
(「哀れなヴァルキュリア……無論、この手で引導を渡し、解放して差し上げましょう……!」)
 いくど彼女たちと戦ったことだろう。仲間になった今でも、いや、仲間になったからこそ、ヴァルキュリアへ寄せる心情は複雑だ。
 逆黒川・龍之介(剣戟の修練者・e03683)は、手に持った細身の斬霊刀を静かに鞘から抜くと、右手に剣を持ち、両手をハの字の形に開いて地面に向けた。月明りを受けた刀身が、ゆっくりと輪郭を崩して夜に溶け出していく。
「……さて、また例のサーカスか。そろそろ奴の行動にも飽き飽きしてきたが、何度やるつもりなのやら」
 体勢を立て直すなり怨霊弾を飛ばしてきた怪魚にひと足で肉薄すると、上段から見えざる刃を振り下ろした。
 力みのない太刀筋は怪魚の霊体を正面から断ち切った。すり抜けていく刀身が、霊的な鎧を開きにされてむき出しになった怪魚の体へ毒に変じた龍之介の嘲りを刷り込む。
「まぁ、俺がいる限り、何度でも開催中止に追い込んでやるまでだが」
 続けて二の太刀を浴びせんと構えをとった龍之介に、横手からもう一体の怪魚が鋭い歯を見せて飛び掛かった。
『高速電送の力を甘く見るんじゃねぇぞ!』
 火鳴木・地外(酷い理由で定命化した奴の一人・e20297)は腕に取り付けた小型の竜――魔重力ファクシミリを仲間たちに向けた。甲高い電子音が交差点に鳴り響き、竜型の口から癒しの魔力を帯びた紙が大量に噴き出す。
 同時に地外のサーヴァント、おむちーが翼をはためかせて邪気払いの風を起こし、送り出され続ける魔紙を交差点全体にふぶかせた。
 吹きつけるグラビティに気をそがれて、怪魚が仲間の肩から口を離した。風のない低空を泳いで魔法陣へ逃げ帰る。
「逃がさん!」
 グラム・バーリフェルト(餓える赤竜・e08426)が、前を横切ろうとした青白い魚体めがけて頭上に構えた鉄塊剣を落とした。
 厚みのある重き刃が怪魚の背を真ん中から断ち、腹から下を骨ごと押しつぶす。
「ぬっ!」
 刹那。交差点の中心から放たれた強烈な殺気に反応して飛び下がると、即座に巨大剣を盾にしてチームのメディックを庇った。
 魔法陣を飛び出したヴァルキュリアが黒き疾風となって、分厚い刀身に鋭い槍の一撃を見舞う。その威力は鋼を突き抜け、裏で剣を支えるドラゴニアンの強固な皮膚を裂いた。
 グラムは痺れる腕の傷を左手で覆うと、ざらついた道路に力の抜けた両ひざを落とした。首を後ろへ向けて、回復を行おうとしていた仲間の行動を止める。
「わ、私にかまわず死神にトドメを」
 フィアルリィン・ウィーデーウダート(フォールンリーブス・e25594)はうなずきひとつで応えると、まばゆい光の翼を広げて周囲の闇を退けた。槍を引いて再び攻撃態勢に入った黒い戦乙女へ悲しみに満ちた視線を送り、それから目に憎しみの炎を燃え立たせてアスファルトの上でのたうち回る怪魚を睨む。
「先輩をこんなにした死神対しては容赦する必要はないです。死神にこそ死が似合ってるのです」
 負の連鎖を断ち切らんと手にしたゲシュタルトグレイブ――選ばれし者の槍で怪魚を突き刺し、殺神のウイルスを注入する。
 黒い戦乙女の横について空を泳ぎ回る怪魚が癒しの波を起こして瀕死の仲間に寄せる。
 しかし、フィアルリィンが投与した治癒を阻害するウイルスの効きは早く、効果でまさっていた。槍先をねじってデウスエクスにさらなる苦痛を与える。
「楽には死なせません。死者に敬意を払わず、ただ弄ぶ者にかける情けはないのです」
 怪魚はこぽりと小さく音をたてて口から血に似た瘴気を吐きだした。


 信号は青に変わっていた。
 ケルベロスたちと対峙する黒い戦乙女は、わが身に起きた不条理に耐えるように青い唇をかみしめ、目からは黒い血の涙を流している。
「……これ以上の不本意な戦いは私たちの手で止めてあげましょう」
 フィオレンツィアが竜をかたどる炎玉を飛ばしてとりまきの怪魚を撃った。
 黒い戦乙女が夜の冷気をまとって突撃を仕掛けてきた。
 凛子とグラム、地外が素早く動いて防御壁を築くも瞬時に氷結、崩されてしまう。さらされた後列へ向けて、死にそこないの怪魚が怨霊弾をばら撒いた。
「やられた。おむちー! 頼む!」
 おむちーが懸命に翼をはためかせて、ケルベロスたちの体を蝕む毒を浄化する。
「こちらの手番ですわね」
 華檻がディフェンダーたちの間から飛び出した。
 後退しようとしていた黒い戦乙女の手をつかんで引き、フェロモンがあふれだす体に抱き寄せる。
『さあ……わたくしと楽しい事、致しましょう……♪』
 サキュバスの唇が蠱惑的に動き、冷たい耳たぶを甘い吐息でくすぐる。意表を突く攻撃に黒い戦乙女は硬直した。
 豊満な胸を押し付けたまま華檻は黒い戦乙女の背に回り込むと、左腕を細い首に回した。そのまま髪をつかんで首を後ろへ倒し折るかと思いきや、素早く右手を鎧の下へ滑り込ませて乳房を下からすくい包む。長い指でとがった先端をとらえて挟み込むと、熱を刷り込むように乳房を揉みしだいた。
 微かに肢体を震わせ、呼吸が止まっているはずの戦乙女があえぐ。
「感度良し、でも肌触りはイマイチ。残念だわ」
「ちょっ……どさくさに紛れて先輩になにをするですかぁ!?」
 声の出せない戦乙女になり替わって、フィアルリィンが仲間の回復を行いつつ抗議する。
「あら? 攻撃は緩急をつけてリズムよくやらないとダメでしょ。いまのは緩よ、緩」
 悪びれもせず笑顔で答えると、鎧の下から手を引き抜ぬいて長い髪をつかんだ。勢いよく下へ引き、首の骨を折る。
 ――と。
 首を後ろへ折ったまま、黒い戦乙女が華檻の足の甲を槍で突き刺した。
「……っ!!」
 両者同時に飛び別れる。
 龍之介は、片手で折れた首を支える黒い戦乙女をめがけて駆けた。抜刀した刀が、信号機の黄い光を映して夜を割る。
 目にもとまらぬ速さで振りぬかれた一刀は、いまは曇り切った白銀の鎧を切り落とし、その下の皮膚を凍らせた。
 グラムは赤い皮膚をさらに赤くして、鉄塊剣にバトルオーラを纏わせた。首を素早く振って、先ほど目の前で繰り広げられた痴態を脳裏から追い払う。
「再びあの世への帰路につかせてやる。……せめて迷わぬようにな」
 死者の国へ誘導するかのように、ふらつく足元を狙ってオーラの弾丸を放った。
「待った! 中途半端はよくねえぜ。このままあの世へ帰しちゃダメだ!」
 ここはひとつ、俺に任せてくれ。地外は雄叫びを上げ、右腕を前に突き出したまま突進した。黒い戦乙女に向かうと、おもむろにむき出の左胸を鷲掴みする。
「これぞ地球の浪漫! 女体の神秘! ……冷たいけど、柔らかいからOK」
 黒い戦乙女の胸を揉みながら、サキュバスに顔を向けてサムズアップ。
 相手もまた、ガントレットをはめた手を上げて親指を立てた。
「ごぉらぁぁぁぁ! 無礼者、先輩に謝れぇぇぇっ!!」
 フィアルリィン、怒りの一撃!
 振った槍から、無数の氷河期の精霊を繰り出し吹雪かせる。
 地外はあわや怪魚と戦乙女ともども氷漬けにされるところだったが、とっさに横へ飛んで難を逃れた。
「っとと、あぶねぇな。だが、まだまだ!」
 起き上がると膝立ちになって弓を引いた。放たれた矢が空中で凍りついたまま動かない怪魚を射抜く。
 龍之介は動きを見せた戦乙女の懐に蹴り込んだ。巨乳大好きレプリカントが敵から距離をとったのを確認して、自身も後方へ下がる。
『これは禁じ手の一つ』
 フィオレンツィアは簒奪者の鎌でアスファルトを削り、暴竜召喚の魔法陣を描いた。昏い響きの詠唱とともに、過去の惨劇が形を成していく。
「あなたの魂は、私が安らかに眠らせてあげる……。おやすみなさい」
 巨竜の爪に似た稲妻が、大気を震わせながら黒い戦乙女に襲い掛かる。
 フィオレンツィアは眼を閉じた。
 黒い戦乙女は槍を道路に深く突き刺して暴竜が過ぎ去るまで耐えた。だが、その背には骨と化した翼すらなく、すさまじい電撃に左の腕をもぎ取られ、全身から黒い血を流している。
「誇り高き戦士よ。私たちで貴女を屈辱と苦痛の鎖から解放してあげましょう」
 凛子は二振りの斬霊刀を体の前で開くようにして構えた。
「哀れなヴァルキュリア……無論、この手で引導を渡し、解放して差し上げましょう……!」
 破壊魔剣を両手で握るリリキスが横に並び立つ。
 この戦いでふたりは一度も視線を合わせなかった。
 いまもふたりの目はパートナーではなく、黒い戦乙女に向けられている。それでも、こうして横に並ぶだけで自然と呼吸は重ね合わさっていくのだ。
 ふたりのオーラが溶けながら一つになった。
『我は水と氷を司りし蒼き鋼の龍神。我が名において集え氷よ。凛と舞い踊れ!』
『鮮血のごとき、美しき氷の華。咲き誇り、燃えるように凍えなさい……!』
 氷と炎が絡まりあい、渦となって牙をむく。極低温の純白と超高温の真紅が目をくらませるほど輝いて夜空を押し上げる。それはふたりの愛の絆による力に他ならなかった。
 純然たる破壊の力は黒い戦乙女を飲み込んで爆発し、柱と見間違うほどの水蒸気を天に向けて立ちあがらせた。
「安らかに眠れ」
 帰還した戦乙女の魂の安寧を願い、龍之介がそっと手を合わせて祈る。
 崩れたビルの谷間から朝日が交差点に差しこんで、霧雨に濡れるアスファルトをきらめかせた。


「私も命を落としていたら死神の手にかかったのかもしれないですね」
 光の翼を広げながら、フィアルリィンは呟いた。最後に抱きしめてあげることができたなら、と涙で濡れ光るまぶたを伏せる。せめて見送るは自分ひとりなれども、ヴァルキュリアの儀礼にのっとった光の祈りで戦乙女の旅立を祝福しよう。
「これまでお疲れ様でしたです」
 凛子はためらいがちに、戦乙女が残した槍の残骸を見つめるリリキスに呼びかけた。とたん、朝日を頬に受けてなお暗く沈む顔に胸を突かれてはっと息を飲み込む。
 視線に気づいたリリキスがゆっくりと顔をあげ、悲しみが透けて見える薄い笑顔を向けてきた。
 凛子はかける言葉を探しあぐねて、迷った末に微笑んだ。何も言わず、踵を返して立ち去っていく背をやるせない気持ちで見送る。
(「もしかして、りりさんは……」)
 ヴァルキュリアに殺された自分の姉と前の主人のことをずっと考えていたのだろうか。(「そういえば自分の仇は、今どこで何しているのかしら」)
 つらつらと過去思い返しながら、他のメンバーを振り返った。
「何をしているのかしら?」
 華檻は、倒壊したビルにヒールグラビティ一をかけて回っていたグラムを呼び止めた。
「ん? どこかに『団長』の痕跡が残っていないかと思ってな。……奴の手口は気に食わん」
「同感ね。美女を苦しませる『団長』には強い怒りを覚えるわ」
 だけど、とサキュバスはあきらめの混じる声で言葉を継いだ。
「探したところで無駄でしょうね」
「……ああ。私も今そう思いだしていたところだ」
 地外とフィオレンツィアがやってきて、そろそろ帰ろうと言った。
 手を振って応えると、肩を落とした赤竜に言葉をかける。
「そんなにがっかりしないで、バーリフェルト様。目論んだ悪事のすべてが、ことごとくわたくしたちに阻まれているのです。遠からず、焦った団長自身が姿を現すことでしょう」

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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